生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_新規動物細胞用ベクターおよびその使用
出願番号:2001066925
年次:2011
IPC分類:C12N 15/09,C12N 5/10,C12P 21/02,C12R 1/91


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三 澤 えりさ 矢 島 宏 昭 近 藤 恵 二 JP 4817514 特許公報(B2) 20110909 2001066925 20010309 新規動物細胞用ベクターおよびその使用 協和発酵キリン株式会社 000001029 三 澤 えりさ 矢 島 宏 昭 近 藤 恵 二 20111116 C12N 15/09 20060101AFI20111027BHJP C12N 5/10 20060101ALI20111027BHJP C12P 21/02 20060101ALI20111027BHJP C12R 1/91 20060101ALN20111027BHJP JPC12N15/00 AC12N5/00 102C12P21/02 CC12N5/00 102C12R1:91C12P21/02 CC12R1:91 C12N 15/00-15/90 C12P 21/00-21/08 CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) UniProt/GeneSeq WPI 特表平06−509229(JP,A) Mol. Gen. Genet., 2000(published online), Vol.264, p.790-795 J. Bacteriol., 1995, Vol.177, No.24, p.7171-7177 化学と生物, 2000, Vol.38, No.9, p.614-620 Gene, 1986, Vol.45, p.183-191 千葉大学真菌医学研究センター報告, 2000, No.3, p.38-43 1 2002262879 20020917 29 20080227 鳥居 敬司 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、動物細胞において有用物質を生産するための組換え発現ベクター、およびその発現ベクターを用いた蛋白質等の生産方法に関し、特に、新たな薬剤耐性遺伝子を選択マーカーとして用いて遺伝子が安定に導入された細胞を選択する技術、遺伝子の高発現細胞を効率的に取得する技術に関する。【0002】【従来の技術】<組換え蛋白質生産技術>遺伝子組換え発現技術の進展によって、生体内では非常に微量しか存在しなかったり、安定性が低く精製困難であった蛋白質でも、様々な有用蛋白質の生産が可能になった。当該技術を用いることにより、数多くの組換え蛋白質が医薬品や産業用酵素として実用化されているのみならず、蛋白質の立体構造が明らかにされたり、蛋白質間の相互作用の解析がなされることにより生命への理解が急速に進んでいる。また、ヒトを初め多くの生物種についてのゲノム研究の急速な進展や、バイオインフォマティクスやPCR技術の進歩により、有用遺伝子の取得が格段に容易になっている。したがって、遺伝子のクローニングがしばしば研究の律速となった従来とは状況が異なり、現在ではクローニングした遺伝子の発現、すなわちその遺伝子にコードされている蛋白質を安定かつ大量に生産するための研究開発に多大な時間を要するようになってきた。【0003】組換え蛋白質生産に用いる宿主としては、大腸菌や酵母、及び昆虫、哺乳類由来の細胞などが挙げられるが、あらゆるニーズを満たすような万能の蛋白質生産用の宿主生物はいまだ開発されておらず、目的とする蛋白質ごとに生産系を構築するという試行錯誤が続いている。例えば大腸菌は最も一般的に使われる発現系であるが、生産した蛋白質は不溶性の封入体を形成することが多いことや、真核生物とは異なり糖鎖修飾など翻訳後修飾がほとんど起きないことが活性を有する蛋白質を生産する上での問題となる。また、酵母やかびなどの真核微生物を宿主とした発現系も使用されるが、必ずしもすべての蛋白質について有効であるわけではなく、動物由来の構造の複雑な蛋白質の活性発現や複雑な翻訳後修飾は困難であることが多い。さらに、近年はバキュロウイルスを用いた昆虫細胞を宿主とした発現系も多用されている。本系は生産された蛋白質がリン酸化、糖鎖の付加など翻訳後修飾を受け、本来の生理活性を保持したまま発現させることができるなどメリットが多いが、分泌蛋白質の糖鎖構造は哺乳類由来の細胞のものとは異なることから、医薬品用途とするには組換え蛋白質の抗原性などが問題となる。【0004】一方、目的蛋白質を生体内と同じ状態、すなわち、その蛋白質が生体内で保っている立体構造や、例えばリン酸化や糖鎖付加、部分的切断などの翻訳後の修飾に関して同一の状態、で生産するには、その蛋白質の由来の生物と近縁の生物を用いる発現系を選択した方が良い。このため、動物由来であり、蛋白質の活性化に糖鎖付加などの翻訳後修飾が必要な場合や、構造が複雑であったり、未だ機能が特定されていない蛋白質の発現には、哺乳類由来の細胞を宿主とした発現系が最も一般的に用いられている。動物細胞発現系の利点は、蛋白質が正確な翻訳後修飾を受け、活性を発揮するのに適切なフォールディングが期待できることであり、動物由来の蛋白質の生化学的な解析や機能解析の目的では最も適した系といえる。【0005】発現形態としては、遺伝子の発現が一時的な一過性発現法と、遺伝子を恒常的に発現する細胞を作製する安定発現法の2つに分類される。一過性発現法では、導入された遺伝子は細胞内で転写・翻訳され、導入後数時間から蛋白質の発現が認められ、2,3日後にピークを迎える。蛋白質の生産量を高めるためにはSV40のoriを含んだプラスミドを、COS細胞などのSV40ラージT抗原遺伝子を発現する細胞に導入することによって、プラスミドのコピー数を増幅させる方法が取られるが、細胞へのプラスミドの形質導入を毎回行う必要があるために生産できる蛋白質量には限界がある。一方、目的の蛋白質を恒常的に発現した細胞を用いた解析を行ったり、目的蛋白質をある程度の量生産する必要性がある場合には、導入遺伝子を細胞の染色体に組込む安定発現法を選択する。一度、生産性の高い組換細胞株が樹立されれば、すべての細胞が目的遺伝子を発現しているのでさまざまな解析が可能になるとともに、均一な組換え蛋白質の生産のために大規模な培養を行うことも可能となる。しかしながら、細胞の染色体に組み込まれた遺伝子のコピー数や組込まれた染色体の位置により組換細胞株間で遺伝子発現量が大きく異なるため、解析や生産に使用出来る発現量の高い細胞株を選択しなければならないが、大多数の形質転換株は発現量が極めて低く、高発現株を選択する作業には多大な時間と労力を要する。以上のように、いずれの発現形態で蛋白質を生産させた場合においても、一般的に動物細胞での蛋白質の生産量は他の組換え発現宿主系と比較して低いという問題点を解決するための様々な工夫がなされている。【0006】<遺伝子発現量の増大>動物細胞に導入した真核生物由来の遺伝子の発現量は、遺伝子発現に対してシスに作用するDNA配列、もしくはそのDNA配列に対してトランスに働く転写制御因子、遺伝子のコピー数、導入遺伝子の染色体挿入部位、mRNAの安定性、など様々な要因により制御されている(Dillon and Grosveld, Trends Genet. 9:134; 1993)。この制御システムについてはこれまでに様々な解析がなされ、その結果をもとに、遺伝子高発現細胞株を得るためのプラスミドベクターが開発されてきた(Makrides S. C.; 1999)。代表的な知見を以下に記述する。【0007】遺伝子発現の制御に関わるシス因子はDNA配列であり、代表的なDNA配列としてはプロモーター配列及びエンハンサー配列が挙げられる。それぞれの配列に対しては転写を制御する様々な転写制御蛋白質がトランスに作用することが良く研究されている。プロモーター配列は遺伝子の上流に隣接しており、基本的な転写に必須の領域である。エンハンサー配列は遺伝子から離れた位置や、イントロン中に存在する場合もあり、その配列の方向性も一定ではない。また、エンハンサー配列は組織特異的な遺伝子の発現調節をになう場合も多い。一般にプロモーターやエンハンサーの活性は、一過性遺伝子導入実験などによって検出することができる。外来遺伝子を高発現させるためには、強力なプロモーターやエンハンサー配列を効果的に配置し、利用することが重要である。強力なプロモーター配列にはエンハンサー配列と近接することが多く、そのような配列としては、SV40初期プロモーター、アデノウイスルメジャー後期プロモーター、マウスメタロチオネインIプロモーター、ラウスザルコーマウイルスロングターミナルリピートおよびヒトサイトメガロウイルスプロモーター(CMV)などが挙げられる。【0008】プロモーターやエンハンサー以外にもシスに機能する遺伝子発現制御配列もある。これらは、locus control region (LCR; Grosveld F., Cell 51:975, 1987)、matrix attachment region (MAR; Phi-Van, Mol Cell Biol 10:2302, 1980)、scaffold attachment region (SAR; Gasser, Trends Genet 3:16, 1987)、insulator element (Kellum, Cell 64:941, 1991) と呼ばれており、染色体のクロマチン構造に作用すると考えられている。これらの領域は、遺伝子との距離が離れていても機能するという点からはエンハンサーと類似した機能であるが、外来遺伝子を染色体に安定的に導入する実験によってのみ検出可能である点でエンハンサー配列とは異なる。これらのうちLCRは、遺伝子に対する位置及び方向性依存性に機能する点でエンハンサーとは異なる。さらに、LCRやSARに特徴的に存在するA box、T boxと呼ばれる配列やトポイソメラーゼII認識配列は、エンハンサー配列やプロモーター配列には見つかっていない特異的な配列である(Klehr D., Biochemistry 30:1264, 1991)。【0009】HIRPE(Hot spot of Increased Recombinant Protein Expression)は、 MARと似た配列とATに富む配列を含む特徴的な5kbのDNA断片であり、ある外来遺伝子を高発現するCHO細胞からクローニングされている(Koduri,K, Thammana, P. Patent No WO00/17337)。このDNA断片を外来遺伝子と共に連結した発現プラスミドでCHO細胞を形質転換することにより、当該プラスミドは染色体のある特定の部位に組込まれ、発現量が数倍増加することが示されている。また、Expression augmenting sequence element (EASE; Morris, A. E., Patent No. WO97/25420)は同様にCHO細胞で発見された因子であり、染色体上に安定に組込まれた外来遺伝子の発現量を数倍に増大する効果があるとされる。ある外来遺伝子を高発現する細胞からクローニングされた14.5kbのDNA断片中にその活性が認められる。当該DNA断片中には制御因子をコードするようなORFは含まれず、この遺伝子発現量増大効果は、染色体に安定に組込まれた後にEASEがプロモーターやエンハンサーに作用することによるためではないかと考えられている。どちらもある特異的なDNA断片を用いる遺伝子発現増強法であり、それらのDNA断片を用いない限りは他の外来遺伝子発現に応用することはできない。【0010】外来遺伝子の発現量を高めることは、宿主細胞中の遺伝子のコピー数を増加させることによっても可能である。形質導入細胞中の外来遺伝子のコピー数を高くするための一つの方法は、選択マーカー遺伝子を含むプラスミドと共に外来遺伝子を含みかつ選択マーカー遺伝子を含まないプラスミドを大過剰に混合し、細胞に共形質導入することによる。この方法により、外来遺伝子が多数染色体に組込まれた安定形質導入株を取得することが可能である(Kaufman、Meth.Enzymol.、185:537,1990)。しかしながら、この方法で形質導入を行っても得られるクローンの大部分においては外来遺伝子のコピー数は少ないため、そのような中から外来遺伝子が多コピー組込まれた細胞をスクリーニングしなければならない。これには時間と労力とが必要である。【0011】外来遺伝子のコピー数を高くするためのもう一つの方法は、一度安定な形質導入株を選択した後に宿主細胞中で遺伝子増幅を行うことである。遺伝子増幅は動物細胞中で低頻度ながら自然に起るとされる。(Schimke RT、J Biol Chem 1988 263、5989-92)。遺伝子増幅は、細胞を適当な選択圧にさらすことにより誘導されることを利用し、外来遺伝子をあらかじめ増幅可能な遺伝子と共に宿主細胞中に形質導入し、選択剤の濃度を連続的に増加させることによってマーカー遺伝子と共に外来遺伝子を増幅させる手法が広く用いられている。【0012】この操作に一般的に使用されるマーカー遺伝子はジヒドロ葉酸リダクターゼ酵素をコードするdhfr遺伝子であり、使用可能な宿主はdhfr活性を欠いたCHO細胞である。培地に添加するdhfr阻害剤メトトレキセート(MTX)の濃度を徐々に高くすることによって遺伝子の増幅が生じ、その際に近傍にある目的の外来遺伝子の増幅も期待できる(Mammalian Cell Biotechnology, Ed. Butler, M. IRL Press, P79)。さらに、3段階のMTX濃度上昇により外来遺伝子のコピー数を2000コピーまで増幅させることが可能であることが報告されている(Bebbington C and Hentschel, C., Trends Biotechnol., 3., 314 1985)。しかしながら、この方法には長時間を要し、さらにdhfr遺伝子欠損細胞にしか利用できないという問題点がある。また、選択用の薬剤は高価であり、組換え動物細胞を大スケールで培養する際に添加することは好ましくない。さらに、本方法により一度増幅した遺伝子は、薬剤非添加の条件では不安定であり脱落しやすいことも指摘されている(「遺伝子」第6版、菊地韶彦他訳、P845‐848、東京化学同人)。【0013】<安定高発現株の取得>外来遺伝子が安定に導入された動物細胞を選択する際には、選択マーカー遺伝子が必要である。使用される選択用マーカー遺伝子には様々な種類があり、これらは大きく2つに分類される。一つはhypoxanthine-guanine phosphoribosyl transferase (HGPRT)、thymidine kinase (TK)、dihydrofolate reductase (DHFR)、adenine phosphoribosyl transferase (APRT)などの遺伝子であり、それぞれの遺伝子に対応する酵素活性が欠損した細胞のみを宿主として利用できる。これらの酵素活性が欠損した細胞では、対応する遺伝子が導入されることによって栄養要求性等が回復するため外来遺伝子が導入された細胞株の選抜が可能となる。もう一つの分類は、細胞の増殖を阻害する抗生物質や薬剤に対して耐性を付与する遺伝子群である。具体的には、methotrexate (MTX)耐性を与える変異型DHFR、xanthine耐性を与えるxanthine-guanine phosphoribosyl transferase (gpt)、ジェネティシン(G418)、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシンなどの薬剤に耐性を与えるトランスポゾンTn5由来のaminoglycoside 3’-phosphotransferase (neo)などがある。また最近ではZeocinやHygromycin耐性を付与する遺伝子も開発されている。これらの遺伝子はあらゆる動物細胞に対して選択マーカー遺伝子として使用することが可能である。【0014】シクロヘキシミド(CYH)は蛋白質合成阻害剤であり、CYH耐性遺伝子を選択マーカーとした利用例としては酵母での例が知られている。酵母においては、CYHはリボソーム蛋白質サブユニットのL41蛋白質に作用して蛋白質の生合成を阻害し、本蛋白質の56番目のアミノ酸がプロリンであるとCYH感受性、グルタミンであると非感受性となることが明らかにされている(Kawai S. 1992, J. Bacteriol., 174, ,254-262)。このことから、Candida utilis及びPhaffia rhodozymaなどのCYH感受性酵母からL41蛋白質の遺伝子をクローニングし、置換変異を導入することにより、L41-Qタイプ遺伝子を構築して元の酵母に導入すると、これらの酵母がCYH耐性になることが証明されている(Kondo K., 1995, J. Bacteriol., 177, 24, 7171-7177; Kim I.-G., 1998, Appl. Environ. Microbiol., 64, 5, 1947-1949)。しかし、動物細胞など高等真核生物に応用を試みた報告はない。動物細胞における外来遺伝子導入用ベクターには通常、これらのマーカー遺伝子のいずれかもしくは両方が含まれており、さらに高発現株を容易に選択するために、green fluorescent protein (GFP)を組み込んだベクターも使用されている。以上の選択マーカー遺伝子を用いて取得される多数の形質導入株の中から、所望の蛋白質を高発現する株を選択しなければならないが、一般にほとんどの形質導入株における外来遺伝子発現量は極めて低く、そのスクリーニングは極めて困難である。【0015】このため、高発現組換え細胞を直接選択するいくつかの方法が報告されている。一つの方法は、細胞を外来遺伝子とdhfr遺伝子とで共形質導入し、高濃度のMtxを含む培地中で直接培養することにより、高レベルのdhfrを発現する形質導入細胞を選択する方法である。これにより選択された細胞の多くは、外来遺伝子を高発現する(Page MJ, Sydenham MA、Biotechnology 9, 1991, 64-68)。しかしながら、高濃度の選択剤を含む培地中で直接培養することにより得られた高発現細胞は増殖および安定性が悪いため、長期間の蛋白質生産の目的で使用するには向かない。また、Mtxでの直接選択によって得られる組換え細胞中には、Mtxに対する感受性が変化したdhfr酵素やMtxの作用を受けにくい細胞が優先的に選択されてしまう可能性もある。【0016】2つめの方法として、1つのプロモーターで所望の蛋白質をコードする遺伝子と選択マーカー遺伝子とを一緒に発現させることにより、高発現細胞を効率的に取得する方法も使われている。この場合、外来遺伝子を5’側に、選択マーカー遺伝子をその3’側に含んだmRNAを発現するようなベクターを用いる。一般的にポリシストロン性mRNAの3'端の遺伝子の翻訳効率が悪いため、選択される形質導入細胞においてはポリシストロン性mRNAが高発現し、所望の蛋白質を高発現していることが期待される(Kaufman RJ, Murtha P, Davies MV EMBO J、6:187 1987)。しかしながら、5’側の遺伝子の種類により3'側の選択マーカーの翻訳効率が大きく影響を受けたり、さらには、3’側の選択マーカー遺伝子の発現量が極めて低い場合には形質導入株が選択されなかったり、5’側遺伝子の一部が欠失して選択マーカー遺伝子の翻訳効率が高まった細胞が選択されてしまう危険性がある。Internal ribosome entry site (IRES)は、ウイルス由来のRNAなどで発見された配列であり、リボソームのmRNAへの結合と翻訳開始を促進することが明らかにされている(Kaufman R. J., Nucleic Acid Res 19:4485, 1991)。この性質を利用して、ポリシストロン性mRNA上の3’側遺伝子の翻訳効率を高めることが可能であり、IRESを利用して高発現細胞の選択を比較的容易にしたベクターが開発されている。【0017】3つめの方法として、選択マーカー遺伝子の発現量を人為的に低下させることにより、同時に導入する遺伝子発現量が選択された形質導入株中で高くなるであろうことを期待する方法もある。例えば、所望の蛋白質をコードする遺伝子の5’側にイントロンを配置し、選択マーカー遺伝子をそのイントロン内部に配置する。これにより、低頻度で存在するスプライシングされない完全長のmRNAだけが選択マーカー蛋白質を生産する。このようなプラスミドにより選択される形質導入株中では、選択マーカー遺伝子をイントロン中に含んでなる遺伝子の転写物が高発現しており、結果として所望の蛋白質が高発現することが示された(クローリー、クレイグ・ダブリュー WO96/04391)。また、選択マーカー遺伝子の翻訳開始コドン周囲のDNA配列を改変して当該遺伝子の翻訳効率を下げることによって選択マーカー遺伝子の発現量を減弱化することにより、選択された形質導入株中で外来遺伝子を高発現する方法も報告されている(Reff Mitchell E. WO98/41645)。【0018】【発明が解決しようとする課題】前述したように、動物細胞を宿主とした発現系は、発現した蛋白質が正確な翻訳後修飾を受け、活性を発揮するのに適切なフォールディングが期待できることから、ヒトやそれ以外の動物由来の遺伝子の機能性を調べる研究やそれらがコードする蛋白質の大量生産において、最も適した生産系である。しかしながら、他の宿主を用いた組換え生産系に比較して蛋白質の生産性の低さが大きな欠点となっている。このため、外来遺伝子の高発現細胞株を樹立するには数多くのDNA導入細胞株から高発現株をスクリーニングする必要がある。所望の蛋白質を比較的高発現する安定形質導入株を選択した後においても、蛋白質の生産のためにはしばしば前述の多大な労力と時間のかかる導入遺伝子の増幅操作が必要になる。以上のことから、遺伝子を高発現する組換え動物細胞を効率的に選択可能にする技術の開発、取得した遺伝子高発現細胞中での遺伝子の安定化技術の開発、簡便な遺伝子増幅技術の開発など、動物細胞による遺伝子発現系にはさらなる改良が待たれている。【0019】本発明は、上記の問題点を解決すること、特に、外来遺伝子を高発現する組換え細胞が高頻度で選択され得る新規な選択マーカー遺伝子含有ベクター、ならびにこのベクターを用いて高発現株を効率的に選択するスクリーニング法、および所望の蛋白質を高レベルで生産することを可能とする蛋白製造技術を提供することを目的とするものである。【0020】【課題を解決するための手段】本発明者らは、新たな動物細胞用選択マーカー遺伝子として変異型リボソームサブユニット構成蛋白質をコードする遺伝子を開発し、当該遺伝子の導入が、動物細胞に蛋白質合成阻害作用を持つシクロヘキシミドに対する耐性を付与することを明らかにした。さらに、当該遺伝子を含む発現ベクターを用いて選択されたシクロヘキシミド耐性動物細胞においては、(i) 従来より使用されてきた薬剤耐性遺伝子で選択された安定形質導入細胞に比較して外来遺伝子の発現量が極めて高い形質転換細胞が数多く得られること、(ii) 外来遺伝子がコードする蛋白質は細胞内蛋白質であっても分泌蛋白質であっても良く、その傾向は変わらないこと、(iii) シクロヘキシミド非添加の培養条件下で細胞を継代培養してもその高い発現量は安定に保持されること、を明らかにした。さらに、 導入された遺伝子のコピー数とその発現量の間に相関関係が認められないことから、当該選択マーカーを用いることによって、外来遺伝子が宿主細胞染色体上の高発現位置に組み込まれる頻度が高くなることにより遺伝子の高発現が生じる可能性を明らかにした。以上のように、本発明者らは、新たな薬剤耐性遺伝子を選択マーカーとした発現プラスミドの形態で外来遺伝子を動物細胞に導入することにより、外来遺伝子を高発現する細胞を短時間で効率的に選択する技術を確立できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。【0021】すなわち、本発明は、下記の薬剤耐性遺伝子、発現ベクター、遺伝子の高発現細胞のスクリーニング方法、形質転換細胞、および組換え蛋白質の生産法、に関するものである。(1)蛋白質合成阻害剤に感受性の動物細胞に、該阻害剤に対する耐性を付与する性質を有し、かつ動物由来のリボソームを構成する蛋白質をコードする遺伝子を置換変異した配列を有する、薬剤耐性遺伝子(蛋白質合成阻害剤耐性遺伝子)。代表的には、シクロヘキシミド感受性の動物細胞にシクロヘキシミド耐性を付与する性質を有し、かつ動物由来リボソーム蛋白質L36aまたはその相同蛋白質をコードする遺伝子を置換変異した配列を有する、上記蛋白質合成阻害剤耐性遺伝子(シクロヘキシミド耐性遺伝子)。別の好ましい態様は、シクロヘキシミド感受性の動物細胞にシクロヘキシミド耐性を付与する性質を有し、かつ配列番号1または2に示されるアミノ酸配列、または該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列をコードする、上記のシクロヘキシミド耐性遺伝子。(2)上記の蛋白質合成阻害剤耐性遺伝子を含む組換えベクター。(3)上記の遺伝子と外来蛋白質構造遺伝子とを含む発現ベクター。(4)上記の発現ベクターが導入された蛋白質合成阻害剤耐性動物細胞株を選択する方法。具体的には、上記の発現ベクターを蛋白質合成阻害剤感受性の動物細胞に導入してこれを培養し、蛋白質合成阻害剤耐性遺伝子を選択マーカーとして細胞株を選択することを特徴とする、蛋白質合成阻害剤耐性動物細胞株の選択方法。(5)上記の発現ベクターを含む動物細胞からなる形質転換細胞。(6)上記の形質転換動物細胞を培養し、発現された外来蛋白質を採取することを特徴とする蛋白質生産方法。【0022】【発明の実施の形態】本発明において、蛋白質合成阻害剤耐性遺伝子としては、例えばシクロヘキシミド耐性遺伝子がその代表例として挙げられる。以下、本発明を好ましい態様に基づいて詳細に説明する。【0023】<シクロヘキシミド耐性遺伝子>シクロヘキシミド(以下、CYHとも呼ぶ)は多くの真核生物に作用する蛋白質合成阻害剤であり、mRNA翻訳反応の場であるリボソームの60Sラージサブユニットに作用してペプチド鎖の伸張反応を抑制することにより阻害作用を示すことが知られている。【0024】本発明もしくは本明細書において「蛋白質合成阻害剤耐性遺伝子」(代表的には「シクロヘキシミド耐性遺伝子」)とは、蛋白質合成阻害剤(代表的にはCYH)に対する耐性を付与することが可能な遺伝子であり、蛋白質合成阻害剤感受性(代表的にはCYH感受性)の動物もしくは動物細胞に蛋白質合成阻害剤耐性(代表的にはCYH耐性)を付与することができる遺伝子のことを言う。【0025】本発明の代表的態様であるシクロヘキシミド耐性遺伝子は、シクロヘキシミド感受性の動物細胞にシクロヘキシミド耐性を付与する性質を有し、かつ動物由来の蛋白合成の場であるリボソームの構成蛋白質をコードする遺伝子を置換変異した配列を有する遺伝子である。上記動物由来のリボソーム(具体的には60Sラージサブユニット)の構成蛋白質は、好ましくは哺乳動物由来の蛋白質であり、更に好ましくはヒト由来の蛋白質である。【0026】本発明によるシクロヘキシミド耐性遺伝子の好適な具体例は、動物細胞リボソームの60SラージサブユニットのL36a蛋白質またはその機能的に同等な相同蛋白質であって置換変異によりCYHに耐性となったL36a変異蛋白質またはその相同蛋白質をコードする遺伝子である。従って、本発明遺伝子の代表的な態様は、シクロヘキシミド感受性の動物細胞にシクロヘキシミド耐性を付与する性質を有し、かつ動物由来リボソーム蛋白質L36a(好ましくは哺乳類由来、より好ましくはヒト由来リボソーム蛋白質L36a)またはその相同蛋白質をコードする遺伝子を置換変異した配列を有するシクロヘキシミド耐性遺伝子である。ここで、置換変異が導入される遺伝子がコードする上記蛋白質は宿主となる前記動物細胞(蛋白質合成阻害剤感受性、代表的にはCYH感受性)蛋白質の相同蛋白質であること、もしくは該動物細胞がL36a相同蛋白質を有していることが好ましい。本明細書において相同蛋白質とは、二つの関連蛋白質がそのアミノ酸配列において90%以上の相同性を有する蛋白質を意味する。【0027】本発明における上記置換変異の好ましい一つの具体例は、後記実施例にも示されるように、ヒトcDNAライブラリーから取得したL36a遺伝子がコードする蛋白質の54番目のアミノ酸をプロリンからグルタミンに置換して、CYH耐性遺伝子を構築したものである。【0028】また、以下に述べる種々の動物由来の蛋白質は本発明における上記相同蛋白質に包含されるものであり、これらをコードする遺伝子を置換変異したシクロヘキシミド耐性遺伝子はいずれも本発明遺伝子に包含される。ヒトには、L36a遺伝子と99%の配列同一性(対応アミノ酸配列において99%の同一性)を示すL44遺伝子が存在し、コードされる38番目のアミノ酸がリジン(L36aではアルギニン)に置き換わっている。この遺伝子はL36a遺伝子と機能および配列において実質的に同等であり、L44遺伝子も54番目の対応アミノ酸を同様にプロリンからグルタミンに置換することによってCYH耐性遺伝子として機能もしくは使用し得るといえる。また、マウスやラットのL44遺伝子はヒトL44遺伝子と全く同一の配列を有しており、ブタのL44遺伝子は1残基(52番目の対応アミノ酸配列)欠失しているがこれらも機能および配列において同一もしくは実質的に同一であるといえる。【0029】以上のように、すでにそのDNA配列が明らかにされている哺乳類のL36a遺伝子の相同遺伝子はいずれもアミノ酸配列の保存性が極めて高いことから、哺乳類動物由来のL36a相同遺伝子(上記相同蛋白質をコードする遺伝子)であれば、CYHに対する感受性を決定づけるアミノ酸(例えば、L36a蛋白質においては54番目のプロリン、ブタのL44蛋白質においては53番目のプロリン)が適切な置換変異(例えばグルタミンに置換)された遺伝子はCYH耐性遺伝子として用いることが可能であるといえる。さらに、哺乳類動物由来でなくともアミノ酸配列の相同性が十分に高く(前述のように90%以上)かつCYHに対する感受性を決定づけるアミノ酸(例えば、L36a蛋白質においては54番目、ブタのL44蛋白質においては53番目)が適切な置換変異(例えば、グルタミン)に置換されていれば、他の動物由来の蛋白質でも動物細胞に対する本発明CYH耐性マーカー遺伝子として使用できるといえる。このことは、前記の本発明選択方法もしくは明細書に記載された方法、すなわち本発明シクロヘキシミド耐性遺伝子およびと外来蛋白質遺伝子を含む発現ベクターをシクロヘキシミド感受性の動物細胞に導入してこれを培養し、シクロヘキシミド耐性遺伝子を選択マーカーとして細胞株を選択することを特徴とするシクロヘキシミド耐性動物細胞株の選択方法、更に具体的には後記実施例4に記載された選択方法に従って、動物細胞への形質導入実験を実施することにより確認することができる。【0030】一方、すでにCYH耐性遺伝子として応用の報告がある酵母C.utilis由来のL41遺伝子については、ヒトL36a遺伝子とのアミノ酸配列の相同性が77%と低く、機能的に相補できるかは不明である。その他C.elegansやC.maltosaなどでも明らかにされているL41遺伝子がコードする蛋白質のL36aとの相同性も低く、これらの遺伝子は本発明シクロヘキシミド耐性遺伝子構築のための遺伝子には包含されない。【0031】本発明の別の観点における好ましい態様の遺伝子は、シクロヘキシミド感受性の動物細胞にシクロヘキシミド耐性を付与する性質を有し、かつ配列番号1または2に示されるアミノ酸配列、または該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列をコードするシクロヘキシミド耐性遺伝子である。ここで、配列番号1はヒト由来のリボソーム蛋白質L36aにおける54番目のプロリンがグルタミンに置換変異したものであり、また、配列番号2はヒト由来のリボソーム蛋白質L44における54番目のプロリンがグルタミンに置換変異したものである。この態様において、シクロヘキシミド感受性の動物細胞にシクロヘキシミド耐性を付与する性質を有し、かつ上記相同蛋白質をコードする遺伝子について置換変異した配列を有するシクロヘキシミド耐性遺伝子はすべて包含される。【0032】<シクロヘキシミド耐性遺伝子の構築>本発明の代表的態様においては動物細胞がCYHに対して感受性であることに着目し、CYH耐性遺伝子を新たな形質転換用のマーカー遺伝子として提供することを目的とした。すなわち、動物細胞からリボソーム蛋白質の遺伝子をクローニングし、その遺伝子を改変することにより、CYH耐性遺伝子が構築できるかどうか、そのマーカー遺伝を用いた発現ベクターを構築し、これを用いた外来蛋白質生産系を開発することを、以下に記載する手段によって検討した。以下の記載は、動物由来のリボソームを構成する蛋白質としてL36a蛋白質を例示したものである。【0033】本発明を構成するため、まず酵母L41蛋白質と相同な遺伝子としてヒトL36a蛋白質の遺伝子を単離クローニングする。具体的には、公知のDNA配列をもとにオリゴヌクレオチドを合成しプローブとして用いることにより、ヒトcDNAライブラリーから当該遺伝子をクローニングすれば良い。本発明の実施例においては、Gene trapper cDNA Positive Selection System (Gibco BRL, Cat. No. 10356-020)を用いてL36a遺伝子のcDNAをクローニングしたが、他の方法、例えばファージライブラリーやプラスミドライブラリーから、標識したプローブを用いてハイブリダイゼーションによりクローニングすることも可能である。これらの方法は、J.Sambrook, E.F.Frisch, T.Maniatis著;モレキュラー クローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールドスプリング ハーバー ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)発行、1989年)に従えば良い。【0034】クローニングしたL36a遺伝子からCYH耐性型遺伝子を構築するために、本発明実施例においてはL36a遺伝子の54番目の対応アミノ酸がグルタミンとなるようにデザインしたプライマーを用いてL36a遺伝子を鋳型としたPCRを3回行うことにより、CYH耐性を付与するCYH耐性遺伝子(マーカー遺伝子)を構築した(配列表の配列番号1の塩基配列参照)。このようにしてPCRで増幅された本発明遺伝子は、例えば、TAクローニングキット(Invitrogen社)やpBluescriptII(Stratagene社)などの市販のプラスミドベクターを用いてクローニングすることができる。アミノ酸配列を耐性型へと変更するためには、合目的的な任意の方法が可能であり、例えばミスマッチプライマーを用いた部位特異的変異導入法を用いることができる。この方法に関しては前述のモレキュラー クローニング第2版に詳述されている。また、本発明遺伝子は、配列番号1または2で示される塩基配列情報に基づいて、例えばホスファイト・トリエステル法(Hunkapiller,M.et al., Nature, 310,105, 1984)等の通常の方法に準じて、核酸の化学合成を行うことにより調製することもできる。更に、これらPCR法や部位特異的変異導入法、化学合成法などの方法を使用し、公的なDNAデータベースから入手可能なL36a遺伝子に、機能的に相同な既知遺伝子の配列情報を元にして、L36a遺伝子の54番目のアミノ酸に対応するアミノ酸がグルタミンとなるようにアミノ酸変異を導入することにより、CYH耐性遺伝子を構築することができる。このようにして得られたDNAの塩基配列は、たとえばMaxam-Gilbert法(Maxam, A. M. and Gilbert, W., Proc. Natl. Acad. Sci.,U.S.A.,74,5601977)Sanger法(例えばSanger,F. & A.R.Coulson, J.Mol.Biol., 94, 441, 1975、Sanger,F, & Nicklen and A.R.Coulson., Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 74, 5463, 1977)に準じて解析することにより確認することができる。【0035】<選択マーカー遺伝子を含むベクターの構築>本発明は、上記のような蛋白質合成阻害剤耐性遺伝子(代表的にはCYH耐性遺伝子)を含む組換えベクター、および蛋白質合成阻害剤耐性遺伝子と外来蛋白質遺伝子とを含む発現ベクターにも関する。【0036】本発明による上記蛋白質合成阻害剤耐性遺伝子の宿主細胞での発現には、宿主で作動可能な制御配列(例えばプロモーター配列及びターミネーター配列)を作動可能に連結させ、これをベクターに組込むことにより、本発明による遺伝子を宿主で発現させることができる。ここで作動可能に連結するとは、本発明による遺伝子が導入される宿主において、制御配列のコントロール下で遺伝子が発現するように制御配列と本発明による遺伝子を結合させることを意味する。通常はプロモーターを遺伝子の5’上流に、ターミネーターを遺伝子の3’下流に連結することができる。使用するプロモーターは、形質転換する宿主細胞内でプロモーター活性を示すものであれば特に制限がない。L36a遺伝子を本来発現している染色体上のプロモーター領域をその発現に用いても良いが、これ以外にも、形質転換用の宿主が動物細胞である本発明においては、アデノウイルス(Ad)の初期もしくは後期プロモーター、シミアンウイルス(SV40)の初期もしくは後期プロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼ(tk)遺伝子プロモーター、ラウス肉腫ウイルスや、サイトメガロウイルス、マウス乳頭腫ウイルス、ウシパヒローマウイルス、鳥の肉腫ウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルスなどのウイルスのゲノムから得られるプロモーター、哺乳動物由来のプロモーター、例えばアクチンプロモーターまたはイムノグロブリンプロモーター、ヒートショックプロテインプロモーター、などが利用できる。【0037】本発明による組換えDNAベクターは、CYH耐性遺伝子が宿主細胞内で発現可能な形で組込まれたベクターであれば、特に限定されない。例えばpCIneo(Promega)のように、あらかじめ動物細胞で機能するプロモーター及びターミネーター配列が含まれているベクター、代表的にはプラスミドに作動可能な形態にCYH耐性遺伝子を連結することによって構築することが可能である。また、例えばCMV初期遺伝子プロモーターとSV40後期遺伝子ターミネーターとで作動可能になったCYH耐性遺伝子を大腸菌複製オリジン(ColE1 ori)およびアンピシリン耐性遺伝子を有するプラスミドベクターpUC18(宝酒造)や、pBluescriptII(Stratagene)、pBR322などのプラスミドに連結することにより、本発明組換えベクターを構築することができる。さらに、必要に応じてG418耐性遺伝子などのその他の選択マーカー遺伝子やdhfr遺伝子などの遺伝子増幅を可能にする遺伝子などと組み合わて用いても良い。形質転換のための宿主動物細胞としてジヒドロ葉酸還元酵素欠損CHO細胞を用いることによって、本発明による選択マーカー遺伝子とdhfr遺伝子及び外来蛋白遺伝子を含むプラスミド(発現ベクター)を宿主細胞へ導入後にメトトレキセートによる該プラスミドの遺伝子の効率的な増幅が可能になる。すなわちdhfr遺伝子配列に物理的に結合している外来遺伝子配列もまた増幅されることが示されている(Kaufman RJ, Sharp PA J Mol Biol 25:601 1982、Christman JK, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 79:1815 1982)。また、発現ベクターには、所望によりシグナル配列を結合させて目的とする外来遺伝子の発現産物を回収し易くすることもできる。【0038】さらに、本発明による組換えベクターに、外来遺伝子を高発現する株を容易に選択できるように活性測定が簡便に行なえるレポーター遺伝子を連結することも可能である。このレポーター遺伝子としては、例えば緑色蛍光蛋白質をコードするGFP遺伝子などを利用できる。GFP蛋白質の高発現株は、例えば実施例5に記載されている様にフローサイトメトリーを用いて簡便に濃縮することができる。組換えベクターおよび発現ベクター構築のための一般的方法については、例えば後記実施例に引用されたモレキュラー・クローニング第2版等を参照することができる。【0039】<本選択マーカー遺伝子により形質導入されうる外来遺伝子>本発明による上記発現ベクターにより、所望のポリペプチドをコードする外来遺伝子を宿主細胞において高レベルで発現することが可能である。このようなポリペプチドとしては次のようなものが例示される。【0040】代表的なポリペプチドは、各種モノクローナル抗体、サイトカイン類(例えば、インターフェロン(IFN)α、β、γ、腫瘍壊死因子(TNF)、リンフォトキシン(LT)、インターロイキン(IL)1〜13、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、幹細胞因子(SCF)、白血病阻止因子(LIF)、エリスロポエチン(EPO)、神経成長因子(NGF)、上皮細胞成長因子(EGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮細胞成長因子(VEGF)、成長ホルモン(GH)、インスリン様成長因子(IGF)TGFαやTGFβなどのトランスフォーミング成長因子、など)、ウイルス抗原蛋白質(例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトB型肝炎ウイルス(HBV)、ヒトC型肝炎ウイルス(HCV)ヘルペスウイルス(HSV)、サイトメガロウイルス(CMV)、成人T細胞白血病ウイルス(ATLV)、インフルエンザウイルス、日本脳炎ウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルス、などの抗原蛋白質など)、各種受容体(例えばG蛋白質共役系受容体(GPCR)、サイトカインの受容体、核内受容体など)、各種の遺伝子発現制御蛋白質、スーパーオキシドジスムターゼ、α−1−アンチトリプシン、インスリン、プロインスリン、小胞刺激ホルモン、カルシトニン、黄体形成ホルモン、グルカゴン、凝固因子(VIIIC因子、IX因子、Xa因子組織因子、ウィレブランド因子など)、プロテインC等の抗凝固因子、心房性のナトリウム排泄増加因子、肺サーファクタント、ウロキナーゼまたはヒト尿若しくは組織型プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)等のプラスミノーゲン活性化因子、ボンベシン、トロンビン、エンケファリナーゼ、ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP−1−アルファ)、ヒト血清アルブミン等の血清アルブミン、マウスゴナドトロピン関連ペプチド、インヒビン、アクチビンなどである。【0041】本発明においては、発現ベクターがCYH耐性遺伝子と外来蛋白遺伝子を発現可能な形で含む限り特に制限はない。【0042】<本選択マーカー遺伝子により形質転換可能な宿主細胞>本選択マーカー遺伝子、すなわち本発明の蛋白質合成阻害剤耐性遺伝子(代表的にはシクロヘキシミド耐性遺伝子)により、形質導入可能な宿主細胞はあらゆる動物、特に哺乳動物に由来する蛋白質合成阻害剤感受性(代表的にはシクロヘキシミド感受性)の細胞である。例えば、有用な哺乳動物宿主細胞の例としては、SV40でトランスフォームされたサルの腎臓由来のライン(COS7細胞);ヒトの胎児の腎臓ライン(293細胞)、ベビーハムスター腎細胞(BHK細胞);チャイニーズハムスター卵巣細胞 (CHO細胞、特にCHO(DHFR-)細胞(ATCC,CRL-9096))、マウスセルトリー細胞(TM4細胞)、サルの腎細胞(CV1細胞)、アフリカングリーンモンキー腎細胞(VERO細胞)、ヒトの子宮頚部癌細胞(HeLa細胞)、犬の腎細胞(MDCK細胞)、バッファロラット肝細胞(BRL3A細胞)、ヒト肺細胞(W138細胞)、ヒト肝細胞(Hep G2細胞)、TRI細胞、MRC5細胞、FS4細胞などがあげられる。また、細胞融合用の細胞として用いられるミエローマ細胞や、これらの細胞を各種リンパ球や脾細胞等と融合させることによって得られるハイブリドーマ細胞なども同様に使用することが可能である。【0043】さらに、本発明の実施において有用な宿主細胞には多能性胚幹細胞(ES細胞)が含まれる。ES細胞はin vitroで培養した着床前の胚より得ることができる。これらの細胞は培養により増殖させることができ、試験管内で分化させることもできる(Evans,N.,J.らNature 292, 154-156,1981)。このようなES細胞はヒトを始めとする霊長類やウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどの有用家畜動物、ラット、ウサギ、マウス及び数多くの任意の種に由来しうる。これらのうち、外来蛋白質の生産宿主となりうる、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどの家畜動物やラットやマウスなどの実験動物由来のES細胞は好適な宿主である。当該マーカー遺伝子を用いて選択される形質導入ES細胞株においては所望の蛋白質が高発現される可能性が高く、取得された形質導入ES細胞を元に得られる動物個体で所望の蛋白質が高発現することが期待できる。【0044】上記動物細胞の中では、チャイニーズハムスター卵巣由来のCHO細胞が好ましく、ジヒドロ葉酸還元酵素欠損CHO細胞(DHFR-細胞)がより好ましい。また、上記の動物細胞は通常蛋白合成阻害剤に感受性であるが、これは該阻害剤を含む培地で細胞を培養することにより容易に確認できる。上記したような種々の動物細胞は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)等から容易に入手可能であり、また市販されていて理化学研究所・細胞開発銀行等から購入することができる。【0045】<動物細胞への形質導入とCYH耐性形質導入株の選択>本発明は、前述したような本発明発現ベクターを含む形質転換動物細胞、および、該形質転換動物細胞を培養し、蛋白質合成阻害剤耐性遺伝子(代表的にはシクロヘキシミド耐性遺伝子)を選択マーカーとして細胞株を選択することを特徴とする蛋白質合成阻害剤耐性動物細胞株の選択方法、にも関する。代表例におけるCYH耐性遺伝子を含んだ本発明発現ベクターDNAの動物細胞への導入法としては、リン酸カルシウム沈澱法(Graham, van der Eb,Virology, 52:456、1973)の他、マイクロインジェクション法(Capecchi, MR, Cell, 22:479,1980)、エレクトロポレーション法(Zimmermann, U., Biochim. Biophys. Acta、694:227、1982)、リポソーム法(Mannino, R.J., Gould-Fogerite,S., BioTechniques 6:682 1988)など公知の任意の方法を用いることができる。いずれの方法で形質導入実験を行った場合においても、形質導入株の選択は、プラスミドDNAを動物細胞に形質導入後、通常1‐3日後に培地をCYHを含む培地に交換して行えば良い。例えば、CHO細胞を宿主細胞としてリポソーム法によリ、形質導入を行う場合は、通常次のような操作を行なう。まず、1μgのプラスミドと6μlのLipofectamine試薬(Gibco BRL, 18324-012)を混合し、30分間室温で放置した後に、5×105のCHO細胞に対して加える。16時間後に培地を交換して24時間培養を行った後に細胞を回収する。回収した細胞を希釈して10cm径dishに再播種してから24時間培養した後、3μg/mlから10μg/mlの濃度のCYHを含んだ培地に交換して2〜3週間培養を継続することによってCYH耐性の形質導入株を選択することができる。【0046】CYH耐性の形質導入株を非形質導入株から迅速に分離するために、以下の方法を用いることができる。すなわち、形質導入操作後に回収した細胞は希釈した後、24穴プレート等に播種して培養を行う。CYHを添加した培地に交換して約1週間培養を行った後に、トリプシン処理により一旦細胞を回収し、再び24穴プレート等に播種してさらに1週間培養を継続する。この回収+再播種操作を加えることによって、プレート表面に付着した非形質導入細胞を除去して形質導入株だけを回収することが可能になり、安定遺伝子導入株の単離時間を短縮することが可能である。【0047】本発明は、上記のような本発明形質転換細胞を培養し、発現された外来蛋白質を培養物から採取することを特徴とする蛋白質の生産方法にも関する。形質転換体動物細胞の培養は公知の方法で行うことができ、例えば後記実施例に記載のモレキュラークローニング、カレントプロトコール等を参照することができる。培地としては、たとえば約5〜20%の胎児牛血清を含むMEM培地、DMEM培地、RPMI1640培地などが使用できる。pHは約6〜8であるのが好ましい。培養は通常約30℃〜40℃で5%CO2存在下にて約15〜60時間行い、培地を数日ごとに交換しながら培養を継続することができる。細胞がコンフルエントになるまで増殖したら、通常0.25%程度のトリプシンPBS溶液を用いてここの細胞に分散させ、数倍に希釈して新しい培養容器に播種し培養を続け、目的とする量まで細胞が増殖したら集める。このように継代培養を行うことにより培養スケールを任意のスケールにまで拡大できる。【0048】導入した遺伝子の発現は、例えば細胞から回収したRNAを用いたノザン解析やRT-PCRなどの解析、発現した蛋白質の抗体を用いたELISA解析やウエスタン解析、蛋白質が酵素である場合には培地中や細胞内の活性を検出するなどの方法によって確認することができる。発現させる外来遺伝子がGFPである場合は、回収した細胞をフローサイトメトリーで解析することによりその発現量の解析を行うことができる。GFPの発現量とFACS解析で得られる蛍光強度には非常に高い相関があるため、蛍光強度をGFP発現量と考えることができる。発現させる外来遺伝子がアルカリフォスファターゼ遺伝子とβガラクトシダーゼ遺伝子の場合は、それぞれの酵素活性を測定することにより、発現量の解析が可能である。【0049】所望の外来蛋白質は培養物(培地および細胞を含む)から、好ましくは分泌ポリペプチドとして培地から回収するが、分泌シグナル配列なしに直接発現した場合には宿主細胞溶解物からも回収し得る。所望の蛋白質が、ヒト起源のもの以外の組換え細胞において発現した場合、目的の生成物はヒト起源の他のタンパク質またはポリペプチドを全く含まない。しかしながら、目的の生成物を組換え細胞に由来する他のタンパク質またはポリペプチドから精製し、目的の発現物に関して実質的に均一な生成物を得ることが望ましい。そのための第一段階として、通常培地(細胞を含む)または細胞溶解物を遠心分離し、細胞または細胞破片を除去する。その後目的の生成物を、混入した他のタンパク質およびポリペプチドから蛋白分離精製手段、例えば免疫アフィニティーまたはイオン交換カラム等による分別;エタノール沈澱;逆相HPLC;シリカまたはDEAE等のカチオン交換樹脂によるクロマトグラフィー、例えばセファデックスG−75を用いるゲル電気泳動;IgG等の混入物を除去するため目的の生産物を結合するプラスミノーゲンカラム、およびプロテインAセファローズカラムによるクロマトグラフィー等により精製する。これらの方法については、例えばGuide to Protein Purification Methods in Enzymology, vol.182, Deutscher編、Academic Press等を参照することができる。上述のような本発明方法により、シクロヘキシミド耐性細胞株を効率的に選択し、高発現した所望の外来遺伝子の発現産物を精製物として得ることができる。【0050】【実施例】以下は、実施例によって本発明を更に具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。以降に記述するクローニング等、遺伝子組換えに関する各種実験技術については、J.Sambrook,E.F.Frisch,T.Maniatis著;モレキュラー クローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールドスプリング ハーバー ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)発行、1989年及びFrederick M. Ausubelら編、Current Protocols発行、Current Protocols in Molecular Biology等に記載の遺伝子工学的方法に準じて行った。【0051】[実施例1]ヒトL36a遺伝子のクローニング公的なDNAデータベースを検索することにより、酵母L41遺伝子と相同なヒトの遺伝子がL36a遺伝子(GI 4506651)であることを確認した。Candida utilisのL41とL36aのアミノ酸配列の相同性は図1に示した。L41とL36aの両方に共通の配列を持つオリゴヌクレオチドHL36G1(5’-AGA AGT GTG GCA AGC ATC AG-3’ 配列番号3)を化学合成して、プローブとして用いた。Gene trapper cDNA Positive Selection System (Gibco BRL, Cat. No. 10356-020)を用いて、ヒト胎児脳由来のcDNAライブラリー(Superscript Human Fetal Brain cDNA Library, Life Technologies, Cat. No. 10662-013)からL36a遺伝子のcDNAをクローニングした。クローニング操作は添付のマニュアルに従った。具体的には動物細胞発現用ベクターpCMV・SPORTのNotI-SalI部位にcDNAが組み込まれた二本鎖DNAライブラリーを一本鎖構造に変成させ、ビオチンラベルを施したHL36G1とハイブリッドを形成させた。ハイブリッド形成後、ストレプトアビジンでコートされた磁気ビーズに吸着させることにより、L36acDNAクローンの濃縮を行った。濃縮後非ラベルHL36G1をプライマーとして用いてDNAを二本鎖に再変換し、これを用いてキットに添付する大腸菌Ultramaxの形質転換を行った。得られた形質転換体のうち40個のクローンからプラスミドDNAを定法により抽出し、L36aが含まれるクローンの選抜を行った。この選抜はPCRにより行った。PCR はEx Taq ポリメラーゼ(宝酒造社)を用いたPCR((94℃で30秒、55℃で1分、72℃で2分)×25サイクル)の条件で行なった。用いたプライマーは、フォワードプライマーとしてHL36G1、リバースプライマーとしては5’-CTC CTC CCA GTT CAA AAT GC-3’ (HL36RT1、配列番号4)を用いた。その結果、40クローン中14クローンにL36a遺伝子が含まれていることが確認された。これらのプラスミドからcDNA断片を制限酵素NotI及びSalIで切り出し、その断片の長さをアガロースゲル電気泳動によって確認した。さらにこれらのクローンの中から、インサートDNA断片の長さが長い6クローンについて塩基配列の確認を行った結果、いずれのクローンもL36a遺伝子の318塩基からなるORFの全長を含んでいることが明らかにされた。【0052】[実施例2]シクロヘキシミド耐性遺伝子の構築と機能の確認実施例1で得られたヒトL36a遺伝子にCYH耐性を付与するため、54番目のアミノ酸であるプロリンがグルタミンになる様な変異の導入を行った。具体的にはORFの167番目の塩基CをAに変換するために、図2に示す様に4本のプライマーを化学合成してこれを使用し、3回のPCRを行った。具体的には、最初にフォワードプライマー1(5’-GGG TCT AGA ATG GTC AAC GTA CCT AAA AC-3’ 配列番号5)とリバースプライマー3(5’-CCG GAA AAT TTG CTT TGT CTG CCC A-3’ 配列番号6)の組み合わせ、及びフォワードプライマー4(5’-GGG CAG ACA AAG CAA ATT TTC CGG-3’ 配列番号7)とリバースプライマー2(5’-GGG TCT AGA TTA GAA CTG GAT CAC TTG GC-3’ 配列番号8)の組み合わせでL36a遺伝子を鋳型に用いてPCRを行った。PCR はEx Taq ポリメラーゼ(宝酒造社)を用いたPCR((94℃で30秒、55℃で1分、72℃で2分)×25サイクル)の条件で行なった。得られた2種類のPCR産物をHigh Pure PCR Product Purification Kit (Roche社, 1-732-668)を用いて精製した後、これらの混合物を鋳型として、フォワードプライマー1とリバースプライマー2を用いてPCR((94℃で30秒、55℃で1分、72℃で2分)×25サイクル)を行う事により、両端に制限酵素XbaI認識部位が付加されたCYH耐性のL36a遺伝子(L36a-CYHR)を得た(配列番号1及び図3)。増幅された約0.3 kbのDNA断片は、XbaIで切断した後、pUC18のXbaI部位にクローニングした。ダイターミネーターサイクルシーケンスキット(パーキンエルマー社)を用いて増幅DNA断片の塩基配列を決定し、得られた遺伝子の塩基配列を確認した後、L36a-CYHR断片を含むXbaI断片を動物細胞発現用ベクターpCI-neo(Promega, Cat. No. E1841)のCMV初期遺伝子プロモーター領域の下流にあるXbaI部位に挿入し、プラスミドpCI-neo-L36を得た。構築したL36a-CYHR遺伝子が動物細胞にシクロヘキシミド耐性を付与するかどうかを確認するために、チャイニーズハムスター由来CHO(DHFR-)細胞(ATCC,CRL-9096、以下“CHO細胞”と呼ぶ)への形質導入実験を行った。具体的には、分泌性アルカリフォスファターゼSEAPを含むプラスミドpSEAP2-control(Clontech社, 6052-1)0.1μgと共にプラスミドpCI-neo-L36あるいはpCI-neo、1μgをCHO細胞に共形質導入した。形質導入実験は、実施例4記載の方法に従い、24穴プレートに播種して一晩培養した1×105のCHO細胞へ導入した。24時間培養後に細胞を培地で2回洗浄後、CYHを0,10mg/mlの濃度で含む培地に交換して4時間後と8時間後に上清の一部を回収し、SEAP活性を測定した。4時間後の活性を1とした場合の8時間後の活性は、pCI-neo-L36では、2.17(CYH 0mg/ml)、1.44(CYH 10mg/ml)であり、pCI-neoでは、2.15(CYH 0mg/ml)、1.09(CYH 10mg/ml)であった(図4)。この結果から、pCI-neo-L36はCHO細胞にCYH耐性を付与し、プラスミドが導入された細胞はCYH存在下でも生存し、共導入されたプラスミド上のレポーター遺伝子を発現することが明らかにされた。【0053】[実施例3]発現プラスミドの構築3種類のレポーター遺伝子をそれぞれpCI-neo-L36のBamHI部位に、neo遺伝子とは反対方向に導入することにより、L36a-CYHRを含む発現ベクターの構築を行った。レポーター遺伝子としては、細胞内に蓄積されるレポーターで、半減期の短い緑色蛍光蛋白質であるd2EGFP (pd2EGFP-N1由来、Clontech社, 6009-1)及びβガラクトシダーゼ(b-galactosidase; lacZ)遺伝子(pCH110由来、Pharmacia社, 27-4508-01)、及び細胞外に分泌されるアルカリフォスファターゼであるSEAP(pSEAP2-control由来、Clontech社, 6052-1)を使用した。3種類それぞれのレポーター遺伝子を導入した発現ベクターの構造は図5に示したが、それぞれpL36a-neo-GFP、pL36a-neo-lacZ、pL36a-neo-SEAPと名づけた。L36a-CYHRを含まない事を除いてpL36a-neo-lacZ、pL36a-neo-SEAPと同じ構造のベクターpNeo-SEAP及びpNeo-lacZを対照実験用に構築した。これらのプラスミドは次のように構築した。プラスミドpd2EGFP-N1をBglIIとBamHIで分解した後、セルフライゲーションすることによりプロモーターとd2EGFP遺伝子間のマルチクローニング部位を除去した。続いて、このプラスミドをPshBIとAflIIで分解して、CMV初期遺伝子プロモーター+d2EGFP遺伝子+SV40由来ポリA付加シグナルを含む1.7kbのDNA断片を切りだした。このフラグメントDNAをKlenow酵素により平滑末端とした後、BamHIリンカー(5’-CCCGGATCCGGG-3’ 宝酒造、4810P)を付加してからさらにBamHIで分解した後、pCI-neo-L36 のBamHI部位に挿入してpL36a-neo-GFPを構築した。プラスミドpCH110は、NcoIで分解してKlenow酵素により平滑末端とした後、BamHIリンカーを付加した。さらにBamHIで分解することにより、SV40初期遺伝子プロモーター+lacZ遺伝子+SV40由来ポリA付加シグナルを含む3.9kbのDNA断片を切りだし、pCI-neo-L36 のBamHI部位に挿入してpL36a-neo-lacZを、pCI-neoのBamHI部位に挿入してpNeo-lacZを構築した。プラスミドpSEAP2-controlは、SalIで分解してKlenow酵素により平滑末端とした後、BglIIリンカー(5’-CAGATCTG-3’ 宝酒造、4621P)を付加した。さらにBglII とBamHIで分解することにより、SV40初期遺伝子プロモーター+SEAP遺伝子+SV40由来ポリA付加シグナル+SV40由来のエンハンサー配列を含む2.3kbのDNA断片を切りだし、pCI-neo-L36 のBamHI部位に挿入してpL36a-neo-SEAPを、pCI-neoのBamHI部位に挿入してpNeo-SEAPを構築した。【0054】[実施例4]細胞培養と形質導入実験CHO細胞培養には抗生物質(Penicillin-Streptomycin, Gibco BRL, 15070-089)を加えたa-MEM(Gibco BRL, 12571-063)に終濃度10%でウシ胎仔血清(FCS; Gibco BRL, 26140-087)を添加して、継代用培地として使用した。形質導入実験に用いるCHO細胞は、5×105の密度で10cm径の付着細胞培養用dishに播種して培養を行い3日後に回収した。これを6cm径のdishに5×105播種し24時間後にリポフェクション法により、トランスフェクションを行った。具体的には、1μgのプラスミドと6μlのLipofectamine試薬(Gibco BRL, 18324-012)を混合し、30分間室温で放置した後に、抗生物質及び血清未添加の培地に交換した細胞に滴下した。16時間後に継代用培地に交換し、さらに24時間培養を行った後細胞を回収し、CYH耐性マーカー、対照のneoマーカーそれぞれに適するように形質導入細胞を選択した。CYH耐性で形質導入株を選択する場合は、回収した細胞をCYH未添加培地で4倍に希釈して10cm径dishに再播種した。24時間経過後に培地をCYH含有(3mg/ml)培地に交換し、さらに2〜3週間培養を継続した。生成したCYH耐性コロニーを、クローニングリングを使用して単離し、24穴プレートに再播種後CYH未添加培地で24時間培養した。その後CYH添加培地に交換して細胞を培養した。また、CYH耐性形質導入株の単離は、形質導入実験後に、細胞を希釈して24穴プレートに播種することにより、耐性株を単離することが可能であった。すなわち、回収した細胞を約10枚の24穴プレートに播種してCYH存在下で培養した。CYH感受性細胞を除去するために培養1週間目で細胞を回収し、再び24穴プレートに播種してさらに1週間培養することにより、迅速にCYH耐性株を単離することができた。G418耐性で形質導入株を選択する場合は、トランスフェクション後に回収した細胞をG418(1mg/ml、Gibco BRL, 11811-049)含有培地で50倍に希釈して、10cm径dishに再播種を行った。コロニーが生成するまで1〜2週間培養を行い、上記と同様に単一コロニーをクローニングリングを使用して単離して24穴プレートに再播種し、G418含有培地で培養を行った。また、CYH耐性株と同様に、希釈法によっても耐性株を単離することが可能であった。G418耐性では96穴プレートに播種してG418含有培地で1〜2週間培養を行ってG418耐性株を単離した。【0055】[実施例5]GFP遺伝子発現の比較形質導入株はクローニングリングを用いて単離した。CYH選択の場合、形質導入株を24穴プレートに再播種してCYH未添加で24時間培養した後CYH添加培地に交換して1週間培養後、トリプシン処理を行い細胞を回収した。G418選択の場合は24穴プレートに再播種してG418含有培地で1週間培養を行った後に細胞を回収した。回収した細胞は、それぞれ0.5%FCS及びPropidium iodide (PI; Pharmingen, 66211E)を添加したPBSを用いて105〜107 cells/mlの細胞懸濁液に調製し、その計数及びGFP発現量の解析をフローサイトメトリー(FACS; FACScan, Beckton Dickinson)を用いて行った。GFPの発現量とFACS解析で得られる蛍光強度には非常に高い相関があるため、蛍光強度をGFP発現量と考えることが出来る(Meng, Y. G., 2000, Subramanian & Srienc, 1996)。具体的には、5×104の細胞を測定し、細胞数とGFP由来蛍光強度の分布に関するヒストグラムを図6に示すように作成する。蛍光強度の弱い順にM1~M4の4つの領域に分布を分け、M1の領域に含まれる細胞をGFP未発現細胞の集団、M3及びM4に含まれる細胞集団をGFP発現陽性の集団とする。蛍光強度が強すぎると測定レンジを越えてしまうため、結果として高発現株の細胞数が低く計数されてしまうことになる。これを避けるため、GFP発現量は式1を用いて算出した細胞数の割合で示した。(式1):GFP陽性細胞の割合=(M3-M4領域に含まれる細胞数)/(M1-M4領域に含まれる細胞数)CYH耐性株については44クローン、及び対照としてpd2EGFP-N1を導入して得たG418耐性株46クローンについて解析を行った結果、図7に示した様に、無作為に選んだCYH耐性株の43%が解析した全てのG418耐性株よりもGFPを高発現していた。CYH耐性株の方がG418耐性株よりもGFP遺伝子高発現株が効率良く取れることが確認された。CHO細胞にpL36-neo-GFPを導入しG418添加培地で選択培養を行った場合は、pd2EGFP-N1を導入して得られた結果と同様であったことから、確認されたGFP遺伝子高発現株取得の高効率化はL36a-CYHR遺伝子とCYHによる選択培養で特異的に得られる効果であると考えられる(データ示さず)。【0056】[実施例6]アルカリフォスファターゼ遺伝子発現の比較形質導入株は希釈法により単離した。pL36a-neo-SEAPを細胞に導入してCYH耐性株を、pNeo-SEAPを細胞に導入してG418耐性株をそれぞれ50クローン単離し、それぞれ24穴プレートで90%コンフルエントになるまで選択培地中で培養を行い、SEAP発現量の解析を行った。SEAP発現量の測定はすべて3連で以下のようにして行った。各クローンを培養し、2.5×104の細胞を96穴プレートに播種後、薬剤を添加した選択培地200μl中で48時間培養した。各クローンはPBS(-)で洗浄後、細胞懸濁液の細胞濃度はWST-1 cell proliferation reagent (Boehringer Mannheim, 1-644-807) により計数を行った。培養後の上清は測定まで-80℃で保存した。SEAP酵素活性の測定はThe Great Escape SEAP Chemiluminescence Detection Kit (Clontech社, K2041-1)を用いて行った。化学発光はDia-iatron社のCT-9000D plate luminometerを使用して測定した。培地中に含まれるSEAP量は、キットに付属の標準SEAPを使用して作成した検量線を用いて定量を行った。各クローンのSEAP発現量は、以下の式2によって算出した。(式2):SEAP発現量 (μg/106 cells/day)={培地中のSEAP量(μg)}×106×(lnN-lnN0)/(N-N0)×2 (days)各クローンのSEAP発現量を解析したところ、CYH耐性株では全体の54%のクローンが5mg/106 cells/day以上の発現量を示したのに対し、G418耐性株ではわずか8%のクローンしか同等の発現量を示さなかった。さらに、CYH耐性株のうち20%が30mg/106 cells/day以上、6%が100mg/106 cells/day以上の高発現を示すことが明らかにされた(図8)。以上より、SEAP遺伝子安定導入細胞株についてもCYH耐性で選択した場合、高発現株を効率良く取得できることが示された。【0057】[実施例7]βガラクトシダーゼ遺伝子発現の比較形質導入株は希釈法により単離した。pL36a-neo-lacZをCHO細胞に導入してCYH耐性株を50クローン、pNeo-lacZをCHO細胞に導入してG418耐性株を53クローン単離した。β-galactosidaseの活性測定は、Luminescentβ-gal detection kit II(Clontech社, K2048-1)を用いて行った。具体的には、培養した各クローン5×105細胞を6cm径dishに播種し、2日間、薬剤を添加した選択培地で培養する。細胞を回収し洗浄後キット添付の溶解液をもちいて細胞溶解液を調製し、アッセイに使用した。各クローンのβ-galactosidase発現量を解析したところ、CYH耐性株の16%が、100pg/106 cells/2days以上の活性を示したのに対し、G418耐性株では同レベルの発現量を示すクローンは2%だけであった。さらに100pg/106 cells/2days以上の活性を示すCYH耐性株の中には、1000pg/106 cells/2daysを超える活性を示したクローンもあり、lacZ安定導入細胞株についてもCYH耐性で選択した場合、高発現株を効率良く取得できることが示された(図9)。【0058】[実施例8]細胞増殖速度の測定CYH耐性形質導入株とG418耐性形質導入株とについて薬剤添加および非添加条件下での増殖速度を比較した。SEAP遺伝子が安定導入されたCYH耐性細胞及びG418耐性細胞、それぞれ15クローンずつを任意に選び、選択培地(CYH 3mg/ml またはG418 1mg/mlを含む)及び非選択培地中でそれぞれ継代培養を行った。具体的には、それぞれのクローンについて5×105の細胞を4−5枚の10cm径細胞培養用dishに播種し、毎日1枚のdishの細胞を回収し細胞数を計数した。細胞懸濁液中の細胞数計測は、血球計算板またはWST-1 cell proliferation reagent (Boehringer Mannheim, 1-644-807)またはFACSを用いて行った。FACSによる計測は、2%FCSを添加したPBS(-)に懸濁した細胞を、生細胞はFluorescein diacetate(和光純薬工業, 067-03311)で、死細胞はPropidium iodide (PI; Pharmingen, 66211E)で染色した後FACS解析を行い、緑色のシグナルを持つ細胞のカウント数を計数した。以上の操作により、それぞれのクローンについて4−5日間の増殖曲線を作成すると共に一定時間当りの増殖量を算出した。得られた薬剤耐性株の増殖速度(g)は、N0を初期細胞数、Nを培養終了時細胞数、tを培養日数として以下の式3で算出した。(式3):g=(lnN-lnN0)/t世代数(x)は以下の式4を用いて算出した。(式4):x=(log10N-log10N0)/log102倍化時間は細胞の培養時間を世代数で割ることにより算出した。増殖曲線についてはCYH耐性株とG418耐性株ともに非選択培地中で増殖が早く、選択培地で増殖が遅くなる傾向が確認されたが、マーカー遺伝子や薬剤間での増殖速度に大きな違いは認められなかった(図10)。この点をさらに解析するために、CYH耐性株及びG418耐性株それぞれをのクローンを各培養条件において5×105の細胞数で10cm径のdishに播種し、3日間培養を行った。培養終了後の細胞数を計数して世代数を算出し、さらに培養時間から1継代あたりの平均倍化時間を算出した。さらにこの継代操作を数回繰り返すことによって各クローンごとに選択培地と非選択培地での平均倍化時間を算出した。CYH耐性株とG418耐性株それぞれ15クローンずつの選択培地と非選択培地での平均倍化時間の平均値を比較したところ、CYH耐性株及びG418耐性株どちらに関しても、薬剤を含む選択培地での平均倍化時間が非選択条件に比較して長くなることが示された(図11)。また、2種類の薬剤耐性株の間で選択条件および非選択条件下での平均倍化時間に大きな差は認められず、選択マーカー遺伝子の種類による増殖の差はないものと考えられた。さらに、非形質転換CHO細胞についても平均倍化時間を求めたが、形質導入株に対してやや短いことも示された。以上の検討から、本発明のマーカー遺伝子の細胞増殖に対する影響は、汎用されているマーカー遺伝子と同等であるといえる。【0059】[実施例9]安定導入した遺伝子の安定性CYH耐性及びG418耐性のSEAP遺伝子導入クローンで、SEAPを高発現する6株ずつを5×105の細胞数で10cm径dishに播種し、非選択培地中で4日間培養を行った。培養後細胞を回収し、FACSを用いて実施例8記載の方法で細胞数を計数し、再び5×105の細胞数で10cm径dishに播種した。培養上清はSEAPアッセイに供した。以上の継代操作を8ないし9回行い、各継代時(G418耐性株の継代1回目を除く)における培地あたりのSEAP発現量を測定することにより、導入した遺伝子の安定性を確認した。CYH耐性株のSEAP発現量はいずれもG418耐性株の発現量を大きく上回っており、非選択培地中で継代を繰り返してもその傾向は変化しなかった(図12)。CYH耐性株のうちSEAP発現量の高いクローンのなかに継代により発現量が低下するクローンがあったが、非選択培地中で8回継代した後でも、G418耐性SEAP高発現株の継代2回目のSEAP発現量を上回っていた。以上の結果から、新規CYH耐性マーカーにより異種遺伝子が安定形質導入されたCHO細胞中では、染色体に組込まれた遺伝子は安定であることが明らかにされた。このことから、L36a-CYHRのマーカー遺伝子が、汎用されているneo遺伝子マーカー遺伝子の利用よりも有用であることが示された。【0060】[実施例10]導入した異種遺伝子のコピー数解析SEAP遺伝子導入クローンのうち、G418耐性株8クローンとCYH耐性株12クローンについて、定量PCRによりSEAP遺伝子のコピー数解析を行った。CHO細胞のゲノムDNAはWizard genomic DNA Purification kit (Promega社, A1120)を用いて調製した。調製したゲノムDNAの濃度は、260nm吸光度の測定により定量した。さらに1%アガロースゲルを用いた電気泳動によりDNAの分解が無いことを確認した後、定量PCRの鋳型として使用した。定量PCRはThe Lightcycler FastStart DNA Master SYBR Green (Roche Molecular Biochemicals社、3-003-230)を使用し、1サイクルにつき95℃で15秒、57℃で5秒、72℃で10秒の条件で45サイクル行った。用いたプライマーはSEAPフォワード (5’-GGT TAC CAC TCC CAC TGA CTT CC-3’ 配列番号9)及びSEAPリバース (5’-GCA ACT TCC AGA CCA TTG GC-3’ 配列番号10)である。SEAPプライマーによる定量PCRで得られた結果を標準化するためにSentrnel Molecular Beacon b-Actin Detection kit (Straragene社, 200570)に添付されている、βアクチン用のフォワードプライマー(5’-ATG GGT CAG AAG GAT TCC TA-3’)及びリバースプライマー(5’-TCC ATG TCG TCC CAG TT-3’)を使用して同様のPCRを行った。それぞれのクローンの鋳型DNAについて2種類のプライマーの組み合わせでPCRを行った。得られたSEAP遺伝子とβアクチン遺伝子のPCR反応生成物の量について、それぞれ最少の値を1としてクローン間の相対値を算出した。さらに、それぞれのクローンのDNAに関してSEAPプライマーで得られたPCR産物の相対値をβアクチンプライマーで得られたPCR産物の相対値で割ることによって、各クローンの単位ゲノムDNA量当りの相対的なSEAP遺伝子コピー数とした。各クローンでの相対的SEAP遺伝子コピー数と、それらのクローンでのSEAP発現量との関係をグラフにしたのが図13であるが、遺伝子のコピー数とSEAP発現量には相関関係が認められなかった。この結果から、CYH耐性株で高頻度に認められる遺伝子の高発現はコピー数だけでなく、異種遺伝子DNAの染色体への挿入位置やその他の因子による複合的な効果である可能性が考えられた。【0061】【発明の効果】本発明によれば、特に、新規な選択マーカー遺伝子(蛋白質合成阻害剤耐性遺伝子、代表的にはシクロヘキシミド耐性遺伝子)を含むベクターを利用して形質導入細胞を選択することによリ、所望の蛋白質を高レベルで発現する組換え細胞が高頻度で選択される。このベクターを利用することにより、高発現株を選択するためにスクリーニングする必要のあるトランスフェクトされた細胞の数を減らすことが可能である。また、本発明により提供される、外来遺伝子を高発現する細胞を短期間で効率的に取得できる上記ベクターは、遺伝子にコードされている機能未知の蛋白質の機能解析や、医薬品等として利用可能な組換え蛋白質の生産系開発に関して大きな貢献をすることが期待できる。【0062】【配列表】【図面の簡単な説明】【図1】ヒトのリボソーム蛋白質L36a(GI 4506651)と酵母Candida utilisのリボソーム蛋白質L41(GI1255906)のアミノ酸配列の比較の図である。ヒトL36a蛋白質の54番目(酵母L41たんぱく質では56番目)のアミノ酸プロリン(四角で囲んである)をグルタミンに置換することにより、それぞれの蛋白質はシクロヘキシミド耐性型の蛋白質となる。【図2】2段階のPCRによるシクロヘキシミド耐性遺伝子の構築法を示した図である。最初にプライマー1とプライマー3の組み合わせ、及びプライマー4とプライマー2の組み合わせでL36a遺伝子を鋳型に用いてPCRを行った。プライマー3と4には54番目のアミノ酸プロリンをグルタミンに置換するために鋳型と1箇所のヌクレオチド配列が異なっている。得られた2種類のPCR産物の混合物を鋳型にしてプライマー1と2の組み合わせで再びPCRを行うことにより両端に制限酵素XbaI認識部位が付加され、54番目のアミノ酸プロリンがグルタミンに置換されたCYH耐性型のL36a遺伝子を得ることができる。【図3】 CYH耐性型のL36a遺伝子(L36a-CYHR遺伝子)のDNA配列とコードするポリペプチドのアミノ酸配列を示す図である。アミノ酸変異を導入した54番目のグルタミンは四角で囲んである。【図4】 L36a-CYHR遺伝子がシクロヘキシミド耐性を付与することを示した図である。 L36a-CYHR遺伝子を含むプラスミドpCI-neo-L36を分泌性アルカリフォスファターゼSEAPを含むプラスミドpSEAP2-control と共にCHO細胞に共形質導入した後、24時間後に培地を交換して4時間後と8時間後に上清の一部を回収し、SEAP活性を測定した。4時間後の活性を1とした場合の8時間後の活性を示した。【図5】各種プラスミドの構造を示した図である。【図6】フローサイトメトリーによるGFP発現量の解析方法を示した図である。縦軸に細胞数、横軸にGFP発現による蛍光強度を対数で示してある。蛍光強度の弱い順にM1~M4の4つの領域に分布を分け、M1の領域に含まれる細胞をGFP未発現細胞の集団、M3及びM4に含まれる細胞集団をGFP発現陽性の集団とした。【図7】単離したCYH耐性株とG418耐性株のGFP発現量の分布を示した図である。 pL36a-neo-GFP を導入して得られたCYH耐性株については44クローン、pd2EGFP-N1を導入して得られたG418耐性株46クローンについて解析を行った。【図8】単離したCYH耐性株とG418耐性株のアルカリフォスファターゼ発現量の分布を示した図である。 pL36a-neo-SEAP を導入して得られたCYH耐性株、pNeo-SEAPを導入して得られたG418耐性株それぞれ50クローンずつについて解析を行った。【図9】単離したCYH耐性株とG418耐性株のβガラクトシダーゼ発現量の分布を示した図である。 pL36a-neo-lacZ を導入して得られたCYH耐性株、pNeo-lacZを導入して得られたG418耐性株それぞれ50クローンずつについて解析を行った。【図10】 CYH耐性のアルカリフォスファターゼ発現株とG418耐性のアルカリフォスファターゼ発現株の増殖曲線を示した図である。 SEAP遺伝子が安定導入されたCYH耐性株及びG418耐性株それぞれ15クローンずつを任意に選び、選択培地(CYH 3mg/ml またはG418 1mg/mlを含む)及び非選択培地中でそれぞれ培養を行った。【図11】 CYH耐性のアルカリフォスファターゼ発現株とG418耐性のアルカリフォスファターゼ発現株の平均倍化時間を示した図である。任意に選んだCYH耐性株及びG418耐性株それぞれ15クローンずつを選択培地(CYH 3mg/ml またはG418 1mg/mlを含む)及び非選択培地中でそれぞれ継代培養を行い、各クローンごとに選択培地と非選択培地での平均倍化時間を算出した。さらにその倍化時間の平均値を示した。【図12】 CYH耐性株及びG418耐性株のアルカリフォスファターゼ発現量の安定性を調べた図である。 CYH耐性株及びG418耐性株それぞれ6クローンずつを選択培地(CYH 3mg/ml またはG418 1mg/mlを含む)及び非選択培地中でそれぞれ継代培養を行い培地あたりのSEAP発現量を測定することにより、導入した遺伝子の安定性を確認した。【図13】 CYH耐性株及びG418耐性株のアルカリフォスファターゼ発現量と遺伝子のコピー数の関係を示した図である。 SEAP遺伝子導入クローンのうち、G418耐性株8クローンとCYH耐性株12クローンについて、定量PCRによりSEAP遺伝子のコピー数解析を行った。 (1)蛋白質合成阻害剤シクロヘキシミドに感受性の動物細胞に、該阻害剤シクロヘキシミドに対する耐性を付与する性質を有し、かつ、配列番号1に示されるアミノ酸配列、または該アミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有する哺乳動物由来のリボソーム蛋白質をコードする、蛋白質合成阻害剤耐性遺伝子であって、配列番号1に示されるアミノ酸配列の54位またはその対応位置のアミノ酸がグルタミンであることを特徴とする、蛋白質合成阻害剤耐性遺伝子、(2)前記1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列が、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する哺乳動物由来のリボソーム蛋白質L44であり、該アミノ酸配列の54位のアミノ酸がグルタミンであることを特徴とする、蛋白質合成阻害剤耐性遺伝子、または(3)配列番号1または2に示されるアミノ酸配列をコードする、蛋白質合成阻害剤耐性遺伝子から選ばれる一の遺伝子および外来蛋白質構造遺伝子とを発現可能に含む発現ベクターを含む動物細胞からなる形質転換細胞を培養し、発現された外来蛋白質を培養物から採取することを特徴とする、蛋白質の生産方法。


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