タイトル: | 特許公報(B2)_(1→3)−β−D−グルカン結合ドメインタンパク質、該物質を使用した測定法及び測定キット |
出願番号: | 2001351943 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | C07K 14/435,C12N 15/09,G01N 21/64,G01N 21/78,G01N 33/579 |
田村 弘志 田中 雅之 牟田 達史 JP 4346844 特許公報(B2) 20090724 2001351943 20011116 (1→3)−β−D−グルカン結合ドメインタンパク質、該物質を使用した測定法及び測定キット 生化学工業株式会社 000195524 堀口 努 100124512 田村 弘志 田中 雅之 牟田 達史 20091021 C07K 14/435 20060101AFI20091001BHJP C12N 15/09 20060101ALI20091001BHJP G01N 21/64 20060101ALI20091001BHJP G01N 21/78 20060101ALI20091001BHJP G01N 33/579 20060101ALI20091001BHJP JPC07K14/435C12N15/00 AG01N21/64 AG01N21/64 FG01N21/78 CG01N33/579 C12N 15/00-15/90 C07K 14/435 G01N 21/64 G01N 21/78 G01N 33/579 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) PubMed Science Direct 特表2001−503773(JP,A) 特開2006−087435(JP,A) 国際公開第95/001432(WO,A1) 特開平04−285859(JP,A) J Bacteriol,1988年,Vol.170(10),p.4576-4581 Mol Microbiol,2000年,Vol.36(4),p.898-912 J Biol Chem,1994年,Vol.269(2),p.1370-1374 Structure,1999年,Vol.7(7),p.853-864 J Gen Micobiol,1993年,Vol.139(2),p.307-316 Biochemistry,1995年,Vol.34,p.6993-7009 Biochemistry,1996年,Vol.35,p.13885-13894 FEMS Microbiol Lett,2000年 2月15日,Vol.183,p.265-269 Biochem J,2001年 6月15日,Vol.356,p.791-798 Adv Microb Physiol,1995年,Vol.37,p.1-81 8 2003155298 20030527 20 20041027 吉森 晃 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、蛍光標識された(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質、当該蛍光標識された(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質を用いた蛍光偏光による測定法及び該方法を実施するための測定キットに関する。【0002】【従来の技術】生体物質間の相互作用を利用して、微量の生体物質等を高感度に測定、解析できる方法として蛍光偏光度測定法(Perrin, J. Phys. Rad. 1:390-401(1926))が活用されている。【0003】このような従来利用されていた相互作用としては、例えばDNAハイブリダイゼーション、DNA結合性タンパク質とDNAの結合、抗原抗体反応、リガンド-レセプターの結合、糖-レクチンの結合の他、エンドトキシンとエンドトキシン中和タンパク質の結合があげられる(WO98/21357)。【0004】一方、深在性真菌症等の重篤な症状を引き起こす真菌感染の有無の検出には、従来からカブトガニの血球抽出液(アメボサイトライセート)成分が真菌細胞壁の構成成分である(1→3)-β-D-グルカンによって活性化されることによるセリンプロテアーゼのカスケード反応を利用した測定法が用いられている。しかし、カブトガニは極めて貴重な生物資源であり、一部の地域では捕獲規制の対象ともなっている。【0005】カブトガニのアメボサイトライセート中に含まれる、(1→3)-β-D-グルカンに結合する(1→3)-β-D-グルカン感受性因子(G因子)はαサブユニット中の(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインを介し(1→3)-β-D-グルカンに結合することが知られており、そのアミノ酸配列及びそれをコードするDNA配列が明かとなっている(WO95/01432)。【0006】しかしながら、目的とする被検物質と蛍光標識された該物質に対する特異的結合物質との結合反応により分子量や分子構造に大きな変化がなければ蛍光偏光度の変化が顕著なシグナルとして観察されないため、蛍光標識される特異的結合物質の分子量があまりにも大きく、それに結合する被検物質の分子量が数千Da程度の場合には適さない方法であると考えられていた。【0007】【発明が解決しようとする課題】貴重な生物資源であるカブトガニ由来のアメボサイトライセートは、将来にわたり益々拡大し続ける医療ならびに環境衛生分野で真菌の検出に使用し続けるには量に制限がある。そのため、上記アメボサイトライセートを用いたカスケード反応による真菌成分の検出法と同等以上に優れた真菌成分の微量検出法の開発が期待されている。【0008】【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、カブトガニのアメボサイトライセートに由来する(1→3)-β-D-グルカン感受性因子(G因子)のαサブユニット内に存在する(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインのみからなるタンパク質(本明細書中では「(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質」と記載する)を遺伝子工学的に調製した後、蛍光標識し、検体中の(1→3)-β-D-グルカンを蛍光偏光法によって測定したところ、極めて正確に検出することが可能であること、また、反応液中に二価の陽イオン、特にアルカリ土類金属イオンを共存させると、測定感度が顕著に上昇することを見い出し、本発明を完成させた。【0009】すなわち、本発明は以下の通りである。(1) 配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質又は配列番号2にアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は転位を有するアミノ酸配列からなり、(1→3)-β-D-グルカンへの結合性を有する分子量20k〜40kDaタンパク質に、蛍光物質が結合してなる、蛍光標識した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質。(2) 配列番号1記載の塩基配列からなる核酸がコードするタンパク質、又は配列番号1記載の塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなる核酸がコードし、(1→3)-β-D-グルカンへの結合性を有する分子量20k〜40kDaのタンパク質に、蛍光物質が結合してなる、蛍光標識した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質。(3) 検体中の(1→3)-β-D-グルカンとを結合させ、当該結合による蛍光偏光度の変化を検出し、蛍光偏光度の変化量と検体中の(1→3)-β-D-グルカンの濃度とを関連づけて(1→3)-β-D-グルカンを測定するための、(1)又は(2)記載の蛍光標識した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質を含む、(1→3)-β-D-グルカン測定剤。(4) 更に二価陽イオンを含む、(3)記載の(1→3)-β-D-グルカン測定剤。(5) 二価陽イオンがアルカリ土類金属イオンであることを特徴とする(4)記載の(1→3)-β-D-グルカン測定剤。(6) (1)又は(2)記載の蛍光標識した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質と検体中の(1→3)-β-D-グルカンとを結合させ、当該結合による蛍光偏光度の変化を検出し、蛍光偏光度の変化量と検体中の(1→3)-β-D-グルカンの濃度とを関連づけることを特徴とする(1→3)-β-D-グルカンの測定方法。(7) 二価陽イオン共存下で蛍光標識した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質と(1→3)-β-D-グルカンとを結合させることを特徴とする(5)記載の(1→3)-β-D-グルカンの測定方法。(8) (1)又は(2)記載の蛍光標識された(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質を含む(1→3)-β-D-グルカン測定キット。(9) 更に二価陽イオンを含む(8)記載の(1→3)-β-D-グルカン測定キット。(10) 二価陽イオンがアルカリ土類金属イオンであることを特徴とする(9)記載の(1→3)-β-D-グルカン測定キット。【0010】【発明の実施の形態】以下、本発明を発明の実施の形態により詳説する。(1)本発明物質本発明物質は蛍光物質が結合した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質である。【0011】本発明物質における(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質は、カブトガニのアメボサイトライセート中に含まれる(1→3)-β-D-グルカン感受性因子(G因子)のαサブユニットに存在する(1→3)-β-D-グルカン結合ドメインと同一のアミノ酸配列(配列番号2)からなるタンパク質であるか、その配列に置換、欠失、挿入、又は転位を有するアミノ酸配列を有し、かつ(1→3)-β-D-グルカン結合性を有する分子量20k〜40kDaのタンパク質である。【0012】ここで、(1→3)-β-D-グルカン結合ドメインとは、配列番号3記載のG因子のαサブユニットのアミノ酸配列中、アミノ酸番号406〜672の268アミノ酸残基からなるドメインを指称する。【0013】従って、本発明物質における(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質は、配列番号2記載のアミノ酸配列を有するか、又はそれに高い相同性を有するアミノ酸配列、すなわち、70%以上100%未満、好ましくは80%以上100%未満、最も好ましくは90%以上100%未満の相同性を有するアミノ酸配列を有する。従って、配列番号2記載のアミノ酸配列にアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は転位を有するアミノ酸配列を有するタンパク質も、配列番号2のアミノ酸配列のアミノ酸配列と高い相同性を有し、該タンパク質が(1→3)-β-D-グルカン結合性を有する限りにおいて本発明物質における(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質に含まれる。ここで、置換、欠失、挿入、又は転位するアミノ酸の数は、全アミノ酸数の30%未満、好ましくは20%未満、もっとも好ましくは10%未満であり、具体的には最大で40個、好ましくは27個、より好ましくは13個までを指す。【0014】このようなタンパク質の分子量は20k〜40kDa、好ましくは25k〜37kDa、より好ましくは27k〜32kDa、最も好ましくは29k〜30kDaが例示される。【0015】尚、タンパク質中のアミノ酸が置換、欠失、挿入、又は転位した変異タンパク質を得るには、そのアミノ酸に対応したDNAの塩基配列に対して置換、欠失、挿入、又は転位を起こさせた変異DNAを発現させることで可能であるが、このようなDNAの変異は、変異を起こさせたい配列部分を含む塩基配列を有し、両末端に制限酵素切断末端を有する塩基配列を有するDNA断片であって、当該DNA断片の1又は二以上(変異を起こさせたいアミノ酸数に相当する塩基数)の塩基の置換、欠失、挿入、又は転位を有する配列のDNA断片を合成し、これを未変異DNAの相当する塩基配列部分を入れ替えることで容易に行うことが可能である。また部位特異的変異法(Kramer, W. and Frits, H. J., Meth. In Enzymol., 154, 350(1987)、Kunkel, T. A. et al., Meth. In Enzymol., 154, 367(1987))等の方法によっても、DNAに置換、欠失、挿入、又は転位等の変異を起こさせることが可能である。【0016】また、上記配列番号2記載のアミノ酸配列は、配列番号1記載の塩基配列を有する核酸がコードするアミノ酸配列である。尚、一つのアミノ酸に対応するトリプレットが複数存在するが、同一のアミノ酸配列をコードする限りにおいて、異なる塩基配列によってコードされ、(1→3)-β-D-グルカン結合性を有する(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質に蛍光物質が結合したものであれば本発明物質に含まれるのは言うまでもない。【0017】また、配列番号1記載の塩基配列と相補的な塩基配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなるDNAがコードするアミノ酸配列を有し、(1→3)-β-D-グルカン結合性を有するタンパク質も、上記(1→3)-β-D-グルカン結合ドメインタンパク質には包含される。【0018】上記塩基配列は例えば配列番号1記載の塩基配列に相補的な塩基配列を有するDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであり、このDNAを常法に従って適当な宿主(例えば枯草菌、大腸菌等の原核細胞、酵母、哺乳動物細胞、昆虫細胞などの真核細胞、特に原核細胞が好ましく、その中でも大腸菌が好ましい)に導入し、常法に従って遺伝子を組換え、導入遺伝子を発現させることによって(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質を調製することが可能である。【0019】尚、本明細書における「ストリンジェントな条件」とは、例えば50%ホルムアミド、5×SSPE(20×SSPE:2.97M NaCl、0.2M NaH2PO4・H2O、0.025M EDTAを含むpH7.4の水溶液)、5×デンハルト溶液(100×デンハルト液:1gのフィコール400(ファルマシア社製)、1gのポリビニルピロリドン(PVP-360:シグマ社製)、1gのBSAフラクションV(牛血清アルブミン:シグマ社製)を50mlの水に溶解した水溶液)、0.5%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)の存在下、42℃で16時間のインキュベート、更にその後の0.1%SDSを含む1×SSPE、0.1%SDSを含む0.1×SSPEによる55℃での順次洗浄を行う条件又はこれと核酸のハイブリダイズにおいて同等の機能の条件を指称する。このような条件下で、あるDNAにハイブリダイズするDNAは、あるDNAに対して相同性が70%以上あると考えられ、たとえば807塩基からなるDNAにおいては、560塩基以上の塩基配列が共通していることになる。【0020】本発明物質における蛍光物質は、安定した蛍光を発する物質であれば特に限定はされない。例えばそのような物質としてはフルオロセイン、フルオロセイン誘導体(フルオロセインスクシンイミジルエステル(FS)、フルオロセインC6スクシンイミジルエステル(C6スペーサーを導入したFS)、5-((2-アミノエチル)チオウリジル)、フルオロセイン、フルオロセインイソチオシアネート(FITC)、5-(4,6-ジクロトリアジン-2-イル)アミノフルオロセイン等)、4,4-ジフルオロ-4-ボラ3a,4a-ジアザ-5-インダセン-3-プロピオン酸スクシンイミジルエステル、6-(((4-(4,4-ジフルオロ-5-(2-チエニル)-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-5-インダセン-3-イル)フェノキシ)アセチル)アミノ)ヘキサン酸スクシンイミジルエステル、4-アセトアミド-4'-イソシアナトスチルベン-2,2'-ジスルホン酸、7-アミノ-4-メチルクマリン、7-アミノ-4-トリメチルクマリン、N-(4-アニリノ-1-ナフチル)マレイミド、ダンシルクロライド、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、4,4'-ジイソチオシアナトスチルベン-2,2'-ジスルホン酸、エオシンイソチオシアネート、エリトロシンB、フルオレサミン、フルオレセイン-5(6)-カルボキシアミドカプロン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、フルオレセイン-5-イソチオシアネートジアセテート、4-メチルウンベリフェロン、o-フタルジアルデヒド、ローダミンBイソチオシアネート、硫酸ローダミン101酸クロライド、テトラメチル-ローダミンイソチオシアネート、及び2',7'-ジフルオロフルオレセインなどが挙げられ、フルオロセイン又はフルオロセイン誘導体が好ましく、特にFITCが好ましい。【0021】(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質と蛍光物質との結合は、検出操作において行われる通常の洗浄操作などでも蛍光物質が遊離しない程度の結合であれば結合様式を問わない。具体的には水素結合、イオン結合、共有結合などの化学結合が挙げられるが、特に結合が強固である点から共有結合により結合していることが最も好ましい。共有結合は(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質に含まれるアミノ酸の側鎖や末端のカルボキシル基、アミノ基などの官能基を利用して調製することが可能である。この結合は(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質と(1→3)-β-D-グルカンとの結合を妨げない限り、いずれの官能基を使用して調製しても良い。尚、このような化学結合のうち、特に(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質の安定性の観点から、室温よりも低い温度条件下で形成が可能な化学結合であることが好ましく、蛍光物質のチオシアン基と(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質のアミノ基とのチオアミド結合の形成が、常温においても容易になされるため最も好ましい。【0022】本発明物質はたとえば以下の方法によって調製することが可能である。すなわち、(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質と蛍光物質とが結合した本発明物質は、遺伝子工学的に調製した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質を、好ましくは精製し、該タンパク質の(1→3)-β-D-グルカン結合性が損なわれない条件下で蛍光物質を結合させて調製することが可能である。【0023】(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質を調製するために使用するDNAは、たとえばリムルス・ポリフェムス(Limulus polyphemus)、タキプレウス・トリデンタツス(Tachypleus tridentatus)、タキプレウス・ギガス(Tachypleus gigas)、ならびにタキプレウス(カルシノスコルピウス)・ロツンディカウダ(Tachypleus(Carcinoscorpius) rotundicauda)等のカブトガニの血球(アメボサイト)から常法に従って調製したcDNAライブラリーを、たとえば配列番号4及び5記載の人工的に調製した塩基配列のプライマーを使用してPolymerase Chain Reaction(以下「PCR」とも記載する)法により目的DNAを増幅させて調製することができる。PCR産物は、ゲル電気泳動などの分子量による分離手段を用いて分離し、公知の手段によりJetsorb(ジェノメッド社製)等を用いて約800bpのバンドを回収することで、容易に単離することができる。【0024】単離して得られたDNA断片は、(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質を発現させる宿主細胞(たとえば微生物細胞、動物細胞、昆虫細胞など)に適したベクターに組み込むために、該ベクターに対応する制限酵素断片を常法に従って連結させる。このように調製した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質をコードするDNAを常法に従って上記ベクターに組み込むことが可能であるが、宿主細胞の培養物から(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質の精製を容易とするために、任意のタグ(T7タグ、Sタグ、Hisタグ、HSVタグ、pelB/ompT、KSI、Trxタグ、PKA、プロテインA、FLAG、カルモジュリン結合ドメイン、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)など)を同一発現領域として含むように構築されたベクターを使用することが好ましい。制限酵素、ベクター、タグ、宿主、融合タンパク質の精製手段、及び融合タンパク質からのタグの切断手段の組み合わせの選択は、遺伝子工学分野に携わる当業者であれば、常套的に適切な組み合わせを選択することが可能である。【0025】たとえば、ベクターとしてpGEX-2T(ファルマシアバイオテック社製)、タグとしてGSTを使用する場合には、BamHI及びEcoRIの制限酵素切断部位を付加したPCR増幅産物を制限酵素BamHI及びEcoRIで消化した後、そのBamHI及びEcoRIによる制限酵素断片を常法によりpGEX-2Tに導入することができる。【0026】尚、DNAを挿入するためのベクターにはアンピシリンやネオマイシンなどの抗生物質耐性を発現する遺伝子やペルオキシダーゼ遺伝子を組み込んでおくことでトランスフェクトされた宿主細胞の選択が容易となるため好ましい。【0027】たとえばアンピシリン耐性遺伝子を有する上記ベクターpGEX-2Tを使用する場合には、常法に従って宿主細胞である大腸菌BL21株に目的遺伝子を導入し、大腸菌をアンピシリンが含まれた培地で培養することで、トランスフェクトされた形質転換体が選択される。【0028】選択された形質転換体を、それに応じた方法で生育(例えば培養)させ、生育物(培養細胞、菌体、培地等)から目的とする(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質を調製する。【0029】形質転換体を生育させた生育物からの本発明物質の調製は、たとえば以下の方法によって行う事が可能である。尚、ここで「生育」とは、形質転換体である細胞、微生物を培養するだけでなく、形質転換体を組み込んだ動物や昆虫などの生育も含む概念である。「生育物」とは、形質転換体を生育させた後の培地及び培養された宿主細胞、分泌物、排出物などを包含する概念である。【0030】上述の例で使用し、目的のDNAを発現するように構築したベクター(pGEX-2Tを(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質のDNAとGSTタグが融合タンパク質として発現するように構築したベクター)を使用する場合には、宿主細胞の培養物(培養上清及び培養した宿主細胞の破砕物)を、GSTタグを特異的に結合するグルタチオンが結合したアフィニティーカラムに通筒することで融合タンパク質として容易に分離することができる。【0031】融合タンパク質からの(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質の切り出しは、タグの種類に適した方法を当業者であれば任意に選択することが可能である。上述のGSTタグとの融合タンパク質として(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質を発現させた場合には、たとえばエンテロキナーゼやトロンビンを作用させることで容易に(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質を切り出すことが可能である。この場合、グルタチオンが結合したアフィニティーカラムに吸着した融合タンパク質に対して当該酵素を作用させることで、(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質のみを溶出することが可能である。【0032】(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質への蛍光物質の結合は、常法に従って行うことが可能である。たとえば、カルボジイミドなどの活性化試薬を使用して、蛍光物質又は(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質の官能基を活性化し、各々を結合させることも可能である。しかし、縮合剤、活性化剤などの試薬の添加や、酸、アルカリ等のpH条件、高い温度条件を必要としない蛍光物質を用いることが、(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質の安定性の面からも好ましい。そのような蛍光物質としてもチオシアン基を有する蛍光物質が最も好ましく、特に上記で最も好ましい例として挙げたFITCなどは、4℃条件下であっても、(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質のアミノ基とFITCのチオシアン基とのチオアミド結合により特異的に結合させることができるため極めて好ましい。【0033】FITCと(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質との結合は、たとえばFITCを非プロトン性有機溶媒(たとえばジアルキルスルホキシド、ジアルキルホルムアミド、又はヘキサアルキルホスホルアミドが挙げられ、例えばジメチルスルフォキシド(DMSO)、ジエチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド及びヘキサメチルホスホルアミド等が具体的には例示され、特にDMSOが好ましい)中に溶解し、pH7〜9、好ましくは7.5〜8.5条件下で、(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質が溶解した緩衝液に対して、上記非プロトン性有機溶媒中に溶解したFITCを添加し、数時間、好ましくは1〜8時間、より好ましくは2〜6時間、1〜24℃、好ましくは2〜10℃条件下で反応させて行うことができる。【0034】このようにして調製された本発明物質は、反応液から分子量によって分画する常法(たとえばゲル濾過、ゲル電気泳動、限外濾過など)に従って単離、精製することが可能である。【0035】(2)本発明測定剤本発明測定剤は、検体中の(1→3)-β-D-グルカンと結合させ、当該結合による蛍光偏光度の変化を検出し、蛍光偏光度の変化量と検体中の(1→3)-β-D-グルカンの濃度とを関連づけて測定するための本発明物質を含む(1→3)-β-D-グルカン測定剤である。【0036】蛍光標識のために使用する蛍光物質、蛍光物質とタンパク質の結合様式は、本発明物質で記載したものと同様である。【0037】本発明測定剤は、検体と混合して検体中の(1→3)-β-D-グルカンと本発明物質とを結合させ、当該結合によってタンパク質に結合している蛍光物質の蛍光偏光度の変化を捕らえ、該変化量と検体中の(1→3)-β-D-グルカンの濃度とを結びつけることにより検体中の(1→3)-β-D-グルカンの濃度の測定、すなわち後述の本発明測定法に使用することができ、また例えば特に医療現場においては真菌症の診断薬として使用したり、真菌症の診断キットとして使用することもできる。【0038】尚、本発明物質と(1→3)-β-D-グルカンとの結合は、二価陽イオン、好ましくはアルカリ土類金属イオン、特にカルシウムイオンによって促進されることが、明かとなったことから、本発明測定剤には、これらのイオンが含まれていてもよい。【0039】(3)本発明測定法本発明測定法は、本発明物質と検体中の(1→3)-β-D-グルカンとを結合させ、当該結合による蛍光偏光度の変化を検出し、蛍光偏光度の変化量と検体中の(1→3)-β-D-グルカンの濃度とを関連づけることを特徴とする(1→3)-β-D-グルカンの測定法である。【0040】本発明測定法における本発明物質と検体中の(1→3)-β-D-グルカンとの結合は、これらの結合が起こりうる条件下で行う限り、特に限定はされないが、その中でも特にイオン強度0.01〜1の条件下で行うことが好ましい。また、pH6.5〜8.5、特に7.0〜8.0の範囲内で行うことが、測定が安定して行うことができることから好ましく、このようなイオン強度、pHを保つために、結合は緩衝液中で行うことが好ましい。このような緩衝液としては、例えばリン酸緩衝生理的食塩水(以下「PBS」とも記載する)、トリス塩酸緩衝生理的食塩水(以下、「TBS」とも記載する)等が挙げられるが特にTBSを使用するのが好ましい。TBSを使用する場合は、0.1〜10倍(1×TBS:20mM Tris-HCl、0.15M NaCl)の範囲の濃度で使用するのが好ましい。【0041】本発明測定法における検体は、特にイオン強度が0.01〜1であることが好ましい。このような検体としては、体内から取り出した血液や尿、医薬品製造工程においてサンプリングした検体、大気中等の環境中からインピンジャー等でサンプリングした検体、環境中からフィルター等でトラップした粒子等を溶解又は懸濁した検体などを必要に応じて希釈したものが例示され、いずれの検体であっても、本測定を妨害する因子を除タンパクやイオン交換などの常法により除去することで、本発明測定方法を用いて再現性の良い安定した(1→3)-β-D-グルカンの微量測定が可能であり、また本発明測定方法は特に医療現場において真菌症の検出にも用いることができる。【0042】【実施例】(1)(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質の調製<1>(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質のDNAの調製Tachypleus tridentatusのアメボサイトから、全RNAを抽出し、常法に従って、ポリ(A)+RNAから cDNAライブラリーを作製した。使用したプラスミドはλgt11で、詳細は、Amersham-Japan社のcDNAクローニングシステムλgt11によった。牟田らが確立したJ. Biol. Chem. 268 (1994), 1370-1374に記載された方法にしたがって、G因子ならびにそれぞれのサブユニット(α、β)を精製、477 A Protein sequencer(Applied Biosystems社製)にて全アミノ酸配列を決定した。当該配列に基づいて、オリゴヌクレオチドプライマーを合成、AmpliTaq(Perkin Elmer社製)を用いたPCR法にて各DNAを35サイクルまで増幅した。ひきつづき、[α-32P]dCTP標識後、上記のcDNAライブラリーからの検出プローブとして使用し、プラークハイブリダイゼーション法にて目的のDNA配列を確認した。このようにして得られたG因子のαサブユニットのcDNAを鋳型として用い、配列番号4および5に記載されたプライマーを使用して常法に従ってPCR法により配列番号1に記載された(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質をコードするDNAを調製した。PCR産物として得られたこのDNAの5'末端にBamHI断片を、3'末端にEcoRI断片を常法に従って連結し、このDNAをBamHI及びEcoRIで処理したpGEX-2Tプラスミドベクター(ファルマシアバイオテック社製)のBamHI-EcoRI領域に挿入した。【0043】<2>(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質の発現と精製GST Gene fusion system(ファルマシア バイオテック社製)のプロトコール記載の方法に従って大腸菌(E. coli BL21)を宿主として上記<1>で調製したプラスミドを発現させた。トランスフェクションは常法に従って<1>で調製したpGEX-2Tプラスミドベクターを用いて行った。トランスフェクションした大腸菌は、抗生物質アンピシリンを含む培地で培養した。pGEX-2Tは、アンピシリン耐性遺伝子を有するため、形質転換体はアンピシリン耐性を獲得することとなる。従って、アンピシリンを含む培地で大腸菌を培養するとアンピシリン耐性を有する大腸菌(トランスフェクションされた大腸菌)のみを選択して生育させることができる。培養物(培養上清及び菌体超音波破砕物)からアフィニティーカラムクロマトグラフィーによって(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質-GST融合タンパク質を精製した。アフィニティー担体にはグルタチオン-セファロース4B(ファルマシア社製)を使用し、10μg/mlのトロンビンを含むPBS溶液で溶出した。【0044】溶出した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質をLammliらの方法に従って還元条件下でドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE)によって解析した結果、分子量29kDaの単一のバンドが観察され、遺伝子組み換えによる(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質が高度に精製されたことを確認した。【0045】(2)蛍光物質による(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質の標識蛍光物質としてのFITC(和光純薬工業製)を10mg/mlでジメチルスルホキシドに溶解し、そこに上記(1)で得られた(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質を1mg/mlとなるように添加し、この混合液にpH8.5のTBSを添加して全量を1mLとした。この混液を24℃で4時間遮光下で反応させた。【0046】反応後、セファデックスG-25カラム(ファルマシア社製)に反応混液を添加し、pH7.4のPBS9mLにより溶出した。カラムからの溶出液を回収し、3〜5mLの画分を回収し、本発明物質を調製した(Lowry法による定量を行うと0.5〜0.8mgのタンパク質が検出された)。【0047】(3)本発明物質を用いた本発明測定法<1>アルカリ土類金属塩の影響0.1×TBS(pH7.4)1mLをBorocilicateチューブ(Associates of Cape Cod, Inc.製)に入れ、本発明物質を100μg/μLとなるように0.1×TBS(pH7.4)によって希釈した溶液を5μL添加して撹拌し、ブランク値として蛍光偏光度を測定した。アルカリ土類金属塩の影響を確認するために、最終濃度が10mMとなるようにCaCl2、BaCl2、MgCl2、SrCl2を添加した実験群、及びこれらの二価アルカリ土類金属塩を添加しない対照群を作成した。当該金属塩を添加した後、パキマン(ブクリョウ由来の(1→3)-β-D-グルカン:生化学工業株式会社製)を1μg添加し、PolarScan(Associates of Cape Cod, Inc.販売)によりパキマンを添加する前後の蛍光偏光度の変化(mP値)を測定した(図1)。【0048】その結果、カルシウムイオン(CaCl2)を添加した際に60%程度、対照と比して蛍光偏光度の変化が増すことが明かとなった。【0049】<2>パキマンの濃度と測定値の直線性の検討1×TBS(pH7.4)1mLをBorocilicateチューブに入れ、1MのCaCl2を10μL添加した。この溶液に100μg/μLに1×TBS(pH7.4)で希釈した本発明物質を5μL添加してよく混合し、ブランク値として蛍光偏光度を測定した。その後、パキマンを添加して、PolarScanによりパキマンを添加する前後の蛍光偏光度の変化を測定した(図2)。パキマンの添加量は10ng、20ng、40ng、60ng、80ng、100ng、200ng、400ng、600ng、800ng、1000ngで行った。【0050】その結果、パキマンを添加しない群から100ng添加した群までは、測定値がパキマン添加量にほぼ比例することが明かとなり、mP値(Y)とパキマンの添加量(X)の間にはY=0.2941x+0.0592の関係式が成り立つことが判明した(図3)。【0051】【発明の効果】(1→3)-β-D-グルカンの新規な測定法とそれに使用される蛍光標識された(1→3)-β-D-グルカン結合性タンパク質が提供される。【図面の簡単な説明】【図1】 アルカリ土類金属イオンが(1→3)-β-D-グルカンの測定に与える影響を示す図。【図2】 検体中の(1→3)-β-D-グルカン量と蛍光偏光度の変化の関係を示す図。【図3】 検体中の(1→3)-β-D-グルカン量と蛍光偏光度の比例関係を示す図。【配列表】 検体中の(1→3)-β-D-グルカンと結合させ、当該結合による蛍光偏光度の変化を検出し、蛍光偏光度の変化量と検体中の(1→3)-β-D-グルカンの濃度とを関連づけて(1→3)-β-D-グルカンを測定するための、次の(1)又は(2)に記載の蛍光標識した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質を含む、(1→3)-β-D-グルカン測定剤;(1)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質に、蛍光物質が結合してなる、蛍光標識した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質、(2)配列番号1記載の塩基配列からなる核酸がコードするタンパク質に、蛍光物質が結合してなる、蛍光標識した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質。 更に二価陽イオンを含む、請求項1記載の(1→3)-β-D-グルカン測定剤。 二価陽イオンがアルカリ土類金属イオンであることを特徴とする請求項2記載の(1→3)-β-D-グルカン測定剤。 次の(1)又は(2)に記載の蛍光標識した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質と検体中の(1→3)-β-D-グルカンとを結合させ、当該結合による蛍光偏光度の変化を検出し、蛍光偏光度の変化量と検体中の(1→3)-β-D-グルカンの濃度とを関連づけることを特徴とする(1→3)-β-D-グルカンの測定方法;(1)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質に、蛍光物質が結合してなる、蛍光標識した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質、(2)配列番号1記載の塩基配列からなる核酸がコードするタンパク質に、蛍光物質が結合してなる、蛍光標識した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質。 二価陽イオン共存下で蛍光標識した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質と(1→3)-β-D-グルカンとを結合させることを特徴とする請求項4記載の(1→3)-β-D-グルカンの測定方法。 次の(1)又は(2)に記載の蛍光標識された(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質を含む(1→3)-β-D-グルカン測定キット;(1)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質に、蛍光物質が結合してなる、蛍光標識した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質、(2)配列番号1記載の塩基配列からなる核酸がコードするタンパク質に、蛍光物質が結合してなる、蛍光標識した(1→3)-β-D-グルカン結合性ドメインタンパク質。 更に二価陽イオンを含む請求項6記載の(1→3)-β-D-グルカン測定キット。 二価陽イオンがアルカリ土類金属イオンであることを特徴とする請求項7記載の(1→3)-β-D-グルカン測定キット。