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タイトル:特許公報(B2)_高度好熱菌由来セリンアセチルトランスフェラーゼ及びそれをコードする遺伝子、並びにL−システインの酵素合成法
出願番号:2001310554
年次:2008
IPC分類:C12N 15/09,C12N 1/15,C12N 1/19,C12N 1/21,C12N 5/10,C12N 9/10,C12P 13/12,C12R 1/01


特許情報キャッシュ

横山 茂之 倉光 成紀 小林 慎一郎 JP 4120964 特許公報(B2) 20080509 2001310554 20011005 高度好熱菌由来セリンアセチルトランスフェラーゼ及びそれをコードする遺伝子、並びにL−システインの酵素合成法 独立行政法人理化学研究所 503359821 平木 祐輔 100091096 横山 茂之 倉光 成紀 小林 慎一郎 20080716 C12N 15/09 20060101AFI20080626BHJP C12N 1/15 20060101ALI20080626BHJP C12N 1/19 20060101ALI20080626BHJP C12N 1/21 20060101ALI20080626BHJP C12N 5/10 20060101ALI20080626BHJP C12N 9/10 20060101ALI20080626BHJP C12P 13/12 20060101ALI20080626BHJP C12R 1/01 20060101ALN20080626BHJP JPC12N15/00 AC12N1/15C12N1/19C12N1/21C12N5/00 AC12N9/10C12P13/12 BC12P13/12 BC12R1:01 C12N 15/00-15/90 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq SwissProt/PIR/GeneSeq PubMed JSTPlus(JDreamII) JMEDPlus(JDreamII) JST7580(JDreamII) 特開2002−325574(JP,A) 特開平11−155571(JP,A) 特開平09−009982(JP,A) Molecular Cloning, A Laboratory Manual, SECOND EDITION., 1989, Vol.2, p.11.45 8 2003116555 20030422 19 20040930 太田 雄三 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、好熱菌由来セリンアセチルトランスフェラーゼ及びそれをコードする遺伝子、並びにL-システインの酵素合成法に関する。【0002】【従来の技術】L-システインの製造法としては、P. thiazoliniphilumの酵素を用いたアミノチアゾリンカルボン酸(合成基質)の不斉加水分解法、毛髪や羽毛等の酸加水分解法、E. cloacaeのシステインデスルフヒドラーゼを用いたβ-クロロアラニンからの合成法などが知られている。さらに、微生物を用いた発酵法によるL-システインの生産も試みられている。【0003】しかしながら、例えば35S標識L-システインを合成する場合にはいくつかの問題点がある。従来は、L-システイン合成能を有する微生物を35Sを含む培地で培養し、その後集菌し、菌体破砕してアミノ酸画分を回収することにより35S標識L-システインが製造されている。この場合、菌体抽出液からの精製工程は、不純物が多く含まれるため非常に手間がかかるにもかかわらず、該システインが極微量にしか得られない。また、システインの35S取り込み効率が低く、菌体培養時間が長いため、35S標識L-システインの収率は低く、そのため35S標識L-システインは高価なものとなっている。従って、L-システイン及び35S標識L-システインを合成するための高効率かつ簡便な方法が望まれていた。【0004】【発明が解決しようとする課題】本発明は、高度好熱菌由来セリンアセチルトランスフェラーゼ及びそれをコードする遺伝子、並びに高効率かつ簡便なL-システイン製造方法を提供することを目的とする。【0005】【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、高度好熱菌であるサーマス・サーモフィラスHB8株からセリンアセチルトランスフェラーゼを単離することに成功し、またこのセリンアセチルトランスフェラーゼを用いることによりL-システインを簡便かつ高効率に合成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。【0006】すなわち、本発明は以下の通りである。(1) 以下の(a)又は(b)のタンパク質。(a) 配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質(b) 配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された配列を含み、かつ、セリンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質上記タンパク質としては、サーマス属に属する微生物(例えばサーマス・サーモフィラス)由来のものが挙げられる。【0007】(2) 以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子。(a) 配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質(b) 配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された配列を含み、かつ、セリンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質【0008】(3) 以下の(c)又は(d)のDNAを含む遺伝子。(c) 配列番号1に示される塩基配列からなるDNA(d) 配列番号1に示される塩基配列の全部若しくは一部の配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、セリンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA【0009】(4) 前記遺伝子を含有する組換えベクター。(5) 前記ベクターを含む形質転換体。(6) 前記形質転換体を培養し、得られる培養物からセリンアセチルトランスフェラーゼを採取することを特徴とするセリンアセチルトランスフェラーゼの製造方法。(7) 高度好熱菌に由来するセリンアセチルトランスフェラーゼとO-アセチルセリンチオールリアーゼとを含む酵素反応液中にてL-システインを合成し、該酵素反応液からL-システインを採取することを特徴とするL-システインの製造方法。上記L-システインとしては、35S標識L-システインが挙げられる。また、高度好熱菌としてはサーマス属に属する微生物、例えばサーマス・サーモフィラスが挙げられる。【0010】【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。【0011】本発明は、高度好熱菌由来のセリンアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、及び該遺伝子によりコードされるセリンアセチルトランスフェラーゼ(以下、「SAT」という。)である。本発明の遺伝子にコードされるタンパク質は、理化学的性質としてpH安定性、温度安定性、変性剤に対する安定性に優れている。特に70℃前後においても構造変化しないという熱安定性を示す。さらに、尿素などの変性剤に対しても安定性が高い。また本発明は、高度好熱菌由来のタンパク質を用いることを特徴とするL-システインの製造方法である。上記タンパク質はpH安定性及び温度安定性に優れているため、工業的なL-システイン製造に適している。【0012】以下、本発明の遺伝子について詳細に説明する。1.本発明の遺伝子のクローニング高度好熱菌は、75〜85℃の温度環境で生育可能である。高度好熱菌は、温泉の源泉、その周辺の土壌などに棲息し、このような場所から採取した湯、土壌などのサンプルを塗布した寒天培地を70℃〜80℃で培養することにより単離することができる。高度好熱菌としては、サーマス属に属する微生物、例えばサーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)等が挙げられる。【0013】次に、上記高度好熱菌からゲノムDNAを調製する。ゲノムDNAの調製は公知の方法、例えばフェノール・クロロホルム法等により調製する。ゲノムDNAライブラリーを作製するには、調製したゲノムDNAを適当な制限酵素(EcoRIなど)により消化し、市販のパッケージングキットを用いてλファージにパッケージングする方法を利用することができるが、この方法に限定されない。【0014】上記のようにして得られるゲノムDNAライブラリーから目的のDNAを有する株を選択するスクリーニング方法としては、例えば、公開されているSATの塩基配列あるいは配列番号1に示される塩基配列に基づいてセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを合成し、これを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行う方法が挙げられる。例えばセンス鎖についてはatatcatatg ccatggcttc ttccccgcga gatcgcgc(配列番号3)を、アンチセンス鎖についてはatatagatct ttattaagag cccgcctccc ttgttccgaa g(配列番号4)を用いることができる。但し、本発明においてはこれらのプライマーに限定されるものではない。【0015】あるいは、ゲノムDNAを鋳型として、これらのプライマーを用いてPCRを行う方法によっても本発明の遺伝子が得られる。また、配列番号1に示される塩基配列又はその一部を有するDNA断片を、32P、35S又はビオチン等で標識してプローブとし、これをニトロセルロースフィルター等に変性固定させたライブラリーのDNAとハイブリダイズさせ、得られたポジティブ株を検索することによりスクリーニングすることができる。【0016】上述のゲノムDNAライブラリーのスクリーニング等により得られたクローンについて塩基配列の決定を行う。塩基配列の決定はマキサム-ギルバートの化学修飾法、又はM13ファージを用いるジデオキシヌクレオチド鎖終結法等の公知手法により行うことができるが、通常は自動塩基配列決定機(例えばPERKIN-ELMER社製373A DNAシークエンサー等)、及びシークエンス反応キット(例えばTAKARA社製BcaBESTジデオキシシークエンシングキット等)を用いて配列決定が行われる。【0017】配列番号1に本発明の遺伝子(全長cDNA)のセンス鎖の塩基配列を、配列番号2に本発明のタンパク質のアミノ酸配列を例示する。但し、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質が、セリンアセチルトランスフェラーゼ活性を有する限り、当該アミノ酸配列において複数個、好ましくは1若しくは数個のアミノ酸に欠失、置換、付加等の変異が生じてもよい。セリンアセチルトランスフェラーゼ活性とは、アセチル補酵素A(アセチル-CoA)のアセチル基がセリンのヒドロキシル基の酸素に転移して、O-アセチルセリンと補酵素Aになることを指す。この活性は、(1)アセチル-CoAのチオエステル結合に232nmの吸光があることを利用し、反応が進むことによるアセチル-CoAの減少を232nmの吸光度の減少により追跡するか、又は(2)反応が進むことによりCoAが生成されるが、これはフリーのSH基を有するものであるため、5,5-ジチオビス-(ニトロ安息香酸)(DTNB)のようなSH滴定試薬と結合させて5-メルカプト-2-ニトロ安息香酸を生じさせ、これに412nmの吸光があることを利用して412nmの吸光度の上昇を追跡することによって確認することができる。【0018】例えば、配列番号2に示されるアミノ酸配列の1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失してもよく、配列番号2に示されるアミノ酸配列に1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が付加してもよく、あるいは、配列番号2に示されるアミノ酸配列の1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したものも、本発明のタンパク質に含まれる。【0019】一旦SAT遺伝子の塩基配列が確定すると、その後は化学合成によって、この遺伝子を得ることができる。また、部位特異的突然変異誘発法等によって本発明の遺伝子の変異型であって上記活性を有するものを合成することもできる。なお、遺伝子に変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutan-K(TAKARA社製)やMutan-G(TAKARA社製))などを用いて変異の導入が行われる。【0020】 さらに、上記DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、セリンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子も本発明の遺伝子に含まれる。ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。また、本発明の遺伝子にコードされるタンパク質は、4〜80℃において熱安定性を有するものである。従って、4〜80℃において熱安定性を有する限り、配列番号2において変異が生じていてもよい。本発明のセリンアセチルトランスフェラーゼは温度安定性が優れており、特に70℃前後においても構造変化しないという熱安定性を示すものである。【0021】2.組換えベクター及び形質転換体の作製本発明の組換えベクターは、上記遺伝子を適当なベクターに連結することにより得ることができ、形質転換体は、本発明の組換えベクターを、目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。【0022】ベクターには、宿主微生物で自律的に増殖し得るファージ又はプラスミドが使用される。プラスミド DNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えばpBR322, pBR325, pUC118, pUC119, pUC18, pUC19等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110, pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13, YEp24, YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。さらに、レトロウイルス又はワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクターを用いることもできる。ベクターに本発明の遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクター DNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。【0023】本発明の遺伝子は、その遺伝子の機能が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、本発明のベクターには、プロモーター、本発明の遺伝子のほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを連結することができる。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。さらに、大腸菌及び酵母などの2種以上の宿主微生物で自律的増殖が可能なベクターのほか、各種のシャトルベクターを使用することもできる。このようなベクターについても、前記制限酵素で切断し、その断片を得ることができる。【0024】DNA断片とベクター断片とを連結させるには、公知のDNAリガーゼを用いる。そして、DNA断片とベクター断片とをアニーリングさせた後連結させ、組換えベクターを作製する。形質転換に使用する宿主としては、本発明の遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細胞が挙げられる。【0025】細菌を宿主とする場合は、本発明の組換えベクターが該細菌中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、本発明の遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。大腸菌としては、例えばエッシェリヒア・コリ(Escherichia coli) DH5αなどが挙げられ、枯草菌としては、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などが挙げられる。プロモーターは、大腸菌等の宿主中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。例えばtrpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーターなどの、大腸菌やファージに由来するプロモーターが用いられる。tacプロモーターなどのように、人為的に設計改変されたプロモーターを用いてもよい。細菌への組換えベクターの導入方法は、細菌にDNAを導入する方法であれば特に限定されるものではない。例えばカルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。【0026】酵母を宿主とする場合は、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)などが用いられる。この場合、プロモーターは酵母中で発現できるものであれば特に限定されず、例えばGAL1プロモーター、GAL10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーター等を用いることができる。酵母への組換えベクターの導入方法は、酵母にDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えばエレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法等が挙げられる。【0027】動物細胞を宿主とする場合は、サル細胞COS-7、Vero、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞等が用いられる。プロモーターとしてSRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター等が用いられ、また、ヒトサイトメガロウイルスの初期遺伝子プロモーター等を用いてもよい。動物細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばエレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等が挙げられる。昆虫細胞を宿主とする場合は、Sf9細胞などが用いられる。昆虫細胞への組換えベクターの導入方法としては、例えばリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。【0028】3.SATの生産本発明のタンパク質は物理化学的に安定であるため、化学工業的な物質生産において触媒などとして利用することができる。本発明において、目的のタンパク質(SAT)は、目的遺伝子を保有する前記形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清、あるいは培養細胞若しくは培養菌体又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。本発明の形質転換体を培地に培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。【0029】大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。【0030】炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が用いられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、又はその他の含窒素化合物が用いられる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。【0031】培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、37℃で6〜24時間行う。培養期間中、pHは中性付近に保持する。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。【0032】プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、Lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加してもよい。【0033】動物細胞を宿主として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPMI1640培地、DMEM培地又はこれらの培地に牛胎児血清等を添加した培地等が用いられる。培養は、通常、5%CO2存在下、37℃で1〜30日行う。培養中は必要に応じてカナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。【0034】培養後、目的タンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕することによりタンパク質を抽出する。また、目的タンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体又は細胞を除去する。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中から目的のタンパク質を単離精製することができる。【0035】目的のタンパク質が得られたか否かは、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動等により確認することができる。さらに、目的タンパク質の理化学的性質又は機能を調べるため、種々の試験を行うことができる。試験項目としては、X線結晶解析、CDスペクトル解析、NMR解析等が挙げられる。【0036】4.高度好熱菌由来タンパク質を用いたL-システイン合成本発明のL-システイン製造方法は、高度好熱菌に由来するSATとO-アセチルセリンチオールリアーゼ(以下、「ASTL」という。)とを含む酵素反応液中にてL-システインを合成し、該酵素反応液からL-システインを採取することを特徴とするものである。L-システインは、図1に示される2段階の反応により合成される。第1の反応は、アセチルCoAによるL-セリンの活性化であり、SATにより触媒される。第2の反応は、上記反応により生成するO-アセチルセリンからL-システインが生成する反応であり、ASTLにより触媒される。【0037】本発明においては、高温安定性を有する高度好熱菌由来のタンパク質を上記反応の酵素として用いることにより、L-システイン製造の簡便化・コスト削減を図るものである。高度好熱菌由来のSATは上述した通り生産することができる。また、高度好熱菌由来のASTLは既に単離されており、当該タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列を配列番号5に、当該タンパク質のアミノ酸配列を配列番号6に示す。この塩基配列情報を用いて当技術分野で公知の手法によりASTLを大量に得ることができる。具体的には、上述したように遺伝子組換え手法を用いて作製した微生物に当該タンパク質を生産させることができる。あるいは、高度好熱菌菌体より直接精製することもできる。【0038】本発明のL-システイン製造方法においては、まず、上述のようにして得られる高度好熱菌由来のSATとASTLとを含む酵素反応液を調製する。該酵素反応液には、上記2種の酵素の他に、基質であるL-セリン、アセチル-CoA及び硫化ナトリウムが含まれる。また、場合によりピリドキサールリン酸(PLP)及び/又はコバルトを添加してもよい。【0039】調製された酵素反応液中において、L-セリンを基質とした酵素反応が行われる。酵素反応は、25℃〜80℃にて5分〜2時間で行うことができ、好ましくは65℃〜75℃にて10分〜30分で行う。35S標識L-システインを合成する場合には、培地に35S標識硫化ナトリウムを添加する。本発明のシステイン製造方法では、この35S標識硫化ナトリウムに含まれる35Sが効率的にL-システインに取り込まれる。【0040】酵素反応終了後、L-システインは酵素反応液から回収することにより得ることができる。アミノ酸の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記酵素反応液からL-システインを単離精製することができる。【0041】本発明のL-システイン製造方法は、L-システインの収率が高く、また出発物質からはL-システインと副産物として酢酸及びCoAが生成されるのみであり、精製工程が簡便である。また、使用する高度好熱菌由来のタンパク質は熱安定性が高く、常温菌由来の酵素を用いる方法よりも工業化に適している。【0042】【実施例】以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。〔実施例1〕 Thermus thermophilus HB8由来SAT遺伝子のクローニングThermus thermophilus HB8(ATCC27634)をThermus栄養培地(0.4%トリプトン(DIFCO laboratories)、0.2%酵母エキス(オリエンタル酵母)、0.1%NaCl、pH7.5)5mlに植菌し、70℃、15時間培養した後、5,000rpm、10分の遠心により菌体を回収した。得られた菌体を10mMトリス塩酸(pH8.0)、10mM EDTA 500μlに懸濁し、10mgの卵白リゾチーム(生化学工業株式会社)を加えて42℃で20分間インキュベートし溶菌した。100℃、10分間の熱処理を行ったRnaseA(Sigma社)溶液を最終濃度が0.1mg/mlとなるように加えて37℃、30分間反応させた後、100μlの10%SDS溶液を加えて37℃、20分間インキュベートした。1mgのプロテアーゼKを加え50℃、30分間反応させ、さらに65℃で15分間インキュベートした。フェノール抽出、フェノール-クロロフォルム抽出、クロロフォルム抽出を1回ずつ行った後、水層に1.5mlの100%冷エタノールを重層し、析出されたDNAを、先端を丸めたパスツールピペットで巻き取った。70%エタノール、100%エタノールによりDNAをリンスし、乾燥させた後、一晩かけて200μlの10mMトリス塩酸(pH8.0)、10mM EDTA(TE)緩衝液に溶解した。【0043】下記の5'側プライマー及び3'側プライマーを用い、Thermus thermophilus HB8ゲノムDNA0.1μgを鋳型として下記に示す組成及び反応条件にてPCRを行い、SATをコードするDNAフラグメントを増幅した。5'側プライマー:atatcatatg ccatggcttc ttccccgcga gatcgcgc(配列番号3)3'側プライマー:atatagatct ttattaagag cccgcctccc ttgttccgaa g(配列番号4)反応液組成2×GC buffer I 50μldNTPs 各2.5mM 16μl5'側プライマー(10pmol/μl) 5μl3'側プライマー(10pmol/μl) 5μlLa Taq(宝酒造 5units/μl) 0.5μl鋳型ゲノムDNA 1μl全反応液量 100μl反応条件98℃、3分98℃、0.5分65℃、0.5分72℃、1分上記反応を25サイクル【0044】この反応により増幅された約0.9kbのDNAフラグメントをアガロースゲル電気泳動により単離し、ゲルから抽出した。このPCR産物とベクターpT7Blue(Novagen)をTAクローニング法の原理でライゲーション反応により接続した。この反応液で大腸菌DH5αを形質転換し、得られたアンピシリン耐性の形質転換体より組換えプラスミドpTSATを抽出した。このプラスミドを鋳型としてPRISMシークエンシングキット(Perkin Elmer社)を用いて反応を行い、その後ABI377(Applied Biosystems社)を用いて解析を行って、SATをコードする遺伝子の塩基配列を決定した。その結果、配列番号1に示される塩基配列が得られた。また、該遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。【0045】〔実施例2〕 Thermus thermophilus HB8由来SAT タンパク質の調製pTSATを、100mM NaCl、10mM MgCl2、1mM ジチオトレイトール(DTT)及び50mMトリス塩酸バッファー(pH7.5)40μl中にて、制限酵素NdeI 2ユニット及びBglII 1ユニットを用いて37℃、1時間分解後、アガロースゲル電気泳動により約0.9kbのSATフラグメントを単離した。制限酵素NdeI及びBamHIによる分解、並びにバクテリア由来アルカリフォスファターゼによる末端リン酸基の除去を行ったベクターpET-11aと、上述の処理により得られたSATフラグメントをライゲーション反応により接続し、得られた組換えベクターpET-SATを用いて大腸菌BL21(DE3)を形質転換した。【0046】この形質転換体のコロニーを1LのL培地(1%バクトトリプトン、0.5%イーストエクストラクト、1%NaCl、グルコース及び50μg/mlアンピシリン)に植菌し、37℃、18時間培養した。遠心により菌体を回収し、この菌体を20mMトリス塩酸、50mM NaCl、5mM 2-メルカプトエタノール、pH8.0 140mlに懸濁し、超音波処理により菌体を破砕した。70℃、10分間の熱処理後、40,000rpm、4℃、1時間の超遠心により菌体粗抽出液を得た。この液に終濃度1.05Mになるように硫酸アンモニウムを加え、50mMリン酸ナトリウム(pH7.0)及び1.05M硫酸アンモニウムで平衡化したRESOURCE PHE(疎水カラム)にアプライした後、1.05M〜0M硫安のリニアグラジエントで溶出した。SATを含むフラクションを集め、脱塩後、20mMトリス塩酸(pH8.0)で平衡化したRESOURCE Q(陰イオン交換カラム)にアプライした後、0〜1.0M NaClのリニアグラジエントで溶出した。SATを含むフラクションを集め、20mMトリス塩酸(pH8.0)及び0.15M NaClで平衡化したSuperdex 200(ゲルろ過カラム)により精製し、SATの精製標品を得た。図2に示すSDS-PAGEの結果より、SATが約33kDaのタンパク質であることが明らかである。【0047】〔実施例3〕 Thermus thermophilus HB8由来タンパク質を用いたL-システインの合成下記に示す組成の酵素反応液を調製し、70℃、15分間でL-システインの合成反応を行った。酵素反応液組成50mM リン酸ナトリウムpH7.01mM アセチル‐CoA10mM L-セリン0.4mM PLP2.5mM Na2S0.01mM コバルト10μl SAT10μl ASTL(部分精製標品)全反応液量:100μl【0048】ASTLは次のようにして調製した。Thermus thermophilus HB8のコロニーを1LのThermus栄養培地(実施例1参照)に植菌し、70℃、18時間培養した。遠心により菌体を回収し、この菌体を20mMトリス塩酸、50mM NaCl、5mM 2-メルカプトエタノール、pH8.0 140mlに懸濁し、超音波処理により菌体を破砕した。70℃、10分間の熱処理後、40,000rpm、4℃、1時間の超遠心により菌体粗抽出液を得た。この液に終濃度1.05Mになるように硫酸アンモニウムを加え、50mMリン酸ナトリウム(pH7.0)及び1.05M硫酸アンモニウムで平衡化したRESOURCE PHE(疎水カラム)にアプライした後、1.05M〜0M硫安のリニアグラジエントで溶出した。ASTLを含むフラクションを集め、脱塩後、20mMトリス塩酸(pH8.0)で平衡化したRESOURCE Q(陰イオン交換カラム)にアプライした後、0〜1.0M NaClのリニアグラジエントで溶出した。ASTLを含むフラクションを集め、20mMトリス塩酸(pH8.0)及び0.15M NaClで平衡化したSuperdex 200(ゲルろ過カラム)により精製し、ASTLの部分精製標品を得た。【0049】酵素反応終了後、上記酵素反応液の全量にニンヒドリン溶液(ニンヒドリン250mgを4mlの塩酸に溶かし、酢酸16mlを加えたもの)を加え、混合した後、100℃、5分間の反応を行った。この液に100%エタノールを400μl加え、560nmにおける吸光度を測定した。予め、既知濃度のL-システイン溶液を用いて作成した検量線により、合成されたL-システイン量を求めたところ、0.3mMであった。また、アセチル-CoAの濃度を2mM、3mMとした場合、得られたL-システイン量はそれぞれ0.4mM、0.5mMであった。システインのアセチル-CoAに対するモル収率は16〜30%であり、システインのセリンに対するモル収率は3〜5%であった。以上の結果より、高度好熱菌由来のSAT及びASTLを用いると、L-システインを効率的に合成可能であることがわかった。【0050】【発明の効果】本発明により、高度好熱菌由来セリンアセチルトランスフェラーゼ及びそれをコードする遺伝子が提供される。本発明のタンパク質は、工業的L-システイン製造に有用であり、また、本発明の遺伝子は、タンパク質の大量生産のための原料として有用である。【0051】【配列表】【0052】【配列表フリーテキスト】配列番号3:合成DNA配列番号4:合成DNA【図面の簡単な説明】【図1】 L-セリンからL-システインを合成する反応を示す図である。【図2】高度好熱菌由来セリンアセチルトランスフェラーゼのSDS-PAGEの結果を示す図である。 以下の(a)又は(b)のタンパク質。 (a) 配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質 (b) 配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された配列を含み、かつ、セリンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質 タンパク質がサーマス属に属する微生物由来のものである請求項1記載のタンパク質。 サーマス属に属する微生物がサーマス・サーモフィラスである請求項2記載のタンパク質。 以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子。 (a) 配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質 (b) 配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された配列を含み、かつ、セリンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質 以下の(c)又は(d)のDNAを含む遺伝子。 (c) 配列番号1に示される塩基配列からなるDNA (d) 配列番号1に示される塩基配列の全部若しくは一部の配列に相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、セリンアセチルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA 請求項4又は5記載の遺伝子を含有する組換えベクター。 請求項6記載のベクターを含む形質転換体。 請求項6記載の形質転換体を培養し、得られる培養物からセリンアセチルトランスフェラーゼを採取することを特徴とするセリンアセチルトランスフェラーゼの製造方法。


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