タイトル: | 特許公報(B2)_抗エンドトキシン剤 |
出願番号: | 2001081025 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | A61K 36/73,A23K 1/16,A23K 1/18,A61P 31/04 |
鮫ヶ井 靖雄 荻根 孝範 舘野 浩一 赤崎 忠文 工藤 修 濱野 厚 JP 4665082 特許公報(B2) 20110121 2001081025 20010321 抗エンドトキシン剤 全国農業協同組合連合会 000201641 谷川 英次郎 100088546 鮫ヶ井 靖雄 荻根 孝範 舘野 浩一 赤崎 忠文 工藤 修 濱野 厚 20110406 A61K 36/73 20060101AFI20110317BHJP A23K 1/16 20060101ALI20110317BHJP A23K 1/18 20060101ALI20110317BHJP A61P 31/04 20060101ALI20110317BHJP JPA61K35/78 HA23K1/16 304CA23K1/18 ZA61P31/04A61P31/04 171 A61K36/18, A23K1/18 CA,BIOSIS,MEDLINE(STN) 特開平10−72361(JP,A) 特開平1−285160(JP,A) J.Nutr.,1998,Vol.128, No.12,p.2334−2340 5 2002275084 20020925 8 20030610 2007016954 20070618 川上 美秀 上條 のぶよ 大久保 元浩 【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は、抗エンドトキシン剤に関する。【0002】【従来の技術】エンドトキシン(内毒素)は、大腸菌、赤痢菌、サルモネラ菌等のグラム陰性菌の細胞壁を構成しているリポ多糖(リポポリサッカライド、LPS)又は該リポ多糖とタンパク質との複合物をその本質とする毒素であり、グラム陰性菌が死ぬことによって菌体外に遊離してくる毒素である。エンドトキシンが体内に入ると、TNF-α(腫瘍壊死因子)等の炎症因子の産生が誘導されて炎症を生じ、発熱や白血球数の減少等を生じる。エンドトキシンが多量の場合には、エンドトキシンショックが起き死に至ることも少なくない。【0003】エンドトキシンにより誘導されるTNF-αは、生体内の細胞あるいは組織を破壊し、出血や浮腫症状を引き起こすことが知られている。特にリンパ球などの免疫に関与する細胞が破壊された場合には、病原微生物の侵入に対する生体の抵抗力が低下する。免疫担当細胞を含め生体内の細胞と組織が炎症により傷害された場合、普段は病原性を示さない細菌を含めていわゆる日和見感染により症状が悪化する。また、エンドトキシン(LPS)を人為的に多量に投与された動物は急性死する。野外においても、それらの症状が常に認められ、薬剤の使用を中止した場合や、薬剤耐性菌などにより薬剤の効果が認められない場合、あるいはまた、薬剤の投与によっても全く効果のない場合など、数多くの症例が認められ、そのことによって家畜の生産性が著しく阻害される。【0004】従来より、豚や牛等の家畜の病原菌の感染を防御するためにワクチンが用いられているが、野外には種々の病原微生物が生存し、その予防には多くのワクチンが開発されねばならず、多大な労力を必要としている。またワクチンは、特定病原菌の菌株の違い等により効果の乏しい場合があり、特に、細菌性伝染病では完全に発症を防ぐことはできない。さらに感染によって急性経過で死亡する疾病の場合、薬剤の投与による治療や適切な飼育管理だけでは、致死を免れることが困難な場合が多い。また、抗生物質等の飼料添加に関しては、耐性菌の出現や畜産物への残留等の問題から、薬剤を極力用いない予防方法の開発が望まれている。【0005】【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、ワクチンや抗生物質を用いることなく、エンドトキシンに起因する疾病を予防又は治療することができる、新規な抗エンドトキシン剤を提供することである。【0006】【課題を解決するための手段】 本願発明者らは、鋭意研究の結果、山査子が優れた抗エンドトキシン効果を発揮することを見出し本発明を完成した。【0007】 すなわち、本発明は、山査子の果肉又はその抽出物を有効成分として含有する抗エンドトキシン剤を提供する。【0008】【発明の実施の形態】 本願発明は、山査子の果肉又はその抽出物を有効成分として含有する抗エンドトキシン剤に係る。山査子は、中国原産のバラ科の低木で、野山査(Crataegus cuneata)あるいは山査(Crataegus pinnatifida)と呼ばれ、その果実は、クエン酸、ミネラル、カロチンなどを多く含み、肉体疲労時の栄養補給や日常の健康維持、消化不良・慢性下痢などの改善、健胃整調などに用いられている。また、血中コレステロールの正常化、過酸化脂質の増加抑制などの効能も知られている。 中国では一般に「紅果」と呼ばれ、干菓子や羊羹あるいはジュースなどに用いられている。【0009】 本願発明では、山査子の生果肉、その乾燥物、又は生果肉若しくはその乾燥物の抽出エキス若しくはその乾燥物を用いる。果肉は、果実からジュースを搾り取った搾りかすであってもよい。また、抽出する場合には、抽出溶剤としては、水、エタノール等の低級アルコールやアセトン等を好ましく用いることができる。抽出温度は、特に限定されないが、各溶剤の沸点又はその近傍で行うことが効率的である。抽出溶剤の重量としては、特に限定されないが、果肉又はその乾燥物に対して5〜100倍程度が適当である。抽出時間は、特に限定されないが、通常、30秒〜1時間程度、特に1分間〜15分間程度が適当である。抽出物は、液状のままでもよいし、さらにそれを乾燥させて粉末としたものであってもよい。また、抽出物を脱脂糠などの吸着基材に吸着させて用いても良い。【0012】 上記した本願発明に係る抗エンドトキシン剤の投与経路は、特に限定されないが、経口投与が好ましい。また、投与量は、特に限定されないが、果肉乾燥物に換算して、通常、体重1kg当たり1日当たり0.01g〜2g程度である。【0013】 本願発明に係る抗エンドトキシン剤は、そのまま投与することもできるし、食品や医薬組成物の調製に用いられる賦形剤や他の原料と共に投与してもよい。【0014】 さらに、豚等の家畜に対するエンドトキシンに起因する疾病を予防するために、本願発明に係る抗エンドトキシン剤を飼料用添加剤として用いることもできる。この場合の添加量は、特に限定されないが、通常、0.01〜2重量%程度であり、好ましくは0.1〜1重量%程度である。なお、飼料としては何等限定されるものではなく、養豚に用いられている通常の飼料を用いることができる。【0015】下記実施例により具体的に明らかにされるように、本発明の抗エンドトキシン剤を投与することにより、エンドトキシンに起因する疾病による死亡率が有意に減少し、また、血液中のTNF-αの濃度も対照と比較して有意に低く抑えられる。また、家畜の飼料用添加剤として飼料に添加することにより、エンドトキシンに起因する疾病を有効に予防することができる。【0016】【実施例】以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。【0017】実施例1 山査子乾燥果実含有試料の調製山査子の果実を圧搾法でジュースをしぼった残りの部分の乾燥果実から種子を取り除き、さらに70℃の送風乾燥機内で1昼夜乾燥した後、粉砕脱脂糠を加えて、総ポリフェノール量が理論上10%になるように調整して試料を作製した。試料のHPLC法による総ポリフェノールの分析値は10.8%であった。【0018】参考例1 茶粉含有試料の調製 食品として利用不可能な規格外の乾燥茶葉を細粉し、同じく乾燥した茶絞りかすの粉末を賦形剤として加え、総ポリフェノール量が理論上10%になるよう調整した添加剤を作製した。添加剤のHPLC法による総ポリフェノールの分析値は、11.2%であった。【0019】実施例2 試料抽出成分の強制経口投与によるマウスでの抗エンドトキシン効果 実施例1又は参考例1で作製した試料を、生理食塩水にて10%熱水抽出した上清を1区10匹のマウスに1匹当たり0.5ml, 1日1回,10日間連続経口投与後、最小100%致死量(1MLD)のエンドトキシン(LPS)を尾静脈内注射した。その3時間後にTNF-α濃度測定用に部分採血し、さらにLPS注射後4日間の生存率を観察し、LPS投与に対する各種原料の効果を判定した。なお、血清TNF-α濃度は、市販のキット(Mouse TNF-α ELISA Kit;BIOSOURCE社製)を用いたELISA 法により測定した。結果を下記表1及び表2に示す。【0020】【表1】表1 エンドトキシン投与における生存率【0021】【表2】表2 血清TNF-α濃度*:単位 pg/ml【0022】生存率については、山査子の生存率が70%、茶の生存率が50%で、これら抽出液の経口投与により生存率が有意に(p<0.05)改善された(表1)。また、血清TNF-α濃度については、山査子・茶投与区の血清中TNF-α濃度は対照区よりも有意に低く(p<0.01)、これら抽出液の経口投与によりLPS注射後のTNF-α産生を抑制した(表2)。【0023】実施例3 試料を含有する飼料を給与したマウスにおける抗エンドトキシン効果 実施例1又は参考例1で調製した試料をマウス用飼料に1重量%添加して供試飼料を作製した。1区8匹の4週齢マウスに試験飼料を3週間給与後、1MLDのエンドトキシン(LPS)を尾静脈内注射した。実施例2と同様に部分採血し、LPS注射後3日間の生存率を観察し、LPS投与に対する各試料の効果を判定した。結果を下記表3及び表4に示す。【0024】【表3】表3 エンドトキシン投与における生存率【0025】【表4】表4 血清TNF-α濃度*:単位 pg/ml【0026】生存率については、茶粉末区の生存率が62.5%と有意に (P<0.05) 高く、生存率の改善が見られた。また山査子区では、50.0%で生存率が改善された(表3)。また、血清TNF-α濃度については、山査子区の血清TNF-α濃度が有意に低かった(P<0.01)(表4)。【0027】実施例4 エンドトキシン(LPS)ショックに対する山査子含有試料の予防効果とプレドニゾロンによる治療効果との比較 実施例1で調製した山査子含有試料を飼料に1重量%添加し、その飼料を1区8匹のマウスに5週齢から7週齢までの2週間給与した後、サルモネラ由来LPSを生理食塩水に溶解し、マウス腹腔内に致死量のLPS(0.6mg/頭)を投与した。投与後4日間の生存率をみた。【0028】また、プレドニゾロン(ステロイドホルモン剤)による治療試験では、対照飼料を同様にマウスに5週齢から7週齢時まで給与し、生理食塩水に溶解したLPSを腹腔内に致死量(0.6mg/頭)投与し、投与10分以内とLPS投与1日後に、プレドニゾロン1mg/頭を2回腹腔内に投与した。LPS投与後4日間の生存率観察した。結果を表5に示す。【0029】【表5】表5 LPS接種後の生存率(%)【0030】山査子含有試料を配合した飼料を2週間給与したマウスのLPS投与4日後の生存率は50%であった。対照飼料を給与し、LPS投与後にプレドニゾロンで治療したマウスの生存率は50%であった。このことから、LPSを投与する以前に、予防的に山査子含有試料を用いることによって、プレドニゾロンによる治療と同等の効果が得られることがわかった。【0031】参考例2 豚浮腫病でのプレドニゾロンの効果 豚に人為的にエンドトキシン(LPS)を接種すると、LPSの刺激により誘導されるTNF−α(腫瘍壊死因子)の作用により、細胞のアポトーシス(プログラムされた細胞死)をともなう出血と腎,肝,肺等における壊死性変化および胆における水腫,胃粘膜の出血壊死等の所見などが報告されている。【0032】そこで、肺水腫,腸管出血,リンパ出血をともなう、いわゆる浮腫病の発生により生産性の著しく低下した豚舎内で、隣接する2つの豚房に、それぞれ同腹の21〜28日齢の離乳期子豚を導入し、抗生物質を添加した飼料を給与する群と抗生物質無添加飼料を給与しプレドニゾロンの注射で治療を行う群の2区を設定して70日齢時まで経過を観察した。【0033】抗生物質区は、オキソリン酸系抗菌剤であるパラザンを飼料に添加し70日齢時まで飼育した。プレドニゾロン投与区は、抗生物質無添加飼料を試験期間を通して給与し、供試豚が、浮腫病特有の症状を呈するかあるいは元気消失した時点で、プレドニゾロンを1日1頭あたり10mgを3日間連続で注射し、治療経過を観察した。結果を下記表6に示す。【0034】【表6】表6 LPS接種後の生存率(%)【0035】抗生物質区では、70日齢時までに12頭中9頭が死亡した。プレドニゾロン区では、9頭中2頭が死亡したが、7頭は治療により生存した。これらのことから、いわゆる浮腫病の予防および治療においては、抗生物質の投与は全く効果がなく、ホルモン剤の治療によってのみ生存性が改善されることがわかった。【0036】実施例5 豚での病原微生物の感染による添加剤の抗エンドトキシン効果 プレドニゾロンの投与によって、豚の浮腫病による生産性の低下がおさえられることが明らかになったが、ホルモン剤の投与は長期に投与すると副作用を生じ、また家畜を個々に治療することは、物理的に困難であり現実的ではない。そこで、マウスで効果の確認された添加剤を予防的に投与し、下記の試験を行った。【0037】 すなわち、1区5頭の7週齢豚に、実施例1又は参考例1で調製した試料を0.5重量%飼料に添加し3週間不断給餌した。10週齢時にActinobacillus pleuropneumoniae (App) 2型菌 2.5x107cfu を気管支ファイバースーコープで気管内接種しその後7日間観察した。結果を下記表7〜9に示す。【0038】【表7】表7 App2型菌接種後の生存率【0039】【表8】表8 感染1週後(11週齢)における増体率(%)**: 導入時(7週齢)の体重を100とした【0040】【表9】表9 App2型菌を接種した場合の臨床スコア**:臨床スコア:0=無症状 1=咳1〜2日 2=咳3日以上 3=腹式呼吸 4=死亡【0041】豚において山査子または茶粉末添加剤を含有する飼料給与により、App感染時の生存率の改善、増体率の改善、臨床症状の軽減が認められた。【0042】【発明の効果】以上のように、本発明により、病原微生物の感染に起因する炎症およびエンドトキシンショックを軽減する抗エンドトキシン剤が提供される。本発明の抗エンドトキシン剤は、天然物由来で安全性の認められたそれらの乾燥粉砕物あるいは抽出乾燥物を用いるため、抗生物質による耐性菌の出現や副作用の問題がほとんどなく、安心して使用できる。また、薬剤残留による人体への影響の心配がないため、これらの抗エンドトキシン剤を添加剤として配合した飼料を使用することによって、安全な畜産物が提供される。さらに抗生物質を使用しても効果のない場合などについても、病原微生物に起因する炎症とそれによる混合感染およびエンドトキシンショックを軽減することができ、飼料用添加剤として用いれば家畜の生産性を高めることができる。 山査子の果肉又はその抽出物を有効成分として含有する抗エンドトキシン剤。 乾燥粉砕末の形態にある果肉を含有する請求項1記載の抗エンドトキシン剤。 前記果肉を水又は有機溶剤で抽出した液状又はその乾燥物の形態にある抽出物を含有する請求項1記載の抗エンドトキシン剤。 飼料に添加された形態にある請求項1ないし3のいずれか1項に記載の抗エンドトキシン剤。 前記飼料が養豚飼料である請求項4記載の抗エンドトキシン剤。