タイトル: | 特許公報(B2)_高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置 |
出願番号: | 2001207261 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,H01J49/40,G01N27/62,G01N27/64,H01J49/26 |
林 俊一 鈴木 哲也 佐伯 盛久 藤井 正明 JP 3681999 特許公報(B2) 20050527 2001207261 20010709 高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置 新日本製鐵株式会社 000006655 株式会社日鐵テクノリサーチ 594006301 独立行政法人科学技術振興機構 503360115 矢葺 知之 100068423 津波古 繁夫 100080171 林 俊一 鈴木 哲也 佐伯 盛久 藤井 正明 20050810 7 H01J49/40 G01N27/62 G01N27/64 H01J49/26 JP H01J49/40 G01N27/62 K G01N27/64 B H01J49/26 7 H01J 49/40 特開平11−167895(JP,A) 特開平08−222181(JP,A) 特開平10−134764(JP,A) 8 2003022777 20030124 11 20040108 村田 尚英 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、極微量の有機化合物を高感度に検出する超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置に関する。【0002】【従来の技術】ダイオキシンとは、ポリ塩化ジベンゾパラジオキシンの略称で、塩素の置換数、位置の差により75種の同族体や異性体が存在する。これらと共に環境を汚染しているものにポリ塩化ジベンゾフランがあり、135種の同族体や異性体を持つ。この2つを併せて一般的にダイオキシン類と呼ぶ。これらのダイオキシン類の人間の健康に及ぼす影響は様々であり、最も毒性の高い2,3,7,8−TCDDに相対評価させた毒性因子とそれを用いて得た総合毒性が用いられている。以上により、ダイオキシン類評価には、高感度でかつ高化学種選択性を有した分析法が必要であることがわかる。【0003】従来のダイオキシンの公定の測定・分析法は、厚生労働省のまとめた「ダイオキシン類の発生防止ガイドライン」の中で測定標準法として示されている。この方法は、ダイオキシン類を有機溶媒により抽出し、各種クロマトグラフィー法で濃縮・分離後、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS)によって分析するものである。この試験分析工程は、多大な計測時間とコストを必要とする。一方、ダイオキシンをはじめとする有機塩素系化合物の人体への影響が強く懸念されている現在、焼却炉の設計や操業管理に必要な情報を得るといった例を一つとっても、極微量有機塩素化合物を選択的かつ定量的にオンサイト実時間分析可能な新評価技術の開発が望まれている。超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析(Jet−REMPI)法は、公定法のような濃縮前処理技術を必要とせず、高感度かつ高化学種選択性をもって検出できる分析法として注目されつつある。【0004】一般に、有機分子は、その分子骨格に起因する電子状態を持ち、その状態に振動準位や回転準位などが複雑に相互作用していく。赤外線、紫外線等を利用した吸収分光法は、このような有機分子の分子骨格の違いによる光吸収を利用して、存在する分子種を特定する方法である。この分子固有の励起状態を利用して、リアルタイムに有機分子を選択、検出することを可能にすると期待されているのがJet−REMPI法である。この原理を簡単に述べる。【0005】このJet−REMPI法は、共鳴多光子吸収イオン化(REMPI)法と超音速分子ジェット(Jet)法を組み合わせた方法である。REMPI(Resonance Enhanced Multi−Photon Ionization)法とは、レーザ光で有機分子を励起する際、注目分子特有の励起準位にレーザ波長を同調させることで、特定分子種のみを選択的にイオン化(共鳴多光子吸収イオン化)させ、イオンを質量分析計を用いて検出する方法である。【0006】光吸収によって試料をイオン化するには、吸収断面積(吸収効率)の観点から、吸収スペクトルで観測されるピーク付近の波長を利用する。しかし、常温、常圧の有機化合物の吸収スペクトルのピーク幅は、振動・回転準位からの遷移が重なるために幅広くなり、構造が似通った異性体の吸収ピークを分離することはできない。一方、この分子を絶対零度付近(数K)まで冷却すると、振動や回転していない真の基底状態に電子が位置するようになり、また、遷移の選択率によって、特定の準位にのみ励起されるようになるため、数本の鋭いピークのみが観測されるようになる。ピーク幅は、冷却された温度によって決まるが、通常0.01nm程度である。この程度のピーク幅であれば、波長可変レーザを用いることによって、構造が非常に似通った異性体でも、選択的に励起・イオン化することができる。【0007】一方、超音速分子ジェット(Jet)法は、分子を極低温まで冷却する一つの方法である。この方法は、気化させた試料分子をヘリウムやアルゴンなどの希ガスと共にピンホールから真空中に噴出させて、断熱膨張冷却および希ガスとの衝突により、試料分子を絶対零度付近まで瞬時に冷却する方法である。分子の速度が音速の数十倍に達するため、超音速分子ジェット法と呼ばれている。【0008】Jet−REMPI法は、このように注目分子の振動・回転準位を凍結し、その注目分子の共鳴励起準位に波長可変レーザのエネルギーを同調させることで、特定分子のみ選択的にイオン化し、質量分析する方法である。Jet−REMPI法により、ダイオキシン類発生の前駆体と考えられるクロロベンゼンやクロロフェノールを検出する技術が公開されている(特開平9−243601号公報、特開平10−74479号公報)。また、H.H.Grotheerらは、Jet−REMPI装置の最適化をすすめ、高感度分析装置化に成功した。ジクロロトルエンで0.1ppb までの定量化を実現している(特開平8−222181号公報)。【0009】【発明が解決しようとする課題】一方、ダイオキシン類は非常に強い毒性を持つことから、評価しなければならない検出感度が0.1ng/Nm3 と非常に微量であり、更なる高感度化が必須である。Oserらは、ジクロロダイオキシンで10ppt 程度の検出限界を報告しており、これまでのところ最も高感度な報告となっている(H.Oser,R.Thanner,H.H.Grotheer,B.K.Gullett,N.B.French,D.Natscke,Proc.16th Int.Conf.On Incineration and Thermal Treatment Technologies(1997))。しかし、この検出限界は、ほぼ100ng/Nm3 に相当し、今後評価が必要となる0.1ng/Nm3 の検出限界を達成するためには、更に1000倍程度の高感度化が必要である。【0010】そこで、本発明は、上述した従来の問題点を解決すべく、イオンの引き出し効率が高く、信号増幅器の飽和を避けながら、かつ高感度な超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置を提供することを目的とする。【0011】【課題を解決するための手段】一般的なJet−REMPI装置の概要を図1に示す。パルスバルブから噴出された粒子をスキマーを介してイオン照射領域に導入する。色素レーザから発生した可視光(ω)を非線形光学結晶を用いて、注目する分子の選択励起波長である第2高調波(ω/2)を発生させ、レーザイオン化領域に挿引する。これにより、注目分子のみの選択的なイオン化を起こさせることができる。発生したイオンは、平行平板型の電極により加速され、アインツェルレンズ、ディフレクタを通して、収束され、偏向されて検出器に到達する。検出されたイオン信号は、プリアンプで増幅されデジタルオシロスコープで計測される。あるいは、BOXCAR積分計で信号積算される。【0012】しかしながら、ダイオキシン類のような極微量成分の分析の際には、以下のような問題がある。即ち、従来の装置では、検出器に到達するのはパルスイオン化源でイオン化した全てのイオンであるため、注目する分子の信号が数え落とされる可能性が高く、また、これを避けるためにパルスイオン化源の出力を下げると極微量成分の信号が検出できないなどの問題があった。そのため、イオン化効率が高く、更に検出器の飽和を回避可能なイオン検出系が必要であった。【0013】本発明の高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置は、本発明の主な目的である高いイオン検出効率を達成するために、発生したイオンを効率よくイオン検出計に導く、出鼻形状の引き出し電極を有し、その効率をより高く、かつノイズをより抑制するために設けた対向電極、静電メッシュ、ガイド電極を有すると共に、発生したイオンを選択検出することで質量分析計の飽和を避け、より定量的かつ高感度に、注目するイオン粒子を検出することを特徴とする。【0014】 請求項1に記載の発明は、試料ガスを装置内に導入するパルスバルブと、該パルスバルブから放出された試料ガスをパルスイオン化源でイオン化するイオン化領域と、該イオン化領域にて発生したイオンを検出器に導入するイオン光学系と、該イオン光学系から引き出されたイオンを検出するイオン検出器を具備する超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置であって、前記イオン光学系の引き出し電極が出鼻型電極形状であり、かつ該引き出し電極の後方に長さ調整手段を有する円筒状のポテンシャルスイッチを配置することを特徴とする高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置である。【0016】 また、請求項2記載の発明は、試料ガスを装置内に導入するパルスバルブと、該パルスバルブから放出された試料ガスをパルスイオン化源でイオン化するイオン化領域と、該イオン化領域にて発生したイオンを検出器に導入するイオン光学系と、該イオン光学系から引き出されたイオンを検出するイオン検出器を具備する超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置であって、前記イオン光学系の引き出し電極が出鼻型電極形状であり、かつ該引き出し電極の後方に円筒状のポテンシャルスイッチを互いに絶縁した状態で直列に複数個配置することを特徴とする高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置である。【0017】 また、請求項3記載の発明は、前記ポテンシャルスイッチと前記パルスイオン化源との高圧パルス印加のタイミングの調整手段を有することを特徴とする請求項1または2記載の高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置である。【0018】 また、請求項4記載の発明は、前記引き出し電極に対面し、イオン化領域を中心に同一直線上に前記引き出し電極と全く同一の出鼻型電極形状を有する対向電極を設置することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置である。【0019】 また、請求項5記載の発明は、前記引き出し電極、対向電極が、それぞれの電極と同軸上に静電シールドを持ち、それぞれの静電シールドは円筒かつメッシュ状であり、それぞれの電極および静電シールドが左右対称の構造であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置である。【0020】 また、請求項6記載の発明は、前記対向電極と引き出し電極に発生する印加電場の歪みを補正するために、前記対向電極および引き出し電極と同軸上に円筒状のガイド電極を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置である。【0021】 また、請求項7記載の発明は、前記引き出し電極及び対向電極がそれぞれガイド電極、静電メッシュ、アインツェルレンズを有し、これら引き出し電極と対向電極がイオン化領域を挟んで左右対称に配置され、かつ、これら電極がそれぞれ複数本の支持部材で同一直線上に配置されるように固定した構造であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置である。【0022】 また、請求項8記載の発明は、前記イオン化領域を挟んで、前記引き出し電極と対向電極が左右対称の構造を持ち、かつ接地電位を中心に正の電位を印加した対向電極と、該対向電極に印加した電位と絶対値の等しい負の電位を印加した引き出し電極を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置である。【0023】【発明の実施の形態】本発明に係わる高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置のイオン光学系の概要について、図2を用いて説明する。引き出し電極1は、出鼻形状を持ち、その外側に、同心円状に引き出し電極1を包囲する円筒状のガイド電極2を有する。また、その外側を円筒状の静電メッシュ3が包囲している。また、引き出し電極1の後段には、アインツェルレンズ4が設置されている。レーザイオン化領域5を中心にして、引き出し電極部の左右対称の位置に、引き出し電極1と共有する4本の支持棒6によって、対向電極7が設置されている。対向電極7は、引き出し電極同様、ガイド電極8および静電メッシュ9、アインツエルレンズ10を有する。ここで、対向電極7のアインツエルレンズ10は、イオン検出に関して寄与しないが、引き出し電極内のアインツエルレンズの故障の際の交換を即座に行えるように付与している。これら2対の電極は、レーザイオン化領域5を中心に、完全に対称な位置に設置される必要があり、かつ両者の出鼻電極中心のホールは、引き出し電極1の後段にあるアインツエルレンズ4のホールの中心、Y軸ディフレクタ11、X軸ディフレクタ12、ポテンシャルスイッチ13の中心と同一直線上にある。【0024】二つの静電メッシュ3と9は10mm程度離しておく。一般的には、ロータリーポンプおよびターボ分子ポンプを用いて、真空排気されたレーザイオン化領域の到達真空度は1E-5〜1E-6Pa程度の真空度となっている。その中心に紙面上方向より、超音速分子ジェット流15が通過する。一般に、超音速分子ジェットは、スキマーを介して得ることができる。スキマーを介することで、装置の差動排気の効果を上げ、高真空化(パルスバルブ動作時で1E−3Pa程度)を達成できる。しかし、パルスバルブ先端とレーザイオン化領域を近づけることができない。本発明の装置の特徴は高感度検出であるから、バルブ先端からレーザイオン化領域までの距離を大きくとると、高感度化が達成しにくい。そこで、本発明の装置は、スキマーを用いず、自由分子流とした。しかし、パルスバルブ14とイオン引き出し系が接近すると、電界のひずみが生じ、レーザによりイオン化した粒子を検出器に効率的に取り込めなくなる。そこで、バルブと同電位の静電メッシュ3,9を設置することにより、等電位面が歪むことを抑える。但し、互いのメッシュの間隔を広くとり過ぎると、電極を包囲する等電位面が歪むとともに、パルスバルブ14が近付いた場合には、その形状により等電位面に歪みが生じる。これらの電界の歪みを補正し、検出器内にイオンを透過させる役割をするのが、ガイド電極2,8である。また、紙面垂直方向からは、イオン化用レーザがレーザイオン化領域5に入射される。二つの電極のホール部は常に同一直線上にあり、ホール間距離の中点にレーザイオン化領域5が位置する。【0025】引き出し電極1と対向電極7は、以上説明したとおり、レーザイオン化領域5を中心に2対の対称な構造を持ち、この構造が崩れると電場が崩れ、イオンを高い効率で検出器に到達させることができない。従って、支持棒6により、この2つの電極を保持した位置関係を保つ構造が必要である。一方、引き出し電極1、対向電極7、静電メッシュ3,9、ガイド電極2,8は、パルスバルブ14に接近しているため、噴射したガスの吸着が免れない。従って、このような汚染は、高圧印加の際に放電が生じやすくなるので、定期的な洗浄が必要である。これらの理由より、二つの静電メッシュ3,9を一体型として、超音速分子ジェットとレーザの通過領域に円筒メッシュに穴を開けた構造ではなく、それぞれの電極を包囲した2つの静電メッシュを用いる構造の方がよい。【0026】この電極形状を用いた理由は、静電メッシュ3,9がパルスバルブと同電位とされているため、パルスバルブ14をレーザイオン化領域5に接近させることができること、また、広いレーザイオン化領域5から発生したイオンを高い確率で収集できることによる。これは、極微量有機物を検出するためには必須の条件である。しかし、装置的には下記の大きな課題が幾つか発生した。【0027】(a)対向電極に+X(V)の電圧を印加し、引き出し電極を接地すると、静電メッシュとパルスバルブは+X/2(V)の電圧を印加する必要が生じる。(b)対向電極に+X(V)の電圧を印加し、引き出し電極に−X(V)の電圧を印加すると、静電メッシュとパルスバルブは接地となるが、引き出し電極後方のアインツェルレンズ、ディフレクタ、飛行時間型質量分析計は浮遊電位にする必要が生じ、それら電極、レンズ、検出器は浮遊電位上で電圧を印加する必要が生じる。また、回路上非常に費用がかかる。また、飛行時間型質量分析計を2重管構造としないと安全上問題となる。【0028】以上の問題を解決するために、本発明者らは、これまで用いられてこなかったポテンシャルスイッチをアインツェルレンズの後段に新たに設置した。ポテンシャルスイッチとは、円筒形状の電極である。ここで、一般的な測定条件である対向電極+2KV、引き出し電極−2KV印加した場合で考えてみることにする。【0029】−2KVで引き出されたイオンは、ポテンシャルスイッチが接地されていると、反発電位を感じ、ポテンシャルスイッチの空洞内で彷徨い、飛行時間型質量分析計の方に引き出されてこない。一方、ポテンシャルスイッチに−2KVが印加されていれば、イオンは引き出し電極と同電位のポテンシャルスイッチの中を等速運動で通過していく。しかし、ポテンシャルスイッチの出口を出た瞬間、ほぼ無電位のディフレクタや接地されている飛行時間型質量分析計を感じ、やはり飛散して、検出器に到達できない。【0030】そこで、我々は、新たに接地した円筒形状のポテンシャルスイッチに、パルス状の高電圧を印加することで、上述した問題を解決した。つまり、注目する粒子が−2KVを印加したポテンシャルスイッチ内に到達した時間に、ポテンシャルスイッチの電位をパルス状に接地に上げてやることで達成できる。即ち、ポテンシャルスイッチ内に到達したイオンは、−2KVの電位で等速運動しているが、パルス状に接地電位まで昇圧される。その結果、ポテンシャルスイッチ出口では、ディフレクタ、飛行時間型質量分析計の接地電位を感じることなく、等速運動を継続し、検出器に到達する。接地電位がパルス状に印加された時間にポテンシャルスイッチ内に存在する粒子はこのように検出され、それ以外の粒子は検出器に到達することはできない。超音速分子ジェット内では、粒子の運動エネルギー(E=1/2mv2 :mは粒子の質量数、vは速度)は等しい。従って、イオン化領域からポテンシャルスイッチに到達する時間は、粒子の質量数の平方根に反比例する。これより、注目する有機分子近傍の質量範囲のみを検出することもできる。検出したい質量範囲は、対向電極、引き出し電極に印加する電圧、ポテンシャルスイッチの長さとパルスイオン化源との高圧パルスの印加のタイミングによって決定される。【0031】以上より、本発明の出鼻型電極とポテンシャルスイッチを組み合わせた高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化装置により、上述の課題を解決し、下記作用を得ることができる。(A)後段の飛行時間型質量分析計のシステムを複雑化せず、低コストで高感度化を達成できる。(B)通常用いられるマスゲートなどのアッセンブリを用いることなく、質量選択を可能とする。(C)(A)による高感度化により、単位時間当たりの信号量の増加が見込まれ、アンプなどの飽和が心配されるが、(B)により注目する分子の情報のみを選択的に検出できる。【0032】【実施例】以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。図3は、本発明に係る超音速分子ジェット多光子吸収イオン化装置の概略図である。パルスバルブからHe等の希ガスとともに真空中に放出された有機分子を共鳴選択励起する紫外線レーザを挿引し、多光子吸収過程を経由してイオン化する装置である。イオン化された有機分子は、飛行時間型質量分析計(Time−of−Fight Mass Spectrometry:TOF−MS)を通して質量分析され検出される。従って、異性体などは共鳴波長の違いにより選別され、異なる質量数を持つ異なる有機分子は質量分析計で分離可能である。また、静電反射型TOF−MSを用いることで、パルスバルブ近傍や引き出し電極に衝突して発生したイオンなどを分離し、検出器に到達させずに雑音を低減できる。【0033】図4は、パルスバルブ、レーザ、ポテンシャルスイッチの動作のタイムシーケンスを示したものである。パルスバルブを開き、超音速分子ジェットが真空チャンバ内で発生し、レーザ照射によりイオンが発生する。その後、−2KVを印加されたポテンシャルスイッチが、パルス状に0Vまで昇圧される。このパルス電圧印加の際に、ポテンシャルスイッチ内に存在するイオンのみが検出器に到達できる。【0034】図5は、試料にモノクロロベンゼンを用いて、ポテンシャルスイッチとパルスレーザとのパルスタイミングを、図4のように、1,2,3と変化させた場合に得られた飛行時間型質量スペクトルを示したものである。共鳴励起波長として269.843nmの紫外線レーザを用い、レーザ光強度は6mJ/pulse とした。図5に示したように、ポテンシャルスイッチのタイミング1では、質量数10以下から160までのイオンを全て検出している。また、レーザ光強度が大きいため、クロロベンゼンの親イオン(112a.m.u)の他に、フラグメントイオンを非常に高い強度で検出している。一方、タイミング2では、低い質量数側のフラグメントイオンが検出されなくなりはじめている。更に、タイミング3では、質量数70以下のイオンは全て検出器に到達できなくなっており、注目する親イオン以外の信号が検出器に入らない条件が設定できることがわかる。これにより、アンプの飽和から避けられる最適条件が確立できた。【0035】請求項2記載の発明では、このポテンシャルスイッチの長さを変化させることにより、上述したイオンの質量範囲を可変とした。また、請求項3記載の発明では、絶縁した複数個のポテンシャルスイッチを用いて、広い質量範囲を検出し、自分の検出したいイオンを最前段のポテンシャルスイッチで検出可能となるパルスタイミングに制御し、最前段以外のポテンシャルスイッチを接地することで、所望のイオンのみの信号を検出器に導入することが可能となる。これを用いることで、後段に時間的なゲートを持つ高価な検出器を用いる必要がない。図6に示したのは、上段(a)は絶縁したポテンシャルスイッチを複数個用いた場合、下段(b)は最前段のポテンシャルスイッチのみを用いた場合、に得られた質量スペクトルである。適当な長さを持つポテンシャルスイッチを最前段だけ動作させると、所望のイオンの質量範囲を検出可能である。【0036】この装置および条件を用いて、クロロベンゼンの検出量とHeガス中のクロロベンゼンの濃度との相関を測定した。Heガス中のクロロベンゼン濃度は、パーミエーターを用いて定量化した。そのパーミエーター中のガスを本発明のJet−REMPI装置に直接導入し、濃度と検出信号の相関を得たのが図7である。実施例1が、本発明で開発した高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化装置で得られた検量線(○印)であり、比較例1で示したのが、従来用いられてきた平行平板型の引き出し電極を搭載した超音速分子ジェット多光子吸収イオン化装置で得た検量線(□印)である。【0037】図7から分かるように、本発明に係る装置によれば、従来装置と比較して1桁以上の高感度化が達成できていることが分かる。また、従来法では、すでに検出限界となり、検量線の数ppt の濃度域で直線性が得られなくなってきている。本発明の装置により、クロロベンゼンの検出感度は0.2〜0.5ppt レベルまで到達できたと考えられる。【0038】【発明の効果】本発明により、高感度化必須となる有害有機化合物を検出するのに適した超音速分子ジェット多光子吸収イオン化装置を、装置構成を複雑にすることなく提供できる。しかも、クロロベンゼンの検出感度は0.1ppt レベルが可能となり、従来法を上回る検出限界を得ることができる。【図面の簡単な説明】【図1】超音速分子ジェット多光子吸収イオン化装置の概要図。【図2】本発明のイオン光学系の概要図。【図3】本発明の超音速分子ジェット多光子吸収イオン化装置の概略図。【図4】本発明の一実施例に係わるパルスバルブ、レーザ、ポテンシャルスイッチのタイムシーケンシャルを示した図。【図5】ポテンシャルスイッチのタイミングを変化させた際の飛行時間型質量スペクトルを示した図。【図6】複数個のポテンシャルスイッチを動作させた場合と最前段のポテンシャルスイッチを動作させた場合の質量スペクトルを示した図。【図7】本発明の高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化装置で得られたモノクロロベンゼンの検量線と従来装置での検量線を示す図。【符号の説明】1: 引き出し電極 2,8: ガイド電極3,9: 静電メッシュ 4,10: アインツェルレンズ5: イオン化領域 6: 支持棒7: 対向電極 11: Y軸ディフレクタ12: X軸ディフレクタ 13: ポテンシャルスイッチ14: パルスバルブ 15: 超音速分子ジェット流 試料ガスを装置内に導入するパルスバルブと、該パルスバルブから放出された試料ガスをパルスイオン化源でイオン化するイオン化領域と、該イオン化領域にて発生したイオンを検出器に導入するイオン光学系と、該イオン光学系から引き出されたイオンを検出するイオン検出器を具備する超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置であって、前記イオン光学系の引き出し電極が出鼻型電極形状であり、かつ該引き出し電極の後方に長さ調整手段を有する円筒状のポテンシャルスイッチを配置することを特徴とする高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置。 試料ガスを装置内に導入するパルスバルブと、該パルスバルブから放出された試料ガスをパルスイオン化源でイオン化するイオン化領域と、該イオン化領域にて発生したイオンを検出器に導入するイオン光学系と、該イオン光学系から引き出されたイオンを検出するイオン検出器を具備する超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置であって、前記イオン光学系の引き出し電極が出鼻型電極形状であり、かつ該引き出し電極の後方に円筒状のポテンシャルスイッチを互いに絶縁した状態で直列に複数個配置することを特徴とする高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置。 前記ポテンシャルスイッチと前記パルスイオン化源との高圧パルス印加のタイミングの調整手段を有することを特徴とする請求項1または2記載の高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置。 前記引き出し電極に対面し、イオン化領域を中心に同一直線上に前記引き出し電極と全く同一の出鼻型電極形状を有する対向電極を設置することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置。 前記引き出し電極、対向電極が、それぞれの電極と同軸上に静電シールドを持ち、それぞれの静電シールドは円筒かつメッシュ状であり、それぞれの電極および静電シールドが左右対称の構造であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置。 前記対向電極と引き出し電極に発生する印加電場の歪みを補正するために、前記対向電極および引き出し電極と同軸上に円筒状のガイド電極を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置。 前記引き出し電極及び対向電極がそれぞれガイド電極、静電メッシュ、アインツェルレンズを有し、これら引き出し電極と対向電極がイオン化領域を挟んで左右対称に配置され、かつ、これら電極がそれぞれ複数本の支持部材で同一直線上に配置されるように固定した構造であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の記載の高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置。 前記イオン化領域を挟んで、前記引き出し電極と対向電極が左右対称の構造を持ち、かつ接地電位を中心に正の電位を印加した対向電極と、該対向電極に印加した電位と絶対値の等しい負の電位を印加した引き出し電極を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の高感度超音速分子ジェット多光子吸収イオン化質量分析装置。