生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_ガラクトオリゴ糖の製造法
出願番号:2002077762
年次:2008
IPC分類:C12P 19/14


特許情報キャッシュ

藤井 武 藤井 紀人 JP 4095816 特許公報(B2) 20080314 2002077762 20020320 ガラクトオリゴ糖の製造法 日本オリゴ株式会社 591014581 大石 征郎 100087882 藤井 武 藤井 紀人 20080604 C12P 19/14 20060101AFI20080515BHJP JPC12P19/14 Z C12P 19/00-19/64 C12N 1/00-1/38 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) CAplus(STN) JST7580(JDream2) JSTPlus(JDream2) 特開昭55−104885(JP,A) 特開平09−117297(JP,A) 1 FERM P-18651 2003274991 20030930 14 20050304 渡邉 潤也 【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は、新規に発見した菌類に由来する酵素を作用させることにより、高い転移率でガラクトオリゴ糖を製造する方法に関するものである。【0002】【従来の技術】 ガラクトオリゴ糖は、ガラクトース残基をGal 、グルコース残基をGlc と表わすとき、Gal-(Gal)n-Glc(nは0〜3)で示される。結合様式には、β1-6 、β1-3 、β1-4 、β1-2 や、α1-3 、α1-6 などがある。【0003】 ガラクトオリゴ糖は、(a) 腸内でビフィズス菌の増殖促進因子として機能し、整腸作用が期待できることのほか、(b) それ自体は味がないこと、(c) フラクトオリゴ糖と異なり、その水溶液を酸性条件下に保存しても変質を起こしにくいこと、などの利点がある。そのため、ガラクトオリゴ糖は、食品素材、動物飼料配合用、飼育動物用人工乳材料などとして有用である。【0004】 ガラクトオリゴ糖の製造法に関しては、以下に例示するように多くの出願がなされているので、従来は主としてどのようなガラクトシダーゼ産生菌が使われているかの観点からまとめてみる。【0005】(イ)特開平9−238696号公報には、原料乳糖(ラクトース)にβ−ガラクトシダーゼを作用させてガラクトース転移反応を行わせる反応工程を備えた3’−ガラクトオリゴ糖リッチの糖組成物の製造方法において、予め定められた時点(たとえば乳糖が初期濃度の60〜40%になった時点)で反応を停止する反応停止工程を含む方法が示されている。3’−ガラクトオリゴ糖は、Gal-Gal 結合がβ(1→3)結合方式のガラクトオリゴ糖である。【0006】 この公報の出願の実施例で主として得ている3糖は、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)由来のβ−ガラクトシダーゼを用いた場合で、 Gal β1-3 Gal β1-4 Glc 、 Gal β1-6 Gal β1-4 Glcであり、その実施例1における50℃で8時間反応後の生成3糖の収率は、 6.2%(基質初期濃度5%)、16.1%(基質初期濃度20%)、20.6%(基質初期濃度20%)である。【0007】 この公報には、β−ガラクトシダーゼ産生菌として、アスペルギルス・オリゼ、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ラクトバチルス・ブルガリカス、ストレプトコッカス・ラクチス、ラクトバチルス・サリバリウス、ラクトバチルス・ライヒマニー、ラクトバチルス・ヘルペティクス、バチルス・ブレビス、バチルス・ステアロサーモフィルス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレーベ、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス、クルイベロマイセス・フラジリス、クルイベロマイセス・ラクチス、カンジダ・シュードトロピカリス、大腸菌などが例示されており、これらの中では、ラクトバチルス・ブルガリカス、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ビフィドバクテリウム属、クルイベロマイセス・ラクチス等が好適であるとあり、殊に、ストレプトコッカス・サーモフィルス由来のβ−ガクトシダーゼを用いることが好ましいとある。【0008】(ロ)特開2000−41693には、乳糖または乳糖含有物にサーマス(Thermus) 属に属する微生物に由来するβ−ガラクトシダーゼを作用させるガラクトオリゴ糖の製造方法が示されている。試験例1(70℃で糖転移反応を行っている実施例1の条件を採用している)によれば、乳糖濃度が5,20,25,30,40,45,50%のときのガラクトオリゴ糖の収率は、この順に、22.5, 29.5, 35.4, 39.2, 40.5, 35.4, 28.3%であり、乳糖濃度が30〜40%で収率が最高の約40%となっている。なお、試験例1によれば、25〜45%の乳糖濃度の溶液を使用することが好ましいとしている。【0009】 この公報の発明は、それ以前に知られている哺乳動物、植物または微生物起源の酵素(エシェリキア・コリ、クライベロマイセス・ラクチス、アスペルギルス・ニガー等の酵素)を用いた場合には、乳糖の加水分解反応や、糖転移反応により一旦生成したオリゴ糖の加水分解反応により、オリゴ糖の生成量が最大でも約25%とかなり低くなること、特公平3−54559号公報のバシラス・サーキュランス由来の粗酵素を使用する方法によれば、30〜40%の収率でガラクトオリゴ糖を製造することができるとしてあるが、そこで使われている酵素は耐熱性が低く、65℃で大部分が失活することなどの限界ないし問題点があるので、この公報の発明においては、収率をさらに高くし、かつ70℃以上でも製造が可能であるガラクトオリゴ糖の製造方法を提供することを目的としている。【0010】(ハ)以下の従来技術については、酵素産生菌、基質濃度、反応温度、転移率などにつき、まとめて示してある。【0011】・特公昭58−20266号公報(特開昭55−104885号公報) ・酵素産生菌:アスペルギルス・オリゼ。 ・基質濃度:10〜50%程度。 ・反応温度:20〜50℃(実施例は37℃)。【0012】・特開平9−117297号公報 ・酵素産生菌:Penicilium citrinum 、Bacillus subtilis 。 ・反応温度:実施例は37℃。【0013】・特開平10−201472号公報 ・酵素産生菌:ペニシリウム(Penicilium)属、アスペルギルス(Aspergillus) 属、ストレプトミセス(Streptomiyces) 属の微生物。 ・酵素:α−ガラクトシダーゼ。 ・反応温度:至適温度は50℃。【0014】・特開平8−168393号公報 ・基質:ガラクトシル基を有する糖と、スクロースまたはマルトース。 ・酵素産生菌:ロドトルラ(Rhodotorula) 属の酵母。 ・反応温度:10〜60℃(実施例は40℃)。【0015】・特公昭63−34(特開昭62−118886号公報) ・酵素産生菌:バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)。従来法として、エシェリヒア・コリー(Escherichia coli)、クリベロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger) 。【0016】・特公平3−54559号公報(特開平1−51094号公報) ・酵素産生菌:バチルス・サーキュランス(Bacillus circulans)。従来法として、エシェリヒア・コリー(Escherichia coli)、クリベロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger) 。 ・基質濃度:30%以上、好ましくは約40〜80%。 ・反応温度:約40〜70℃。 ・収率:実施例では33.6〜40%。【0017】・特開平7−222594号公報 ・基質:ラクチュロースとラクトースの混合物。 ・酵素産生菌:ロドトルラ(Rhodotolura) 属。 ・反応温度:約20〜80℃。【0018】・特開平5−140178号公報および特公平8−24592号公報(特開平2−84191号公報) ・酵素産生菌:ピクノポラス・シナバリヌス(Pycnoporus cinnabarinus) 、ストレプトコッカス・ボビス(Streptococcus bovis) 、デプロコッカス・ニューモニア(Diprococcus pneumoiae) 、モルティエレラ・ビナセ(Mortierella vinacea) 、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens) 、キャンディダ・ギリエルモンディー(Candida quilliermondii)、ビシア・サティバ(Vicia sativa)、緑色コーヒー豆(Green coffee bean) 。 ・基質:ガラクトース、ガラクトースを含む物質。【0019】・特開平5−236981号公報 ・酵素産生菌:ステリグマトマイセス属、ロドトルラ属、シロバシディウム属またはリポミセス属の微生物。従来技術として、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、バチラス・サーキュランス(Bacillus circulans)、リポミセス(Lipomyces) 属、ロドトルラ(Rhodotorula) 属、クルイベルミセス(Kluyveromyces) 属、デバリオミセス(Debaryomyces)属、クリプトコッカス・ローレンティー(Cryptococcus laurentii)。 ・基質:乳糖(鉄イオン、銅イオンまたは亜鉛イオンを添加)。【0020】・特開昭60−251896号公報 ・酵素産生菌:クリプトコッカス属。【0021】【発明が解決しようとする課題】 従来提案されているβ−ガラクトシダーゼ産生菌由来の酵素を用いた場合は、一般的にはガラクトオリゴ糖への転移率が低く(たとえば20〜40%程度)、40%を越える転移率を確保しようとすると、培養法や2段階反応法、あるいは金属イオンの添加などの特殊な方法を採用しなければならないので、操作や工程が煩雑になったり、不純物混入の危険が増加したりするという問題点があった。そのほか基質濃度を高くすることができないため工業化に支障を来すことがあったり、また最適反応温度が低いため雑菌が繁殖するおそれがあった。【0022】 上に例示した従来技術の中には、このうちの1ないし2の要求を克服することができるものもあるが、これらの要求を全て満たすまでには至っていない。従来提案されている微生物に由来する酵素を用いたのでは、おのずから限界があるのである。【0023】 本発明は、このような背景下において、従来提案されていない微生物に由来するβ−ガラクトシダーゼを用いることにより、上記の壁を破る(ブレークスルーする)ことのできる技術を見い出し、もって、高い転移率でかつ工業的に有利にガラクトオリゴ糖を製造することのできる方法を提供することを目的とするものである。【0024】【課題を解決するための手段】 本発明のガラクトオリゴ糖の製造法は、 基質であるラクトースに、ドシディール目(Dothideales) の微生物に由来するβ−ガラクトシダーゼを作用させて、ガラクトオリゴ糖を生成させること、および、 前記ドシディール目(Dothideales) の微生物が、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託された「寄託番号 FERM P-18651」の「Dothideales-SIID1019-1-16 」であること、を特徴とするものである。【0025】【発明の実施の形態】 以下本発明を詳細に説明する。【0026】〈基質〉 本発明においては、基質として、ラクトース(Lactose 、乳糖)またはラクトースを豊富に含む原料を用いる。ラクトースは、D−グルコースの4位にD−ガラクトースがβ−グルコシド結合したものである。【0027】〈β−ガラクトシダーゼ産生菌〉 本発明において用いるドシディール目の菌は、本発明者らが自然界から分離した新規な菌類(カビ)であり、すでに独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに「寄託番号 FERM P-18651」の「Dothideales-SIID1019-1-16 」菌として寄託されている。なお、この菌類の同定のための以下に述べる試験は、NCIMB Japan Co., Ltd. に依頼して行った。【0028】 この「FERM P-18651」菌の菌学的特徴に関し、検体をポテトデキストロース寒天(PDA)、オートミール寒天(OA)、2%麦芽寒天(MEA)の各プレートに接種し、25℃で最長3週間の培養を行い、コロニーの巨視的特徴を肉眼および実体顕微鏡で観察した。コロニー色調についてはMethuen Handbook of Colour (Kornerup & Wanscher, 1978)に従い、PDAスライド培養検体の微視的特徴の観察は光学顕微鏡にて行った。【0029】 その結果、OA、MA、PDA共に、25℃での生育はやや遅く、1週間で直径 0.8〜1.0 cmの生育を示した。全ての培地において、コロニー周縁はやや波状で低凸状の盛り上がりを示した。菌糸は寒天内に比較的深い潜り込みを見せた。気中菌糸は当初フェルト状で、コロニー表面色調は当初yellowish white - yellowish gray (3A-B2)を示し、その後MEAプレートおよびPDAプレートの気中菌糸部ではyellowish gray - dull yellow (3B2-3)を、OAプレートおよびPDAプレートの基低菌糸部でolive - olive yellow (3C-D3-6)を呈した。コロニー裏面は、当初よりbronze - dark brown (5-7E-F5) を呈した。全てのプレートにおいて、透明な滲出液の産生は認められなかったが、OAプレートでは培養3週間後の検体から若干geranium (11B7) の可溶性色素の産生が観察された。【0030】 微視的観察では、菌糸体に規則的な隔壁が認められた。菌糸の大半は屈曲した広がりを示した。分岐は全体的によく観察されるが、特に基部周辺では格子状となった分枝が比較的多く観察された。菌糸が数本から10数本集まり、束状となったものが比較的多く観察された。菌糸幅は菌糸基部および先端ともにほぼ同程度であった。菌糸表面は平滑で、壁は厚かった。培養3週間経過後の気中菌糸基部からは油滴状の構造物が若干観察された。菌糸の隔壁周辺部において、かすがい連結の形成は確認されなかった。有性および無性生殖器官の形成についても確認したが、培養3週間経過後の検体からも観察されず、また厚壁胞子の存在も確認されなかった。これらのことから、この検体は、現在の分類体系に従えば、その帰属を担子菌門あるいは子菌門、すなわち高等菌類(旧分類体系における無胞子不完全菌類)に含まれるとするのが至当である。なお、この検体の全体像(微分干渉顕微鏡、倍率:360倍)および気中菌糸(微分干渉顕微鏡、倍率:720倍)も撮影してある。(図示は省略。)【0031】 上記の菌体(「FERM P-18651」菌)をYM broth (Becton, Dickinson, MA)にて30℃で4日間培養し、培養後に集菌し、凍結乾燥した。この凍結乾燥菌糸からDNA分離を行った。この分離DNAを用いて、常法に従って目的遺伝子塩基配列を得た。(操作の詳細および塩基配列は省略。)【0032】 上記の菌体(「FERM P-18651」菌)のDNA配列データベース(GenBank) から類似の塩基配列を検索するため、BLAST (Altschul et al., 1997) によるホモロジー検索を行った。ホモロジー検索の結果を参考に操作可能な分類群を選定し、近隣結合法(Saitou & Nei, 1987)により分子系統樹を作成した。系統樹作成は、Clustal X (Thompson et al., 1997) にてマルチプルアライメント作成および系統樹推定、1000回のブーツストラップ(Felsenstein, 1985) による信頼性評価を行った。距離は木村の2変数法(Kimura, 1980)による(α/β= 2.0)。【0033】 その結果、系統樹で上記検体の近傍に位置した各タクソンの帰属は、次の表1の通りであった。上記検体は、分子系統上、Dothideales に帰属するものと判断される。【0034】【表1】 タクソン名 テレオモルフ属名 科(Family)名 目(Order) 名 Spilocaea Venturia Venturiaceae oleaginea Cucurbitaria Cucurbitaria Cucurbitariaceae berberidis Septoria Dothideales nodorum Mycosphaerella Mycosphaerellaceae Mycosphaerella mycopappi Westerdykella Westerdykella dispersa Sporormiaceae Sporormia Sporormia lignicola 【0035】〈培養、産生酵素の分離〉 ドシディール目の菌類(カビ)である上記の菌体(「FERM P-18651」菌)を培養することにより、培養菌体または菌体を含む培養液が得られるので、本発明においてはその菌体(またはそれを含む培養液)自体を菌体内酵素と共にそのまま用いることができる。このとき、反応を特に30℃±5℃で行うと、グルコースが菌体により消化され、後述の実施例2のように、反応物中の糖全体に占める3糖および4糖以上のガラクトオリゴ糖の合計量が70%を越えるような高転移率で、ガラクトオリゴ糖が容易に得られる。【0036】 液体培養を行うときの培養液の培地組成の例については、後に実施例の箇所で述べる。【0037】 一方、大規模生産の観点からは、菌体を分離し、固定化し、固定化菌体として用いるか、あるいは産生酵素を菌体から遊離させて酵素を固定化し、固定化酵素として用いることが有利である。【0038】 産生酵素を菌体から分離するときは、培養液から菌体をろ過などの手段により回収し、ついで超音波法など適宜の手段により菌体を破砕して破砕菌体と上清とに分離し、その上清を遠心分離して粗酵素抽出液を得ればよい。必要に応じ、さらに精製を行うこともできる。【0039】〈反応〉 基質であるラクトースに、ドシディール(Dothideales) 目の微生物である上記の菌体(「FERM P-18651」菌)に由来するβ−ガラクトシダーゼを作用させることにより、ガラクトオリゴ糖を効率的に製造することができる。生成するガラクトオリゴ糖とは、Gal をガラクトース、Glc をグルコースとするとき、主に 「Gal β1-6 Gal β1-4 Glc 」および「Gal β1-3 Gal β1-4 Glc 」の3糖、および 「Gal β1-6 Glc 」または「Gal β1-3 Glc 」のガラクトース転移2糖である。ちなみに、原料ラクトースは 「Gal β1-4 Glc 」である。【0040】 生成したガラクトオリゴ糖は、それをさらに精製したり、各成分ごとに分離ないし濃縮したりすることもできるが、通常はそこまでするには及ばないので、そのまま種々の用途に用いることが多い。このとき、水溶液の状態で酸性条件下に保存しても、変質を起こしにくい。【0041】 反応系の基質濃度は、通常は30〜80%、さらには40〜75%、殊に50〜75%というように広い範囲に設定することができる。70%前後というように高い濃度に設定しうることが本発明の特徴の一つであり、そのような高い濃度条件を採用すれば、反応装置の点で工業的に有利となる。【0042】 反応温度は、常温〜75℃程度、通常は30〜75℃、殊に40〜75℃程度、なかんずく50〜70℃、さらには60〜70℃とすることが好ましい。70℃前後というような高温でも反応が進むことが本発明の特徴の一つであり、そのような高温条件を採用すれば、雑菌の繁殖を防止することができる。【0043】 反応系のpHは3〜7、殊に5〜6とすることが多い。【0044】 反応時間は、12時間〜4日程度とすることが多い。【0045】 反応の停止(酵素の失活)は、反応液をたとえば80℃以上にもたらすことにより達成できる。【0046】 基質からのガラクトオリゴ糖転移率、生成ガラクトオリゴ糖の組成(転移2糖と3糖以上との比率)は、反応条件(基質濃度、反応温度、反応時間など)に依存するので、反応条件を適宜に設定することにより、目的とする転移率や組成のガラクトオリゴ糖を得ることができる。このように、予め設計した転移率や組成をもたらすことができることも、本発明の特徴の一つである。【0047】〈用途〉 得られたガラクトオリゴ糖は、腸内におけるビフィズス菌の増殖促進作用ないし整腸作用、無味性、耐酸性、耐熱性、保湿作用、低カロリー性などの諸機能を生かして、食品素材(機能性食品)、医薬品原料、動物飼料配合用、飼育動物用人工乳材料をはじめとする種々の用途に用いることができる。【0048】【実施例】 次に実施例をあげて本発明を詳細に説明する。濃度表記の「%」は、先に述べたものも含めて、「(wt/vol)%」である。【0049】実施例1 寄託番号 FERM P-18651 の「Dothideales-SIID1019-1-16 」を用いて、以下の実験を行った。【0050】(スラント)・組成 ラクトース1%、酵母エキス 0.1%、(Stock solin Salt, Mg) 1:100の比(100mlに1ml)、Agar 1.6% i.Stock solin Salt (1) NaCl 0.25% (2) KH2PO4 0.5 % (3) K2HPO4 0.5 % (4) NH4NO3 1.0 %を100ml ii.Stock solin Mg MgSO4 ・7H2O 0.25%を100ml【0051】(前培養) 次の組成、すなわち、 ・ラクトース 2.5〜 5.0% ・ポリペプトン 1.0% ・酵母エキス 1.0% ・(Stock solin Salt, Mg) 1:100(100mlに1ml)の培養液(pH 7.0)を調製し、100ml容量の三角フラスコに30mlを採って、30℃、100〜120rpm 、3〜5日間の条件で培養するか、あるいは100mlで静置培養を行った。培養は、菌がふわっとした状態(小さい胞子が何粒もブドウ房状)となるまで行った。【0052】(本培養) 次の組成、すなわち、 ・ラクトース 5.0% ・ポリペプトン 2.0% ・酵母エキス 1.0% ・(Stock solin Salt, Mg) 1:100の比 (100mlに1ml)の培地(pH 7.0)を調製し、500ml容量の三角フラスコに200mlを採って、30℃、120rpm 、7日間の条件で培養を行った。【0053】(菌体の回収) Whatman 社製のろ紙「GF/A(直径110mm)」を用いて吸引ろ過することにより、菌体を回収した。【0054】(粗酵素の抽出) 菌体(適量)を、 0.1M-MacIlvain 緩衝液(pH 5.0)100ml、 0.5%ドデシル硫酸ナトリウム100ml、蒸留水100mlの計300mlの溶液の入ったフラスコに入れ、30℃で6時間振盪した。この液を氷冷しながらソニケーターにより20kHz の超音波を約5分間かけ、または 0.5Mの同緩衝液キタラーゼ(Wako)(from Rhizoctonia solani) を0.15mg/ml の濃度で添加、混合したものを40℃で 2.5時間処理し、菌体粉砕を行った。この懸濁液をろ紙(Whatman 社製のろ紙「GF/A(直径110mm)」を敷いたヌッチェを用い、アスピレーターで吸引ろ過し、粉砕菌体と上清とに分離した。この上清を4℃、12000rpm 、15分間の条件で遠心分離し、その上清を粗酵素液とした。【0055】(力価の測定) ニトロフェノール法により力価の測定を行った。すなわち、ワッセルマン試験管中にPNPG(p−ニトロフェニルガラクトピラノシド)水溶液(50mM)(0.1M-MacIlvain(pH 5.0)緩衝液中) 2.4mlを入れ、70℃で1分間の予備加熱後、菌体 0.1gまたは粗酵素 0.1mlを加え、恒温槽下にスターラーを置き、10分間酵素反応を行った。加温後、反応液に1M Na2CO3 1.0mlを加え、反応を停止し、それに 1.5mlの蒸留水を加え(トータル5ml)、410nmの吸光度により遊離したp−NP量を定量した。1分間に1μmol のp−ニトロフェノールを遊離する力価を1unitとする。【0056】(反応) 反応温度を30℃または70℃とし、基質濃度を50%、60%または70%とし、反応時間を144時間としたときの結果を、後の表2〜7に示す。相対保持時間は、Glc を1.00としている。【0057】(生成物の定量) 生成物の定量は、HPLC法により行った(TSKGel Amido-80 、4mmφ×25cm、溶離液:アセトニトリル/水=75/25、1ml/min)。【0058】【表2】 添加酵素力価 1.8u/g-Lactose 反応温度30℃、基質濃度50% 相対保持時間 反応時間 (hr) /生成物 4 6 12 48 144 1.00/Glc 2.9 4.1 4.0 3.5 3.5 1.06/Gal - 1.0 0.8 2.0 2.7 1.30/2糖 - - - 2.5 1.9 1.37/2糖 - - - 3.0 2.2 1.51/Lac 97.1 93.3 88.6 49.2 56.6 1.70/2糖 - - - 1.9 - 1.78/2糖 - - - 2.4 0.8 1.92/2糖 - - - - - 2.04/3糖以上 - - - 1.1 - 2.22/3糖以上 - 1.6 3.4 21.4 28.5 2.37/3糖以上 - - 3.3 5.0 2.8 2.55/3糖以上 - - - 3.7 - 2.80/3糖以上 - - - 3.0 - 転移率(%) 2糖(除 Lac) 0.0 0.0 0.0 9.8 4.9 3糖以上 0.0 1.6 6.7 34.2 31.3 2糖以上合計 0.0 1.6 6.7 44.0 36.2【0059】【表3】 添加酵素力価 1.0u/g-Lactose 反応温度30℃、基質濃度60% 相対保持時間 反応時間 (hr) /生成物 4 6 12 48 144 1.00/Glc - 2.3 1.6 4.8 2.5 1.06/Gal - 0.6 - 1.3 0.6 1.30/2糖 - - 0.7 1.9 0.4 1.37/2糖 - - - 2.0 - 1.51/Lac 100.0 96.3 89.7 59.8 82.5 1.70/2糖 - - - 1.4 - 1.78/2糖 - - - 1.9 - 1.92/2糖 - - - - - 2.04/3糖以上 - - - - - 2.22/3糖以上 - 0.9 6.0 17.7 10.5 2.37/3糖以上 - - 2.0 3.7 - 2.55/3糖以上 - - - 2.6 - 2.80/3糖以上 - - - 1.0 - 転移率(%) 2糖(除 Lac) 0.0 0.0 0.7 7.2 0.4 3糖以上 0.0 0.9 8.0 25.0 10.5 2糖以上合計 0.0 0.9 8.7 32.2 10.9 【0060】【表4】 添加酵素力価 0.4u/g-Lactose 反応温度30℃、基質濃度70% 相対保持時間 反応時間 (hr) /生成物 4 6 12 48 144 1.00/Glc - - 2.3 3.9 1.1 1.06/Gal - - 0.2 0.7 0.2 1.30/2糖 - - - 0.8 0.2 1.37/2糖 - - - 1.0 0.5 1.51/Lac 100.0 100.0 97.5 75.2 91.2 1.70/2糖 - - - 0.9 0.4 1.78/2糖 - - - 1.8 0.6 1.92/2糖 - - - - 0.3 2.04/3糖以上 - - - - - 2.22/3糖以上 - - - 9.9 3.5 2.37/3糖以上 - - - 2.0 0.9 2.55/3糖以上 - - - 1.5 0.5 2.80/3糖以上 - - - 0.6 0.3 転移率(%) 2糖(除 Lac) 0.0 0.0 0.0 4.5 2.0 3糖以上 0.0 0.0 0.0 14.0 5.2 2糖以上合計 0.0 0.0 0.0 18.5 7.2【0061】【表5】 添加酵素力価 0.8u/g-Lactose 反応温度70℃、基質濃度50% 相対保持時間 反応時間 (hr) /生成物 4 6 12 48 144 1.00/Glc 14.3 18.7 30.7 31.0 36.4 1.06/Gal 1.2 2.1 2.1 6.6 7.4 1.30/2糖 2.5 3.9 6.4 3.4 2.9 1.37/2糖 2.8 4.7 8.5 4.0 3.8 1.51/Lac 53.9 44.0 27.3 23.8 13.1 1.70/2糖 0.9 1.4 - 9.5 10.3 1.78/2糖 0.9 1.8 - 11.7 13.9 1.92/2糖 - - - - - 2.04/3糖以上 - - - 1.7 0.4 2.22/3糖以上 19.0 18.5 21.4 - 1.8 2.37/3糖以上 4.4 3.7 3.7 7.1 8.5 2.55/3糖以上 - - - - 0.3 2.80/3糖以上 - - - - 1.2 転移率(%) 2糖(除 Lac) 7.1 11.8 14.9 28.6 30.9 3糖以上 23.4 22.2 25.1 8.8 12.2 2糖以上合計 30.5 34.0 40.0 37.4 43.1 【0062】【表6】 添加酵素力価 1.0u/g-Lactose 反応温度70℃、基質濃度60% 相対保持時間 反応時間 (hr) /生成物 4 6 12 48 144 1.00/Glc 10.4 12.8 19.7 30.2 24.7 1.06/Gal 0.8 0.9 1.7 3.4 3.8 1.30/2糖 1.4 2.0 3.7 3.6 4.4 1.37/2糖 1.4 2.5 4.7 5.5 5.2 1.51/Lac 69.1 55.8 37.7 17.0 17.5 1.70/2糖 - 0.8 - 5.4 5.9 1.78/2糖 - 1.1 0.7 8.5 7.9 1.92/2糖 - - - - 1.0 2.04/3糖以上 - - - 1.2 2.7 2.22/3糖以上 14.0 18.6 24.0 9.2 8.9 2.37/3糖以上 2.8 5.3 7.0 12.0 11.1 2.55/3糖以上 - - - 0.6 2.2 2.80/3糖以上 - - - 3.5 4.8 転移率(%) 2糖(除 Lac) 2.8 6.4 9.1 23.0 24.4 3糖以上 16.8 23.9 31.0 26.5 29.7 2糖以上合計 19.6 30.3 40.1 49.5 54.1 【0063】【表7】 添加酵素力価 0.4u/g-Lactose 反応温度70℃、基質濃度70% 相対保持時間 反応時間 (hr) /生成物 4 6 12 48 144 1.00/Glc 5.8 7.3 11.2 19.4 19.1 1.06/Gal - 0.5 1.0 2.8 1.7 1.30/2糖 0.9 0.8 2.0 4.4 4.7 1.37/2糖 0.6 0.9 2.2 5.0 5.5 1.51/Lac 85.6 72.9 55.4 24.8 24.7 1.70/2糖 - 0.3 1.0 2.4 2.3 1.78/2糖 - 0.5 1.3 3.1 3.1 1.92/2糖 - - - 0.4 0.2 2.04/3糖以上 - - - 1.2 1.0 2.22/3糖以上 6.5 12.2 17.1 21.9 22.1 2.37/3糖以上 0.6 3.5 6.0 10.1 10.1 2.55/3糖以上 - 0.5 1.4 1.4 1.3 2.80/3糖以上 - - - 3.0 2.9 転移率(%) 2糖(除 Lac) 1.5 2.5 6.5 15.3 15.8 3糖以上 7.1 16.2 24.5 37.6 37.4 2糖以上合計 8.6 18.7 31.0 52.9 53.2 【0064】(解析) 上記の表2〜7から、次のことがわかる。 1.基質濃度が高いほど3糖以上の割合が高く、基質濃度が低いほど、比較的早い時期から転移2糖が生成される。 2.反応初期には3糖以上が生成し、時間の経過と共に転移2糖が蓄積される。 3.これらの性質を利用して、転移2糖と3糖以上との割合を調整できる。 4.たとえば、反応時間を6日(144時間)としたとき、主な基質濃度および反応温度による生成ガラクトオリゴ糖の組成の調整は、次の表8のようになる。【0065】【表8】 反応温度 基質濃度 転移2糖 3糖以上 合 計 30℃ 50% 約 5% 約31% 約36% 70℃ 50% 約31% 約12% 約43% 70℃ 60% 約24% 約30% 約54% 70℃ 70% 約16% 約37% 約53%【0066】実施例2 実施例1の「(本培養)」で培養した培養液50mlと、100mlに40gのラクトースを含む滅菌溶液とを混合し、30℃、120rpm の条件で6日間培養を行った。【0067】 ついで不溶性の物質をろ別し、減圧乾固したところ、20gの固形物が得られた。HPLCで分析の結果は、 3糖 42% 4糖以上 35% 2糖(含ラクトース) 15% 単糖 8% 合計 100%であり、反応物中の糖全体に占める3糖および4糖以上の合計量が77%というような高率で、ガラクトオリゴ糖が生成してことがわかった。【0068】【発明の効果】 本発明の方法は、従来知られていなかったドシディール目の微生物(菌類、カビ)である上記の菌体(「FERM P-18651」菌)に由来する酵素を用いており、本発明によれば、主として、Gal β1-6 Gal β1-4 Glc 、Gal β1-3 Gal β1-4 Glc のほか、4糖以上の転移糖、およびガラクトース転移2糖を生産することができる。【0069】 菌類(カビ)を用いる方法であるため、酵母やバクテリアを用いる方法に比し、生産にかかる操作が簡単である(たとえばろ過性が良くなる)。【0070】 本発明によれば、1段階の酵素反応で、ガラクトオリゴ糖を高収率で得ることができる。ガラクトオリゴ糖を原料ラクトースに対し50%以上も含有する糖液を工業的に生産することもできる。【0071】 菌体より遊離させた酵素を用いたときは、反応にかかる酵素力価を高くできるので生産性の点で有利である上、不純物量も少なくすることができる。【0072】 基質濃度を高くすることができるので(たとえば70%)、生産性、装置効率の点で有利であること、【0073】 比較的高温で反応させることもできるので(たとえば70℃)、雑菌繁殖による汚染を低減できること、【0074】 そして、基質濃度、反応温度、反応時間などを選ぶことにより、転移2糖と3糖以上との生成割合を広い範囲で調整できるので、目的用途に合った生成物組成とすることができる。【0075】 また、培養後の菌体(またはそれを含む培養液)とラクトースとを30℃前後の温度で反応させると、グルコースが菌体により消化されるため、極めて高い転移率で3糖および4糖以上のガラクトオリゴ糖が得られる。【0076】 よって、本発明の方法は、ガラクトオリゴ糖を得る工業的な製法として、他の種々の微生物に由来する酵素を用いている従来法に比し、工業生産上のメリットが大である。 基質であるラクトースに、ドシディール目(Dothideales) の微生物に由来するβ−ガラクトシダーゼを作用させて、ガラクトオリゴ糖を生成させること、および、 前記ドシディール目(Dothideales) の微生物が、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託された「寄託番号 FERM P-18651」の「Dothideales-SIID1019-1-16 」であること、を特徴とするガラクトオリゴ糖の製造法。


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