タイトル: | 特許公報(B2)_Keap1遺伝子改変による異物代謝系第二相強化非ヒト動物の作出方法 |
出願番号: | 2001168617 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,A01K67/027,C12N5/10,C12N15/09 |
山本 雅之 高橋 智 伊東 健 若林 伸直 JP 3646161 特許公報(B2) 20050218 2001168617 20010604 Keap1遺伝子改変による異物代謝系第二相強化非ヒト動物の作出方法 国立大学法人 筑波大学 504171134 鈴江 武彦 100058479 河野 哲 100091351 中村 誠 100088683 蔵田 昌俊 100108855 峰 隆司 100075672 福原 淑弘 100109830 村松 貞男 100084618 橋本 良郎 100092196 山本 雅之 高橋 智 伊東 健 若林 伸直 20050511 7 A01K67/027 C12N5/10 C12N15/09 JP A01K67/027 C12N15/00 A C12N5/00 B 7 A01K 67/027 C12N 15/00 BIOSIS/WPI(DIALOG) PubMed JSTPlus(STN) Genes Dev.(1999),Vol.13,No.1,p.76-86 蛋白質 核酸 酵素(1999),Vol. 44,No.15,p. 2370-2376 Free Radic Res.(1999)Vol.31,No.4,p.319-324 Proc Natl Acad Sci USA(2001 Mar),Vol.98,No.6,p.3410-3415 Proc Natl Acad Sci USA(2001 Apr),Vol.98,No.8,p.4611-4616 Toxicol Sci.(2001 Jan),Vol.59,No.1,p.169-177 5 2003018943 20030121 21 20010604 ▲高▼ 美葉子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、異物代謝系第二相酵素群を恒常的に活性化させた非ヒト動物を作出する方法に関する。【0002】【従来の技術】産業の発達に伴って、発癌性や催奇形性を有する環境化学物質は年々増大しており、それら化学物質の体外排出能を向上させることは、より安全な畜産動物の開発に繋がる基本的技術である。そしてこれら化学物質に対する代謝能を増強した、環境化学物質が体内に残留しにくい家畜などの非ヒト動物の作製は、非常に興味深い課題である。【0003】生体が生体異物に暴露されると生体内で解毒酵素群が誘導され、これらの酵素により生体異物をより水溶性の高い誘導体へと変換する。このような環境化学物質に対する生体反応は、異物代謝系第一相とその後引き続いて起こる第二相の反応からなる。第一相反応は、主にチトクロームP−450モノオキシダーゼ系による官能基付加反応であり、化学的に不活性な化合物を反応性に富んだ代謝中間体に変換する。続いて起こる第二相反応は、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)やNAD(P)H:キノン酸化還元酵素(NQO1)などの酵素による反応であり、第一相で得られた中間体を一般的により毒性の低い誘導体へと変換する。【0004】異物代謝系第一相の誘導はレセプター型転写因子であるアリルハイドロカーボン受容体(AhR:別名ダイオキシンレセプター)により制御されていることが明らかとなっている。【0005】一方、これまでに異物代謝系第二相を活性化する薬剤として、幾つかの化合物が知られていたがその作用機序は不明であった。また、その誘導は一過性であり、恒常的な活性化を誘導するためには薬剤を持続的に投与する必要があった。【0006】また異物代謝系第二相を制御する転写因子については明らかとされていなかったが、本件の発明者等は既に、Nrf2が異物代謝系第二相酵素群の転写活性化因子であることを世界に先駆けて報告している。さらに、本件の発明者等は細胞質タンパク質Keap1が、CNC群(Cap’n’ collar family)において最強の転写活性を有するNrf2の核移行を制御することにより異物代謝系第二相を制御していることも明らかにしている(Itoh, K.ら, Genes & Development 13: 76〜86, 1999年)。即ち、Keap1−Nrf2機能複合体に関与する以下の分子メカニズムを提唱した。非ストレス条件下において、Nrf2は細胞質に局在するKeap1のβプロペラドメインに結合しているが、酸化的ストレス又は第一相解毒酵素により代謝された第二相基質のような刺激に対する細胞防御反応が起こると、Nrf2はKeap1から放出され、すばやく核に移行する。その結果、Nrf2は小Maf(以下、sMafとも表記する)のような別のbZipパートナーとヘテロ二量体を形成する(Marini, M. G.ら, J Biol Chem 272, 16490〜16497, 1997年;Motohashi, H.ら, Nucleic Acids Res 25, 2953〜2959, 1997年)。結果として、ヘテロ二量体は標的遺伝子の遺伝子調節領域(以下、GRRとも表記する)に存在する抗酸化剤応答配列(以下、AREとも表記する)(Xie, T.ら, J Biol Chem 270, 6894〜6900, 1995年;Venugopal, R.and Jaiswal, A. K., Oncogene 17, 3145〜3156, 1998年)を介して、標的遺伝子の発現(例えば、第二相解毒酵素や酸化的ストレス低減タンパク質)をトランス活性化させる。【0007】既に樹立されたNrf2欠損マウスの個体レベルの解析及びそのマウスより単離した初代培養マクロファージの解析では、それらの標的遺伝子の誘導発現は観察されなかった(Itoh, K.ら, Biochem Biophys Res Commun 236, 313〜322, 1997年;Itoh, K.ら, Free Radic Res 31, 319〜324, 1999年)。【0008】【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、異物代謝系第二相を制御する転写因子Nrf2及び細胞質タンパク質Keap1に注目し、Keap1の役割及びKeap1−Nrf2機能複合体の生体内での機能及び制御機構を解明し、異物代謝系第二相を恒常的に活性化させた生存可能な非ヒト動物を作製することである。【0009】【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明は、Keap1遺伝子を破壊した胚幹細胞クローンを用いて、Keap1ヘテロ欠損非ヒト動物を作出する方法、前記方法を用いて作出したKeap1へテロ欠損非ヒト動物を交配させることにより異物代謝系第二相を恒常的に活性化させたKeap1ホモ欠損非ヒト動物を作出する方法、Keap1へテロ欠損非ヒト動物とNrf2ホモ欠損マウスを交配して、生存可能なKeap1へテロ欠損Nrf2ヘテロ欠損非ヒト動物を作出する方法、並びに前記方法を用いて作出したKeap1へテロ欠損Nrf2ヘテロ欠損非ヒト動物を交配させて、生存可能なKeap1へテロ欠損Nrf2ヘテロ欠損非ヒト動物又は異物代謝系第二相を恒常的に活性化させた生存可能なKeap1ホモ欠損Nrf2ヘテロ欠損非ヒト動物を作出する方法を提供する。【0010】【発明の実施の形態】本発明は、異物代謝系第二相を恒常的に活性化させた非ヒト動物を作製する方法を提供する。具体的には、Keap1を欠失させることにより、異物代謝系第二相酵素群を恒常的に発現させた非ヒト動物を作製する。【0011】本明細書において、「異物代謝系」とは、暴露により生体に取り込まれた物質を水溶化することで無毒化する系を意味する。「異物代謝系第二相酵素群」とは、チトクロームP−450モノオキシダーゼをはじめとした異物代謝系第一相酵素群の作用により生成した原癌性を有するような代謝中間体を、より毒性の低い中間体へと代謝する一連の代謝関連酵素群を意味する。第二相酵素としては、例えばGSTπやGSTμのようなグルタチオンSトランスフェラーゼ(以下、GSTとも表記する)、NAD(P)H:キノン酸化還元酵素(以下、NQO1とも表記する)又はエポキシドヒドラターゼ等が挙げられる。【0012】ここで異物代謝系応答を引き起こす環境化学物質としては、例えば、発ガン性物質、催奇形性物質、慢性毒性物質、亜急性毒性物質又は急性毒性物質等が挙げられる。【0013】本明細書において「恒常的に活性化する」とは、酸化的ストレス又は第一相解毒酵素により代謝された第二相基質を投与したときのような刺激条件下でなくても、第二相酵素群が誘導的でなく恒常的に発現することを意味する。【0014】本明細書において、「非ヒト動物」とは、ヒトを除く動物を意味し、例えばヒトを除く哺乳動物(マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ等)、鳥類(例えば、ニワトリ等)、両生類(例えば、カエル等)、爬虫類又は昆虫が挙げられる。【0015】本発明の態様の一つに従って、Keap1を欠損させたマウスを作製することにより、Nrf2の細胞内制御タンパク質であるKeap1の生体内での機能を明らかにすることができる。ここで、「Nrf2」は上述の通りCNC群の転写因子であり、小Maf群タンパク質とヘテロ二量体を形成して抗酸化剤反応配列に結合することが可能なタンパク質で、第二相酵素群の制御因子であることを意味する。【0016】「Keap1」(Kelch−like ECH Associating Protein1)は、Nrf2に直接結合する分子として、Nrf2において種間で保存されたNeh2ドメインをベイトとした酵母ツーハイブリッドシステムを用いてクローニングされたタンパク質である(Itoh, K.ら, Genes Dev 13, 76〜86, 1999年)。Keap1はNrf2の細胞質制御タンパク質であり、Nrf2を細胞質に局在化することでNrf2活性を抑制している。【0017】Keap1遺伝子ノックアウト非ヒト動物は、次に示す方法により得ることができる。まず例えば相同組換えにより少なくとも一方の対立遺伝子を破壊した胚幹細胞(以下、ES細胞とも表記する)を、受精卵の胚盤胞に注入してキメラ非ヒト動物を得る。得られたキメラ動物を相当する野生型非ヒト動物と交配させて、対立遺伝子の一方のみが破壊されたヘテロ接合体非ヒト動物(以下、Keap1+/−とも表記する)を作出することができる。さらにこれら得られたヘテロ接合体非ヒト動物を交配させて、両方の対立遺伝子が破壊されたホモ接合体非ヒト動物(以下、Keap1−/−とも表記する)を作出することができる。野生型はKeap1+/+で表現される。【0018】ES細胞として、マウスの場合には、E14、CCE、J1又はT2等を用いることができる。ES細胞の相同組換えは、例えばKeap1発現を妨害し得る任意のDNA配列を挿入した組換えDNAを、ES細胞に導入することにより行うことができる。前記Keap1発現を妨害し得る任意のDNA配列は、組換えDNAのES細胞への導入を確認できるような薬剤耐性遺伝子(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子(neo))等を用いるのが好ましく、またレポーター遺伝子(β−ガラクトシダーゼ(lacZ))等を用いるのが好ましいが、特に限定されない。【0019】上述のDNA導入法としては、例えば電気穿孔法又はマイクロインジェクション法が挙げられる。ES細胞におけるKeap1遺伝子破壊は、常法に従って、例えばPCRとサザンブロットハイブリダイゼーションで確認することができる。【0020】相同組換えによりKeap1遺伝子を破壊したES細胞を有するキメラ非ヒト動物の作出方法は、例えば胚盤胞マイクロインジェクション法等が挙げられる。胚盤胞インジェクション法は、非ヒト動物の胚盤胞にKeap1を破壊したES細胞をマイクロインジェクションし、処理した胚盤胞を擬妊娠非ヒト動物に移植することにより所望のキメラ非ヒト動物を作出することができる。【0021】上述のように得られたキメラ非ヒト動物を相当する野生型非ヒト動物に交配させることで得られるヘテロ接合体非ヒト動物、あるいは該へテロ接合体非ヒト動物を更に交配させることで得られるホモ接合体非ヒト動物は、例えば、尾部から採取したDNAを用いたサザンブロット法によりその遺伝子型を確認することができる。またRNAブロット分析によりKeap1遺伝子の発現の有無を確認することができる。【0022】また、本発明は、Keap1ヘテロ欠損非ヒト動物とNrf2ホモ欠損非ヒト動物を交配させて、生存可能なKeap1へテロ欠損Nrf2ヘテロ欠損非ヒト動物を作出する方法を提供する。更に、本発明は、上記方法により作出したKeap1へテロ欠損Nrf2ヘテロ欠損非ヒト動物同士を交配させて、異物代謝系第二相酵素群を恒常的に発現させた生存可能な非ヒト動物を作出する方法を提供する。【0023】Keap1−Nrf2複合変異非ヒト動物の作出方法は、上述の本発明に従った方法により得られるKeap1+/−非ヒト動物とNrf2−/−非ヒト動物を交配させて、野生型非ヒト動物となんら差異のないKeap1+/−Nrf2+/−(これは、Keap1に関してヘテロ欠損体、即ち一方の対立遺伝子のみ破壊、Nrf2に関してもヘテロ欠損体、即ち一方の対立遺伝子のみ破壊されていることを意味する、これ以降、K1N1とも表記する)の遺伝子型を有する非ヒト動物を作出する。該非ヒト動物同士を交配させることにより、全ての遺伝子型を有する非ヒト動物を作製することができ、従ってKeap1−Nrf2の両方を欠損した非ヒト動物を容易に得ることができる。【0024】Nrf2−/−非ヒト動物の作製方法は、Keap1−/−と同様の方法に従って、まず相同組換えにより少なくとも一方の対立遺伝子を破壊した胚幹細胞を、受精卵の胚盤胞に注入するか、あるいは桑実胚と会合させた後に、擬妊娠非ヒト動物に移植することにより、ES細胞由来の細胞と胚由来の細胞とが混ざったキメラ非ヒト動物が得られる。得られたキメラ動物を相当する野生型非ヒト動物と交配させて、対立遺伝子の一方のみが破壊されたヘテロ接合体非ヒト動物(以下、Nrf2+/−とも表記する)を作出することができる。さらにこれら得られたヘテロ接合体非ヒト動物を交配させて、両方の対立遺伝子が破壊されたホモ接合体非ヒト動物(以下、Nrf2−/−とも表記する)を作出することができる(特願平11−064772参照)。野生型はNrf2+/+で表現される。【0025】上述の方法により得られたK1N1非ヒト動物、K0N0非ヒト動物(Keap1−/−Nrf2−/−非ヒト動物)やK0N2非ヒト動物(Keap1−/−Nrf2+/+)等について、例えば、尾部から採取したDNAを用いたサザンブロット法によりその遺伝子型を確認することができる。【0026】以下、実施例に従って、本発明をより詳細に説明するが、これによって如何なる意味においても本発明の範囲を限定されると解釈されるべきではない。【0027】【実施例】実施例1:Keap1欠損マウスの作出(1)ターゲティングベクターの作製129・SvJマウスゲノムライブラリー(ストラタジーン)をスクリーニングすることにより、完全長のKeap1遺伝子とターゲティングベクターを作製するのに十分な長さの5’及び3’フランキング配列を含む、2つのファージクローン(以下、クローン1及びクローン2と称する)を分離した。【0028】得られた2つのファージクローンのうちターゲティングベクター作製に適した、即ち相同組換えを実施するのに十分なフランキング配列を有するクローン1を用いて、pBluescriptプラスミド(ストラタジーン)にクローン化してターゲティングベクターを作製した。このターゲティングベクターは、核移行シグナル(Nuclear localization Signal:以下、NLSとも表記する)−β−ガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子をHindIIIとSmaI部位間のKeap1cDNAのオープン読み取り枠(以下、ORFとも表記する)領域に挿入しており、該遺伝子をKeap1遺伝子と置換されるように設計されている。また形質転換体を選択するために、ネオマイシン耐性(neo)遺伝子をNLS−lacZ遺伝子下流に配置し、更に非相同性組換え体のネガティブ選択のために、ジフテリア毒素A(DT−A)遺伝子(東京大学、Dr.M.Taketohより分与)をKeap1遺伝子下流に挿入した。【0029】該ベクターは、5’ゲノム配列と3’ゲノム配列を、それぞれ5.5kb及び2.7kb含有しており、更にネオマイシンと隣接して5.7kbのNLS−lacZ cDNAを配置するように設計されている。このターゲティングベクターは、Keap1の8番目から204番目の197のアミノ酸残基をコードする配列を欠失させるように設計されており、Keap1のN末端側の7つのアミノ酸残基をNLS−LacZに連結している。【0030】ターゲティングベクター、野生型Keap1遺伝子座、及びターゲティングベクターを用いた相同組換えにより得られると予想される破壊されたKeap1遺伝子座(組換え体)の構造を図1に示す。【0031】(2)ターゲティングベクターのES細胞への導入と確認実施例1(1)で得られたターゲティングベクター25μgをリニア化した。ES細胞(E14)約1×107個を懸濁した培地0.6mLに、リニア化したターゲティングベクター20μgを添加し、ジーンパルサー(バイオラッド)を用いて、0.21kV/0.5Fの条件で、電気穿孔法により前記ES細胞に遺伝子を導入した。該細胞懸濁液に、0.3mg/mL−G418(ギブコ)を含有する培地30mLを添加し、37℃にて9日間培養した。【0032】G418耐性ES細胞のコロニー約360個が得られ、該ESクローンを常法に従って、高分子量DNAを調製し、ポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRとも表記する)により組換え体をスクリーニングした。PCRは、neo遺伝子にアニーリングすることができるスクリーニングブライマー1:5’−TCAGAGCAGCCGATTGTCTGTTGTGCCCAGTCAT−3’(配列表の配列番号1の配列)、及びターゲティングベクターの外側のKeap1遺伝子とアニ−リングすることができるプライマー2:5’−ACCCAGTCGATGCACGCGTGGAACACCTCGG−3’(配列表の配列番号2の配列)を用いて、98℃で10秒間及び68℃で5分間からなるサイクルを30サイクル行った。【0033】上述の通り、PCRを実施したところ、360個のクローンのうち、所望の相同的組換えが起こっている陽性クローン(約3.5kbのDNA断片を生じるクローン)は17個であった。これら陽性クローンについて、サザンブロット法により更に詳細に解析して遺伝子型を決定したところ、該17種類のESクローンの遺伝子座何れにおいてもKeap1破壊が見られ、すべてKeap1ヘテロ欠損であることが確認された。野生型(+/+)、ESクローン1(ES1)及びESクローン2(ES2)に実施したサザンブロット結果を図2Aに示す。なお、サザンブロット法による解析は、ゲノムDNAを制限酵素EcoRIで消化した際に生じるDNA断片(野生型:〜7.7kb、組換え体:〜8.7kb)をターゲティングの外側に配置する5’プローブ(EcoRI−Xbalフラグメント:140bp)とハイブリダイゼーションさせて、またゲノムDNAを制限酵素SacIで消化した際に生じるDNA断片(野生型:〜4.5kb、組換え型:〜6.6kb)をターゲティングベクターの外側に配置する3’プローブ(EcoRI−SacIフラグメント200bp)とハイブリダイゼーションさせることにより実施した(図1参照)。【0034】(3)Keap1遺伝子破壊マウスの作出実施例1(2)で得られた17種類のクローンのうち、3種類のESクローン生殖細胞系キメラ作製用クローン(以下、それぞれESクローン1、ESクローン2及びESクローン3と称する)として用い、胚盤胞マイクロインジェクション方法によりキメラマウスを作製した。即ち、C57BL/6Jマウスの胚盤胞に、前記3種類のうち1種のES細胞をマイクロインジェクションして、処理した胚盤胞を偽妊娠マウスに移植してキメラマウスを作出した。【0035】前記3種類のESクローンのうち2種類のクローン(ESクローン1及びESクローン2)を用いて作出したキメラマウス雄を用いて、これをC57BL/6J雌と交配させて、アグーチの毛の色を呈するF1子孫を得た。F1子孫における変異遺伝子の生殖系列への伝播を、尾部のゲノムのサザンブロット解析により確認した。更に、前記F1子孫のうちで、Keap1ヘテロ欠損体同士を交配させることでF2子孫を作出し、同様にサザンブロット法により遺伝子型を決定した。【0036】上記ESクローンを用いて作出したF1同士のかけ合わせにより作出したF2子孫に実施したサザンブロット解析の結果を図2Bに示す。図2Bにおいて、+/+は野生型マウスを表し、+/−はKeap1ヘテロ欠損マウスを表し、−/−はKeap1ホモ欠損マウスを表す。サザンブロット解析の結果、相同組換えにより得られると予想される、破壊されたKeap1遺伝子座由来のDNA断片のバンドが見られることから、F2子孫にはKeap1遺伝子座に関してヘテロなマウス及びホモなマウスが含まれており、これらのマウスにおいてはKeap1遺伝子の破壊が起きていることが確認された。【0037】(4)Keap1ノックアウトマウスのRNAブロット解析実施例1(3)で得られたKeap1ヘテロ欠損マウス及びKeap1ホモ欠損マウスと、野生型マウスから、胚線維芽細胞(以下、MEFとも表記する)を取り出し、ISOGEN(ニッポンジーン)を用いてRNAを分離した。該RNA25μgを、ホルムアミド/1.2%アガロースゲルで電気泳動し、ナイロン膜(HybondN+、アマルシャム)に転写した後に、pCMV−ECFP−mKeap1発現ベクター由来のマウスKeap1cDNAの完全なORFを含有するBamHI−XbaIフラグメント(1924bp)をランダムプライマーラベルキット(宝酒造)を用いて放射ラベルして、これをプローブとして用いた。50%ホルムアミド、4×SSC(なお、20×SSCは、3M NaCl及び0.3M クエン酸ナトリウム含有水溶液:pH7.0を意味する)、5×デンハルト試薬、0.2%ドデシル硫酸ナトリウム(以下、SDSとも表記する)中にて、42℃、一晩で上述の転写膜と該プローブとをハイブリダイゼーションさせた。0.5%SDSを含む2×SSC中にて、処理した転写膜をまず58℃で10分間洗浄し、続いて58℃で1時間洗浄し、最後に0.1%SDSを含む0.4×SSC中にて、60℃0.5時間洗浄した。【0038】またコントロールとしてGAPDHプローブを用いた。上述のKeap1cDNAプローブと同様に上記転写膜をGAPDHプローブとハイブリダイゼーションさせた後に、0.5%SDSを含む0.5×SSC中にて60℃で20分間洗浄し、次に0.2%SDSを含む0.2×SSC中にて60℃で45分間、最後に0.1%SDSを含む0.2×SSC中にて室温で20分間洗浄した。増感スクリーンを用いて、この転写膜を−80℃で一晩X線フィルム(BioMax又はXOR、コダック)に感光させた。【0039】上述の通りに実施したRNAブロット解析の結果を図3に示す。図3において、+/+は野生型マウスを表し、+/−はKeap1へテロ欠損マウスを表し、−/−はKeap1ホモ欠損マウスを表す。図3中の下方のパネルはコントロールを意味する。その結果、Keap1へテロ欠損マウスのMEF中に存在するKeap1RNAレベルは、野生型マウスのMEF中に存在するレベルの約半分であり、Keap1ホモ欠損マウスのMEFにおいては、Keap1RNAは検出されなかった。このことから、Keap1へテロ欠損マウス及びKeap1ホモ欠損マウスにおいて、Keap1破壊が起こっていることがわかる。【0040】(5)免疫ブロット解析によるlacZcDNAのノックインの確認野生型マウス、実施例1(3)で得られたKeap1ヘテロ欠損マウス及びKeap1ホモ欠損マウスから摘出した肝臓の全核タンパク質をディグナム法(Dignam, J. D., Methods Enzymol 182, 194〜203, 1990年)により調製した。 上述の方法により得られた核抽出物のタンパク質濃度は、タンパク質アッセイ試薬(バイオラッド)を用いて決定し、この際、標準物質としてウシ血清アルブミンを使用した。【0041】肝臓の核抽出物(タンパク質量で20μg)に等容量の2×SDSサンプル緩衝液(100mMトリス塩酸:pH6.8、200mMジチオスレイトール(以下、DTTとも表記する)、4%SDS、0.1%ブロモフェノールブルー、20%グリセロール)を加えた後に、すぐに5分間煮沸させた。これを適切なSDS−ポリアクリルアミドゲル(以下、PAGEとも表記する)で分離し、更にPVDF膜(ミリポア)に転写した。続いて抗β−ガラクトシダーゼ抗体(ICN)を用いて免疫染色した。【0042】免疫染色方法について以下に示す。3%スキムミルク及び二次抗体源と同じ動物の2%正常血清/TBS−T(10mMトリス塩酸:pH8.0、150mM塩化ナトリウム、0.05%ツィーン20)を用いて前記転写膜を、室温で1時間ブロックして、その後、5%スキムミルク/TBS−T中で1時間、抗β−ガラクトシダーゼ抗体と処理した転写膜を反応させて、セイヨウワサビペルオキシダーゼに結合させた適切な二次抗体を用いてECL発色キット(アマルシャム)を用いて検出した。抗ラミンBポリクローナル抗体(サンタクルーズ)により検出される核ラミンBのバンドコントロールとした。【0043】上述のように実施した免疫ブロット解析の結果を図4に示す。図4において、+/+は野生型マウスを表し、+/−はKeap1へテロ欠損マウスを表し、−/−はKeap1ホモ欠損マウスを表す。その結果、Keap1ホモ欠損マウスの肝臓抽出物中のNLS−LacZレベルは、Keap1へテロ欠損マウスの肝臓抽出物中のNLS−LacZレベルの約2倍であり、野生型マウスの肝臓抽出物にはNLS−LacZは検出されなかった。このことから、Keap1へテロ欠損マウス及びKeap1ホモ欠損マウスに、lacZ遺伝子がノックインされていることが確認された。【0044】さらに、β−ガラクトシダーゼ染色法(Maniplating the Mouse Embryo, A Laboratory Method 2nd Edition 参照)を用いて、Keap1+/−マウス又はKeap1−/−マウスにおけるNLS−LacZ発現は、Keap1mRNAを発現する組織の細胞と重複しており、またLacZが核内に位置していることを確認した(データは示していない)。【0045】(6)Keap1欠損マウスの表現型の観察F1交配によって得られる、同じ母体から生まれたヘテロ欠損体マウスと野生型マウスの表現型には、なんら差異を見出すことはできなかった。しかしホモ欠損体マウスにはいくつか異なる表現型が見られた。【0046】ホモ欠損体Keap1−/−マウスは、同じ母体から生まれた野生型マウスやヘテロ欠損体マウスと、体の大きさや行動においてはなんら差異はなく、正常に誕生した。しかし生後4日目から成長遅延が観察された。そして生後5、6日目には体表面一帯にふけが見られた。また野生型マウスやヘテロ欠損体マウスと比較して、ホモ欠損体は、マウスの腹側の皮膚のケラチン層が明らかに厚くなっていた。一方、毛や歯の生え方に異常は見られなかった。該ホモ欠損体マウスは衰弱を伴い、3週間以内に全て死亡した。【0047】(7)Keap1欠損マウスの解剖学的分析解剖学的分析により、Keap1ホモ欠損マウスの各器官の大きさは、体の大きさに比例していることがわかった。また食道や噴門洞を除く全ての器官には組織学的に異常は見られなかったが、食道や噴門洞の内壁には、皮膚と同様に異常ケラチン層が観察された。さらにKeap1ホモ欠損マウスの胃の噴門部に巨大な腫瘍が見られた。胃の切片の分析から、この腫瘍が多層のケラチンから構成されていることがわかった。個体を用いたブロモデオキシウリジン(BrdU)の取り込み実験から、野生型マウスやヘテロマウスと比較して、Keap1ホモ欠損マウスの食道や噴門洞において未熟な扁平上皮細胞の割合に大きな差がないことがわかった(データは示していない)。【0048】(8)Keap1欠損マウスにおける免疫組織化学分析各遺伝型マウスに関して、表皮細胞に関連する分化マーカーや増殖マーカーの発現について免疫組織化学分析により解析した。野生型マウス、Keap1へテロ欠損マウス及びKeap1ホモ欠損マウスの食道切片を、数種のサイトケラチンに対する抗体で処理した。用いた各サイトケラチンに対する一次抗体は、抗cK1、抗cK13、抗Loricrin、抗cK14である(これら全てDr.DennisRoopからご好意で頂いた)。調製した切片を顕微鏡(LeicaDMRD、DMRE)で観察した。【0049】その結果、同じ母体から生まれた野生型マウス、Keap1へテロ欠損マウス及びKeap1ホモ欠損マウスにおいて、幾つかのサイトケラチンに強烈な変化が見られた。Keap1ホモ欠損マウスにおいて、サイトケラチンcK1に増加が見られ、特に分化マーカーLoricrinは著しく増加した。一方、サイトケラチンcK13の発現は減少し、cK14は野生型マウスとほぼ同等の発現レベルを示した。【0050】(9)免疫ブロット解析によるサイトケラチン変化の確認プロテアーゼ抑制因子カクテル(Biolab)を含有するRIPA緩衝液(50mMトリス塩酸:pH8.0、150mM塩化ナトリウム、0.02%アジ化ナトリウム、0.1%SDS、1%NonidetP−40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム)中に、各遺伝型のマウスから摘出した食道5mmをホモジナイズさせた。【0051】サンプル緩衝液のSDS濃度が10%SDSである以外は、実施例1(5)の記載に従って、タンパク質濃度を測定し、ホモジナイズした食道(タンパク質量で5μg)を用いて、実施例1(5)の記載に従って、免疫ブロット解析を行った。なお、用いた抗体は抗cK6(Dr.Dennisよりご好意で頂いた)及び抗Loricrinであり、抗cK14(COVANCE)により得られたバンドをコントロールとした。その結果、Keap1ホモ欠損マウスにおいて、サイトケラチンcK6に増加が見られ、また実施例1(8)の結果と同様にLoricrinは著しく増加し、cK14は野生型マウスとほぼ同等の発現レベルを示した。【0052】実施例1(8)及び実施例1(9)の結果に見られるように、Keap1ホモ欠損マウスにおいて幾つかのサイトケラチンに変化が起こった理由は明らかでないが、しかし、これら変化がKeap1ホモ欠損マウスの成長遅延や短命の一因となっていると予想される。【0053】(10)組織化学分析各遺伝型の10日後のマウスの肝臓をヘマトキシリン−エオシン染色(以下、HE染色とも表記する)した。その結果、HE染色切片の組織化学的分析からは、野生型、Keap1ヘテロ欠損マウス及びKeap1ホモ欠損マウス全てに差異は見られなかった。【0054】(11)RNAブロット解析による第二相解毒酵素群の発現の確認上述の通り、Nrf2は核内で第二相解毒酵素の誘導的発現に重要な役割を果たす。またKeap1はNrf2を細胞質にトラップし、正常な細胞状態においてはNrf2の核への移行を妨げる。これらの観点から、Keap1と第二相酵素群の発現との関係が非常に興味深いと考えられた。【0055】そこでKeap1欠損マウスの肝臓における第二相解毒酵素群の発現について検討した。まずRNAブロット分析により、数種の第二相酵素群の発現(NQO1及びGSTπ)を確認した。【0056】実施例1(4)と同様に、Keap1ヘテロ欠損マウス及びKeap1ホモ欠損マウスと、野生型マウスから、胚線維芽細胞(MEF)、12日目の胚全量(E12.5)、新生児及び生後10日目の肝臓(P10肝臓)から全RNAを分離した。ここで、NQO1の全ORF領域及びGSTπのORF領域の一部をプローブとして用いた。またコントロールとしてGAPDHを用いた。【0057】RNAブロット解析の結果を図5に示す。図5において、Wtは野生型マウスを表し、HtはKeap1へテロ欠損マウスを表し、HmはKeap1ホモ欠損マウスを表す。その結果、Keap1へテロ欠損マウスにおいて、NQO1及びGSTπの遺伝子の発現は、野生型マウスやKeap1へテロ欠損マウスと比較し、MEF、肝臓等の全てのRNAにおいて著しく増加した。このことからKeap1欠損マウスにおいて第二解毒酵素であるNQO1及びGSTπの発現が増加することがわかった。【0058】これまでの知見では、これら第二相酵素群遺伝子の発現は、第一相を経由して通常誘導されるが、驚くべきことに、Keap1ホモ欠損マウスにおいて、これら第二相酵素のRNAは恒常的に高レベルであることがわかった。【0059】従って、Keap1ホモ欠損マウスにおいては、Nrf2は、正常な細胞条件でさえ、もはやKeap1にトラップされることなく核に移行して、恒常的に活性化していると考えられる。Nrf2やKeap1の発現は、通常体内のいたるところで検出されるために、このKeap1欠損によるNrf2の増加現象は、解毒代謝臓器のみならず種々の組織でも起こり得る。そのためKeap1を欠損させることで、未知のNrf2標的遺伝子の発現レベルも変化している可能性があり、これが原因でKeap1ホモ欠損マウスが死に至るのかもしれない。【0060】(12)CBB染色法及び免疫ブロット分解析による第二相解毒酵素群の発現の確認プロテアーゼ抑制因子カクテル(Biolab)を含有するRIPA緩衝液(50mMトリス塩酸:pH8.0、150mM塩化ナトリウム、0.02%アジ化ナトリウム、0.1%SDS、1%NonidetP−40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム)中に、各遺伝型の生後10日目のマウスから摘出した肝臓0.2gをホモジナイズさせた。上述の方法により得られた肝臓抽出物のタンパク質濃度は、タンパク質アッセイ試薬(バイオラッド)を用いて決定し、この際、標準物質としてウシ血清アルブミンを使用した。【0061】肝臓抽出物(タンパク質量で10μg)に等容量の2×SDSサンプル緩衝液(100mMトリス塩酸:pH6.8、200mM DTT、4%SDS、0.1%ブロモフェノールブルー、20%グリセロール)を加えた後に、すぐに5分間煮沸させた。これを適切なSDS−ポリアクリルアミドゲル(以下、PAGEとも表記する)で分離し、クマシーブリリアントブルー(以下、CBBとも表記する)で染色した。なお、サイズマーカーとしてブロードプレステインドマーカー(バイオラッド)を使用した。CBB染色の結果を図6の上部パネルに示す。その結果、GSTタンパク質の明らかな誘導が確認された。その誘導は、CBB色素によるタンパク質染色法で確認できるほど強力なものであった。【0062】さらに、実施例1(5)の記載に従って、上述の通り得られた肝臓抽出物(タンパク質量で10μg)を用いて、実施例1(5)の記載に従って、免疫ブロット解析を行い、数種のGSTタンパク質の発現レベルを解析した。なお、マウスのGSTサブユニット(α、μ及びπクラス)については、すでに報告されている各サブユニットに特異的に反応するウサギ抗体を用いて免疫染色した(Itoh, K.ら, Biochem Biophys Res Commun 236, 313〜322, 1997年)。NuclearLaminBバンドをコントロールバンドとした。【0063】その結果を図6に示す。図6において、Wtは野生型マウスを表し、HtはKeap1へテロ欠損マウスを表し、HmはKeap1ホモ欠損マウスを表す。構成的に発現するGSTαに関しては全ての遺伝子型のマウスは等しい発現レベルを示したが、通常誘導的に発現するGSTμ及びGSTπは、雄雌ともにKeap1ホモ欠損マウスの肝臓において顕著に増加した。従って、Keap1を欠失させることで、異物代謝系第二相解毒酵素群を恒常的に増加させることが明らかとなった。【0064】(13)免疫ブロット法によるNrf2発現の確認Keap1の破壊によりNrf2は細胞質にトラップされることなく、自動的に核へ移行すると予想できる。従って、Nrf2は核内に蓄積されると考えられる。この仮説を検証するために、免疫ブロット法によりNrf2発現を確認した。【0065】実施例1(5)に従って、各遺伝子型を有する生後10日目のマウスの肝臓の核抽出物に対して、免疫ブロット解析を実施した。なお、用いた抗Nrf2抗体は、アジュバンド系(RIBI Immunochem Research,Inc)を用いて日本シロウサギにNrf2のN末端領域組換え型ポリペプチドを免疫して産生した。また抗Nrf2ポリクローナル抗体を用いて、pEFmock又はpEFNrf2発現ベクターでトランスフェクションした293T由来の細胞の全タンパク質をNrf2検出用基準物質として用い、D3Tで処理したマウスの肝臓の全タンパク質を肝臓Nrf2検出のコントロールとして用い、NuclearLaminBバンドをローディングコントロールとした。【0066】その結果を図7に示す。図7において、Wtは野生型マウスを表し、HtはKeap1へテロ欠損マウスを表し、HmはKeap1ホモ欠損マウスを表す。Keap1ホモ欠損マウスの肝臓においてNrf2の発現は増加した。従って、Keap1破壊マウスにおける異物代謝系第二相解毒酵素の高レベルの発現は、Nrf2の恒常的な活性化によることがわかった。【0067】以上の実施例1の結果から、Keap1遺伝子を破壊することにより、非ヒト動物においてNrf2の発現を増加させ、さらにそれに伴い異物代謝系第二相酵素群を恒常的に活性化させることが可能となることが明らかとなった。しかし、実施例1で作出した恒常的に第二相酵素群が活性な非ヒト動物は、成長遅延が見られ、しかも短命であるという決定的な欠点を有する。【0068】実施例2:Keap1−Nrf2欠損マウスの作出実施例1に記載するように、Keap1ホモ欠損マウスは、野生型と比較して成長遅延や異なる種々の表現型が見られ、最終的には死に至ってしまう。上述のように、Keap1を欠損することによりNrf2の制御がなされずに恒常的に活性化された状態となり、このことがこれら表現型や死の一因となっていると示唆される。そのことから本発明者等は、Keap1ホモ欠損マウスからさらにNrf2の発現を低減させることで、種々の表現型や死を回避できると考え、Keap1ホモ欠損マウスにおいて、Nrf2遺伝子も半分欠失したマウスを作出することにした。【0069】(1)Nrf2欠損マウスの作出1)ターゲティングベクターの作出Nrf2 cDNA全長をプローブとして用いて、129・SvJマウスゲノムライブラリー(ストラタジーン)をスクリーニングすることにより、ターゲティングベクターを作出するのに十分な長さの5’及び3’フランキング配列とを含む、配列の一部が重複する2つのゲノムファージクローンを得た。2つのゲノムクローンのうち、2.5kbの5’フランキング配列と9.5kbの3’フランキング配列とを含むファージクローンを用いてターゲティングベクターを作出した。このターゲィングベクターは、SV40NLS−lacZリコンビナント遺伝子と、Nrf2遺伝子のb−Zip領域とを置換するように設計されている。また、形質転換体を選択するために、ネオマイシン耐性(neo)遺伝子をNLS−lacZ遺伝子下流に配置し、更に、非相同性組み換え体に対するネガティブセレクションのために、ジフテリア毒素(DT−A)遺伝子をNrf2遺伝子の上流に配置するように設計されている。【0070】2)ターゲティングベクターのES細胞への導入と確認上記実施例2(1)の1)で得られたターゲティングベクターを制限酵素でリニア化し、4×107個のES細胞に電気穿孔装置を用いて遺伝子導入した。その後、0.3mg/mL−G418(ギブコ社)を含有する培地中で、37℃にて9日間培養した。その結果、G418耐性のES細胞コロニー約1000個が得られ、そのうち96個のコロニーから、常法により、高分子DNAを調製し、PCR法によって組み換え体の一次スクリーニングを実施した。その結果、所望の相同性組み換えが起こっているクローンは21種類であった。これらについて、サザンブロット法により詳細に解析したところ、前記の21種のクローンはNrf2の遺伝子座に関してすべてへテロであることが確認された。【0071】3)上記実施例2(1)の2)で得られた21種類のクローンのうち、2種類のESクローン(以下、ES細胞クローンNo.68及び細胞ESクローンNo.20と称する)を生殖細胞系キメラ作製用として使用し、以下に示す2種類の異なる方法により、キメラマウスを作出した。第一の方法、すなわち胚盤胞マイクロインジェクション法では、C57BL/6Jマウスの3.5日目の胚盤胞にES細胞クローンNo.68をマイクロインジェクションし、処理した胚盤胞をICR偽妊娠マウスに移植した。第二の方法、すなわち、会合法では、C57BL/6Jマウスの2.5日目の桑実胚と、ESクローンNo.20とを会合させ、それをICR偽妊娠マウスに移植した。ES細胞クローンNo.68又はES細胞クローンNo.20を用いて作出した雄性キメラマウスと、雌性ICRマウス又は雌性BALB/cAマウスとを交配することにより、チンチラ色を呈するF1子孫を得た。F1子孫における変異遺伝子単位の生殖系列への伝播を、尾部DNAのサザンブロット解析により確定した。さらに、前記F1子孫のうち、Nrf2遺伝子座に関してヘテロなマウス同士をかけ合わせることにより、F2子孫を作出し、サザンブロット解析により遺伝子型を確認した。なお、これにより得られるNrf2ホモ欠損マウスは生存可能であることは既に確認されている。【0072】(2)Keap1−Nrf2遺伝子欠損マウスの作出実施例1(3)で得られるKeap1へテロ欠損マウスと実施例2(1)で得られるNrf2ホモ欠損マウスを交配させて、K1N1の遺伝型を有するマウスを作出した。更に、該K1N1マウス同士を交配させて、種々の遺伝子型のマウスを作製した。【0073】それぞれのマウスの遺伝子型は下記のプライマーを用いてPCRにより決定した。Nrf2遺伝子型決定は、96℃で2分間の反応により開始し、次に96℃で20秒間、59℃で30秒間、72℃で45秒間からなるサイクルを35サイクル行うことでPCRを実施した。用いたプライマーは、Nrf2遺伝子にアニーリングすることができるプライマー3:5’−TGGACGGGACTATTGAAGGCTG−3’(配列表の配列番号3の配列)及びプライマー4:5’−GCCGCCTTTTCAGTAGATGGAGG−3’(配列表の配列番号4の配列)、ノックイン対立遺伝子に位置するlacZ遺伝子にアニーリングすることができるプライマー5:5’−GCGGATTGACCGTAATGGGATAGG−3’(配列表の配列番号5の配列)である。734bp及び511bpバンドのPCR生成物は、それぞれ野生型対立遺伝子及び突然変異体対立遺伝子を示す。【0074】Keap1遺伝子型は、94℃で1分間の反応より開始し、次に94℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で1分間からなるサイクルを30サイクル行うことでPCRを実施した。用いたプライマーは、Keap1遺伝子とアニーリングすることができるプライマー6:5’−CGGGATCCCCATGGAAAGGCTTATTGAGTTC−3’(配列表の配列番号6の配列)及びプライマー7:5’−GAAGTGCATGTAGATATACTCCC−3’(配列表の配列番号7の配列)、ノックイン対立遺伝子に位置するneo遺伝子にアニーリングすることができるプライマー8:5’−TCAGAGCAGCCGATTGTCTGTTGTGCCCAGTCA−3’(配列表の配列番号8の配列)である。236bp及び429bpのバンドのPCR生成物が、それぞれ野生型対立遺伝子及び突然変異対立遺伝子を示す。【0075】(3)Keap1−Nrf2欠損マウスの表現型の観察同じ母体から生まれたKeap1−/−Nrf2+/+(K0N2)マウスは実施例1(3)で得られたKeap1ホモ欠損マウスと同様に数週間後に死亡した。しかし、K0N0マウスだけでなく、Nrf2に関してヘテロ欠損体であるK0N1マウスは死亡することなく生存可能であった。これらK0N0マウス及びK0N1マウスは、野生型と比較してなんら差異を認識することはなく、またKeap1ホモ欠損マウスに見られた成長遅延やふけは見られなくなり、食道における異常ケラチン層も観察されなかった。従って、Nrf2は、Keap1ホモ欠損マウスの表現型に深く関与しており、また死の一因となっていることがわかった。【0076】(4)組織化学分析K0N0マウス及びK2N2マウスの食道をHE染色して観察した。HE染色切片の組織化学的分析から、Keap1ホモ欠損マウスに見られた表現型は、K0N0においては見られなかった。【0077】(5)第二相酵素遺伝子の発現実施例1(11)に記載に従って、K0N0マウス及びK0N1マウスにおける第二相酵素遺伝子の発現を調べたところ、Keap1ホモ欠損体マウスの肝臓抽出物に見られた恒常的な第二相酵素群の遺伝子の発現が、K0N0マウスにおいては野生型マウスの正常な発現レベルと同等であった。この発現レベルはNrf2遺伝子の割合に依存していた(データは示していない)。従って、GST発現がNrf2によって制御されていることが示唆される。【0078】以上の実施例2の結果から、Nrf2がKeap1ホモ欠損マウスにおける表現型を引き起こし、また死の一因である異常ケラチン層の増加を招き、また異物代謝系第二相酵素の発現に関与することが明らかとなった。また、Nrf2を低減させたK0N0マウス及びK0N1マウスは死に至ることはなく、生存が可能であることが明らかとなったが、K0N0マウスは、完全にNrf2遺伝子を欠損しているため、異物に暴露された場合に、それを代謝する能力はもはや備わっていない。一方、Nrf2遺伝子を半分だけ欠損させたK0N1マウスは、Nrf2が恒常的に活性化されているため、異物を体外へと排出する能力に優れており、かつNrf2の過剰発現が原因で死に至ることはない。【0079】さらに、Keap1遺伝子を半分欠損させたマウスで、かつNrf2遺伝子も半分欠損したマウス(K1N1マウス)は、正常に成長繁殖し、K0N1マウスの増殖に有用である。【0080】従ってここではじめて、恒常的に異物代謝系第二相酵素群が活性化し、かつ生存可能な非ヒト動物を作出することが可能となった。また実施例1と実施例2の結果から、Keap1とNrf2の複合体がマウス個体の死を左右していることがわかる。Keap1を破壊することでKeap1−Nrf2複合体は形成されず、Nrf2が核へ移行する。このことによりNrf2の過剰発現が種々の表現型を引き起こし、個体に死をもたらす。従って、Keap1は個体生存のために、またNrf2の機能を調節するために必須の細胞質分子であることがわかる。【0081】さらにNrf2欠損マウスが第二相酵素の誘導的遺伝子を発現することなく生存できることから、Keap1−Nrf2複合体においてKeap1が生体異物刺激や酸化的刺激に対する細胞応答の役割を果たし、Keap1−Nrf2複合体が解毒システムを維持するのに非常に重要な役割を果たしていることがわかる。【0082】【発明の効果】Keap1遺伝子を破壊するか、あるいはKeap1とNrf2との相互作用を妨げることで、非ヒト動物においてNrf2の発現を増加させ、さらにそれに伴いGSTπやGSTμのような異物代謝系第二相酵素群を恒常的に活性化させることが可能となる。【0083】またKeap1破壊マウスにおいて、さらにNrf2遺伝子の対立遺伝子の一方を欠損させることにより、Nrf2の過剰発現することなく、かつ薬剤投与等の必要なく異物代謝系第二相が恒常的に活性化している生存可能な非ヒト動物の作出が可能になる。【0084】さらに本発明は、Keap1とNrf2の相互作用を遮断することによる異物代謝系第二相酵素群の強力な誘導剤開発の引き金となり、これによりガン予防や薬の副作用予防が可能となる。【0085】【配列表】【図面の簡単な説明】【図1】ターゲティングベクター、野生型Keap1遺伝子座、及びターゲティングベクターを用いた相同組換えにより得られると予想される、破壊されたKeap1遺伝子座(組換え体)の構造を示す。【図2】ES細胞(図2A)及びF2マウス(図2B)におけるサザンブロット解析の結果を示す。【図3】MEFの全RNAのRNAブロット解析によるKeap1破壊の確認を示す。【図4】免疫ブロット分析による抗β−ガラクトシダーゼ抗体を用いたLacZcDNAノックインの確認を示す。【図5】RNAブロット分析による代表的な異物代謝系第二相酵素群の発現を示す。【図6】CBB染色及び免疫ブロット解析による異物代謝系第二相酵素群の発現を示す。【図7】免疫ブロット法による生後10日目の肝臓核抽出物におけるNrf2発現を示す。 異物代謝系第二相を恒常的に活性化させた生存可能な非ヒト動物であって、Keap1ホモ欠損で且つNrf2ヘテロ欠損の遺伝子型を有する非ヒト動物。 請求項1に記載の非ヒト動物を作出するための親動物として使用するための非ヒト動物であって、Keap1ヘテロ欠損で且つNrf2ヘテロ欠損の遺伝子型を有する生存可能な非ヒト動物。 請求項2に記載の生存可能な非ヒト動物を作出する方法であって: Keap1遺伝子を破壊した胚幹細胞クローンから、Keap1へテロ欠損非ヒト動物を作出する第一の工程と; 該第一の工程で得た非ヒト動物と、Nrf2ホモ欠損非ヒト動物とを交配させて、生存可能なKeap1ヘテロ欠損で且つNrf2ヘテロ欠損の遺伝子型を有する非ヒト動物を作出する第二の工程と;を具備する方法。 請求項2に記載の生存可能な非ヒト動物を繁殖させる方法であって: 請求項2に記載の非ヒト動物同士を交配させて、親と同じ遺伝子型を有する生存可能な非ヒト動物の子を作出する工程を具備する方法。 請求項1に記載の異物代謝系第二相を恒常的に活性化させた生存可能な非ヒト動物を作出する方法であって: 請求項2に記載の非ヒト動物同士を交配させて、Keap1ホモ欠損で且つNrf2ヘテロ欠損の遺伝子型を有する非ヒト動物を作出する工程を具備する方法。