タイトル: | 特許公報(B2)_ヒト血清アルブミン多量体の単量体化方法 |
出願番号: | 2000324027 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C07K 1/14,C07K 14/765,A61K 38/00,A61P 17/02,A61P 43/00 |
野内 俊伸 溝上 寛 田嶋 義高 足達 聡 田辺 哲朗 柴田 伸一 JP 4798830 特許公報(B2) 20110812 2000324027 20001024 ヒト血清アルブミン多量体の単量体化方法 一般財団法人化学及血清療法研究所 000173555 中村 稔 100059959 大塚 文昭 100067013 熊倉 禎男 100082005 宍戸 嘉一 100065189 竹内 英人 100096194 今城 俊夫 100074228 小川 信夫 100084009 村社 厚夫 100082821 西島 孝喜 100086771 箱田 篤 100084663 野内 俊伸 溝上 寛 田嶋 義高 足達 聡 田辺 哲朗 柴田 伸一 20111019 C07K 1/14 20060101AFI20110929BHJP C07K 14/765 20060101ALI20110929BHJP A61K 38/00 20060101ALN20110929BHJP A61P 17/02 20060101ALN20110929BHJP A61P 43/00 20060101ALN20110929BHJP JPC07K1/14C07K14/765A61K37/02A61P17/02A61P43/00 111 C07K 1/00-19/00 PubMed Science Direct WPI 特開平06−245789(JP,A) 特開平02−031687(JP,A) 特開平05−317079(JP,A) 特開昭49−085218(JP,A) ANDERSSON, L. O.,"Hydrolysis of disulfide bonds in weakly alkaline media. II. Bovine serum albumin dimer.",BIOCHIM. BIOPHYS. ACTA,1970年 2月17日,Vol.200, No.2,P.363-369 BURTON, S.J. et al.,"Refolding human serum albumin at relatively high protein concentration.",EUR. J. BIOCHEM.,1989年 2月,Vol.179, No.2,P.379-387 7 2002128793 20020509 7 20071024 野村 英雄 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ヒト血清アルブミンの多量体を単量体にする方法に関する。より詳細には、ヒト血漿を原料としたヒト血清アルブミンの製造工程中、又は遺伝子組換え技術を用いたヒト血清アルブミンの製造工程中に発生するヒト血清アルブミン多量体を、アルカリ性溶液で処理(以下、アルカリ処理と称することもある)することにより単量体化する方法に関する。【0002】【従来の技術】ヒト血清アルブミン(以下、HSAと称することもある)は、血漿中の主要な蛋白成分で、585個のアミノ酸の単鎖ポリペプチドからなり、約66,000ダルトンの分子量を有する(Minghetti, P. P. et al.(1986) Molecular structure of the human albumin gene is revealed by nucleotide sequence within 11-22 of chromosome 4. J.Biol.Chem. 261, 6747-6757)。HSAは、主に血液の正常な浸透圧の維持や血中に現れるカルシウムイオン、脂肪酸、ビリルビン、トリプトファン、薬物など様々なものと結合し、これらを運搬するキャリアーとしての役割を果たすことが知られている。純化したHSAは、例えば、外科手術、出血性ショックあるいは熱傷やネフローゼ症候群などアルブミンの喪失による低アルブミン血症の治療に使用される。【0003】従来、HSAは、ヒト血漿からコーンの低温エタノール分画法あるいは該方法に準じた方法により、HSA画分(HSAは画分Vに分画される)を得た後、更に、種々の精製方法を駆使して製造されている。また近年、原料をヒト血漿に依存しない方法として、遺伝子組換え技術を応用して酵母や大腸菌、枯草菌にヒト血清アルブミンを生産させる技術が開発されている。【0004】 酵母については、(1) Production of Recombinant Human Serum Albumin from Saccharomyces cerevisiae; Quirk, R. et. al, Biotechnology and Applied Biochemistry 11, 273-287(1989)、(2) Secretory Expression of the Human Serum Albumin Gene in the Yeast, Saccharomyces cerevisiae; Ken. Okabayashi et.al, J. Biochemistry, 110, 103-110 (1991)、(3) Yeast Systems for the Commercial Production of Heterologous Proteins; Richard G. Buckholz and Martin A. G. Gleeson, Bio/Technology 9, 1067-1072(1991)、大腸菌については(4) Construction of DNA sequences and their use for microbial production of proteins, in particular human serum albumin; Lawn, R. M., European Patent Appl. 73,646 (1983)、(5) Synthesis and Purification of mature human serum albumin from E. coli; Latta, L. et. al. Biotechnique 5, 1309-1314 (1987)、枯草菌については(6) Secretion of human serum albumin from Bacillus subtilis; Saunders, C. W. et. al, J. Bacteriol. 169, 2917-2925 (1987)参照。【0005】ヒト血清アルブミンの精製方法としては、一般に、蛋白質化学において通常使用される精製方法、例えば、塩析法、限外濾過法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換クロマトグラフィー法、ゲル濾過クロマトグラフィー法、アフィニティークロマトグラフィー法等を用いることができる。実際には、生体組織、細胞、血液などに由来する多種類の夾雑物が混在するため、ヒト血清アルブミンの精製は、上記方法の複雑な組み合わせにより行われている。ヒト血清アルブミンの工業的生産においては、ヒトの体内環境と異なる諸条件で処理する必要があり、そのためにヒト血清アルブミンの多量体が生成する。ヒト血清アルブミンの臨床応用でこれらの多量体が人体に悪影響を及ぼすという報告はまだされていないが、これらの多量体による新たな抗原性の発現等の懸念がある。このような医薬品としての安全性の観点より、「ヒト血清アルブミン」の医薬品としての規格試験において多量体の混入限度が規定されており、製剤中の多量体の含量を充分低下させることは製造上の非常に重要な課題となっている。【0006】製造工程中に発生した多量体を除去するための方法が幾つか報告されている。例えば、血漿をエタノール分画した画分Vから、種々のクロマトグラフィー(Sephadex G-25, DEAE-及びCE-Sepharose CL-6B, Sephacryl S-200など)を組み合わせることにより、純度99%、凝集体(多量体と同義)1%以下のHSAが得られたこと(JOURNAL OF APPLIED BIOCHEMISTRY 5, 282-292, 1983)、あるいは画分Vに安定剤を加えて加熱処理(50〜70℃、1〜10時間)した後、硫安やポリエチレングリコール又は等電点沈殿法によって夾雑物やHSAの凝集体を除去したこと(特願昭63−265025)(特開平2−111728 )などが報告されている。【0007】しかしながら、これらの方法はいずれも、HSAの製造過程において生じたHSAの多量体を含有する溶液から、該多量体を除去することからなる、該多量体を含まないHSAの製造方法である。そのため、上記の方法に従えば、単量体に変換しうる多量体を除去、廃棄するばかりか、該除去操作に伴う単量体の収量の損失も免れない。HSA製剤が患者に対し非常に大量に投与される性質の製剤であり、他の蛋白質製剤に比較し膨大な生産量が必要なため、工業的には、多量体含量を充分低減したHSAをより高収率で生産できる製造方法が望まれている。【0008】【発明が解決しようとする課題】したがって、本発明の目的は、ヒト血清アルブミンの製造過程において、従来の方法では除去・廃棄していたヒト血清アルブミンの多量体を、効率的に単量体化するヒト血清アルブミンの製造方法を提供することにある。【0009】また、本発明の他の目的は、医薬品として安全性の高いヒト血清アルブミンを提供することにある。【0010】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記事情に鑑みて鋭意研究を進めた結果、多量体を含有するHSA又はrHSAの水溶液を、アルカリ性条件下で適当な時間放置することにより、該多量体が単量体に変換されることを発見し、本発明を完成するに至った。【0011】本発明は、ヒト血清アルブミンの多量体を、アルカリ性溶液で処理することを特徴とするヒト血清アルブミン多量体の単量体化方法を提供するものである。本発明はまた、該単量体化方法により得られた多量体含量を十分に低減したHSAを提供するものである。以下、本発明について詳述する。【0012】【発明の実施の形態】本発明の方法は、例えば、ヒト血清アルブミンの多量体を含有する水溶液に、アルカリ性物質を添加、混合してpHをアルカリ性に調整した後、しばらく放置し、該多量体を単量体化する工程によって特徴づけられる。この方法を適切な製造過程で1回又は複数回実施することにより、多量体の含有量が十分に低下した高純度のヒト血清アルブミンが効率的に製造される。【0013】本発明に使用されるヒト血清アルブミン多量体の由来については特に制限はなく、血漿由来のHSA又は遺伝子組換え技術により生産されるHSA(以下、これをrHSAと称することもある)から生じたものをアルカリ処理に供することができる。以下、HSA及びrHSAの多量体を単に多量体と称することもある。【0014】血漿からHSAを製造する際、各製造工程で多量体を生じることが予測されるが、いずれの工程で生じた多量体含有水溶液も使用可能である。例えば、低温アルコール分画の画分Vの水溶液、画分Vを更なる精製工程(クロマトグラフィー、熱処理など)に供した際に生じた各精製段階の多量体含有水溶液などが挙げられる。【0015】rHSA製造の際に生じた各製造工程の多量体含有水溶液も同様に使用することができる。例えば、rHSA産生宿主の培養物、該培養物を更なる製造工程(クロマトグラフィー、熱処理など)に供した際に生じた各精製段階の多量体含有水溶液などが挙げられる。ここで、培養物とは、上記宿主を培養した培養液及び宿主を通常使用される方法で破砕した宿主破砕液を含むものとする。rHSAの生産に用いる宿主としては、rHSAを生産することができる宿主であれば特に制限はなく、例えば、酵母、細菌、動物細胞、植物細胞などが挙げられ、好ましくは、酵母が使用される。【0016】製造過程でHSA又はrHSA中に含まれる多量体をアルカリ処理する際のHSA又はrHSAの濃度は、該HSA又はrHSAが溶解する濃度であれば特に制限はないが、好ましくは、100 mg/ml以下の濃度である。HSA又はrHSAの多量体を単量体化する際のアルカリ性溶液のpHは、好ましくは8〜11、さらに好ましくは、pH8.5〜9.5、最も好ましくは9.0である。【0017】アルカリ処理液のpHをアルカリ性にするのに使用される化学物質は、特に限定されない。例えば、アルカリ性有機化合物、アルカリ性無機化合物、具体的には、アンモニア、アンモニウム塩、塩基性金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)、ホウ酸塩、リン酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、クエン酸塩、トリスヒドロキシアミノメタン及びこれらの2種以上の混合物からなる群より選ばれる物質が挙げられる。【0018】かかる化学物質は、多量体を含有する水溶液の濃度により異なるが、HSA又はrHSAを変性させない濃度範囲で使用される。ヒト血清アルブミンの多量体の単量体化は、多量体を含有する水溶液をアルカリ性にした後、所定時間、好ましくは15分以上、さらに好ましくは3時間以上放置することにより行われる。放置時間の上限は特に限定されない。アルカリ処理を行う際の温度は、HSA及びrHSAを変性させない温度以下であれば良く、例えば、0〜65℃、好ましくは10〜40℃、さらに好ましくは室温(約25℃)である。【0019】遺伝子組換え技術を応用した製造においては、該rHSAを分泌する宿主の培養液又は該rHSA産生宿主を破砕した直後の破砕物を低速遠心分離した後、陽イオン交換、陰イオン交換、ゲル濾過、塩析、キレートクロマト、疎水性クロマト及び吸着クロマトなどの種々の精製方法又はこれらの組み合わせによる方法により高純度に精製される。【0020】また、血漿由来のHSAは、例えば、ヒト由来の血漿を低温エタノール分画し、約90%のアルブミンを含む画分Vを得た後、前記の精製方法を駆使して精製される。低温エタノール分画の前に、プロテアーゼによる分解を防ぐために加熱処理されることもある。【0021】本発明の方法は、前記のHSA又はrHSAの製造過程におけるいずれの工程で使用しても良い。好ましくは、pHが5以下の条件でヒト血清アルブミン溶液を処理する工程、例えば、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー後に生じた多量体を単量体化するのが効果的である。【0022】【発明の効果】本発明によれば、ヒト血清アルブミンの製造過程において、従来の技術では除去・廃棄していたヒト血清アルブミン多量体を、非常に簡便で低コストな方法であるアルカリ性溶液処理法を施すことにより、効率的に単量体に変換することができる。その結果、製剤中の多量体含量は従来技術と同等以上に低減でき、安全性の高いヒト血清アルブミン製剤を供給することができる。【0023】また、本発明の方法に従えば、アルカリ処理するだけでヒト血清アルブミンの多量体を単量体に変換し回収できるので、従来の方法のように多量体を排除することによって生じるヒト血清アルブミンの損失がなく、高収率でヒト血清アルブミンの単量体を回収することができる。したがって、本発明の方法は、ヒト血清アルブミンの製造における大幅なコスト低減を可能にする。【0024】【実施例】調製例:多量体を含有するヒト血清アルブミン溶液の調製特表平11−509525に述べられている方法に従って、酵母(Saccharomyces cerevisiae)によりrHSAを生産させた。このrHSAを含む培養液を精製水で約2倍容量になるように希釈後、酢酸水溶液を用いてpH4.5に調整した。50 mM塩化ナトリウムを含む50 mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)で平衡化したストリームラインSPカラム(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製)(径60cm×16cm)に展開した。次に、カラムの平衡化に用いた緩衝液と同じ緩衝液で洗浄し、次に、300 mM塩化ナトリウムを含む50 mMリン酸緩衝液(pH9.0)を送液してrHSA含有画分を得た。【0025】実施例1:ホウ酸塩を用いたrHSA多量体の単量体化調製例(1)にしたがって調製した、14.90%の多量体を含有するrHSAの10%水溶液(10 ml)に、5%(W/V)四ホウ酸二カリウム液(15 ml)を添加し、終濃度3%(pH約9.0)に調整した。その後、室温にて3時間放置し、適宜サンプリングして、これを、予め、0.1MKH2PO4/0.3MNaCl緩衝液で平衡化したTSKgel G300SW(東ソー社製)ゲル濾過カラムの高速液体クロマトグラフィーに供した。その結果に基づき、当該溶液中のアルブミン多量体の含量を算出した。3時間のアルカリ処理で、多量体の単量体への変換が進行し、良好なrHSA多量体の単量体化効果が認められた(表1)。【0026】【表1】【0027】実施例2:0.5 M水酸化ナトリウムを用いたrHSA多量体の単量体化調製例(1)にしたがって作製した、26.10%の多量体を含有するrHSAの10%水溶液(50 ml)に、0.5M水酸化ナトリウム水溶液(2.8 ml)を添加し、pHを約9に調整した。その後、室温にて5時間放置し、適宜サンプリングして、これを、予め、0.1MKH2PO4/0.3MNaCl緩衝液で平衡化したTSKgel G300SW(東ソー社製)ゲル濾過カラムの高速液体クロマトグラフィーに供した。その結果に基づき、当該溶液中のアルブミン多量体の含量を算出した。5時間のアルカリ処理で、多量体の単量体への変換が進行し、良好なrHSA多量体の単量体化効果が認められた(表2)。【0028】【表2】 ヒト血清アルブミンの多量体を、pH9.0のアルカリ性溶液で2〜8時間処理することを特徴とするヒト血清アルブミン多量体の単量体化方法。 ヒト血清アルブミンが遺伝子組換え技術により生産される組換えヒト血清アルブミンである請求項1記載の方法。 アルカリ性溶液の処理時間が、3〜5時間である請求項2記載の方法。 アルカリ性溶液の処理が、0〜65℃で行われる請求項1ないし3のいずれか1項記載の方法。 アルカリ性溶液の処理が、室温で行われる請求項4記載の方法。 アルカリ性溶液が、アルカリ性有機又は無機化合物からなる群より選ばれる物質で調製される請求項1ないし5のいずれか1項記載の方法。 アルカリ性溶液が、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ酸、ホウ酸塩、トリスヒドロキシアミノメタン及びこれらの2種以上の混合物からなる群より選ばれる物質で調製される請求項1ないし6のいずれか1項記載の方法。