タイトル: | 特許公報(B2)_ゴム中の遊離硫黄の定量方法 |
出願番号: | 2002108301 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | G01N 33/44,G01N 1/28,G01N 1/36,G01N 21/73,G01N 31/00 |
上安 直登 中野 聡 JP 3959714 特許公報(B2) 20070525 2002108301 20020410 ゴム中の遊離硫黄の定量方法 トヨタ自動車株式会社 000003207 大川 宏 100081776 上安 直登 中野 聡 20070815 G01N 33/44 20060101AFI20070726BHJP G01N 1/28 20060101ALI20070726BHJP G01N 1/36 20060101ALI20070726BHJP G01N 21/73 20060101ALI20070726BHJP G01N 31/00 20060101ALI20070726BHJP JPG01N33/44G01N1/28 XG01N1/28 ZG01N21/73G01N31/00 PG01N31/00 Y G01N 33/44 G01N 1/28 G01N 21/73 G01N 31/00 JSTPlus(JDream2) 特開昭56−037554(JP,A) 特開昭60−169754(JP,A) 特開昭62−194439(JP,A) 特開昭63−218861(JP,A) 特開昭60−133364(JP,A) 特開平10−185874(JP,A) 日本ゴム協会編,13.分析,ゴム試験法(新版),日本,日本ゴム協会,1988年 5月 1日,第2版,第511頁〜514頁 2 2003302394 20031024 7 20041116 白形 由美子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ゴム中の遊離硫黄を定量する定量方法に関し、詳しくは特別な試薬や装置を用いることなく少ない工程で行うことができるゴム中の遊離硫黄の定量方法に関する。【0002】【従来の技術】ゴム中には、ゴムと化学的に結合していない状態で存在する遊離硫黄が含まれている。この遊離硫黄は、例えば熱が加わった場合にはゴム中より揮散する場合がある。揮散した遊離硫黄が半導体などの電子部品に付着した場合、硫黄被毒等により電子部品に不具合が発生する場合があるため、その対策としてゴム中の遊離硫黄量を規制する必要があり、このため、ゴム中の遊離硫黄量を簡便に測定する測定方法が求められていた。【0003】遊離硫黄の定量方法はJIS K 6234に銅網法,亜硫酸ナトリウム法,臭素法の3種が規定されている。このうち銅網法は、試料中の遊離硫黄を銅網の存在下でアセトン抽出し、抽出された硫黄と銅とが反応して生成した硫化銅を塩酸で処理し、生成した硫化水素を酢酸カドミウム溶液にとおし、ここで生成した硫酸カドミウムをよう素滴定法で定量する方法である。また、亜硫酸ナトリウム法は、試料中の遊離硫黄を水溶性の亜硫酸ナトリウムと反応させ、生成したチオ硫酸ナトリウムをよう素滴定法で定量する方法である。臭素法は、試料中の遊離硫黄をアセトン抽出し、この抽出物に臭素と水とを加えて反応させ、過剰の塩化バリウム溶液を加えて硫酸バリウムを沈殿させ、この硫酸バリウムの質量を秤量する方法である。【0004】しかし、これらの定量方法はいずれも特別な試薬を必要としたり、また、測定までの前処理の段階で多数の工程を必要としたりする方法であるため、簡易さ迅速さの面では必ずしも好ましい方法とはいえなかった。さらに、例えば銅網法や亜硫酸ナトリウム法は滴定により定量する方法であり、精度の高い分析を行うには操作に熟練を必要とする。このため、例えば上述した不具合の低減を目的に、ゴム部品の製造メーカに測定データの提出を要求する場合にはメーカ毎に測定データのばらつきが発生するおそれがある。【0005】また、特開平10−185874号公報にはICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)を用いた熱気化導入−ICP質量分析法による溶液中硫黄の定量分析方法が開示されている。ここで、上述した不具合の低減を目的に、この熱気化導入−ICP質量分析による遊離硫黄の測定法を各製造メーカ共通の方法として使用するためには、ICP−MSの購入を製造メーカに強いることとなる。しかし、この方法に用いられているICP−MSは高価な分析機器であるため、遊離硫黄の分析のためだけに購入するにはコスト面で問題があった。【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は上記事情を考慮してなされたもので、一般的な試薬および装置を用いて簡易に測定を行うことのできるゴム中の遊離硫黄の定量方法を提供することを目的とする。【0007】【課題を解決するための手段】前記課題を解決する本発明のゴム中の遊離硫黄の定量方法は、ゴム試料をメタノールに浸漬し該メタノール中でゴム中の遊離硫黄化合物を抽出する抽出過程と、該抽出過程で得られた抽出液からメタノールを除去し該遊離硫黄化合物の濃縮物を得る濃縮過程と、該濃縮過程で得られた該遊離硫黄化合物の濃縮物を120℃〜180℃の加熱条件下で硝酸と過塩素酸とを含む分解溶液中で分解し単離の硫黄を含む溶液を得る分解過程と、該分解過程で得られた単離の硫黄を含む溶液中の単離の硫黄を機器分析により分析する分析過程と、を含むことを特徴とする。【0008】本発明のゴム中の遊離硫黄の定量方法によると、分解過程において遊離硫黄化合物を単離の硫黄にまで分解することで、ゴム中の遊離硫黄を通常用いられる機器分析装置を用いて定量することが可能となる。【0009】また上記分析過程は、誘導結合プラズマ発光分析を用いて行われることが好ましい。【0010】【発明の実施の形態】本発明にかかるゴム中の遊離硫黄の定量方法は、抽出過程と濃縮過程と分解過程と分析過程とを有する。【0011】抽出過程は、抽出溶媒としてメタノールを用い、このメタノールによってゴム試料中の遊離硫黄化合物を抽出する過程である。【0012】抽出過程に用いるゴム試料は表面積を大きくするために裁断して用いることが好ましい。【0013】また、抽出方法としては既知の種々の方法を用いることができ、例えば、ソクスレー抽出法を好ましく用いることができる。いずれの場合も、抽出効率を高めるためには抽出は加温条件下で行うことが好ましい。また、ソクスレー抽出を行う場合は、加温されたメタノールが一旦気化した後に再度液化して抽出溶媒として作用することから、メタノールの沸点(64.7℃)以上の温度でメタノールの加温を行うことが好ましい。【0014】この抽出過程において、ゴム中の遊離硫黄化合物がメタノール中に抽出されてメタノールと遊離硫黄化合物とを含む抽出液が得られる。ここで、例えば震盪抽出や超音波抽出等の抽出方法を用いる場合は、抽出過程で得られた抽出液中にゴム試料の抽出残さが残存することとなる。したがって、抽出液中からこの抽出残さを除去する濾過操作を行うことが必要となる。この濾過操作はガラスフィルタや濾紙等によって抽出液を濾過する操作であり、濾過後のフィルタ等に残存する抽出液はメタノールあるいは他の溶媒によって洗い込み、回収する必要がある。【0015】濃縮過程は、上述した抽出過程で得られた抽出液よりメタノールを除去し、遊離硫黄化合物の濃縮物を得る過程である。濃縮方法としては既知の種々の方法を用いることができ、例えば、エバポレータ等を用いた減圧濃縮法を好ましく用いることができる。【0016】分解過程は、濃縮過程で得られた遊離硫黄化合物の濃縮物を120℃〜180℃の加熱条件下で硝酸と過塩素酸を含む分解溶液中で分解し、単離の硫黄を含む溶液を得る過程である。この分解過程において、遊離硫黄化合物は硝酸によって単離の硫黄に分解される。【0017】また、この分解過程は加熱条件下で行われるものであるため、分解と同時に硝酸の気化も進行する。ここで、分解溶液中には硝酸よりも沸点の高い過塩素酸が存在しているため、硝酸が気化しても分解溶液中には過塩素酸が残存することとなり、分解溶液が気化しきって遊離硫黄化合物および単離の硫黄が焼き付くことが防止される。分解過程は分解溶液中に硝酸がなくなるまで続けられ、分解溶液より過塩素酸の白煙が発生した時点で分解溶液中には硝酸がなくなったと見なすことができる。この分解過程において遊離硫黄化合物を単離の硫黄にまで分解することで、後述する機器分析装置による硫黄分析が可能となる。【0018】分析過程は、分解過程で得られた単離の硫黄を含む溶液中の単離の硫黄を機器分析により分析し定量する過程である。この分析は、一般的な機器分析装置であり単離の硫黄を分析可能な機器分析装置を用いた機器分析によって行うことができ、誘導結合プラズマ発光分析を用いることが特に好ましい。分析を機器分析によって行うことで、滴定等の操作に熟練を要する方法を用いることなく分析を行うことが可能となり、一定した測定データを容易に得ることができる。【0019】上述した分解過程で得られた単離の硫黄を含む溶液は、分析用試料としてそのまま機器分析装置にかけることもできるし、また、イオン交換水,蒸留水,純水等で適宜希釈して硫黄濃度を調整して分析用試料とすることができる。また、この分析用試料を上述した機器分析装置によって分析する際には、濾紙濾過やフィルタ濾過によって塵等の不要な固形物を除去することが好ましい。【0020】分析過程は、分析用試料を機器分析装置にかけ出力値を読み取ることによって行われる。その際、事前に既知の種々の硫黄濃度の溶液(標準硫黄溶液)を機器分析機にかけ、硫黄量と出力値の関係を示す検量線を作成しておくことで、分析用試料の出力値から硫黄量を算出することができる。検量線は0を含む少なくとも4水準の標準硫黄溶液によって作成することが好ましい。【0021】【実施例】以下、本発明の実施例を説明する。(実施例)本実施例のゴム中の遊離硫黄の定量方法は、ゴム試料としてエアクリーナホースを用い、分析過程では誘導結合プラズマ発光分析装置(以下、ICPとする)によって分析を行うものである。このエアクリーナホースは、チップジャンパ銀導体の硫化被毒断線の原因と考えられているものである。チップジャンパ銀導体の硫化被毒断線が多発した車両に配設されていたエアクリーナホースAと、チップジャンパ銀導体の硫化被毒断線が発生しなかった車両に配設されていたエアクリーナホースBについてそれぞれの遊離硫黄を定量した。エアクリーナホースAおよびエアクリーナホースBからはそれぞれ2箇所づつサンプリングを行い、エアクリーナホースA由来のゴム試料(ゴム試料A1およびゴム試料A2)とエアクリーナホースB由来のゴム試料(ゴム試料B1およびゴム試料B2)を得た。【0022】(1)抽出過程各ゴム試料を各々1〜2mm程度の立方状細片に裁断し、そのうち各々1g程度を採取して化学天秤で秤量して質量を測定した。ここで測定されたゴム試料A1細片の質量をWA1とし、ゴム試料A2細片の質量をWA2とし、ゴム試料B1細片の質量をWB1とし、ゴム試料B2細片の質量をWB2とする。【0023】秤量後の各ゴム試料細片を各々円筒ガラスフィルターの中に入れた後、これをソクスレー抽出器にセットし、メタノールを100ml三角フラスコに80ml程度加えて80℃で6時間抽出を行った。三角フラスコ内のメタノールは加温されて気化し、ソクスレー管上部に設置されている冷却管に移動する。冷却管は冷却溶媒で冷却されているため、冷却管内に移動したメタノールは冷却されて再度液化し、ソクスレー抽出器内にセットされたガラスフィルター内に移動する。このとき、メタノールによって各ゴム試料細片中の遊離硫黄化合物が抽出され、この遊離硫黄化合物はメタノールと共に三角フラスコ内に移動する。【0024】三角フラスコ内に移動したメタノールは再度加温されて気化し、上述と同じ経路をとおってエアクリーナホース細片中の遊離硫黄化合物を抽出する。ここで、三角フラスコ内に移動した遊離硫黄化合物は気化することなく三角フラスコ内に残留する。したがって、三角フラスコ内の遊離硫黄化合物濃度は抽出時間の経過に伴って上昇し、6時間が経過した後には、エアクリーナホース細片中の遊離硫黄化合物はほぼ全量が抽出されて三角フラスコ内に移動することとなる。【0025】(2)濃縮過程抽出過程終了後、各々の三角フラスコ内の抽出液を90℃の湯浴条件下でエバポレータにかけてメタノールを気化・除去することで遊離硫黄化合物の減圧濃縮をおこなった。濃縮の終点は三角フラスコ内のメタノールが目視で確認できなくなった時点とした。濃縮終了後、引き続きこのフラスコを室温で一昼夜放置して遊離硫黄化合物の濃縮物をさらに乾燥させた。【0026】(3)分解過程濃縮過程で得られた各々の三角フラスコ内の遊離硫黄化合物の濃縮物に10mlの硝酸と5mlの過塩素酸とをそれぞれ加え、160℃に加熱することで単離の硫黄を含む溶液を得た。過塩素酸の白煙が発生した時点で、分解液中に硝酸がなくなり分解反応が終了したものとみなして加熱を終了し分解過程を終了した。【0027】(4)分析過程(4−1)抽出物の分析分解過程で得られた各々の単離の硫黄を含む溶液を室温にて放冷し、イオン交換水で100mlにメスアップした後に濾紙(5A)で濾過を行うことで試料A1の分析用試料(分析試料A1),試料A2の分析用試料(分析試料A2),試料B1の分析用試料(分析試料B1)および試料B2の分析試料(分析試料B2)を調製した。各分析用試料をICPにかけ、分析試料A1の出力値A1,分析試料A2の出力値A2,分析試料B1の出力値B1および分析試料B2の分析値B2を読み取った。(4−2)標準物質の分析(検量線の作成)純度99.9%以上の硫酸カリウム試薬を110℃で1時間程度加熱し、その後にシリカゲルと共にデシケータ内で放冷し乾燥させた。この過程は硫酸カリウム試薬が吸湿していた水分を除去するためのものである。乾燥した硫酸カリウム5.438gをイオン交換水で1000mlにメスアップし、1000ppmの硫黄標準原液を得た。この硫黄標準原液を100mlに過塩素酸5mlを加えて2.5ml,5ml,10mlにメスアップして2.5ppm,5ppm,10ppmの硫黄標準溶液を調製した。また、過塩素酸5mlをイオン交換水で100mlにメスアップすることで0ppmの硫黄標準溶液を調製した。上記の操作で得られた各硫黄標準溶液をICPにかけ各出力値を読み取って硫黄量と出力値の関係を示す検量線を作成した。この検量線を表すグラフを図1に示す。検量線のx軸には硫黄標準溶液100ml中の硫黄量をとり、y軸にはICPの出力値をとった。(4−3)遊離硫黄量の計算(4−1)項で得られた各分析用試料の出力値A1,A2,B1,B2を(4−2)項で作成した検量線に対応させることで、分析用試料A1中の遊離硫黄量(wA1),分析用試料A2中の遊離硫黄量(wA2),分析用試料B1中の遊離硫黄量(wB1)および分析試料B2中の遊離硫黄量(wB2)を読み取った。ここで読み取った各遊離硫黄量をもとにして各々のゴム試料中の遊離硫黄量を算出した。算出は以下の式によって行った。【0028】ゴム試料A1の遊離硫黄量(重量%)=wA1/WA1×100ゴム試料A2の遊離硫黄量(重量%)=wA2/WA2×100ゴム試料B1の遊離硫黄量(重量%)=wB1/WB1×100ゴム試料B2の遊離硫黄量(重量%)=wB2/WB2×100(測定結果)上記(1)〜(4)の過程で測定した各ゴム試料の遊離硫黄量を表1に示す。【0029】【表1】【0030】表1に示すように、チップジャンパ銀導体の硫化被毒断線が多発した車両に配設されていたエアクリーナホースAの遊離硫黄量は、チップジャンパ銀導体の硫化被毒断線が発生しなかった車両に配設されていたエアクリーナホースBの遊離硫黄量と比較して低い値を示した。このことから、本発明のゴム中の遊離硫黄の定量方法で定量した遊離硫黄量と、遊離硫黄により電子部品に発生する不具合の有無との間には相関があることが明らかとなり、本発明のゴム中の遊離硫黄の定量方法の信頼性が確認された。【0031】【発明の効果】以上述べてきたように、本発明のゴム中の遊離硫黄の定量方法は、精度の高い分析を可能とするものである。すなわち、JIS K 6234に示されるような従来の遊離硫黄の定量方法は、遊離硫黄に種々の試薬を反応させ、生成した硫黄化合物を測定する間接的な方法であったが、本発明の定量方法は分解過程により遊離硫黄化合物を単離の硫黄に分解し、生成した単離の硫黄を直接測定する方法である。したがって、本発明のゴム中の遊離硫黄の定量方法によると測定誤差を低減することができ、測定精度を向上させることができる。【0032】また、本発明のゴム中の遊離硫黄の定量方法によると、一般的な試薬および装置を用いた測定を行うことが可能となり、かつ、抽出,分解および測定の過程は少ない工程で行われるものであることから、測定が簡易なものとなる。さらに、本発明のゴム中の遊離硫黄の定量方法によると、機器分析により分析を行うことが可能となるために、滴定等の操作に熟練を要する方法を用いることなく分析を行うことができ、一定したデータを容易に得ることができる。【図面の簡単な説明】【図1】本発明の分析過程における硫黄標準溶液の検量線を表すグラフである。 ゴム試料をメタノールに浸漬し該メタノール中でゴム中の遊離硫黄化合物を抽出する抽出過程と、該抽出過程で得られた抽出液からメタノールを除去し該遊離硫黄化合物の濃縮物を得る濃縮過程と、該濃縮過程で得られた該遊離硫黄化合物の濃縮物を120℃〜180℃の加熱条件下で硝酸と過塩素酸とを含む分解溶液中で分解し単離の硫黄を含む溶液を得る分解過程と、該分解過程で得られた該単離の硫黄を含む溶液中の単離の硫黄を機器分析により分析する分析過程と、を含むことを特徴とするゴム中の遊離硫黄の定量方法。 前記機器分析は、誘導結合プラズマ発光分析装置を用いて行われる請求項1に記載のゴム中の遊離硫黄の定量方法。