タイトル: | 特許公報(B2)_硫酸溶液中の鉄の定量方法 |
出願番号: | 2001153488 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | G01N 31/00,G01N 30/96 |
上村 憲一 JP 4315611 特許公報(B2) 20090529 2001153488 20010523 硫酸溶液中の鉄の定量方法 日鉱金属株式会社 591007860 末成 幹生 100096884 上村 憲一 20090819 G01N 31/00 20060101AFI20090730BHJP G01N 30/96 20060101ALI20090730BHJP JPG01N31/00 SG01N31/00 YG01N30/96 A G01N 31/00-31/22 G01N 30/96 JSTPlus(JDreamII) 特開平01−224661(JP,A) 特開平06−043147(JP,A) 特開平06−066781(JP,A) 斎藤信房 吉野諭吉 斎藤一夫 藤本昌利 水町邦彦 執筆,実験2・24 1,10-フェナントロリンによる鉄の吸光光度定量,大学実習 分析化学 (改訂版),日本,(株)裳華房,1991年 3月20日,P214-215, P363 JIS K0102:1998 工場排水試験方法 57.鉄(Fe) 57.1 フェナントロリン吸光光度法,JISハンドブック (53) 環境測定 II 水質,日本,(財)日本規格協会,2003年 1月31日,P578-579,本「JISハンドブック」の発行は2003年1月31日ですが、「JIS K0102 工場排水試験方法」は1998年に改正・施行されたものです。 3 2002350417 20021204 7 20070316 白形 由美子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、硫酸溶液中に微量に含まれる鉄の定量方法に係り、特に、二価の鉄(Fe+2)を選択的に定量する技術に関する。【0002】【従来の技術】硫酸は、硫黄を含む鉱石を非鉄金属製錬する際に発生する二酸化硫黄を利用して製造されている。また、硫化水素を少量含む天然ガスあるいは原油などの有機物から硫黄とともに回収することも行われている。硫酸の用途は肥料、繊維、薬品などの化学工業、あるいは金属、鉄鋼、食品などの諸工業など広い範囲に及んでいる。硫酸は最も基本的な無機酸であり、幅広い工業分野で直接的または間接的に取り扱われるため、硫酸溶液の移送や保管等を行うための装置・配管などには製造工程に適した材質を選定することが必須条件となる。【0003】耐硫酸材料としては、金属、無機及び有機材料とに分けられるが、一般的な金属材料としては、鉄、鋳鉄、ステンレス鋼などが使用されている。このような鉄系材料を硫酸溶液を流通させる配管などに用いるためには、各種材料に応じた腐食過程を把握する上で配管から硫酸溶液に溶出する鉄分を定量する必要がある。【0004】硫酸溶液中の鉄分の定量方法としては、硫酸協会により確立された方法が知られている。この定量方法では、試料を秤量して石英ビーカに移し替え、これを加熱乾固した後に塩酸を加えて加熱溶解する。次いで、試料を放冷してこれに水を加えてICP(Inductivity Coupled Plasma)発光分光法により鉄分を定量する。【0005】【発明が解決しようとする課題】ところで、配管等の鉄分が硫酸溶液中に溶出する場合、まず二価の鉄イオンとして溶出し(Fe+2、以下、「鉄形態(II)」という)、その後、酸化が進むと安定な三価の鉄イオン(Fe+3、以下、鉄形態(III)という)となる。したがって、配管等の腐食状態を正確に評価するには、鉄形態(II)を定量することが必要となる。しかしながら、上記した硫酸協会による鉄の定量方法では、鉄形態(II)、(III)を区別して定量することができなかった。また、試薬を用いて鉄形態(II)または(III)を呈色させて選択的に定量することも試みられているが、処理段階で鉄形態(II)から鉄形態(III)へと価数が変化するという問題があり、正確な定量法は確立されていないのが現状である。したがって、本発明は、鉄形態(II)を正確に定量することができる硫酸溶液中の鉄の定量方法を提供することを目的としている。【0006】【課題を解決するための手段】本発明の硫酸溶液中の鉄の定量方法は、硫酸と鉄分を含む溶液に沈殿剤を添加して硫酸分を沈殿させるとともに1,10フェナントロリンを添加し、この溶液を濾過した後にイオン交換によって三価の鉄分を除去し、その後、二価の鉄分を定量分析することを特徴としている。【0007】1,10フェナントロリンは、試料中の鉄分の酸化を抑制する効果があることが報告されている(村井幸男、増田真由子、材料とプロセス、Vol.10, 1479P, 1997)。また、1,10フェナントロリンの共存下で試料を分解後、生成した鉄形態(II)・フェナントロリン錯体の吸光度を直接測定した報告もある(L. Shapiro: U. S. Geol, Surv, Research, 1960, B-496, 1961)。しかしながら、1,10フェナントロリンが鉄形態(II)の酸化防止にどの程度有効かについては報告はなされていない。【0008】鉄形態(II)の酸化は、炭酸ストロンチウムによる硫酸の沈殿分離以降に進行すると考えられる。そこで、本発明者等は、1、10−フェナントロリンの添加の有無により硫酸の沈殿分離後の鉄形態[(II)及び(III)]がどのように変化するかを調査した。具体的には、鉄形態(II)および(III)をそれぞれ100μgづつ硫酸溶液(和光純薬工業製電子工業用)に添加し、その溶液に炭酸ストロンチウム(関東化学製高純度試薬、3N品)を添加して硫酸を沈殿させた。その溶液に1,10フェナントロリン(1g/l)を5ml添加して放置し、鉄形態(II)および(III)の重量を測定した。その結果を表1に示した。また、1,10フェナントロリンを添加しなかった場合の結果も表1に併記した。【0009】【表1】【0010】表1から明らかなように、1,10フェナントロリンを添加した場合には、鉄形態(II)は殆ど酸化されないことが確認された。なお、1,10フェナントロリンを添加した場合の鉄形態(II)の重量は100μgよりも多くなっているが、これは測定誤差である。【0011】次に、本発明者等は、鉄分を含む硫酸溶液に沈殿剤として炭酸ストロンチウムを添加するとともに、1,10フェナントロリンを添加したところ、硫酸が沈殿分離されるとともに鉄形態(II)が1、10−フェナントロリンと著しい呈色反応を示すことを確認した。これにより、本発明者等は、第一鉄・フェナントロリン錯体の吸光度を直接測定して定量分析することも検討した。【0012】そこで、本発明者等は、鉄形態(II)・フェナントロリン錯体の吸光度が鉄形態(III)の共存下でどのように影響するかを調査した。図1は、1、10−フェナントロリンに対する鉄形態(II)および鉄形態(III)の吸収曲線を分光光度計を用いて調べた結果を示すものである。鉄形態(II)・フェナントロリン錯体は波長510nm付近の吸光度を測定するが、鉄形態(III)が共存すると吸光度に影響することが判った。すなわち、鉄形態(II)を吸光光度法により定量するためには、共存する鉄形態(III)を予め分離することが必要であることが判った。【0013】以上のように、本発明は、1,10フェナントロリンが鉄形態(II)の酸化防止に極めて有効であることと、鉄形態(II)の定量分析の前にイオン交換によって三価の鉄分を除去する必要があるという知見に基づいてなされたものである。そして、そのような条件を必須とする本発明では、鉄形態(II)の定量を極めて正確に行うことができ、設備の腐食の評価のみならず工場排水等の検査など多岐に亘る分野で有用である。【0014】ここで、硫酸の沈殿剤はカルシウム塩、バリウム塩、ストロンチウム塩などの塩を用いることができる。中でもストロンチウム塩が好適であり、特に、炭酸ストロンチウムが硫酸の残存量を少なくすることができる点で最適である。本発明者等は、2.0gの硫酸(和光純薬工業製電子工業用)を含む溶液に、炭酸ストロンチウム(関東化学製高純度試薬、3N品)を添加して硫酸を沈殿させ、炭酸ストロンチウムの添加量と溶液中に残存する硫酸の量を調べた。その結果を表2に示す。【0015】【表2】【0016】表2から炭酸ストロンチウムの添加量が4.0g以上の場合には、残留する硫酸の量が極めて少なくなる。このことから、硫酸2.0gに対して炭酸ストロンチウムを4.0g以上添加することが望ましい。なお、2.0gの硫酸を完全に沈殿させるに要する炭酸ストロンチウムの理論量は2.9gである。【0017】次に、イオン交換には、陰イオン交換樹脂が好適に用いられる。陰イオン交換樹脂は、鉄形態(II)を殆ど吸着せず、鉄形態(III)は溶液中の塩酸濃度を高めることで吸着率が増大する。このため、イオン交換の際には溶液に塩酸を添加するが、この塩酸による鉄形態(II)の酸化が問題となる。そこで、溶液を濾過した後であってイオン交換を行う前に、1,10フェナントロリンをさらに添加することが望ましい。【0018】図2は、溶液中に7mlの塩酸を添加した場合において、1,10フェナントロリンの添加量と鉄形態(II)の測定重量との関係を示す図である。なお、鉄形態(II)の添加量は100μgである。図2から明らかなように、1,10フェナントロリンを1ml以上添加した場合には、鉄形態(II)は殆ど酸化されない。したがって、塩酸7mlに対して1,10フェナントロリンは1ml以上添加することが望ましい。【0019】イオン交換によって鉄形態(III)を除去した後の溶液中の鉄形態(II)の定量には、ICP発光分光法が好適に用いられる。また、原子吸光光度法の適用も可能である。【0020】【実施例】次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明する。図3は、実施例において鉄形態(II)を定量分析する手順を示す図である。この実施例では以下の試薬を用いた。(1)水:超純水製造装置(ミリQLabo)による超純水を用いた。(2)塩酸:和光純薬工業製電子工業用を用いた。(3)1,10−フェナントロリン溶液(1g/l):塩酸1,10−フェナントロリン1.2gを水に溶解して1000mlとしたものを用いた。(4)炭酸ストロンチウム:関東化学製(3N品)の高純度試薬を用いた。(5)鉄形態(II)標準溶液(1mg/ml):硫酸アンモニウム鉄(II)6水和物7.021gを塩酸(1+1)10mlを含む水に溶解し、水で正しく1000mlとしたものを適宜希釈して用いた。(6)全鉄及び鉄形態(III)標準溶液(1mg/ml):硫酸アンモニウム鉄(III)12水和物8.633gを硫酸(1+15)10mlを含む水に溶解し、水で正しく1000mlとしたものを適宜希釈して用いた。【0021】また、分析装置および器具として以下のものを用いた。(1)イオン交換樹脂カラム:陰イオン交換樹脂[商品名:MCI GEL CA08P(繊維径:75〜150μ)]を3MのNaOHと3MのHClとを用いて活性化した後、R−Cl型とし、水で洗浄してほぼ中性としたものを使用した。この樹脂2.5mlをカラム(8mmφ×20mmL)に気泡が入らないように流し込んだ。この操作は、水及び混合液[6MHCl−1,10フェナントロリン(1g/l)]をそれぞれ20mlずつ流しながら行った。(2)ICP発光分析装置:セイコー電子工業製SPS1200AR型を使用した。(3)分光光度計:日立製作所製U−2010型を使用した。【0022】まず、容量が100mlの石英ビーカに、4.0gの炭酸ストロンチウム、20mlの水、および5mlの1,10フェナントロリン溶液を注入した。この溶液に、元試料として鉄形態(II)標準溶液0.1mlおよび鉄形態(III)標準溶液0.1mlを加えて2.0gとした硫酸水溶液を添加した。この溶液を加熱して溶液中の二酸化炭素を放散した後、溶液を放冷し、その後に濾過した。濾過にはNo.5Cの濾紙を使用した。次に、濾液を試料(A)としてポリ容器に注入した。この試料(A)に水を100g注入して液量を調整した。また、その際に、ポリ容器の空重量を予め測定しておき、試料液量を測定した。この試料(A)から元試料の0.2gに相当する分を秤量し、30mlのポリテトラフルオロエチレン製ビーカに分取し、これを試料(B)とした。【0023】分取した試料(B)に1g/lで3mlの1,10フェナントロリンを添加するとともに、塩酸を7ml注入した。この試料(B)を陰イオン交換樹脂に流通させるとともに、陰イオン交換樹脂に4Mの塩酸を15ml流通させた。次に、陰イオン交換樹脂から排出された試料(B)を石英ビーカに取り、溶液を加熱して固形分を乾燥固化した。なお、この加熱乾固は、塩酸の濃度調整のために行う。【0024】次いで、加熱乾固した試料(B)に塩酸(1+1)を1.5〜15ml注入し、この試料(B)を加熱溶解した。この試料(B)を放冷するとともに5〜50mlの水を加えて所定体積を秤量(定容)した。この試料に対して、上記ICP発光分析装置および分光光度計を用いて分析を行った。このICP発光分析法による分析の操作条件は以下のとおりである。【0025】高周波出力 1.3kWプラズマガス流量 16.0l/分補助ガス流量 1.0l/分キャリアガス流量 2.5kgf/cm2測光高さ 12.0mm積分時間 1秒×5回波長 238.204nm又は259.940nm【0026】上記ICP発光分析法による鉄形態(II)の測定値は102μgであり、理論値の100μgに対して極めて正確な測定結果を得ることができた。【0027】【発明の効果】以上のように本発明の硫酸溶液中の鉄の定量方法では、硫酸と鉄分を含む溶液に沈殿剤を添加して硫酸分を沈殿させるとともに1,10フェナントロリンを添加し、この溶液を濾過した後にイオン交換によって三価の鉄分を除去し、その後、二価の鉄分を定量するから、二価の鉄分の定量分析を極めて正確に行うことができる。【図面の簡単な説明】【図1】 1、10フェナントロリン錯体に対する鉄形態(II)および鉄形態(III)における波長に対する吸光度の関係を示す線図である。【図2】 1、10フェナントロリンの添加量と鉄形態(II)の測定重量との関係を示す線図である。【図3】 本発明の実施例において鉄形態(II)を定量分析する手順を示すフローチャートである。 硫酸と鉄分を含む溶液に沈殿剤を添加して硫酸分を沈殿させるとともに1,10フェナントロリンを添加し、この溶液を濾過した後にイオン交換によって三価の鉄分を除去し、その後、二価の鉄分を定量分析することを特徴とする硫酸溶液中の鉄の定量方法。 前記濾過された溶液に1,10フェナントロリンを添加し、その後前記イオン交換を行うことを特徴とする請求項1に記載の硫酸溶液中の鉄分の定量方法。 前記硫酸の沈殿剤は炭酸ストロンチウムであり、前記溶液に含まれる硫酸の重量に対して2倍以上の重量の炭酸ストロンチウムを添加することを特徴とする請求項1または2に記載の硫酸溶液中の鉄の定量方法。