生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_独立栄養性脱窒微生物の保存方法
出願番号:2001220070
年次:2012
IPC分類:C02F 3/34,C12N 1/00


特許情報キャッシュ

寺嶋 光春 今城 麗 JP 4882177 特許公報(B2) 20111216 2001220070 20010719 独立栄養性脱窒微生物の保存方法 栗田工業株式会社 000001063 重野 剛 100086911 寺嶋 光春 今城 麗 20120222 C02F 3/34 20060101AFI20120202BHJP C12N 1/00 20060101ALI20120202BHJP JPC02F3/34 101ZC02F3/34C12N1/00 R C02F3/00-3/34 C12N1/00 特開2001−104992(JP,A) 特開2001−037467(JP,A) 特開2001−170684(JP,A) 3 2003024990 20030128 7 20080630 三崎 仁 【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は、アンモニア性窒素を電子供与体とし、亜硝酸性窒素を電子受容体とする独立栄養性脱窒微生物の保存方法に関する。【0002】【従来の技術】 排液中に含まれるアンモニア性窒素は河川、湖沼及び海洋などにおける富栄養化の原因物質の一つであり、排液処理工程で効率的に除去する必要がある。一般に、排水中のアンモニア性窒素は、アンモニア性窒素をアンモニア酸化細菌により亜硝酸性窒素に酸化し、更にこの亜硝酸性窒素を亜硝酸酸化細菌により硝酸性窒素に酸化する硝化工程と、これらの亜硝酸性窒素及び硝酸性窒素を従属栄養性細菌である脱窒菌により、有機物を電子供与体として利用して窒素ガスにまで分解する脱窒工程との2段階の生物反応を経て窒素ガスにまで分解される。【0003】 しかし、このような従来の硝化脱窒法では、脱窒工程において電子供与体としてメタノールなどの有機物を多量に必要とし、また硝化工程では多量の酸素が必要であるため、ランニングコストが高いという欠点がある。【0004】 これに対して、近年、アンモニア性窒素を電子供与体とし、亜硝酸性窒素を電子受容体とする独立栄養性微生物を利用し、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とを反応させて脱窒する方法が提案された。【0005】 この独立栄養性脱窒微生物(以下「ANAMMOX微生物」と称す。)を利用する生物脱窒プロセス(ANAMMOXプロセス)は、Strous, M, et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 50, p.589-596 (1998) に報告されており、以下のような反応でアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素が反応して窒素ガスに分解されると考えられている。【0006】【化1】【0007】 ANAMMOX微生物による生物脱窒であれば、排水中に含まれるアンモニア性窒素の約半量が亜硝酸性窒素まで酸化されればよいこととなり、全量を亜硝酸性窒素又は硝酸性窒素にまで酸化させる従来の硝化脱窒方法と比較して、曝気量を大幅に低減できる。また、反応により生成する硝酸性窒素の量は、この反応で除去されるアンモニア性窒素に対し0.2〜0.3倍、初期に排水中に含まれているアンモニア性窒素量に対しては0.1〜0.15倍と従来法の約10分の1であり、脱窒に必要なメタノール等の有機物添加量も削減できる。また、この微生物は独立栄養性微生物であることから、従属栄養微生物である従来の脱窒菌と比較して、余剰汚泥の発生量は約1/5と、余剰汚泥の削減にも有効である。従って、アンモニア性窒素含有排水の処理において、消費エネルギー及び環境負荷の低減効果を有する優れた処理方法であると言える。【0008】 このANAMMOX微生物の生育条件については、次のようなことが報告されている。 (1) ANAMMOX微生物が最も活発に活動する温度は37℃である( Konrad, E et.al. (2001) Arch. Microbiol. Vol.175, p198-207 ) (2) ANAMMOX微生物は酸素に曝された条件( 0.5〜2.1% of air sat.(気相酸素分圧0.5〜2.1%の気液平衡状態))で運転すると、著しく活性が低下する( Strous, M et.al. (1997) Appl. Environ. Microbiol. Vol.63, p2446-2448 ) (3) ANAMMOX微生物の活動が可能なpH範囲は6.5〜9程度で、最適pHは7〜8.5である( Konrad, E et.al. (2001) Arch. Microbiol. Vol.175, p198-207 )【0009】【発明が解決しようとする課題】 ANAMMOX微生物の比増殖速度は非常に低く、最大で約0.065day−1(1日で1.065倍に増殖する)と報告されている。しかし、本発明者らが実際に行った培養では比増殖速度は0.02〜0.05day−1程度の非常に小さな値となることが確認されており、2倍の菌体量を得るためには、14〜35日もの培養日数を要する。【0010】 このように、ANAMMOX微生物の増殖は非常に遅く、多量の菌体を確保することは極めて困難であるため、増殖させたANAMMOX微生物は非常に貴重であるから、ANAMMOX微生物の保存に際しては、ANAMMOX微生物の活性を高く維持して良好な状態で保存することが望まれる。【0011】 従来、ANAMMOX微生物が活動する条件での活性に対する最適温度についての報告はなされているが、基質の供給を停止し、ANAMMOX微生物の活性が現れない期間における保存条件に関しての報告はなされていない。そして、基質の供給を再開した際に直ちにANAMMOX微生物が活性を発現することができる適切な保存手法は明らかにされていないことが、ANAMMOX反応による更なる技術開発の妨げとなっていた。【0012】 本発明は上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、ANAMMOX微生物を、その活性を低下させることなく良好な状態で保存する方法、即ち、基質の供給を停止してANAMMOX微生物を保存し、保存後基質の供給を再開した際には直ちに活性を発現させることができる保存方法を提供することを目的とする。【0013】【課題を解決するための手段】 請求項1の独立栄養性脱窒微生物の保存方法は、アンモニア性窒素を電子供与体とし、亜硝酸性窒素を電子受容体とする独立栄養性脱窒微生物を含む微生物群を、基質の供給を停止した後、基質の供給を再開するまでの間保存する方法において、該微生物群を0〜10℃の温度で保存することを特徴とする。【0014】 請求項2の独立栄養性脱窒微生物の保存方法は、アンモニア性窒素を電子供与体とし、亜硝酸性窒素を電子受容体とする独立栄養性脱窒微生物を含む微生物群を、基質の供給を停止した後、基質の供給を再開するまでの間保存する方法において、保存前にpH調整を行うと共にpH緩衝剤を添加して、該微生物群の保存環境pHを7.0〜8.5とすることを特徴とする。【0015】 0〜10℃の温度で、或いは、保存環境pHを7.0〜8.5として保存することにより、ANAMMOX微生物の活性を低下させることなく長期間安定に保存することができる。【0016】【発明の実施の形態】 以下に本発明の独立栄養性脱窒微生物の保存方法の実施の形態を詳細に説明する。【0017】 ANAMMOX微生物を含む汚泥(微生物群)は、通常、ANAMMOX反応を行っている脱窒反応槽、或いはANAMMOX微生物を培養している培養槽から採取され、密閉容器に入れて、窒素等の不活性ガス雰囲気で保存される。【0018】 請求項1の方法では、この保存にあたり、保存温度を0〜10℃とする。保存温度は0〜10℃の温度範囲で、かつANAMMOX微生物が凍結しない条件であり、この保存温度であれば、ANAMMOX微生物の活性を80%以上維持することができる。【0019】 このような温度範囲を実現するための温度制御方法及び制御装置としては、特に制限はなく、直射日光の当たらない場所での保存(例えば、庇、すだれ、木陰、室内等)、扇風機、エアーコンディショナー、ヒーター、換気扇、冷蔵庫、ドライアイス、液体窒素、氷、水、ウォータークーラー、蓄熱剤等を適宜採用して所定の温度に制御すれば良い。【0020】 請求項2の方法では、保存環境pHを4〜10の範囲とする。【0021】 即ち、ANAMMOX微生物を含有する汚泥による脱窒処理や培養に当たり、装置の運転時にはpHは6.5〜9、好ましくはpH7.0〜8.5の範囲に調節されるが、運転を停止し、菌体を取り出して保存する操作を行う際、残存する基質が生物反応(例えば脱窒)すると、pHが変化(例えば上昇)し、保存開始時にはANAMMOX微生物にとって適さないpH範囲となっている。【0022】 従って、ANAMMOX微生物を保存する際に、保存の直前にpHを7.0〜8.5に調整することにより、ANAMMOX微生物の活性を維持する。【0023】 pHの調整の方法としては、例えばpH調整剤として酸(硫酸、塩酸または炭酸等)を加える方法等がある。この場合、更にpH緩衝剤として例えばリン酸塩等を1×10−5〜1×10−1mol/L程度添加することにより調整したpHを安定させることができ、好ましい。【0024】 本発明では、特に、前述の保存温度に調整すると共に、保存環境pHを上記pH範囲に保存することが好ましく、これによりANAMMOX微生物の活性をより一層高く維持することが可能となる。【0025】 このような本発明の保存方法は、ANAMMOX微生物を短期間保存する場合はもとより、ANAMMOX微生物の輸送のための保存、更には装置の長期運転停止時のANAMMOX微生物の長期的な保存等に有効に適用することができる。【0026】【実施例】 以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。【0027】 実施例1 パイロットプラントで活動中のANAMMOX微生物グラニュール(ANAMMOX微生物が粒状に凝集した状態のもの)を20Lポリタンクに導入し、気相部を窒素ガスで置換した後、密栓し、特定の温度で3日又は1ヶ月間静置状態で保存した。保存開始時のpHは8.3であった。【0028】 保存後のANAMMOX微生物のアンモニア除去活性を測定し、保存前の活性に対する相対値で評価した。活性測定には、より実機の条件に近いカラム連続試験を採用し、次のようにして測定を行った。【0029】 容量10Lの試験カラム(断面積:100dm2、高さ1m、上部に発生ガスを回収しさらに固液分離して上澄水のみを系外に排出する固液分離手段を有し、処理水の一部が底部の基質導入部分に循環される。)を用い、このカラムにANAMMOX微生物グラニュールを充填し、下部より基質(NH4−N:50mg/L、NO2−N:50mg/L、IC:50mg/L)をLV:2m/hrで供給した。この時の温度は30℃とした。【0030】 1時間後の試験カラム出口におけるアンモニア濃度からアンモニア除去活性を算出し、各保存温度における保存後のアンモニア除去活性の相対値を求め、結果を図1に示した。【0031】 図1より次のことが明らかである。【0032】 ANAMMOX微生物グラニュールにおいて、活性が残存したのは3日及び1ヶ月間の保存ともに40℃以下の場合であり、また、保存期間が3日間の場合、0〜32℃では約70%の活性が維持され、0〜10℃では約90%以上とほぼ完全な活性の維持を実現できた。また、保存期間が1ヶ月間の場合には0〜32℃では約50%の活性が維持され、0〜10℃では約80%以上とほぼ完全な活性の維持を実現できた。【0033】 実施例2 実施例1で用いたと同様のパイロットプラントで活動中のANAMMOX微生物グラニュールを20Lポリタンクに導入した。このグラニュールのpHは8.0であった。これに塩酸又は水酸化ナトリウムを添加して特定のpHに調整後、気相部を窒素ガスで置換した後密栓し、2週間、1ヶ月又は2ヶ月間静置状態で保存した。保存温度は25℃とした。【0034】 保存前の活性に対する保存後のANAMMOX微生物のアンモニア除去活性の相対値を、実施例1と同様にして求め、各保存pHにおける保存後のアンモニア除去活性の相対値を図2に示した。【0035】 図2より次のことが明らかである。【0036】 ANAMMOX微生物グラニュールにおいて、活性が残存したのは各保存期間ともに保存開始時のpHが4〜10の場合であり、また、保存期間が2週間の場合は、pH6.5〜9で約60%以上の活性が維持され、pH7.0〜8.5では約80%以上とほぼ完全な活性の維持を実現できた。保存期間が1ヶ月間の場合には、pH6.5〜9で約50%以上の活性が維持され、pH7.5〜9.0では約70%以上の活性の維持を実現できた。また、保存期間が2ヶ月の場合には、pH6.5〜9で約40%以上の活性が維持され、pH7.0〜8.5では約70%以上の活性の維持を実現できた。【0037】 実施例3 実施例1で用いたと同様のパイロットプラントで活動中のANAMMOX微生物グラニュールを20Lポリタンクに導入し、塩酸を添加してpH8.0に調整すると共に、pH緩衝剤としてKH2PO40.0025mol/L及びNa2HPO40.0025mol/Lを添加し、その後気相部を窒素ガスで置換した後密栓し、保存温度20℃で2週間、1ヶ月又は2ヶ月間静置状態で保存した。【0038】 保存後のANAMMOX微生物のアンモニア除去活性を、実施例1と同様にして測定し、保存前の活性に対する相対値で評価したところ、それぞれ保存期間2週間で約89%、1ヶ月で約80%、2ヶ月で約75%と、高い活性を維持することができた。【0039】【発明の効果】 以上詳述した通り、本発明の独立栄養性脱窒微生物の保存方法によれば、ANAMMOX微生物を長期に亘りその活性を低下させることなく、安定に保存することができ、保存後、基質の供給を再開した際には、直ちに高い活性を発現させて効率的な生物脱窒処理を行うことができる。【図面の簡単な説明】【図1】 実施例1で求めた保存温度とANAMMOX微生物の残存活性との関係を示すグラフである。【図2】 実施例2で求めた保存pHとANAMMOX微生物の残存活性との関係を示すグラフである。 アンモニア性窒素を電子供与体とし、亜硝酸性窒素を電子受容体とする独立栄養性脱窒微生物を含む微生物群を、基質の供給を停止した後、基質の供給を再開するまでの間保存する方法において、該微生物群を0〜10℃の温度で保存することを特徴とする独立栄養性脱窒微生物の保存方法。 アンモニア性窒素を電子供与体とし、亜硝酸性窒素を電子受容体とする独立栄養性脱窒微生物を含む微生物群を、基質の供給を停止した後、基質の供給を再開するまでの間保存する方法において、保存前にpH調整を行うと共にpH緩衝剤を添加して、該微生物群の保存環境pHを7.0〜8.5とすることを特徴とする独立栄養性脱窒微生物の保存方法。 請求項1又は2において、脱窒反応槽又は培養槽から採取した前記独立栄養性脱窒微生物を、密閉容器に入れ、不活性ガス雰囲気で保存することを特徴とする独立栄養性脱窒微生物の保存方法。


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る