タイトル: | 特許公報(B2)_エチリデンテトラシクロドデセンの製造方法 |
出願番号: | 2000322067 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | C07C 2/50,C07C 13/68 |
相田 冬樹 鈴木 貴 松村 泰男 JP 4545303 特許公報(B2) 20100709 2000322067 20001023 エチリデンテトラシクロドデセンの製造方法 JX日鉱日石エネルギー株式会社 000004444 前島 肇 100083035 相田 冬樹 鈴木 貴 松村 泰男 20100915 C07C 2/50 20060101AFI20100826BHJP C07C 13/68 20060101ALI20100826BHJP JPC07C2/50C07C13/68 C07C 2/50 C07C 13/68 特開平03−122196(JP,A) 特開昭61−007391(JP,A) 特開平10−287592(JP,A) 特開昭47−031970(JP,A) 1 2002128710 20020509 7 20070406 水島 英一郎 【0001】【発明の属する技術分野】本発明はエチリデンテトラシクロドデセン(以下、エチリデンTCDということがある)の製造方法に関する。詳しくは重質分の副生が少なく、かつ反応による熱の蓄積が少ないことにより、暴走反応を起こす可能性の低いエチリデンTCDの製造方法に関するものである。【0002】【従来の技術】TCD誘導体から得られるポリマーは、優れた光学特性、高透明性や耐熱性、吸油性を有するポリマーとして注目されている。ここでTCD誘導体を製造する方法としては、たとえば特開平3−128333号公報で代表されるように、芳香族溶媒の存在下にエチレン、シクロペンタジエン(以下、CPDということがある)またはジシクロペンタジエン(以下、DCPDということがある)とノルボルネン(特に2−ノルボルネンを意味し、以下、NBということがある)を加熱反応させる方法が提案されている。なお当該方法における芳香族溶媒としては、原料ノルボルネンの凝固を抑制するためにベンゼン、アルキルベンゼン等の芳香族溶剤、好ましくはトルエンを用いるとしている。【0003】この反応の原料、生成物ともに不飽和化合物であり、反応条件によっては反応系内に反応による熱が蓄積し反応が暴走する可能性がある。すなわち、この反応系内には、エチレン、CPD、DCPD、NB、TCDなどの外、これらの高次化合物等の不飽和化合物が共存する。これら不飽和化合物はさらに重合する可能性があるほか、DCPD、NB、TCD等は分解等も起こす可能性がある。これら各反応の発熱、吸熱等の程度の大小に従い、かつ各反応物質の存在量に従って、それぞれの反応系において反応による熱が蓄積し、その量が大きくなれば反応は暴走する可能性がある。一般に分解は吸熱反応であり、重合(付加)は発熱反応であるが、上記の化合物の中で重合反応性が最も高いものはCPDであり、その濃度が高い場合には発熱反応を起こして、反応が暴走する危険が大きい。さらにまた、従来の方法では、反応条件によっては重質分の副生を必ずしも十分に抑制することができない。【0004】エチリデンテトラシクロドデセンの製造方法として、特開昭47−31970号公報には、シクロペンタジエンおよび/またはジシクロペンタジエンと5−エチリデン−2−ノルボルネンとを加熱混合する方法が開示されている。また特開昭47−31971号公報には、ビニルテトラシクロドデセンのオレフィンを内部オレフィンに異性化することによりエチリデンテトラシクロドデセンを製造する方法が開示されている。さらに特開昭63−203635号公報には、5−ビニル−2−ノルボルネンとCPDおよび/またはDCPDとを120℃以上の温度で反応させることにより、付加反応とオレフィンの異性化反応とを同時に行うことによるエチリデンテトラシクロドデセンの製造方法が開示されている。しかしながらいずれの先行技術においても、安全に製造するための方法は開示されていない。【0005】【発明が解決しようとする課題】本発明の方法は、重質分の副生を抑制し、かつ、熱の蓄積を抑制して反応が暴走する可能性を抑えつつ反応させることが可能なエチリデンテトラシクロドデセンの製造方法を提供することを課題とする。【0006】【課題を解決するための手段】本発明者らは、本発明の原料および副生成物まで含む生成物について、生成反応、逆反応、重合反応等をそれぞれ検討し、その結果、CPDを低濃度に維持しつつ反応させることにより、重質分の副生が特異的に抑制されるとともに、反応による熱の蓄積も抑制が可能であることを見出して、本発明を完成した。すなわち本発明は、DCPDおよび下記構造式〔I〕で示される5−エチリデン−2−ノルボルネン(EBH)を加熱反応させて、下記構造式〔II〕で示されるエチリデンTCDを製造する場合において、前記DCPD中の初期におけるCPD含有量を10質量%以下にし、かつDCPDの初期濃度を用いて下記式(1)で求められるCPDの平衡濃度を2mol/kg以下にすることを特徴とするエチリデンTCDの製造方法に関するものである。[CPD]=2×α×[DCPD](0) ・・・・・・・・・・・・(1)〔式中、[CPD]はCPDの平衡濃度(mol/kg)、[DCPD](0)はDCPDの初期濃度(mol/kg)であり、初期のCPDはDCPDとしての濃度に換算する。なお、式(1)のαは、下記式(2)および(3)から求める。α=[−K+(K2+16K)0.5]/8 ・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)K=1.63×106exp(−7.83×103/T) ・・・・・・・・(3)ただし、Tは反応温度(絶対温度)〕【化2】【0007】以下、本発明について詳しく説明する。本発明の反応原料の一つであるDCPDとしては、市販のものを使用することができる。いかなる不純物を含むものでも使用可能であるが、その純度は90%以上であることが望ましい。また、DCPDから平衡反応によって生成するCPDも原料として使用可能であることから、本発明におけるDCPDとは、原料に元来含まれるCPDや、別途用意したCPDを原料に添加する場合のCPDも含むものであり、さらに、CPDを別途に反応系に供給することも可能であり、その場合のCPDも含むものとする。DCPDは100℃以上で分解しCPDが生成するが、後述のように本発明の反応温度は100℃以上であるため、原料として特にCPDを添加または供給する必要はなく、DCPDを反応系に供給すればよい。また、CPDは常温で重合しやすく、重合時に大量の熱を放出し危険性が高いので、このことからも、CPDはあえて原料として使用する必要はない。本発明においては、CPDを含むDCPDを原料として供給する場合およびCPDを別途原料に添加または反応系に供給する場合のいずれにおいても、初期におけるDCPD全体のCPD含有量を10質量%以下にすることが必要である。【0008】本発明において、構造式〔I〕で示されるEBHは原料として使用されるが、反応液から分離・回収したものを、新たに供給するEBHとともに原料として再利用することもできる。EBHはブタジエンとCPDとのディールス−アルダー反応付加体である5−ビニル−2−ノルボルネンのオレフィンを、強塩基により内部オレフィンに異性化する方法によって工業的に製造されている。本発明においては、このようにして製造したEBHを使用することが好ましい。【0009】本発明においてEBH/DCPD(CPDを一部または全部使用したときはDCPDに換算する)のモル比は0.1〜20であり、好ましくは0.5〜17、より好ましくは1〜15である。上記モル比が下限値よりも低い場合には、重質分などの副生成物が多く生成する。上限値よりも高い場合には、効率的にエチリデンTCD(構造式〔II〕で表示)を合成することができない。【0010】反応温度は100〜300℃であり、好ましくは120〜280℃、より好ましくは140〜270℃である。反応温度が下限値よりも低い場合には、DCPDを使用したときにCPDへの解離が少なく、そのため効率的なエチリデンTCDの製造が不可能になる。また上限値よりも高い場合には、重質分が多くなったり、エチリデンTCDの分解反応が生じるため好ましくない。【0011】反応圧力は常圧〜10MPa、好ましくは常圧〜8MPa、より好ましくは常圧〜5MPaである。【0012】滞留時間はバッチ式においても連続式においても1分〜24時間、好ましくは10分〜12時間、より好ましくは15分〜2時間である。滞留時間が下限値よりも短いときは、効率的なエチリデンTCDの製造が不可能である。また上限値よりも長い場合には、重質分が多くなったり、エチリデンTCDの分解反応が生じるため好ましくない。【0013】本発明においては、完全混合型およびピストンフロー型のいずれの反応器も使用することができる。ピストンフロー型反応器の市販品としては、ノリタケカンパニー(株)製「スタティックミキサー」、住友重機械工業(株)製「スルザーミキサー」、櫻製作所(株)製「スケヤミキサー」などが挙げられる。反応器は1段でもよく、2段以上の多段の構造とすることもできる。完全混合型反応器やピストンフロー型反応器は、直列または並列で組み合わせて使用することができる。連続的にTCD誘導体の製造を行う場合には、DCPDは昇圧機またはポンプにより加圧して反応系内へ供給することが望ましい。その他の原料であるノルボルネン誘導体とあらかじめ混合した後に供給してもよく、また別々に供給してもよい。別々に供給する場合には原料タンクおよびポンプが2台必要になるため、あらかじめ混合しておく方が好ましい。【0014】本発明を達成するためには、以下の式(1)〜(3)から求められるCPDの平衡濃度[CPD]が2mol/kg以下であることが必要である。[CPD]=2×α×[DCPD](0) ・・・・・・・・・・・・・・・・(1)ここで[DCPD](0)はDCPDの初期濃度(mol/kg)を示し、CPDを併用する時はDCPDに換算する。またαの値は下記式(2)および(3)から求める。α=[−K+(K2+16K)0.5]/8 ・・・・・・・・・・・・・・・・(2)K=1.63×108exp(−7.83×103/T) ・・・・・・・・(3)ただしTは反応温度(絶対温度)【0015】式(1)で求めたCPD濃度が2mol/kgを超えると、重質分の生成割合が増大し、特にCPDの多量体は固形物を生じて、ラインや安全弁などを閉塞する危険が生じ易い。またそのような閉塞が起こった場合、加熱域に式(1)〜(3)で計算されるCPD濃度が2mol/kgを超えて高い濃度で存在するときは、反応による発熱が蓄積し、その結果暴走反応を誘発し、安全弁からの噴出や、装置の破損など重大事故を招く可能性がある。その他、このような重大な事故に至らないまでも、式(1)〜(3)で計算されるCPD濃度が2mol/kgを超えて高い濃度で存在するときは、発熱が大きいため冷却の調整が困難になり易く、また重質分の副生も多くなるためいずれも好ましくない。【0016】なお、バッチ式および連続式のいずれで反応を行う場合も、エチリデンTCDの生成に伴いCPDやDCPDは消費されてその濃度が減少するが、式(1)〜(3)で計算されるCPD濃度が2mol/kgを超える高い濃度で存在しないように留意して反応させる。好ましくは式(1)〜(3)で計算されるCPDが1mol/kg以下、より好ましくは0.7mol/kg以下とする。また、CPDやDCPDは反応原料であるため、式(1)〜(3)で計算されるCPD濃度が著しく低い場合には、目的物のエチリデンTCDの収率が低下するので、通常は式(1)〜(3)で計算されるCPD濃度は0.01mol/kg以上にすることが好ましい。【0017】CPDが相互に付加反応を起こすことによりDCPDが生成するが、その生成熱はDCPD1モルあたり21kcalの発熱であり、逆反応の場合は21kcalの吸熱である。また同様にCPDとDCPDが付加反応を起こすことにより重質物が生成するが、その際の発熱量はCPD1モルあたり21kcalである。したがって、CPDをなるべく低濃度に維持することによって、暴走反応を抑制するという本発明の目的が達成される。【0018】本発明においては、炭化水素を反応溶媒として使用することができる。ベンゼン、トルエン、キシレンのほか、環境や人体に対する安全性等が高い点および溶解度が高い点から分枝脂肪族炭化水素または脂環族炭化水素が好ましく使用される。具体的にはシクロペンタン、シクロヘキサン、エチルシクロペンタン、ジメチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、3−エチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、3,3−ジメチルペンタン、n−オクタン、メチルヘプタン、ジメチルヘキサン、2,2,3−トリメチルペンタン、2,2,4−トリメチルペンタン、アルキレートガソリン、n−デカンなどである。ここでいうアルキレートガソリンとは、硫酸ジルコニア、硫酸、フッ化水素などの(超)強酸を触媒としてイソブタンをブテンでアルキル化したものであり、アルキル化生成物のうちトリメチルペンタンを主成分とする留分である。【0019】これらの炭化水素溶媒とEBHとの重量比は任意であるが、モル比としてEBH/炭化水素溶媒=0.1〜10の割合で使用することが好ましい。なお、上記のように溶媒を使用する場合においても、式(1)〜(3)で計算されるCPD濃度を2mol/kg以下にすることが肝要である。【0020】さらにまた、本発明においては反応系の適宜の個所において、酸化防止剤や重合禁止剤を加えて反応、蒸留等の操作を行うことができる。反応終了後、目的化合物であるエチリデンTCDは、適宜の蒸留により反応混合物から高純度で得ることができる。未反応EBH、DCPD、CPDなどの副生成物、およびその他の化合物は、適宜の蒸留により回収し、再使用することが可能である。【0021】【発明の実施の形態】以下、本発明を実施例により説明する。【実施例】<実施例1>5−エチリデン−2−ノルボルネン(720g)と、シクロペンタジエン3質量%を含むジシクロペンタジエン(132g)とを混合し、ポンプを使用して、外部との断熱性に優れた50mlのオートクレーブに空間速度が1.0h−1になるように液送した。反応温度は200℃とした。なお調圧弁を使用して、反応系内の圧力を5MPaに維持した。1時間連続運転を行い反応混合物を得て、ガスクロマトグラフィーにより分析を行った。式(1)〜(3)により計算されるCPD濃度は [CPD]=0.35mol/kgであり、ジシクロペンタジエンの転化率は90%であり、重質物への反応率は5%であった。また1時間連続運転後、ポンプを停止して原料の供給を止め、内容物を充填したまま反応器に設けた温度計により反応器の温度上昇を観察したが,特に発熱は見られなかった。【0022】<比較例1> 5−エチリデン−2−ノルボルネン(120g)と、シクロペンタジエン3質量%を含むジシクロペンタジエン(132g)とを混合し、ポンプを使用して、外部との断熱性に優れた50mlのオートクレーブに空間速度が1.0h−1になるように液送した。反応温度は230℃とした。なお調圧弁を使用して、反応系内の圧力を2MPaに維持した。1時間連続運転を行い反応混合物を得て、ガスクロマトグラフィーにより分析を行った。 式(1)〜(3)により計算されるCPD濃度は [CPD]=1.85mol/kgであり、ジシクロペンタジエンの転化率は98%であり、重質物への反応率は12%であった。 また1時間連続運転後、ポンプを停止して原料の供給を止め、内容物を充填したまま反応器に設けた温度計により反応器の温度上昇を観察したが、特に発熱は見られなかった。【0023】<比較例2> 5−エチリデン−2−ノルボルネン(137g)と、シクロペンタジエン3質量%を含むジシクロペンタジエン(132g)とを混合し、ポンプを使用して、外部との断熱性に優れた50mlのオートクレーブに空間速度が8.0h−1になるように液送した。反応温度は260℃とした。なお調圧弁を使用して、反応系内の圧力を7MPaに維持した。1時間連続運転を行い反応混合物を得て、ガスクロマトグラフィーにより分析を行った。 式(1)〜(3)により計算されるCPD濃度は [CPD]=2.50mol/kgであり、ジシクロペンタジエンの転化率は82%であり、重質物への反応率は29%であった。なおこの留出液を静置しておいたところ、白色の沈澱物が見られた。 また1時間連続運転後、ポンプを停止して原料の供給を止め、内容物を充填したたまま反応器に設けた温度計により反応器の温度上昇を確認したところ、発熱が認められた。またその内容物は白濁しており、大量のポリマーが確認された。【0024】【発明の効果】本発明のエチリデンTCDの製造方法においては、式(1)、(2)および(3)による計算を用いてCPDの最大合計濃度を規定することにより、暴走反応を防止することができ、安全に目的物を収率よく得ることができる。 ジシクロペンタジエンおよび下記構造式〔I〕で示される5−エチリデン−2−ノルボルネンを200〜300℃で加熱反応させて、下記構造式〔II〕で示されるエチリデンテトラシクロドデセンを製造する場合において、 前記ジシクロペンタジエン中の初期におけるシクロペンタジエン含有量を10質量%以下にし、かつジシクロペンタジエン(DCPD)の初期濃度を用いて下記式(1)で求められるシクロペンタジエン(CPD)の平衡濃度を0.7mol/kg以下にすることを特徴とするエチリデンテトラシクロドデセンの製造方法。 [CPD]=2×α×[DCPD](0) ・・・・・・・・・・・・・(1)〔式中、[CPD]はCPDの平衡濃度(mol/kg)、[DCPD](0)はDCPDの初期濃度(mol/kg)であり、初期のCPDはDCPDとしての濃度に換算する。 なお、式(1)のαは、下記式(2)および(3)から求める。 α=[−K+(K2+16K)0.5]/8 ・・・・・・・・・・・・・・・・・(2) K=1.63×106exp(−7.83×103/T) ・・・・・・・・・(3) ただし、Tは反応温度(絶対温度)〕