タイトル: | 特許公報(B2)_人工皮膚モデル、その作製方法及び用途 |
出願番号: | 2001019592 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | C12N 5/071,G01N 33/15 |
原 真理子 酒井 進吾 遠藤 洋子 井上 紳太郎 JP 4520647 特許公報(B2) 20100528 2001019592 20010129 人工皮膚モデル、その作製方法及び用途 花王株式会社 000000918 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 有賀 三幸 100068700 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 村田 正樹 100117156 山本 博人 100111028 伊藤 健 100132285 原 真理子 酒井 進吾 遠藤 洋子 井上 紳太郎 20100811 C12N 5/071 20100101AFI20100722BHJP G01N 33/15 20060101ALN20100722BHJP JPC12N5/00 202AG01N33/15 Z C12N 1/00-7/08 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開平09−201410(JP,A) Arch Dermatol Res,1996,Vol.289,No.1,p.14-20 Journal of Cellular Physiology,1996,Vol.166,No.2,p.296-304 J Invest Dermatol,1996,Vol.107,p.367-372 組織培養研究,1995,Vol.14,No.1,p.73 British Journal of Dermatology,1998,Vol.138,No.4,p.750 J Invest Dermatol,1995,Vol.104,p.3-6 Curr.Opinin Rheumatol.,1992,Vol.4,No.6,p.869-877 4 2002218971 20020806 7 20060921 六笠 紀子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、3次元人工皮膚モデル及びその作製方法に関し、更に詳しくは、正常脂質ラメラ構造及び正常な透過バリア機能を有する3次元人工皮膚モデルおよびその作製方法に関する。【0002】【従来の技術】皮膚、特に角層と表皮は外来からの抗原進入、体内からの水分放出防御の点で極めて重要な組織である。皮膚の物性は、ヒトの皮膚を非侵襲的に測定し調べることができる。しかし、皮膚の恒常性維持の詳細なメカニズムや、薬物の皮膚透過性・代謝・薬理・毒性作用は、主にモデル動物を用いて調べられている。一方、1992年に動物実験代替法としてヒト人工皮膚モデルが報告された[International Journal of Cosmet. Sci,Vol.14,p245-264]。この報告以降、多くの種類の人工皮膚モデルが開発・市販され、構造や機能が、より実際の皮膚に近くなるよう改良されている。これらの人工皮膚モデルは、ポリカーボネートフィルターやコラーゲンスポンジ等の支持体上に表皮細胞を播種し培養することで、実際の皮膚と同様の4層(基底層、有棘層、顆粒層、角層)からなる表皮層が形成される。また、これらの人工皮膚モデルの培養には、アミノ酸や無機塩類から成るDMEM培地を基本組成とした培地が用いられている。【0003】皮膚の恒常性維持のメカニズムや、薬物の皮膚透過性・代謝・薬理・毒性作用を調べる上で、人工皮膚モデルの透過バリア機能が、実際の皮膚の透過バリア機能に近く、正常であることが最も重要である。皮膚の透過バリア機能は、角層細胞を構成する蛋白と、細胞間に存在する脂質ラメラ構造から形成されている。特に細胞間脂質ラメラ構造は皮膚の透過バリア機能には必須の要素であり、この脂質ラメラ構造が正常な形態であることが望ましい。また皮膚の恒常性維持のメカニズムを検討するうえで、皮膚に透過バリア崩壊(紫外線照射等による誘発)や乾燥負荷した場合に、皮膚内部でモデル動物と同様の反応が惹起されることが望ましい。しかし従来の培養方法による人工皮膚モデルでは、脂質ラメラ構造の形態異常や、基底細胞の形態異常、ラメラボディ分泌の異常等、実際の皮膚とは異なる点が多く認められた[International Journal of Pharmaceutics,Vol.203,p211-225]。さらに、透過バリア崩壊や乾燥負荷した場合に、モデル動物とは異なった反応が惹起されていた。このため、正常な透過バリア機能を有する人工皮膚モデルおよびその作製方法が望まれていた。【0004】【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明の目的とするところは、医薬品、化粧品等の安全性試験や皮膚生理研究等に有用な、正常な透過バリア機能を有する人工皮膚モデルを提供することにある。【0005】【課題を解決するための手段】上記の目的は、インターロイキン4(IL−4)、インターロイキン10(IL−10)、インターフェロンγ(INF−γ)のうち1〜3種を添加した培地により組織培養された人工皮膚モデルで達成できる。【0006】即ち、本発明は、インターロイキン4(IL−4)、インターロイキン10(IL−10)、インターフェロンγ(INF−γ)からなる群より少なくとも一種以上を添加した培地により培養することを特徴とする組織培養法、支持体上に細胞を播種し、インターロイキン4(IL−4)、インターロイキン10(IL−10)、インターフェロンγ(INF−γ)からなる群より少なくとも一種以上を添加した培地により培養することを特徴とする人工皮膚モデルの作製方法、支持体上に皮膚線維芽細胞を播種し培養した後、表皮角化細胞を播種培養することによって得られる人工皮膚を、更に、インターロイキン4(IL−4)、インターロイキン10(IL−10)、インターフェロンγ(INF−γ)からなる群より少なくとも一種以上を添加した培地により培養することを特徴とする人工皮膚モデルの作製方法、及びこれらの作製方法によって得られる人工皮膚モデル、正常脂質ラメラ構造を有する人工皮膚モデルにある。【0007】【発明の実施の形態】人工皮膚モデルは、一般に、ポリカーボネートフィルター、コラーゲン等からなるスポンジ等の支持体上に表皮細胞(皮膚線維芽細胞、表皮角化細胞)を播種し、必要により浸漬培養、気液培養を組み合わせて作製されるものであり、作製された人工皮膚モデルやその作製キットが市販されている。市販されているものとして、Test Skin (Organogenesis社, USA)、Skin (Advanced Tissue Science社, USA)、EpiDerm (MatTek Corporation社, USA) 、Episkin (Episkin SNC社, France)、 SkinEthic (Laboratoire SkinEthic社, France)、LSE(東洋紡社、Japan)等を挙げることができる。支持体としては、播種した表皮細胞が接着又は固定され、その上で増殖するものであれば特に限定されるものではなく、支持体を基盤として三次元状に細胞が培養される。【0008】本発明においては、これらのいずれも用いることができ、上記のキットを用い、培地調製から始めても良いし、出来上がった人工皮膚を購入して用いても良い。また用いる細胞としては、ヒトに限らず、マウス、ラット、ブタ等の表皮細胞でも良い。【0009】本発明に用いるサイトカインであるIL−4、IL−10、INF−γとしては、通常それぞれの人工皮膚モデルに応じた種由来の天然型、あるいは組み換え型サイトカインを用いるが、活性を有すれば改変型、異種由来、もしくは非精製品を用いることができる。IL−4、IL−10及びINF−γは、水や培地等に適宜溶解し、培地に添加する。添加量は、一概には規定できないが1pg/mLから1mg/mL程度の濃度とすることが望ましい。【0010】一般に行われる人工皮膚モデルの調製方法の概略は、皮膚線維芽細胞を播種したコラーゲンゲル等の支持体を調製し、それに表皮角化細胞を播種し気液培養するものである。【0011】【実施例】以下実施例によって本発明を説明する。以下の実施例に用いたサイトカインは以下のとおりである。IL−4;recombinant human IL-4, INTERGEN COMPANY社, USAIL−10;recombinant human IL-10, INTERGEN COMPANY社, USAINF−γ;recombinant human INF-γ, INTERGEN COMPANY, USA【0012】実施例1〜3、比較例1(ヒト人工皮膚モデルの作製)既製ヒト人工皮膚モデル(LSEhigh,東洋紡社)を用い、LSEアッセイ培地にIL−4、IL−10、あるいはINF−γを10ng/mL添加し、37℃の5%CO2インキュベーター内にて3日間空気暴露培養して人工皮膚モデルを得た。無添加をコントロールとした。培養3日後にヒト人工皮膚モデル皮膚を採取し、グルタルアルデヒド・パラホルムアルデヒド含有カコジル酸緩衝液にて固定した。1%オスミウム酸による前固定後、0.2%ルテニウム酸染色を施し、電子顕微鏡(JEM100S, JEL社, Tokyo)により角層の脂質ラメラ構造を観察した。【0013】(実施例1;図1)IL−4添加培地によって得られたヒト人工皮膚モデルの角層脂質ラメラ構造電顕写真【0014】(実施例2;図2)IL−10添加培地によって得られたヒト人工皮膚モデルの角層脂質ラメラ構造電顕写真【0015】(実施例3;図3)INF−γ添加培地によって得られたヒト人工皮膚モデルの角層脂質ラメラ構造電顕写真【0016】(比較例1、図4)コントロール(既製ヒト人工皮膚モデル;LSEhigh,東洋紡社)の角層脂質ラメラ構造電顕写真【0017】比較例1(図4)に示したように、既製ヒト人工皮膚モデルの角層では、正常な脂質ラメラ構造がほとんど観察されず、層構造をとらない脂質滴が多く観察された。一方、実施例1、2及び3に示したように、IL−4、IL−10あるいはINF−γ添加培地による培養により、正常な脂質ラメラ構造が観察された。以上の結果より、IL−4、IL−10あるいはINF-r添加培地による培養により、正常な脂質ラメラ構造が形成されることは明白である。【0018】試験例1(紫外線照射後のDNA合成能評価試験)既製ヒト人工皮膚モデル(LSEhigh,東洋紡社)にUV−B(0.15J/cm2)を1回照射した。その後、IL−4、IL−10、あるいはINF−γを10ng/mL添加したLSEアッセイ培地にて、人工皮膚モデルを37℃の5%CO2インキュベーター内にて48時間空気暴露培養した。DNA合成能の測定のため、培養48時間後に、さらに[3H] Tymidine(1μCi/mL)を含有したPBSにて1時間培養した。皮膚モデルはPBSで3回洗浄した後、表皮層を剥離した。表皮はPBS中でホモジネート処理および超音波処理にて粉砕した。20%TCAを同量加え十分に攪拌後、遠心処理(2000G、4℃、5分)を行った。沈渣はさらに5%TCAを適量加えて攪拌後、遠心処理を行った。沈渣に5%TCAを加え90℃で15分間反応させ、遠心処理(2000G、4℃、5分)によりDNA画分(上清)を得た。DNA画分中の放射活性は、液体シンチレーターにより測定した。またジフェニルアミン発色液による呈色法によりDNA量を測定し、DNA量当たりの[3H]Tymidine取り込み活性をDNA合成能として算出した。サイトカイン無添加培地を用い、さらに紫外線未照射の人工皮膚モデルをコントロールとし、コントロールのDNA合成量に対する比率を算出した。【0019】【0020】モデル動物(ヘアレスマウス)では、紫外線(UV−B)照射により細胞内DNAダメージが起こり、これがシグナルとなり種々の反応が惹起され、透過バリアが崩壊することが報告されている[Photodermatol Photoimmunol Photimed,Vol.13,p117-128,1997]。またDNA合成能亢進は、透過バリア崩壊の重要な指標であり、へアレスマウスではUV−B照射48時間後に顕著にDNA合成が亢進する[J Invest Dermatol,Vol.108,p769-775,1997]。通常培地(サイトカイン無添加)により培養したヒト人工皮膚モデルでは、UVB照射後にDNA合成能は変動しなかった。一方、UVB照射後にIL−4、IL−10、あるいはINF−γを添加した培地にて培養することで、DNA合成が顕著に亢進した。またIL−4、IL−10、あるいはINF−γ添加培地による培養だけではDNA合成は亢進しなかった。以上の結果から、IL−4、IL−10、あるいはINF−γ添加培地でヒト人工皮膚モデルを培養することにより、正常な透過バリア機能が形成され、透過バリア崩壊誘発刺激に対しても、生体と類似の反応を惹起させたことは明白である。【0021】試験例2(乾燥負荷に対するDNA合成能評価試験)既製ヒト人工皮膚モデル(LSEhigh,東洋紡社)は、IL−4、IL−10、もしくはINF−γを10ng/mL添加した、又はIL−4、IL−10及びINF−γを各々10ng/mL添加した培地に交換し、乾燥負荷条件(湿度10%、温度37℃)にて6時間空気暴露培養した。通常培地(サイトカイン無添加)により通常培養条件(湿度90%、温度37℃)にて培養したヒト人工皮膚モデルをコントロール(比較例8)とした。更に、IL−4、IL−10又はINF−γを10ng/mL添加した培地にて通常培養条件にて6時間培養した人工皮膚モデル(比較例9〜11)と比較した。培養6時間後に、表皮層を剥離し、DNA合成能を測定した(試験例1の方法に準ずる)。DNA合成能は、コントロールに対する比率で示した。【0022】【0023】比較例7に示したように、従来のヒト人工皮膚モデルは、湿度10%による乾燥負荷条件で、DNA合成能が顕著に低下することが示された。なおモデル動物では乾燥負荷により、DNA合成能が顕著に亢進することが報告されている[Arch Dermatol Res,Vol.290,p634-637]。実施例7〜10に示したように、IL−4、IL−10、もしくはINF−γを添加した、又はIL−4、IL−10及びINF−γを添加した培地を用い湿度10%で培養すると、モデル動物と同様に、DNA合成能が顕著に亢進することが示された。なお比較例9〜11で示したように、これらの培地を用い、通常の培養条件(湿度90%)にて培養した場合、DNA合成能の亢進は認められなかった。以上の結果より、IL−4、IL−10、INF−γを添加した培地により既存のヒト人工皮膚モデルを培養することで、正常な透過バリア機能応答が惹起され、乾燥負荷に対して、モデル動物と類似した反応を誘発するヒト人工皮膚モデルが作製されたことは明白である。【0024】これらの結果より、IL−4、IL−10、INF−γの1〜3種を添加した培地にて人工皮膚モデルを培養することにより、正常な角層ラメラ構造を有し、また種々の負荷に対して生体と類似した反応を誘発することができる正常な透過バリア機能を有する人工皮膚モデル作製が可能であることが明らかとなった。【0025】【発明の効果】以上のごとく、本発明により、正常な透過バリア機能を有する人工皮膚モデルの取得が可能となり、医薬品、化粧品等に対する有用性評価、安全性評価等における優れた動物代替試験法が提供できる。【図面の簡単な説明】【図1】IL−4添加培地によって得られたヒト人工皮膚モデルの角層脂質ラメラ構造電顕写真を示す図である。【図2】IL−10添加培地によって得られたヒト人工皮膚モデルの角層脂質ラメラ構造電顕写真を示す図である。【図3】INF−γ添加培地によって得られたヒト人工皮膚モデルの角層脂質ラメラ構造電顕写真を示す図である。【図4】コントロール(既製ヒト人工皮膚モデル;LSEhigh,東洋紡社)の角層脂質ラメラ構造電顕写真を示す図である。 支持体上に皮膚線維芽細胞及び表皮角化細胞を播種培養する人工皮膚モデルの作製において、インターロイキン4(IL−4)及びインターロイキン10(IL−10)からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を培地に添加することを特徴とする、当該皮膚に正常脂質ラメラ構造を発現させる方法。 支持体上に皮膚線維芽細胞を播種し培養した後、表皮角化細胞を播種培養することによって得られる人工皮膚を、更に、インターロイキン4(IL−4)及びインターロイキン10(IL−10)からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を添加した培地により培養することを特徴とする、当該皮膚に正常脂質ラメラ構造を発現させる方法。 支持体上に皮膚線維芽細胞及び表皮角化細胞を播種培養する人工皮膚モデルの作製において、インターロイキン4(IL−4)及びインターロイキン10(IL−10)からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を培地に添加することを特徴とする、当該皮膚に正常な透過バリア機能を付与する方法。 支持体上に皮膚線維芽細胞を播種し培養した後、表皮角化細胞を播種培養することによって得られる人工皮膚を、更に、インターロイキン4(IL−4)及びインターロイキン10(IL−10)からなる群より選ばれる少なくとも一種以上を添加した培地により培養することを特徴とする、当該皮膚に正常な透過バリア機能を付与する方法。