タイトル: | 特許公報(B2)_エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体、その製造法およびその用途 |
出願番号: | 2000392342 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C07C 229/76,C07C 227/18,C07F 7/22,G03C 7/42 |
青木 雅裕 原 靖 JP 4742419 特許公報(B2) 20110520 2000392342 20001225 エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体、その製造法およびその用途 東ソー株式会社 000003300 青木 雅裕 原 靖 20110810 C07C 229/76 20060101AFI20110721BHJP C07C 227/18 20060101ALI20110721BHJP C07F 7/22 20060101ALI20110721BHJP G03C 7/42 20060101ALI20110721BHJP JPC07C229/76C07C227/18C07F7/22 UG03C7/42 C07C 229/76 C07C 227/18 C07F 7/22 G03C 7/42 CA/REGISTRY(STN) 特開平11−084608(JP,A) 特開平07−064260(JP,A) 特開平06−067370(JP,A) 特開平05−072695(JP,A) 特開平11−109572(JP,A) 5 2002193904 20020710 8 20071114 坂崎 恵美子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、写真用薬剤として好適に用いられるエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体に関する。【0002】【従来の技術】錫(II)化合物を含有するキレート剤は写真用薬剤、特にカラーリバーサルフイルムの反転浴用処理剤として使用されてきた。従来、錫(II)化合物を含有するキレート剤としては、例えば有機ホスホン酸塩をキレート剤とした米国特許第3617282号明細書や、アミノポリカルボン酸塩を用いた英国特許第1209050号明細書、ホスホノカルボン酸塩を用いた特公昭56−32616号公報記載の化合物をはじめとして数多くの提案がなされている。【0003】しかし、これらの錫(II)イオンを有するキレート剤は環境中に放出された場合、富栄養化を招いたり、微生物による生分解性に乏しい等の問題があることからこれらのキレート剤に代わる生分解性を有するキレート剤の開発が強く求められていた。【0004】そこで、特開平11−84608号公報にはエチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸錫(II)錯体が提案されている。しかしエチレンジアミン−N,N’−ジコハク酸のキレート能力が低いため錫錯体の安定性は十分なものではなかった。また、特開平7−64260号公報には生分解性を有する写真用薬剤として、キレート能力の強いエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸の鉄(III)錯体が開示されている。しかし、エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸は強いキレート能力を有するものの、製造法に難点があり、このため従来は高純度のエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸を工業的に製造することが極めて困難であった。【0005】【発明が解決しようとする課題】上記の様に、従来提案されてきたキレート剤の錫錯体は、生分解性がない、錯体が不安定である、製造できなかったなどの問題があり、工業的に大量に使用するには難点があった。【0006】本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来提案されていた写真用薬剤として使用されていたキレート剤の錫(II)錯体が環境にかけていた負荷を軽減すると共に、安定性が高く、生分解性を有するエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体、この錯体を容易に製造する方法及びこれを用いた写真用薬剤を提供することにある。【0007】【課題を解決するための手段】本発明者らは、キレート剤の錫錯体について鋭意検討した結果、新規な化合物であるエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体をエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸から容易に製造できるという新規な事実を見出し、本発明を完成させるに至った。【0008】すなわち、本発明は、下記一般式(1)で示されるエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体、エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸のアルカリ金属塩を錫または錫化合物と水性媒体中で反応させることを特徴とするエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体の製造法およびエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体を有効成分として含有する写真用薬剤である。【0009】【化3】以下に本発明をさらに詳細に説明する。【0010】本発明のエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体は上記一般式(1)で示される化合物であり、その水和物も含まれる。なお上記一般式(1)は単に組成を示したにすぎず、構造を示したものではない。エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸1分子が錫イオン1個とキレートしている場合もあるし、複数のエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸が錫イオン1個にキレートしている場合もある。通常、これらの一方だけが存在しているということは少なく、平衡でどちらの構造も存在していることもある。【0011】本発明のエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体はエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸のアルカリ金属塩を錫及び/又は錫化合物と水性媒体中で反応させることで製造できる。【0012】本発明の方法において、エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸は下記一般式(2)で示される化合物である。【0013】【化4】(式中、M1〜M4は、各々独立して水素原子又はアルカリ金属イオンでありかつ少なくとも1つはアルカリ金属イオンである。)ここで、一般式(2)中ので示されるM1〜M4は、各々独立して水素原子、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンであり、これらの内のいずれを使用しても差し支えないが、M1〜M4を全て水素原子にした場合は安定的に存在できないためすべてが水素原子である場合は除かれ、すなわちM1〜M4の内の少なくとも1つはアルカリ金属イオンである。また、M1〜M4に用いられるアルカリ金属イオンとしては、安価なナトリウムイオン、カリウムイオンを使用することが好ましく、工業的には特にナトリウムイオンを使用することが好ましい。【0014】本反応に用いられるエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸は公知の方法で合成することができ、例えばエチレンジアミンとハロゲン化マロン酸エステルをアルカリ金属の存在下、反応とエステル加水分解を同時に行なうことによって合成することができる。【0015】また、本発明の方法において使用される錫成分の原料としては、錫や任意の錫(II)化合物を用いることができる。錫(II)化合物としては、具体的には水溶性の錫(II)塩が好ましく、塩化錫(II)、臭化錫(II)、沃化錫(II)及びこれらのハロゲン化錫の2水塩、硝酸錫(II)、硫酸錫(II)及びこれらの2水塩、酢酸錫(II)、クエン酸錫(II)が好ましく、とりわけ塩化錫(II)、臭化錫(II)、硝酸錫(II)、硫酸錫(II)が好ましい。【0016】本発明の方法において、エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸のアルカリ金属塩と錫及び/又は錫化合物との反応は、加熱してもよいし、反応液が固結しない程度の低温、または室温で行ってもよい。【0017】本発明の方法において使用される錫、錫化合物の量は使用方法によって異なるために一概には言えないが、エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸のアルカリ金属塩に対して0.1〜2倍モル、さらに0.2〜2倍モルの範囲で行なうことが好ましい。これは錫や錫化合物が0.1倍モル未満を添加した場合、錯体を形成していないエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸が酸性条件下で分解することになり、また2倍モルを超えて添加してもその効果は小さいからである。【0018】本発明の方法において、エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体を製造する場合について言及すると、添加方法は特に限定されないが、エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸のアルカリ水溶液中に錫及び/又は錫化合物の水溶液を滴下してもよいし、錫及び/又は錫化合物の水溶液中にエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸のアルカリ水溶液を滴下してもよいし、同時に滴下することもできる。【0019】本発明の方法において、エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸のアルカリ水溶液に加えられる錫及び/又は錫化合物の水溶液については、錫(II)塩の溶解性を向上させるために錫(II)塩の酸性水溶液を用いることもできる。【0020】本発明のエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体は、酸性条件にすることによって結晶化し精製することが肝要である。この際に用いられる酸としては特に限定するものではないが、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の鉱酸や酢酸、シュウ酸等の有機酸を用いることができる。この場合の酸性条件としては、好ましくはpH4.5以下、さらにpH3.0以下にすることが好ましい。【0021】本発明の方法において、得られたエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体は写真用薬剤として使用することができる。写真用薬剤としては、エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体だけを使用してもよいし、アンモニアやナトリウム、カリウム等のアルカリ金属を併用して使用することもでき、また写真用薬剤として特開平11−84608号公報等で公知の一般的に使用されている他の剤と併用してもよい。【0022】例えば、具体的に写真用薬剤としての使用例としては、本発明のエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体はカラーリバーサルフィルムの反転浴用処理剤組成物として使用される。【0023】このカラーリバーサルフィルムの反転処理について説明すると、第1工程:黒白現像第2工程:水洗及び/又はリンス処理第3工程:反転処理第4工程:発色現像処理第5工程:脱銀処理第6工程:水洗及び/又は安定化処理によって構成される。【0024】まず第1工程として黒白現像が行なわれる。この際に用いられる現像主薬としては従来知られている現像主薬(ジヒドロキシベンゼン類、3−ピラゾリドン類、アミノフェノール類、アスコルビン酸及びその異性体や誘導体等)を単独もしくは組合わせて用いることができる。この黒白現像液には必要により保恒剤(亜硫酸塩や重亜硫酸塩)、pHを維持するための緩衝剤(炭酸塩、ホウ酸塩5−スルホサリチル酸塩等)、現像促進剤としてのハロゲン化銀溶剤(4級アミン類、ポリエチレンオキサイド類等)、現像カブリを防止する目的で金属ハロゲン化物(塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、沃化カリウム)等のかぶり防止剤、膨潤抑制剤(硫酸ナトリウム硫酸カリウム等の無機塩)、硬水軟化剤(エチレンジアミン四酢酸、ニトリロトリ酢酸等)を添加する。【0025】第2工程では必要に応じて水洗及び/又はリンス処理が行なわれる。【0026】第3工程では反転浴処理が行なわれる。反転浴工程には本発明のエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体が用いられる。この反転浴のpHは酸性側からアルカリ性側まで広い範囲に亘ってよく、pH2〜12の範囲で使用できる。反転浴のエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体濃度は1×10-3〜1×10-2mol/リットルである。【0027】第4工程では発色現像処理が行なわれる。一般的なカラー現像処理に用いられる発色現像液は芳香族第一級アミン系の発色現像主薬を主成分とするアルカリ性溶液である。その際にpHを維持するため上記第1工程に記載した緩衝剤、さらに必要に応じての現像促進剤(ピリジニウム化合物やカチオニック化合物等)、カブリ防止剤(塩化ナトリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物及びベンゾトリアゾール等の有機カブリ防止剤)、保恒剤(ヒドロキシルアミン類、亜硫酸塩)を併用してもよい。【0028】第5工程では脱銀処理をが行なわれる。脱銀処理工程は一般的に漂白−定着工程からなり、その際に用いられる漂白剤としては一般的にアミノポリカルボン酸鉄(III)錯体(エチレンジアミンテトラ酢酸やジエチレントリアミンペンタ酢酸、イミノジ酢酸エチレンジアミンジコハク酸、エチレンジアミンジマロン酸等の鉄(III)錯体)が用いられている。さらに、漂白液中に漂白定着促進剤(例えば米国特許第3893858号明細書、同138842号明細書に記載のメルカプト化合物、特開昭53−95630号公報記載のジスルフィド結合を有する化合物等)臭化物(例えば臭化カリウム、臭化ナトリウム等)、定着剤(チオ硫酸塩、チオシアン酸塩等のハロゲン化銀溶解剤)を添加することができる。【0029】第6工程では水洗及び/又は安定化処理が行なわれる。【0030】【発明の効果】本発明によれば、以下の効果を奏する。【0031】1)本発明のエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体は、環境問題が生じないほどの生分解性を有し、安定性が高い。2)本発明の製造法によれば、エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体を、高純度で高収率に得ることができる。【0032】3)本発明の剤は、キレート能が高く、さらに生分解性も極めて高いため、写真用薬剤として優れた性能を有している。【0033】【実施例】以下、本発明を実施例にて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。【0034】製造例1エチレンジアミン0.8g、水酸化ナトリウム3.5g、水15.0gを入れたガラス製ナス型フラスコに攪拌、氷冷下、臭化マロン酸ジエチル6.4gを約1時間かけて滴下した。滴下終了時のpHは12.8であった。この反応液に希塩酸を加えpH3.0にしたところ白色の結晶が析出した。この結晶に水酸化ナトリウムを加え、再度水に溶解し、希塩酸を加えpH3.0にしたところ純度97%の結晶が得られた。この結晶に水酸化ナトリウムを加えて、水に溶解させた後、メタノールを加えると、白色の四ナトリウム塩結晶が析出した。この四ナトリウム塩結晶の純度は99.6%で、収率は75.2%であった。【0035】実施例1製造例1で得られたエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸−4ナトリウム塩2.0g(5.7mmol)を水に溶解し、エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸−ナトリウム塩水溶液とした。これに塩化錫(II)1.3g(6.8mmol)の塩酸水溶液を滴下した。滴下終了時のpHは0.9で、白色のエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体が析出した。この析出したエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体をろ別し、減圧下、水を除去することにより1.5g、収率59.9%でエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体を得た。このエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体を高速液体クロマトグラフィーで測定したところ純度は100%であった。この結晶を元素分析したところ錫(II)イオン1モルに対してエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸が2モル結合したエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体が生成しており、ナトリウムイオンは検出されなかった。一般式(1)で表されるエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体IR:C=O(1684.6cm-2)この錯体の元素分析結果を表1に記す。【0036】【表1】さらに、このエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体をOECDテストガイドライン301C修正MITI法に準じて生分解性試験を実施した。すなわち、このエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体を100mg/lの濃度にし、これに30mg/lの活性汚泥を添加し、25℃で四週間生分解性試験を実施した。その結果、エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体の65%が分解された。【0037】実施例2塩化錫(II)1.3g(6.8mmol)を水に溶解し水溶液とした。これに製造例1で得られたエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸の4ナトリウム塩2.0g(5.7mmol)を水に溶解したエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸4ナトリウム塩水溶液を滴下した。滴下終了時のpHは5.8であった。このエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体水溶液に1規定の塩酸をpH3.0まで添加したところ白色のエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体が析出した。この析出したエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体をろ別し、減圧下、水を除去することにより1.7g、収率67.9%でエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体を得た。このエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体を高速液体クロマトグラフィーで測定したところ純度は100%であった。【0038】実施例3実施例1で得られたエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体を水と混合し、この混合液中にアンモニア水を滴下した。エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体と当モルのアンモニア水を滴下することでエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体は溶解しエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)アンモニウム塩水溶液とした。この溶液から水を留去することでエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)アンモニウム塩を得た。以下に元素分析の結果を表2示す。【0039】【表2】 下記一般式(1)で示されるエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体。 エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸のアルカリ金属塩を錫及び/又は錫化合物と水性媒体中で反応させた後、該反応生成物を酸性化することを特徴とする請求項1に記載のエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体の製造法。 錫及び/又は錫化合物の量をエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸のアルカリ金属塩に対して0.5〜2倍モルとすることを特徴とする請求項2に記載のエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体の製造法。 エチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸が下記一般式(2)で示される化合物であることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体の製造法。(式中、M1〜M4は、各々独立して水素原子又はアルカリ金属イオンでありかつ少なくとも1つはアルカリ金属イオンである。) 請求項1に記載のエチレンジアミン−N,N’−ジマロン酸錫(II)錯体を有効成分として含有する写真用薬剤。