タイトル: | 特許公報(B2)_Na+駆動型Cl−/HCO3−エクスチェンジャー |
出願番号: | 2000342911 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C12N 15/09,C07K 14/47,C07K 16/18,C12N 5/10,C12Q 1/02,C12P 21/08 |
清野 進 矢野 秀樹 王 長征 JP 4673968 特許公報(B2) 20110128 2000342911 20001110 Na+駆動型Cl−/HCO3−エクスチェンジャー 清野 進 595145094 日本ケミカルリサーチ株式会社 000228545 早坂 巧 100104639 清野 進 矢野 秀樹 王 長征 JP 2000241775 20000809 20110420 C12N 15/09 20060101AFI20110331BHJP C07K 14/47 20060101ALI20110331BHJP C07K 16/18 20060101ALI20110331BHJP C12N 5/10 20060101ALI20110331BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20110331BHJP C12P 21/08 20060101ALN20110331BHJP JPC12N15/00 AC07K14/47C07K16/18C12N5/00 102C12Q1/02C12P21/08 C12N 15/ JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq UniProt/GeneSeq PubMed 12 2002119290 20020423 54 20071025 小暮 道明 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、細胞内pHの制御に関与するタンパク質の一つであるNa+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーであるマウスタンパク質に関する。より詳しくは、本発明は、Na+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャータンパク質、該タンパク質を発現させた異種細胞、該タンパク質をコードするDNA、該タンパク質に対する抗体、及びNa+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーに対するアゴニスト及びアンタゴニストを選別するための方法に関する。【0002】【従来の技術】種々の刺激に対応した細胞内pH(pHi)の制御は、多くの細胞機能において極めて重要なものである。重炭酸イオン輸送体のあるファミリーは、動物細胞内において生理的条件下での主要な細胞内pHレギュレーターである。重炭酸イオン(HCO3-)輸送体は、機能的に4つのグループに分けられる [Boron, W.F. et al., J. Exp. Biol., 200:263-268(1997)]。すなわち、Na+非依存性Cl-/HCO3-エクスチェンジャー(アニオンエクスチェンジャー(AE)とも呼ばれる)、Na+−HCO3-共輸送体(NBC)、K+−HCO3-共輸送体、及びNa+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーである。3種のAEと3種のNBCがクローンされて機能的に特徴決定されているが、K+−HCO3-共輸送体及びNa+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーについては、まだ知られていない。【0003】Na+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーは、最初に無脊椎動物のニューロンにおいて発見され、その後、脊椎動物の脳、血管内皮細胞、精子、腎臓及び膵β細胞を含むニューロン及び非ニューロン細胞において見出された。Na+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーは、細胞内のCl-と引き替えに細胞外のNa+及びHCO3-を細胞内に輸送する細胞内pHレギュレーターであり、細胞のアルカリ化において重要な役割を演じている。【0004】膵β細胞において、グルコースは、インスリン分泌において生理学的に最も重要なレギュレーターである。グルコース代謝は膵β細胞において、細胞内pHの上昇を誘導する。このグルコース誘導性の細胞内pH上昇が主としてNa+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーによって引き起こされることが示されている [Pace, C.S. et al., J. Membrane Biol., 73:39-43(1983)]。【0005】このように、Na+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーは、種々の細胞における重要な細胞内pHレギュレーターであるが、その分子的基礎は知られてない。Na+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーの分子構造及び機能の解析は、膵β細胞のインスリン分泌機能の解析のみならず、糖尿病治療薬の開発のためのスクリーニング、及び分子構造を利用した薬物設計に有用である。【0006】【発明が解決しようとする課題】このような背景のもと、本発明は、Na+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーをクローンし、そのDNAを取得して塩基配列を決定し、これを発現させた異種細胞を提供すると共に、Na+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーの構造及び機能を決定することを目的とする。【0007】【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、配列表において配列番号2又は4で表されたアミノ酸配列を有する、Na+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーであるタンパク質を提供する。【0008】本発明は更に、配列表の配列番号2又は4で表されたアミノ酸配列において、1個又は2個以上のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を有し、且つ、細胞内において発現したとき、Na+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーの機能を有することを特徴とする、タンパク質をも提供する。【0009】本発明は更に、上記タンパク質であって、該Na+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーが、細胞外重炭酸イオン及び細胞内Cl-に依存性に、細胞外から該細胞内へナトリウムイオンを取り込み且つ該細胞内の塩素イオンを細胞外へ輸送する機能を有することによって特徴づけられるものであるタンパク質をも提供する。【0010】本発明は更に、上記タンパク質を発現させた異種細胞をも提供する。該異種細胞の例としては、アフリカツメガエル卵母細胞、HEK293細胞等が挙げられるが、これらに限定されない。異種細胞にNa+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーを発現させるには、Na+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーをコードするDNAによるトランスフェクションによってもよく、また、Na+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーに対応したcRNAの導入によってもよい。【0011】本発明は更に、上記タンパク質に対する抗体をも提供する。該抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。【0012】本発明は更に、上記蛋白質を発現させた異種細胞と候補化合物とを接触させ、Na+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーの機能を測定し、得られた測定結果を、該細胞に該候補化合物を接触させずにNa+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーの機能を測定して得られる結果と比較することにより、該候補化合物による該機能の亢進又は抑制の有無を判別することを特徴とする、Na+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーに対するアゴニスト及びアンタゴニストの選別方法をも提供する。【0013】更に本発明は、配列表において配列番号1又は3で示された塩基配列を有するDNA、並びに、配列表において配列番号1で示された塩基配列における第67番目から第3330番目までの塩基よりなる配列を有するDNA、及び、配列表において配列番号3で示された塩基配列のうち第83番目から第3346番目までの塩基よりなる配列を有するDNAをも提供する。【0014】更に本発明は、配列表において配列番号1で示された塩基配列における第67番目から第3330番目までの塩基よりなる配列を有するDNAにおいて1個若しくは2個以上の塩基が欠失、置換、付加又は挿入された塩基配列を有するDNAであって、(1)配列表において配列番号2で示されたアミノ酸配列を有するタンパク質又は(2)該アミノ酸配列において1個若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは挿入されたアミノ酸配列を有し細胞内において発現したときNa+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーの機能を有することを特徴とするタンパク質をコードするものである、DNAをも提供する。【0015】なおも更に本発明は、配列表において配列番号3で示された塩基配列における第83番目から第3346番目までの塩基よりなる配列を有するDNAにおいて1個若しくは2個以上の塩基が欠失、置換、付加又は挿入された塩基配列を有するDNAであって、(1)配列表において配列番号4で示されたアミノ酸配列を有するタンパク質又は(2)該アミノ酸配列において1個若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは挿入されたアミノ酸配列を有し細胞内において発現したときNa+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーの機能を有することを特徴とするタンパク質をコードするものである、DNAをも提供する。【0016】【発明の実施の形態】本発明のタンパク質を発現させた異種細胞は、例えばアフリカツメガエル卵母細胞やHEK293細胞であってよいが、マウス以外のその他の種々の細胞であってもよく、目的に応じて適宜選択すればよい。異種細胞に本発明のタンパク質を発現させるには、当業者に周知の手段を用ることができる。【0017】本明細書において、「1個又は2個以上のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列」における「1個又は2個以上」とは、通常は、1個ないし10個、特に好ましくは1個ないし数個(例えば3、4個)である。【0018】また本発明において、「1個又は2個以上の塩基が欠失、置換、付加又は挿入された塩基配列を有するDNA」における「1個又は複数」の塩基とは、通常は1個ないし10個、特に好ましくは1個ないし数個(例えば 3、4個)である。【0019】そのようなDNAの及びそれがコードするタンパク質の変異体の作製は、組換えDNA技術により容易に行うことができる。すなわち、最初に種々の化学的及び酵素的方法を用いてDNAのクローン断片に変異を生じさせることができ、得られた変異型のDNAにつきDNA配列分析を行い、利点を持つ特定の変異体を選び出す。この方法で種々の変異体を、その表現型に関係なく、システマティックに作製することができる。一般に用いられる変異型クローンの作製方法は、以下の通りである。【0020】1.オリゴヌクレオチドを用いて直接にDNA配列に置換、欠損、挿入、付加を起こさせることができる。この方法によれば、DNAの小さな領域に多くの変異を起こさせることが可能である。2.より長いオリゴヌクレオチドを用いて所望の遺伝子の合成が可能である。3.部位特異的変異作製法 (Region-specific Mutagenesis) を用いて、大きなDNA領域 (1〜3 kb) に所望の変異体を作製可能である。4.DNAのリンカースキャニング変異体作製法 (Linker-scanning Mutagenesis) は相対的に小さなDNA領域 (4-10 bp) にクラスター点変異を作製するのに適した方法である。5.PCRも、直接的な変異体作製法として利用できる。[参考文献: Current protocols in molecular biology. 3 vols.Edited by Ausubel F.M. et al., John Wiley & Sons, Inc., Current Protocols., Vol.1,Chapter 8: Mutagensis of clonedDNA, pages 8.0.1-8.5.10]。【0021】これらの方法で得られた種々の変異型を含む所望の遺伝子を発現することの可能なプラスミドやベクターの作製方法も、当業者に周知である。すなわち、制限酵素とリガーゼとの組合わせを用いて、所望の遺伝子を含んだDNAを発現ベクターDNAに挿入することにより、所望の遺伝子を含んだ組換えプラスミドを容易に構築することができる。得られた組換えプラスミドを種々の細胞に導入することにより細胞をトランスフェクトし、形質転換細胞を作製することができる。細胞としては、大腸菌などの原核細胞から、酵母や昆虫、植物や動物細胞も利用することができる。[参考文献: Vectors essential data. Gacesa P. and Ramji D.P.166 pages. BIOSScientific Publishers Limited 1994., John Wiley & Sons in association with BIOS Scientific Publishers Ltd. Expression vectors, pages 9-12.]【0022】宿主細胞への組換えプラスミドの導入は、塩化カルシウム法やエレクトロポレーション法により行うことができる。塩化カルシウム法は効率的なトランスホーメイションを与え、特別な装置を必要としない。より高い効率を求めるならば、エレクトロポレーションが用いられるべきである。[参考文献: Current protocols in molecular biology.3 vols. Edited by Ausubel F.M.et al., John Wiley & Sons,Inc., Current Protocols.Vol.1,unit 1.8: Introduction of plasmid DNA into cells, pages 1.8.1-1.8.10]【0023】動物細胞系で通常行われるトランスフェクションには、一過性のものと安定で永久的なものとの2通りが知られている。一過性のトランスフェクションでは、形質転換細胞を1〜4日間培養してトランスフェクトした遺伝子を転写、複製し、細胞を回収してDNA分析を行う。代わりに、多くの研究では、トランスフェクト遺伝子を染色体遺伝子に組み込む安定型の形質転換系を作製している。トランスフェクション法としては、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム触媒法などが用いられる。[参考文献: Current protocols in molecular biology. 3 vols. Edited by Ausubel F.M.et al., John Wiley & Son,Inc., Current Protocols. Vol.1, Chapter 9: Introduction of DNA into mammalian cells, pages 9.0.1-9.17.3.]【0024】 本発明のNa+駆動型Cl−/HCO3−エクスチェンジャータンパク質及びその断片や相同体に対するポリクローナルやモノクローナル抗体の作製も、当該分野において周知の技術を用いて容易に行うことができる。【0025】本発明のNa+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャータンパク質に対するmgレベルのモノクローナル抗体の一般的作製法は、次の通りである。すなわち、抗原タンパク質をマウスに接種して免疫し、十分な抗体タイターを示すマウスから脾臓を除去する。脾臓細胞を分離して脾臓B細胞を選択し、B細胞起源の骨髄腫細胞に融合し、抗体を分泌するハイブリドーマ細胞を構築し、ハイブリドーマ細胞から分泌されたモノクローナル抗体を、細胞培養液からアイニティーカラム、イオン交換法、ゲルろ過法等を用いて精製する。また、一般的な方法で本発明物質のポリクローナル抗体をも製造できる。すなわち、免疫動物としては兎、馬、マウス、モルモットなどを用い、当業者に既知の種々のスケジュールで抗原タンパク質を接種して免疫し、採血した血清から免疫グロブリンGなどを単離する。[参考文献: Current protocols in mlecular biology. 3 vols. Edited by Ausuel F.M.et al. John Wiley & Sons,Inc., Current Protocols. Vol.2, chapter 11: Immunology, pages 11.0.1-11.16.13]【0026】【実施例】以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明が該実施例に限定されることは意図しない。【0027】Na+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーの構造及び機能的役割を決定するため、本発明者等は、マウスのインスリン分泌細胞株MIN6 cDNAライブラリーよりNa+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャー(NCBEと命名)をクローンした。Na+駆動型塩素イオン(Cl-)/重炭酸イオン(HCO3-)エクスチェンジャー(NCBEと命名)の一次構造、組織分布、及び機能的特徴決定を以下に示す。【0028】マウスのNCBEタンパク質(配列番号2)は、1,088個のアミノ酸よりなり、ヒトの筋肉、網膜及び腎臓のナトリウム重炭酸イオン共輸送体と、それぞれ65%、65%及び41%のアミノ酸同一性を有することが明らかとなった。このタンパク質は、10個の推定の膜貫通領域を有し、アニオンエクスチェンジャー及びナトリウムイオン重炭酸イオン共輸送体に特徴的な、保存された4,4−ジイソチオシアノスチルベン−2,2−ジスルホン酸(DIDS)結合モチーフを有する。NCBE mRNAは、脳及びマウスのインスリノーマ細胞株MIN6において高レベルで発現され、下垂体、精巣、腎臓、及び回腸においては低レベルで発現される。アフリカツメガエル卵母細胞及びHEK293細胞におけるNCBEタンパク質発現の機能的解析により、該タンパク質が、細胞内のCl-と引き替えに細胞外のNa+及びHCO3-を細胞内に輸送して細胞内pHの上昇を引き起こすことが明らかとなった。こうして本発明者等は、NCBEが、天然の細胞において細胞内pHを制御しているNa+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーであるとの結論に達した。【0029】ヒトのNCBEについても同定するため、次に、こうして得られたマウスNa+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーのcDNAの部分配列(2,746 bp)をPCR法により増幅した。増幅には、センスプライマーとして配列表の配列番号1に示した塩基配列中の第250〜270位の塩基配列よりなるDNAを用い、アンチセンスプライマーとしては、配列表の配列番号1に示した塩基配列の第2976〜2995位の塩基より配列に対して相補的な塩基配列よりなるDNAを用いた。PCR条件は次の通りとした。【0030】初期変性: 94℃、2分増幅(20サイクル)・変性: 94℃、15秒・アニーリング: 60℃、30秒・延長: 72℃、2分最終延長: 72℃、7分【0031】得られたPCR産物を32P−dCTPを用いてニックトランスレーション法によて標識し、ヒト胎児脳cDNAライブラリー(Clontech社)から約100万個のファージをスクリーニングした。得られた4つの陽性ファージクローンについて、そのDNAをEcoRIで消化しアガロース電気泳動によりバンドを切り出し、該当するDNAを抽出することにより、それぞれ挿入断片を得た。別に、pGEM7Z(Promega社)をEcoRIで消化し、アルカリホスファターゼ処理した。これに、陽性ファージから得られた挿入断片をそれぞれライゲートすることによりサブクローニングした。ABI社製310オートシークエンサーを用いてそれぞれの挿入断片の塩基配列を決定し、得られた塩基配列より、ヒトNCBEタンパク質に対応するcDNAの塩基配列を決定した(配列表において配列番号3に示す)。またこの結果に基づき、ヒトNCBEタンパク質を配列決定した(配列表において配列番号4に示す)。【0032】これらの実験の方法及び結果を、マウスのNCBEについて行った操作及び結果を中心に、以下説明する。【0033】〔材料及び方法〕<cDNAクローニング及びRNAブロット分析>ヒト腎臓NBC cDNA [Burnham, C.E., et al., J. Biol. Chem., 272:19111-19114(1997)] の部分的cDNA断片を、ヒト腎臓cDNAを鋳型として、PCRにより増幅した。用いたセンスプライマー及びアンチセンスプライマーは、5-tttggagaaaacccctggt-3 (nt 2232-2250)(配列番号5)及び5-tgacatcatccaggaagctg-3 (nt 2912-2931)(配列番号6)であった。PCRは、次の条件で40サイクル行った。すなわち、サーマルサイクラーGeneAmp PCR システム 9600(PE Applied Biosystems, Foster, CA)中において、変性:94℃15秒間、アニーリング:60℃30秒間、延長:72℃45秒間である。700 bpのPCR産物を、プローブとして、先に記載した低ストリンジェント条件下 [Fukumoto, H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85:5434-5438(1988)] にMIN6 cDNAライブラリー [Inagaki, N., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 91:2679-2683(1994)] のスクリーニングにかけた。陽性のクローンをpGEM-3Zベクター(Promega, Madison, WI)にサブクローンし、ABI PRISMTM377 DNA シーケンサー (PE Applied Biosystems)を用いて両方向に配列決定した。【0034】<RNAブロット分析>RNAブロット分析は、種々の組織及び細胞からの10μgの全RNAを用いて行った。これらのRNAをホルムアルデヒドで変性し、1%アガロースゲルで電気泳動し、ナイロン膜上に転写した。先に記述した標準的な条件下 [Wang, C-Z. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 220:196-202(1996)] に、ブロットをNCBE cDNAでプローブした。オートラジオグラフィーに先だって、ブロットを0.1×SSC及び0.1%SDSで室温にて1時間洗浄し、次いで50℃にて1時間洗浄した。【0035】<逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)>単離したマウス膵島より、TRIZOL試薬(Life Technologies, Inc., Rockville, MD)で全RNAを調製した。第一鎖のcDNA(10ng)は、SuperscriptTMII逆転写酵素(Life Technologies)を用いてランダムプライマーにより作った。PCRは、Expand High Fidelity PCR システム (Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)により、標準条件下で20μlの反応量で約1ngの鋳型DNAを用いて行った。用いたセンスプライマー及びアンチセンスプライマーは、5-gtcatgttagaccaacaggt-3 (nt 4283-4302)(配列番号7)及び5-gttgtaatagcgacactc-3 (nt 4911-4928)(配列番号8)であった。産物を1%アガロースゲルに溶解させ、DNA配列決定により確認した。【0036】<アフリカツメガエル(Xenopus Laevis)卵母細胞におけるNCBEの機能的分析>pSD5中のNCBEのコード配列を、FspIによる消化によって直鎖化し、先に記述したように [Wang, C-Z. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 220:196-202(1996)] SP6 RNAポリメラーゼによりin vitro転写を行った。脱濾胞した卵母細胞にNCBE cRNA(50nl、0.5μg/μl)又は水を注入し、1×MBS培地(88mM塩化ナトリウム、1mM塩化カリウム、0.8mM塩化マグネシウム、0.4mM塩化カルシウム、0.3mM硝酸カルシウム、2.4mM炭酸水素ナトリウム、及び7.5mMトリス、pH7.4)中で試験まで3〜5日、18℃にてインキュベートした。標準溶液(100mM塩化ナトリウム、2mM塩化カリウム、1mM塩化マグネシウム、1mM塩化カルシウム、及び8mM炭酸水素ナトリウム、pH7.4)中で卵母細胞を1時間、18℃にてプレインキュベートした。【0037】細胞外Na+濃度への依存性の試験のために、次いで卵母細胞を、1mM、10mM、30mMまたは100mMのNa+溶液の1.4ml中で、1.5%CO2を通しつつpH7.4で、0.074MBqの22Na+(NENTM Life Science Products, Boston, MA)と共にインキュベートした。各々の溶液において、標準溶液中のNa+を等モルの塩素で置き換えた。10μlの部分量を、後で22Na+比活性を定量するために、インキュベーション溶液から採取した。15分後、1mM、10mM、30mM又は100mMのNa+含有のpH7.4の氷冷溶液でそれぞれ3回洗浄することによって22Na+取り込みを停止させ、そして卵母細胞を0.5mlの5%SDS中に溶かし、4.5mlの水性計数シンチラント(Aqueous Counting Scintillant : Amersham Pharmacia Biotech)を加えた。22Na+の取り込みは、Cl-不含の1mM、10mM、30mM又は100mMのNa+溶液(pH7.4)中で行った。細胞外Cl-は、等モルのグルコン酸で置き換え、細胞外Na+は、等モルのN−メチル−D−グルカミン(NMG)で置き換えた。15分間の22Na+取り込みはまた、300μMの4,4−ジイソチオシアノスチルベン−2,2−ジスルホン酸(DIDS、Sigma)(標準溶液中のアニオン輸送体の阻害剤である)の存在下又は非存在下にも行った。【0038】細胞外重炭酸イオン濃度への依存性の研究のためには、22Na+取り込み実験を0.074MBqの22Na+を含有する1mM、3mM、10mM又は30mMの重炭酸イオン溶液中、で1.5%CO2を通しつつ、18℃、pH7.4で行った。これらの溶液は、2mMの塩化カリウム、1mMの塩化マグネシウム、1mMの塩化カルシウムを含有しpH7.4であり、1mM重炭酸イオン溶液用には107mMの塩化ナトリウム、1mMの重炭酸ナトリウムを、3mMの重炭酸イオン溶液用には105mMの塩化ナトリウム及び3mMの重炭酸ナトリウムを、10mMの重炭酸イオン用には、98mMの塩化ナトリウム及び10mMの重炭酸ナトリウム、30mM重炭酸イオン溶液用には78mMの塩化ナトリウム及び30mMの重炭酸ナトリウムを含有した。【0039】36Cl-流出実験のためには、細胞内Cl-を枯渇させるためにCl-不含溶液中で、又はCl-含有標準溶液中で、卵母細胞を1時間プレインキュベートした。卵母細胞を0.074MBqの36Cl-含有溶液(NENTM Life Science Products)中で、18℃にて1時間、1.5%CO2を通しつつインキュベートした。それぞれ対応する溶液で3回、卵母細胞を手早く洗浄し、次いで1.5%のCO2を通しているpH7.4の各Cl-不含溶液1.5ml中へ移した。10μlの部分量を、後で36Cl-比活性を測定するために、インキュベーション溶液から採取した。36Cl-活性は、0, 5, 15, 25及び35分に測定した。残存する細胞内36Cl-を測定するために、卵母細胞を上記のように処理した。各時間点からの培地の一部をカウントし、流出量を決定するために値を合計した。36Cl-流出は、全細胞36Cl-放出に対するパーセントとして表した。22Na+及び36Cl-の測定は、βシンチレーションカウンター(Aloka, Japan)によって行った。【0040】HEK293細胞内のNCBEの機能的分析HEK293細胞を、カバーグラスを含んだ3.5cm径のペトリ皿あたり3×105個の密度に播き、10%胎仔牛血清、ストレプトマイシン(60.5μg/ml)及びペニシリン(100μg/ml)を補充したダルベッコ改良イーグル培地(DMEM、高グルコース)中、37℃にて、95%空気及び5%CO2の加湿条件下に培養した。メーカーのマニュアルに従い、Lipofectamin及びLipofectamin Plus及びOpti-MEM I試薬(Life Technologies, Gaithersburg, MD)を用いて、pcDNA3.1ベクター(Invitrogen, Groningen, the Netherlands)中に組み込んだ全長NCBE cDNAの1μgで、細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの48〜72時間後、細胞を検討した。細胞内pHの変化は、2,7−ビス−(2−カルボキシエチル)−5−(6)−カルボキシフルオレッセイン、アセトキシメチルエステル(BCECF-AM, Molecular Probes, Eugene, OR) [Burnham, C.E., et al., J. Biol. Chem., 272:19111-19114(1997)] を用いてモニターした。HEK293細胞に1時間1μM BCECF-AMを加え、コンピュータ化した画像処理装置(490nm/450nm;520〜560nm発光)(Argus-50; 浜松ホトニクス)を用い二重励起波長法により細胞内pHの変化をモニターした。細胞内pHの差を、試験溶液の切り替えの前と10分後との間における細胞内pHの差として評価した。細胞内pHの較正曲線は、KCl/ニゲリシン法 [Thomas, J.A. et al., Biochemistry 18:2210-2218(1979)] を用いて作った。全ての実験において、初めに、細胞を、Na+含有の各試験溶液に切り替える前の5分間、40mM塩化アンモニウム含有溶液によるNH4+−プレパルスで酸性化した [Burnham, C.E., et al., J. Biol. Chem., 272:19111-19114(1997)]。【0041】細胞内酸性化からの細胞内pH回復(ΔpHi)のNa+依存性を評価するために、Na+不含溶液(115mM塩化テトラメチルアンモニウム(TMA-Cl)、25mM重炭酸カリウム、0.8mMリン酸水素カリウム、0.2mMリン酸二水素カリウム、1mM塩化カルシウム、1mM塩化マグネシウム、10mM HEPES)、及びNa+含有溶液(Na+不含溶液中のTMA-Cl及び重炭酸カリウムを、90mM塩化ナトリウム、25mM塩化カリウム及び25mM重炭酸ナトリウムで置換)を用いた。【0042】重炭酸イオン依存性を試験するために、重炭酸イオン及びNa+不含溶液(115mM TMA-Cl、0.8mMリン酸水素カリウム、0.2mMリン酸二水素カリウム、1mM塩化カルシウム、1mM塩化マグネシウム、10mM HEPES)、及び重炭酸イオン不含Na+含有溶液(重炭酸イオン及びNa+不含溶液中のTMA-Clを90mMの塩化ナトリウム及び25mMの塩化カリウムで置換)を用いた。【0043】Cl-依存性を測定するために、Cl-及びNa+不含溶液(25mM重炭酸カリウム、0.8mMリン酸水素カリウム、0.2mMリン酸二水素カリウム、10mM HEPES、115mM NMG―グルコネート)及びCl-不含Na+含有溶液(NMG−グルコネートを115mMのグルコン酸ナトリウムで置換)を用い、結果を比較した。【0044】全ての溶液は、95%O2及びCO2を通し、pH7.4に調整した。各溶液の浸透圧は、ショ糖により調節した。アッセイは37℃にて行った。【0045】統計解析結果は、平均±SE(平均偏差)として表した。実験間の統計的有意差は、Students t テストにより判定した。【0046】〔結果及び考察〕NCBEは、Na+−HCO3-輸送体に構造的に関連している。ヒト腎臓のNa+−HCO3-共輸送体(NBC)の部分をプローブとして用いてMIN6 cDNAをスクリーニングすることにより、上記の通り、Na+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャー(NCBE)をコードするcDNAをクローンした。得られた塩基配列(NCBE)を配列表の配列番号1に示す。この5,385bpの複合体ヌクレオチド配列は、atg の上流にあるインフレーム(in-frame)の停止シグナルに続くオープンリーディングフレーム(推定分子量122kDaを有する、配列番号1に示した1,088個のアミノ酸よりなるタンパク質をコードする)を含んでいる。疎水性分析は、該アミノ酸配列において、推定の膜貫通領域(TM1−TM10)が、それぞれ次の部位にあることを示している。TM1: アミノ酸479〜499TM2: アミノ酸514〜534TM3: アミノ酸564〜584TM4: アミノ酸693〜713TM5: アミノ酸733〜753TM6: アミノ酸780〜800TM7: アミノ酸826〜846TM8: アミノ酸882〜901TM9: アミノ酸905〜924TM10: アミノ酸972〜992該アミノ酸配列において、3個の潜在的N−結合グリコシレーション部位が、第3(TM3)及び第4(TM4)貫通領域の間の細胞外ループに存在する(Asn-647、Asn-657、Asn-667)。推定的DIDS結合モチーフは、アミノ酸815〜818にある。【0047】NCBEと他のNBCとの間でのアミノ酸配列の比較は、NCBEが、ヒトの筋肉のNBC [Pushkin, A. et al., J. Biol. Chem., 274:16569-16575(1999)]、ヒトの網膜のNBC [Ishibashi, K. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 24:535-538(1998)]、及びヒトの腎臓のNBC [Burnham, C.E., et al., J. Biol. Chem., 272:19111-19114(1997)] と、それぞれ65%、65%及び41%のアミノ酸同一性を有することを示し、このことは、NCBEが新規の重炭酸イオン輸送体の一つであることを示すものである。この推定の膜貫通領域のアミノ酸配列及びDIDS結合モチーフLys Leu Lys Lys(残基815〜818)がNCBEにおいてよく保存されている一方、細胞内アミノ及びカルボキシル末端並びに第3及び第4の膜貫通領域の間にある大きな細胞外ループは、かなり異なっている。【0048】NCBEは、脳及びインスリン分泌クローナル膵β細胞において高レベルに発現される。RNAブロット分析は、5.5kbのNCBE mRNAが、脳及びインスリン分泌細胞株であるMIN6細胞において高レベルに発現され、そして下垂体、精巣、腎臓及び回腸において低レベルに発現されることを明らかにした(図1、a)。RT−PCR分析は、NCBEがまた、膵島においても発現されることを示している(図1,b)。【0049】図において、aは、ラット組織及びホルモン分泌細胞株における、NCBE mRNAのRNAブロット分析の結果を表しており、ハイブリダイズした転写物のサイズが示されている。bは、マウス膵島のNCBE mRNAのRT−PCRによる検出の結果を表しており、DNA長マーカー及びRT−PCR産物が、レーン1及び2にそれぞれ示されている。【0050】NCBEは、細胞内pHを制御するNa+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーである。本発明等は、アフリカツメガエル卵母細胞の系を用いて、NCBEの機能的性質を検討した。cRNA又は対象としての水の注入後、22Na+の取り込み及び36Cl-流出を3〜5日にわたって測定した。卵母細胞を酸性化するために1.5%CO2でバブリングしつつ、本発明者等は、22Na+取り込みに対する細胞外Na+濃度の影響につき先ず検討した。結果を図3に示す。【0051】図3は、 22Na+取り込み(nmol/卵母細胞/時)と細胞外Na+濃度との関係を表している。図において、■及び●は、NCBE cRNAを注入した細胞についての結果を表し、□及び○は、水を注入した細胞についての結果を表す。■及び□は、細胞外Cl-含有溶液中における結果を表し、●及び○は、細胞外Cl-不含溶液中における結果を表す。データは、2つの独立した実験からの7〜16個の卵母細胞の平均±SE(平均偏差)を表す。 *及び†(p<0.05)は、水を注入された細胞外Cl-不含の、それぞれ10mM、30mM及び100mM Na+溶液中との対比による統計学的有意差の有無を示す。【0052】図2に示したように、22Na+の取り込みの増加は、細胞外Na+濃度に依存しており、そしてNCBE cRNA注入卵母細胞において、生理学的Na+濃度範囲にわたって直線的パターンを示した。水を注入された卵母細胞では、22Na+の取り込みに何の増加も見られなかった。Cl-含有及びCl-不含の溶液中でのNa+の取り込みの比較は、細胞外Cl-の不存在下におけるより細胞外Cl-の存在下における方がNa+の取り込みが有意に高いことを示した(図2)。これらの結果は、NCBEが細胞外のNa+を細胞内へ輸送すること、及び細胞外のCl-がNCBEの活性の促進に関与していることを示している。【0053】本発明者等は、次に、22Na+の取り込みに対する細胞外重炭酸イオンの効果を検討した。結果を図3に示す。データは、2つの独立した実験からの11〜16個の卵母細胞の平均±SE(平均偏差)。*(p<0.05)は、水注入との対比を示す。図より明らかなように、細胞外重炭酸イオンの増加は、NCBE cRNA注入卵母細胞において濃度依存的にNa+取り込みを有意に増大させた一方、水を注入した卵母細胞は、Na+取り込みにおいてそのような変化を何も示さず、このことは、細胞内へのNa+輸送に細胞外重炭酸イオンが必要であることを示している。【0054】Cl-が細胞内へ又は細胞から外へNCBEによって輸送されるか否かをみるため、本発明等は、アフリカツメガエル卵母細胞からの36Cl-流出につき検討した。水を注入した卵母細胞では卵母細胞への36Cl-の流入は検出されなかったことから、本発明等は、NCBE cRNA注入卵母細胞からの36Cl-の流出についてのみ分析した。NCBE cRNA注入卵母細胞からの0〜35分にかけての36Cl-の流出率(%)の測定を、Cl-不含溶液でのプレインキュベーションによって細胞内Cl-を枯渇させた状態と、Cl-含有溶液でのプレインキュベーションにより細胞内Cl-が存在する状態とにおいて、行った。結果を図4に示す。図において、●は、細胞内Cl-非枯渇条件下(Cl-含有溶液でプレインキュベーション)の細胞についての結果を表し、▲は、細胞内Cl-枯渇条件下(Cl-不含溶液でプレインキュベーション)の細胞についての結果を表す。データは、3つの独立した実験からの16〜17個の卵母細胞の平均±SE(平均偏差)を表す。*(p<0.05)は、5,15、25及び35分における細胞内Cl-枯渇との対比を示す。【0055】これら異なった条件下における36Cl-の流出の比較は、NCBEが細胞内Cl-を細胞外へ輸送することを示す。総合すると、これらの結果は、NCBEが細胞外のNa+及び重炭酸イオンを細胞内のCl-と交換することを明らかにしている。【0056】本発明等はまた、アニオン輸送体阻害剤であるDIDSの22Na+の取り込みに対する影響をも検討した。すなわち、0.3mMのDIDSの存在下又は不存在下において発現を評価した。結果を図5に示す。データは、3つの独立した実験からの21〜22個の卵母細胞の平均及びSE(平均偏差)として表されている。*(p<0.05)は、cRNA+DIDSとの対比を示す。【0057】NCBE cRNAを注入した卵母細胞における22Na+の取り込みは、DIDSの不存在下では31.4±2.1 nmol/卵母細胞/時(n=21)であり、300μMのDIDSの存在下では6.0±0.7 nmol/卵母細胞/時(n=14)であった。水を注入した卵母細胞における取り込みは、DIDSの不存在下及び存在下において、それぞれ、1.6±0.3(n=22)及び2.1±0.4(n=19)nmol/卵母細胞/時であった。こうして、NCBEによる22Na+の取り込みは、DIDSによって部分的に阻害された(図5)。【0058】細胞内pHの制御におけるNCBEの役割を明らかにするため、NCBEで一過性にトランスフェクトしたHEK293細胞において、種々の条件下での細胞内pH変化を測定した。実験は何れも、NH4+−プレパルスにより細胞内pHを酸性化した条件で行った。細胞内pHが細胞外Na+に依存性であるか否かを判定するため、細胞の環境をNa+不含溶液からNa+含有溶液へと変化させた。結果を図6に示す。図6は、対照(非トランスフェクト)細胞、及び300μMのDIDSの有無によるNCBEトランスフェクト細胞の追跡の結果を示すグラフである。細胞の環境は、Na+不含溶液からNa+含有溶液へと変更されている。【0059】図に見られるように、Na+/H+エクスチェンジャーに対する特異的阻害剤である1mMの5−(N−エチル−N−イソプロピルアミロライド(EIPA)の存在下に、細胞内pHの迅速な回復(ΔpHi)が、NCBEでトランスフェクトした細胞においてのみ観察された〔ΔpHiは、NCBEでトランスフェクトした細胞では0.239±0.028(n=97)であり、対照では0.003±0.015(n=70)であった。p<0.05〕(図6)。この細胞内pHの回復は、300μMのDIDSにより部分的に阻害された〔ΔpHiは、0.023±0.042(n=89)であった。p<0.05〕。【0060】この細胞内pHの変化が重炭酸イオン依存性であるか否かを判定するため、1mMのEIPAの存在下において、NCBEトランスフェクト細胞の環境を、HCO3-不含且つNa+不含の溶液から、HCO3-不含だがNa+は含有する溶液に切り替えた。しかしながら、図7に示されるように、細胞内pHの回復は検出されなかった〔ΔpHiは、0.002±0.014(n=71)〕。【0061】最後に、本発明等は、Cl-依存性についても試験した。実験を通して、NCBEトランスフェクト細胞をCl-不含溶液中に(細胞内Cl-枯渇条件下に)維持した。この条件下で、細胞の環境を、Na+不含溶液からNa+含有溶液へと変更した。1mMのEIPAの存在下では、図8に示されるように、細胞内pHの回復は検出されなかった〔ΔpHiは、0.067±0.012(n=95)〕。【0062】これらの結果は、細胞内酸性化からの細胞内pHの回復は、細胞外のNa+、HCO3-、及び細胞内Cl-の存在下においてのみ検出されることを示している。【0063】アフリカツメガエル卵母細胞及びHEK293細胞において異種で発現されたNCBEの機能的研究は、NCBEが、細胞内Cl-と引き替えに細胞外のNa+及びHCO3-を輸送することによって、急性の細胞内酸性化から細胞内pHを回復させることを示している(図3及び図4)。NCBEは、これまでに報告されているアニオンエクスチェンジャー及びNa+−HCO3-共輸送体からは機能的に別個である。なぜならば、1)アフリカツメガエル卵母細胞において発現されたNCBEは、細胞内Cl-に依存性のNa+取り込み増加を示し、2)Cl-を外側へと輸送する能力を示し、更には、3)HEK239細胞において発現されたNCBEは、細胞外Na+、HCO3-及び細胞内Cl-に依存して細胞内pHを高めるからである。これらの性質は、天然の細胞において記述されたNa+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーの性質と同様である。従って、クローンされたこのNCBEは、Na+駆動型Cl-/HCO3-エクスチェンジャーである。【0064】NCBEについて考え得る生理学的重要性インスリン分泌細胞株MIN6及び膵島におけるNCBE mRNAの発現は、その生理学的重要性を意味している。グルコース誘導性のインスリン分泌は、膵島β細胞において細胞内pHの上昇を伴うことが示されている。幾つかの細胞内pHレギュレーターが膵β細胞に存在することが示唆されているが、それらのレギュレーターの分子的基礎は知られていない。NCBEは、一次構造及び機能的性質が決定された初めての細胞内pH制御エクスチェンジャーである。NCBEは、グルコース代謝により酸性化した膵β細胞の細胞内pHの回復プロセスに寄与していると思われる。NCBE mRNAは精巣にも存在するが、その発現レベルは低い。細胞内pHは、精子の受精能獲得(capacitation)を含む多くの精子機能を制御していることが示されている。精子の受精能獲得は、細胞内pHの上昇をもたらし、これは機能的な、Na+、Cl-、及びHCO3-依存性の酸流出経路を必要とすることから、NCBEは、精子の受精能獲得に参画している可能性がある。NCBE mRNAはまた、脳においても高レベルで発現されている。生理学的研究によればNCBEは、海馬のニューロン及び星状細胞に存在するかも知れないが、そのような細胞におけるその生理学的重要性は現在のところ不明である。【0065】【配列表】【図面の簡単な説明】【図1】 ラット組織及びホルモン分泌細胞株における、NCBE mRNAのRNAブロット分析(a)及びマウス膵島のNCBE mRNAのRT−PCRによる検出(b)の結果をそれぞれ示す。【図2】 22Na+取り込みに対する細胞外Na+濃度の影響を示すグラフ。【図3】 22Na+取り込みに対する細胞外HCO3-濃度の影響を示すグラフ。【図4】 36Cl-流出に対する細胞内Cl-の影響を示すグラフ。【図5】 22Na+取り込みに対するDIDSの影響を示すグラフ。【図6】 対照(非トランスフェクト)細胞、及び300μMのDIDSの有無による細胞内pHの変化を示すグラフ。【図7】 HCO3-不含条件において、環境をNa+不含溶液からNa+含有溶液へと変更したときの細胞内pHの変化を示すグラフ。【図8】 Cl-不含条件において環境を、Na+不含溶液からNa+含有溶液へと変更したときの細胞内pHの変化を示すグラフ。 配列表において配列番号2又は4で表されたアミノ酸配列を有するタンパク質。 配列表の配列番号2又は4で表されたアミノ酸配列において、1個又は2個以上のアミノ酸が欠失、置換、付加又は挿入されたアミノ酸配列を有し、且つ、細胞内において発現したとき、Na+駆動型Cl−/HCO3−エクスチェンジャーの機能を有することを特徴とする、タンパク質。 該Na+駆動型Cl−/HCO3−エクスチェンジャーが、細胞外重炭酸イオン及び細胞内Cl−に依存性に、細胞外から該細胞内へナトリウムイオンを取り込み且つ該細胞内の塩素イオンを細胞外へ輸送する機能を有することによって特徴づけられるものである、請求項2のタンパク質。 請求項1ないし3の何れかのタンパク質に対するモノクローナル又はポリクローナル抗体。 配列番号4で示されたアミノ酸配列を有するタンパク質に対するモノクローナル又はポリクローナル抗体。 配列表において配列番号1又は3で示された塩基配列を有するDNA。 配列表において配列番号1で示された塩基配列における第67番目から第3330番目までの塩基よりなる配列を有するDNA。 配列表において配列番号3で示された塩基配列のうち第83番目から第3346番目までの塩基よりなる配列を有するDNA。 配列表において配列番号1で示された塩基配列における第67番目から第3330番目までの塩基よりなる配列を有するDNAにおいて1個若しくは2個以上の塩基が欠失、置換、付加又は挿入された塩基配列を有するDNAであって、(1)配列表において配列番号2で示されたアミノ酸配列を有するタンパク質又は(2)該アミノ酸配列において1個若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは挿入されたアミノ酸配列を有し細胞内において発現したときNa+駆動型Cl−/HCO3−エクスチェンジャーの機能を有することを特徴とするタンパク質をコードするものである、DNA。 配列表において配列番号3で示された塩基配列における第83番目から第3346番目までの塩基よりなる配列を有するDNAにおいて1個若しくは2個以上の塩基が欠失、置換、付加又は挿入された塩基配列を有するDNAであって、(1)配列表において配列番号4で示されたアミノ酸配列を有するタンパク質又は(2)該アミノ酸配列において1個若しくは2個以上のアミノ酸が欠失、置換、付加若しくは挿入されたアミノ酸配列を有し細胞内において発現したときNa+駆動型Cl−/HCO3−エクスチェンジャーの機能を有することを特徴とするタンパク質をコードするものである、DNA。 請求項6ないし10の何れかのDNAを導入してNa+駆動型Cl−/HCO3−エクスチェンジャーの機能を有するタンパク質を発現させたものである、形質転換細胞。 請求項11の形質転換細胞と候補化合物とを接触させ、Na+駆動型Cl−/HCO3−エクスチェンジャーの機能を測定し、得られた測定結果を、該細胞に該候補化合物を接触させずにNa+駆動型Cl−/HCO3−エクスチェンジャーの機能を測定して得られる結果と比較することにより、該候補化合物による該機能の亢進又は抑制の有無を判別することを特徴とする、Na+駆動型Cl−/HCO3−エクスチェンジャーに対するアゴニスト及びアンタゴニストの選別方法。