生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_JCウイルスagnoを対象としたPMLの治療
出願番号:2001356836
年次:2011
IPC分類:C12N 7/00,A61K 31/7088,A61K 39/395,A61P 25/28,A61P 31/12,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

長嶋 和郎 澤 洋文 岡田 由紀 JP 4840792 特許公報(B2) 20111014 2001356836 20011122 JCウイルスagnoを対象としたPMLの治療 独立行政法人科学技術振興機構 503360115 佐伯 憲生 100102668 佐伯 裕子 100147289 長嶋 和郎 澤 洋文 岡田 由紀 20111221 C12N 7/00 20060101AFI20111201BHJP A61K 31/7088 20060101ALI20111201BHJP A61K 39/395 20060101ALI20111201BHJP A61P 25/28 20060101ALI20111201BHJP A61P 31/12 20060101ALI20111201BHJP C12N 15/09 20060101ALI20111201BHJP JPC12N7/00A61K31/7088A61K39/395 SA61P25/28A61P31/12C12N15/00 A JSTPlus(JDream2) PubMed BIOSIS/WPI(DIALOG) 医学のあゆみ、Vol.194、No.12、2000、p.921〜924 病態生理、Vol.7、No.7、1988、p.575〜576 日本病理学会会誌、Vol.90、No.1、2001、p.349(P3−9−19) JOURNAL OF VIROLOGY、Vol.74、No.4、2000、p.1840〜1853 4 2003160510 20030603 11 20021212 2008000594 20080110 内田 淳子 平井 裕彰 穴吹 智子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、JCウイルスagno遺伝子を対象としたPMLの治療、及び該治療に使用する医薬組成物等に関する。【0002】【従来の技術】ヒト進行性多巣性白質脳症(Progressive Multifocal Leukoencephalopathy: PML)はJCウイルスの感染によって惹起される脱髄性疾患である。JCウイルスはポリオーマウイルス属に属する2本鎖環状DNAウイルスであり、通常は70%以上の健常人の尿路系に不顕性感染しているが、宿主が免疫不全状態に陥ると脳に移行し、オリゴデンドログリアに感染して増殖することで致死的な脱髄を起こす。【0003】【発明が解決しようとする課題】従来PMLは比較的稀な疾患であったが、Acquired immunodeficiency syndrome (AIDS)患者の増加や骨髄・臓器移植治療の導入に伴って近年増加傾向にある。特に移植治療においては、患者が極度の免疫抑制状態に曝されることは不可避であり、PMLのコントロールが移植治療の成否に大きく影響すると考えられる。このような現状にも関わらず、これまでPMLの治療に用いられてきたDNA合成阻害剤であるcytosine arabinoside (Ara-C) やinterferon βはいずれもその効果が明らかでなく、現在の段階では未だ有効な治療法が確立されていない。【0004】【課題を解決するための手段】本発明者らは、JCウイルスのグリア細胞特異的感染機構の解明とウイルス脳症の治療法の確立を目指して研究した結果、本明細書中の実施例で示されるように、JCウイルスがコードする機能未知の遺伝子agnoの解析を通じて、agno遺伝子に変異を有しAgno蛋白を発現できないJCウイルスはその増殖が著しく遅延することを見出し、本発明を完成させた。【0005】即ち、アンチセンスオリゴやRNAi等の遺伝子工学的手法を用いてagno遺伝子の発現を人為的に制御する、もしくは抗Agno抗体を用いてAgno蛋白の機能を阻害することはJCウイルスの増殖を抑制し、ひいてはPMLの治療法開発に貢献すると予想される。【0006】従って、本発明は以下の態様に係るものである。1.JCウイルスagno遺伝子の発現を阻害することから成る、JCウイルス感染細胞における該ウイルスの増殖を抑制する方法。2.JCウイルスagno遺伝子の発現を阻害することから成る、JCウイルス感染細胞の癌化を抑制する方法。3.JCウイルスagno遺伝子の発現を阻害することから成る、進行性多巣性白質脳症を治療する方法。4.JCウイルスagno遺伝子の発現を阻害することから成る、ヒト進行性多巣性白質脳症を治療する方法。5.JCウイルスagno遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチドをJCウイルス感染細胞に導入し、該遺伝子の発現を阻害することから成る、上記1ないし4のいずれか一項に記載の方法。6.JCウイルスagno遺伝子に相補的なRNA断片をJCウイルス感染細胞に導入し、該遺伝子の発現を阻害することから成る、上記1ないし4のいずれか一項に記載の方法。7.抗agno蛋白質抗体をJCウイルス感染細胞に導入し、該抗体をagno蛋白質と結合させることから成る、JCウイルス感染細胞における該ウイルスの増殖を抑制する方法。8.抗agno蛋白質抗体をJCウイルス感染細胞に導入し、該抗体がagno蛋白質と結合させることから成る、JCウイルス感染細胞の癌化を抑制する方法。9.抗agno蛋白質抗体をJCウイルス感染細胞に導入し、該抗体がagno蛋白質と結合させることから成る、進行性多巣性白質脳症を治療する方法。10.抗agno蛋白質抗体をJCウイルス感染細胞に導入し、該抗体がagno蛋白質と結合させることから成る、ヒト進行性多巣性白質脳症を治療する方法。11.抗agno蛋白質抗体がポリクローナル抗体であることを特徴とする、上記7ないし10のいずれか一項に記載の方法。12.抗agno蛋白質抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする、上記7ないし10のいずれか一項に記載の方法。13.JCウイルスagno遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチドから成る、JCウイルスagno遺伝子の発現阻害剤。14.JCウイルスagno遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチドを活性成分として含有する、医薬品組成物。15.JCウイルスagno遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチドを活性成分として含有する、ヒト進行性多巣性白質脳症治療用医薬品組成物。16.JCウイルスagno遺伝子に相補的なRNA断片から成る、JCウイルスagno遺伝子の発現阻害剤。17.JCウイルスagno遺伝子に相補的なRNA断片を活性成分として含有する、医薬品組成物。18.JCウイルスagno遺伝子に相補的なRNA断片を活性成分として含有する、ヒト進行性多巣性白質脳症治療用医薬品組成物。19.抗agno蛋白質抗体から成る、JCウイルスの増殖抑制剤。20.抗agno蛋白質抗体がポリクローナル抗体であることを特徴とする、上記19に記載の増殖抑制剤。21.抗agno蛋白質抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする、上記19に記載の増殖抑制剤。22.抗agno蛋白質抗体から成る、JCウイルス感染細胞の癌化抑制剤。23.抗agno蛋白質抗体がポリクローナル抗体であることを特徴とする、上記22に記載の癌化抑制剤。24.抗agno蛋白質抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする、上記22に記載の癌化抑制剤。25.抗agno蛋白質抗体を活性成分として含有する、医薬品組成物。26.抗agno蛋白質抗体を活性成分として含有する、ヒト進行性多巣性白質脳症治療用医薬品組成物。27.抗agno蛋白質抗体がポリクローナル抗体であることを特徴とする、上記25又は26に記載の医薬品組成物。28.抗agno蛋白質抗体がモノクローナル抗体であることを特徴とする、上記25又は26に記載の医薬品組成物。【0007】【発明の実施の形態】上記の本発明に係る各方法における感染細胞には、ヒト及び非ヒト動物、例えば、哺乳動物由来の細胞が含まれる。更に、本発明の治療方法の対象は、進行性多巣性白質脳症、特に、ヒト進行性多巣性白質脳症である。【0008】本発明方法においては、JCウイルスagno遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、又は該遺伝子に相補的なRNA断片をJCウイルス感染細胞に導入し、導入されたこれらのアンチセンスオリゴヌクレオチド又はRNA断片がJCウイルスagno遺伝子から転写されたmRNAと相補的に結合することによって該遺伝子の発現を阻害することにより、又は、抗agno蛋白質抗体をJCウイルス感染細胞に導入し、該抗体をagno蛋白質と結合させることにより、JCウイルス感染細胞における該ウイルスの増殖を抑制し、JCウイルス感染細胞の癌化を抑制し、更には、進行性多巣性白質脳症を治療することが出来る。【0009】このようなアンチセンスオリゴヌクレオチド、RNA断片、又は抗agno蛋白質抗体の導入は当業者に公知の任意の手段で実施することが可能である。例えば、リポフェクション、エレクトロポレーション等の方法によってJCウイルス感染細胞に導入することが出来る。特に、JCウイルスの外殻蛋白をベクターとして用いると、疾患部位にアンチセンスオリゴヌクレオチド等が効率良く導入される。アンチセンスオリゴヌクレオチド、RNA断片、又は抗agno蛋白質抗体をJCウイルス感染細胞に導入する時期、及びそれらの導入量等は、治療対象の性別、年齢、体重、及び病態等の各種条件に応じて、当業者が適宜選択して決定することが可能である。【0010】本発明は、又、JCウイルスagno遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチド又は該遺伝子に相補的なRNA断片から成る、JCウイルスagno遺伝子の発現阻害剤、これらを活性成分として含有する医薬品組成物、特に、ヒト進行性多巣性白質脳症治療用医薬品組成物に係る。これらの発現阻害剤又は医薬組成物を使用して、上記の本発明方法を実施することが出来る。【0011】JCウイルスagno遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド又は該遺伝子に相補的なRNA断片は、配列番号1で示される塩基配列に基づいて、当業者であれば当該技術分野における周知技術を用いて、化学合成又はPCR反応等を利用して容易に調製することができる。アンチセンスオリゴヌクレオチドとしては、配列番号1で示されるJCウイルスagno遺伝子をコードする塩基配列の全長に対応するものである必要はなく、より短かい長さの塩基配列を有するものであり得る。また、該遺伝子に相補的なRNA断片の有する塩基数に特に制限はないが、例えば、15〜30塩基、好ましくは、約25個の塩基数を有し、例えば、配列番号1で示されるJCウイルスagno遺伝子をコードする塩基配列の5’末端部位に相補的なものを挙げることができる。【0012】更に、抗agno蛋白質抗体から成るJCウイルスの増殖抑制剤及びJCウイルス感染細胞の癌化抑制剤、並びに、抗agno蛋白質抗体を活性成分として含有する、特に、ヒト進行性多巣性白質脳症治療用医薬品組成物に係る。該抗体はポリクローナル又はモノクロールであり得、いずれも当該技術分野における周知の技術を用いて容易に調製することが出来る。例えば、JCウイルスagno蛋白質を免疫源としてマウス、ラット等の動物に注射することによって、ポリクローナルな抗agno蛋白質抗体を調製することが出来る。又は、これら免疫動物の脾臓細胞を使用した細胞融合技術を用いて、各モノクローナル抗体を調製することも可能である。更に、遺伝子組み換え技術を利用して、ヒトに投与した場合に拒絶反応が起きないような各種キメラ抗体、例えば、抗原と反応する抗原決定基又は可変部以外をヒト型としたヒト化抗体を作成することも可能である。これらの各種剤又は医薬組成物を使用して、上記の本発明方法を実施することが出来る。尚、JCウイルス感染細胞に導入する時期、及びそれらの導入量等は、治療対象の性別、年齢、体重、及び病態等の各種条件に応じて、当業者が適宜選択して決定することが可能である。【0013】上記の各種薬剤及び医薬組成物には、当該技術分野において周知の、薬学上許容可能なその他の任意の成分、例えば、各種補助剤、助剤、及他の活性成分が含まれていても良く、固形、溶液状、乳化状、ゲル状、ゾル状、粉末状、及び粒状等の任意の製薬形態をとることが出来る。活性成分及びその他の各成分の含有量、配合割合、及び使用量、投与量、投与間隔等は、使用目的、治療対象の性別、年齢、体重、及び病態等の各種条件等に応じて当業者が適宜設定することが出来る。【0014】【実施例】以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。【0015】実施例1JCV agno変異ウイルスの作成方法agno遺伝子を含むウイルス遺伝子のサブクローニングと部位特異的突然変異(site-directed mutagenesis)法による塩基置換:JCウイルスは5,130bpの2本鎖環状DNAウイルスで、複製開始起点の塩基を1番(nt.1)とした場合、agno遺伝子はnt. 277-492にコードされ、71個のアミノ酸から成るAgno蛋白が転写、翻訳される。本発明者らはsite-directed mutagenesis法によってagno遺伝子の転写産物が発現されないウイルス遺伝子の作成を試みた。1984年にFrisque等が発表した(Journal of Virology,51:p.458-469,1984.”Human polyomavirus JC virus genome”)JCウイルスのプロトタイプであるMad-1タイプのJCウイルスの遺伝子全長が挿入されているプラスミドpJC1-4→pJCV (HSRRB VG015) より、Hind IIIとApa I によってagno遺伝子を含む約1Kbpの遺伝子を切り出して、pBluescript SK+ (Stratagene) にサブクローニングした。このプラスミドを鋳型とし、Unique Site Elimination mutagensis kit (Amersham Pharmacia Biotech) を用いて、▲1▼Agno蛋白の開始コドンである277ATG (Met) を277CGA (Arg) に変換、あるいは▲2▼Agno蛋白開始コドンの直後の280GTT (Val) を280TAA (Stop) に変換することによって、Agno蛋白を発現できないウイルス遺伝子を作成した。この変異を含むウイルス遺伝子を再びHind IIIとApa I で切り出し、プラスミドpJC1-4→pJCVに再挿入して、完全長のJCウイルスagno変異ウイルス遺伝子を得た。【0016】ウイルス遺伝子の細胞内導入:JCウイルス粒子は、ウイルスゲノム全長をヒト神経芽細胞腫由来細胞株IMR-32に導入することで人為的に作成可能である。発明者らは上述のagno欠損ウイルス遺伝子▲1▼及び▲2▼をBam HI処理によってベクター配列から切り離し、5130 bp のウイルス遺伝子のみを単離した。これらを、哺乳細胞遺伝子導入試薬Effectene (Qiagen) を用いてIMR-32に導入した。JCウイルスの増殖は比較的遅いとされているため、遺伝子導入翌日からは細胞培養液の血清濃度を10%から5%に下げ、細胞増殖を適度に抑制することでウイルス濃度の上昇を図った。【0017】実施例2ウイルスRNAの回収とreverse transcription-polymerase chain reaction (RT-PCR)法によるウイルス増殖の検討:遺伝子導入後10分(0日)、3日、5日、7日目に細胞を回収し、total RNA 抽出試薬 ISOGEN (ニッポンジーン) を用いて細胞からtotal RNA経時的に細胞を回収した。このうち、1μgをDNase I で処理し、ウイルスDNAを完全に除去したのち、TM First-strand synthesis system for RT-PCR (GIBCO, BRL) を用いて、転写されたcDNAを得た。これを鋳型とし、下記の3種類のプライマー対を用いて、PCRを行った。【0018】プライマーNo.1(T抗原増幅用)Tag-F: 5’- ggtgccaacctatggaacag -3’ (nt. 4427-4408, 20mer)Tag-R: 5’- agtctttagggtcttctacc -3’ (nt. 4255-4274, 20mer)プライマーNo.2(VP1増幅用)VP1-F: 5’- tgtgcactctaatgggcaagc -3’ (nt. 1828-1848, 21mer)VP1-R: 5’- ctaggtacgccttgtgctctg -3’ (nt. 2039-2019, 21mer)プライマーNo.3(agno増幅用)agno-F: 5’- atggttcttcgccagctgtc -3’ (nt. 277-296, 20mer)agno-F: 5’- ctatgtagcttttggttcagg -3’ (nt. 492-472, 21mer)【0019】PCRの条件は以下のとおりである。プライマーNo.1(T抗原増幅用)使用時:94℃ 1分→ (94℃ 30秒;58℃ 30秒;72℃ 30秒) x 3サイクル → (94℃ 30秒;60℃ 30秒;72℃ 30秒) x 25サイクル → 72℃ 10分プライマーNo.2(VP1増幅用)使用時:94℃ 1分→ (94℃ 30秒;63.5℃ 30秒;72℃ 30秒) x 28サイクル → 72℃ 10分プライマーNo.3(agno増幅用)使用時:94℃ 1分→ (94℃ 30秒;48℃ 30秒;72℃ 30秒) x 3サイクル → (94℃ 30秒;53℃ 30秒;72℃ 30秒) x 25サイクル → 72℃ 10分【0020】上記の条件で増幅されたPCR産物をそれぞれ等量ずつ2% TAE アガロースゲルで電気泳動し、細胞内で増殖したウイルスのmRNA量を、野生型ウイルスと変異型ウイルスとで比較した。得られたPCR産物がウイルスDNAの混入ではないことを確認するために、逆転写反応を行っていないtotal RNAを鋳型として同様にPCRを行った。遺伝子導入の陽性コントロールとしてpEGFP-N1 (Clontech) をウイルス遺伝子と同時に導入し、cDNA を鋳型として同様にPCRでEGFP遺伝子を増幅した。また、total RNA抽出および逆転写反応の陽性コントロールとして、ヒトβ-actin 遺伝子を増幅した。PCR反応の陽性・陰性コントロールには、JCウイルス持続感染細胞(JCI)から回収したウイルスDNAと脱イオン水(DW)をそれぞれ用いた。【0021】上記のRT-PCRの結果を図1に示す。なお、変異▲1▼と▲2▼は同様の結果が得られたので、図にはΔagnoとして変異▲1▼の結果のみを示す。野生型ウイルス (WT) は導入後3-5日目に初期蛋白であるLarge T抗原と、後期蛋白であるAgno蛋白およびVP1のmRNAの発現が認められた。これに対し変異型ウイルス (Δagno) では、Agno蛋白を欠損していることに加えて、Large-T抗原のmRNAも少なくとも7日目までは検出限界以下であり、またVP1のmRNAも7日目にごく僅かに認められる程度であった。【0022】【発明の効果】agno遺伝子はJCウイルスの後期蛋白転写領域の最上流にコードされ、71個のアミノ酸から成る蛋白(8kDa)が転写翻訳されるが、蛋白の機能はこれまで未知であった。通常であれば後期蛋白の変異が初期蛋白の発現制御に与える影響は少ないと考えられるが、発明者らが作成したagno変異型ウイルスを用いた以上の実験により、Agno蛋白の欠損によって、初期蛋白Large-T抗原の発現を著しく阻害又は抑制することが明らかとなった。【0023】Large-T抗原は宿主の様々な蛋白やDNAと結合して細胞を癌化させる能力を有すると共に、JCウイルス自身の増殖過程においても複製開始因子および転写因子として必要不可欠の因子である。従って、本発明よりAgno蛋白の発現を阻害することによって、JCウイルスの強力な活性化因子であるLarge-T抗原の機能を阻害し、その結果ウイルスの増殖を有意に抑制できることが示された。【0024】以上の結果に基づき、JCウイルスagno遺伝子に対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチド(アンチセンスオリゴヌクレオチド)を作用させることによってagnoの発現を人為的に阻害(抑制)することで、ウイルスの増殖を抑制する本発明方法(アンチセンス法)が、従来の治療法に替わるPMLの有効な治療として提供される。【0025】アンチセンスオリゴヌクレオチドは、標的の遺伝子配列が既知であれば容易に設計でき、短時間に安価で大量の合成が可能である。また生物学的にも、薬剤を用いた治療法と異なり耐性ウイルスが出現する可能性は極めて低く、宿主細胞への副作用が少ない等の利点が挙げられる。アンチセンス法による疾病治療は、AIDSをはじめとする難治性感染症や癌に対する治療アプローチとして現在数例の臨床治験が実施されており、AIDS患者のサイトメガロウイルス性網膜感染症に対するアンチセンス医薬品が既に実用化されている。【0026】JCウイルス agno遺伝子を標的としたPML治療の場合、対象となるagno遺伝子の塩基配列がわずか216bpであることから、候補領域の絞り込みが非常に容易であるとともに、HIVなどのRNAウイルスと比較してDNAウイルスは変異の頻度が低いことから、ウイルス遺伝子の変異による影響が少ないと考えられる。【0027】【配列表】【図面の簡単な説明】【図1】図1は、Agno蛋白の開始コドンである277ATG (Met) を277CGA (Arg) に変換した変異ウイルス(Δagno)、及び、Agno蛋白を発現する野生型ウイルス(WT)の2種類のウイルスDNAをIMR-32に導入し、経時的に細胞を回収し、total RNAを単離し、RT-PCRを行い、増幅されたPCR産物をそれぞれ等量ずつ2% TAE アガロースゲルで電気泳動し、細胞内で増殖したウイルスのmRNA量を、野生型ウイルスと変異型ウイルスとで比較した結果を示す。Mは100bpラダーDNAマーカー、数字は遺伝子導入後の日数、LTはLarge-T抗原を意味する。 agno蛋白を発現できないために感染細胞内でのJCウイルス増殖が抑制されている、agno変異JCウイルスの製造方法であって、 JCウイルスのagno遺伝子に対して、開始コドンのMetを他のアミノ酸に変換するか、又は開始コドン直後のValをストップコドンに変換する変異を導入することにより、agno蛋白を発現できないagno変異JCウイルス遺伝子を作製し、 当該agno変異JCウイルス遺伝子を含むウイルスゲノム全長を、ヒト神経系細胞由来の細胞株に導入することを特徴とする、agno変異JCウイルスの製造方法。 請求項1に記載の方法により製造されたagno変異JCウイルス。 請求項2のagno変異JCウイルスを産生する細胞であって、 JCウイルスのagno遺伝子に対して、開始コドンのMetを他のアミノ酸に変換するか、又は開始コドン直後のValをストップコドンに変換する変異を導入することにより、agno蛋白を発現できないagno変異JCウイルス遺伝子を作製し、当該agno変異JCウイルス遺伝子を含むウイルスゲノム全長がヒト神経系細胞由来の細胞株に導入された細胞であることを特徴とする、JCウイルス増殖が抑制されている、ヒト神経系細胞由来のagno変異JCウイルス産生細胞。 前記ヒト神経系細胞由来の細胞株が、ヒト神経芽細胞腫由来細胞株IMR−32株である、請求項3に記載の細胞。


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