タイトル: | 特許公報(B2)_フィブリノゲン測定用標準品および精度管理物質 |
出願番号: | 2001132328 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | G01N 33/68,G01N 33/86 |
奥田 昌宏 南 慎吾 上村 八尋 JP 4527901 特許公報(B2) 20100611 2001132328 20010427 フィブリノゲン測定用標準品および精度管理物質 シスメックス株式会社 390014960 庄司 隆 100088904 奥田 昌宏 南 慎吾 上村 八尋 20100818 G01N 33/68 20060101AFI20100729BHJP G01N 33/86 20060101ALI20100729BHJP JPG01N33/68G01N33/86 G01N 33/68 G01N 33/86 特開平11−021249(JP,A) 特開2002−005939(JP,A) 特開平8−154697(JP,A) 米国特許第6165795(US,A) 7 2002328131 20021115 8 20080422 淺野 美奈 【0001】【発明の属する技術分野】本発明はフィブリノゲン組成物に関する。より詳細には、主として臨床検査などの分野でフィブリノゲンを測定する際に標準品や精度管理物質として利用されるフィブリノゲン組成物に関する。【0002】【従来の技術】フィブリノゲンは、血液中に健常成人で200〜400mg/dL含まれているタンパク質であり、血餅の主要タンパク質、フィブリンの血漿前駆物質である。フィブリノゲンはジスルフィドによって結合された3対のポリペプチド(Aα、Bβ、およびγ)を含む糖タンパク質である。AαおよびBβ鎖がトロンビンで分解されると、フィブリノゲンはフィブリンに転化し、血液凝固が始まる。このような重要な役割を有することから、臨床検査におけるフィブリノゲンの測定は、肝疾患患者の異常フィブリノゲン症、急性心筋梗塞のリスクファクター等の診断にあたり重要である。フィブリノゲンの臨床検査法としては、クラウス法(トロンビン添加法)、PT derived法(凝固時間法)、TIA(免疫比濁)法、ラテックス法等があり、一般的にはトロンビン添加法が行われている。【0003】上記のフィブリノゲンの測定に際しては、基準となる標準品や精度管理物質が必要である。フィブリノゲン測定用の標準品としてWHO標準品があり、該標準品のフィブリノゲンの値付けは、▲1▼トロンビンを用いて凝固性タンパク質を形成させ、該凝固性タンパク質をアルカリ性尿素溶液に溶解してタンパク質量を吸光度により測定するヤコブソン法(Jaccobsson K; Scand. J. Clin. Lab. Invest, 7, p.1-54(1955))と、▲2▼トロンビンを添加して凝固時間を測定するクラウス法(Clauss V. A.; Acta. Haemat, 17, p.237-246(1957))等により行われている。【0004】しかし、標準品の値がヤコブソン法、クラウス法等により乖離し、その結果測定値の信頼性に問題があった(Furlan M. et.al.;Thrombosis Research, 56, p.583(1989), Hirai N. et.al.; Osaka City Medical Journal, 44,p.55(1998), Jensen T. et.al.;Thrombosis Research, 100,p.397(2000))。 さらに、ヒト血漿を標準品として使用した場合には安定性、再現性に欠け、施設間、機種間等の間で、誤差が生じやすい等の問題があった 。そこで、安定性が良く、再現性があり、測定誤差の改善されたフィブリノゲン測定用の標準品または精度管理物質が望まれていた。【0005】【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、安定性および再現性の高い、測定誤差が改善されたフィブリノゲン測定用の標準品または精度管理物質を提供することである。【0006】【課題を解決するための手段】本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、フィブリノゲン測定用標準品が安定性、再現性に問題があるのは、標準品に夾雑するプラスミンまたはその前駆体であるプラスミノゲンが、形成されたフィブリンを線溶させることおよびリポタンパク質類による濁りが原因であることに着目した。そこで、精製してプラスミンまたはプラスミノゲンの活性が実質的に抑制されたフィブリノゲン組成物をフィブリノゲン測定用の標準品または精度管理物質に使用することで、再現性が高く安定な測定値が得られることを見出した。さらに、例えば特定の配列からなるペプチド等のフィブリンの重合に関与する物質、またはFDP成分を添加することにより、ヤコブソン法およびクラウス法による測定値の乖離の問題が解消されることを見出し、本発明を完成した。【0007】 すなわち、本発明は、1.フィブリンの重合を阻害する物質又はFDP成分が添加されていることを特徴とする、プラスミン又はプラスミノゲンの活性が実質的に抑制されたフィブリノゲン組成物からなることを特徴とするフィブリノゲン測定用標準品、2.フィブリンの重合を阻害する物質が、ペプチドであることを特徴とする前項1に記載の標準品、3.ペプチドがGly-Pro-Argからなる配列を含むことを特徴とする前項2に記載の標準品、4.FDP成分がE画分であることを特徴とする前項1に記載の標準品、5.前項1〜4のいずれか1に記載のフィブリノゲン組成物からなることを特徴とするフィブリノゲン測定用精度管理物質、6.前項1〜5のいずれか1に記載の標準品または精度管理物質を用いて測定することを特徴とするフィブリノゲン測定方法、7.前項1〜5のいずれか1に記載の標準品または精度管理物質を含むことを特徴とするフィブリノゲン測定用試薬キット、からなる。【0008】【発明の実施の形態】本発明は、安定性、再現性の問題が解決され、ヤコブソン法およびクラウス法による測定値の乖離の問題が解消されたフィブリノゲン測定用標準品を提供することにある。このような、標準品を提供するために、フィブリンの安定性を阻害する物質を除去するか、または阻害物質の活性を抑制しながら、ヤコブソン法およびクラウス法による測定値を近似させうる組成物とすることが必要である。【0009】本発明のフィブリノゲン標準品は、プラスミンもしくはプラスミノゲンの活性が実質的に抑制されたフィブリノゲン組成物であることを特徴とする。該プラスミンもしくはプラスミノゲンが実質的に抑制されたフィブリノゲン組成物とは、プラスミンもしくはプラスミノゲンが実質的に夾雑していないか、または夾雑していても、それらの活性が実質的に抑制されていて、フィブリンの安定性に影響を及ぼさない程度のものがあげられる。このような、フィブリノゲン組成物に夾雑するプラスミンもしくはプラスミノゲンの残存活性は、正常血漿に含まれるプラスミンもしくはプラスミノゲンと比較して5%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.1%以下のものが好適である。【0010】(フィブリノゲン組成物の調製)フィブリノゲン測定用標準品として使用するフィブリノゲン組成物は、通常はヒトまたは動物の血漿から得られる。ヒトの血液検査をする場合はヒトの血漿から得られたフィブリノゲンを、また動物の血液検査をする場合はその動物の血漿から得られたフィブリノゲンを原料として使用することが望ましい。フィブリノゲンの精製は、プラスミンもしくはプラスミノゲン活性が実質的に抑制された組成物とすることができれば、その精製方法および添加剤は特に限定されるものではない。【0011】例えば、正常ヒト血漿からコーンのエタノール分画法により得られた画分-Iペーストを出発原料とすることができる(Cohn. E. J. et. al.;J. Am. Chem,68,p.459 (1946))。該画分-Iペーストをクエン酸緩衝液で溶解し、グリシンを添加して攪拌して行うことができる。さらに、リジンセファロースによりプラスミンまたはプラスミノゲンを吸着させることで、これらを実質的に除去することができる。【0012】他の精製法として、クロマトグラフィー的単離法では、ゲル濾過またはイオン交換樹脂を使用して中間純度の濃厚物を製造する(Furlan M., Curr. Probl. Clin. Biochem, 14,133-145,1984))や限外濾過(Kopf and Morese, U.S. Patent 5,354,682(1993))法等を採用することができる。また血漿からフィブリノゲンを高純度精製するために、アフニティー法も採用することができる。【0013】より効果的にプラスミン等の活性を抑制するために、ε−アミノカプロン酸、アプロチニン等の線溶阻害剤を添加しても良く、またこれらは二種以上を併用しても良い。線溶阻害剤の配合量は、フィブリノゲン80mgに対し50〜5000単位、好ましくは500〜3000単位とすることが望ましい。【0014】(フィブリノゲン標準品の値付け)従来技術で説明したように、フィブリノゲン測定用標準品は、主としてヤコブソン法またはクラウス法等により行われている。ヤコブソン法は、トロンビンを用いて充分時間凝固性タンパク質を形成させ、該凝固性タンパク質をアルカリ性尿素溶液に溶解してタンパク質量を280 nmの吸光度により測定する用手法であり、測定時間に長時間を要し、かつ測定手順も複雑であるという欠点がある。一方、クラウス法はトロンビンを添加して凝固時間を測定するものであるが、比較的簡便に測定可能であるもののヤコブソン法で測定した測定値とは乖離があることが問題である。【0015】このような問題を解決するための手段として、フィブリンの重合を阻害する物質を添加することが挙げられる。【0016】フィブリノゲンにトロンビンが作用すると、まずフィブリノゲン分子のα鎖のC末端を加水分解し、フィブリノペプチドAを切り離して、(α、β、γ)2からなるフィブリンモノマーを形成する。このときにα鎖のC末端にGly-Pro-Argの配列が出現する。この配列は、重合する性質を有し、フィブリンアグリゲイトを形成し、さらにフィブリンポリマーを形成する。この、フィブリンポリマーの形成を調節することによりクラウス法による測定値をヤコブソン法による測定値に近づけることが可能であることが考えられた。すなわち、フィブリンの重合を阻害する物質を配合剤として添加することにより、ヤコブソン法およびクラウス法の測定値を近似させることが可能となった。【0017】詳細には、重合阻害物質を濃度を変えて添加した組成物について、各々ヤコブソン法およびクラウス法により測定する。両測定法による測定値が一致するところが重合阻害物質の最適添加量と判断される。上記のフィブリンの重合阻害物質としては、フィブリン重合阻害ペプチドが公知である(Laudano, A.P. and Doolittle, R.F.: Proc.Nati.Sci.USA, 75, 3085 (1978))。好ましくは、上記α鎖のC末端にGly-Pro-Argの配列の重合を阻止するペプチドを使用することが好適であり、より好ましくはGly-Pro-Argなる配列を含むペプチド、さらに好ましくはGly-Pro-Arg-Proなる配列からなるペプチドを使用することが好適である。このような配列のペプチドを以下「GPRP」という。GPRPの有効添加量は、200mg/dLのフィブリノゲン含有組成物について、10〜500μmol/L、好ましくは20〜200μmol/L、さらに好ましくは50〜150μmol/Lが好適である。【0018】ヤコブソン法とクラウス法による測定値の乖離を解消するための他の方法として、FDP成分を添加する方法が挙げられる。ここで、FDPとは、活性化されたプラスミンによるフィブリンの分解産物をいい、DD/E、X、Y、D、E画分等が挙げられる。精製したフィブリン組成物を標準品とすると、従来使用していた血漿の組成と異なるために、ヤコブソン法とクラウス法の測定値がより乖離する傾向があった。天然のフィブリノゲンは、インタクトのAα鎖である高分子量(HMW)フィブリノゲン(分子量340kD)、C末端が欠損した低分子量(LMW)フィブリノゲン(分子量300kD)およびLMW’フィブリノゲン(分子量280kD)が構成成分であるが(Torstein Jansen; Thrombosis Res. 100, 397-403(2000))、精製処理を施すことで、HMWフィブリノゲンの割合が増加する傾向にある。そこで、FDP成分を添加することで、天然のフィブリノゲン組成に近づけると、両測定法の測定値が近似するというが考えられた。FDP成分のうち、FDP E画分が好適に用いられる。該E画分の有効添加量は、200mg/dLのフィブリノゲン含有組成物について、50〜1000μg/mL、好ましくは100〜750μg/mLであり、さらに好ましくは250〜500μg/mLが好適である。【0019】その他、本発明のフィブリノゲン組成物は、凍結乾燥状態とすることができ、長期にわたり、安定に保存することができる。その他、安定化剤や溶解補助剤として一般的に使用される添加剤、例えば界面活性剤、ヒト血清アルブミン、糖または糖アルコール、アミノ酸等を添加することができる(特開平08-151330公報)。【0020】本発明のフィブリノゲン組成物は、標準品または精度管理物質に使用することができる。さらに本発明は、本発明のフィブリノゲン組成物を標準品または精度管理物質として使用するフィブリノゲンの測定方法、および測定試薬キットにも及ぶ。【0021】【実施例】以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本実施例に限定されるものではない。【0022】【実施例1】(フィブリノゲン組成物)本発明のフィブリノゲン組成物は、次の方法で調製した。正常ヒト血漿からコーンのエタノール分画法により得られた画分−Iペーストを、クエン酸緩衝液で溶解した。0.3%トリ(n−ブチル)リン酸および1%Tween 80を含む溶液で30℃にて6時間処理してウイルスを不活性化した後、エタノール沈殿によりフィブリノゲンの原画分を得た。この画分50gに6倍量の緩衝液(0.15% クエン酸三ナトリウム, 0.25% NaCl, pH 7.0±0.1)300mlを添加し、37℃にて1時間攪拌溶解した。遠心分離(3000rpm 、10分)によって残渣を除去し、2.5w/v%溶液に調整した。【0023】上記フィブリノゲン溶液10mLにグリシンを添加して攪拌し、フィブリノゲン2 w/v%、グリシン0.5 w/v%を含有する溶液を得、除菌濾過した後、容量10mlのバイアルに4ml分注した。これを-80℃にて急速凍結した後凍結乾燥し、減圧完了後、30℃にて一晩放置して、フィブリノゲン凍結乾燥品を得た。【0024】【実施例2】(安定性の確認)実施例1の組成物および市販凍結乾燥品(コアグトロールIX(国際試薬製)、コアグトロールIIX(国際試薬製))について、安定性の確認を行った。実施例1の組成物は精製水を用いて250mg/dLおよび125mg/dLとなるように調製し、市販凍結品は1mLの精製水で溶解し、各測定用検体とした。各測定用検体は18℃の恒温装置で、0, 1, 2, 4, 8, 12, 24および48時間の各時間保存した。各時間保存した検体のフィブリノゲン濃度を、トロンボチェックFib(国際試薬製)を試薬とし、分析装置コアグレックス700(島津製作所製)を用いて測定した。その結果、図1に示すように、コアグトロールIX(従来品1)およびコアグトロールIIX(従来品2)については経時的に測定値の低下が認められたが、実施例1の組成物(本発明品1および2)については測定値の低下が認められず安定であった。【0025】【実施例3】(再現性の確認)実施例1の組成物(本発明品)および従来品であるコアグトロールN(国際試薬製)、コアグトロールIX(国際試薬製)について、測定の再現性の確認を行った。測定は、各検体について10回ずつ行い、そのばらつきをCV値で計算した。その結果、図2に示すように、本発明は従来品と比較してCV値が低く、ばらつきが少ないことが確認された。【0026】【実施例4】(ヤコブソン法とクラウス法による測定値の確認(1))実施例1の組成物にGPRPを濃度を変えて添加添加したものについて、検討を行った。その結果、図3に示すように、ヤコブソン法による測定値180mg/dLになるように調製したフィブリノゲン含有組成物の場合には、100μmol/LのGPRPを添加したときにクラウス法の測定値も近似する値を示した。【0027】【実施例5】(ヤコブソン法とクラウス法による測定値の確認(2))実施例1の組成物にFDP−Eを濃度を変えて添加添加したものについて、検討を行った。その結果、図4に示すように210mg/dL(クラウス法による測定値)のフィブリノゲン含有組成物について、400μg/mLのFDP成分E画分を添加したときにヤコブソン法の測定値が最も近似する値を示した。【0028】【発明の効果】以上説明したように、本発明のフィブリノゲン組成物は、安定性が高く、測定誤差が改善され、フィブリノゲン測定用の標準品または精度管理物質として有用であることが確認された。【図面の簡単な説明】【図1】フィブリノゲン組成物の安定性を示す図である。(実施例2)【図2】フィブリノゲン組成物のフィブリノゲン測定値の再現性を示す図である。(実施例3)【図3】GPRPの添加効果を示す図である。(実施例4)【図4】FDP−Eの添加効果を示す図である。(実施例5) フィブリンの重合を阻害する物質又はFDP成分が添加されていることを特徴とする、プラスミン又はプラスミノゲンの活性が実質的に抑制されたフィブリノゲン組成物からなることを特徴とするフィブリノゲン測定用標準品。 フィブリンの重合を阻害する物質が、ペプチドであることを特徴とする請求項1に記載の標準品。 ペプチドがGly-Pro-Argからなる配列を含むことを特徴とする請求項2に記載の標準品。 FDP成分がE画分であることを特徴とする請求項1に記載の標準品。 請求項1〜4のいずれか1に記載のフィブリノゲン組成物からなることを特徴とするフィブリノゲン測定用精度管理物質。 請求項1〜5のいずれか1に記載の標準品または精度管理物質を用いて測定することを特徴とするフィブリノゲン測定方法。 請求項1〜5のいずれか1に記載の標準品または精度管理物質を含むことを特徴とするフィブリノゲン測定用試薬キット。