タイトル: | 特許公報(B2)_TSEに誘発された組織変化を赤外分光法を用いて診断する方法 |
出願番号: | 2000620345 |
年次: | 2004 |
IPC分類: | 7,G01N21/35,G01N33/48,G01N33/483 |
ディーター・ナウマン ヤニナ・クナイプ エリーザベト・バルダウフ ペーター・ラッシュ ミヒャエル・ベーケス JP 3569231 特許公報(B2) 20040625 2000620345 20000503 TSEに誘発された組織変化を赤外分光法を用いて診断する方法 ロベルト−コッホ−インスティトゥート 501450328 Robert−Koch−Institut 青山 葆 100062144 田村 恭生 100068526 高山 裕貢 100103230 ディーター・ナウマン ヤニナ・クナイプ エリーザベト・バルダウフ ペーター・ラッシュ ミヒャエル・ベーケス DE 199 23 811.1 19990520 20040922 7 G01N21/35 G01N33/48 G01N33/483 JP G01N21/35 Z G01N33/48 M G01N33/48 Z G01N33/483 C 7 G01N21/00-21/61 JICSTファイル(JOIS) EUROPAT(QUESTEL) MEDLINE(STN) WPI/L(QUESTEL) 実用ファイル(PATOLIS) 特許ファイル(PATOLIS) 特表2002−508507(JP,A) 国際公開第99/31267(WO,A1) BIOCHEM.,1991年 8月 6日,VOL.30,NO.31,p7672-7680 FEMS MICROBIOLOGY LETTERS,1996年 7月17日,VOL.140,p233-239 10 DE2000001404 20000503 WO2000072007 20001130 2003500648 20030107 10 20020110 樋口 宗彦 【0001】本発明は動物またはヒト組織における伝達性海綿状脳症(TSE)に誘発される病理学的変化を、赤外分光法(IR分光法)を用いて即座に検出するための方法に関する。【0002】伝達性海綿状脳症は、多くの動物およびヒトに影響を及ぼし得る中枢神経系(CNS)の伝染性神経変性疾患である。本明細書ではTSEは、種々の種属に生じるTSEの様々な形態の疾患を網羅する用語として用いる。羊を起源とするが、ハムスターおよびマウスにも伝達し得る疾患であるスクレイピー(繋駕症(trotting disease))に加えて、その他のTSEとして、畜牛におけるウシ海綿状脳症(BSE)、ある種のアメリカジカおよびエルクにおける慢性消耗症(CWD)、ミンクにおける伝達性ミンク脳症(TME)、猫におけるネコ海綿状脳症(FSE)およびカモシカにおける海綿状脳症の5つの型が今のところ知られている。ヒトにおけるTSEは、クライツフェルト−ヤコブ病(CJD)、ゲルトマン−ストロイストラー−シャインカー症候群(GSS)、致死性家族性不眠症(FFI)およびクールーの4つの型に区別される。【0003】TSEは、a)神経膠症を伴う脳組織における特徴的な海綿状変化の組織学的証拠、b)ウェスタンブロット試験、組織染色(histo−blot)試験および免疫組織化学を用いた異常プリオンタンパク質(PrP)の蓄積についての免疫学的証拠、c)電子顕微鏡を用いたスクレイピーに関連する(PrP)原繊維(SAF)の証拠、およびd)動物における伝達実験を用いた感染性TSE因子の証拠に基づいて明確に診断し得る。【0004】動物並びにヒトにおける脳脊髄液および/または血清において、特定のタンパク質濃度が増加する臨床症状および化学実験の所見[ Protein 14−3−3 (Zerr et al. (1997) N. Engl. J. Med. 336: 874; Zerr et al. (1998) Ann. Neurol. 43: 32−40.), Protein S100 (Otto et al. (1997) J. Neurol. 244: 566−570; Otto et al. (1998) Brit. Med. J. 316: S77S82; Otto et al. (1998) J. Neurovirol. 4: 572−573)およびneuron−specific enolase (Zerr et al. (1995) Lancet 345: 1609−1610) ]では仮診断し得るのみである。同様のことがヒトTSEに関連して生じる、EEGまたはMR断層写真にて認められる変化について当てはまる。【0005】TSEの検出手法を開発、改良できれば、とりわけ以下の目的が達成される。 a)ヒトTSEについての鑑別診断の改良。この疾患は剖検または脳の生検により、いくらかの確実性をもって診断し得るだけである。b)血液、器官および組織並びにそれから作り出されたヒトまたは動物由来の製品におけるTSE汚染の検出。c)ヒトTSEに感染した血液、器官、組織の提供者の同定。d)屠殺場または農場における家畜(例えば、畜牛および羊)についてのTSE感染の臨床前または臨床段階の検出。TSE疾患は疾患を持つ動物の肉を食べることによって伝染し得るために、家畜についてTSE疾患を診断できることは重要である。例えば、BSEに汚染された牛肉を消費することが、ヒトにおける新異型CJD(nvCJD)の原因となるのではないかと考えられている。現在、幾つかの国では消費者を保護し、病気の蔓延を防ぐために畜牛群の汚染レベルについて公式な監視システムを導入している。屠殺場において、屠殺体が使い物になるか否かを明らかにするために、通常の(ルーチン)点検をしている思われる。【0006】異常プリオンタンパク質に対して感受的で、かつ大量の試料群から素早くスクリーニングすることができ、そして大量生産において診断することができる種々の試験系が開発されている。これには、蛍光標識ペプチドを用いるキャピラリー電気泳動免疫測定(Schmerr & Jenny (1998) Electrophoresis 19: 409−419) およびデルフィア(Delfia)と呼ばれる蛍光ランタニドキレート剤を用いる免疫検出系(Safar et, al. (1998) Nature Medicine 4. 1157−1165)が挙げられる。【0007】大規模な使用に適している唯一の診断方法が、TSEに感染した家畜を同定するのに現在利用されている。これは、屠殺場における利用に制限される、また開発者の記述によると、畜牛のBSEを検出することができるのは臨床症状が表れる前の半年までである。(インターネット http://www.prionics.chにおける生産者情報(the manufacturer’s information)を参照)。【0008】スイスに拠点のあるプリオニクス AG(Prionics AG)によって開発されたこの方法は、屠殺した畜牛の延髄から得られた組織試料を均質化(ホモジナイズ)し、プロテイナーゼK酵素を用いて処理する。この処理の後に残っているはずの異常プリオンタンパク質を6H4モノクローナル抗体(プリオニクス製)を用いて標識化した後、ウェスタンブロット法を用いて染色する。この製品には、この方法を用いることで試料を得てから最終的な結果を得るまでは12時間以内であると記載されている。【0009】本発明の目的はTSEに誘導された組織変化を素早く、確実に、そして費用効率よく検出する方法の開発である。本発明の方法は、屠殺場における通常操作を効率的に行なわせる。従って、本発明の課題は組織におけるTSEに誘発される病理学的変化を検出するための方法を提供することにある。当該変化はスクレイピー、BSEまたはその他のTSE疾患によって生じ得る。この課題は(a)TSEによって生じた病理学的変化を伴う組織試料に赤外線を当て、照射後のスペクトル特性を記録すること、および(b)このようにして得た赤外線スペクトルを、TSEの感染した組織および非感染組織の赤外線スペクトルを含む参考データベースと比較し、分類することによる本発明方法によって解決される。本発明の態様を引用形式請求項に記載する。【0010】本発明に用いる方法は主に、病理学的に変化した組織の赤外線スペクトル測定に基づく。疾患に特有の変化が組織の赤外線スペクトルに影響し得ることは、多くの文献および特許出願によって知られている(米国特許 5, 168, 162 (Wong & Rigas; 米国特許 5, 038, 039; Wong, Rigas; Lasch & Naumann (1998) Cell. Mol. Biol. 44: 189−202; Lasch et al. (1998) Proc. SPIE 3257: 187−198; Choo et. al. (1996) Biophys. J. 71: 1672−1679)。しかし、TSE組織試料に対して行なった赤外線スペクトルについてのデータは発表されていない。【0011】本明細書が基礎とする実験データは、モデル系としてスクレイピーを感染させたハムスターのCNS試料を用いて展開した。ハムスターにスクレイピーを感染させた後に、CNS組織試料の赤外線スペクトルに特徴的な変化が現れることがこの動物モデルにおいて見出された。この変化は本発明の方法を用いること、即ち非感染健常動物から得られた試料をそれぞれ比較することで同定された。基本的に、本方法は任意のTSE疾患群の臨床像を診断するのに利用できる。本発明の方法に従い、赤外線スペクトルを用いるTSE診断は、参照するための由来の分かっている組織のスペクトルと検査する組織のスペクトルとを比較することが必要である。従って、本方法の実用化には健康な組織試料および異常な組織試料から得られたIRスペクトルの信頼のおける参考データベースの存在が必要である。この参考データベースは、標準化された診断方法を行なうためなら一度しか作る必要がない。【0012】未知の試料から得られたスペクトルと参考データベースとのマッチングは、コンピューターによるパターン認識法、例えば多変量統計、人工神経ネットワーク、遺伝的アルゴリズムなどを用いて行なうことができる。【0013】このスペクトルは試料に赤外光を当て、現れる輻射のスペクトル特性を記録することで得られる、即ち赤外光が組織と相互作用した後に得られる。試料の大きさを最小にすることを望む場合は、顕微分光メーター法(microspectrometric technique)の利用が有利である。赤外線顕微鏡を利用する場合は、薄切りの組織から位置解析についてスペクトルデータを得ることができるため、本方法はかなり特異的でかつ感度がよくなる。今後の改良については、赤外線可視導波管(infrared optical waveguide)を内視鏡として用いることができるなら、感染した生物を直接TSE診断することが容易になる。【0014】図1に本方法の典型的なフローチャートを示す。組織においてTSEに誘発される変化を検出するこの新しい方法は、試料を得てから1分以内に使用者が結果を知らせることができる。このことは、わずか12時間後までに結果を得ることができるプリオンタンパク質の免疫学的検出および免疫組織学的診断に対して本方法を優位にしている。従って、通常操作に本発明の方法を用いた場合には、試験結果を待つのに屠殺体を中間貯蔵する必要は事実上ない。この診断方法の素早さは屠殺体の貯蔵時間を最小限にし、屠殺体を冷凍保存するのに必要な場所およびエネルギー費を最小限にすることができるため、既知の方法と比較して経済的に有利である。加えて、最終消費の段階において肉がより新鮮になる。【0015】本方法は、スペクトルを記録し、処理し、そして分類する過程を完全にコンピューターにより制御し、容易に自動化できるため容易に通常(ルーチン)過程に組み入れることができる。試料調製の比較的簡単な処理過程にスタッフがわずかに必要ではあるが、他の方法とは異なり、多大な労力(例えば、プロテイナーゼK消化によるプリオンタンパク質の濃縮)または(免疫組織学的方法による)薄切りの組織の染色などの試料の前処理は必要ではない。【0016】本発明の方法は高度に特殊化した専門家(例えば、組織学者)を必要とせず、TSE診断を最適化するのに一般に知られた方法であるコンピューターによるパターン認識法を用いて、IRスペクトルを分類することで行なうことができる。このスペクトルは厳格な数学的基準に従って評価されるために、実験から推定する必要がなく、ヒトの判断ミスを回避できるので診断の信頼性は高い。【0017】本発明の方法は実施する際には適当なスタッフが必要であるが、材料費が事実上必要ではないために経済的に妥当な設計である。【0018】位置解析について薄切りの組織を分析する特異的IR顕微鏡法の態様における本発明の方法の利点は、スペクトル解析における構造情報と本方法から得られる高位置解析とが組み合わせられることである。病因における個々の神経の関与は、IR顕微鏡が提供し得るマッピングを用いて記録し、研究することができる。本発明方法の診断感度が非常に高いのは、病気の細胞および健康な細胞の特徴が実際上平均化しないからである、このことはマッピングの相関性を提示しない方法には当然に起こるのであるが。本方法のこの態様はデータ収集のために比較的多くの時間をまだ必要とし、検査し位置解析する組織領域の大きさに応じて1〜6時間かかるかもしれなかった。しかし、本方法は未だに理解されていないTSEの発病機構の化学的研究および臨床研究に広く利用されるだろう。今後、この態様は種々の製造業者によって開発されている、いわゆる多数(array)赤外線探知機と組み合わせることで、位置解析について薄切り領域を完全に、そして大変短時間にIRスペクトル測定することができるようになり、最終的にはこの方法が通常診断を素早くするのに適することになるだろう。【0019】本発明の方法は、始めに死後の生物から組織試料を得ることが必要である。試料は動物およびヒト生体から獲得し得る。【0020】本方法は、用語「伝達性海綿状脳症(TSE)」、例えばBSE、スクレイピーまたはCJDによって表されるそれぞれ特定の臨床型を検出するのに適している。【0021】TSEに誘導された病理学的変化の認められる組織の全ては、組織試料を収集する部位として用いることができる。今日我々が知る限りでは、影響を受ける組織としては中枢神経系、末梢神経系、リンパ系、消化器系、内分泌系、循環系および呼吸器系の器官がある。収集する部位として好ましいのは中枢神経系および末梢神経系であり、特に都合が良いのは延髄およびバロリアン脳橋(Varolian pons)である。本発明方法が実施する特有の方法に応じて組織試料を調製する。【0022】十分に水分補給させた組織試料を分析するための小さな組織片を収集する。ネガティブ試料を工業用のIRキュベットに入れる。もう1つの方法としては、H2Oにおける組織原料を均質化し、部分標本をIRキュベットに移す。本方法の変法としては、この懸濁液の部分標本をIR伝達試料ホルダー上で透明フィルムのように乾燥させる;この乾燥過程は減圧することで促進される(Helm et al. (1991) J. Gen. Microbiol. 137: 69−79)。【0023】局在的な特定のマッピングデータを集めるために、IR顕微鏡測定する配置において、本方法を行なうために凍結切片を作成する。これをIRの透明顕微鏡スライドに均一にのせる。本方法は薄切りの組織を固定する必要は全くない。この試料は測定するまで室温の乾燥した場所で保存する。【0024】赤外線導波管を用いる他の態様において、最小侵入技術(minimal invasion technique)を用いて組織内に線導波管を導入し、組織から直接、赤外線スペクトルを収集することにより、この方法をインビボに適用することができる。この態様は、現在利用されている導波管では、まだスペクトル感度が低く、柔軟性がなく、そして大きすぎるので、赤外線導波管技術を改良し、実用的にすることが必要である。既述の調製の変法についてキュベット、または試料ホルダー/スライドに適した原料は、従来からIR分光法に用いられる水に不溶性の光学用資材であって、その中でもCaF2およびBaF2が特に有用であることが分かった。【0025】IRスペクトルに必要とされる物質の量およびその表面範囲は非常に狭くすることができる。条件設定(例えば、焦点を合わせるビームを用いる若しくは用いない、またはIR顕微鏡を使用する分光法)に応じて、試料の大きさはμg〜ngの範囲で使用することができる。照射する試料領域の直径は、1〜3mmから10〜30mmの間で変更できる。大きさの下限値は、およそ1個または数個の細胞(例えば、神経細胞)である。【0026】本発明の方法に基づき、記載した様式で調製した組織試料の赤外線スペクトルを測定する。従来の分散装置と比較して素早くデータを収集でき、感度が高いことを含めて利点の多いことが知られているフーリエ変換赤外線分光計を用いて、スペクトルを得ることが好ましい。一般的に従来の分散IR分光計を用いることもできるが、それでは本方法が減速することとなるだろう。基本的に、一般に知られているIR分光分析装置(例えば、透過/吸収、全反射減衰、直接または拡散反射)のそれぞれを、このスペクトル測定に用いることができる。透過/吸収分光法が特に有用であることが証明された。【0027】赤外線スペクトルは一般に中赤外線スペクトル領域、即ち500〜4000cm−1において得られる。感染した組織試料および健康な組織試料のスペクトルが記録したスペクトル領域において特徴的な変化を示すと、使用者が確認した場合でも近赤外線範囲4000〜10000cm−1内の狭いスペクトル領域でさえ診断を成功させ得る。1000〜1300cm−1の範囲においてTSE感染組織と非感染組織との間に特に際立ったスペクトル差が検出され、この範囲が診断にとりわけ好ましいことが分かった。【0028】1つまたはいくつかの好ましいスペクトル領域は、スペクトルの外観検査(対象群と比較して、強く、そして最も特徴的な変化を示す領域を選択すること)またはスペクトル特性を選択するのに一般に知られた多変量法によって選択することができる。【0029】物理的パラメーター、例えばスペクトル分解または多数のスペクトル平均などは分類または診断の成功に重大な影響を実際に与えることなく、IR分光法における典型的な範囲内で変更し得る。スペクトルの取得および試料の調製についてのパラメータを決定する場合、非感染動物由来の組織試料の対象測定を含め、全ての測定に対して同一のパラメーターが選択されなければならない。【0030】スペクトル条件はスペクトル分類における選択された数学的な統計方法が何であるかに関係無く有利であることを証明した。ここで用い得る一般に知られた方法には一次または二次微分の計算、デコンヴォルーション、またはその他スペクトルの明暗を増加させ、バンドの認識を容易にし、そして生じ得る基準問題を最小限にする方法が挙げられる。サンプル群を大きくする場合は、因子分析などの多変量統計法を使用することが重要なデータ整理の助けとなることが分かった。【0031】本方法は先に参考スペクトルのデータベースを作成することが必要である。TSEに感染した生体および非感染個体由来の試料のスペクトルを測定する。試料を調製し、未知試料を用いるのと同じ方法でスペクトルを得る。参考および試料の測定に対するパラメーターが全て同一であることが重要である。【0032】試験する試料のスペクトルと参考データベースに保存されたスペクトルとを比較する。スペクトルはパターン認識法、例えば多変量統計アルゴリズム、人工神経ネットワークまたは遺伝的アルゴリズムなどを用いて分類されることが好ましい。この段階では、健康またはTSE感染のような2つのクラス問題に基づいてスペクトルを分類する。【0033】本方法を位置解析に用いる場合には、試料(顕微鏡のスライドに適する薄切りの組織)を赤外線顕微鏡のビームパスに置く。赤外線分光処理における透過または反射によって、スペクトルを得ることができる。赤外線スペクトルは種々の組織領域から得られる。位置解析は測定する位置間の増分(インクリメント)により決定され得る。規定された増分を伴う自由に選択できる格子に基づき、自動スペクトル測定を容易にするコンピューターに制御されたX−Yステージを用いることは大変便利である。このX−YステージはIR顕微鏡分野の標準的な付属物である。【0034】位置解析(マッピング)における測定結果は、連続赤外線スペクトルにおけるそれぞれのスペクトルが薄切りの組織の虚像格子の画素を表す。このようにして、薄切りの組織の選択された領域を完全に網羅するIRデータが得られる。組織におけるTSEの広がりについての特有の位置情報は、それぞれのマッピング記録と参照データベースとを比較した後に、健康または感染のように分類することで支持される。本発明の方法を用いた赤外線スペクトルにおける疾患に特有の変形に基づき、スクレイピーに感染したハムスターから得られたCNS試料を、健康な対象動物から得られた試料と区別し得る方法を、以下の実施例において例示する。【0035】実施例1成体のシリアンハムスター(Mesocricetus auratus)の雌にスクレイピー株263K(Dr. Richard Kimberlinから提供された)を大脳内および腹膜内に感染させた。この疾患の終末期(感染後70〜120日目)において、この動物の脳(S)および適合する非感染対象動物の脳を死後に取り出した;比較するための対応する組みの年齢は近似している。CaF2窓付きの、光路長8μm(層の厚み)のFTIRキュベットにありのままに切除した延髄およびバロリアン脳橋の小片(μg量規模)を入れた。FTIR分光計(スペクトル分解:4cm−1、アポディゼーション:ハップ−ジェンゼル(Happ−Genzel)、走査数:126、ゼロ充填:4)を用いて、この試料の赤外線スペクトルを透過/吸収について測定した。S−およびN−組織試料の2つの典型的なスペクトルを図2に示す、1300〜1000cm−1のスペクトル領域に観察され得る差は特に際立っている。バンドを良好に視覚化するため2次微分を表し、バンドピークを極小値として示す。【0036】実施例2実施例1に記載の態様の変法として、実施例1のようにして得られた10個のS−サンプルおよび10個のN−サンプルを水中にてホモジナイズした(組織原料1mg当たり水10μl)。懸濁液35μlを微生物試料の測定にも適しているZnSe製のPC制御多数試料ホルダーに適用し(Helm et al. (1991) J. Gen. Microbiol. 137: 69−79; Heim et al. (1991) J. Microbiol. Meth. 14: 127−142; Neumann (1998) Proc. SPIE 3257: 245−257)、文献に記載するように乾燥させた。このようにして、得られたフィルムの赤外線透過スペクトルを測定し、1100〜1000cm−1のスペクトル領域におけるスペクトルの二次微分に基づいて階層的に分類した。ワードの(Ward’s)アルゴリズムを用いて計算したこのスペクトル分類の系統樹を図3に示す。感染させた動物(S−3からS−10)のスペクトルは、健康な動物(N−1からN−10)のスペクトルと完全に同定し得る。【0037】実施例3実施例1および2に記載の態様の変法として、既述のN−およびS−動物から得られたCNS試料の凍結切片を作り、一般に知られているFTIRマッピング法(Diem et al. (1999) Appl. Spectroscopy 53: 148A−160A; Lasch & Neumann (1998) Cell. Mol. Biol. 44; 189−202; Choo et al. (1996) Biophys. J. 71: 1672−1679)および赤外線映像法(Lasch & Neumann (1998) Cell. Mol. Biol. 44: 189−202: Lasch et al. (1998) Proc. SPIE 3257: 187−198)を用いて測定し、特徴づけした。60μmの開口を通じてインクリメント50μmにおいて1.5mm×1.5mm領域のスペクトルを得た。はじめに、種々の脳構造に対する典型的なスペクトルを区別するために、S−およびN−試料から得られたスペクトルを階層的に別々に分類した。図4Aは、1450と950cm−1の間における主要素の3つに基づいて主要素分析を行ない(およそ500点のデータ)、データ圧縮をした後に計算した系統樹を示す。細胞学的に定義された4つの脳構造:分子層、神経節細胞層、顆粒細胞層、白質物質に、主な4つの分類を割り当てることができる。加えて、小脳内の特定の構造に対応する9つのスペクトル分類(1〜9の番号をつける)に分けた。図4Aは930スペクトルを含む3番目のスペクトルのマッピング記録を、より鮮明にするためにそれぞれ示すだけである。続いて、N−およびS−試料の相当するスペクトル分類のスペクトル(例えば、分子層スペクトルの分類2−小脳の灰白質)を比較した。図4Bの上部(a)では、スクレイピーに感染した動物由来の試料スペクトル(破線)と健康な動物由来の試料スペクトル(実線)の標準ベクトル2次微分とを比較する。下部はそれぞれの組織構造について、a)のS−およびN−スペクトルの標準ベクトルの差スペクトルを示す。この比較に用いられたスペクトルは全て図4A)のスペクトル分類Aのスペクトルの平均である。これらは小脳層の名前およびスペクトル分類の数によって同定される。それぞれの組織分類に観察される特徴的なスペクトル差は、疾患に関連する病理過程を確実に診断するのに適している。 組織におけるTSEに誘導された病理学的変化を診断する方法であって、該変化がスクレイピー、BSEまたは他のTSE疾患群の疾患によって引き起こされ、(a)TSEが原因の病理学的変化を示す組織試料に赤外線を照射し、試料と相互作用した後のスペクトル特性を記録する、そして(b)このようにして得られた赤外線スペクトルを、TSEに感染した組織および非感染組織の赤外線スペクトルを含む参考データベースと比較し、分類することを特徴とする診断方法。 該組織試料が中枢神経系、末梢神経系、またはリンパ系、消化器系、内分泌系、循環系若しくは呼吸器系の器官から採取された組織試料であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。 組織の該赤外線スペクトルが中赤外線領域500〜4000cm−1または近赤外線領域4000〜10000cm−1、あるいは両方の領域の1つまたは幾つかの領域において測定されることを特徴とする、請求項1および2のいずれかに記載の方法。 組織の該赤外線スペクトルが中赤外線領域1000〜1300cm−1のスペクトル領域において測定されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。 該赤外線スペクトルが該試料と相互作用し、特徴的に変化した輻射を透過/吸収、全反射減衰、直接または拡散反射の測定器具において、あるいはIR導波管を用いることによって検出することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。 試験した試料の該赤外線スペクトルを1つまたは幾つかのパターン認識法、好ましくは多変量統計アルゴリズムまたは人工神経ネットワークを用いて参考データベースと比較し、最適なスペクトル特性を抜き出す方法、例えば遺伝的アルゴリズムを用いて当該比較が基づくスペクトル認識を決定することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。 該赤外線スペクトルが、透過または直接反射分光分析のためのIR顕微鏡を用いて薄切りの組織について測定されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。 該赤外線スペクトルが位置解析において測定されること、即ち赤外線ビームが試料を透過する組織部位についてマッピングすることを特徴とする、請求項7に記載の方法。 マッピングした赤外線スペクトルのそれぞれと参考データベースとを比較することで、組織における疾患の広がりについての局在的な情報を得ることを特徴とする、請求項7および8のいずれかに記載の方法。 該参考データベースが、赤外分光法を用いて組織の区域を同定することができるTSEに感染した組織および非感染組織の全構造についての参考スペクトルを含むことを特徴とする、請求項7〜9のいずれかに記載の方法。