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タイトル:特許公報(B2)_γ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株及び該変異株を用いたγ−ポリグルタミン酸の製造法
出願番号:2002030237
年次:2005
IPC分類:7,C12N15/09,C12N1/20,C12P21/00


特許情報キャッシュ

木村 啓太郎 伊藤 義文 JP 3682435 特許公報(B2) 20050527 2002030237 20020207 γ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株及び該変異株を用いたγ−ポリグルタミン酸の製造法 独立行政法人食品総合研究所 501145295 木村 啓太郎 302001446 伊藤 義文 598035244 久保田 藤郎 100074077 矢野 裕也 100086221 木村 啓太郎 伊藤 義文 20050810 7 C12N15/09 C12N1/20 C12P21/00 C12N1/20 C12R1:125 JP C12N15/00 A C12N1/20 A C12P21/00 C12N1/20 A C12R1:125 7 C12N 15/00-15/90 C12N 1/20 C12P 21/00 C12N 1/20 // C12R 1:125 JSTPlus(JOIS) GenBank/DDBJ/EMBL/Geneseq SwissProt/PIR/Geneseq PubMed 特開平05−304958(JP,A) Bioresour. Technol.,2001年,Vol. 79,207-225 Biosci. Biotech. Biochem.,1997年,Vol. 61 No. 9,1596-1600 Mol. Microbiol.,1993年,Vol. 9 No. 3,487-496 J. Bacteriol.,1996年,Vol. 178 No. 14,4319-4322 Nature,1997年,Vol. 390,249-256 Sonenshein, A. L. et al. edited,Bacillus subtilis and its Closest Relatives,ASM Press,2001年,1st edn,245-254 Appl. Environm. Microbiol.,2001年,Vol. 67 No. 2,1004-1007 Appl. Microbiol. Biotechnol.,2001年,Vol. 57,764-769 Microbiol.,1998年,Vol. 144,3097-3104 3 FERM P-18688 FERM P-18695 FERM P-18687 FERM P-18694 FERM P-18696 2003230384 20030819 25 20020207 田村 明照 【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は、γ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株及び該変異株を用いたγ−ポリグルタミン酸の製造法に関する。【0002】【従来の技術】 従来、納豆菌を含むバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・リケニホルミス(Bacillus licheniformis)等のγ−ポリグルタミン酸生産微生物を用いるγ−ポリグルタミン酸の製造においては、生産されたγ−ポリグルタミン酸が、当該微生物自身が作るγ−ポリグルタミン酸分解酵素によって分解されるため、収量や当該γ−ポリグルタミン酸の分子量が一定しないという問題があった。 ところで、γ−ポリグルタミン酸は納豆の糸引きの主成分であり、γ−ポリグルタミン酸の含量と分子量などの化学構造が納豆の糸引きや粘りを大きく左右する。また、消費者の納豆の粘りに対する要望は様々であり、粘りの強い納豆のニーズも高いが、これまではこれらに十分対応する製品が得られていない。 一方、最近、γ−ポリグルタミン酸に小腸からのカルシウムの吸収を促進する作用があることが発見(Tanimoto H, Mori M, Motoki M, Torii K, Kadowaki M,Noguchi T, Natto mucilage containing poly-gamma-glutamic acid increases soluble calcium in the rat small intestine. Biosci Biotechnol Biochem. 2001 Mar;65(3):516-21. )され、γ−ポリグルタミン酸をカルシウム吸収促進剤として利用することについても検討されている。【0003】【発明が解決しようとする課題】 上記したように、γ−ポリグルタミン酸生産微生物を用いるγ−ポリグルタミン酸の製造法は、生産されたγ−ポリグルタミン酸が分解されるため、その収量が少ないこと、γ−ポリグルタミン酸の分子量分布が広くなること等が避けられず、収量が不安定であることが問題となっていた。【0004】【課題を解決するための手段】 本発明の目的は、γ−ポリグルタミン酸の収量が多く、しかも得られるγ−ポリグルタミン酸の分子量分布が一定の範囲となり、γ−ポリグルタミン酸の安定な生産が可能なγ−ポリグルタミン酸生産微生物を提供すると共に、当該微生物を用いるγ−ポリグルタミン酸の製造法を提供することである。【0005】 本発明者らは、上記の目的を達成すべく、納豆菌のγ−ポリグルタミン酸合成と分解に関する酵素及び遺伝子の生化学的・分子遺伝学的な研究を行ってきた。 その過程で、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ(以下、GGTと略記することもある。)を欠損する変異株がγ−ポリグルタミン酸をエキソ型に分解する活性を失うこと、さらにγ−ポリグルタミン酸をエンド型に分解する新規な酵素(γ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ)の遺伝子を発見し、当該遺伝子をpghAと命名した。 さらに、GGT遺伝子及び/又はpghAの転写・翻訳が正常に行われないように変異を誘起させる方法について検討し、γ−ポリグルタミン酸生産能を有する微生物の変異株を取得する方法を確立した。また、これらの変異株を培養してγ−ポリグルタミン酸を効率よく製造する方法も開発した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。【0006】 すなわち、請求項1記載の本発明は、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子にスペクチノマイシン耐性遺伝子が挿入され、かつγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子にエリスロマイシン耐性遺伝子が挿入されたバチルス・ズブチリスNAF M61株(FERM P−18688)である。 請求項2記載の本発明は、化学的変異処理もしくは物理的変異処理によりγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子及びγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子に変異を誘起したバチルス・ズブチリスNAF M5−005株(FERM P−18695)である。【0007】 請求項3記載の本発明は、請求項1または2に記載のγ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株を培地に培養し、培養物からγ−ポリグルタミン酸を採取することを特徴とするγ−ポリグルタミン酸の製造法である。【0008】【発明の実施の形態】 本発明の請求項1および請求項2に係るγ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株は、γ−ポリグルタミン酸生産微生物において、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子及びγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子が共に変異している微生物である。当該変異株は、γ−ポリグルタミン酸をエキソ型に分解するγ−グルタミルトランスペプチダーゼ及びγ−ポリグルタミン酸をエンド型に分解するγ−ポリグルタミルハイドロラーゼの両者を欠損している。 当該変異株は、エキソ型及びエンド型のγ−ポリグルタミン酸分解酵素活性を持っていないため、γ−ポリグルタミン酸を大量に、かつ安定的に生産することができる。この変異株は、培養物中に分子量が約200万ダルトン(2MDa)のγ−ポリグルタミン酸を蓄積し、その蓄積量は、野性株の最大生産量の10倍に達する。【0009】 本発明者らの知見によると、上記の二重変異株は、最小培地(8%グリセロール、0.7%塩化アンモニウム、1.5%クエン酸ナトリウム、0.05%リン酸水素2カリウム、0.05%硫酸マグネシウム、0.003%塩化第二鉄、0.015%塩化カルシウム、0.01%塩化マンガン、0.5mg/Lビオチンを含む)で1リットル当たり10gのγ−ポリグルタミン酸を蓄積し、栄養培地(GSP培地 グルコース1.5%、L−グルタミン酸1.5%、フィトンペプトン1.5%)では、1リットル当たり30gのγ−ポリグルタミン酸を蓄積する。なお、グリセロールやグルコース等の炭素源は、γ−ポリグルタミン酸の生産を増強する効果があり、その効果は0.5%以上で顕著である。【0010】 次に、γ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株の取得方法について述べる。対象とされる微生物は、γ−ポリグルタミン酸生産能を有するもので、例えば納豆菌を含むバチルス・ズブチリスやバチルス・リケニホルミスなどを挙げることができる。これらの微生物において、上記の酵素遺伝子の転写・翻訳が正常に行われないように、変異を誘起させることによって、目的とする変異株を取得することができる。 納豆生産菌は、2種類のプラスミドを持っており(Nagai et al., Gen. Appl. Microbiol., 43:139-143, 1997)、内因性プラスミドの存在は形質転換体の解析の妨げとなる。そのため、本発明ではこれを除いたNAF M5株を野性型納豆菌として用いている。現在納豆の製造に用いられている代表的な納豆菌は、宮城野菌、高橋菌、成瀬菌であるが、これらは共通の菌株に由来することが分子遺伝学的手法で確認されている(Nagai T., Phan Tran L.S., Inatsu Y., Itoh Y., J. Bacteriol., 182:2387-2392,2000)。【0011】 γ−ポリグルタミン酸分解酵素遺伝子に変異を誘起させる方法としては、当該酵素遺伝子に他の遺伝子や適当な塩基数を有する塩基配列を挿入する方法、当該遺伝子のすべて又は一部を欠損又は欠失させる方法及び化学的又は物理的変異処理によって塩基置換を起こさせる方法が挙げられる。 例えば、他の遺伝子を挿入する場合には、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子及び/又はγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子をクローニングした後、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子のStu I 部位にスペクチノマイシン耐性遺伝子を、γ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子のBcl I 部位にエリスロマイシン耐性遺伝子を挿入することによって、当該分解酵素遺伝子の機能を失った変異株を取得することができる。 さらに、挿入する遺伝子を適宜選択することによって、変異株を取得する際にマーカーとして使用することもできる。また、当該遺伝子内又はプロモーター領域内にマーカー遺伝子の挿入部位を適宜選択することによって、当該遺伝子の機能や発現能を失った変異株を取得することができる。 γ−ポリグルタミン酸分解酵素遺伝子に変異を誘起させる方法としては、上記方法の他に、対象の微生物をエチルメタンスルフォネート(以下、EMSと略記することもある。)やニトロソグアニジンなどの変異誘起化学物質により化学的な変異処理や紫外線や放射線処理などの物理的な変異処理する方法もある。この化学的もしくは物理的な変異処理には、自然変異も含まれる。【0012】 γ−グルタミルトランスペプチダーゼ欠損変異株の取得方法の1例を以下に示す。まず、納豆菌バチルス・ズブチリスの培養上清から精製したγ−ポリグルタミルトランスペプチダーゼのN末端アミノ酸配列をもとにデザインしたオリゴDNAプローブ(配列表の配列番号2)を用いて、λファージで構築したバチルス・ズブチリスのゲノムDNAライブラリー(Sambrook et al., Molecular cloning, 2nd edition, 1989 Cold Spring Harbor Laboratry Press)から、オリゴヌクレオチドECLラベリングディテクションキット(アマーシャム バイオサイエンス社製)や5’末端を32Pで標識する方法(Sambrook et al., Molecular cloning, 2nd edition, 1989 Cold Spring Harbor Laboratry Press)を用いたプラークハイブリダイゼーション法に従ってγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子を選抜する。 このγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子の塩基配列をシークエンサー等の定法で解析したところ、配列表の配列番号3記載の塩基配列及びアミノ酸配列を有していた。【0013】 次に、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子を含むSsp I-Bgl II断片をプラスミドpUC 118 のHinc II-Bam HI部位にクローニングする。 クローニングしたγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子のStu I 部位に、プラスミドpDG 1726 (A. M. Guerout-Fleury, K. Shazard, N. Frandsen and P. Stragier Gene 167:335-336, 1995) から単離したスペクチノマイシン耐性遺伝子を含むEco RV-Hinc II断片を挿入して、該遺伝子を破壊したプラスミドを構築する。 このプラスミドを用いて、定法によりバチルス・ズブチリスを形質転換させ(L. S. P. Tran, T. Nagai and Y. Itoh, Molecular Microbiol., 37(5), 1159-1171, 2000) 、形質転換体を得る。 得られた形質転換体をLB培地にて30〜40℃、好ましくは35〜37℃で12〜24時間、好ましくは18時間培養し(Sambrook et al., Molecular cloning, 2nd edition, 1989 Cold Spring Harbor Laboratry Press)、γ−グルタミルトランスペプチダーゼの酵素活性を指標として、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子欠損変異株を選抜する。【0014】 γ−グルタミルトランスペプチダーゼの酵素活性の測定は、発色基質であるγ−グルタミルパラニトロアニリドの分解を指標として行うことができる。すなわち培養液50mLを遠心分離(6000rpm)して得た培養上清を試料として用い、以下の反応系を調製し、これを37℃で30分間保持した後、反応液の吸光度を波長410nmで測定することによって行う。 ここで、パラニトロアニリドの分子吸光係数を8800として、1分間に1μモルのパラニトロアニリドを遊離する活性を1Uとする。【0015】培養上清 50μL1mM γ−グルタミルパラニトロアニリド 250μL1M トリス塩酸緩衝液 50μL滅菌脱イオン水 200μL (合計 550μL)【0016】 上記のγ−グルタミルトランスペプチダーゼの酵素活性を測定することにより、該酵素の著しく低い又は活性を持たない菌株をγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子欠損変異株として選抜する。【0017】 次に、γ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子欠損変異株の取得方法の1例を以下に示す。まず、γ−グルタミル基を切断する様々な酵素の相同性を比較することによって得られるオリゴDNA−A(配列表の配列番号4)をプローブとして、上記のバチルス・ズブチリスのゲノムDNAライブラリーを検索する。その結果、オリゴDNA−Aと交雑する3つのクローンが得られた。 得られたクローンの塩基配列をシークエンサー等の定法により決定し、DDBJ等のデータベースを利用して既知の塩基配列との相同性を検索した結果、1つのクローンが完全長の新規な遺伝子を含むことが判明した。そこで、この新規な遺伝子をpghA、当該遺伝子によってコードされる酵素をγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼと、それぞれ命名した。 なお、上記の塩基配列において1もしくは数個の塩基が置換、欠失、挿入、付加された、もしくは逆位を含む塩基配列であっても、同様の機能を有する限りγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子に包含される。【0018】 上記によって単離したγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ(pghA)遺伝子のBcl I 部位にプラスミドpDG646(A. M. Guerout-Fleury, K. Shazard, N. Frandsen and P. Stragier Gene 167:335-336, 1995)から単離したエリスロマイシン耐性遺伝子を含むBam HI断片を導入して、当該遺伝子を破壊したプラスミドを構築する。 このプラスミドを用いて、定法によりバチルス・ズブチリスを形質転換し、形質転換体を得る。得られた形質転換体をLB培地にて30〜37℃、好ましくは35〜37℃で12〜24時間、好ましくは18時間培養し、エリスロマイシン耐性とγ−ポリグルタミン酸の分解能を指標に、γ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子欠損変異株を選抜する。【0019】 γ−ポリグルタミン酸の分解能は、以下の方法で測定することができる。 変異処理したバチルス・ズブチリスを最小培地(8%グリセロール、0.7%塩化アンモニウム、1.5%クエン酸ナトリウム、0.05%リン酸水素2カリウム、0.05%硫酸マグネシウム、0.003%塩化第二鉄、0.015%塩化カルシウム、0.01%塩化マンガン、0.5mg/Lビオチン)に接種し、4〜8日間、好ましくは7日間培養する。 培養終了後、培養物について遠心分離(6000rpm)を行い、培養上清を得る。得られた培養上清に、その1/5容の5M食塩水と2倍容のエタノールを加えて、生産されたγ−ポリグルタミン酸を沈殿させる(Nagai et al., J. Gne. Appl. Microbiol. 43, 139-143, 1997)。【0020】 得られたγ−ポリグルタミン酸を400μLのリン酸緩衝液に溶解し、10μLを1%アガロースゲル電気泳動(20V/cm、30分)に供して、分子量で分画する。分画後、メチレンブルー(pH9.5の30%エタノールに溶解)にて、アガロースゲル上に展開したγ−グルタミン酸を染色し、検出する。 γ−ポリグルタミン酸が分解されていれば、低分子化したγ−ポリグルタミン酸の移動度が大きくなることから容易に検出することができる。 電気泳動の結果から、γ−ポリグルタミン酸の分解能が著しく低下している菌株を、γ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子欠損変異株として選抜する。【0021】 また、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子及びγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子が共に変異しているγ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株の取得方法の1例を示すと、前述した遺伝子を破壊したプラスミド2種類を用いて、上記の方法にしたがって形質転換することによって取得することができる。γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子又はγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子の欠損変異株を作成した後に、当該変異株を化学的又は物理的変異処理を行って、選抜することによっても得ることができる。化学的又は物理的手段によって変異処理して取得したγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子又はγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子の欠損変異株を、さらに変異処理して両者の酵素活性を失った変異株を得ることもできる。なお、頻度は極めて低いが、人為的な変異処理を行わずに自然変異で生じた当該酵素欠損株を取得することも可能である。このようにして、選抜した微生物をNAF M61株、NAF M5−005株と命名した。これら菌株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに、それぞれ受託番号FERM P−18688、FERM P−18695として寄託されている。【0022】 化学的もしくは物理的に変異を誘起する処理を行い変異株を取得する方法について、EMSを使用する場合を例として説明すると、納豆菌などのγ−ポリグルタミン酸生産菌の培養物にEMSを加えて変異誘起処理を行う。その後、生理食塩水で希釈した培養液をLB寒天培地などの固形培地に塗布して培養する。次いで、形成したコロニーを単離し、液体培地に接種して培養し、得られた培養物についてγ−グルタミルパラニトロアニリド等の基質を用いて酵素活性を測定し、活性が消失もしくは著しく低下している菌株を選抜する。γ−ポリグルタミン酸の分解活性は、アガロースゲル電気泳動で確かめることができる。このようにして、請求項1及び2に記載の変異株を取得することができる。【0023】 本発明に係る変異株を用いてγ−ポリグルタミン酸を製造するには、当該微生物が良く生育し得る培地に培養し、生産されたγ−ポリグルタミン酸を培養物から採取すればよい。この際に用いる培地としては、グリセロール、グルコース、フルクトース、マンニトール、キシロース、アラビノースなどの当該微生物が好む炭素源を含むものが好適である。培養は、30〜45℃、好ましくは35〜40℃で穏やかな振盪(1分間当たり120〜150回転)条件下で行う。また、グルタミン酸ナトリウムを適宜(0.5〜1.5%)添加することによって、γ−ポリグルタミン酸の生産を増大することができる。【0024】 次に、γ−ポリグルタミン酸の製造例を示す。γ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株を、最小培地(8%グリセロール、0.7%塩化アンモニウム、1.5%クエン酸ナトリウム、0.05%リン酸水素2カリウム、0.05%硫酸マグネシウム、0.003%塩化第二鉄、0.015%塩化カルシウム、0.01%塩化マンガン、0.5mg/Lビオチン)や栄養培地であるGSP培地(1.5%グルコース、1.5%L−グルタミン酸、1.5%フィトペプトン)に接種し、30〜45℃、好ましくは37℃で、60〜160時間、好ましくは140時間培養し、γ−ポリグルタミン酸の蓄積量が最大となった時点で培養を終了することによって、γ−ポリグルタミン酸を大量に生産させることができる。【0025】 本発明のγ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株は、γ−ポリグルタミン酸を分解する酵素が活性を失っているので、生産されたγ−ポリグルタミン酸は分解されない。そのため、γ−ポリグルタミン酸の生産量が向上する上に、特定の分子量のものが得られる。また、当該変異株を用いて納豆を製造すると、糸引きの強い、粘りのある納豆が得られる。 培養物からのγ−ポリグルタミン酸の採取は、1Mとなるように食塩を加えた後、エタノールで沈殿させる等の定法を適用すればよく、これによって、γ−ポリグルタミン酸を大量に、かつ簡便に得ることができる。純度の高いγ−ポリグルタミン酸は、上記エタノール沈殿を繰り返すことや、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCと略記することもある。)によるゲルろ過等の定法の精製法で得ることができる。【0026】 本発明により得られるγ−ポリグルタミン酸は、その機能性に着目して様々な用途に用いることができる。例えば、カルシウム吸収促進剤の他、微生物の培養に使用するバイオフィルム、食品や化粧品等のコーティング剤、水分吸収・保持剤、とろみを付けるための食品添加物等として利用することができる。【0027】【実施例】 以下に本発明を実施例等により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。参考例1(γ−グルタミルトランスペプチダーゼ欠損変異株の取得方法) 納豆菌バチルス・ズブチリス(宮城野株)の培養上清から精製したγ−グルタミルトランスペプチダーゼのN末端アミノ酸配列をもとにデザインしたオリゴDNAプローブ(配列表の配列番号2)を用いて、λファージで構築したバチルス・ズブチリスのゲノムDNAライブラリーからγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子を定法(Sambrook et al., Molecular cloning, 2nd edition, 1989 Cold Spring Harbor Laboratry Press)に従って選抜した。 このγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子の塩基配列をシークエンサー等の定法により解析したところ、配列表の配列番号3記載の塩基配列及びアミノ酸配列を有していた。 次に、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子を含むSsp I-Bgl II断片をプラスミドpUC 118 (Toyobo社製)のHinc II-Bam HI部位にクローニングした。【0028】 クローニングしたγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子のStu I 部位に、プラスミドpDG 1726 (A. M. Guerout-Fleury, K. Shazard, N. Frandsen and P. Stragier Gene 167:335-336, 1995) から単離したスペクチノマイシン耐性遺伝子を含むEco RV-Hinc II断片を挿入して、当該遺伝子を破壊したプラスミドを構築した。 このプラスミドを用いて、バチルス・ズブチリスを形質転換させ(L. S. P. Tran, T. Nagai and Y. Itoh Molecular Microbiol. 37(5), 1159-1171, 2000) 、形質転換体を得た。 得られた形質転換体をLB培地にて37℃で18時間培養し(Sambrook et al., Molecular cloning, 2nd edition, 1989 Cold Spring Harbor Laboratry Press )、γ−グルタミルトランスペプチダーゼの酵素活性を指標として、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子欠損変異株を選抜した。 本菌をバチルス・ズブチリスNAF M13株(FERM P−18687)と命名した。【0029】 γ−ポリグルタミルトランスペプチダーゼの酵素活性の測定は、発色基質であるγ−グルタミルパラニトロアニリドの分解を指標として行った。すなわち、上記の培養液50mLを遠心分離(6000rpm)して得た培養上清を試料として用いて以下の反応系を調製し、これを37℃で30分間保持した後の吸光度を波長410nmで測定することによって行った。結果を表1に示す。 なお、パラニトロアニリドの分子吸光係数を8800として、1分間に1μモルのパラニトロアニリドを遊離する活性を1Uとする。活性の算出には、検量線としてパラニトロアニリドを用い、野生型納豆菌についても、同様にγ−グルタミルトランスペプチダーゼ活性を測定した。【0030】培養上清 50μL1mM γ−グルタミルパラニトロアニリド 250μL1M トリス塩酸緩衝液 50μL滅菌脱イオン水 200μL (合計 550μL)【0031】参考例2(γ−グルタミルトランスペプチダーゼ欠損変異株の取得方法) 納豆菌バチルス・ズブチリスをLB培地2mL(Sambrook et al., Molecular cloning, 2nd edition, 1989 Cold Spring Harbor Laboratry Press)にて37℃で5時間培養した後、EMS(SIGMA 社製)を2%(v/v)となるように加え、さらに15分間振盪培養し、変異誘起処理を行った。 変異誘起処理した後、生理食塩水で1万分の1となるように希釈した培養液を、LB寒天培地(Sambrook et al., Molecular cloning, 2nd edition, 1989 Cold Spring Harbor Laboratry Press)に塗布し、これを37℃で一夜培養した。 培養終了後、LB寒天培地上に形成したコロニーを単離し、2mLのLB培地に接種し、これを37℃で14時間培養した。培養物から遠心分離(6000rpm)により菌体を除去することによって得た培養上清について、参考例1と同様に、γ−グルタミルパラニトロアニリドを基質に用いて、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ活性を測定した。結果を表1に示す。酵素活性が消失もしくは著しく低下している菌株を選抜し、この変異株をバチルス・ズブチリスNAF M5−001株(FERM P−18694)と命名した。【0032】【表1】 表1【0033】 表1から明らかなように、参考例1、2によって得られたγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子に変異を導入して得た変異株は、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ活性が検出限界以下である。このことから、いずれの変異誘起方法においても、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子に変異を誘起できることが示された。【0034】参考例3(γ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子の調製) γ−ポリグルタミル基を切断する様々な酵素の相同性の比較を行い、配列表の配列番号4のオリゴDNAを含む数種類のオリゴDNAプライマーを作成し、参考例1のバチルス・ズブチリスゲノムDNAライブラリーを検索した。 その結果、配列表の配列番号4のオリゴDNA−Aプローブと交雑する3つのクローンが得られた。 得られたクローンについて、ダイターミネータサイクルシークエンスキット(ABI社製)を用いて塩基配列(配列表の配列番号1)を決定し、これをもとにDDBJのデータベースにて塩基配列の相同性を比較した結果、このものは新規な機能を有する遺伝子であることが判明した。そこで、この遺伝子をpghA遺伝子と名づけ、当該遺伝子によってコードされる酵素をγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼと命名した。【0035】参考例4(γ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ欠損変異株の取得方法) 参考例3で調製したγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ(pghA)遺伝子のBcl I 部位にプラスミドpDG 646 (A. M. Guerout-Fleury, K. Shazard,N. Frandsen and P. Stragier Gene 167:335-336, 1995) から単離したエリスロマイシン耐性遺伝子を含むBam HI断片を導入して、当該遺伝子を破壊したプラスミドを構築した。 このプラスミドで納豆菌バチルス・ズブチリスを定法により形質転換し、エリスロマイシン耐性とγ−ポリグルタミン酸分解能を指標に、γ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ欠損変異株を取得した。 すなわち、形質転換したバチルス・ズブチリスをエリスロマイシン1μg/mlを添加したLB培地にて37℃で18時間培養した。その結果、培地上にコロニーを形成した菌株をエリスロマイシン耐性菌株として選抜した。【0036】 続いて、エリスロマイシン耐性菌株について、γ−ポリグルタミン酸の分解能を以下の方法で測定した。まず、当該変異納豆菌バチルス・ズブチリスを最小培地(8%グリセロール、0.7%塩化アンモニウム、1.5%クエン酸ナトリウム、0.05%リン酸水素2カリウム、0.05%硫酸マグネシウム、0.003%塩化第二鉄、0.015%塩化カルシウム、0.01%塩化マンガン、0.5mg/Lビオチン)2mLに接種し、7日間培養した。 培養後、遠心分離(6000rpm)を行い、培養上清を得た。こうして得た培養上清に、培養上清の1/5容の5M食塩水と2倍容のエタノールを加え、生産されたγ−ポリグルタミン酸を沈殿させた(Nagai et al., J. Gne. Appl. Microbiol. 43, 139-143, 1997)。【0037】 得られたγ−ポリグルタミン酸を400μLのリン酸緩衝液に溶解し、10μLを1%アガロースゲル電気泳動(20V/cm、30分)に供する。泳動動、メチレンブルー(pH9.5の30%エタノールに溶解)にて、アガロースゲル上に展開したγ−グルタミン酸を染色し、検出した。 電気泳動の結果から、γ−ポリグルタミン酸の分解能が著しく低下している菌株を、γ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子欠損変異株として選抜し、これをバチルス・ズブチリスNAF M60株(FERM P−18696)と命名した。 また、参考例2と同様にEMSを用いて変異誘起処理を行って得た変異株についても、同様の結果が得られた。【0038】実施例1(γ−グルタミルトランスペプチダーゼ及びγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子欠損変異株の取得方法) γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子及びγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子の両者を欠損している変異株を、参考例1、3で調製した遺伝子を破壊したプラスミド2種類を用いて、納豆菌バチルス・ズブチリスを定法に従って形質転換することによって得た。また、参考例2と同様に、EMSによって変異処理して得た欠損変異株についても、同様に以下の操作を行った。 得られた形質転換体について、参考例1と同様に発色基質パラニトロアニリド分解活性を指標としてγ−グルタミルトランスペプチダーゼを、また参考例4と同様にアガロースゲル電気泳動によるγ−ポリグルタミン酸の分解能を指標としてγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼの有無を判定することによって目的とする変異株を選抜した。このようにして、二重変異株NAF M61株(FERM P−18688)及びNAF M5−005株(FERM P−18695)を得た。結果を表2に示す。図1は、アガロースゲル電気泳動を行った電気泳動像を示したものである。【0039】【表2】 表2【0040】 この結果、実施例1で得られた欠損変異株は、参考例1、2で得られた欠損変異株と同様に、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ活性を測定して得られた結果から、酵素活性が検出限界以下であることが明らかとなった。また、アガロースゲル電気泳動の結果から、γ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼの活性が失われていることが明らかとなった。これらのことから、本発明の方法によって二重変異株が取得できることが分かった。【0041】実施例2(γ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株を用いたγ−ポリグルタミン酸の大量生産) 実施例1で得たγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子及びγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子欠損変異株を、前記最小培地あるいはGSP培地100mLに接種し、37℃で2〜7日間培養した。なお、比較のため野生型納豆菌及び参考例1で得たγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子欠損変異株についても、同様に試験を行った。 培養終了後、菌体を遠心分離(6000rpm)によって除去し、培養上清を得た。得られた培養上清に、2倍容のエタノールを加えてγ−ポリグルタミン酸を沈殿させた後、遠心分離(12000rpm)によって回収した。このエタノールによる沈殿操作を2回繰り返したのち、定法により減圧乾燥を行ってγ−ポリグルタミン酸を得た。【0042】 上記のγ−ポリグルタミン酸について、抗γ−ポリグルタミン酸(PGA)血清を用いた2次元免疫電気泳動法(Uchida et al., Mol. Microbiol., 9:487-496, 1993)を行い、分子量分布の分析を行った。2次元免疫電気泳動法において、1次元目は1.2%アガロースゲル、2次元目は10%(v/v)の抗γ−PGA血清(Uchida et al., Mol. Microbiol., 9:487-496, 1993)を含む1.2%アガロースゲルを用いて電気泳動を行った。 電気泳動終了後、アガロースゲルを生理食塩水で洗浄した後、アミドブラックで染色し、泳動像を分析して培養期間中のγ−ポリグルタミン酸の分子量の変化を検討した。図2は、2次元免疫電気泳動終了後のγ−ポリグルタミン酸の泳動像である。 また、精製したγ−ポリグルタミン酸を試料としてHPLCに供し、生産されたγ−ポリグルタミン酸の濃度と分子量を求めた(Nagai et al., J. Gne. Appl.Microbiol. 43, 139-143, 1997) 。HPLCで用いたカラムはAsahipack GAF-7M(昭和電工社製)であり、溶媒(50mM リン酸ナトリウム、100mM 硫酸ナトリウム、pH6.8)、流速0.6ml/分の条件で実施した。【0043】 野生型納豆菌を用いて生産されたγ−ポリグルタミン酸は、当該納豆菌によって産生されるγ−ポリグルタミン酸分解酵素(γ−グルタミルトランスペプチダーゼ及びγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ)により分解されるため、得られるγ−ポリグルタミン酸量は極めて少ないだけでなく、最終的にはグルタミン酸にまで完全に分解されてしまうことが明らかとなった。 また、参考例1で得たγ−グルタミルトランスペプチダーゼ欠損変異株NAF M13(FERM P−18687)によって生産されるγ−ポリグルタミン酸は、γ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ活性の影響を受けて分解し、平均分子量が10万ダルトン(0.1MDa)のγ−ポリグルタミン酸となることが明らかとなった。【0044】 実施例1で得たγ−グルタミルトランスペプチダーゼ及びγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子の欠損変異株NAF M61株(FERM P−18688)及びNAF M5−005株(FERM P−18695)によって生産されるγ−ポリグルタミン酸は、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ及びγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼの両酵素活性が殆ど残存していないため、平均分子量が200万ダルトン(2MDa)のγ−ポリグルタミン酸が蓄積していることが明らかとなった。 これに対して、γ−グルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子欠損変異株によって生産されるγ−ポリグルタミン酸は、γ−グルタミルトランスペプチダーゼの酵素活性が残存しているため、分子量が500万ダルトン(5MDa)から5000ダルトン(5kDa)という広い範囲に分布していることが分かった。【0045】 図2から明らかなように、野生型納豆菌では、培養期間を通してγ−ポリグルタミン酸の蓄積量は少なく、培養期間が長くなるほど、γ−ポリグルタミン酸が分解されて分子量が小さくなる傾向であった。 また、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子欠損変異株では、培養2日目には、500万ダルトン(5MDa)のγ−ポリグルタミン酸が生産されているが、培養7日目になると、10万ダルトン(0.1MDa)のものが平均となり、かつ生産量も野生型納豆菌に比べ、大量に蓄積することが判明した。 さらに、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子及びγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子欠損変異株では、培養7日目には分子量が500万ダルトン(5MDa)のγ−ポリグルタミン酸が存在し、平均分子量が200万ダルトン(2MDa)を示している。このことから、野生型納豆菌やγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子欠損変異株と比べて、分子量の大きいγ−ポリグルタミン酸が大量に得られることが明らかとなった。【0046】参考例5(γ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株の変異遺伝子の同定法) 参考例1〜4で得られたγ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株が、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子、γ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子の変異に起因することを、当該遺伝子を使った相補性試験で確認した。 すなわち、参考例1で調製したバチルス・ズブチリスのγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子(Ssp I-Bgl II断片)及び参考例3で調製したγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子(Hind III断片)を、pDG 1662等のインテグレーション用プラスミドベクターに常法によりクローニングし、プラスミド(図3)を得た。【0047】 このプラスミドを用いて、γ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株のアミラーゼ遺伝子(amyE)座位に定法(Anne-Marie et al., Gene, 180:57-61, 1996)を用いて組み込み、形質転換したバチルス・ズブチリスを得た。 こうして得た形質転換体のバチルス・ズブチリスのγ−ポリグルタミン酸の分解能を評価することによって、γ−ポリグルタミン酸分解酵素の欠損が、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子あるいはγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子の変異を原因とすることを判定する。【0048】 γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子欠損変異株の相補性試験は、参考例1と同様に培養して得た培養上清について、γ−グルタミルパラニトロアニリドの分解を指標として、γ−グルタミルトランスペプチダーゼの活性を測定することにより行った。このとき、形質転換株の当該酵素活性が、野生型納豆菌と同等のレベルに回復している場合、当該変異はγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子の変異であることが証明できる。【0049】 次に、γ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子欠損変異の相補性試験は、参考例3と同様に、エタノール沈殿させたγ−ポリグルタミン酸についてアガロースゲル電気泳動法により行った。アガロースゲル電気泳動を行って得た泳動像において、野生型納豆菌と同等にγ−ポリグルタミン酸が分解されていれば、当該変異がγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子に由来することが証明できる。【0050】 また、相補性試験は、pHB 201(Bacillus genetic stock center Ohio, U.S.A)等の大腸菌−納豆菌シャトルベクターを用いても行った。プラスミドpHB 201 のマルチクローニングサイトに、納豆菌のγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子(Ssp I-Bgl II断片)及びγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子(Hind III断片)を定法によりクローニングし、これを用いて大腸菌DH5α株を形質転換し、該大腸菌をLB培地で18時間培養することによって該プラスミドを増殖させた。【0051】 増殖させた該プラスミドを用いて、γ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株を形質転換した。すなわち、この操作により、γ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株にγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子及びγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子を再度導入することとなる。 これによってγ−ポリグルタミン酸の分解活性が野生型納豆菌の分解レベルと同等であれば、γ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株の変異はγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子あるいはγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子の変異であると特定できる。【0052】 以上の相補性試験の結果、いずれの場合もγ−ポリグルタミン酸の分解能は野生型納豆菌と同等のレベルに回復していたことから、本発明のγ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株におけるγ−ポリグルタミン酸の生産量の増大は、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子あるいはγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子の変異に起因するものであることが判明した。【0053】【発明の効果】 本発明に係るγ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株は、大量のγ−ポリグルタミン酸を安定的に生産することができる。しかも、糸引きが強く、粘りのあるため、納豆の製造に利用することができる。 本発明で開発された変異株は、γ−ポリグルタミン酸分解酵素活性を失っているため、当該微生物によって生産されたγ−ポリグルタミン酸は分解されない。従って、本発明の変異株を用いることによって、収量の安定したγ−ポリグルタミン酸の生産が可能となる。さらに、γ−ポリグルタミン酸が分解されないために、大幅な収量の増大も達成できる。また、平均分子量が2MDaのγ−ポリグルタミン酸が得られるので、その性質に応じた用途に使用することができる。【0054】 γ−ポリグルタミン酸は、バイオフィルム、食品や化粧品等に使用するコーティング剤、水分吸収・保持剤、とろみを付けるための食品添加剤等の既知の用途の他に、カルシウム吸収促進作用等の機能性が着目されており、本発明は、かかる用途に関係する商品の開発に大きな効果をもたらすことが期待される。【0055】【配列表】【図面の簡単な説明】【図1】 アガロースゲル電気泳動終了後のγ−ポリグルタミン酸の泳動像を示したものである。図中、Aはγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子及びγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子の欠損変異株の培養液から精製したγ−ポリグルタミン酸試料(10μL)を、Bはγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子欠損変異株の培養液から精製したγ−ポリグルタミン酸試料(10μL)を、Cは野生型納豆菌の培養液から精製したγ−ポリグルタミン酸試料(10μL)を、それぞれ表す。【図2】 2次元免疫電気泳動終了後のγ−ポリグルタミン酸の泳動像を示したものである。図中、Aは野生型納豆菌の培養物から得たγ−ポリグルタミン酸を、Bはγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子欠損変異株の培養物から得たγ−ポリグルタミン酸を、Cはγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子及びγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子欠損変異株の培養物から得たγ−ポリグルタミン酸を、それぞれ表す。【図3】 相補性試験に用いるアミラーゼ遺伝子(amyE)座位インテグレーション用ベクターの模式図である。 γ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子にスペクチノマイシン耐性遺伝子が挿入され、かつγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子にエリスロマイシン耐性遺伝子が挿入されたバチルス・ズブチリスNAF M61株(FERM P−18688)。 化学的変異処理もしくは物理的変異処理によりγ−グルタミルトランスペプチダーゼ遺伝子及びγ−ポリグルタミン酸ハイドロラーゼ遺伝子に変異を誘起したバチルス・ズブチリスNAF M5−005株(FERM P−18695)。 請求項1または2に記載のγ−ポリグルタミン酸分解酵素欠損変異株を培地に培養し、培養物からγ−ポリグルタミン酸を採取することを特徴とするγ−ポリグルタミン酸の製造法。


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