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タイトル:特許公報(B2)_精製されたN−アセチルラクトサミンの製造方法
出願番号:2001115634
年次:2011
IPC分類:C07H 5/06,C12P 19/26,C12R 1/645


特許情報キャッシュ

鈴木 喜義 舘林 定雄 JP 4819240 特許公報(B2) 20110909 2001115634 20010413 精製されたN−アセチルラクトサミンの製造方法 生化学工業株式会社 000195524 多田 公子 100099852 宮川 佳三 100099760 鈴木 喜義 舘林 定雄 JP 2000112405 20000413 20111124 C07H 5/06 20060101AFI20111102BHJP C12P 19/26 20060101ALI20111102BHJP C12R 1/645 20060101ALN20111102BHJP JPC07H5/06C12P19/26C12P19/26C12R1:645 C07H5/06 C12P19/26 CAPLUS/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN) 特開平03−049692(JP,A) 特開平06−335395(JP,A) 9 2001354691 20011225 19 20080328 伊藤 幸司 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、N-アセチルグルコサミンとD-ガラクトースがβ-1,4結合しているN-アセチルラクトサミンと、N-アセチルグルコサミンとD-ガラクトースがβ-1,6結合しているN-アセチルアロラクトサミンを含有する混合物からN-アセチルラクトサミンを精製する方法に関する。【0002】【従来の技術】N-アセチルラクトサミンは、D-ガラクトースとN-アセチルグルコサミンがβ-1,4グリコシド結合している二糖であり、人乳オリゴ糖やリポ多糖、各種糖タンパク質および糖脂質の糖鎖中に存在し、生化学的に非常に重要なオリゴ糖である。また、腸内細菌の一種であるビフィズス菌の増殖活性を有しており、優れた整腸作用を示すことから、育児用調製粉乳のような高度栄養食品への利用が注目されている。さらに近年、N-アセチルラクトサミンを含む複合糖質糖鎖の生理活性にも注目が集まっており、例えば細胞接着阻害活性を有するシアリルLex糖鎖などの合成における原料としても重要になりつつある。【0003】N-アセチルラクトサミンの合成法としては、化学合成法と酵素合成法が知られているが、一段階の反応で目的物質が得られることから、工業規模での合成法としては、専ら酵素合成法の研究が広くなされている。現在までに行われている酵素反応を利用したN-アセチルラクトサミンの合成法としては、ガラクトシルトランスフェラーゼを利用した方法とβ-ガラクトシダーゼを利用した方法が報告されている。【0004】ガラクトシルトランスフェラーゼを利用した方法としては、例えば、Brewらが報告したウリジンジリン酸ガラクトースとN-アセチルグルコサミンからN-アセチルラクトサミンを合成する方法(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 59, 491, 1968)があるが、基質として用いるウリジンジリン酸ガラクトースが高価なため、工業規模での合成法としては実現性に乏しいものであった。この問題を解決する方法として、出家らは反応系内でウリジンジリン酸ガラクトースを合成させるためにガラクトシルトランスフェラーゼとともにトルロプシス属酵母の乾燥菌体などを共存させる方法、即ち、ウリジン-5'-モノリン酸、ガラクトースとN-アセチルグルコサミンからN-アセチルラクトサミンを合成する方法を発明している(特開昭62−134096号公報)。具体的には、ガラクトース1モル当たり0.2モルのN-アセチルラクトサミンが生成し、10mlの反応液を除核酸と活性炭クロマトグラフィーに供することによって純度92%のN-アセチルラクトサミンを130mg得ることに成功している。しかしながら、本法では、最初に反応系内でウリジンジリン酸ガラクトースが合成されなければならないために、反応が終了するまでに5日もかかり、工業規模での合成法としてはさらに工夫することが必要である。【0005】一方、もう一つのアプローチとしてβ-ガラクトシダーゼなどのガラクトース転移反応を利用した方法が報告されている。例えば、碓氷らは、Bacillus circulans由来のβ-ガラクトシダーゼをラクトースとN-アセチルグルコサミンに作用させてN-アセチルラクトサミンを製造する方法を報告しており、ガラクトース供与体であるラクトース1モル当たり0.42モルのN-アセチルラクトサミンが反応液中に合成されることを示している(特開平3−49692号公報)。しかしながら、本反応終了後の反応液中には原料のラクトースやN-アセチルグルコサミンのほか、副反応生成物であるN-アセチルアロラクトサミンやガラクトシル-N-アセチルラクトサミンも存在しており、目的物質であるN-アセチルラクトサミンのみを分取するには、活性炭クロマトグラフィー、ゲル濾過、高速液体クロマトグラフィー等の手段を組み合わせる必要がある。特にN-アセチルアロラクトサミンとの分別精製には高度なクロマトグラフィー技術が必要である。【0006】また、鰺坂らはβ-1,4結合選択性の高いβ-ガラクトシダーゼであるDiplococcus pneumoniae(現Streptpcoccus pneumoniae)由来のβ-ガラクトシダーゼとガラクトース供与体としてフェニルガラクトピラノシド誘導体とを用いたN-アセチルラクトサミンの製造法を報告している(特開平6−335395号公報)。この方法は、前記方法において生成する副生成物N-アセチルアロラクトサミンを生成させずに、N-アセチルラクトサミンを合成する方法である。しかしながら、N-アセチルラクトサミンの生産性は60〜80mMで、碓氷らの方法に比べて低く、高価な基質を用いるわりには、基質1モル当たりの反応収率が低いものであり、工業規模で用いるにはあまり適さない。【0007】これらのN-アセチルラクトサミンの製造方法では、合成法に主眼がおかれているために、その精製方法については実験室で一般に用いられている方法、例えば、活性炭クロマトグラフィーやゲル濾過クロマトグラフィーなどが応用されているに過ぎなかった。例えば、活性炭-セライトカラムを用いて、高純度なN-アセチルラクトサミンを得るには、繰り返しカラムにかけて精製を行う必要があり、N-アセチルラクトサミンの回収率も40〜45%程度に下がるという問題点がある。【0008】従って、高純度のN-アセチルラクトサミンを高収率且つ、より安価に得ようとするためには、活性炭クロマトグラフィーのみを使用する方法は適当ではなく、何らかの工夫を行う必要があると考えた。【0009】一方、三次元架橋結合を形成させたデキストラン、セルロース、ポリアクリルアミドなどを基材とするゲル濾過剤を用いて分子サイズによる分離を行うゲル濾過法もN-アセチルラクトサミンの精製方法として有望であるが、これらゲル濾過剤の寿命は短く、単位樹脂当たりの適性負荷量が小さく過負荷状態では分離能が極端に悪くなり、しかもこれらゲル濾過剤は高価であることから、実質的には実験室規模の使用にしか応用することができないことが判った。【0010】アミノ糖製造法において、これらクロマトグラフィーの組み合わせによる精製方法以外の精製方法を用いた例としては、ラクト-N-ビオースを製造する際にラクトースとN-アセチルグルコサミンとを含有する基質にブタ睾丸由来のβ-ガラクトシダーゼを作用させてガラクトース転移反応を行わせた後、副生産物である異性体や未反応のラクトースを、Bacillus circulansの生産するβ-ガラクトシダーゼで加水分解し除去する方法が報告されている(特開平6−253878号公報)。ここでの目的物質は、ラクト-N-ビオースIであるため、N-アセチルラクトサミン及びN-アセチルアロラクトサミンは共に副生成物として除去されるべき物質であり、Bacillus circulansの生産するβ-ガラクトシダーゼが、β-1,4結合もβ-1,6結合も分解するため、これにより両物質とも加水分解されることが記載されている。従って、本方法はN-アセチルラクトサミンとN-アセチルアロラクトサミンとの分取には用いることができない。【0011】またオリゴ糖の分離方法としては、イオン交換基を持たない多孔性ポリマーからなる合成吸着剤を用いる方法(特開昭61−130297号公報)や、強酸性陽イオン交換樹脂を用いる方法(特公平6−14870号公報)が知られている。前者の方法は、合成吸着剤を充填したカラムに被処理液を供給し、吸着された糖類を水または水とアルコールの濃度勾配により溶出するもので、糖と吸着剤との親和性の差により糖が分子量の小さい順に溶出される。このカラムに吸着した二糖類以上のオリゴ糖は水で溶出することが実質的に不可能で、溶出にはアルコール溶液が必要である。一方、後者の方法は、強酸性陽イオン交換樹脂を用いて行うクロマトグラフィーを使用するものであり、反応液中のオリゴ糖成分は、分子サイズ排除効果(架橋樹脂内へ浸透し得ない大きな分子サイズの糖から先に溶出させる効果)によって分離されるものである。【0012】これらの方法に用いられている吸着剤や樹脂は比較的安価で耐久性にも優れているので、ある種のオリゴ糖の大量精製に既に応用されているが、アミノ糖への応用は高速液体クロマトグラフィーによるN-アセチルグルコサミンの分析例があるのみで、アミノ糖含有オリゴ糖の精製に応用された報告例はほとんどない。【0013】【発明が解決しようとする課題】上記のようにN-アセチルラクトサミンの工業的製造には酵素法、特にラクトース及びN-アセチルグルコサミンを基質としたβ-ガラクトシダーゼによるガラクトース転移反応に基づいた製造が有望である。しかし、当該反応により得られる反応生成物中にはN-アセチルラクトサミンの他、N-アセチルアロラクトサミン等が存在する。【0014】上記したように、N-アセチルラクトサミンとN-アセチルアロラクトサミンとは異性体であるため、混合物からN-アセチルラクトサミンのみを得るには、通常用いられているようなカラムクロマトグラフィー等を用いた方法では、その操作を繰り返し行うか、あるいは高度な技術を要した。従って本発明は、N-アセチルラクトサミンとN-アセチルアロラクトサミンを含有する溶液等の混合物から簡便で安価にN-アセチルラクトサミンを精製できる方法であって、工業的規模での使用も可能な方法を提供することを目的とする。【0015】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、N-アセチルラクトサミンと、N-アセチルアロラクトサミンを含有する溶液等の混合物にβ-1,6グリコシド結合を分解する作用に優れたβ-ガラクトシダーゼを作用させることにより、N-アセチルアロラクトサミンは容易に単糖に分解され、N-アセチルラクトサミンはほとんど分解されないことを見出し、本発明を完成した。【0016】即ち本発明は、N-アセチルラクトサミン及びN-アセチルアロラクトサミンを含有する混合物から精製されたN-アセチルラクトサミンを製造する方法であって、前記混合物をβ-1,6-グリコシド結合を切断し得るβ-ガラクトシダーゼで処理し、N-アセチルアロラクトサミンを分解して除去することを特徴とする方法を提供する。【0017】上記本発明方法においては、前記混合物がさらにラクトースを含有していてもよい。上記本発明方法の好ましい態様においては、前記混合物として、ラクトース及びN-アセチルグルコサミンを基質として用いるN-アセチルラクトサミンの酵素合成反応による製造において得られた反応混合物を使用でき、該反応混合物について活性炭を用いた分離方法を行うことにより分取したN-アセチルラクトサミン及びN-アセチルアロラクトサミンを含む画分をより好ましく使用できる。【0018】また、上記本発明方法の好ましい態様においては、エシェリシア(Eschericia)属細菌に由来するβ-1,6-グリコシド結合を切断しうるβ-ガラクトシダーゼを使用する。酵素合成反応によるN-アセチルラクトサミンの製造において得られた反応混合物を用いる上記本発明方法の好ましい態様においては、酵素合成反応に用いる酵素が、β-1,4-結合選択性の高いβ-ガラクトシダーゼを使用する。【0019】上記本発明方法の好ましい態様においては、β-1,4結合選択性の高いβ-ガラクトシダーゼとして、ロドトルラ属、バチルス属、またはストレプトコッカス属の微生物に由来するβ-ガラクトシダーゼを使用する。本発明方法を用いることにより、純度95%以上のN-アセチルラクトサミンを得ることが出来る。【0020】本発明方法を用いる一連の工程としては、例えば、ラクトース及びN-アセチルグルコサミンを含有する基質を用いるN-アセチルラクトサミンの酵素合成方法において、Rhodotorura minutaの洗浄菌体又はBacillus circulans由来β-ガラクトシダーゼを前記基質に作用させてN-アセチルラクトサミンの合成反応を行い、該反応混合物から活性炭を使用して得たN-アセチルラクトサミン及びN-アセチルアロラクトサミンを含む画分をEschericia coli由来β-ガラクトシダーゼ処理して当該処理液から純度95%以上のN-アセチルラクトサミンを得ることができる。【0021】【発明の実施の形態】以下に本発明をさらに詳細に説明する。N-アセチルラクトサミン及びN-アセチルアロラクトサミンは異性体同士であり、両者ともD-ガラクトースとN-アセチルグルコサミンとを構成糖とする二糖類である。前者は、両構成糖が、β-1,4グリコシド結合している二糖で、後者は、β-1,6グリコシド結合している二糖である。【0022】本発明方法に用いられるN-アセチルラクトサミン及びN-アセチルアロラクトサミンを含有する混合物は、両者を含有する溶液等の混合物であればよく、混合物の生成方法や由来には特に限定されない。本発明方法は、例えば、ラクトースとN-アセチルグルコサミンを含有する基質を用いた酵素反応によるN-アセチルラクトサミンの合成における反応混合物に好ましく適用することができる。【0023】上記混合物中におけるN-アセチルラクトサミン及びN-アセチルアロラクトサミンの含有比率は特に限定されないが、本発明方法による精製後のN-アセチルラクトサミンの収率を高めるためにはN-アセチルラクトサミンの含有比率が高いことが好ましい。上記のラクトースとN-アセチルグルコサミンを含有する基質を用いたN-アセチルラクトサミンの酵素による合成により得られた反応混合物は通常N-アセチルラクトサミン及びN-アセチルアロラクトサミンを10:1〜10:2程度のモル比で含有しており、本発明方法はこのような混合物に好ましく適用することができる。【0024】また上記混合物は、例えば上記酵素反応の基質であるラクトース等を含んでいてもよい。このような物質は後述のように通常の分離操作により容易に分離することができる。ただしN-アセチルグルコサミンについては後述のように除去する必要がある。【0025】上記のラクトースとN-アセチルグルコサミンを含有する基質を用いたN-アセチルラクトサミンの酵素的合成は、具体的には、ラクトースとN-アセチルグルコサミンを含有する基質に、ガラクトース転移作用を有する酵素、またはこの酵素を含有する酵素含有物(静止菌体、乾燥菌体、菌体破砕物など、以下これらを単に「酵素」ということもある。)を作用させ、ガラクトース転移反応を起こすことによって行う。【0026】この酵素合成に用いる上記酵素は、本発明方法におけるN-アセチルラクトサミンの収率の点から、β-1,4グリコシド結合に対する特異性の高いβ-ガラクトシダーゼが好ましい。そのようなβ-ガラクトシダーゼとしては、Bacillus circulans等のBacillus属由来のものや、Rhodotorula minutaやRhodotorula lactosa等のRhodotorula属由来のもの、Streptcoccus sp 6646k株、Streptpcoccus pneumoniae等のStreptcoccus属由来のもの、Sterigmatomycse elviae等のSterigmatomyces属由来のものが挙げられるが、特に、Bacillus circulans由来のβ-ガラクトシダーゼが好ましい。なお、この酵素は、上記各属の非組換え細菌を培養して得た天然の酵素であってもよく、また上記β-ガラクトシダーゼをコードする遺伝子の全部または一部を導入した微生物その他の細胞を生育させることによって遺伝子工学的手法により製造したものであってもよい。ガラクトース転移作用を有する酵素の活性部位を含むポリペプチドでもよく、このようなポリペプチドは、遺伝子工学的手法により製造できる。【0027】この酵素合成反応の条件は特に限定されることはなく、用いる合成酵素の反応条件として公知の条件に従って行うことができ、当業者が適宜選択することができるが、用いる酵素の至適pH及び至適温度条件下で反応を行うことが好ましい。基質混合物に関しても用いる酵素による反応に影響を与えない限り限定されないが、混合物の緩衝液溶液であることが好ましく、用いる酵素の至適pH及び至適温度条件下であるように調整されていることが好ましい。【0028】反応形態としては、酵素反応の常套的手段が採用でき、酵素反応が進行する状態で基質と酵素を作用させればよい。例えば、基質溶液に酵素を接触させてもよく、またその逆でもよく、用いるこのような酵素を適当な担体に固定化して、基質溶液を接触させる方法も採用し得る。より具体的には、例えば、用いる酵素をビーズ状の担体に固定化してカラムに充填し、ラクトースとN-アセチルグルコサミンの混合物を通しながら連続して合成を行うことも可能である。【0029】β-1,6-グリコシド結合を分解しうるβ-ガラクトシダーゼ(以下、β-1,6分解型ガラクトシダーゼという)とは、β-1,6-グリコシド結合分解能が、β-1,4-グリコシド結合分解能と同等以上、より好ましくは、β-1,6-グリコシド結合をより選択的に分解する性質を有するβ-ガラクトシダーゼであればよく、特に限定されない。具体的には、各基質に対するミカエリ定数の比(N-アセチルラクトサミン/N-アセチルアロラクトサミン)が2以上、好ましくは2.5以上、例えば2.5〜3.5程度であるβ-1,6分解型ガラクトシダーゼが挙げられる。例えば、Eschericia属由来のβ-ガラクトシダーゼや、β-ガラクトシダーゼの一種であるPenicillium属由来のラクターゼが挙げられるが、特に好ましくは、Eschericia coliが産生するβ-ガラクトシダーゼが挙げられる。【0030】N-アセチルラクトサミン及びN-アセチルアロラクトサミンを含有する混合物にβ-1,6分解型ガラクトシダーゼを作用させる場合の条件は、反応が生起する範囲、すなわち、N-アセチルアロラクトサミンが分解され、N-アセチルラクトサミンが出来るだけ分解しない条件において当業者が適宜選択することができるが、用いる酵素の至適pH、至適温度条件下で反応させることが好ましい。酵素の至適pH、至適温度等は用いるβ-1,6分解型ガラクトシダーゼの種類により変化し得るが、通常はpH5〜8、温度30〜40℃程度であり、例えば、Eschericia Coli由来β-ガラクトシダーゼを用いた場合は、pH 7〜7.5、30℃付近の反応条件が好ましい。【0031】反応形態は、N-アセチルラクトサミン及びN-アセチルアロラクトサミンを含有する溶液等の混合物にβ-1,6分解型ガラクトシダーゼが作用し得る限り特に限定されない。具体的には例えば、両物質を含有する溶液にβ-1,6分解型ガラクトシダーゼを添加して、該酵素の至適反応条件下、N-アセチルアロラクトサミンが分解するまで保持する方法、両物質を含有する溶液とβ-1,6分解型ガラクトシダーゼを含有する静止菌体等を接触させる方法、β-1,6分解型ガラクトシダーゼを適当な担体に固定して両物質を含有する混合物を接触させる方法等を使用できる。【0032】前述のようにラクトース及びN-アセチルグルコサミンを基質として用いたN-アセチルラクトサミンの酵素合成反応により得られた反応液等の混合物を用いる場合は、β-1,6分解型ガラクトシダーゼを作用させる前に、β-1,6分解型ガラクトシダーゼのガラクトース転移作用によるN-アセチルアロラクトサミンの合成を防ぐため、合成反応終了溶液より未反応で残留しているN-アセチルグルコサミンを予め除去する必要がある。【0033】この未反応のN-アセチルグルコサミンを予め除去する方法は、反応終了後の反応液等の混合物に存在する他の混在成分に大きな影響を与えることなくN-アセチルグルコサミンを除去できる方法であれば特に限定されない。例えば、必要に応じて粉炭やイオン交換樹脂による脱色・脱塩処理などの予備精製を混合物に施し、濃度が低い場合には、さらに減圧下で濃縮する等の処理をしてから、強酸性陽イオン交換樹脂を用いるクロマトグラフィーによる分離法や、活性炭・セライト(商品名)カラム等の吸着剤に吸着させ、メタノールと水による直線的又は段階的増加グラディエント法などによって容易にN-アセチルグルコサミンを除去することができる。【0034】より具体的には、例えば、活性炭・セライトカラムによりN-アセチルグルコサミンを除去する場合、カラム容量の2〜6%(W/V)の合成反応終了液をカラムに供給し、流速60〜200 ml/hrで溶出液を流し、糖類を溶出させる。目安としては、N-アセチルグルコサミンやグルコース等単糖類は水で溶出され、ラクトースは、10〜15%のメタノール濃度で、N-アセチルラクトサミンは14〜20%のメタノール濃度で、N-アセチルアロラクトサミンは18〜22%濃度で、ガラクトシル-N-アセチルラクトサミンは23%以上のメタノール濃度で溶出される。UV210nmの吸収(N-アセチル基の吸収)をモニターしながら分取し、第2ピークをN-アセチルラクトサミン画分として得る。この方法を利用することにより混合物も粗精製されたものとなるため、N-アセチルラクトサミン酵素合成法により得られた溶液等の混合物について本発明を利用する際の前処理として特に好ましい。ただし、カラムに供給する合成反応終了液の糖濃度は、20〜65%(w/w)程度が適当で、これよりも濃度が高いと分離パターンに乱れを生じる。【0035】N-アセチルラクトサミン及びN-アセチルアロラクトサミンを含有する溶液等の混合物にβ-1,6分解型ガラクトシダーゼを作用させることにより、N-アセチルラクトサミンの異性体であるN-アセチルアロラクトサミンは、効率的に単糖に分解され、N-アセチルラクトサミンはあまり分解されないので、異性体同士であるN-アセチルラクトサミンとN-アセチルアロラクトサミンは、二糖類であるN-アセチルラクトサミンと、N-アセチルアロラクトサミンが分解された単糖類という単純な組成となり、従来用いられている方法により容易に分離可能となる。【0036】その分離方法としては、二糖類であるN-アセチルラクトサミンと単糖を容易に分離でき、かつN-アセチルラクトサミンを採取可能な方法である限り、特に限定されないが、活性炭・セライトクロマトグラフィーや強酸性陽イオン交換樹脂を用いたクロマトグラフィー、分子ふるい等が挙げられる。例えば、活性炭カラムを用いると、水性溶液としてカラムにかけることにより単糖は素通りし、次いで吸着しているN-アセチルラクトサミンをメタノール等のアルコール類により溶出することができる。本発明の方法により、純度95%以上のN-アセチルラクトサミンが得られる。【0037】【実施例】本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。参考例1β-ガラクトシダーゼ活性の測定方法【0038】p-ニトロフェニル-β-ガラクトピラノシドを5 mM濃度になるように100 mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)に溶解し、基質溶液とした。100μlの基質溶液に同緩衝液で様々な濃度に希釈した酵素溶液を20μl加え、30℃で10分間反応を行った。880μlの1% K2BO4・7H20水溶液を添加して反応を停止させた後、遊離したp-ニトロフェノール濃度をその特異的吸収である400 nmの吸光度を測定することで求めた。1Uの酵素活性は、1分間に1μmoleのp-ニトロフェノールを遊離させる酵素量と定義した。【0039】参考例2N-アセチルラクトサミン等のオリゴ糖の測定方法後述の実施例中、各種オリゴ糖類の純度測定は、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCという)を用い、下記条件にて行った。【0040】尚、本HPLC分析法によるN-アセチルラクトサミンのリテンションタイムは、10.0分であった。【0041】参考例3酵素源のスクリーニングラクトース資化性を有する酵母であるLipomyces lipofer(IFO 0673)、Rhodotorula minuta(IFO 0928)、Rhodotorula lactosa(IFO 1423)、Sterigmatomyces elviae(IFO 1843)、(以上、理化学研究所微生物系統保存施設より購入)をマルツエキス寒天スラント培地で28℃において6日間培養し、保存カルチャーを作製した。【0042】ラクトースを唯一の炭素源とする培地(ラクトース;2%、ペプトン;1%、酵母エキス;1%、(NH4)2SO4;0.5%、K2HPO4;0.3%、KH2PO4;0.1%、MgSO4・7H2O;0.05%、pH 7.0)を500 mlの坂口フラスコに50 ml入れ、121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。これに上記各保存カルチャーを1白金耳接種し、28℃で4日間培養した。培養終了後、遠心分離法により菌体を集め、培養液と同量の生理食塩水で2回洗浄した後菌体を集め、−20℃で凍結保存した。【0043】上記方法にて調製した洗浄菌体を、終濃度が500 mg/mlになるように、100 mM酢酸ナトリウム緩衝溶液(pH 6.0)にラクトースとN-アセチルグルコサミンをそれぞれ0.5Mと1Mになるように溶解した基質溶液に懸濁し、60℃で17時間反応させた。その後遠心分離法によって得られた反応上澄液を煮沸浴中(5分間)で加熱して酵素を失活させた後、蒸留水で1/10に希釈し、HPLCで反応生成物の分析を行った。結果を表1に示す。碓氷らの方法(Bacillus ciruculans由来のβ-ガラクトシダーゼを用いるN-アセチルラクトサミンの製造方法)で合成した結果も併せて記載した。【0044】【表1】【0045】Rhodotorula属や、Sterigmatomyces属の酵母を用いた洗浄菌体もN-アセチルラクトサミンを生産し、特にRhodotorula属の酵母を用いた場合、Bacillus circulans由来β-ガラクトシダーゼを用いた酵素合成と同等のN-アセチルラクトサミン生産性が得られた。よって以下の実験にはRhodotorula minutaの洗浄菌体を使用した。【0046】参考例4酵素反応条件の決定Bacillus circulans由来β-ガラクトシダーゼ(大和化成(株)製)の終濃度を0.15 U/mlとし、基質のラクトース(和光純薬工業(株)製)とN-アセチルグルコサミン(ナカライテスク製)を表2に示した濃度となるように100 mM酢酸ナトリウム緩衝溶液(pH 6.0)に添加して基質溶液を調製し、30℃、37℃または60℃で17時間反応させた。煮沸浴中で5分間加熱し、酵素を失活させた後、蒸留水で1/10に希釈し、HPLCで分析した。結果を表2に示す。【0047】【表2】【0048】表2に示した結果より、N-アセチルラクトサミンの生産量は、基質濃度に依存して増加するが、ガラクトース供与体であるラクトース濃度0.5M以上で、生産量はほぼ横ばいとなり、また、ラクトース濃度が低い程、及び、反応温度が高い程、異性体であるN-アセチルアロラクトサミンが生産される割合が増えることが分かった。この結果から、以後の実施例における酵素反応条件は、特に断らない限り、酵素濃度は0.15 U/mlとし、反応温度は30℃とし、ラクトースとN-アセチルグルコサミンの基質濃度は、それぞれ0.5Mと1Mとし、反応時間は17時間とした。【0049】参考例5(1)酵素溶液由来の異なるβ-ガラクトシダーゼによる、N-アセチルラクトサミン(生化学工業(株)製、以下「LacNAc」という)とN-アセチルアロラクトサミン(生化学工業(株)製、以下「allo-LacNAc」という)に対する基質特異性を調べるため、Eschericia coli由来β-ガラクトシダーゼ(フナコシ(株)製)、Bacillus circulans由来β-ガラクトシダーゼ(大和化成(株)製ビオラクタN5)の各酵素を10mg/ml濃度になるように100mM酢酸ナトリウムバッファー(pH 6.0)に溶解した。【0050】(2)β-ガラクトシダーゼ活性測定法本試験に用いる上記各酵素の活性を測定するための基質溶液として、1mM p-ニトロフェニル-β-ガラクトピラノシド溶液を上記バッファーで調製し、試験管に基質溶液を100μl分注し、続いて上記(1)の各酵素溶液20μlを各々添加し、ミキサーで撹拌後、37℃、10分間インキュベーションした。反応を終了させるために、1%硼酸カリウム(K2B4O7・4H2O)溶液を880μl加え、当該反応終了液中に存在する遊離したp-ニトロフェノール量を400nmの吸光度(E400)の測定により測定し、各酵素の活性を求めた(表3)。酵素濃度は下記の計算式より決定した。本条件下で、遊離p-ニトロフェノールのモル吸光係数は17.7×103である。【0051】(計算式)酵素濃度(Unit/ml)= (Eactivate − Eblank)/(17.7×0.02×10)×(希釈率)式中、Eactivateは酵素反応終了後の反応液の400nmにおける吸光度を表し、 Eblankは熱により酵素を失活させた酵素溶液を用いて同様に処理した後の反応液の400nmにおける吸光度を表す。希釈率は、上記酵素溶液を実際の反応に使用した際の希釈率である。活性測定に際して使用する酵素溶液は、反応終了液のE400が0.5〜1.0になるように上記バッファーで希釈したものを使用した。1Uの酵素活性は、1分間に1μmoleのp-ニトロフェノールを遊離させる酵素量と定義した。【0052】【表3】【0053】(3)LacNAcおよびallo-LacNAcに対する各種由来のβ-ガラクトシダーゼのKm値の比較500mMとなるようにLacNAc(生化学工業(株)製)及びallo-LacNAc(生化学工業(株)製)を上記バッファーに溶解し、更に、それを同じバッファーで2倍ずつ希釈し、各8種の基質溶液を調製した(7.813〜500mM)。上記(2)の測定結果より、(1)の各酵素溶液を0.2U/ml濃度になる様に上記バッファーで希釈した。【0054】試験管に基質溶液を25μlずつ分注し、続いて酵素希釈液を5μl分注し、ミキサーで撹拌後、37℃で10分間インキュベーションした。反応終了後、反応液をあらかじめ冷やしておいた脱イオン水で10倍に希釈し、酵素を失活させるため、沸騰水中に5分間放置した。室温以下に冷却させた後、反応終了液20μlを下記条件の高速液体クロマトグラフィーに注入し、反応終了液中のN-アセチルグルコサミン(以下、GlcNAcという)量を定量した。(結果を図8、図9に示す。)尚、E. Coli由来のβ-ガラクトシダーゼは、0.2U/ml濃度での測定ではLacNAc溶液に対する分解作用が測定されなかったため、2U/ml濃度にて再度実験を行った(図10)。【0055】(4)高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析法反応終了後の溶液中のN-アセチルグルコサミン量の測定は、島津製作所(株)製HPLC LC-10Aシステムを持ち、下記条件にて行った。分析カラム:パックドカラム NH2P-50 4E(ガードカラム NH2P 50G使用、昭和電工(株)製)移動相:70%アセトニトリル水溶液流速:0.7ml/min温度:37℃検出:紫外検出装置(SPD-10AV)にてUV210nmの吸収を測定本条件下で、GlcNAc、LacNAc、allo-LacNAcのリテンションタイムはそれぞれ、8.2分、10.7分、12.3分であった。【0056】以上の結果より、β-ガラクトシダーゼの由来の違いにより基質への選択性は異なり、Bacillus circulans由来のβ-ガラクトシダーゼはD-ガラクトースとGlcNAcがβ-1,4グリコシド結合しているLacNAcに対し強い基質特異性を示し、E. Coli由来β-ガラクトシダーゼはD-ガラクトースとGlcNAcがβ-1,6グリコシド結合しているN-アセチルアロラクトサミンに対し顕著な基質特異性を示すことが判明した。従って、本発明においてβ-1,6グリコシド結合を切断し得る酵素としてE. Coli由来β-ガラクトシダーゼを用いることにより目的物質を殆ど分解することなく副生成物であるallo-GlcNAcを除去でき、最も好ましい。また、それぞれの酵素の各基質についてのKm値(ミカエリ定数)を算出した(表4)。【0057】【表4】【0058】実施例1固定化酵母菌体法を用いたN-アセチルラクトサミンの連続生産法におけるN-アセチルラクトサミンの精製方法(1)酵素合成(固定化菌体法)参考例3で調製したRhodotorura minutaの洗浄菌体を常法(日本生物工学会編、生物化学工学実験書、初版第2刷、316(1993)、培風館)に従ってアルギン酸カルシウムで固定化した。具体的には、あらかじめ冷却した2.8%アルギン酸ナトリウム水溶液に菌体濃度が500 mg/mlになるように懸濁し、これを冷却0.5%塩化カルシウム水溶液中にパスツールピペットを用いて滴下し、冷暗所に一昼夜保管した。【0059】予備実験として、固定化菌体(固定化菌体濃度0.44ml/ml)を用いたバッチ法(基質:ラクトース0.5M,N-アセチルグルコサミン1.0M,反応条件:pH6.0,60℃)によるN-アセチルラクトサミンの合成反応を行ったところ、60 mMのN-アセチルラクトサミンが反応液中に得られることが確認された。【0060】固定化菌体をガラスカラム(1,6 x 10 cm)に充填し、固定化菌体カラムとした。100 mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)にラクトースとN-アセチルグルコサミンをそれぞれ0.5Mと1Mになるように溶解した基質溶液を60℃に加温し、該カラムに流速2 ml/hrで供給し、連続的にN-アセチルラクトサミン合成反応を行った。【0061】また、該固定化菌体カラムから溶出した反応液を、10 mlずつ分取し、この画分についてN-アセチルラクトサミンの生成量を1本置きにHPLCにて分析した。図1に本連続生産法によるN-アセチルラクトサミンの生産量の推移について示す。これにより少なくとも2週間は連続的にN-アセチルラクトサミンを生産できることが明らかとなった。【0062】上記合成反応により得られた反応液(40 ml)を活性炭-セライト(1:1、和光純薬)カラム(8 x 13 cm)にかけ、カラムの3倍量の水でカラムを洗浄し、水(3000 ml)と40%メタノール(3000 ml)を用いたメタノール濃度の直線的増加グラディエント法により、流速;0.82 ml/min、分画液量;20 mlで溶出した。【0063】溶出画分は、210 nm(アセチル基の吸収)におけるUV吸収を測定することにより決定した。結果を図2に示す。ピーク1を単糖画分(N-アセチルグルコサミン、グルコース)、ピーク2を二糖画分(N-アセチルラクトサミン、ラクトース、N-アセチルアロラクトサミン)、ピーク3(図示しない)を三糖画分(ガラクトシル-N-アセチルラクトサミン)とした。ピーク2に関して、UV210 nmの吸光度が0.8以上あるフラクションをプールし、粗N-アセチルラクトサミン画分とし、2.6 gの凍結乾燥品を得た。また、HPLCによる純度検定の結果、N-アセチルラクトサミンの純度は84%であり、その回収率は98.7%であった(HPLCによる分析結果を図3に示す)。【0064】(2)E. coli由来のβ-ガラクトシダーゼによる精製(1)で得た粗N-アセチルラクトサミン100 mgを1 mlの100 mMトリス-塩酸緩衝液(pH 7.2)に溶解し、Escherichia coli由来β-ガラクトシダーゼ(フナコシ製)を終濃度2 U/mlになるように添加し、30℃で4時間反応させた。反応前後におけるオリゴ糖の消長を参考例2で示したHPLC分析法により測定した。反応後3時間で、溶液中のN-アセチルアロラクトサミンとラクトースは、ほぼ完全に消失し、一方、N-アセチルラクトサミンは、その70%以上が残存していた。該反応液を活性炭クロマトグラフィー(1.5 x 1,4 cm)に吸着させ、N-アセチルグルコサミンなどの単糖類を水洗除去後、30%メタノールでN-アセチルラクトサミンを溶出した。UV210 nm吸収を示したフラクションをプールし、減圧下で濃縮した後、凍結乾燥することにより、60 mgのN-アセチルラクトサミンを得た。図4に得られたN-アセチルラクトサミンの10 mg/ml水溶液のHPLCパターンを示す。得られたN-アセチルラクトサミンの純度は99%以上であった。【0065】実施例2Bacillus circulans由来β-ガラクトシダーゼを用いたN-アセチルラクトサミン酵素合成法におけるE. coli由来β-ガラクトシダーゼを用いたN-アセチルラクトサミン精製方法【0066】(1)酵素合成(β-ガラクトシダーゼを使用)Bacillus circulans由来β-ガラクトシダーゼ(大和化成(株)製)の酵素終濃度が0.15 U/mlになるように、ラクトース0.5 MとN-アセチルグルコサミン1 Mを調製した100 mM酢酸ナトリウム緩衝水溶液(pH 6.0)に添加して基質溶液を調製し、30℃で、17時間反応させた。その後、煮沸浴中で5分間加熱し、酵素を失活させた。得られた反応液(5 ml)を活性炭-セライト(1:1、和光純薬)カラム(1.5 x 45 cm)で精製した。具体的には、得られた反応液をカラムに供給後、カラムをカラムの2倍量の水で洗浄し、水(500 ml)と30%メタノール(500 ml)を用いたメタノール濃度の直線的増加グラディエント法で、流速;0.82 ml/min、分画液量;10 mlで、溶出した。溶出画分を210 nm(アセチル基吸収)におけるUV吸収とE690 nm(パーク-ジョンソン法による還元糖の吸収)で測定することによって溶出される各種糖類を決定した。結果を図5に示す。【0067】E690 nmの吸収が検出された最初のピークをN-アセチルグルコサミン画分、2番目のピークをグルコース画分、3番目のピークをラクトース画分、4番目のピークをN-アセチルラクトサミン及びN-アセチルアロラクトサミン画分とし、UV210 nmの吸光度の検出における2番目のピークについて、UV210 nmの吸光度が0.8以上あるフラクションを集め、N-アセチルラクトサミン及びN-アセチルアロラクトサミンを含む画分とし、その画分を凍結乾燥し、240 mgの純白パウダーを得た。また、その純度は90%であった(HPLC分析による結果を図6に示す)。【0068】(2)精製上記でN-アセチルラクトサミン及びN-アセチルアロラクトサミンを含む画分から得られた純白パウダーの100 mg/ml溶液にEschericia coli由来β-ガラクトシダーゼを終濃度2 U/mlになるように添加し、30℃で3時間処理した。100℃,15分間の煮沸処理により反応を停止させた後、この溶液を活性炭カラム(1.5 x 1,4 cm)に吸着させ、カラムをカラムの5倍量の水で洗浄した。その後、20%メタノール水溶液でN-アセチルラクトサミンを溶出させ、濃縮後、凍結乾燥した。その結果、70 mgの純白パウダーを得た。得られたN-アセチルラクトサミンの凍結乾燥品10 mg/ml溶液を用いたHPLC分析結果より、N-アセチルラクトサミンの純度は、97.3%であった(HPLC分析による結果を図7に示す)。【0069】【発明の効果】本発明の精製されたN-アセチルラクトサミンの製造方法によれば、カラムによる精製回数が少ないため、従来の方法よりも高い回収率が得られ、メタノール等の溶出液の使用量も少ない。さらに非常に高純度のN-アセチルラクトサミンを得ることができる。本発明の方法を用いると極めて純度の高いN-アセチルラクトサミンを得ることができるので、ビヒダス菌増殖促進因子としての活性の高いN-アセチルラクトサミンを容易に製造することができる。また、単糖類、N-アセチルアロラクトサミン、ラクトースの含有率が極めて低いN-アセチルラクトサミンが得られるので、これらの夾雑糖類に起因する甘味やカロリーが使用上の障害になったり、乳糖(ラクトース)不耐症体質者が下痢をおこしたりするといった問題がない。また、本発明の精製方法により得られるN-アセチルラクトサミンは高純度であるため、N-アセチルラクトサミンを含有する生理活性複合糖脂質のような物質の合成原料をして有用である。【図面の簡単な説明】【図1】 固定化菌体法によるN-アセチルラクトサミンの連続的製造において得られるN-アセチルラクトサミン濃度を示すグラフである。【図2】 固定化菌体法によるN-アセチルラクトサミンの連続的製造において得られる混合物についての活性炭・セライトクロマトグラフィーにおける糖の溶出パターンを示す図である。【図3】 固定化菌体法によるN-アセチルラクトサミンの連続的製造において得られた混合物を活性炭・セライトカラムにかけ分取した粗N-アセチルラクトサミン画分のHPLCによる分析結果を示す図である。【図4】 E. coli由来β-ガラクトシダーゼを用いた本発明の方法によりN-アセチルラクトサミンを製造した際に得られたN-アセチルラクトサミンのHPLC分析による結果を示す図である。【図5】 Bacillus circulans由来β-ガラクトシダーゼを用いたN-アセチルラクトサミンの製造において得られる混合物についての活性炭・セライトクロマトグラフィーにおける糖の溶出パターンを示す図である。【図6】 Bacillus circulans由来β-ガラクトシダーゼを使用したN-アセチルラクトサミンの製造において得られた混合物を活性炭・セライトカラムにかけ分取した粗N-アセチルラクトサミン画分のHPLCによる分析結果を示す図である。【図7】 E. coli由来β-ガラクトシダーゼを用いた本発明の方法によりN-アセチルラクトサミンを製造した際に得られたN-アセチルラクトサミンのHPLC分析による結果を示す図である。【図8】 N-アセチルラクトサミンまたはN-アセチルアロラクトサミンを基質として、Bacillus circulans由来β-ガラクトシダーゼを用いて行った酵素反応におけるN-アセチルグルコサミンの生成量を示す図である。【図9】 N-アセチルラクトサミンまたはN-アセチルアロラクトサミンを基質として、E. coli由来β-ガラクトシダーゼを用いて行った酵素反応におけるN-アセチルグルコサミンの生成量を示す図である。【図10】 N-アセチルラクトサミンまたはN-アセチルアロラクトサミンを基質として、E. coli由来β-ガラクトシダーゼを用いて行った酵素反応におけるN-アセチルグルコサミンの生成量を示す図である。 N-アセチルラクトサミン及びN-アセチルアロラクトサミンを含有する混合物から精製されたN-アセチルラクトサミンを製造する方法であって、 前記混合物をEschericia coli由来のβ-ガラクトシダーゼで処理し、N-アセチルアロラクトサミンを分解して除去することを特徴とする方法。 前記混合物が、さらにラクトースを含有する請求項1に記載の方法。 前記混合物が、ラクトース及びN-アセチルグルコサミンを基質として用いるN-アセチルラクトサミンの酵素合成において得られた反応混合物である請求項1に記載の方法。 前記混合物が、ラクトース及びN-アセチルグルコサミンを基質として用いるN-アセチルラクトサミンの酵素合成により得られた反応混合物から、活性炭を用いた分離工程により得られたN-アセチルラクトサミン及びN-アセチルアロラクトサミンを含む画分である請求項3に記載の方法。 β-1,6-グリコシド結合を切断しうるβ-ガラクトシダーゼが、エシェリシア(Eschericia)属細菌に由来する請求項1〜4のいずれかに記載の方法。 N-アセチルラクトサミンの酵素合成に用いる酵素が、β-1,4-結合選択性の高いβ-ガラクトシダーゼである請求項3〜5のいずれかに記載の方法。 β-1,4-結合選択性の高いβ-ガラクトシダーゼが、ロドトルラ属、バチルス属、またはストレプトコッカス属の微生物に由来する請求項6に記載の方法。 得られるN-アセチルラクトサミンの純度が95%以上である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。 ラクトース及びN-アセチルグルコサミンを含有する基質を用い、Rhodotorura minutaの洗浄菌体又はBacillus circulans由来β-ガラクトシダーゼを作用させるN-アセチルラクトサミンの酵素合成により得られた反応混合物から活性炭を用いN-アセチルラクトサミン及びN-アセチルアロラクトサミンを含む画分を得、当該画分をEschericia coli由来のβ-ガラクトシダーゼ処理して純度95%以上のN-アセチルラクトサミンを得る方法。


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