タイトル: | 公開特許公報(A)_Wntの新規作用、及び、疾患治療への応用 |
出願番号: | 2002064458 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,A61K48/00,A61K38/00,A61P3/06,A61P3/10,A61P5/50,C12Q1/02,G01N33/15,G01N33/50,A61K45/00 |
山本 徳男 酒井 寿郎 藤野 貴広 JP 2005220022 公開特許公報(A) 20050818 2002064458 20020308 Wntの新規作用、及び、疾患治療への応用 アンジェスMG株式会社 500409323 清水 初志 100102978 橋本 一憲 100108774 山本 徳男 酒井 寿郎 藤野 貴広 7 A61K48/00 A61K38/00 A61P3/06 A61P3/10 A61P5/50 C12Q1/02 G01N33/15 G01N33/50 A61K45/00 JP A61K48/00 A61P3/06 A61P3/10 A61P5/50 C12Q1/02 G01N33/15 Z G01N33/50 Z A61K37/02 A61K45/00 7 OL 18 2G045 4B063 4C084 2G045AA40 2G045BA13 2G045BB03 2G045BB20 2G045CA26 2G045CB01 2G045CB21 2G045DA12 2G045DA13 2G045DA14 2G045DA31 2G045DA36 2G045FB04 4B063QA18 4B063QA19 4B063QQ08 4B063QQ79 4B063QR48 4B063QR77 4C084AA02 4C084AA13 4C084AA17 4C084BA44 4C084CA17 4C084CA45 4C084CA49 4C084NA14 4C084ZC032 4C084ZC332 4C084ZC352 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、Wnt蛋白質またはWnt蛋白質をコードする遺伝子を含むインスリン分泌促進作用、または、脂質代謝改善作用を有する医薬に関する。また、本発明は、LRP5若しくはLRP6に対するアゴニストの同定方法、Wnt蛋白質、または、LRP5若しくはLRP6の細胞内における発現を制御する化合物の同定方法、並びに、これらの同定方法により同定されるアゴニスト及び化合物に関する。【0002】【従来の技術】Wntは、線虫、昆虫、軟骨魚及び脊椎動物を含む多くの生物において見られる遺伝子ファミリーによりコードされる蛋白質群である。Wnt蛋白質群は、発生及び生理学的な種々の工程において機能していると考えられ、多様な種において複数の保存されたWnt遺伝子が存在する(McMahon et al., Trends in Genetics 8(7): 236-321 (1992); Nusse and Varmus, Cell 69:1073-1087 (1992))。現在のところ、マウスで少なくとも18個(Wnt-1、2、2B/13、3、3A、4、5A、5B、6、7A、7B、8A、8B、10A、10B、11、15、16)(Gavin et al., Genes Dev. 4:2319-2332 (1990); Lee et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:2268-2272 (1995); Chrisitansen et al., Mecu.Dev. 51:341-350 (1995))、そしてヒトで少なくとも19個(Wnt-1、2、2B/13、3、3A、4、5A、5B、6、7A、7B、8A、8B、10A、10B、11、14、15及び16)(Vant Veer et al., Mol.Cell.Biol. 4:2532-2534 (1984))(http://www.stanford.edu/%7Ernusse/wntwindow.html参照)の遺伝子がWntファミリーとして知られている。これらのWnt遺伝子によりコードされるWnt蛋白質群の組織特異性は各々異なるものの、構造は互いに極めて類似している。【0003】Wnt情報伝達経路は、Frizzled受容体(Bhanot P. et al., Nature 382: 225-230 (1996))、最近特徴が明らかにされたLRP5/6(Wehrli M. et al., Nature 407: 527-530 (2000); Tamai K. et al., Nature 407: 530-535 (2000); Pinson K.I. et al., Nature 407: 535-538 (2000); Bafico A. et al., Nat. Cell Biol. 3:683-686 (2001); Nao B. et al., Nature 411: 321-325 (2001); Mao J. et al., Mol. Cell 7:801-809 (2001))およびDickkopf蛋白質(前述、Bafico A. et al. (2001); 前述Mao B. et al. (2001))等のさまざまな情報伝達分子を通じて、胚発生(Nusse R. and Varmus H.E., Cell 69: 1073-1087 (1992); Wodarz A. and Nusse R., Annu.Rev.Cell.Dev.Biol. 14: 59-88 (1998))および発癌(Sparks A.B. et al., Cancer Res. 58: 1130-1134 (1998))において中心的な役割を果たす。これらの情報伝達分子のうち、LRP5とLRP6は異なる組織特異性を有するものの、アミノ酸配列においては70%近い相同性を有し(Biochem.Biophys.Res.Commun. 248: 879-888 (1998))、共にWnt-5aと結合することが知られている(Nature 407: 530-535 (2000))。このような構造及び性質の類似性から、LRP5およびLRP6は生体内において同様な機能を有し、互いの機能をバックアップしあっていると考えられる。【0004】Wnt情報伝達系は発生過程および発癌過程の双方において特徴が示されているが、正常な成体における機能はほとんどわかっていない。脊椎動物にはWnt情報伝達系の下流で機能する経路が2つある(Kuhl M. et al., Trends Genet. 16:279-283 (2000))。標準的経路はβ-カテニン-リンパ球活性化因子(Lef)/T細胞因子(Tcf)複合体による標的遺伝子の活性化に依存しており、一方、非標準的(Wnt/Ca2+)経路ではFrizzledの活性化を介した細胞内Ca2+ 動員により、ヘテロ三量体G-蛋白質サブユニットを介してホスファチジルイノシトール情報伝達経路が刺激される(Slusarski D.C. et al.. Dev.Biol. 182: 114-120 (1997); Slusarski D.C. et al., Nature 390: 410-413 (1997); Liu T. et al., Science 292:1718-1722 (2001); Liu X. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96: 14383-14388 (1999); Liu T. et al., J.Biol.Chem. 274: 33539-33544 (1999))。【0005】アポリポ蛋白質E(アポE)にLRP5(リポ蛋白質受容体関連蛋白質)が結合し、肝細胞でLRP5転写物が大量に発現されることに基づき、本発明者らは以前に、食事に由来するコレステロールを運ぶ主要な血漿リポ蛋白質であるアポE含有性カイロミクロンレムナントの肝排泄にLRP5が一定の役割を果たしている可能性を提唱した(Kim D.H. et al., J.Biochem.(Tokyo) 124: 1072-1076 (1998))。LRP5のin vivoでの役割を評価するために、本発明者らは変異型LRP5遺伝子を有するマウスを作製した。まず、マウスLRP5遺伝子のリガンド結合性反復配列をコードするエクソン(エクソン18、補足情報を参照のこと)を破壊するために挿入型ベクターを構築した。LRP5を欠失したマウスの3系統をサザンブロット法によって同定し、LRP5蛋白質が存在しないことを肝抽出物のイムノブロット法によって確認した。野生型(LRP5+/+)、ヘテロ接合型(LRP5+/-)およびホモ接合型(LRP5-/-)のマウスが、単純なメンデル比から予想される頻度で誕生した。LRP6変異マウスでみられる高度の発育障害とは異なり(前述、Pinson K.I. et al. (2000))、LRP5-/-マウスは雌雄とも発育して正常な外観を呈し、体重増加速度もLRP5+/+マウスと同じであった上、正常に繁殖可能であった。LRP5-/-マウス組織の光学顕微鏡検査では、脳、腎臓、肝臓および膵臓などの検査組織に明らかな組織学的異常は認められなかった。【0006】【発明が解決しようとする課題】過去50年間に日本人の病態は急激な変化をとげ、環境要因の欧米化とともに循環器疾患が増加している。すなわち糖代謝異常、脂質代謝異常、肥満、高血圧などが急増している。糖代謝異常の典型でもある糖尿病は、一般的な病気の一つであり、2010年には世界の糖尿病人口は2億3千万人にのぼると推定されている。日本においては、現在約680万人の糖尿病患者が存在し、将来糖尿病を発症する可能性のある予備軍を含めると約1400万人になると推定されている。糖尿病は放置すると失明や腎不全などの重篤な合併症のみならず、脳血管障害、心筋梗塞、高脂血症等の基礎疾患になっている。糖尿病患者の増加に伴い糖尿病関連医療費が膨大になってきており、その根本的な解決は医学的、社会的急務である。【0007】糖尿病は遺伝因子を背景に、様々な環境因子の負荷が複雑に加わり発症する多因子疾患(multifactorial disease)であり、複雑性疾患(complex disease)である。しかしながら、糖尿病の家族歴が濃厚な場合には発症頻度が高くなり、家族歴がない場合には発症頻度が低いことからも、糖尿病の発症に遺伝素因が深く関わっていると考えられている。糖尿病は単一の遺伝子異常により発症するものから複数の遺伝子異常により発症するものまで、その遺伝素因はきわめて複雑である。糖尿病は血糖調節機構の破綻により発症する。血糖調節の根幹を担うインスリンを合成・分泌する膵β細胞、及びインスリンの標的組織(肝臓、筋肉、脂肪細胞)におけるインスリン作用の障害が糖尿病の主要な原因と考えられる。現在までにインスリン分泌に関与するいくつかの候補遺伝子が解析されてきたが、一部の糖尿病を除いて糖尿病遺伝子は依然として不明のままである。日本において見出された膵β細胞機能に関連する糖尿病遺伝子としてはインスリン遺伝子、グルコキナーゼ遺伝子、ミトコンドリア遺伝子があるが、これらの異常が糖尿病全体において占める割合は合計しても2%以下であり、糖尿病遺伝子の本態は未解明である。【0008】また、高脂血症、耐糖能異常などの重積により動脈硬化プラークの形成、さらにプラークの不安定化や破綻により虚血性心疾患や脳血管障害が急速に発症する。高脂血症は血漿中のリポ蛋白質濃度が上昇した状態のことであるが、その原因は、糖尿病や耐糖能異常と同様に高脂血症も肥満、アルコールの過剰摂取、ネフローゼ症候群、糖尿病、または、遺伝素因など多岐にわたり、その詳細な発症機構は不明である。本発明の課題は、糖尿病、高脂血症および耐糖能異常などの発症機構の解明、新たな治療法、予防法を確立することである。【0009】【課題を解決するための手段】本発明者らは、LRP5-/-マウスに高脂肪食を与えると、カイロミクロンレムナントの肝排泄の低下のために血漿中コレステロール濃度が高値を呈することを明らかにした。また、LRP5-/-マウスおよびLRP5+/-マウスでは、正常食を与えた場合にも著明な耐糖能障害が見られた。LRP5-/-マウスの膵島では、イノシトール1,4,5-三リン酸(IP3)の産生低下のためにグルコース刺激による細胞内Ca2+ 動員に障害が観察された。そして、LRP5+/+膵島をWnt-3aに曝露させると、グルコース刺激によるインスリン分泌およびIP3産生が増強された。以上から、LRP5はWnt-3aとともに作用してIP3産生を調節し、それによって膵島からのCa2+ 動員およびインスリン分泌を媒介すると考察された。このようにLRP5には2通りの役割が示され(カイロミクロンレムナントの肝排泄およびグルコース刺激によるインスリン分泌)、その不存により食事誘発性高コレステロール血症および耐糖能異常が誘発されることを見出した。また、Wnt-3aに代えてWnt-5aを用いた実験でも同様の効果が観察された。Wnt-5aのインスリン分泌に対する作用はWnt-3aよりも強力なものであった。【0010】カイロミクロンレムナントの肝排泄およびグルコースによるインスリン分泌の障害は、西洋諸国で頻度の高い2種類の疾患、すなわち食事誘発性高コレステロール血症および2型糖尿病につながる。また、発明者らはWntおよびLRP5がIP3産生増強による細胞内Ca2+ 動員に一定の役割を果たすことも示した。LRP5-/-膵島におけるWnt-3aによるIP3産生障害に基づき、発明者らはLRP5がWntとともに作用して、グルコース刺激によるインスリン分泌などの種々の細胞応答のための経路を刺激すると結論付けた。以上の知見より、Wnt蛋白質を糖尿病、高脂血症または耐糖能異常の治療及び予防に応用できることが想定され、本発明を完成した。【0011】本発明は、Wnt蛋白質またはWnt蛋白質をコードする遺伝子を含むインスリン分泌促進作用、または、脂質代謝改善作用を有する医薬に関する。該医薬は特に糖尿病、高脂血症、または、耐糖能異常を治療または予防において有用である。【0012】また、上述のようにLRP5は生体内において、カイロミクロンレムナントの肝排泄およびWnt-3aとともに作用してIP3産生を調節しグルコース刺激によるインスリン分泌という2つの役を果たす。食事誘発性高コレステロール血症および耐糖能異常がLRP5の不在により誘発されることから、LRP5に対してWnt蛋白質と同様な作用を示すアゴニストは、糖尿病、高脂血症、または、耐糖能異常を治療または予防において有用である。【0013】さらに、LRP6もLRP5と同様にWnt-5aと結合することが知られており(Nature 407: 530-535 (2000))、LRP5とLRP6のアミノ酸配列レベルにおける相同性も約70%と高いため(Biochem.Biophys.Res.Commun. 248: 879-888 (1998))、生体内においてLRP6はLRP5と類似した機能を果たしていると考えられている。従って、LRP6に対してアゴニストの作用を示す化合物も糖尿病、高脂血症、または、耐糖能異常の治療または予防に応用できると予測された。【0014】【発明の実施の形態】本発明のインスリン分泌促進作用、または、脂質代謝改善作用を有する医薬は、Wnt蛋白質またはWnt蛋白質をコードする遺伝子を含むものである。ここで、Wnt蛋白質には、天然より得られる蛋白質および合成された蛋白質が含まれる。Wnt蛋白質、及び、当該蛋白質をコードする遺伝子の配列は公知である(http://www.stanford.edu/%7Ernusse/wntwindow.html参照)。ヒト及びマウスを含む多数のWnt蛋白質が現在公知であり、本発明の医薬において使用することができる。Wnt蛋白質の中でも、特にWnt-3a及びWnt-5aが有用である。【0015】Wnt蛋白質をコードするDNAは公知の配列情報に基づき、例えば、哺乳動物胎児肝臓または胎児脳から調製されたcDNAライブラリーから容易に得ることができる。より具体的には、例えば、cDNAまたはゲノムライブラリーをプローブ(Wnt蛋白質に対する抗体若しくは約20〜80塩基対からなるオリゴヌクレオチド)を用いてスクリーニングする。スクリーニングは例えば、Sambrook et al.の"Molecular Cloning: A Laboratory Manual"(New York, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)第10〜12章に記載の標準的な手法に従って行い得る。また、PCR法(上述のSambrook et al. (1989) 14章)によりWnt蛋白質をコードする遺伝子を単離することも可能である。【0016】Wnt蛋白質を遺伝子組換え技術により製造するためには、WntをコードするDNAを発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーター等の制御のもとで発現可能なように発現ベクターに組込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、蛋白質を発現させる。例えば、哺乳動物細胞を宿主として使用する場合には、例えば、ヒトサイトメガロウイルス前期プロモーター/エンハンサー、ヒトエロンゲーションファクター1α(HEF1α)のプロモーター/エンハンサー(Mizushima et al., Nucleic Acids Res. 18: 5322 (1990))、並びに、レトロウイルス、ポリオーマウイルス、アデノウイルス及びシミアンウイルス40(Mulligan et al., Nature 277: 108 (1979))等由来のプロモーター/エンハンサー等の哺乳動物細胞中で作動する制御配列にWntをコードするDNAを連結し、その3'側下流にポリAシグナルを機能的に結合させた配列を含むベクターを構築する。【0017】その他、宿主として大腸菌等を用いることも可能である。大腸菌を使用する場合には、プロモーター、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列及びWnt蛋白質をコードする遺伝子を機能的に結合し、発現させることができる。例えば、プロモーターとしてはlacZプロモーター(Ward et al., Nature 341: 544-546 (1998); Ward et al., FASEB J. 6: 2422-2427 (1992))、araBプロモーター(Better et al., Science 240: 1041-1043 (1988))等を挙げることができる。【0018】蛋白質を分泌させるためのシグナル配列としては、例えば、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei S.P. et al., J.Bacteriol. 169: 4379 (1987))を使用することができる。複製開始点としては、SV40、ポリオーマウイルス、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス等の由来のものを用い得る。さらに、宿主細胞において、遺伝子コピー数を増幅させるためには、発現ベクターに選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ遺伝子、チミジンキナーゼ遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子等を含むことができる。【0019】Wnt蛋白質を製造するための発現ベクターは、いかなる発現ベクターであってもよいが、例えば、pEF、pCDM8等の哺乳動物由来の発現ベクター、pBacPAK8等の昆虫細胞由来の発現ベクター、pMH1、pMH2等の植物由来の発現ベクター、pHSV、pMV、pAdexLcw、レトロウイルス由来の発現ベクター等の動物ウイルス由来の発現ベクター、pZIpneo等の酵母由来の発現ベクター、pNV11、SP-Q01等の酵母由来の発現ベクター、pPL608、pKTH50等の枯草菌由来の発現ベクター、及び、pQE、pGEAPP、pGEMEAPP、pMALp2等の大腸菌由来の発現ベクターを挙げることができる。【0020】上述のように構築された発現ベクターは、例えば、リン酸カルシウム法(Virology 52: 456-467 (1973))、エレクトポレーション法(EMBO J. 1: 841-845 (1982))等の公知の方法により宿主への導入することができる。【0021】Wnt蛋白質の製造のための産生系としては、任意の産生系を使用し、in vitro及びin vivoの産生系とに分類することができる。in vitroの系としては、真核細胞または原核細胞を使用する系が挙げられる。【0022】真核細胞を使用した産生系としては、動物細胞、植物細胞及び真菌細胞を用いる系が挙げられる。動物細胞としては、例えば、CHO(J.Exp.Med. 108: 945 (1995))、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、HeLa及びVero等の哺乳類細胞、アフリカツメガエル卵母細胞(Valle et al., Nature 291: 358-340 (1981))等の両生類細胞、並びに、sf9、sf21、Tn5等の昆虫細胞が知られている。CHO細胞としては、特に、DHFR遺伝子を欠損したdhfr-CHO(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77: 4216-4220 (1980))やCHO K-1(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 60: 1275 (1968))を好適に使用することができる。真菌細胞としては、サッカロミセス属の酵母、アスペルギルス属の糸状菌等が知られている。原核細胞を使用する場合には、大腸菌や枯草菌等の細菌細胞を用いる系を挙げることができる。【0023】これらの細胞を、Wnt蛋白質をコードする発現ベクターにより形質転換し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより目的の蛋白質を得ることができる。培養は、公知の方法に従って行うことができる。例えば、培養液としてDMEM、MEM、RPMI1640、IMDM等を使用し、FCS等の血清補液を併用してもよい。使用する宿主に応じた培養条件は当業者により適宜設定され得るものである。その際、必要に応じて培地の交換、通気、攪拌を行うことができる。【0024】一方、in vivo産生系としては、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が存在する。Wnt-3aまたはWnt-5a等のWnt蛋白質については、乳汁からの蛋白質の回収が可能となるヤギ(Ebert K.M. et al., Bio/Technology 12: 699-702 (1994))等の哺乳動物や、カイコ(Susumu M. et al., Nature 315: 592-594 (1985))等の昆虫などの動物を使用する産生系が望ましい。これらの動物又は植物に目的とするDNAを導入し、動物又は植物の体内で蛋白質を産生させ回収する。【0025】上述のようにして産生されたWnt蛋白質は、細胞内外、宿主から単離し、実質的に純粋で均一な蛋白質として精製することができる。蛋白質の分離・精製は、通常の蛋白質の精製で使用される手法によって行うことができ、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈澱、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択し、組み合わせて分離・精製を行なうことができる。クロマトグラフィーとしては、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等を挙げることができる("Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual"Ed. Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、例えば、HPLCやFPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行なうことができる。蛋白質の精製前または精製後に適当な蛋白質修飾酵素を作用させ、精製の為など任意に修飾を加えたペプチドを除去することもできる。【0026】本発明において使用されるWnt蛋白質には、また、上記Wnt蛋白質と機能的に同等な蛋白質を包含する。本発明において「機能的に同等」とは、蛋白質がWnt蛋白質と同等の生物学的活性を有することを指す。本発明において示されるように、Wnt蛋白質はLRP5を介した膵β細胞でのIP3の上昇とそれに続く細胞内Ca2+の動員促進、及びそれに伴うインスリン分泌促進と血糖改善作用、脂質代謝改善作用(コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用、HDL-コレステロール上昇作用を含むリポ蛋白質改善作用)を示すものである。従って、このような生物学的活性を有する蛋白質であれば、本発明のWnt蛋白質に包含される。【0027】Wnt蛋白質と機能的に同等な蛋白質を得るための方法としては、蛋白質のアミノ酸配列に変異を導入する方法を用いることができる。例えば、合成オリゴヌクレオチドプライマーを利用した部位特異的変異誘発法により、蛋白質中のアミノ酸配列に所望の変異を導入することができる(Kramer W. and Fritz H.J., Methods in Enzymol. 154: 350-367 (1987))。また、PCRによる部位特異的変異誘発システム(GIBCO-BRL)を使用して、蛋白質中のアミノ酸配列に変異を導入することも可能である。これらの方法により、Wnt蛋白質において、その生物学的活性に影響を与えないよう、1又は複数個のアミノ酸を欠失、付加または置換し、Wnt蛋白質と機能的に同等な蛋白質を得ることができる。また、蛋白質中のアミノ酸変異は、自然界においても生じることがある。本発明には、このように人工的または自然に変異したアミノ酸配列からなる蛋白質が含まれる。このような変異体における、変異するアミノ酸数は通常、10アミノ酸以内であり、好ましくは6アミノ酸以内であり、さらに好ましくは3アミノ酸以内であると考えられる。【0028】1又は複数個のアミノ酸が欠失、付加または置換されたアミノ酸配列を有する蛋白質が、もとの蛋白質の有する生物学的活性を維持することはすでに公知である(Mark D.F. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81: 5662-5666 (1984); Zoller M.J. and Smith M., Nucleic Acids Res. 10: 6487-6500 (1982); Wang A. et al., Science 224: 1431-1433; Dalbadie-McFarland G. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79: 6409-6413 (1982))。アミノ酸が付加された蛋白質の一つとして、例えば、Wnt蛋白質を含む融合蛋白質が挙げられる。融合蛋白質を作製する方法としては、Wnt蛋白質をコードするDNAに他のペプチド又は蛋白質をコードするDNAをフレームが一致するように連結し、発現ベクターへ導入し、該発現ベクターで適当な宿主を形質転換し、宿主を培養することにより該融合蛋白質を発現させる方法を挙げることができる。ここで、Wntと融合される他のペプチドまたは蛋白質は特に限定されない。【0029】上述のようにして得られるWnt蛋白質またはWnt蛋白質をコードする遺伝子はインスリン分泌促進作用、または、脂質代謝改善作用を有する医薬として糖尿病、高脂血症、または、耐糖能異常等の疾病に対して使用し得る。【0030】上述のようにして得られるWnt蛋白質を医薬として使用する場合、当該蛋白質を直接、単独で投与することもできるが、公知の製剤学的方法により製剤化して投与することもできる。例えば、薬剤として一般的に用いられる、PBSの様な中性の溶液に溶解して投与することができる。その他、必要に応じ賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、溶解補助剤等の添加剤を含むことができる。そのような担体を併用することにより、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、注射剤、液剤、カプセル剤、トローチ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤及びシロップ剤等の形態の医薬組成物として調製することができる。【0031】投与量は、患者の体重、年齢、症状の重篤さ、投与方法等の諸要因により変化するが、当業者であれば適宜適当な投与量を選択することができる。投与は、例えば、皮下投与、経口投与等の方法により行なうことができる。例えば、一般的に成人(体重60kgとして)においては、1日あたり約500μgから2〜3mgであると考えられる。【0032】本発明のインスリン分泌促進作用、または、脂質代謝改善作用を有する医薬には、上述のWnt蛋白質に代えてWnt蛋白質をコードする遺伝子を含むものも包含される。ここで、Wnt蛋白質をコードする遺伝子は、DNAやRNA等の核酸によりコードされるものである。このような核酸を含む医薬は、糖尿病、高脂血症、または、耐糖能異常等の疾患の遺伝子治療において用いられるものである。該Wnt-3aまたはWnt-5aをコードする核酸分子を治療薬として用いる場合、該WntをコードするゲノムDNAの全長若しくは一部、またはWnt cDNAの全長若しくは一部を細胞内へ導入する。in vitroでの哺乳動物細胞への核酸の導入方法としては、例えば、リポソーム、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、細胞融合、DEAE-デキストラン、リン酸カルシウム沈澱法等が挙げられる。より好ましいin vivo遺伝子導入技術としては、ウイルス(典型的にはレトロウイルス)ベクターを用いる方法、及び、ウイルスコート蛋白質-リポソーム媒介トランスフェクション(Dzau et al., Trends in Biotechnology 11: 205-210 (1993))等の方法を挙げることができる。【0033】場合によっては、Wnt蛋白質をコードする核酸を標的細胞を標的とするような薬剤、例えば、細胞表面の膜蛋白質若しくは標的細胞に特異的な抗体、または、標的細胞上の受容体のリガンド等と共に投与することが好ましい。リポソームを使用する場合には、エンドサイトーシスに関与する細胞表面の膜蛋白質と結合する蛋白質、例えば、特定の細胞型に屈性のキャプシド蛋白質若しくはその断片、細胞内へ局在化される蛋白質、及び、細胞内の半減期を増幅させる蛋白質等が標的化並びに/または吸収を容易にするために用いられる。受容体を介したエンドサイトーシスを利用した技術は、例えば、Wuら(J.Biol.Chem. 262: 4429-4432 (1987))及びWagnerら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87: 3410-3414 (1990))により記載されている。公知の遺伝子のマーキング法及び遺伝子治療技術については、Andersonら(Science 256: 808-813 (1992))を参照することができる。【0034】本発明において、LRP5及びLRP6は、そのリガンド、アゴニスト、及びアンタゴニストの同定に使用することができる。同定の対象となるこれらの分子は天然由来であっても、人工的に合成された構造的または機能的な模擬物であってもよい。LRP5及びLRP6は、Wnt蛋白質とともに作用して、グルコース刺激によるインスリン分泌などの種々の細胞応答のための経路を刺激するものである。従って、LRP5またはLRP6に対するリガンド、アゴニスト及びアンタゴニストはLRP5またはLRP6を介した活性を促進または阻害する化合物の候補となり、これらの化合物は、LRP5またはLRP6が関連する疾病の予防及び治療用の医薬品として応用できる可能性がある。特に、LRP5またはLRP6に対するアゴニストは糖尿病、高脂血症または耐糖能異常の治療及び予防に有用である。従って、糖尿病、高脂血症または耐糖能異常の治療及び予防のため、LRP5またはLRP6を活性化する化合物の発見が望まれる。【0035】LRP5及びLRP6に対するリガンドの同定は、LRP5またはLRP6と候補化合物とを接触させ、次いで、候補化合物がLRP5またはLRP6と結合するかどうかを検出することにより行い得る。【0036】本発明のLRP5またはLRP6に対するアゴニストの同定においては、LRP5またはLRP6を発現している細胞と候補化合物とを接触させ、候補化合物がLRP5またはLRP6の活性化の指標となるシグナルを発生させるか否かを検出する。このような指標となるシグナルとしては、例えば、細胞内のCa2+、IP3等のレベルの変化、ホスホリパーゼC活性等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。上昇したCa2+レベルは、例えば、TRE(TPA responsive element)またはMRE(multiple responsive element)を上流に有するレポーター遺伝子系、Fura-2、Fluo-3などの染色指示薬そして蛍光蛋白質aequorinなどの変化を指標として検出することができる。また、IP3の定量は例えばIP3結合蛋白質を用いた競合アッセイ、あるいは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いたIP3の分離定量によって行うことができる。ホスホリパーゼC活性の測定方法としては、例えばホスホリパーゼCアッセイ(Martin et al.,J.Biol.Chem.,258,14816-14822(1983))を挙げることができるが、本発明はこれらの方法に限定されるものではない。【0037】LRP5またはLRP6のアンタゴニストの同定においては、候補化合物の存在下でLRP5またはLRP6を発現している細胞と、LRP5またはLRP6に対するアゴニストを接触させ、候補化合物の非存在下で測定を行った場合(コントロール)と比較して、上述のようなLRP5またはLRP6からの活性化の指標となるシグナルが減少するかどうかを検出する。このようなLRP5またはLRP6を活性化するアゴニストの作用を抑制する化合物は、LRP5またはLRP6に対するアンタゴニストの候補となる。このようなアンタゴニストになり得る化合物としては、例えば、抗体、リガンドの断片、LRP5/6と結合するが活性を誘導しない小分子等が挙げられる。【0038】LRP5またはLRP6に対するリガンド、アゴニスト及びアンタゴニストの候補化合物としては、特に制限はなく、例えば、種々の公知化合物やペプチド(例えば、ケミカルファイルに登録されているもの)あるいはファージ・ディスプレー法(J.Mol.Biol. 222: 310-310 (1991))などを応用して作成されたランダム・ペプチド群を用いることができる。また、微生物の培養上清や、植物、海洋生物由来の天然成分などもスクリーニングの対象となる。その他、脳をはじめとする生体組織抽出物、細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、本発明においてWnt蛋白質のうち特にWnt-3a及びWnt-5aがLRP5及びLRP6のアゴニストとしての機能を有していたことから、その他のWnt蛋白質群も有望なスクリーニング対象である。【0039】このスクリーニング系においてLRP5またはLRP6を発現させる宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞を用いることができる。例えば、COS細胞、CHO細胞、HEK293細胞などの哺乳動物細胞、酵母、ショウジョウバエ由来の細胞、または大腸菌等の細菌が挙げられる。発現に用いるベクターとしては、LRP5またはLRP6をコードする遺伝子(例えば、Biochem.Biophys.Res.Commun. 248: 879-888 (1998)参照)の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位および転写終結配列や複製起点等を有するものを好適に用いることができる。例えば、SV40の初期プロモーターを有するpSV2dhfr(Mol.Cell.Biol. 1: 854-864 (1981))、pEF-BOS(Nucleic Acids Res. 18: 5322 (1990))、pCDM8(Nature 329: 840-842 (1987))、pCEP4(Invitrogen)などが有用である。ベクターへのLRP5またはLRP6をコードするDNAの挿入は通常の制限酵素部位を利用したリガーゼ反応等により行うことができる(Current Protocols in Molecular Biology, edit. Ausubel et al. (1987) publish. John Wiley & Sons. Section 11.4〜11.11)。また、宿主細胞へのベクターの導入は例えば、リン酸カルシウム沈澱法、電気パルス穿孔法(Current Protocols in Molecular Biology, edit. Ausubel et al. (1987) publish. John Wiley & Sons. Section 9.1〜9.9)、リポフェクタミン法(GIBCO-BRL)、FuGENE6試薬(Boehringer-Mannheim)、マイクロインジェクション法などの公知の方法により行うことができる。【0040】本発明のアゴニストの同定方法により得られたアゴニストは、Wnt蛋白質と同様にインスリン分泌促進作用、または、脂質代謝改善作用を有する医薬として糖尿病、高脂血症、または、耐糖能異常等の疾病に対して使用し得る。患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射等の公知の方法により行うことができる。投与量は患者の体重、年齢、症状、及び投与方法により変わるものであるが、当業者であれば適切な投与量を適宜選択することができる。また、該アゴニストがポリヌクレオチドによりコードされ得る場合、該アゴニストをコードするDNA等のポリヌクレオチドを遺伝子治療用のベクターに組込み、遺伝子治療において用いることもできる。【0041】細胞内におけるWnt蛋白質、LRP5またはLRP6の発現を増加させることにより、膵β細胞でのIP3レベルの上昇及びCa2+動員を促進させ、最終的にはインスリン分泌の促進、血糖改善作用、脂質代謝改善作用が期待される。従って、Wnt蛋白質、LRP5及びLRP6をコードする遺伝子の発現制御を調節する化合物は、糖尿病、高脂血症、または、耐糖能異常等の疾病の治療及び発症の予防剤として有用である。即ち、本発明は、次の工程:(a)Wnt蛋白質をコードする遺伝子の発現制御領域と、その下流に機能的に結合されたレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と候補化合物を接触させる工程、(b)前記レポーター遺伝子の活性を測定する工程、および(c)対照と比較して、工程(b)におけるレポーター活性を増加または減少させる候補化合物を選択する工程、を含むWnt蛋白質の細胞内における発現を制御する化合物の同定方法、並びに、(a)LRP5またはLRP6をコードする遺伝子の発現制御領域と、その下流に機能的に結合されたレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と候補化合物を接触させる工程、(b)前記レポーター遺伝子の活性を測定する工程、および(c)対照と比較して、工程(b)におけるレポーター活性を増加または減少させる候補化合物を選択する工程を含むLRP5またはLRP6の細胞内における発現を制御する化合物の同定方法に関するものである。【0042】本発明の同定方法のために、Wnt蛋白質、LRP5またはLRP6をコードする遺伝子の制御領域を染色体DNAからクローニングし、本制御領域遺伝子の下流にレポーター遺伝子(例えば、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、GFP(Green Fluorescent Protein)など)を結合させた発現プラスミドを作成する。このような制御領域遺伝子は、ゲノムDNAより公知の方法によってクローニングすることができる。例えば、S1マッピング法が転写開始点の特定方法として公知である(「転写調節領域の単離」および「転写制御因子の同定と精製」「細胞工学 別冊8 新細胞工学実験プロトコール」、東京大学医科学研究所制癌研究部編 秀潤社1993年、第362〜374頁)。一般に当該遺伝子の発現制御領域DNAは、ヒト染色体ライブラリーを、当該遺伝子の5'末端の15〜100bp、好ましくは30〜50bpをプローブDNAとして用いてスクリーニングを行うことによりクローニングされ得る。このようにして得られたクローンはしばしば10kbp以上の当該遺伝子の5'非翻訳領域を包含している。そこで、これらのクローン5'末端をエキソヌクレアーゼ処理などによって短縮化、あるいは断片化する。短縮された発現制御領域を含む配列でレポーター遺伝子の発現の強さや発現の制御についての評価を行うことによって、発現制御領域の活性維持のための最小必要単位を得ることができる。また、遺伝子の発現制御領域をNeural Networkを用いて予測するプログラムも知られている(http://www.fruitfly.org/seq_tools/promoter.html, Reese M.G. et al., "Large scale sequencing specific neural networks for pomoter and splice site recognition", Biocomputing: Proceedings of the 1996 Pacific Symposium, edited by Lawrence Hunter and Terri E. Klein, World Scientific Publishing Co., Singapore, January 2-7, 1996)。あるいは、Promoter Scanのような転写因子結合配列を検索して発現制御領域を予測するプログラムを用い活性の最小単位を予測することも行なわれている(http://biosci.cbs.umn.edu/software/proscan/promoterscan.htm, Prestridge D.S., J.Mol.Biol. 249: 923-932 (1995))。また、予測されたコア部分を中心にdeletion studyを実施することもできる。【0043】このようにして単離された制御領域遺伝子の下流にレポーター遺伝子を機能的に結合させた発現プラスミドを作製し、該発現プラスミドを適当な細胞に導入する。ここで、機能的な結合とは、前記発現制御領域の活性化によって、レポーター遺伝子の転写が開始されるように両者を結合することを意味する。レポーター遺伝子には、前記発現制御領域の活性化を遺伝子の発現として観察することができる蛋白質をコードするものであれば特に限定されない。具体的には、ルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、GFP(Green Fluorescent Protein)などの遺伝子がレポーター遺伝子として一般に用いられる。ベクターを導入する細胞には、例えば、該遺伝子を欠失させた動物細胞を用いることができる。動物細胞だけでなく、動物細胞の場合と同じようにレポーター遺伝子を発現させることができる宿主であれば真核生物・原核生物を問わず用いることができる。【0044】制御領域の転写活性によるレポーター遺伝子の発現は発色あるいは発光などとして検出される。例えば、このような条件下でベクターを導入した細胞を96ウェルマルチプレートに播種し、スクリーニングの対象となる化合物を各ウェルに添加することにより、該遺伝子の発現を抑制あるいは促進する化合物を容易に選択することができる。化合物の選択法としては例えば、レポーター遺伝子としてGFPを用いた場合、薬物を加えない状態および加える場合でのGFPの発光量の比較を行うことが挙げられる。【0045】本願発明の化合物の同定方法の対象となる候補化合物は、特に制限はなく、例えば、種々の公知化合物やペプチド(例えば、ケミカルファイルに登録されているもの)あるいはファージ・ディスプレー法(J.Mol.Biol. 222: 310-310 (1991))などを応用して作成されたランダム・ペプチド群を用いることができる。また、微生物の培養上清や、植物、海洋生物由来の天然成分などもスクリーニングの対象となる。その他、脳をはじめとする生体組織抽出物、細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。【0046】本発明の化合物の同定方法により得られた細胞内においてWnt蛋白質、LRP5またはLRP6の発現を増加させる化合物は、Wnt蛋白質と同様にインスリン分泌促進作用、または、脂質代謝改善作用を有する医薬として糖尿病、高脂血症、または、耐糖能異常等の疾病に対して使用し得る。患者への投与は、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射等の公知の方法により行うことができる。投与量は患者の体重、年齢、症状、及び投与方法により変わるものであるが、当業者であれば適切な投与量を適宜選択することができる。また、該化合物がポリヌクレオチドによりコードされ得る場合、該化合物をコードするDNA等のポリヌクレオチドを遺伝子治療用のベクターに組込み、遺伝子治療において用いることもできる。【0047】【実施例】(1)LRP5-/-マウスの作製マウスLRP5のターゲティング破壊変異型LRP5遺伝子を有するマウスを作出するために、マウスLRP5遺伝子のエクソン17および18を含むゲノムDNA断片からターゲティングベクターを構築した。マウスホスホグリセリン酸キナーゼ-1プロモーターの転写制御下にあるネオマイシン耐性遺伝子(PGK-neo)を、マウスLRP5遺伝子のエクソン18の内部にあるXho I部位に挿入した。陰性選択のために、PGK-neoに隣接する5'-および3'-DNA断片を、ジフテリア毒素A断片(DT-A)を産生するpMCDT-Aプラスミド(Gibco-BRL)中に連結した。TT2胚性幹(ES)細胞のトランスフェクションは標準的な手法を用いて行った。桑実胚凝集法を用いてキメラ雄性マウスを作製し、C57BL/6J雌性マウスと交配させた。生殖系列への伝達が達成された後に、LRP5+/-雌性マウスをC57BL/6J雄性マウスと交配させた。イムノブロット法のためには、マウスLRP5ペプチドに対する抗体(ATLYPPILNPPPSPC)を一次抗体として用いた。抗体結合は化学発光検出用キット(ECL、Amersham Pharmacia Biotech, Inc)を用いて検出した。ターゲティングベクターのトランスフェクションは、TT2胚性幹細胞(Yagi T. et al., Anal.Biochem. 214: 70-76 (1993))を用い、標準的な手法を用いて行った(Abrahamsohn P.A. and Zorn T.M., J.Exp.Zool. 266: 603-628 (1993))。【0048】(2)カイロミクロンレムナントの血漿クリアランスおよび肝摂取率カイロミクロンレムナントはRedgraveおよびMartinの変法(Redgrave T.G. and Martin G., Atherosclerosis 28: 69-80 (1977))(機能的肝除去ラットを使用)によって調製し、Takahashiら(Takahashi S. et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA 89: 9252-9256 (1992))による記載の通りに蛍光脂質(過塩素酸1,1-ジオクタデシル-3,3,3',3'-テトラメチルインドカルボシアニン、DiI)で標識した。マウスには蛍光ラットカイロミクロンレムナント(5μg/匹)を含むリン酸緩衝生理食塩水0.2mlとともに、大腿静脈からの静脈内注射によって高脂肪食を16週間与えた。さまざまな時点で血液標本を採取し、脂質を抽出した後に分光蛍光計を用いて血漿の蛍光を測定した。血漿量が体重の4.4%(v/w)と仮定した上で、血漿中に残存する蛍光量を初期血中濃度に対する比率として表した。最終血液標本の採取後にマウスの全採血を行い、脂質抽出および蛍光測定のために肝臓を摘出した。【0049】(3)LRP5のカイロミクロンレムナント肝排泄における役割アポEを含むカイロミクロンレムナントは、LDL受容体が欠失している家族性高コレステロール血症患者およびワタナベ遺伝性高脂血症ウサギでも正常に排泄されることが知られている(Kita T. et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79: 3623-3627 (1982))。カイロミクロンレムナントの血漿クリアランスに対するLRP5欠損の影響を明らかにするために、発明者らは、上記(1)のようにして作成したLRP5-/-マウスおよびLRP5+/+同腹仔に、高脂肪食を与え、蛍光標識したカイロミクロンレムナントを注射した。上記(2)の方法に従って、カイロミクロレムナントの血漿クリアランス、及び、肝摂取率を測定した。図2cに示す通り、LRP5+/+マウスでは注射したカイロミクロンレムナントの約半分が注射30分後には血漿から消失したが、LRP5-/-マウスの血漿には80%以上が残存していた。LRP5-/-マウスでは排泄遅延に一致して、注射した蛍光物質の肝摂取率も著しく低かった(LRP5+/+の約16%、図2d)。アポEを豊富に含むβ-migrating超低密度リポ蛋白質についても同様の結果が得られた。カイロミクロンレムナント受容体の候補(Rohlmann A. et al., j.Clin.Invest. 101: 689-195 (1998))であるLRP1のmRNAレベルに関して、LRP5+/+およびLRP5-/-マウスとの間に差は認められなかった。発明者らの仮説(Kim D.H. et al., J.Biochem.(Tokyo) 124: 1072-1076 (1998))と一致して、これらのデータは、LRP5がアポE含有リポ蛋白質をin vivoで認識してカイロミクロンレムナントの肝排泄に一定の役割を果たすことを示している。【0050】(4)グルコース代謝に対するLRP欠損の影響ヒトLRP5遺伝子は染色体11q13上のI型糖尿病と関連のある領域(DDM4)に位置するため(Nakagawa Y. et al., Am.J.Hum.Genet. 63: 547-556 (1998))、発明者らは通常の実験動物用飼料を与えたLRP5-/-、LRP5+/-およびLRP5+/+マウスを用いて、グルコース代謝に対するLRP欠損の影響を分析した。マウスを12時間絶食状態においた後、グルコース(体重1kg当たり1g)を腹腔内注射した。グルコース負荷後の指定した時点に血液標本を採取した。血糖値および血漿中インスリン濃度はそれぞれ、グルコースCIIテスト(和光純薬、日本)およびインスリン・ラジオイムノアッセイ(Amersham Pharmacia Biotech, Inc.)キットを用いて測定した。膵島からのインスリン分泌の測定のためには、4〜6カ月齢マウスの膵臓をコラゲナーゼ消化した後に膵島を手作業で選択した。膵島は11.0mMグルコース、1%ペニシリン-ストレプトマイシン、10%ウシ胎仔血清および25mM Hepesを含むRPMI 1640培地(培地A)中で培養した。膵島細胞には、Beckerら(Becker T.C. et al., J.Biol.Chem. 269: 21234-21238 (1994))による手順に従って、LRP5(AdLRP5)(前述、Kim D.H. et al., (1998))またはlacZ(AdLacZ)をコードする組換えアデノウイルスを感染させた。16〜20時間培養した後、分泌試験でのインスリン測定のために膵島をクレブス-リンゲル緩衝液(KRB)に移した。【0051】LRP5-/-およびLRP5+/-マウスにおける空腹時の血糖値およびインスリン値はLRP5+/+同腹仔と同じであるように思われたが、LRP5-/-およびLRP5+/-マウスは腹腔内グルコース負荷試験で著明な耐糖能障害(IGT)を示した(図3a)。この著明な耐糖能障害に一致して、グルコース刺激による血漿中インスリン濃度の上昇の程度はLRP5-/-マウス、LRP5+/-マウスともにLRP5+/+マウスよりもわずかであった(図3b)。LRP5-/-マウスの膵臓内インスリン濃度にはLRP5+/+マウスとの有意差は認められず、LRP5+/+およびLRP5-/-マウス(n=6)でそれぞれ7.07±0.94mU/mg蛋白質および6.40±0.48mU/mg蛋白質であった。腹腔内インスリン投与により、通常食を与えたLRP5-/-マウスにはインスリン抵抗性がみられないが、高脂肪食を与えると中等度のインスリン抵抗性を生じることが明らかになった。LRP5+/-およびLRP5-/-マウスとは異なり、アポE欠損マウスではIGTは認められず、このことからLRP5+/-および-/-マウスにおけるIGTはアポEのLRP5との結合には依存しないことが示された。以上の観察所見は2型糖尿病とかなり一致するものの、LRP5+/-およびLRP5-/-マウスでは6カ月齢の時点までに尿中グルコースは検出されなかった。このため、LRP5-/-マウスに典型的な2型糖尿病を誘発させるには、加齢および肥満などの他の要因が必要と思われた。【0052】グルコース刺激によるインスリン分泌に対するLRP5欠損の影響をさらに明らかにするために、LRP5+/+およびLRP5-/-マウスから膵島を調製し、グルコース刺激によるインスリン分泌を分析した。グルコース負荷試験と一致して、LRP5-/-膵島におけるグルコースによるインスリン分泌応答はLRP5+/+膵島よりも著しく少なく、これは特に高濃度で顕著であった(図3c)。ATP産生にも用いられる10mMケトイソカプロン酸(Ashcrft S.J., Adv.Exp.Med.Biol. 426: 73-80 (1997))とともに膵島をインキュベートしたところ、LRP5-/-マウスの膵島からのインスリン分泌レベルはLRP5+/+マウスの約42%であった。これに対して、細胞をトルブタミドまたはKClとともにインキュベートした場合には、LRP5-/-マウスとLRP5+/+マウスとの間にインスリン分泌レベルの差はみられず、このことから細胞外Ca2+によるインスリン分泌はLRP5-/-マウスの膵島では障害されていないことが示された。【0053】グルコースに対するインスリン分泌応答の障害を改善する目的で、ヒトLRP5をコードする組換えアデノウイルス(AdLRP5)をLRP5-/-膵島に感染させた。図3dに示す通り、LRP5-/-膵島へのAdLRP5の感染により、グルコース刺激によるインスリン分泌はβ-ガラクトシダーゼ(AdLacZ)またはAdLRP5をコードする対照アデノウイルスに感染させたLRP5+/+膵島のレベルへと回復した。【0054】(5)LRP5のグルコース刺激によるIP3産生およびその後のCa2+動員への影響[Ca2+]iの測定のためには、コラーゲンをコーティングしたガラス底のウェル上にて培地A中で膵島を16時間培養し、Katohら(Katoh K. et al., J.Endocrinol. 169: 381-388 (2001))による記載の通りに蛍光性Ca2+指示薬Fluo3/AMを添加した。[Ca2+]iの変化は、40倍対物レンズを装着した共焦点レーザー走査顕微鏡(Axiovert 100、Zeiss)を用いて測定した。IP3の細胞内濃度はIP3ラジオイムノアッセイ用キット(Amersham Pharmacia Biotech, Inc.)を用いて測定した。グルコース刺激によるインスリン分泌の障害と一致して、非感染LRP5-/-膵島ではグルコース刺激による細胞内Ca2+動員も著しく低かった。図4aおよび4bは、AdLacZまたはAdLPR5に感染したLRP5+/+およびLRP5-/-膵島におけるグルコース刺激による細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)上昇(蛍光強度の変化により判定)を示している。AdLacZに感染したLRP5-/-膵島でのグルコース刺激による[Ca2+]i上昇(図4b)は、AdLacZまたはAdLRP5に感染したLRP5+/+膵島よりも著しく少なかった(図4a)。AdlacZに感染したLRP5-/-およびLRP5+/+膵島でのグルコース(2.8mM→20mM)による蛍光強度(任意単位)変化の平均値はそれぞれ29.85±4.04および11.10±1.36であった(n=30、p<0.001)。AdLRP5をLRP5-/-膵島に感染させた場合には、グルコース刺激による[Ca2+]iはほぼ完全に正常レベルに改善された(図4b)。[Ca2+]i上昇に関して、AdLacZまたはAdLRP5に感染したLRP5+/+膵島とAdLRP5に感染したLRP5-/-膵島との間に統計学的有意差は認められなかった。以上のデータは、LRP5-/-膵島ではグルコース刺激によるIP3産生およびその後のCa2+動員が障害されていることを示している。【0055】(6)グルコース刺激によるインスリン分泌におけるWntの関与グルコース刺激によるインスリン分泌におけるWntの関与を明らかにするために、Wnt-3a(W3a-CM)および対照(L-CM)条件培地はShibamotoら(Shibamoto S. et al., Genes Cells 3: 659-670 (1998))に従って調製した。W3a-CMおよびL-CMは使用前にKRBに対して十分に透析した。W3a-CMおよび対照L-CMは、培地A(16時間の曝露の場合)またはKRB(短時間の曝露の場合)で5倍希釈した。LRP5+/+膵島をWnt-3a産生性L-細胞(W3a-CM)による条件培地または対照条件培地(L-CM)で前処理した。図5aに示す通り、W3a-CMでLRP5+/+膵島を16時間前処理したところ、グルコース刺激によるインスリン分泌は著明に増強された。低濃度グルコースでも同様の増強が認められたが、生理的に意味のある程度ではなかった。これに対して、グルコース刺激によるインスリン分泌のW3a-CMによるこの増強は非感染LRP5-/-膵島およびAdLacZに感染したLRP5-/-膵島では認められず、一方、AdLRP5感染によってWnt-3aによるインスリン分泌増強は改善された(図5b)。以上のデータは、グルコース刺激によるインスリン分泌のWnt-3aによる増強がLRP5によって媒介されることを示している。グルコース刺激によるインスリン分泌のWnt-3aによる増強とは対照的に、細胞内インスリン濃度は変化せず、このことからWnt-3aが膵島でのインスリン産生には影響を及ぼさないことが示された。【0056】【発明の効果】本発明は、LRP5の野生型、ノックアウト(ヘテロ体+/-およびホモ体-/-)における糖代謝及び脂質代謝への影響を検討することにより、Wntの作用機序を解明し、Wnt蛋白質がLRP5を介したインスリン分泌作用及び脂質代謝改善作用を有することを発見した。Wnt-3a蛋白質は、LRP5を介した膵β細胞でのIP3の上昇と細胞内Ca2+動員促進、及びそれに伴うインスリン分泌促進と血糖改善作用、脂質代謝改善作用(コレステロール低下作用、中性脂肪低下作用、HDL-コレステロール上昇作用を含むリポ蛋白質改善作用)を示すことを明らかにした。それにより、Wnt蛋白質をインスリン分泌を促進させるため、及び、脂質代謝を改善するための医薬として糖尿病、高脂質症及び耐糖能異常に対して用い得ることを示した。【0057】また、本発明によりWnt-3a及びWnt-5a蛋白質等のWnt蛋白質のように、LRP5/6に対するアゴニストとして作用する物質は、Wnt蛋白質と同様にインスリン分泌を促進させるため、及び、脂質代謝を改善するための医薬として糖尿病、高脂質症及び耐糖能異常に有効であることが示された。【図面の簡単な説明】【図1】 a:ターゲティング手法の概略を示す図である。関係のある制限部位のみを示している。b:LRP5+/+、LRP5-/-およびLRP5+/-マウス由来のHind-III消化DNAのサザンブロット分析の結果を示す写真である。サザンブロット法はaに示したプローブを用いて行った。Hind III消化により、野生型DNAでは18kb断片が得られ、相同組換え体では13kb断片が得られた。典型的なオートラジオグラムを示す。c:LRP5+/+、LRP5+/-およびLRP5-/-マウス肝臓膜画分の、抗マウスLRP5抗体を用いたイムノブロット分析の結果を示す写真である。各レーンには肝ホモジネートから得た粗膜画分500μgをローディングした。【図2】 LRP5-/-および+/-マウスにおける高コレステロール血症の食事誘発性を示すグラフである。a:高脂肪食を与えたマウスにおける血漿中総コレステロール値の変化を示すグラフ及び写真である。LRP5欠損に関してヘテロ接合型(LRP5+/-)およびホモ接合型(LRP5-/-)であるマウス(7〜8週齡)ならびにその野生型同腹仔(LRP5+/+)に高脂肪食を16週間与え、その間、指定した時点に各マウスの血漿中総コレステロール値を測定した。各値はマウス6匹の平均±SEである。* LRP5+/+との比較でp<0.05。b:高脂肪食を16週間与えたLRP5-/-およびLRP5+/+マウスにおける総リポ蛋白質画分から得たアポリポ蛋白質のSDS-PAGEの結果を示す写真である。マウスのプール血漿から総リポ蛋白質画分(d<1.006g/ml)を超遠心によって単離し、脱脂リポ蛋白質をSDS/5〜20%ポリアクリルアミドゲル上での電気泳動にかけた。蛋白質はクーマシーブルーで染色した。典型的な結果の一つを示す。c及びd:注入したカイロミクロンレムナント(CMR)の血漿クリアランス(c)および肝摂取率(d)を示すグラフである。各値はマウス6匹の平均±SEである。* P<0.01;Studentのt検定。【図3】 LRP5変異マウスにおけるグルコース刺激によるインスリン分泌の障害およびAdLRP5による改善を示すグラフである。a及びb:LRP5+/+、+/-および-/-マウスにおけるグルコース注射後の血糖値(a)および血清中インスリン濃度(b)を示すグラフである。c:LRP5-/-マウスの膵島からのインスリン分泌の障害を示すグラフである。インスリン分泌はさまざまな濃度のグルコースか、2.8mMグルコースの存在下で0. 2mMトルブタミド(Tol)、20mM KCl(KCl)または20mMケトイソカプロン酸(KIC)によって誘発させた。d:AdLRP5によるインスリン分泌の改善を示すグラフである。LRP5(AdLRP5)またはlacZ(AdLacZ)をコードする組換えアデノウイルスに感染させたLRP5+/+および-/-マウスから膵島細胞を単離し、さまざまなグルコース濃度でのインスリン分泌を測定した。aおよびbにおける値はマウス6匹の平均±SEであり、cおよびdにおける値は4回行った測定の平均±S.E.である。* P<0.01;Studentのt検定。【図4】 LRP5-/-膵島におけるグルコース刺激による[Ca2+]i上昇およびIP3産生の障害を示すグラフである。aおよびb:LRP5または対照LacZウイルスに感染させたLRP5+/+(a)および-/-(b)膵島におけるグルコース刺激による細胞内Ca2+濃度上昇を蛍光強度の変化により示すグラフである。[Ca2+]iの変化を低グルコース(2.8mM;LG)、高グルコース(20mM;HG)または20mM KCl(KCl)にて測定した。30回の実験による代表的データを示している。cおよびd:LRP5+/+および-/-膵島における20mMグルコースに対するIP3(c)およびcAMP(d)含有量の反応の経時的推移を示すグラフである。4回行った測定の平均±SEである。* P<0.01;Studentのt検定。【図5】 インスリン分泌およびIP3産生に対するWnt-3aの影響を示すグラフである。a:膵島からのインスリン分泌を示すグラフである。5倍希釈したW3a-CMまたは対照L-CMでLRP5+/+膵島を前処理し、その16時間後にグルコース刺激によるインスリン分泌を測定した。b:LRP5-/-膵島からのインスリン分泌はWnt-3aで増強されず、AdLRP5によって改善した。LRP5-/-膵島をAdLRP5またはAdLacZに感染させ、W3a-CMまたは対照L-CMに対して曝露し、その16時間後に16.5mMグルコースの存在下でインスリン分泌を測定した。各値は4回行った測定の平均±SEである。* P<0.01;Studentのt検定。 Wnt蛋白質またはWnt蛋白質をコードする遺伝子を含むインスリン分泌促進作用、または、脂質代謝改善作用を有する医薬。 糖尿病、高脂血症、または、耐糖能異常に対して用いられる、請求項1記載の医薬。 LRP5またはLRP6に対するアゴニストの同定方法であって、(a)LRP5またはLRP6を発現している細胞と候補化合物とを接触させる工程、および(b)候補化合物がLRP5またはLRP6の活性化の指標となるシグナルを発生させるか否かを検出する工程を含む方法。 請求項3記載の方法により同定されるアゴニスト。 Wnt蛋白質の細胞内における発現を制御する化合物の同定方法であって、(a)Wnt蛋白質をコードする遺伝子の発現制御領域と、その下流に機能的に結合されたレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と候補化合物を接触させる工程、(b)前記レポーター遺伝子の活性を測定する工程、および(c)対照と比較して、工程(b)におけるレポーター活性を増加または減少させる候補化合物を選択する工程を含む方法。 LRP5またはLRP6の細胞内における発現を制御する化合物の同定方法であって、(a)LRP5またはLRP6をコードする遺伝子の発現制御領域と、その下流に機能的に結合されたレポーター遺伝子を含むベクターを導入した細胞と候補化合物を接触させる工程、(b)前記レポーター遺伝子の活性を測定する工程、および(c)対照と比較して、工程(b)におけるレポーター活性を増加または減少させる候補化合物を選択する工程を含む方法。 請求項5または6記載の方法により同定される化合物。 【課題】本発明の課題は、糖尿病、高脂血症および耐糖能異常などの発症機構の解明、新たな治療法、予防法を確立することである。【解決手段】本発明は、Wnt蛋白質またはWnt蛋白質をコードする遺伝子を含むインスリン分泌促進作用、または、脂質代謝改善作用を有する医薬に関する。また本発明は、LRP5及び6に対するアゴニストの同定方法、Wnt蛋白質及びLRP5/6の細胞内における発現を制御する化合物の同定方法に関し、これらの方法により同定されるアゴニスト及び化合物は、Wntを含む医薬と同様に特に糖尿病、高脂血症、または、耐糖能異常を治療または予防において有用である。【選択図】 なし