タイトル: | 特許公報(B2)_発情周期を繰り返している豚における過排卵処理法 |
出願番号: | 2001000516 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,A61K31/5575,A01K67/02,A61K38/24,A61P15/08 |
岩村 祥吉 吉岡 耕治 鈴木 千恵 JP 3713531 特許公報(B2) 20050902 2001000516 20010105 発情周期を繰り返している豚における過排卵処理法 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 501203344 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 野村 健一 100107870 岩村 祥吉 吉岡 耕治 鈴木 千恵 20051109 7 A61K31/5575 A01K67/02 A61K38/24 A61P15/08 JP A61K31/5575 A01K67/02 A61P15/08 A61K37/38 7 A61K 31/5575 MARTIN, M. J. et al.,Effect of gonadotropin administration on estrus synchronization and ovulation rate following induced,Theriogenology,1989年,32(6),929-37 2 2002205946 20020723 7 20010105 川口 裕美子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、発情周期を繰り返している豚における過排卵処理法に関する。【0002】【従来の技術】近年、種々のトランスジェニック豚を作出しようとする動きに伴い、DNA注入やDNA注入胚の培養、およびその後の胚移植等に適した高品質の胚の需要が増してきている。また、これに関して、幼若豚から採取した胚よりも経産豚または発情周期を繰り返している未経産豚から採取した胚のほうが変性が少ない高品質の胚で、上記目的に適していると考えられる。【0003】現在のところ、胚を効率的に多量に得る一般的な方法としては、春機発動前の幼若豚に妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG)を注射後、72時間してヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)を注射し、その24〜30時間後に交配し、hCG投与後52時間〜5日後に採卵することにより実施する過排卵処理法が知られている。【0004】しかしながら、現在のところ、発情周期を繰り返している豚ではPMSGを注射する時期の特定が困難であるために上記の過排卵処理法は適用できず、発情周期を繰り返す豚を用いて高品質の胚を効率的に得ることができない状況にある。このため、発情周期を繰り返している豚に適用し得る過排卵処理法の開発が望まれている。【0005】【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は、発情周期を繰り返している豚に適用し得る過排卵処理法を提供することを目的とする。【0006】【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明者らが鋭意研究を行った結果、発情周期を繰り返している豚に先ず黄体退行作用を持つホルモン剤を投与することで黄体を退行させ、次いで卵胞を発育させるホルモン剤および排卵を誘発するホルモン剤を投与することにより過排卵を誘発し、その後交配を行うことにより、発情周期を繰り返している豚を用いて高品質の胚を効率的に採取できることを見出し、本発明を完成するに至った。【0007】▲1▼ すなわち本発明は、発情周期を繰り返している豚に黄体退行作用を持つホルモン剤を投与して黄体を退行させ、次いで該豚に卵胞を発育させるホルモン剤および排卵を誘発するホルモン剤を投与して過排卵を誘発することを特徴とする、発情周期を繰り返している豚における過排卵処理法である。【0008】▲2▼ また本発明は、黄体退行作用を持つホルモン剤がプロスタグランジンF2αまたはその類縁物質である、▲1▼の過排卵処理法である。▲3▼ さらに本発明は、卵胞を発育させるホルモン剤が妊馬血清性性腺刺激ホルモンまたは卵胞刺激ホルモンである、▲1▼または▲2▼の過排卵処理法である。▲4▼ さらにまた本発明は、排卵を誘発するホルモン剤が黄体形成ホルモンまたはヒト繊毛性性腺刺激ホルモンまたは性腺刺激ホルモン放出ホルモンもしくはその類縁物質である、▲1▼〜▲3▼のいずれか1つの過排卵処理法である。【0009】【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明の過排卵処理法は、発情周期を繰り返している豚に黄体退行作用を持つホルモン剤を投与して黄体を退行させ、次いで該豚に卵胞を発育させるホルモン剤および排卵を誘発するホルモン剤を投与して過排卵を誘発することを特徴とする。【0010】本発明の過排卵処理法を適用する豚は、発情周期を繰り返している豚であればその週齢、品種等は特に限定されるものではないが、好ましくは、例えば、生後5ヶ月以上の純粋種または2元もしくは3元交雑種の豚を用いる。【0011】「黄体退行作用を持つホルモン剤」とは、発情周期を繰り返している豚に投与された際に、黄体を退行させて発情を誘発するホルモン剤を意味する。こうした黄体退行作用を持つホルモン剤としては、特に限定するものではないが、例えば、プロスタグランジンF2α(PGF2α)またはその類縁物質を挙げることができる。【0012】具体的には、PGF2αとして、例えばパナセランHiおよびパナセランF液(共に第一製薬)、動物用プロナルゴンF注射液(武田シェーリング・プラウ アニマルヘルス)、ベタグランディン注射液NZ(日本全薬工業)を挙げることができるが、これらに限定されない。また、「(PGF2αの)類縁物質」とは、その構造がPGF2αに類似しており、黄体退行作用を有するものを意味し、具体的には、例えばエストラメイトおよびプラネート(共に住友化学)、プロスタベットCおよびプロスタベットS(共に三共)、レジプロンCおよびレジプロンS(共に帝国臓器)、シンクロセプト(大日本製薬)を挙げることができるが、これらに限定されない。黄体退行作用を持つホルモン剤の投与は当業者に公知の手法により、例えば、該ホルモン剤を排卵後8日以降の豚に3日間連続して筋肉内に注射することにより、実施することができる。【0013】尚、この黄体退行作用を持つホルモン剤の投与量は、その作用、すなわち黄体を完全に退行させ、発情を誘起させ得る量であれば特に限定されるものではなく、また豚の品種や体重等種々の要因に伴って変動し得るが、例えば該ホルモン剤としてパナセランHi(第一製薬)を使用する場合は、2〜6 mLのパナセランHiを1日1〜2回、3日間連続投与、好ましくは3mLのパナセランHiを1日2回、3日間連続投与することができる。尚、前記ホルモン剤は単独で投与しても他の成分と組合わせて投与しても良く、この場合の他の成分としては、前記ホルモン剤の黄体退行作用を減じるものでなければ特に限定されないが、例えば卵胞を発育させるホルモン剤(後述)や生理食塩水、リン酸緩衝液、水が挙げられる。【0014】「卵胞を発育させるホルモン剤」とは、卵胞上皮細胞の増殖、卵胞液の分泌、卵胞腔の形成などにより卵胞を発育させる作用を持つホルモン剤を意味する。こうした卵胞を発育させるホルモン剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG)および/または卵胞刺激ホルモン(FSH)を挙げることができる。具体的には、PMSGとして例えばセラルモン1,000(デンカ製薬)、動物専用セロトロピン(帝国臓器)、PMS1,000単位NZ(日本全薬工業)、動物専用ピーメックス1,000単位(三共)を挙げることができ、またFSHとして例えばアントリン・10,20,40およびアントリンR・10(共にデンカ製薬)を挙げることができるが、これらに限定されない。【0015】卵胞を発育させるホルモン剤の投与は、前記の黄体退行作用を持つホルモン剤の場合と同様にして実施することができる。また、その投与のタイミングおよび量は、黄体退行後の卵巣において卵胞の発育を開始させ、排卵に至るまで成熟させて、その後卵巣に悪影響を及ぼさない範囲内であれば特に限定されるものではなく、また豚の品種や体重等種々の要因に伴って変動し得るが、例えば前記黄体退行作用を持つホルモン剤投与の2〜3日後に卵胞を発育させるホルモン剤、例えばPMSGを1,000〜1,500国際単位、好ましくは2日後に1,500国際単位を1回投与する。【0016】尚、この卵胞を発育させるホルモン剤は、前記の黄体退行作用を持つホルモン剤と同様に、単独で投与しても他の成分と組合わせて投与しても良い。この場合の他の成分としては、卵胞を発育させるホルモン剤の卵胞を発育させる作用を減じるものでなければ特に限定されないが、例えばプロスタグランジンまたはその類縁物質、生理食塩水、リン酸緩衝液、水が挙げられる。【0017】「排卵を誘発するホルモン剤」とは、正常に発育・成熟した卵胞がある場合に、投与30〜50時間後程度に排卵を誘発することができるホルモン剤を意味する。こうした排卵を誘発するホルモン剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、黄体形成ホルモンまたはヒト繊毛性性腺刺激ホルモン(hCG)または性腺刺激ホルモン放出ホルモンもしくはその類縁物質を挙げることができる。【0018】黄体形成ホルモンとして精製された天然型のものは現在のところ製剤として存在しないが、その代替品として、例えば下垂体前葉性性腺刺激ホルモン剤として販売されている動物用ヒポホリン200家兎単位および400家兎単位(共に武田シェーリング・プラウ アニマルヘルス)を使用できると考えられる。また、DDBJ等の当業者に公知のデータベースを利用して、例えば牛の黄体形成ホルモンのβサブユニットの塩基配列(DDBJ受け入れ番号M11506)を入手し、これを元に例えば特許公開平11-308992に記載された遺伝子工学的手法を用いて製造したものを用いることもできる。尚、特許公開平11-308992(前述)に記載された手法は人の黄体形成ホルモンを製造するためのものであるが、牛や人の黄体形成ホルモンを豚に投与しても所望の排卵誘発効果が得られることが知られているので、何ら問題は無い。またhCGとしては、具体的には例えば、ゲストロン・1500,3000,5000,10000(共にデンカ製薬)、動物専用ゴナトロピン・3000,5000,10000(共に帝国臓器製薬)、コリホルモン6000単位および10,000単位(共に日本全薬工業)、動物専用プベローゲン1,500単位、3,000単位、5,000単位および10,000単位(共に三共)を挙げることができるが、これらに限定されない。また、製剤化された性腺刺激ホルモン放出ホルモンは現在のところ存在しないが、該ホルモンのアミノ酸配列については既に明らかにされている(A.V. Schally, Aspects of hypothalamic regulation of the pituitary gland, Science, 202,18-28,1978)ので、例えばその配列を元に当業者に公知の手法を用いて該ホルモンを合成することにより、該ホルモンを入手することができる。また、「(性腺刺激ホルモン放出ホルモンの)類縁物質」とは、天然型の性腺刺激ホルモン放出ホルモンアミノ酸構成の一部を他のアミノ酸に置換して合成された物質であって、投与後速やかに性腺刺激ホルモンの放出を起こさせるものを意味し、具体的には、例えばアポックス(三共)、エストマール注(塩野義)、コンセラール注射液(武田シェーリング・プラウ アニマルヘルス)、スポルネン・注(デンカ製薬)、ボンサーク注(第一製薬)を挙げることができるが、これらに限定されない。【0019】排卵を誘発するホルモン剤の投与は、前記の黄体退行作用を持つホルモン剤の場合と同様にして実施することができる。また、その投与のタイミングおよび量は、発育・成熟した卵胞を破裂・排卵させ、その後卵巣に悪影響を及ぼさない範囲内であれば特に限定されるものではなく、また豚の品種や体重等種々の要因に伴って変動し得るが、例えば前記の卵胞を発育させるホルモン剤投与の3日後にhCG 1,000〜1,500国際単位または酢酸フェリチレリン100〜200μg、酢酸ブセレリン4〜20μg、好ましくは3日後にhCG 1,500国際単位を1回投与する。【0020】尚、この排卵を誘発するホルモン剤は、前記の黄体退行作用を持つホルモン剤と同様に、単独で投与しても他の成分と組合わせて投与してもよい。この場合の他の成分としては、排卵を誘発するホルモン剤の排卵誘発作用を減じるものでなければ特に限定されないが、例えば生理食塩水、リン酸緩衝液、水が挙げられる。【0021】本発明の過排卵処理法を用いて過排卵を誘発した豚を交配することにより、発情周期を繰り返している豚を用いて多数の胚を効率的に回収することが可能となる。こうして得られた多数の胚には変性胚が少ないため、DNA注入や培養、胚移植、およびそれによるトランスジェニック豚の作出等に非常に適していると考えられる。【0022】【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。〔実施例1〕春機発動前の150日齢の若齢雌豚(交雑種)を4区に分けて、各区に以下の過排卵処理を施した。各区におけるホルモン処置スケジュールを図1に示す。また、プロスタグランジンF2α(PGF2α)処置のみを行った第5区については、8〜30ヶ月齢の性成熟未経産豚(純粋種および交雑種)を用いた。尚、投与量は全て処置豚1頭当たりの数値で示してある。【0023】第1区(妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG)処理)には、先ずPMSG(製品名;動物専用ピーメックス1,000単位、三共)1500IUを筋肉内投与し、その3日後にヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)(製品名;動物専用プベローゲン1,500単位、三共)1500IUを筋肉内投与した。さらにその28時間後に人工授精を行い、人工授精の24時間後に試験豚をと殺して、採卵を行った。左右それぞれの卵巣の黄体数を排卵数とし、また左右それぞれの卵管を還流して得られた胚の数を回収胚数とした。【0024】第2区(卵胞刺激ホルモン(FSH)処理)は、FSH(製品名;アントリン10、デンカ製薬) 2mgを1日2回、3日間連続して筋肉内注射し、4日目にhCG 1500IUを筋肉内投与した。さらにその28時間後に人工授精を行い、人工授精の24時間後にと殺して、採卵を行った。【0025】第3区(プロスタグランジンF2αおよび妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PGF2α+PMSG)処理)では、先ず最初にCG600(製品名:スイゴナン、インターベット インターナショナル社) 5mLを投与して発情・排卵を誘発した。その後14日目からPGF2α(製品名:パナセランHi、第一製薬)15mgを1日2回3日間連続して筋肉内に注射するとともに、3日目にPMSG 1500IUを筋肉内投与し、その3日後にhCG 1500IUを筋肉内投与した。さらにその28時間後に人工授精を行い、人工授精の24時間後にと殺して、採卵を行った。【0026】第4区(プロスタグランジンF2αおよび卵胞刺激ホルモン(PGF2α+FSH)処理)では、第3区と同様に、先ず最初にCG600 5mLを投与して発情・排卵を誘発した。その後14日目からPGF2α 15mgを1日2回3日間連続して筋肉内に注射するとともに、3日目から1日2回FSH 2mgを3日間連続して筋肉内注射し、4日目にhCG 1500IUを筋肉内投与した。さらにその28時間後に人工授精を行い、人工授精後24時間にと殺して、採卵を行った。【0027】第5区(プロスタグランジンF2α(PGF2α)処理)では、排卵後8日目からPGF2α 15mgを1日2回3日間連続して筋肉内に注射し、誘発された発情時に人工授精を行い、交配終了後5日目にと殺あるいは開腹手術により排卵数の計測と採卵とを行った。結果を下記表1に示す。【0028】【表1】【0029】表1に示す結果から、第3区のPGF2α+PMSG処置および第4区のPGF2α+FSH処置が排卵数および回収胚数の点で他の処置より優れていることが判明した。【0030】【発明の効果】本発明の方法により、発情周期を繰り返している豚においても過排卵処理を行うことが可能となる。【図面の簡単な説明】【図1】実施例1における若齢雌豚のホルモン処置スケジュール(第1区〜第4区)を示した図である。図中、「AI」は人工授精を示す。 発情周期を繰り返している豚にプロスタグランジンF2α、クロプロステノールナトリウム、エチプロストントロメタミン、クロプロステノール及びフェンプロスタレンから成る群より選択される黄体退行作用を持つホルモン剤を投与して黄体を退行させ、次いで該豚に妊馬血清性性腺刺激ホルモン及び/又は卵胞刺激ホルモンである卵胞を発育させるホルモン剤、並びに黄体形成ホルモン、ヒト繊毛性性腺刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン放出ホルモン、酢酸フェルチレリン及び酢酸ブセレリンから成る群より選択される排卵を誘発するホルモン剤を投与して過排卵を誘発することを特徴とする、発情周期を繰り返している豚における過排卵処理法。 上記黄体退行作用を持つホルモン剤がプロスタグランジンF2αであり、且つ排卵を誘発するホルモン剤がヒト繊毛性性腺刺激ホルモンである、請求項1記載の過排卵処理法。