タイトル: | 特許公報(B2)_ケフィア粒から分離したラクトコッカス属乳酸菌とそれを用いた食品の製造法 |
出願番号: | 2001238579 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C12N 1/20,A23C 9/123,A23L 1/30,A61K 35/74,A61P 35/00,A61P 37/04,C12R 1/01 |
元島 英雅 内田 健治 JP 4612971 特許公報(B2) 20101022 2001238579 20010807 ケフィア粒から分離したラクトコッカス属乳酸菌とそれを用いた食品の製造法 よつ葉乳業株式会社 591181894 矢野 裕也 100086221 元島 英雅 内田 健治 20110112 C12N 1/20 20060101AFI20101216BHJP A23C 9/123 20060101ALI20101216BHJP A23L 1/30 20060101ALI20101216BHJP A61K 35/74 20060101ALN20101216BHJP A61P 35/00 20060101ALN20101216BHJP A61P 37/04 20060101ALN20101216BHJP C12R 1/01 20060101ALN20101216BHJP JPC12N1/20 AA23C9/123A23L1/30 ZA61K35/74 AA61P35/00A61P37/04C12N1/20 AC12R1:01 C12N1/00-7/08 BIOSIS/WPIDS/FOOD SCIENCE AND TECHNOLOGY ABSTRACTS/FOODLINE R:SCIENCE SIGHT/ FOODS ADLIBRA PUBMED JSTPLUS 特開平10−139674(JP,A) 特開昭63−301782(JP,A) 日本畜産学会第98会大会講演要旨、2001年3月20日、p168 日本食品科学工学会 第45回大会講演集、1998年、p97 3 FERM P-18320 2003047462 20030218 10 20040521 2007029477 20071031 鈴木 恵理子 加々美 一恵 鵜飼 健 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ケフィア粒から分離したラクトコッカス属乳酸菌とそれを用いた食品の製造法に関する。詳しくは、伝統的な発酵乳の1種であるケフィア(あるいはケフィールとも呼ばれる)から分離された乳酸菌とその利用に関するもので、より詳しくは免疫賦活効果を有する乳酸菌並びにこの乳酸菌を用いて、人において免疫賦活作用及び抗腫瘍効果を期待できる発酵乳等の食品を製造する方法に関するものである。【0002】【従来の技術】ケフィア(Kefir) は、ロシアのコーカサス地方を起源とする発酵乳の1種である。これは、クリーム状でやや泡立ち、乳酸と微量のアルコール及び炭酸ガスを含み、爽快な風味を有している。今日ロシアや東欧諸国を中心に生産されており、これらの国ではヨーグルトと同様に知られている。ケフィアの製造にはケフィア粒(ケフィール粒、ケフィールグレインとも呼ばれる。)と称される天然の発酵種がスターターとして用いられる。【0003】ケフィア粒は、乳酸菌と酵母等の微生物が共生しており、白色から乳白色、半透明で、粒状の菌塊をなしたもので、数ミリから数センチの大きさがあり、弾力がある。外観はカリフラワー状を呈している。牛乳中であたかも1種類の菌のように増殖し、その性質を伝える。このケフィア粒は、代々牛乳に植え継がれることで今日まで伝えられてきている。このケフィア粒の起源が何に由来するのかは知られていない。ケフィアに関する最も古い報告の一つは1881年発行の文献(Kern, E., Bull. de la societe naturalistes de Moscou LVI, 141-177, 1881)である。【0004】この文献によると、ケフィアはコーカサスの北方の山岳民族であるオセット族などが愛飲していた発酵乳で、ケフィア粒は村の秘密とされていたらしい。今日のケフィア粒もこの文献の記載と基本的な性質に変化がないことが分かる。 今日でもケフィアの製造には、代々植え継がれてきたケフィア粒を用いて製造される。ロシアで行われている典型的な製造方法は次のようなものである。まず、ケフィア粒を殺菌済みの脱脂乳などで一昼夜培養し、そのケフィア粒は金網等で漉しとる。この漉しとった濾液をバルクスターターとする。漉しとったケフィア粒は次の製造に用いるために植え継がれる。牛乳を十分に殺菌した後(90℃で10分間程度)、22℃まで冷却し、これにバルクスターターを2%から5%程度接種する。一昼夜22℃で培養すると凝固するので、これを撹拌後、冷却して容器に充填する。これが典型的なケフィアである。これをヨーグルトのように食べる。【0005】ヨーグルトなどが純粋な菌株を用いて製造されるのと違い、ケフィアは伝統的に植え継がれている天然の粒を製造に用いる点が大きな特徴である。しかし、ケフィア粒がこのように継代培養によって維持されているために、例えば、大腸菌群に汚染されたり、菌叢が変化したり、本来ケフィアに特有でない酵母に汚染されたりした場合に、一定の品質を維持するということが困難であるという大きな欠点があった。【0006】ところで、このケフィア及びケフィア粒の抽出物には従来から、数々の生理活性があることが報告されている。総説として、谷、大石らの文献(月刊フードケミカル、2001年3 月号、51-55 ページ)などがある。また、宮内らはケフィア粒より抽出した多糖類(KGP) がマクロファージを活性化させることにより抗血栓作用を示すことを報告している(宮内他、第80回、日本畜産学会大会要旨集、78(1987))。塩見らはケフィア粒から抽出した水溶性の多糖類を腫瘍細胞を移植されたマウスに接種させたところ、ザルコーマ180(SR180)で81%、エールリヒ腹水癌では59%の腫瘍増殖抑制効果を示し、その効果は生体の免疫機能を賦活化することに起因していると報告している(塩見ら、Jpn. J. Med. Sci. Biol., 35, 75 (1982))。【0007】【発明が解決しようとする課題】しかし、これらはケフィア粒そのものから抽出した物質に関するものである。ケフィア粒を接種して、発酵するケフィアにおいては、ケフィア粒自体は、金網で漉し取るため、飲用に供するケフィア自体にはあまり含まれていない。それ故、このような効果がケフィアの飲用においても、ケフィア粒抽出物と同様な効果を示すかどうかが問題である。そのため、ケフィア粒から特定の菌株を分離して培養しても、ケフィア粒から製造したケフィアそのもののように免疫賦活作用及び抗腫瘍効果などの保健効果を期待できるかどうか分からないという問題があった。本発明の目的は、ケフィアが有している免疫賦活作用や抗腫瘍作用に関与している菌株を探索し、これを発酵乳などの食品の製造に利用する方法を確立することである。【0008】【課題を解決するための手段】ケフィアは、上述のように、酵母と乳酸菌叢が複雑に共生しているため、均質な製品を製造することは困難である。しかも、製品中の酵母が低温下でも発酵を継続することによって、保存中に次第に品質が変化するため、安定した品質保持期限を設定することが困難である。それ故、ケフィアが持つ免疫賦活効果等を有する菌株を特定できれば、ケフィアと同等の活性が期待できる安定な発酵乳製品等を製造できる。そこで、出願人が維持、管理しているケフィア粒(以下、TCHRと略称することがある。) からケフィア粒を構成する乳酸菌を分離し、当該乳酸菌を用いて発酵乳を製造し、次いでこれを常法によって凍結乾燥したものを用いて、マウスにおける免疫賦活効果等を調べた。その結果、ケフィア粒に由来する特定の菌株、特にラクトコッカス(Lactococcus)属に属する乳酸菌の中にケフィアと同等の免疫賦活効果と腫瘍増殖抑制効果を持つものがあることを見出した。この菌株を用いれば、免疫賦活効果と腫瘍増殖抑制効果がケフィアと同等であることを期待できる発酵乳などの食品を容易に製造できるようになる。しかも、この乳酸菌はケフィア粒のような複雑な菌叢を有していないために、ケフィア以外の各種の発酵乳及び発酵乳製品のスターターとしても使用できる。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。【0009】 請求項1記載の本発明は、ケフィア粒より分離した免疫賦活活性を有するラクトコッカス(Lactococcus)YRC3780株(FERM P−18320)に関する。 請求項2記載の本発明は、請求項1記載のラクトコッカスYRC3780株を用いることを特徴とする食品の製造法である。 請求項3記載の本発明は、食品が、発酵乳製品であることを特徴とする請求項2記載の食品の製造法である。【0010】【発明の実施の形態】以下において、本発明を詳しく説明する。1)ケフィア粒からのラクトコッカス属乳酸菌の分離と同定ケフィア粒から分離される代表的な乳酸菌は、ラクトバチルス・ケフィールアノファシェンス(Lactobacillus kefiranofaciens)、ラクトバチルス・ケフィールグラナム(Lactobacillus kefirgranum)、ラクトバチルス・ケフィール(Lactobacillus kefir)、ロイコノストック・ラクティス(Leuconostoc lactis) 、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis) などである。【0011】このうち、ラクトバチルス・ケフィールアノファシェンスは、特にケフィア粒中で多糖類を生産する菌株として特徴づけられる。一般にラクトバチルス属乳酸菌は、MRS寒天培地、LBS寒天培地、トマトジュース寒天培地等を用いることによって分離できる。しかし、ケフィア分離株のうち、特に多糖類を産出して粘稠性を示すラクトバチルス・ケフィールアノファシェンスは、特殊な培地でなければ増殖しない(Takizawaら、Int. J. Sys. Bacteriol., 435-439, 1994)。これに対して、ラクトコッカス属乳酸菌はケフィアやケフィア粒からでも、通常用いられるM17寒天培地を用いて容易に分離できる。すなわち、ケフィアあるいはケフィア粒を適当な方法で無菌的に分散、希釈してM17寒天培地に塗沫し、30℃で2〜7日間培養すると、コロニーを生じる。コロニーの形態、菌形態等から、ラクトコッカス属乳酸菌を容易に分離することができる。ラクトコッカス属乳酸菌の分離及び同定は、既知の方法によって容易に実施することが可能である。例えば、Skinner, F. A. and Lovelock, D. W., Identification Methods for Microbiologists ( 2nd ed.), Academic Press, 1979 あるいは小崎道雄監修、内村、岡田著、乳酸菌実験マニュアル(朝倉書店、1992年)に記載の方法に従えばよい。【0012】このようにして、我々は長年に渡って継代培養しているケフィア粒からラクトコッカス・ラクティスM17−1株を分離した。なお、分離源であるケフィア粒は、インターネット等を介して容易に購入することが可能であるので、出願人が維持、管理していたケフィア粒以外のものも、分離源とすることができる。上記M17−1株は、その後の同定によってラクトコッカス・ラクティス サブスピーシーズ クレモリスであることが判明した。本発明者らは本菌をラクトコッカスYRC3780株と命名した。本菌は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されており、その受託番号はFERM P−18320である。【0013】2)本発明に係るYRC3780株の菌学的性質本菌の菌学的性質を調べるため、乳酸菌実験マニュアル(朝倉書店、1992年) に従って、以下の生化学的性状試験を行った。グラム染色、カタラーゼ試験、発酵形式、乳酸旋光性、生育温度試験、初発pH試験、アルギニンからのアンモニアの生成試験。また、16SrRNA 遺伝子配列による同定試験も行った。その結果、本菌はグラム染色性が陽性の球菌で、カタラーゼ反応陰性、ホモ発酵性、L型乳酸を生産することが分かった。また、初発pH試験では、pH9.2、9.6共に生育しなかった。アルギニンからアンモニアを生産しなかった。【0014】次に、耐塩性試験では4%、6.5%共に生育しなかった。生育温度試験では10、15、25、32℃では生育し、40、45℃は生育しなかった。一方、API50 CH(日本ビオメリュー・バイテック製)を用いた糖発酵性試験では、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、N−アセチルグルコサミン、セロビオース、ラクトースを発酵した。16S 同定では、ラクトコッカス・ラクティス サブスピーシーズ クレモリスと配列が一致した。ラクトコッカス・ラクティスには、ラクティス(lactis)、ジアセチラクティス(diacetylactis)及びクレモリス(cremoris)の3種類の亜種が存在するが、今回行った16SrDNA の塩基配列、糖発酵性及びその他の性状すべてにおいて、ラクトコッカス・ラクティス サブスピーシーズ クレモリスと一致した。【0015】3)YRC3780株の免疫賦活作用本菌は、実施例に示したように、腫瘍増殖抑制作用を有しており、この効果は生体の免疫機能を賦活化することに起因している。【0016】4)YRC3780株を用いる発酵乳製品の製造本菌は、常法に従ってチーズや発酵バターなどの発酵乳製品を製造する際に、スターターとして用いることができる。また、その他の発酵食品の製造に際し、単独で、もしくは他の菌株と組み合わせて用いることができる。【0017】【実施例】次に、本発明を実施例により詳しく説明する。実施例1ケフィア粒からのラクトコッカス属乳酸菌の分離と同定ケフィア粒からの特定の菌種の分離は常法により比較的容易に実施できる。この例では、Skinner, F. A. and Lovelock, D. W., Identification Methods for Microbiologists (2nd ed.), Academic Press, 1979 あるいは小崎道雄監、内村、岡田著、乳酸菌実験マニュアル(朝倉書店、1992年)に従って行った。ケフィア粒を無菌的に水に分散、希釈し、M17寒天培地に塗抹し、30℃で5日間培養した。生じたコロニーの中から形態の異なる数種のものを選択し、常法に従って分離し、これら菌株の性状を分析して同定した。【0018】分離株の1種、M17−1株は下記の性質を有していた。(a) グラム染色性が陽性の球菌で、カタラーゼ陰性、ホモ発酵性、L型乳酸を生産する。(b) 初発pH試験ではpH9.2及び9.6で生育しない。耐塩性試験では4%及び6.5%共に生育しなかった。生育温度試験では、10、15、25及び32℃では生育したが、40℃と45℃では生育しなかった。(c) アルギニンからアンモニアを生産しなかった。(d) API50 CH(日本ビオメリュー・バイテック製)を用いた糖発酵性試験では、ガラクトース、グルコース、フルクトース、マンノース、N−アセチルグルコサミン、セロビオース、ラクトースを発酵した。(e) 16S 同定では、ラクトコッカス・ラクティス サブスピーシーズ クレモリスと配列が一致した。以上のことから、本菌はラクトコッカス・ラクティス サブスピーシーズ クレモリスであることが判明した。本発明者らは本菌をラクトコッカスYRC3780株と命名した。【0019】実施例2YRC3780株によるマウスにおける腫瘍増殖抑制効果供試動物として6週齢雄(入荷時指定週齢) のSPF 、BALB/cマウス(日本クレア製)を使用した。マウス結腸癌細胞株Colon26 (以下、Colon26 と略記することがある。)は、BALB/Cマウス直腸内にN-methyl-N-nitroso-urethanを繰り返し投与することにより発生した癌細胞株である。これらを用いてマウスにおける腫瘍増殖抑制効果を調べた。なお、試験対象物質と投与量は以下の通りである。(1)TCHR: 脱脂乳ケフィア凍結乾燥物(ケフィア粒TCHRで培養した脱脂発酵乳の凍結乾燥物 200mg/kg 投与)(2)YCHR2: 脱脂乳ケフィア凍結乾燥物(ケフィア粒YCHR2 で培養した脱脂発酵乳の凍結乾燥物 200mg/kg 投与)(3) M17-1: YRC3780株で培養した脱脂発酵乳の凍結乾燥物 200mg/kg投与【0020】ここで使用した試験対象物の由来について説明する。TCHRは、典型的なケフィア粒で、出願人が長年にわたり継代培養しているものである。 YCHR2は、TCHRを改良して乳酸非発酵性酵母のみを含む改良ケフィア粒である。 YCHR2は、TCHRに比べてアルコール発酵が抑制されている。 YRC3780株は、ケフィア粒TCHRから分離し、保存している菌株である(FERM P-18320)。【0021】試験対象物質の調製は以下の通りに行った。TCHR, YCHR2 :発酵したそれぞれのケフィア粒の濾液をスターターとして10%(w/w) 還元脱脂乳800mlに3%接種し、22℃で一昼夜培養した。M17-1 : YRC3780株(本菌株の10%グリセロール凍結物をM17ブロスに接種し、30℃で1日間培養した。その培養液を10%(w/w) 還元脱脂乳10mlに5%接種し、30℃で2日間培養した。この培養液10mlをさらに200mlの還元脱脂乳に接種し、30℃で2日間培養した。この培養液を800mlの還元脱脂乳に5%接種し、30℃で2日間培養した。【0022】培養物は、最終的に凍結乾燥実験装置(ULVAC製、DF-03H型) でフリーズドライして供試凍結乾燥物とした。対照として脱脂粉乳(商品名:脱脂粉乳、よつ葉乳業(株)製)を用いた。試験の設定は以下の通りに実施した。【0023】Colon26 担癌マウスの作製方法in vivo で継代移植を継続しているColon26 担癌マウスより、腫瘍を摘出して癌細胞分離後使用した。皮下移植21日目の担癌マウスより腫瘍部を摘出し、滅菌生理食塩水20mlを加えたシャーレ上に金属メッシュをのせ、メッシュ上で注射筒の内筒ゴム部を用いてすりつぶした。すりつぶし分離させた細胞は、シャーレ内でピペットを用いて懸濁し、700rpmで5分間遠心した。得られた沈渣に再度滅菌生理食塩水を5ml加えて再浮遊し、0.04%トリパンブルーを用いて細胞総数を測定した。さらに700rpmで5分間遠心後、滅菌生理食塩水を加え、癌細胞数1×105 /100μl/匹を腹部皮下に移植し、Colon26 担癌マウスを作製した。【0024】試験項目及び試験方法各試験対象物質及び脱脂粉乳は、蒸留水で溶解し濃度を調整した。マウスへの投与は、Colon26 担癌マウスを作製した翌日より、胃ゾンデを用いた強制経口投与にて21日間連続して摂取を行った。症状観察及び体重測定は、午前10〜11時に毎日実施した。皮下腫瘍体積の測定はノギスを用いて7、14及び21日目に測定し、下記の式に従って体積を求めた。【0025】【数1】【0026】本飼育終了後、頸椎脱臼にて動物屠殺した後に脾臓を摘出した。【0027】NK活性の測定摘出した脾臓は、5mlの10%FCS 加RPMI-1640 培地ペトリ皿中で、スライドグラス2枚の磨りガラス部分で挟み込みすりつぶし、更に金属メッシュを通し浮遊細胞液とした。1600rpm、5℃で2分間遠心後、10%FCS 加RPMI-1640 培地中に浮遊させた。その後、10%FCS 加RPMI-1640 培地で細胞数を調製し、51Crをラベルした標的細胞YAC-1 とE:T比50:1で4時間培養し、上清中に遊離した51CrからNK活性を測定した。【0028】サイトカイン産生能の測定摘出した脾臓は、5mlの10%FCS 加RPMI-1640 培地ペトリ皿中で、スライドグラス2枚の磨りガラス部分で挟み込みすりつぶし、更に金属メッシュを通し浮遊細胞液とした。1600rpm、5℃で2分間遠心後、10%FCS 加RPMI-1640 培地中に浮遊させた。浮遊させた脾臓細胞は、10%FCS 加RPMI-1640 培地で細胞数を2×106 個/mlに調製し、24孔のプレートに1ml/wellずつ分注した。更に、conA10μg/ml、LPS10 μg/mlを添加し、37℃、5%CO2 インキュベータ中で48時間培養し、その培養上清中のIL-2、IFN-γ及びTNF-αの濃度を測定した。【0029】抗腫瘍効果Colon26 結腸癌担癌マウスにTCHR、YCHR2 及びM17-1 を経口投与し、その抗腫瘍効果について腫瘍体積、NK活性並びにサイトカイン産生能を測定し、検討を行った。試験結果は、平均値±標準誤差で表し、有意差検定はStudent's t-Testを用いた。癌細胞を移植した動物は、移植後から4日目までは各群において移植部位の肉眼及び触診による変化は見られなかったが、10日目以降からは癌細胞の増殖に伴う腹部皮の隆起が確認されるようになった。14日目以降では、対照群において顕著な体毛の立毛、腫瘍の大きな担癌マウスでは行動も不活発になり、うずくまりが観察された。体毛の立毛は、TCHR群及びM17-1 群においても軽度に観察された。Colon26 担癌マウスの腫瘍体積の変化を第1表に、脾臓細胞のNK活性を第2表に、脾臓細胞の各種サイトカイン産生量を第3表に示す。【0030】【表1】第1表 Colon26 担癌マウスの腫瘍体積(単位:mm3)の変化平均値±SEM【0031】【表2】第2表 Colon26 担癌マウスの脾臓細胞のNK活性平均値±SEM * は有意差 p <0.01【0032】【表3】第3表 Colon26 担癌マウスの脾臓細胞の各種サイトカイン(濃度:pg/ml)平均値±SEM * は有意差 p <0.05【0033】剖検時の観察では、TCHR群に大腸内容物の停滞が確認された。腫瘍体積(第1表)、7日目において対照群7.01±1.37mm3 、TCHR群6.46±0.86mm3 、YCHR2 群4.68±1.03mm3 、M17-1 群6.81±1.03mm3 と癌の生着時期においては各群に差は観察されなかった。14日目では対照群73.76 ± 16.31mm3 、TCHR群56.12 ±10.94mm3、YCHR2 群47.70 ±6.70mm3 、M17-1 群54.52 ±8.27mm3 と対照群に比較し各試験対象物質において低い値を示した。更に、21日目においても同様に、対照群127.46±28.18mm3、TCHR群88.89±17.32mm3、YCHR2群75.56±10.61mm3、M17-1 群86.36±13.10mm3と対照群に比較し腫瘍体積は増加抑制を示した。【0034】NK活性(第2表)では、対照群0.97±0.17%に対しTCHR群2.60±0.20%、YCHR2 群2.17±0.21%、M17-1 群3.03±0.33%と有意(p<0.01)に上昇を示した。また、サイトカイン産生能(第3表)は、IL-2が対照群7.7 ±1.95pg/ml に対しTCHR群11.4±1.01pg/ml 、YCHR2 群15.1±1.61pg/ml 、M17-1 群13.6±1.56pg/ml とYCHR2 群が有意(p<0.05)に上昇した。一方、 IFN- γについては対照群130.5 ±18.70pg/mlに対しTCHR群139.1 ±17.82pg/ml、YCHR2 群134.8 ±33.95pg/ml、M17-1 群197.8 ±25.46pg/ml、TNF-αについても同様に、対照群779.2 ±89.10pg/mlに対しTCHR群792.0 ±62.75pg/ml、YCHR2 群787.8 ±152.10pg/ml 、M17-1 群963.8 ±93.92pg/mlと、有意差は認められないもののM17-1 群において産生能が上昇した。【0035】この結果から、試験対象物質3種のいずれにも腫瘍増殖抑制作用が確認され、その主な作用としてIL-2産生能の促進によるNK活性の上昇作用と考えられた。さらに、M17-1 群については、活性化されたNK細胞からIFN-γを産生させると共に、炎症性のサイトカインであるTNF-αの産生効果作用も持つものと推測された。以上より、TCHR、YCHR2 及びM17-1 は、Colon26 結腸癌担癌マウスに対し、経口投与において腫瘍増殖抑制効果を示すことが確認され、その作用としてはNK活性の上昇並びにサイトカイン産生能を促進させることに起因するものと示唆された。NK活性の有意の上昇と、各種サイトカインの指標から、特に本発明に係るYRC3780株は、単独でケフィア粒と同等の免疫賦活作用を有している上に、腫瘍増殖抑制活性を有しているものと期待できる。【0036】実施例4YRC3780株を用いた発酵乳の製造YRC3780株(FERM P−18320)を UHT牛乳に接種し、22℃で一昼夜培養したところ、比較的柔らかいゲルを形成し、乳酸菌数が108 /ml以上存在した。また、得られた発酵乳は官能的にも清潔で新鮮な風味があり、良質であった。しかも、ラクトバチルス・カゼイなどの中温性の乳酸菌と一緒に30℃で培養した場合も、良質な発酵乳を製造することができた。このように、本発明のYRC3780株を用いることによって、容易にケフィアと同等の免疫賦活作用が期待できる発酵乳を製造することができる。【0037】【発明の効果】本発明により提供されるラクトコッカス属乳酸菌YRC3780株は、免疫賦活活性を有している。ケフィア粒から分離されたラクトコッカス属乳酸菌が、このような作用を有していることはこれまで報告されていない。しかも、ケフィアからの分離株である他のラクトバチルス ケフィールアノファシェンスやラクトバチルス ケフィールグラナムが単独では牛乳中で増殖し難いのに対して、本菌は牛乳中で良好に増殖できるため、発酵乳を初めとする様々な乳製品の製造に用いることができる。得られた乳製品は、実施例4で示したように、良好な風味を有している。【0038】そのため、本発明によれば、YRC3780株を用いて発酵乳などの各種食品を製造することにより、経口摂取で免疫賦活作用及び腫瘍増殖抑制作用を期待できる食品を製造することが可能である。 ケフィア粒より分離した免疫賦活活性を有するラクトコッカス(Lactococcus)YRC3780株(FERM P−18320)。 請求項1記載のラクトコッカスYRC3780株を用いることを特徴とする食品の製造法。 食品が、発酵乳製品であることを特徴とする請求項2記載の食品の製造法。