タイトル: | 特許公報(B2)_タイヤ摩耗寿命予測方法 |
出願番号: | 2001236862 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | G01N 3/56,G01M 17/02 |
藏田 崇之 JP 4602605 特許公報(B2) 20101008 2001236862 20010803 タイヤ摩耗寿命予測方法 株式会社ブリヂストン 000005278 中島 淳 100079049 加藤 和詳 100084995 西元 勝一 100085279 福田 浩志 100099025 藏田 崇之 20101222 G01N 3/56 20060101AFI20101202BHJP G01M 17/02 20060101ALI20101202BHJP JPG01N3/56 GG01M17/02 Z G01N 3/56 G01M 17/02 特開平11−326143(JP,A) 特開2001−001723(JP,A) 特開平11−123910(JP,A) 4 2003050190 20030221 29 20080526 高橋 亨 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、タイヤ摩耗寿命予測方法に係り、特に、実際の走行状態でのタイヤの摩耗寿命を予測するタイヤ摩耗寿命予測方法に関する。【0002】【従来の技術】従来、車両用のタイヤの摩耗寿命を予測するために、予測対象とするタイヤをドラム試験装置に取り付けて走行させたり、予測対象とするタイヤを装着した車両を実際に所定距離だけ走行させて、そのときのタイヤの摩耗量に基づいて摩耗寿命を予測する方法が採られていた。【0003】しかしながら、これらの方法では、高精度な予測を行なうためにはタイヤの摩耗量を精度良く測定する必要があり、このためにタイヤ若しくは車両の走行距離を十分に長くする必要があるため、タイヤ摩耗寿命を予測するのに時間がかかる、という問題点があった。【0004】この問題点を解決するために、特開平11−326143号公報に記載の技術では、ランボーン摩耗試験機により予測対象とするタイヤのタイヤトレッド部と同材質のゴム試料の市場走行時と略同等のシベリティにおける摩擦エネルギー、及び所定走行距離当りの摩耗深さを求め、当該摩擦エネルギー及び摩耗深さに基づいて当該タイヤのタイヤトレッド部の摩耗し易さを示す係数(同公報では「ゴムインデックスGi」と表記。)を求めると共に、踏面観察機(同公報では「タイヤ踏面の接地部測定装置」と表記。)により当該タイヤのフリーローリング時の摩擦エネルギー、トー角が付与されている状態での摩擦エネルギー、横力が付与されている状態での摩擦エネルギー、駆動力が付与されている状態での摩擦エネルギー、及び制動力が付与されている状態での摩擦エネルギーを計測し、これらの摩擦エネルギーに基づいて当該タイヤ全体としての摩擦エネルギーを求め、上記摩耗し易さを示す係数と上記タイヤ全体としての摩擦エネルギーに基づいてタイヤの摩耗寿命を予測していた。【0005】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記特開平11−326143号公報に記載の技術では、予測対象とするタイヤのタイヤトレッド部と同材質のゴム試料が必要とされるが、予測対象とするタイヤが他社製品である場合等、タイヤトレッド部の材質が特定できない場合には、ランボーン摩耗試験において用いられるゴム試料を用意することができず、タイヤの摩耗寿命を予測することができない、という問題点があった。【0006】また、同公報に記載の技術では、摩擦エネルギーを計測する系がランボーン摩耗試験機と踏面観察機とにまたがるため、誤差要因が大きく、摩耗予測の精度の面で不利である、という問題点があった。【0007】本発明は上記問題点を解消するためになされたものであり、予測対象とするタイヤのタイヤトレッド部と同材質のゴム試料を用意することなく、当該タイヤの摩耗寿命を短時間でかつ正確に予測することができるタイヤ摩耗寿命予測方法を提供することを目的とする。【0008】【課題を解決するための手段】 上記目的を達成するために、請求項1記載のタイヤ摩耗寿命予測方法は、ドラム摩耗試験により摩耗寿命の予測対象とするタイヤに所定の大きさの所定入力を付与した状態で前記タイヤを摩耗させたときの前記タイヤの所定走行距離当りの摩耗量を計測し、かつ前記ドラム摩耗試験において前記タイヤに付与した入力と同一の入力を前記所定の大きさと同一又は略同一の大きさで付与した状態における前記タイヤの第1の摩擦エネルギーを求めると共に、市場走行時の入力を加味した入力を付与した状態における前記タイヤの第2の摩擦エネルギーを求め、前記所定走行距離当りの摩耗量である摩耗速度を、前記第1の摩擦エネルギーで除算することにより前記タイヤの摩耗し易さを示す摩耗指数を算出し、前記摩耗指数及び前記第2の摩擦エネルギーに基づいて前記タイヤの摩耗寿命を予測するものである。【0009】ここで、請求項1記載のタイヤ摩耗寿命予測方法の原理について説明する。【0010】図1に示すように、タイヤに対する摩擦エネルギーと摩耗速度(所定走行距離当りの摩耗量)とは比例関係にあるが、このときの比例定数はタイヤによって異なっている。ここで、同図におけるaタイヤ及びbタイヤの比例定数を、各々γa及びγbとする。【0011】この比例定数γa及びγbが本発明の摩耗指数に相当するものであり、トレッドゴムの種類等に左右される値である。【0012】一方、タイヤへの入力(横力、駆動力、制動力等)と、摩擦エネルギーとの関係は、一例として図2に示すようになっている。すなわち、摩擦エネルギーは、タイヤへの入力の2乗にほぼ比例しているが、タイヤ入力−摩擦エネルギー曲線の形状はタイヤの種類に応じて異なっている。【0013】ここで、aタイヤが500(N)の入力を受けたときの摩擦エネルギーがEW(500)、ドラム摩耗試験でaタイヤに略同等の入力を付与しながらaタイヤを走行させたときの摩耗速度がV(500)であるものとすると、aタイヤの摩耗指数γaは次の(1)式で表わされる。【0014】【数1】【0015】そして、aタイヤが300(N)の入力を受けたときの摩擦エネルギーがEW(300)であったとすると、ドラム摩耗試験でaタイヤに300(N)の入力を付与しながらaタイヤを走行させたときの摩耗速度V(300)は次の(2)式で求めることができる。【0016】V(300)=γa×EW(300) ・・・(2)同様に、aタイヤに市場入力をシミュレートして得られた摩擦エネルギーEWc(本発明の「第2の摩擦エネルギー」に相当。)に対しても、摩耗速度Vcは次の(3)式によって導出することができる。【0017】Vc=γa×EWc ・・・(3)以上の原理に基づき、請求項1に記載のタイヤ摩耗寿命予測方法では、ドラム摩耗試験により摩耗寿命の予測対象とするタイヤに所定大きさの所定入力を付与した状態で当該タイヤを摩耗させたときの当該タイヤの所定走行距離当りの摩耗量が計測され、かつ上記ドラム摩耗試験においてタイヤに付与した入力と同一の入力を上記所定大きさと同一又は略同一の大きさで付与した状態における上記タイヤの第1の摩擦エネルギーが求められると共に、市場走行時の入力を加味した入力を付与した状態における当該タイヤの第2の摩擦エネルギーが求められる。【0018】 そして、本発明では、上記所定走行距離当りの摩耗量である摩耗速度を、上記第1の摩擦エネルギーで除算することにより上記タイヤの摩耗し易さを示す摩耗指数が算出され、当該摩耗指数及び上記第2の摩擦エネルギーに基づいて当該タイヤの摩耗寿命が予測される。【0019】このように、請求項1に記載のタイヤ摩耗寿命予測方法によれば、ドラム摩耗試験を、摩耗指数を求めるために行なっているので、ドラム摩耗試験によって得られた摩耗量のみに基づいて摩耗寿命を予測する場合に比較してドラム摩耗試験の試験時間を短縮することができ、この結果としてタイヤの摩耗寿命を短時間で予測することができると共に、予測対象とするタイヤの摩耗量を直接計測して摩耗指数を求めているので、ランボーン摩耗試験によってタイヤの摩耗深さを求める場合に必要とされた当該タイヤのタイヤトレッド部と同材質のゴム試料を用意する必要がなく、更に、第1の摩擦エネルギー及び第2の摩擦エネルギーを双方とも予測対象とするタイヤを用いて求めているので、摩擦エネルギーをランボーン摩耗試験機及び踏面観察機の2つの異なる測定系によって求める場合のように、各測定系間の相関や誤差等を考慮する必要がなく、高精度に摩耗寿命を予測することができる。【0020】なお、本発明の上記所定入力は、請求項2記載の発明のように、横力と、駆動力及び制動力と、の少なくとも一方とすることができる。【0021】 これによって、ドラム摩耗試験を行なう際のタイヤの摩耗を促進させることができ、ドラム摩耗試験の所要時間を短縮することができる。 また、本発明は、請求項3に記載の発明のように、前記摩耗速度を、前記タイヤが市場において用いられた場合の値に換算するための補正係数である路面補正係数を加味したものとしてもよい。 さらに、本発明は、請求項4に記載の発明のように、前記摩耗指数と前記第2の摩擦エネルギーとを乗算することにより推定摩耗速度を算出し、当該推定摩耗速度及び前記タイヤの溝深さを示すNSD値に基づいて、前記タイヤのタイヤトレッド部における溝がなくなる状態に至る走行距離を示す推定耐摩耗走行距離を前記タイヤの摩耗寿命に相当するものとして算出してもよい。【0022】 ところで、特開平11−326143号公報にも記載されているように、本発明の第2の摩擦エネルギーは、フリーローリング時のタイヤの摩擦エネルギーEwf、トー角が付与されている状態でのタイヤの摩擦エネルギーEwa、横力が付与されている状態でのタイヤの摩擦エネルギーEws、駆動力が付与されている状態でのタイヤの摩擦エネルギーEwd、及び制動力が付与されている状態でのタイヤの摩擦エネルギーEwbの各摩擦エネルギーを合計して求めることが好ましい。【0023】これによって、駆動方向、制動方向、及び左右方向の剛性のみを考慮したシャーラマッハの摩耗量式を用いて摩耗寿命を予測する場合に比較して、より高精度な摩耗寿命の予測を行なうことができる。【0024】なお、この際のトー角は、進行方向に対するタイヤ赤道面の角度、横力はタイヤの転動方向と直交する方向の力、駆動力はタイヤ駆動時のタイヤの進行方向の力、制動力はタイヤ制動時の駆動力方向とは逆方向の力である。また、上記フリーローリング時のタイヤの摩擦エネルギーEwfを求める際には、タイヤが装着される車両のイニシャルキャンバー角を付与することが好ましい。【0025】ところで、実車における車両走行時のタイヤでは、車両の姿勢によってアライメントやタイヤにかかる荷重が変化するため、車両走行時における動的なアライメントの変化や荷重移動に関する要素を摩擦エネルギーEws、Ewd、及びEwbに反映させた方が好ましい。【0026】 そこで、前記摩擦エネルギーEws、前記摩擦エネルギーEwd、及び前記摩擦エネルギーEwbを、各々タイヤ使用時の動的な変化を考慮したキャンバー角、トー角、及び荷重が前記タイヤに付与された状態で求めてもよい。これにより、このようなキャンバー角、トー角、及び荷重がタイヤに付与されない状態で各摩擦エネルギーを求める場合に比較して、より高精度なタイヤの摩耗寿命予測を行なうことができる。【0027】なお、上記タイヤ使用時の動的な変化を考慮したキャンバー角、トー角、及び荷重は、走行中の車両の動的なアライメントの変化の要因となる前後(方向)、左右(方向)、ヨーイング、ローリング、及びピッチングを含めた5自由度以上(必要に応じてさらに上下(方向)を含めた6自由度)の車両モデルを用いて各々次のように算出することができる。【0028】まず、摩擦エネルギーEwsを求める際にタイヤに対して付与するキャンバー角、トー角、及び荷重は、車両の旋回時における速度及び求心加速度(旋回中心に対する加速度)を設定し、上記車両モデルを用いて定常円旋回時の車両に装着されたタイヤのキャンバー角、トー角、及び荷重をコンピュータシミュレーションにより算出する。市場走行時のような様々な入力状態であっても、上記車両の旋回時における速度及び求心加速度として車両の代表速度及び代表加速度を設定することによって定常円旋回に置き換えることが可能である。なお、実際には上記代表速度として想定する走行モードの平均速度を、上記代表加速度として想定する走行モードの加速度のRMS値を用いるのが好ましい。【0029】また、摩擦エネルギーEwdを求める際にタイヤに対して付与するキャンバー角、トー角、及び荷重は、車両の駆動加速度を設定し、上記車両モデルを用いて駆動時の車両に装着されたタイヤのキャンバー角、トー角、及び荷重をコンピュータシミュレーションにより算出する。市場走行時のような様々な入力状態であっても、上記車両の駆動加速度として車両の代表駆動加速度を設定することによって一定の慣性力の状態に置き換えることが可能である。なお、実際には上記代表駆動加速度として想定する走行モードの加速度のRMS値を用いる。【0030】同様に、摩擦エネルギーEwbを求める際にタイヤに対して付与するキャンバー角、トー角、及び荷重は、車両の制動加速度を設定し、上記車両モデルを用いて制動時の車両に装着されたタイヤのキャンバー角、トー角、及び荷重をコンピュータシミュレーションにより算出する。市場走行時のような様々な入力状態であっても、上記車両の制動加速度として車両の代表制動加速度を設定することによって一定の慣性力の状態に置き換えることが可能である。なお、実際には上記代表制動加速度として想定する走行モードの加速度のRMS値を用いる。【0031】ところで、車両が右旋回するときと左旋回するときとでは、車両に装着されたタイヤに対する同じ発生力における摩擦エネルギーは異なるが、さらにトー角等の影響により発生力も異なる。発生力が右旋回時と左旋回時とで異なる要因として、トー角による影響の他に、車両のアッカーマン特性による左右輪の実舵角の違いによる影響が知られている。【0032】そこで、左右方向の入力Fyを、コーナリングパワーCp(kgf/rad)、トー角θtoe(rad)、及びアッカーマン特性による左右輪の実舵角の差θアッカーマン(rad)を用いて、次の(4)式及び(5)式により、右旋回時の左右方向の入力Fy+と、左旋回時の左右方向の入力Fy-の2つの式に分けて考えることが好ましい。【0033】また、これに伴い、横力が付与されている状態でのタイヤの摩擦エネルギーEwsも、右旋回時の横力が付与されている状態での摩擦エネルギーEws+と、左旋回時の横力が付与されている状態での摩擦エネルギーEws-とに分けて、次の(6)式で表すことが好ましい。【0034】Ews=Ews++Ews- ・・・(6)ここで、上記アッカーマン特性による左右輪の実舵角の差θアッカーマンは、次のように計算する。【0035】すなわち、市場入力より求めた車両の平均速度で車両の左右入力(好ましくはRMS値)を発生する定常円旋回を仮定して、その旋回半径を計算し、さらにその円旋回を速度0で走行したとき、スリップ角がともに0となる左右輪それぞれの実舵角を計算する(理想的アッカーマン)。【0036】そして、実際の車両はアッカーマンがない状態(パラレルリンク)と理想的アッカーマンの中間程度のアッカーマン特性であることから上記計算値の半分の値を車両のアッカーマン特性による左右輪の実舵角の差θアッカーマンとする。【0037】なお、車両のアッカーマン特性があれば、それをそのまま用いてもよい。また、右旋回時の左右方向の入力Fy+と、左旋回時の左右方向の入力Fy-は、上記5自由度以上の車両モデルを用いたコンピュータシミュレーションにより算出してもよい。この場合、ヨーイングによる左右輪のスリップ角の差をも考慮することができるので、より摩耗寿命の予測精度が高くなる。【0038】 したがって、前記摩擦エネルギーEwsを、車両のアッカーマン特性及びトー角に基づいて、前記タイヤを車両に装着した場合の車両が右旋回するときの摩擦エネルギーEws+と、車両が左旋回するときの摩擦エネルギーEws−とに分けて求め、前記摩擦エネルギーEwsを、前記摩擦エネルギーEws+と、前記摩擦エネルギーEws−との和Ews++Ews−により求めてもよい。【0039】 このタイヤ摩耗寿命予測方法によれば、摩擦エネルギーEwsが、車両のアッカーマン特性及びトー角に基づいて、タイヤを車両に装着した場合の車両が右旋回するときの摩擦エネルギーEws+と、車両が左旋回するときの摩擦エネルギーEws−とに分けて求められ、摩擦エネルギーEwsは、摩擦エネルギーEws+と、摩擦エネルギーEws−との和Ews++Ews−により求められる。【0040】 このように、このタイヤ摩耗寿命予測方法によれば、摩擦エネルギーEwsが、アッカーマン特性及びトー角に基づいて、タイヤを車両に装着した場合の車両が右旋回するときの摩擦エネルギーEws+と、車両が左旋回するときの摩擦エネルギーEws−とに分けて求められ、かつ摩擦エネルギーEwsは、摩擦エネルギーEws+と、摩擦エネルギーEws−との和Ews++Ews−により求められるので、アッカーマン特性及びトー角に基づくことなく摩擦エネルギーEwsを求める場合に比較して、より実車走行時の状況に近い摩擦エネルギーEwsを求めることができる。【0041】上記のようなアッカーマン特性やトー角以外にも、コンプライアンスステア等による影響も考慮することが可能である。【0042】 また、このタイヤ摩耗寿命予測方法は、市場走行時の車両重心位置の左右方向の加速度分布、及び車両重心位置の前後方向の加速度分布のRMS値に基づいて、車両が右旋回するときの左右方向の入力Fy+、車両が左旋回するときの左右方向の入力Fy−、駆動力によって発生する前方向の力Fx+、及び制動力によって発生する後方向の力Fx−を決定し、決定された前記左右方向の入力Fy+、前記左右方向の入力Fy−、前記前方向の力Fx+、及び前記後方向の力Fx−に基づいて前記摩擦エネルギーEws+、前記摩擦エネルギーEws−、前記摩擦エネルギーEwd、及び前記摩擦エネルギーEwbを求めてもよい。【0043】 このタイヤ摩耗寿命予測方法によれば、市場走行時の車両重心位置の左右方向の加速度分布、及び車両重心位置の前後方向の加速度分布のRMS値に基づいて、車両が右旋回するときの左右方向の入力Fy+、車両が左旋回するときの左右方向の入力Fy−、駆動力によって発生する前方向の力Fx+、及び制動力によって発生する後方向の力Fx−が決定される。なお、ここでRMS値は、各加速度分布における所定範囲の各加速度の2乗の平均値の平方根によって求められる値である。【0044】また、本発明では、以上によって決定された上記左右方向の入力Fy+、上記左右方向の入力Fy-、上記前方向の力Fx+、及び上記後方向の力Fx-に基づいて摩擦エネルギーEws+、摩擦エネルギーEws-、摩擦エネルギーEwd、及び摩擦エネルギーEwbが求められる。【0045】 このように、このタイヤ摩耗寿命予測方法によれば、市場走行時の車両重心位置の左右方向の加速度分布、及び車両重心位置の前後方向の加速度分布のRMS値に基づいて、車両が右旋回するときの左右方向の入力Fy+、車両が左旋回するときの左右方向の入力Fy−、駆動力によって発生する前方向の力Fx+、及び制動力によって発生する後方向の力Fx−を決定し、決定された左右方向の入力Fy+、左右方向の入力Fy−、前方向の力Fx+、及び後方向の力Fx−に基づいて摩擦エネルギーEws+、摩擦エネルギーEws−、摩擦エネルギーEwd、及び摩擦エネルギーEwbを求めているので、市場走行時の車両重心位置の左右方向の加速度分布、及び車両重心位置の前後方向の加速度分布のRMS値に基づかない場合に比較して、より高精度にタイヤの摩耗寿命の予測を行なうことができる。【0046】ところで、タイヤの耐摩耗性能は、タイヤトレッド部の残溝の深さの平均値、タイヤの重量の減少量等のタイヤ全体の平均的な値に基づいて評価することが多いが、実際にタイヤを車両に装着して使用する場合には、タイヤの摩耗がトレッド幅方向に不均一となるため、最も摩耗が激しい部分がタイヤ棄却限界に達した場合に、他の部分がタイヤ棄却限界に達していない場合であっても、棄却限界とされることが多い。このことから、タイヤ全体の平均的な値のみに基づいて耐摩耗性能を予測するのではなく、トレッド幅方向の摩耗量の分布状況を予測することが好ましい。【0047】 そこで、このタイヤ摩耗寿命予測方法は、前記タイヤの複数箇所において摩耗寿命を予測してもよい。【0048】 このように、このタイヤ摩耗寿命予測方法によれば、タイヤの複数箇所の摩耗寿命が予測されるので、上記複数箇所をタイヤトレッド部のトレッド幅方向の複数箇所とすることにより、トレッド幅方向の摩耗寿命の分布(偏摩耗)を予測することができる。【0049】 なお、この発明において、前記第1の摩擦エネルギー及び前記第2の摩擦エネルギーを、タイヤの転がり半径で基準化した単位面積当たりの単位距離走行時の摩擦エネルギーとすることが好ましい。この場合、タイヤサイズの異なる複数のタイヤにおける摩耗寿命の予測結果を相互に比較することができるようになる。【0050】【発明の実施の形態】以下、図面を参照して、本発明に係るタイヤ摩耗寿命予測方法の実施の形態について詳細に説明する。【0051】〔第1実施形態〕図3のフローチャートを参照して、本第1実施形態のタイヤ摩耗寿命予測方法を説明する。なお、ここでは、ネガティブ比が比較的大きい実在のタイヤAを摩耗寿命の予測対象とした場合の具体的な数値例を示しつつ説明を行なう。【0052】まず、ステップ100では、ドラム摩耗試験により摩耗寿命の予測を行なうタイヤに対して所定大きさの所定入力(本実施の形態では、横力と、駆動力及び制動力と、の少なくとも一方。)を付与したときの当該タイヤにおける所定走行距離毎の摩耗量(減少量)を測定する。【0053】この際の摩耗量の測定は、例えば、図4に要部を示したドラム試験装置70を用いて行なうことができる。【0054】同図に示すように、このドラム試験装置70は、タイヤ30を回転自在に保持するタイヤ保持部82を備えており、タイヤ保持部82はシリンダ軸83を介して油圧シリンダ84にて上下動可能となっている。なお、タイヤ30は、必要に応じ、タイヤ保持部82によって保持された状態でモータ81により図4矢印D1方向に回転させることができるように構成されている。【0055】シリンダ軸83はモータ85により軸心を中心として双方向(時計回り及び反時計回り)に回転させることができる。また、シリンダ軸83には3成分力変換器(図示省略)が設けられており、シリンダ軸83が受ける3軸方向の力を各々測定することができる。【0056】一方、タイヤ保持部82の下方には、ドラム86が配置されている。ドラム86は、軸受88に回転自在に支持されており、モータ89によって図4矢印D2方向に回転される。【0057】以上のように構成されたドラム試験装置70により、次のようにタイヤ30における所定走行距離毎の摩耗量を測定する。なお、ここでは、上記所定入力として横力を適用した場合について説明する。【0058】まず、タイヤ30をタイヤ保持部82に取り付ける。ここでは、取り付けたタイヤ30はドラム86には接触させない。【0059】次に、モータ89を回転駆動させることによってドラム86を所定の回転速度(本実施の形態では、ドラム86の外周表面が50(km/h)で移動する速度)で回転させた後、油圧シリンダ84を作動させ、タイヤ30をドラム86の外周表面に所定の荷重(本実施の形態では、4700(N))で押し付ける。なお、このとき、当該荷重の上記3成分力変換器による計測値が上記所定の荷重となるように油圧シリンダ84を作動させる。【0060】次に、モータ85によりシリンダ軸83を、軸心を中心として時計方向(又は反時計方向)に回転させてタイヤ30にスリップ角を付与した後、シリンダ軸83を逆方向に回転させてタイヤ30に上記スリップ角とは逆方向のスリップ角を付与することを繰り返して行なうことにより、タイヤ30に対して左右方向(図4紙面垂直方向)に所定大きさ(本実施の形態では、470(N))の横力を順次付与する。なお、このとき、当該横力の上記3成分力変換器による計測値が上記所定大きさとなるように上記スリップ角の角度を調整する。【0061】以上により、タイヤ30は上記所定大きさの横力が付与された状態でドラム86に接触しながら回転し、接地面がドラム86との摩擦により削られる。【0062】次に、タイヤ30の走行時間が所定時間(本実施の形態では、4時間)に達した時点、すなわち、タイヤ30の走行距離が上記所定走行距離(本実施の形態では200(km))に達した時点でモータ85及びモータ89の回転駆動を停止し、油圧シリンダ84を作動させてタイヤ30をドラム86の外周表面から離間させた後に、タイヤ30をタイヤ保持部82から取り外す。【0063】そして、取り外したタイヤ30の重量を計測し、この計測値を以上の動作により接地面が削られる前の重量から減算することによってタイヤ30の上記所定走行距離の走行による減少量を算出し、記録する。【0064】以上の工程を、ドラム試験装置70によるタイヤ30の走行距離が所定距離(本実施の形態では、4400(km))に達するまで繰り返し行なうことにより、タイヤ30における所定走行距離毎の摩耗量(減少量)を測定する。【0065】表1には、本ステップ100により、上記タイヤAについて所定走行距離毎の摩耗量を測定したときの測定結果例が示されている。【0066】【表1】【0067】所定走行距離毎の摩耗量(減少量)の測定が終了すると、次のステップ102では、タイヤ30の所定走行距離(本実施の形態では、1km)当りの重量ロスe(g/km)を次のように導出する。【0068】まず、上記ステップ100によって得られた所定走行距離(本実施の形態では、200km)毎の摩耗量を用いて、走行距離を横軸とし、摩耗開始からの積算摩耗量を縦軸としたグラフを作成する。なお、図5には、タイヤAについての当該グラフが示されている。【0069】次に、当該グラフに描かれた曲線を直線に近似したときの当該直線の傾きを求め、これを重量ロスeとする。なお、タイヤAについてのグラフにおける上記直線は、次の1次関数で表わされた。従って、この場合の重量ロスeは、約0.0177(g/km)となる。【0070】y≒0.0177x+7.1848次のステップ104では、導出された重量ロスeに基づいて、所定走行距離(本実施の形態では、1000(km))当りの摩耗量である摩耗速度Vd(mm/1000km)を以下に示すように算出する。【0071】タイヤのトレッド面積は、次の(7)式により求められる。【0072】【数2】【0073】ここで、Wはタイヤの接地幅(mm)を、Hはタイヤの外径(mm)を、νはタイヤのネガティブ比(%)を、各々表わす。【0074】なお、ここでいうネガティブ比νは、ドラム摩耗試験と同一の条件(内圧、荷重、リム)下での接地形状において、接地幅当りのネガティブ比(接地幅を一辺とした長方形でトレッドパターンを見たときのネガティブ比)として算出されるものである。【0075】また、タイヤの摩耗体積は次の(8)式により求められる。【0076】【数3】【0077】ここで、ρはタイヤ30のトレッドゴムの比重を表わす。【0078】そして、ドラム試験装置70による摩耗量の計測のみによって得られるタイヤの摩耗速度Vxは次の(9)式によって求められる。【0079】【数4】【0080】さらに、上記(9)式に路面補正係数bを乗算した次の(10)式により摩耗速度Vdを算出する。【0081】【数5】【0082】なお、路面補正係数bは、市場でのアスファルト路によるタイヤ30の削れ易さを示すデータと、ドラム試験装置70におけるドラム86の外周表面によるタイヤ30の削れ易さを示すデータとの関係に基づいて得られた補正係数であり、ドラム試験装置70による計測によって得られたタイヤ30の摩耗速度Vxを、当該タイヤ30が市場において用いられた場合の値に換算するための補正係数である。【0083】タイヤAの接地幅Wは142(mm)であり、外径Hは660(mm)であり、ネガティブ比νは40(%)であり、比重ρは1.165(g/cm3)であり、路面補正係数bは2.2であった。【0084】従って、この場合の摩耗速度Vdは、約0.189(mm/1000km)となる。【0085】摩耗速度Vdが算出されると、次のステップ106では、上記ステップ100におけるドラム試験装置70による摩耗量の計測の際にタイヤ30に付与した入力と同一の入力(本実施の形態では、横力)を同一の大きさでタイヤ30に付与したときの摩擦エネルギーEWDを導出する。ここで、摩擦エネルギーEWDはタイヤの転がり半径で基準化した単位面積当たりの単位距離走行時の摩擦エネルギーであり、単位は(J/m3)である。【0086】この際の摩擦エネルギーの測定は、例えば図6及び図7に示す特開平7−63658号公報に記載のタイヤ踏面の接地部測定装置10を用いて行なうことができる。【0087】図6及び図7に示すように、接地部測定装置10は、長尺状のベースフレーム12を備え、ベースフレーム12は床面14に固定されている。ベースフレーム12には、所定間隔で複数本の支柱16が立設しており、支柱16の上部には、床面14と平行とされた水平フレーム18が固定されている。【0088】水平フレーム18には、複数本のローラ20が水平フレーム18の長手方向に沿って等間隔で配設されている。これらのローラ20は、軸方向が水平フレーム18の長手方向と直交方向とされ、水平フレーム18に回転自在に支持されている。【0089】これらのローラ20の上には、路面22が載置されている。路面22は矩形の板状とされ、水平フレーム18の長手方向に沿って長尺状とされている。この路面22は金属で形成されており、長手方向中央部分には透明板24が嵌め込まれている。なお、本実施の形態では、透明板24にアクリル板が用いられているが、透明であればその他の材質であってもよい。ここで、路面22の下面の摩擦係数を全体的に一定にするために、金属部分の表面には透明板24と同材質の薄板(図示省略)を貼り付けることが好ましい。なお、路面22の下面の摩擦係数を全体的に一定にするためには、上記の方法以外に金属部分又は透明板24の一方の表面粗さを変えることもできる。【0090】水平フレーム18には、移動用モータ26が取り付けられており、所定のローラ20Aが、図示しない減速機を介して移動用モータ26に連結されており、所定のローラ20Aを回転させることによって、載置された路面22を水平フレーム18の長手方向に沿って移動させることができる。【0091】また、路面22の下面には、透明板24とは異なる部位にタイヤ30の踏面から受ける力を計測する3成分力変換器32が埋め込まれている。【0092】一方、中央側の支柱16Aと支柱16Bとの間には、矩形板状のサブフレーム36が配設されている。サブフレーム36には、各角部に図示しない直線運動用ベアリングが設けられており、ベースフレーム12に立設されたスライドシャフト38に沿って上下移動可能とされている。【0093】また、サブフレーム36の長手方向両端部には、それぞれ図示しない雌ねじナットが固定されており、雌ねじナットにはベースフレーム12に設けられたギヤボックス40から立設する雄ねじ42がそれぞれ螺合している。ギヤボックス40は、軸44、減速機46を介してベースフレーム12の中央に配設された昇降用モータ48に連結されている。このため、雄ねじ42を回転させることにより、サブフレーム36を上下に移動させることができる。【0094】サブフレーム36の上面には、レール取付台50が固定されており、レール取付台50の上面には、水平フレーム18の長手方向とは直交する方向に延びる一対のレール52が設けられている。【0095】レール52の上には、タイヤ支持台54が設けられており、タイヤ支持台54の車輪56がレール52に載っている。タイヤ支持台54には、車輪56を回転させるためのモータ58が設けられており、車輪56を回転させることによりタイヤ支持台54をレール52の長手方向に沿って移動させることができる。【0096】このタイヤ支持台54の上部には、タイヤ30が回転自在に支持される。なお、タイヤ支持台54に設けられたタイヤを支持するタイヤ軸には3成分力変換器(図示省略)が設けられており、当該タイヤ軸が受ける3軸方向の力を各々測定することができる。【0097】路面22の透明板24の上方には、テレビカメラ60が真下に向けられて配設されている。このテレビカメラ60は、路面22の上面に固定されたスタンド62に固定されており、透明板24を通してタイヤ支持台54に支持されたタイヤ30のトレッド部分を撮影することができる。また、テレビカメラ60には、ビデオテープレコーダー、テレビモニター及び画像解析コンピューター(図示省略)等が接続されている。【0098】以上のような構成の接地部測定装置10を用いて、上記ステップ100におけるドラム試験装置70による摩耗量の計測の際にタイヤ30に付与した入力と同一の入力(本実施の形態では、横力)を同一の大きさでタイヤ30に付与したときの滑り量Sを測定すると共に、路面22に設けられている3成分力変換器32を用いて剪断力τを測定する。特開平7−63658号公報にも記載されているように、タイヤ踏面の摩擦仕事量Eは次の(11)式で表される。【0099】E=∫τds ・・・(11)そこで、本実施の形態では、接地部測定装置10により測定された滑り量Sと剪断力τとを用いて(11)式によりタイヤ踏面の摩擦仕事量Eを算出し、これを摩擦エネルギーEWDとして適用する。【0100】ここで、接地部測定装置10においてタイヤ30に横力を付与するには、路面22の移動と同時にタイヤ支持台54を路面22の移動方向に対して左方向、及び右方向に移動させるか、または路面22の移動方向とホイール面に角度をつけることにより行なう。【0101】なお、タイヤ30に付与する横力の大きさを、ドラム試験装置70による摩耗量の測定の際にタイヤ30に付与した横力と正確に同一とすることは困難であるため、本実施の形態では、路面22の移動方向に対して左方向にある程度の大きさの横力を付与した際の摩擦エネルギー、路面22の移動方向に対して右方向にある程度の大きさの横力を付与した際の摩擦エネルギー、及びタイヤ30に対して横力を付与しない状態における摩擦エネルギーの3つの摩擦エネルギーを測定すると共に、上記左方向の横力の付与時におけるタイヤ30に対する入力、上記右方向の横力の付与時におけるタイヤ30に対する入力、及び上記横力を付与しない状態におけるタイヤ30に対する入力をタイヤ支持台54のタイヤ軸に設けられた3成分力変換器を用いて測定し、これらの測定結果を用いた近似により、摩擦エネルギーEWDを導出する方法を適用する。【0102】以下、接地部測定装置10を用いた、タイヤ踏面の接地部の滑り量S、及び剪断力τの測定方法を詳細に説明する。【0103】接地部の任意の位置(例えば、ブロック)の滑り量Sを測定する場合、タイヤトレッドの任意の位置にマーキングを施す。タイヤ30を回転させてマーキングの施されたブロックを真上に位置させ、マーキングがテレビカメラ60の真下に位置するようにタイヤ支持台54の位置を調整する。次に、透明板24の中央部分がマーキングの施されたブロックの真上に位置するように路面22を移動させる。次に、サブフレーム36を上昇させて、タイヤ30のタイヤトレッドを路面22の透明板24に押圧させる。ここで、タイヤ30の押圧力を決めるには、タイヤ支持台54のタイヤ軸に設けられた3成分力変換器を用いて計測、調整を行う。【0104】次に、路面22を水平フレーム18の長手方向一方側に移動させ、他方側へ向かって路面22を所定の速度、例えばタイヤ周速度に合わせて移動させる。【0105】これによって、タイヤトレッドのマーキングを施した任意の位置が透明板24に接地してから離間するまでを経時的にテレビカメラ60は撮影領域の中央で捕らえることができる。【0106】接地部測定装置10では、テレビカメラ60を路面22に固定したので、路面22の透明板24に接地した任意の位置が滑りを起こしていない場合には、テレビモニターの画面中央にマーキングが静止した状態で写し出される。【0107】一方、透明板24に接地した任意の位置が滑りを起こした場合には、透明板24と任意の位置との相対的な位置がずれたことになるため、テレビモニターに写し出されたマーキングが画面中央から移動するので、この移動量を滑り量Sとして計測する。【0108】したがって、接地部測定装置10では、タイヤトレッドの任意の位置が路面22の透明板24に接触し始めてから離間するまでの状態を容易に追跡することができる。【0109】また、接地部測定装置10では、接地面全体を撮影する必要が無く、測定すべき微小領域(例えば、1つのブロック)をほぼテレビカメラ60の画角いっぱいに入れて滑り量Sを高精度で計測することができる。【0110】また、接地面に働く剪断力τは、路面22に設けられた3成分力変換器32により測定する。【0111】以上の測定方法により、路面22の移動方向に対して左方向にある程度の大きさの横力を付与した際の摩擦エネルギー、路面22の移動方向に対して右方向にある程度の大きさの横力を付与した際の摩擦エネルギー、及びタイヤ30に対して横力を付与しない状態、すなわちフリーローリング時における摩擦エネルギーの3つの摩擦エネルギーが測定されると共に、上記左方向の横力の付与時におけるタイヤ30に対する入力、上記右方向の横力の付与時におけるタイヤ30に対する入力、及びフリーローリング時におけるタイヤ30に対する入力がタイヤ支持台54のタイヤ軸に設けられた3成分力変換器を用いて測定されると、これらの測定結果を用いた2次関数による近似によって摩擦エネルギーEWDを導出する。【0112】タイヤAに対して上記左方向の横力を付与した際の摩擦エネルギーは72(J/m3)であり、このときのタイヤAに対する入力は951(N)であった。また、タイヤAに対して上記右方向の横力を付与した際の摩擦エネルギーは36(J/m3)であり、このときのタイヤAに対する入力は871(N)であった。さらに、フリーローリング時における摩擦エネルギーは12(J/m3)であり、このときのタイヤAに対する入力は19(N)であった。【0113】図8には、横軸をタイヤAに対する入力とし、縦軸を測定された摩擦エネルギーとしたときの、タイヤAにおける測定結果を示すグラフが示されている。このグラフを次式で示される2次関数で近似した結果、aは0.000050であり、bは0.0158であり、cは11.47であった。【0114】y=ax2+bx+c従って、この式に対して、ドラム試験装置70による摩耗量の測定の際にタイヤ30に付与した左方向の横力及び右方向の横力(本実施の形態では、各々470(N)及び−470(N)。)をxに代入すると共に、a、b、cに各々0.000050、0.0158、11.47を代入することによって、左方向の横力に対応する推定摩擦エネルギーとして約29.9(J/m3)が、右方向の横力に対応する推定摩擦エネルギーとして約15.1(J/m3)が各々得られ、これらの推定摩擦エネルギーの平均値(≒22.5(J/m3))を摩擦エネルギーEWDとする。【0115】摩擦エネルギーEWDが導出されると、次のステップ108では、上記ステップ104において算出された摩耗速度Vdと上記ステップ106において導出された摩擦エネルギーEWDとを用いて、次の(12)式により摩耗指数γを算出する。【0116】【数6】【0117】タイヤAの摩耗指数γは約0.0084(=0.189/22.5)となる。【0118】次のステップ110では、フリーローリング時のタイヤ30の摩擦エネルギーEwf、トー角が付与されている状態でのタイヤ30の摩擦エネルギーEwa、横力が付与されている状態でのタイヤ30の摩擦エネルギーEws、駆動力が付与されている状態でのタイヤ30の摩擦エネルギーEwd、及び制動力が付与されている状態でのタイヤ30の摩擦エネルギーEwbを測定し、これによって得られた各摩擦エネルギーを合計することにより、タイヤ30全体としてのシミュレーション摩擦エネルギーEWcを導出する。ここで、各摩擦エネルギーEwf、Ewa、Ews、Ewd、及びEwbは、タイヤの転がり半径で基準化した単位面積当たりの単位距離走行時の摩擦エネルギーであり、各々の単位は(J/m3)である。【0119】この際の各摩擦エネルギーの測定は、例えば前述の接地部測定装置10(図6参照)を用いて行なうことができる。【0120】すなわち、接地部測定装置10を用いて、フリーローリング時、トー角が付与されている状態、横力が付与されている状態、駆動力が付与されている状態、及び制動力が付与されている状態、の各々の場合の滑り量Sを測定すると共に、路面22に設けられている3成分力変換器32を用いて剪断力τを測定し、上記(11)式によりタイヤ踏面の摩擦仕事量Eを算出し、これを各摩擦エネルギーとして用いる。なお、このときの各状態での滑り量S及び剪断力τの測定は、上記ステップ106での測定方法と同様の手順で行なう。【0121】なお、摩擦エネルギーEwaを測定する際のトー角を付与する方法としては、タイヤ30をタイヤ支持台54の上部に装着する際に、装着されたタイヤ30の進行方向に対する角度が所望のトー角となるように装着することにより行なう。また、この場合、必要に応じてキャンバー角を付与してもよい。【0122】また、上記横力を付与するには、路面22の移動と同時にタイヤ支持台54を路面の移動方向に対して左方向、及び右方向に移動させるか、または路面22の移動方向とホイール面に角度をつけることにより行なう。【0123】さらに、この際の摩擦エネルギーEws、Ewd、及びEwbの各々を測定する際には、タイヤ使用時の動的な変化を考慮したキャンバー角、トー角、及び荷重をタイヤに対して付与する。この場合の、上記キャンバー角、トー角、及び荷重は、上記のように5自由度以上の車両モデルを用いたコンピュータシミュレーションによって求める。【0124】これによって求められた上記キャンバー角、トー角、及び荷重をタイヤに対して付与する方法としては、測定装置として図6の接地部測定装置10を使用した場合には、タイヤ30を接地部測定装置10におけるタイヤ支持台54の上部に装着する際に、装着されたタイヤ30の垂直方向に対する角度が求められたキャンバー角となり、かつ装着されたタイヤ30の進行方向に対する角度が求められたトー角となるように装着すると共に、タイヤ30の路面22に対する押圧力が、求められた荷重に相当する押圧力となるようにタイヤ支持台54のタイヤ軸に設けられた3成分力変換器を用いて計測、調整を行うことにより行なう。【0125】なお、タイヤAについてシミュレーション摩擦エネルギーEWcを測定した結果、約13.88(J/m3)であった。【0126】シミュレーション摩擦エネルギーEWcが導出されると、次のステップ112では、上記ステップ108において導出された摩耗指数γと、上記ステップ110において導出されたシミュレーション摩擦エネルギーEWcとを用いて、次の(13)式により推定摩耗速度Vc(mm/1000km)を算出する。【0127】Vc=γ×EWc ・・・(13)タイヤAについての推定摩耗速度Vcは約0.1166(≒0.0084×13.88)(mm/1000km)となる。【0128】推定摩耗速度Vcが算出されると、次のステップ114では、算出された推定摩耗速度Vc及びタイヤ30の溝深さ(mm)を示すNSD値Nに基づいて、次の(14)式により、推定耐摩耗走行距離TD(km)を算出する。なお、本実施の形態では、NSD値Nを、タイヤ30のタイヤトレッド部における複数箇所の溝深さの平均値とする。【0129】【数7】【0130】NSD値Nが8(mm)であるときのタイヤAの推定耐摩耗走行距離TDは約68610(≒(8/0.1166)×1000)(km)となる。【0131】この推定耐摩耗走行距離TDが予測対象とするタイヤのタイヤトレッド部における溝がなくなる状態に至る走行距離を示すものであり、本発明のタイヤ摩耗寿命に相当するものである。【0132】以上詳細に説明したように、本第1実施形態に係るタイヤ摩耗寿命予測方法は、ドラム摩耗試験を、摩耗指数γを求めるために行なっているので、ドラム摩耗試験によって得られた摩耗量のみに基づいて摩耗寿命を予測する場合に比較してドラム摩耗試験の試験時間を短縮することができ、この結果としてタイヤの摩耗寿命を短時間で予測することができると共に、予測対象とするタイヤの摩耗量を直接計測して摩耗指数を求めているので、ランボーン摩耗試験によってタイヤの摩耗深さを求める場合に必要とされた当該タイヤのタイヤトレッド部と同材質のゴム試料を用意する必要がなく、更に、摩擦エネルギーEWD及びシミュレーション摩擦エネルギーEWcを双方とも予測対象とするタイヤを用いて求めているので、摩擦エネルギーをランボーン摩耗試験機及び踏面観察機の2つの異なる測定系によって求める場合のように、各測定系間の相関や誤差等を考慮する必要がなく、高精度に摩耗寿命を予測することができる。【0133】また、本第1実施形態に係るタイヤ摩耗寿命予測方法は、ドラム摩耗試験を行なう際に予測対象とするタイヤに横力を付与しているので、タイヤの摩耗を促進させることができ、ドラム摩耗試験の所要時間を短縮することができる。【0134】また、本第1実施形態に係るタイヤ摩耗寿命予測方法は、シミュレーション摩擦エネルギーEWcを、フリーローリング時のタイヤの摩擦エネルギーEwf、トー角が付与されている状態でのタイヤの摩擦エネルギーEwa、横力が付与されている状態でのタイヤの摩擦エネルギーEws、駆動力が付与されている状態でのタイヤの摩擦エネルギーEwd、及び制動力が付与されている状態でのタイヤの摩擦エネルギーEwbの各摩擦エネルギーを合計して求めているので、駆動方向、制動方向、及び左右方向の剛性のみを考慮したシャーラマッハの摩耗量式を用いて摩耗寿命を予測する場合に比較して、より高精度な摩耗寿命の予測を行なうことができる。【0135】また、本第1実施形態に係るタイヤ摩耗寿命予測方法は、摩擦エネルギーEws、摩擦エネルギーEwd、及び摩擦エネルギーEwbを、各々タイヤ使用時の動的な変化を考慮したキャンバー角、トー角、及び荷重がタイヤに付与された状態で求めているので、このようなキャンバー角、トー角、及び荷重がタイヤに付与されない状態で各摩擦エネルギーを求める場合に比較して、より高精度なタイヤの摩耗寿命予測を行なうことができる。【0136】更に、本第1実施形態に係るタイヤ摩耗寿命予測方法は、摩擦エネルギーEWD及びシミュレーション摩擦エネルギーEWcを、タイヤの転がり半径で基準化した単位面積当たりの単位距離走行時の摩擦エネルギーとしているので、タイヤサイズの異なる複数のタイヤにおける摩耗寿命の予測結果を相互に比較することができる。【0137】なお、本第1実施形態では、摩擦エネルギーを測定するのに、特開平7−63658号公報に記載のタイヤ踏面の接地部測定装置10(図6参照)を用いる場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば1982年秋季自動車技術会講演会前刷り集の「タイヤ摩耗の室内評価についての一つの試み」(横浜ゴム株式会社)において摩擦エネルギーを測定する際に用いている米国Precision Measurement Co. 製の接地圧・変位測定装置であるTire Pressure and Slip Plateを用いてもよい。【0138】また、本第1実施形態では、タイヤの溝深さNSDをタイヤトレッド部の複数箇所の溝深さの平均値とする場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えばタイヤトレッド部の複数の溝深さの最小値とする形態としてもよい。【0139】また、本第1実施形態では、ドラム摩耗試験を行なう際に摩耗寿命の予測を行なうタイヤに対して付与する入力を横力とした場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、駆動力及び制動力を付与するようにしてもよい。【0140】この場合、ドラム摩耗試験を行なう際には、ドラム試験装置70(図4参照)におけるモータ81により、タイヤ30をドラム86より速く回転させることによってタイヤ30に駆動力を付与した後、タイヤ30をドラム86より遅く回転させることによってタイヤ30に制動力を付与することを繰り返して行なうようにして、所定走行距離毎の摩耗量(減少量)を計測する。【0141】また、この場合、接地部測定装置10を用いて摩擦エネルギーEWDを導出する際には、タイヤ30に対してある程度の大きさの駆動力を付与した際の摩擦エネルギー、タイヤ30に対してある程度の大きさの制動力を付与した際の摩擦エネルギー、及びフリーローリング時の摩擦エネルギーの3つの摩擦エネルギーを測定すると共に、上記駆動力の付与時におけるタイヤ30に対する入力、上記制動力の付与時におけるタイヤ30に対する入力、及びフリーローリング時におけるタイヤ30に対する入力をタイヤ支持台54のタイヤ軸に設けられた3成分力変換器を用いて測定し、これらの測定結果を用いた近似によって摩擦エネルギーEWDを導出する。【0142】前述のタイヤAに対して上記駆動力を付与した際の摩擦エネルギーは53(J/m3)であり、このときのタイヤAに対する入力は951(N)であった。また、タイヤAに対して上記制動力を付与した際の摩擦エネルギーは22(J/m3)であり、このときのタイヤAに対する入力は−932(N)であった。さらに、前述のように、フリーローリング時の摩擦エネルギーは12(J/m3)であり、このときのタイヤAに対する入力は19(N)であった。【0143】図9には、横軸をタイヤAに対する入力とし、縦軸を測定された摩擦エネルギーとしたときの、タイヤAにおける測定結果を示すグラフが示されている。当該グラフが図8に示したグラフに対応するものであり、これ以降の処理は本実施の形態と同様である。【0144】〔第2実施形態〕次に本発明の第2実施形態について説明する。本第2実施形態は、横力が付与されている状態でのタイヤの摩擦エネルギーEwsを、タイヤを車両に装着した場合の車両が右旋回するときの横力が付与されている状態での摩擦エネルギーEws+と、車両が左旋回するときの横力が付与されている状態での摩擦エネルギーEws-とに分け、摩擦エネルギーEwsを摩擦エネルギーEws+と摩擦エネルギーEws-との和、すなわちEws++Ews-により求めるものとすると共に、摩擦エネルギーEws+、Ews-、Ewd、及びEwbを、市場走行時の入力を反映したものとするものである。さらに、本第2実施形態では、タイヤトレッド部のトレッド幅方向の複数箇所の予測点を定めておき、各予測点における耐摩耗走行距離TDを算出することにより、タイヤのトレッド幅方向の各点の偏摩耗状態の予測を可能とするものである。【0145】本第2実施形態では、摩擦エネルギーEws+、摩擦エネルギーEws-、摩擦エネルギーEwd、及び摩擦エネルギーEwbの各々を、車両が右旋回するときの左右方向の入力Fy+、車両が左旋回するときの左右方向の入力Fy-、駆動力によって発生する前方向の力Fx+、制動力によって発生する後方向の力Fx-、未定係数S1、S2、D、B及び指数ns1、ns2、nd、nbを用いて、Ews+=S1×Fy+ns1 ・・・(15)Ews-=S2×Fy-ns2 ・・・(16)Ewd=D×Fx+nd ・・・(17)Ewb=B×Fx-nb ・・・(18)と表し、指数ns1、ns2、nd、nbを所定値として未定係数S1、S2、D、Bを、左右方向の入力Fy+、左右方向の入力Fy-、前方向の力Fx+、及び後方向の力Fx-を各々付与したときの摩擦エネルギーEws+、摩擦エネルギーEws-、摩擦エネルギーEwd、及び摩擦エネルギーEwb、の各々の測定値に基づいて予め求めておいて、市場走行時の車両重心位置の左右方向の加速度分布、及び車両重心位置の前後方向の加速度分布のRMS値に基づいて左右方向の入力Fy+、左右方向の入力Fy-、前方向の力Fx+、及び後方向の力Fx-を決定し、決定された左右方向の入力Fy+、左右方向の入力Fy-、前方向の力Fx+、及び後方向の力Fx-と、(15)式〜(18)式に基づいて、摩擦エネルギーEws+、摩擦エネルギーEws-、摩擦エネルギーEwd、及び摩擦エネルギーEwbを求める。【0146】以下、図10及び図11のフローチャートを参照して、本第2実施形態に係るタイヤ摩耗寿命予測方法を詳細に説明する。なお、本第2実施形態では、上記(15)式〜(18)式における指数ns1、ns2、nd、nbを各々‘2’に固定した場合について説明する。なお、図10における図3と同様の処理を行なうステップについては図3と同一のステップ番号を付する。【0147】まず、ステップ100〜ステップ108では、上記第1実施形態における図3のステップ100〜ステップ108と同様に、摩耗寿命の予測を行なうタイヤの摩耗指数γを導出する。【0148】次のステップ150では、図6に示した接地部測定装置10を用いて、第1実施形態における図3のステップ110と同様の方法で、上記予測点のうちの1点について摩擦エネルギーEwf、及びEwaを測定する。【0149】次のステップ152では、図11のフローチャートで示した摩擦エネルギー導出手順により、上記ステップ150において測定対象とした上記予測点のうちの1点における摩擦エネルギーEws+、Ews-、Ewd、及びEwbを導出する。以下に、図11を参照して、摩擦エネルギーEws+、Ews-、Ewd、及びEwbの導出手順を詳細に説明する。【0150】まず、ステップ200では、摩擦エネルギーEws+、Ews-、Ewd、及びEwbを、車両右旋回時の左右方向の入力Fy+、車両左旋回時の左右方向の入力Fy-、駆動力によって発生する前方向の力Fx+、及び制動力によって発生する後方向の力Fx-、未定係数S1、S2、D、B及び指数ns1、ns2、nd、nbを用いて上記(15)式〜(18)式で表した場合の、未定係数S1、S2、D、Bを求める。【0151】なお、未定係数S1、S2、D、Bは、例えば次の方法により求める。すなわち、未定係数S1は、まず摩耗寿命を予測したいタイヤに対して複数通り(好ましくは3通り以上)の車両右旋回時の左右方向の入力Fy+を付与した場合の摩擦エネルギーEws+を各々測定し、測定された摩擦エネルギーEws+と、そのときのタイヤに付与した車両右旋回時の左右方向の入力Fy+の2乗とから(15)式から逆算して、すなわちEws+/Fy+2を計算して複数の未定係数S1を求め、これらの平均値として求める。同様に未定係数S2は、まず摩耗寿命を予測したいタイヤに対して複数通り(好ましくは3通り以上)の車両左旋回時の左右方向の入力Fy-を付与した場合の摩擦エネルギーEws-を各々測定し、測定された摩擦エネルギーEws-と、そのときのタイヤに付与した車両左旋回時の左右方向の入力Fy-の2乗とから(16)式から逆算して、すなわちEws-/Fy-2を計算して複数の未定係数S2を求め、これらの平均値として求める。【0152】また、未定係数Dは、まず摩耗寿命または摩耗量を予測したいタイヤに対して複数通り(好ましくは3通り以上)の前方向の力Fx+を付与した場合の摩擦エネルギーEwdを各々測定し、測定された摩擦エネルギーEwdと、そのときのタイヤに付与した前方向の力Fx+の2乗とから(17)式から逆算して、すなわちEwd/Fx+2を計算して複数の未定係数Dを求め、これらの平均値として求める。さらに、未定係数Bは、まず摩耗寿命または摩耗量を予測したいタイヤに対して複数通り(好ましくは3通り以上)の後方向の力Fx-を付与した場合の摩擦エネルギーEwbを各々測定し、測定された摩擦エネルギーEwbと、そのときのタイヤに付与した後方向の力Fx-の2乗とから(18)式から逆算して、すなわちEwb/Fx-2を計算して複数の未定係数Bを求め、これらの平均値として求める。【0153】なお、この際の摩擦エネルギーEws+、Ews-、Ewd、及びEwbの測定は、例えば図6に示した接地部測定装置10を用いて行なわれる。【0154】また、本第2実施形態では、実車での使用条件をできるだけ再現するために、摩擦エネルギーEws+、Ews-、Ewd、及びEwbを測定する際には、上記第1実施形態と同様に、タイヤ使用時の動的な変化を考慮したキャンバー角、トー角、及び荷重をタイヤに対して付与した場合の各摩擦エネルギーを測定する。【0155】次のステップ202では、摩耗寿命の予測を行ないたい市場を代表するような道路(例えば日本国内の一般的な道路等)を特定して、特定された道路に対して車両を所定距離だけ走行させたときの車両重心位置の左右方向の加速度(G)、及び車両重心位置の前後方向の加速度(G)を所定時間毎に測定することにより、市場走行時の車両重心位置の左右方向の加速度分布、及び車両重心位置の前後方向の加速度分布を求める。なお、各加速度は、例えば車両の重心位置にGセンサを設置しておき、該Gセンサにより測定することができる。図12(A)は車両重心位置の前後方向の加速度分布の一例を、図12(B)は車両重心位置の左右方向の加速度分布の一例を各々示す。【0156】次のステップ204では、左右方向の加速度分布のRMS値As、前方向の加速度分布のRMS値Ax+、及び後方向の加速度分布のRMS値Ax-を算出する。なお、ここでRMS値は、各加速度分布における所定範囲の加速度の2乗の平均値の平方根で求められる値である。また、前方向の加速度分布のRMS値Ax+を求める際には、車両重心位置の前後方向の加速度分布における0より大きい加速度のRMS値を、後方向の加速度分布のRMS値Ax-を求める際には、車両重心位置の前後方向の加速度分布における0より小さい加速度のRMS値を、各々求める。【0157】次のステップ206では、以上により求められたRMS値As、Ax+、及びAx-と、横力が付与されている状態でのタイヤ荷重w1、駆動力が付与されている状態でのタイヤ荷重w2、及び制動力が付与されている状態でのタイヤ荷重w3とにより、次の(19)式〜(21)式によって左右方向の入力Fy、前方向の力Fx+、及び後方向の力Fx-を求める。なお、タイヤ荷重の単位は(kg)である。【0158】Fy =w1×As ・・・(19)Fx+=w2×Ax+ ・・・(20)Fx-=w3×Ax- ・・・(21)但し、前方向の力Fx+に関しては、駆動輪が2輪のみの車両では、車両全体を加速させるための力を、駆動輪の2輪のみで発生しなければならないため、駆動輪2輪の発生力の和が重心の慣性力となるようにする。【0159】また、RMS値を発生させるような状況での車両をシミュレート計算し、上記Fx+、Fx-、Fy(Fy+、Fy-)を求めてもよい。【0160】その後、以上により求められた左右方向の入力Fyに基づいて(4)式及び(5)式により、トー角及びアッカーマン特性を考慮した車両右旋回時の左右方向の入力Fy+、及び車両左旋回時の左右方向の入力Fy-を求める。【0161】次のステップ208では、以上により求められた未定係数S1と左右方向の入力Fy+とを(15)式に代入することにより摩擦エネルギーEws+を、未定係数S2と左右方向の入力Fy-とを(16)式に代入することにより摩擦エネルギーEws-を、未定係数Dと前方向の力Fx+とを(17)式に代入することにより摩擦エネルギーEwdを、未定係数Bと後方向の力Fx-とを(18)式に代入することにより摩擦エネルギーEwbを、各々求める。【0162】なお、予め上記ステップ206における上記Fy+、Fy-、Fx+、Fx-が判明している場合には、上記ステップ200を実施せずに、上記ステップ208にて、前記Fy+、Fy-、Fx+、Fx-の条件にて接地部測定装置10を用いて直接摩擦エネルギーEws+、Ews-、Ewd、Ewbを測定して求めることも可能である。【0163】以上により摩擦エネルギーEws+、Ews-、Ewd、及びEwbが導出されると、図10におけるステップ154では、以上によって得られた摩擦エネルギーEws+及びEws-を合計して摩擦エネルギーEwsを求めると共に、当該摩擦エネルギーEwsと、上記ステップ150において測定された摩擦エネルギーEwf及びEwaと、上記ステップ152において導出された摩擦エネルギーEwd、及びEwbと、を合計することにより、市場走行時の入力を加味した状態でのタイヤ30全体としてのシミュレーション摩擦エネルギーEWcを導出する。【0164】次のステップ156では、図3のステップ112と同様に推定摩耗速度Vcを導出し、次のステップ158では、図3のステップ114と同様に耐摩耗走行距離TDを導出する。【0165】耐摩耗走行距離TDが導出されると、次のステップ160では、予め定めた複数箇所の予測点の全てにおいて、耐摩耗走行距離TDの導出が終了したか否かを判定し、終了していない場合は終了するまで、上記ステップ150〜ステップ158による各予測点における耐摩耗走行距離TDの導出を行なったのち、本手順を終了する。なお、この後、各予測点での耐摩耗走行距離TDの平均値を用いてタイヤ全体の平均的な摩耗寿命を予測してもよい。【0166】図13には、実在するタイヤA、タイヤB、タイヤCの3種類のタイヤについて、従来のドラム摩耗試験による摩耗量の計測結果に基づいて得られた摩耗速度(mm/1000km)の一例が示されている。なお、タイヤA、タイヤB、及びタイヤCは、ネガティブ比がタイヤA、タイヤB、タイヤCの順に小さくなるものである。【0167】また、図14には、当該ドラム摩耗試験により得られた摩耗速度(mm/1000km)を横軸とし、実地試験により得られた摩耗速度(mm/1000km)を縦軸として、タイヤA、タイヤB、及びタイヤCの各摩耗速度をプロットしたグラフが示されている。同図に示すように、この場合の各試験間の寄与率R2は−0.06であり、ドラム摩耗試験により得られた摩耗速度のみでは、実際の摩耗速度を予測することが困難であることがわかる。【0168】一方、図15には、本実施の形態に係るタイヤ摩耗寿命予測手順(図10参照)におけるステップ106の手順によって得られた、タイヤA、タイヤB、及びタイヤCについての図8と同様のグラフが示されており、図16には、本実施の形態に係るタイヤ摩耗寿命予測手順によって得られた推定摩耗速度Vc(mm/1000km)を横軸とし、実地試験により得られた摩耗速度(mm/1000km)を縦軸として、タイヤA、タイヤB、及びタイヤCの各摩耗速度をプロットしたグラフが示されている。【0169】同図に示すように、この場合の寄与率R2は0.99であり、本発明によるタイヤ摩耗寿命予測方法によって、高精度に摩耗寿命を予測できることがわかる。【0170】以上詳細に説明したように、本第2実施形態に係るタイヤ摩耗寿命予測方法は、上記第1実施形態と同様の効果を奏することができると共に、摩擦エネルギーEwsが、アッカーマン特性及びトー角に基づいて、タイヤを車両に装着した場合の車両が右旋回するときの摩擦エネルギーEws+と、車両が左旋回するときの摩擦エネルギーEws-とに分けて求められ、かつ摩擦エネルギーEwsは、摩擦エネルギーEws+と、摩擦エネルギーEws-との和Ews++Ews-により求められるので、アッカーマン特性及びトー角に基づくことなく摩擦エネルギーEwsを求める場合に比較して、より実車走行時の状況に近い摩擦エネルギーEwsを求めることができる、という効果が得られる。【0171】また、本第2実施形態に係るタイヤ摩耗寿命予測方法は、市場走行時の車両重心位置の左右方向の加速度分布、及び車両重心位置の前後方向の加速度分布のRMS値に基づいて、車両が右旋回するときの左右方向の入力Fy+、車両が左旋回するときの左右方向の入力Fy-、駆動力によって発生する前方向の力Fx+、及び制動力によって発生する後方向の力Fx-を決定し、決定された左右方向の入力Fy+、左右方向の入力Fy-、前方向の力Fx+、及び後方向の力Fx-に基づいて摩擦エネルギーEws+、摩擦エネルギーEws-、摩擦エネルギーEwd、及び摩擦エネルギーEwbを求めているので、市場走行時の車両重心位置の左右方向の加速度分布、及び車両重心位置の前後方向の加速度分布のRMS値に基づかない場合に比較して、より高精度にタイヤの摩耗寿命の予測を行なうことができる。【0172】さらに、本第2実施形態に係るタイヤ摩耗寿命予測方法は、タイヤの複数箇所の摩耗寿命が予測されるので、上記複数箇所をタイヤトレッド部のトレッド幅方向の複数箇所とすることにより、トレッド幅方向の摩耗寿命の分布(偏摩耗)を予測することができる。【0173】図17には、本発明のタイヤ摩耗寿命予測方法の概要が模式的に示されている。なお、同図では、各手順における具体的な数値例も併記してある。また、同図における‘SF’は横力を表わす。【0174】同図に示すように、本発明では、ドラム摩耗試験により路面補正係数bを加味して得られた一定入力時における摩耗速度Vdと、接地部測定装置10による踏面観察により得られた上記と同様の一定入力時における摩擦エネルギーEWDと、を用いて摩耗指数γを求めている。【0175】一方、本発明では、接地部測定装置10による踏面観察によって、実地調査により得られた市場走行時における各種パラメータ(トー角、キャンバー角、車両重心位置の左右方向及び前後方向における加速度分布のRMS値等)を加味してシミュレーション摩擦エネルギーEWcを求め、当該摩擦エネルギーEWcと上記摩耗指数γとに基づいて推定摩耗速度Vcを求め、更に、当該推定摩耗速度Vcに基づいて推定耐摩耗走行距離TDを本発明の摩耗寿命として求めている。【0176】従って、本発明によれば、従来のドラム摩耗試験における試験期間が長い、という短所と、踏面観察を行なう際のトレッドゴムの摩耗度を考慮していない、という短所を回避することができる。【0177】なお、上記第2実施形態では、摩擦エネルギーEwf、Ewaを測定する場合に、特開平7−63658号公報に記載のタイヤ踏面の接地部測定装置10(図6参照)を用いる場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば第1実施形態と同様に1982年秋季自動車技術会講演会前刷り集の「タイヤ摩耗の室内評価についての一つの試み」(横浜ゴム株式会社)において摩擦エネルギーを測定する際に用いている米国Precision Measurement Co. 製の接地圧・変位測定装置であるTire Pressure and Slip Plateを用いてもよい。【0178】また、上記第2実施形態では、(15)式〜(18)式における未定係数S1、S2、D、Bを求める方法として、指数ns1、ns2、nd、nbを所定値(本第2実施形態では‘2’。)に固定し、複数の入力を行なった場合の各摩擦エネルギーを測定して、各入力と摩擦エネルギーとを用いて、(15)式〜(18)式により逆算して求める場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、指数ns1、ns2、nd、nbを固定値とせず、複数の入力を行なった場合の各摩擦エネルギーを測定して、各入力と摩擦エネルギーとの関係から最小2乗法、偏差面積法等によって各未定係数S1、S2、D、B及び各指数ns1、ns2、nd、nbを近似的に求めるようにしてもよい。この場合、指数ns1、ns2、nd、nbを固定値とする場合に比較して、より高精度な摩耗寿命予測が行なえる。【0179】また、上記各実施形態では、摩擦エネルギーEws、Ewd、及びEwbの各々を測定する際にタイヤに付与する、タイヤ使用時の動的な変化を考慮したキャンバー角、トー角、及び荷重を、5自由度以上の車両モデルを用いたコンピュータシミュレーションによって求める場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば上記キャンバー角、トー角、及び荷重を実車走行試験により求めてもよい。【0180】さらに、上記各実施形態では、各摩擦エネルギーを転がり半径で基準化したものとする場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、転がり半径による基準化を行なわないものとしてもよい。【0181】【発明の効果】請求項1記載のタイヤ摩耗寿命予測方法によれば、ドラム摩耗試験を、摩耗指数を求めるために行なっているので、ドラム摩耗試験によって得られた摩耗量のみに基づいて摩耗寿命を予測する場合に比較してドラム摩耗試験の試験時間を短縮することができ、この結果としてタイヤの摩耗寿命を短時間で予測することができると共に、予測対象とするタイヤの摩耗量を直接計測して摩耗指数を求めているので、ランボーン摩耗試験によってタイヤの摩耗深さを求める場合に必要とされた当該タイヤのタイヤトレッド部と同材質のゴム試料を用意する必要がなく、更に、第1の摩擦エネルギー及び第2の摩擦エネルギーを双方とも予測対象とするタイヤを用いて求めているので、摩擦エネルギーをランボーン摩耗試験機及び踏面観察機の2つの異なる測定系によって求める場合のように、各測定系間の相関や誤差等を考慮する必要がなく、高精度に摩耗寿命を予測することができる、という効果が得られる。【0182】また、請求項2記載のタイヤ摩耗寿命予測方法によれば、本発明の所定入力を、横力と、駆動力及び制動力と、の少なくとも一方としているので、ドラム摩耗試験を行なう際のタイヤの摩耗を促進させることができ、ドラム摩耗試験の所要時間を短縮することができる、という効果が得られる。【図面の簡単な説明】【図1】本発明の原理の説明に供するグラフである。【図2】本発明の原理の説明に供するグラフである。【図3】第1実施形態におけるタイヤ摩耗寿命予測方法の手順を示す概略フローチャートである。【図4】実施の形態において摩耗量の測定に用いられるドラム試験装置70の要部を示す側面図である。【図5】ドラム摩耗試験により得られた積算摩耗量と走行距離との関係を示すグラフである。【図6】実施の形態において摩擦エネルギーの測定に用いられるタイヤ踏面の接地部測定装置10の要部を示す側面図である。【図7】接地部測定装置10の要部を示す他の側面図である。【図8】横力をタイヤに付与した状態で接地部測定装置10による測定によって得られた摩擦エネルギーとタイヤ入力との関係を示すグラフである。【図9】駆動力及び制動力をタイヤに付与した状態で接地部測定装置10による測定によって得られた摩擦エネルギーとタイヤ入力との関係を示すグラフである。【図10】第2実施形態におけるタイヤ摩耗寿命予測方法の手順を示す概略フローチャートである。【図11】第2実施形態における摩擦エネルギーEws+、Ews-、Ewd、及びEwbの導出手順を示す概略フローチャートである。【図12】(A)は市場における車両重心位置の前後方向の加速度分布の一例を示すグラフであり、(B)は市場における車両重心位置の左右方向の加速度分布の一例を示すグラフである。【図13】実在するタイヤA、タイヤB、タイヤCの3種類のタイヤについて、従来のドラム摩耗試験による摩耗量の計測結果に基づいて得られた摩耗速度(mm/1000km)の一例を示すグラフである。【図14】タイヤA、タイヤB、タイヤCのドラム摩耗試験により得られた摩耗速度と、実地試験により得られた摩耗速度との関係を示すグラフである。【図15】タイヤA、タイヤB、タイヤCの各々について、横力を付与した状態で接地部測定装置10による測定によって得られた摩擦エネルギーと横力との関係を示すグラフである。【図16】第2実施形態に係るタイヤ摩耗寿命予測手順によって得られた推定摩耗速度と、実地試験により得られた摩耗速度との関係を示すグラフである。【図17】本発明のタイヤ摩耗寿命予測方法の概要を示す概略図である。【符号の説明】10 接地部測定装置30 タイヤ32 3成分力変換器70 ドラム試験装置86 ドラム ドラム摩耗試験により摩耗寿命の予測対象とするタイヤに所定の大きさの所定入力を付与した状態で前記タイヤを摩耗させたときの前記タイヤの所定走行距離当りの摩耗量を計測し、かつ前記ドラム摩耗試験において前記タイヤに付与した入力と同一の入力を前記所定の大きさと同一又は略同一の大きさで付与した状態における前記タイヤの第1の摩擦エネルギーを求めると共に、市場走行時の入力を加味した入力を付与した状態における前記タイヤの第2の摩擦エネルギーを求め、 前記所定走行距離当りの摩耗量である摩耗速度を、前記第1の摩擦エネルギーで除算することにより前記タイヤの摩耗し易さを示す摩耗指数を算出し、 前記摩耗指数及び前記第2の摩擦エネルギーに基づいて前記タイヤの摩耗寿命を予測する タイヤ摩耗寿命予測方法。 前記所定入力を、横力と、駆動力及び制動力と、の少なくとも一方とした 請求項1記載のタイヤ摩耗寿命予測方法。 前記摩耗速度は、前記タイヤが市場において用いられた場合の値に換算するための補正係数である路面補正係数を加味したものである 請求項1又は請求項2記載のタイヤ摩耗寿命予測方法。 前記摩耗指数と前記第2の摩擦エネルギーとを乗算することにより推定摩耗速度を算出し、当該推定摩耗速度及び前記タイヤの溝深さを示すNSD値に基づいて、前記タイヤのタイヤトレッド部における溝がなくなる状態に至る走行距離を示す推定耐摩耗走行距離を前記タイヤの摩耗寿命に相当するものとして算出する 請求項1乃至請求項3の何れか1項記載のタイヤ摩耗寿命予測方法。