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タイトル:特許公報(B2)_無菌的なリポソームの製造方法
出願番号:2000319088
年次:2011
IPC分類:A61K 9/127,A61K 38/16,A61P 43/00


特許情報キャッシュ

緒方 嘉貴 渡邊 英二 後藤 博 JP 4709367 特許公報(B2) 20110325 2000319088 20001019 無菌的なリポソームの製造方法 テルモ株式会社 000109543 渡辺 望稔 100080159 三和 晴子 100090217 緒方 嘉貴 渡邊 英二 後藤 博 20110622 A61K 9/127 20060101AFI20110602BHJP A61K 38/16 20060101ALI20110602BHJP A61P 43/00 20060101ALI20110602BHJP JPA61K9/127A61K37/14A61P43/00 111 A61K 9/127 A61K 38/16 A61P 43/00 特開平04−029925(JP,A) 特開平01−117824(JP,A) 国際公開第99/025319(WO,A1) 8 2002128660 20020509 15 20070914 岩下 直人 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、医薬品やその担体として利用されるリポソームの製造方法および製造装置に関し、詳しくは、薬剤等を内包するリポソームを無菌的に製造する方法および装置に関する。【0002】【従来の技術】リポソームを水溶性の薬剤の担体として利用する試みが広く行われている(Gregoriadis et al.,Ann.N.Y.A cad.Sci.,466, 319(1985))。また、リポソームのない水相に酸素運搬体であるヘモグロビンを内包させ、リポソームを人工の酸素運搬体として利用する試みも行われている(特開昭62−178521号公報)。これらのように、リポソームを薬剤の担体や人工酸素運搬体として使用する場合には、リポソームが無菌状態にあることは必須の要件である。【0003】一般に、リポソーム製剤を製造するにあたっては、リポソーム膜成分物質を均一に混合する工程と、混合物を有機溶媒に溶解する工程と、乾燥して有機溶媒を除去する工程と、得られた粉末に水を添加し混練する工程と、得られた均一なリポソーム膜成分物質混合物に薬物等の水溶液を加え、リポソーム膜成分物質を水和させる工程とを必要とする。この場合、最終的に得られたリポソーム製剤を滅菌することを目的として、孔径0.2μm程度のフィルターでろ過滅菌するという方法が用いられている。しかしながら、ろ過滅菌により滅菌する方法は、リポソーム製剤を無菌的に製造するものではなく、あくまで製造されたリポソーム製剤から除菌するものであるから、リポソーム製造工程初期に菌が混入した場合には、製造工程中に菌が増殖するため、菌の代謝産物が原因となる発熱性物質の現出が避けられない。そして、従来行われているリポソームの製造においては、解放系で行う操作があるのが通常であるため、上述したような菌の混入が常に問題となる。【0004】【発明が解決しようとする課題】本発明は、薬剤等を内包するリポソームを無菌的に製造することができるため、菌の混入の問題がないリポソームの製造方法および製造装置を提供することを課題とする。【0005】【課題を解決するための手段】本発明は、リポソーム膜成分物質を水と混合しうる有機溶媒に溶解する工程と、得られた溶液をろ過滅菌する工程と、得られたろ過滅菌後の溶液と、滅菌水とを、滅菌された密閉系において混合する工程と、得られた混合溶液を滅菌された密閉系において攪拌しながら有機溶媒を減圧留去し、リポソーム膜成分物質水和物を得る工程と、得られたリポソーム膜成分物質水和物に、薬剤および/または生理活性物質を含有する滅菌された水溶液を、滅菌された密閉系において添加する工程と、得られた水溶液添加後のリポソーム膜成分物質水和物を、滅菌された密閉系において乳化し、リポソームを得る工程とを具備するリポソームの製造方法を提供する。【0006】前記有機溶媒がアルコールであるのが好ましい。【0007】 前記水と混合しうる有機溶媒にリポソーム膜成分物質を溶解する工程において、有機溶媒1mLに対してリポソーム膜成分物質を0.5gより多く5g以下の割合で溶解する。【0008】前記有機溶媒と前記滅菌水との量比が、有機溶媒1mLに対して滅菌水0.5〜15mLであるのが好ましい。【0009】前記リポソーム膜成分物質水和物における有機溶媒の残留量が、1000ppm以下であるのが好ましい。【0010】前記薬剤および/または生理活性物質が、少なくともヘモグロビンを含むのは、好ましい態様の一つである。【0011】また、本発明は、上記のリポソームの製造方法により得られるリポソームを提供する。【0012】更に、本発明は、リポソーム膜成分物質を水と混合しうる有機溶媒に溶解させて得た溶液を通過させてろ過滅菌する手段と、得られた溶液と、滅菌水とを混合する手段と、得られた混合溶液を攪拌しながら有機溶媒を減圧留去し、リポソーム膜成分物質水和物を得る手段と、得られたリポソーム膜成分物質水和物と、添加された薬剤および/または生理活性物質を含有する滅菌された水溶液とを混合する手段と、得られた混合液を乳化し、リポソームを得る手段とを備えるリポソームの製造装置であって、ろ過滅菌させて得られた溶液と、滅菌水と、薬剤および/または生理活性物質を含有する滅菌された水溶液とからリポソームを得るまでの各物質が存在する系のすべてにおいて、滅菌状態が維持されていることを特徴とするリポソームの製造装置を提供する。【0013】更に、本発明は、リポソーム膜成分物質を水と混合しうる溶媒に溶解させて得た溶液を滅菌フィルターを介して導入する第一のポートと、水を滅菌フィルターを介して導入する第二のポートと、薬剤および/または生理活性物質を含有する水溶液を滅菌フィルターを介して導入する第三のポートと、攪拌手段とを備える密閉容器と;真空ポンプを備え、該密閉容器の内部に存在する溶媒を減圧留去することができる減圧手段と;該密閉容器の外周部に配置され、該密閉容器を加熱することができる加熱ジャケットとを備えるリポソームの製造装置を提供する。【0014】【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明のリポソームの製造方法は、リポソーム膜成分物質を水と混合しうる有機溶媒に溶解する工程と、得られた溶液をろ過滅菌する工程と、得られたろ過滅菌後の溶液と、滅菌水とを、滅菌された密閉系において混合する工程と、得られた混合溶液を滅菌された密閉系において攪拌しながら有機溶媒を減圧留去し、リポソーム膜成分物質水和物を得る工程と、得られたリポソーム膜成分物質水和物に、薬剤および/または生理活性物質を含有する滅菌された水溶液を、滅菌された密閉系において添加する工程と、得られた水溶液添加後のリポソーム膜成分物質水和物を、滅菌された密閉系において乳化し、リポソームを得る工程とを具備するリポソームの製造方法である。【0015】本発明のリポソームの製造方法の第一の工程は、リポソーム膜成分物質(以下単に「膜成分物質」ともいう。)を水と混合しうる有機溶媒に溶解する工程である。本発明に用いられる膜成分物質は、特に限定されず、リポソームを形成しうる天然または合成の脂質であればよい。中でも、リン脂質が好適に用いられる。例えば、レシチン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリン、およびこれらを常法に従って水素添加したものが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。【0016】膜成分物質は、上記脂質に、添加剤としてステロール類等の膜構造強化剤;ホスファチジン酸、シセチルホスフェート、各種高級脂肪酸(例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸)等の電荷付与物質等を添加して用いることができる。【0017】本発明に用いられる有機溶媒は、水と混合しうる有機溶媒であれば特に限定されないが、沸点が水より低いものであるのが好ましい。本発明に用いられる有機溶媒としては、例えば、アルコールが挙げられる。好適な具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール等の揮発性のアルコールが挙げられる。中でも、比較的生体に毒性が低く、膜成分物質の溶解性に優れるエタノール、2−プロパノールが好ましい。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。【0018】以前から、リポソームの製造においては、膜成分物質の溶解のための有機溶媒としては、クロロホルム、ジクロロメタン等の塩素系有機溶媒が一般的に用いられている。しかし、これらの溶媒は水を添加すると相分離を起こすため、脂質の完全な水和物を得るためには激しく攪拌する必要がある。また、医薬品原料としての膜成分物質中にそのような生体に有毒な塩素系有機溶媒が混入することは好ましくない。本発明においては、膜成分物質を溶解する有機溶媒として、水と混合しうる有機溶媒、好ましくはアルコールを用いるので、上記のような問題はない。【0019】本発明においては、上記有機溶媒1mLに対して膜成分物質を0.5gより多く5g以下の割合で溶解するのが好ましい。上記範囲であると、後の工程で有機溶媒を留去する際の効率がよく、また、リポソームが形成されてしまうということもない。また、水と混合しうる有機溶媒に膜成分物質を溶解する際には、溶解温度における有機溶媒に対する膜成分物質の溶解度をあらかじめ測定し、完全に溶解する量比で用いるのが好ましい。溶解温度は、高いほど溶解度が大きくなるので好ましいが、有機溶媒の沸点以下とするのが好ましく、また、膜成分物質の分解温度以下とするのが好ましい。【0020】本発明に用いられる有機溶媒には、薬剤および/または生理活性物質を含有させることができる。薬剤は、有機溶媒に溶解するものであれば、特に限定されない。例えば、シメチジン、ファモチジン、プロプラノール、ニフェジピン、ニカルジピン、テオフィリン、ミコナゾール、インドメタシン、フルルビプロフェン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、グリセオフルビン、アンホテリシンB、アゼラスチン、シスプラチンが挙げられる。薬剤として、体内で長時間安定にとどまり徐々に放出されることが所望されているものや、特定の臓器に速やかに分布することが所望されているものを用いるのは、本発明の好適な態様の一つである。生理活性物質は、有機溶媒に溶解するものであれば、特に限定されない。例えば、ビタミンD3 、ビタミンA、プロスタグランディンが挙げられる。【0021】本発明のリポソームの製造方法の第二の工程は、得られた溶液をろ過滅菌する工程である。ろ過滅菌は、膜成分物質を溶解した有機溶媒を、ろ過滅菌フィルターを通すことにより行う。ろ過滅菌フィルターは、孔径0.45μm以下であるのが好ましい。例えば、孔径0.2μmのろ過滅菌フィルターを用いる。ろ過滅菌は、膜成分物質を有機溶媒に溶解した際の温度を維持しながら行うのが好ましい。ろ過滅菌後の溶液の温度が、溶解時の温度より低くなると、膜成分物質が析出する場合がある。【0022】本発明のリポソームの製造方法の第三の工程は、得られたろ過滅菌後の溶液と、滅菌水とを、滅菌された密閉系において混合する工程である。本発明に用いられる滅菌水は、滅菌されている水であれば特に限定されないが、イオン、塩等を含まない水であるのが好ましく、そのような水を、例えば、孔径0.2μmのろ過滅菌フィルターによりろ過滅菌して用いることができる。滅菌水の量は、有機溶媒留去後のリポソーム膜成分物質水和物(以下単に「膜成分物質水和物」ともいう。)における有機溶媒の残留量が、医薬品としての安全性を確保できる量以下になる程度に多ければ問題ないが、第一の工程で用いられる有機溶媒と本工程で用いられる滅菌水との量比が、有機溶媒1mLに対して滅菌水0.5〜15mLであるのが好ましい。上記範囲であると、膜成分物質水和物における有機溶媒の残留量を1000ppm以下としやすく、かつ、後の工程で添加される薬剤および/または生理活性物質の濃度を十分に高くすることができる。また、滅菌水は、後述する薬剤および/または生理活性物質を含有するものであってもよい。【0023】本工程においては、上記ろ過滅菌後の溶液と、上記滅菌水とが、滅菌された密閉系において混合される。滅菌された密閉系は、特に限定されないが、例えば、密閉系を維持しうる容器であって、滅菌されているものを用いることができる。滅菌の方法は、特に限定されず、例えば、高圧蒸気滅菌法、乾式加熱滅菌法、エチレンオキシドガス滅菌法、放射線(例えば、電子線、X線、γ線)滅菌法、オゾン水による滅菌法、過酸化水素水による滅菌法を用いることができる。ろ過滅菌後の溶液と滅菌水との混合は、そのような滅菌された密閉系において、例えば、ディスパー、パドル等を用いて攪拌することにより行う。【0024】本発明のリポソームの製造方法の第四の工程は、得られた混合溶液を滅菌された密閉系において攪拌しながら有機溶媒を減圧留去し、膜成分物質水和物を得る工程である。本工程においては、混合溶液を攪拌しながら混合溶液中の有機溶媒を留去する。有機溶媒の留去は、加熱により50〜80℃で行うのが好ましい。前記温度に達したら、減圧して、得られる膜成分物質水和物における有機溶媒の残留量が好ましくは1000ppm以下、より好ましくは検出限界以下となるまで有機溶媒を留去し、膜成分物質水和物を得る。本工程においては、混合溶液中の有機溶媒が留去されると同時に、混合溶液中の水も留去される。本発明に用いられるアルコール等の水と混合しうる有機溶媒は、水よりも留去されやすいので、上述したように有機溶媒と滅菌水との量比が、有機溶媒1mLに対して滅菌水0.5〜15mLであると、膜成分物質を水和させつつ、有機溶媒の残留量を1000ppm以下とすることができる。【0025】得られる膜成分物質水和物は、膜成分物質に対する水の質量比が0.5〜3.0であるのが好ましく、0.8〜2.0であるのがより好ましい。上記範囲であると、薬剤および/または生理活性物質を含有する水溶液を後に添加したときに、リポソームが含有しうる薬剤および/または生理活性物質の濃度が高くなる。【0026】滅菌された密閉系は、特に限定されないが、例えば、密閉系を維持しうる容器であって、滅菌されているものを用いることができる。【0027】本発明のリポソームの製造方法の第五の工程は、得られた膜成分物質水和物に、薬剤および/または生理活性物質を含有する滅菌された水溶液を、滅菌された密閉系において添加する工程である。薬剤は、水溶性であれば特に限定されず、例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、5−FU、メソトレキセート、アセトアミノフェン、アセトゾラミド、ヒドララジン、アミノフィリン、その他各種薬物の塩類が挙げられる。生理活性物質は、水溶性であれば特に限定されず、例えば、ヘモグロビン、インシュリン、ヘパリン、ウロキナーゼ、ネオマイシン、スーパーオキシドディスムターゼが挙げられる。薬剤および生理活性物質は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよく、また、1種以上の薬剤と1種以上の生理活性物質とを併用してもよい。中でも、薬剤および/または生理活性物質が、少なくともヘモグロビンを含むのが本発明の好ましい態様の一つである。【0028】薬剤および/または生理活性物質は、滅菌された水溶液とされる。滅菌された水溶液とする方法は、例えば、これらを滅菌水に溶解する方法、これらを滅菌されていない水に溶解した後、例えば、孔径0.2μmのろ過滅菌フィルターを通過させる方法が挙げられる。滅菌された密閉系は、特に限定されないが、例えば、密閉系を維持しうる容器であって、滅菌されているものを用いることができる。膜成分物質水和物に薬剤および/または生理活性物質を含有する水溶液を添加した後は、ディスパー、パドル等を用いて膜成分物質水和物と薬剤および/または生理活性物質を十分に攪拌、混合するのが好ましい。【0029】本発明のリポソームの製造方法の第六の工程は、得られた水溶液添加後の膜成分物質水和物を、滅菌された密閉系において乳化し、リポソームを得る工程である。乳化は、超音波照射法、フレンチプレス、高速攪拌法、エクストルージョン法、マイクロフルイダイザー法、高圧ホモジナイザー法等の公知の方法を用いて行うことができる。滅菌された密閉系は、特に限定されないが、例えば、密閉系を維持しうる容器であって、滅菌されているものを用いることができる。本工程の滅菌された密閉系は、第五の工程の滅菌された密閉系と同一であってもよい。【0030】上記製造方法により得られる本発明のリポソームは、滅菌された原料を用い、滅菌された密閉系において製造されるため、無菌であり、かつ、発熱性物質の現出もないので、薬剤の担体や人工酸素運搬体として好適に使用することができる。【0031】本発明のリポソームは、メンブランフィルターで粒径制御してもよいし、未保持の薬剤および/または生理活性物質を限外ろ過、遠心分離、ゲルろ過等の手段で除いてもよい。これらの処理を滅菌状態を維持しつつ行うと、上記目的に好適に使用することができる。【0032】特許第2043837号明細書においては、リポソーム膜成分物質を揮発性有機溶媒に溶解し、得られた溶液に水和物の形成に必要な量の生理活性物質を含まない水を加え、撹拌しながら有機溶媒を除去して薄膜を形成することなく膜成分物質水和物を作り、これに生理活性物質を含有する水溶液を加えて分散することを特徴とするリポソームの製法が記載されているが、この方法はリポソームを無菌的に得るものではない。これに対し、本発明のリポソームの製造方法は、滅菌された原料を用い、滅菌された密閉系においてリポソームを製造するものであるため、得られるリポソームは無菌であり、かつ、発熱性物質の現出もないので、薬剤の担体や人工酸素運搬体として好適に使用することができる。特に、以下のような場合に極めて有用である。第一に製造後のリポソームの粒径が直径0.2μmより大きく、製造後にろ過滅菌を適用することができない場合、第二にその製造工程中に間欠的な60℃等の加熱処理により、カビ等の常在菌を減らすことのできないホルモン製剤、タンパク製剤を製造する場合、第三に製造時間が長時間にわたり、菌の汚染が生じたときに増殖する時間が生じてしまう製造方法を採らなければならない場合に有用である。【0033】本発明のリポソームの製造方法を実施する手段は、特に限定されないが、後述する本発明のリポソームの製造装置により実施するのが好ましい。【0034】本発明のリポソームの製造装置の一例は、リポソーム膜成分物質を水と混合しうる有機溶媒に溶解させて得た溶液を通過させてろ過滅菌する手段と、得られた溶液と、滅菌水とを混合する手段と、得られた混合溶液を攪拌しながら有機溶媒を減圧留去し、リポソーム膜成分物質水和物を得る手段と、得られたリポソーム膜成分物質水和物と、添加された薬剤および/または生理活性物質を含有する滅菌された水溶液とを混合する手段と、得られた混合液を乳化し、リポソームを得る手段とを備えるリポソームの製造装置であって、ろ過滅菌させて得られた溶液と、滅菌水と、薬剤および/または生理活性物質を含有する滅菌された水溶液とからリポソームを得るまでの各物質が存在する系のすべてにおいて、滅菌状態が維持されていることを特徴とするリポソームの製造装置(以下「本発明の第一の態様の装置」ともいう。)である。以下、本発明の第一の態様の装置について、図1に基づいて詳細に説明する。なお、本発明の第一の態様の装置は、図1の態様に限定されるものではない。【0035】図1に示す実施態様において、膜成分物質を投入口1より投入し、あらかじめ投入口2より投入しておいた水と混合しうる有機溶媒に、容器3の中で溶解させる。この際、攪拌機4により攪拌しつつ溶解させるのが好ましい。また、加熱手段5により溶解温度を高くすると、有機溶媒における膜成分物質の溶解度が大きくなるので好ましい。膜成分物質を水と混合しうる有機溶媒に溶解させる方法は、上記方法に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。膜成分物質を水と混合しうる有機溶媒に溶解させて得た溶液を排出口6から容器外に排出させ、ろ過滅菌手段7を通過させて、ろ過滅菌する。ろ過滅菌する手段7としては、ろ過滅菌フィルターを用いる。ろ過滅菌フィルターは、孔径0.45μm以下であるのが好ましい。例えば、孔径0.2μmのろ過滅菌フィルターを用いる。【0036】ろ過滅菌して得られた溶液を投入口8より投入し、一方、蒸留水をろ過滅菌フィルター9を通過させて滅菌水としてから投入口10より投入し、両者を容器11中で混合手段12により混合する。容器11は、特に限定されず、密閉系を維持しうる容器であって、滅菌されているものであればよい。ろ過滅菌後の溶液と滅菌水とを混合する手段12は、特に限定されないが、例えば、ディスパー、パドル等を用いる。【0037】得られた混合溶液を攪拌し(図1では混合手段12により攪拌することができる。)、所望により加熱手段13で加熱しながら、真空ポンプ14を用いて容器11の内部を減圧とし、混合溶液中の有機溶媒を排出口15から留去し、膜成分物質水和物を得る。【0038】得られた膜成分物質水和物に、薬剤および/または生理活性物質を含む水溶液をろ過フィルター9を通過させて投入し、両者を容器11内で混合手段12により混合する。また、得られた膜成分物質水和物を排出口16から容器外に排出し、薬剤および/または生理活性物質を含有する滅菌された水溶液と混合してもよい。この場合の混合手段(図示せず)は、特に限定されないが、例えば、ディスパー、パドル等を用いる。【0039】得られた混合液を排出口16より容器11に圧力を加えることで乳化装置(例えば、商品名:アジホモミクサー、特殊機化工業社製)の投入口17より容器21に投入し、乳化手段19により乳化し、リポソームを得る。ここで、フィルター18は排気口をふさいでおり、パドル20は全体流を起こすとともに、壁面にたまる原料や生成物をかき取る。また、加熱手段22は乳化時の温度を調節するために用いられる。得られたリポソームは、排出口23から供給路を通じて外部に供給される。このとき、例えば、乳化手段の攪拌羽根を周速20m/sec以上の速度で1〜180分間回転させることによりリポソームを得ることができる。乳化手段としては、上記のほかに、超音波乳化法、フレンチプレス、高速攪拌法、エクストルージョン法、マイクロフルイダイザー法、高圧ホモジナイザー法等の公知の方法を用いることができる。【0040】本発明の製造装置においては、ろ過滅菌させて得られた溶液と、滅菌水と、薬剤および/または生理活性物質を含有する滅菌された水溶液とからリポソームを得るまでの各物質が存在する系のすべてにおいて、滅菌状態が維持されている。即ち、本発明の第一の態様の装置においては、菌が混入することがない。例えば、図1の実施態様の場合、ろ過滅菌フィルター7および9の内側、ろ過滅菌フィルター7および9から容器11への供給路、容器11の内面と混合手段12の外面とからなる空間、容器11から容器21への供給路、容器21の内面と乳化手段19の外面とパドル20の外面とからなる空間、排出口23から外部への供給路のすべて滅菌されており、かつ、その状態を維持できるように密閉されている。【0041】本発明の製造装置を用いる際には、リポソームの原料として、ろ過滅菌させて得られた溶液と、滅菌水と、添加された薬剤および/または生理活性物質を含有する滅菌された水溶液とを用いる。即ち、リポソームの原料物質は、すべて滅菌状態とされて供給される。したがって、本発明の製造装置により得られるリポソームは、滅菌状態の原料から、常に滅菌状態を維持して製造されるので、無菌であり、薬剤の担体や人工酸素運搬体として好適に使用することができる。【0042】本発明の第一の態様の装置の具体的態様としては、例えば、リポソーム膜成分物質を水と混合しうる溶媒に溶解させて得た溶液を滅菌フィルターを介して導入する第一のポートと、水を滅菌フィルターを介して導入する第二のポートと、薬剤および/または生理活性物質を含有する水溶液を滅菌フィルターを介して導入する第三のポートと、攪拌手段とを備える密閉容器と;真空ポンプを備え、該密閉容器の内部に存在する溶媒を減圧留去することができる減圧手段と;該密閉容器の外周部に配置され、該密閉容器を加熱することができる加熱ジャケットとを備えるリポソームの製造装置(以下「本発明の第二の態様の装置」ともいう。)が挙げられる。【0043】本発明の第二の態様の装置によってリポソームを製造する方法について説明する。初めに、密閉容器の内部を滅菌する。滅菌手段は特に限定されず、上述した各方法によることができるが、例えば、膜成分物質と、水と、薬剤および/または生理活性物質のそれぞれを投入する各ポートにろ過膜を装着した状態で各ポートから20%過酸化水素水を流し入れて滅菌し、排出後、ジャケットにより加熱して過酸化水素水を留去することにより、密閉容器を滅菌することができる。つぎに、第一のポートから膜成分物質を水と混合しうる溶媒に溶解させて得た溶液を滅菌フィルターを介して導入し、第二のポートから水を滅菌フィルターを介して導入する。これを密閉容器の備える攪拌手段によって攪拌し、両者を混合する。得られた混合溶液を攪拌手段で攪拌し、所望により加熱ジャケットで加熱しながら、真空ポンプを備える減圧手段を用いて密閉容器の内部を減圧とし、混合溶液中の有機溶媒を留去し、膜成分物質水和物を得る。ついで、第三のポートから薬剤および/または生理活性物質を含有する水溶液を滅菌フィルターを介して導入し、攪拌手段を用いて、密閉容器内の膜成分物質水和物と混合する。更に、得られた混合液を攪拌手段により高速攪拌して乳化し、リポソームを得ることができる。【0044】前記攪拌手段は、混合手段および乳化手段として機能するものであれば特に限定されない。例えば、攪拌羽根を有する攪拌機や超音波攪拌装置を用いることができる。また、密閉容器自体が密閉状態を維持したまま高速回転しうるような構造としてもよい。前記攪拌手段は、乳化手段として機能しないものでもよく、その場合は密閉容器に密閉された経路で連結される乳化装置で処理する。また、前記攪拌手段が乳化手段として機能するものであっても、更に細かくするために、前記のような乳化装置で別途処理してもよい。【0045】本発明の第二の態様の装置の材質は、特に限定されないが、例えば、全体をステンレス製とし、パッキングを耐熱性に優れるテフロン製等とし、ジャケットで加熱して全体を滅菌することができるようにすることができる。【0046】本発明の第二の態様の装置は、一つの密閉容器内でリポソームを製造することができる。したがって、密閉容器を初めに滅菌しておけば、滅菌状態を維持しつつリポソームの製造を行うことができる。即ち、リポソームの製造において従来行われているような解放系で行う操作が、本発明の第二の態様の装置の場合はないので、菌の混入という問題が全くない。【0047】【実施例】以下、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。1.リポソーム膜成分物質水和物の残留溶媒量の測定および無菌試験以下の操作は、本発明の第二の態様の装置を用いて行った。ビーカー中の水素添加大豆レシチン63.49g、コレステロール31.22gおよびミリスチン酸5.29gに、2−プロパノール150mLを添加した後、70℃に加熱して、完全に溶解するまで攪拌した。これをあらかじめ滅菌したアジホモミクサー(特殊機化工業社製)に孔径0.2μmのろ過滅菌フィルターでろ過滅菌しながら第一のポートから投入した。その後、逆浸透水(RO水)を100mL、150mLおよび200mLの3条件で、上記と同様にろ過滅菌して滅菌水としながらアジホモミクサーに第二のポートから投入した。温度を70℃に保ち、100Torr(1.33×104 Pa)、パドル回転数100rpm、20〜80分間の減圧条件で2−プロパノールを減圧留去し、膜成分物質水和物を得た。【0048】得られた膜成分物質水和物を取り出し、残留溶媒量の測定および無菌試験を行った。残留溶媒量の測定は、ガスクロマト法によって行った。無菌試験は、クリーンベンチの中で約1gの膜成分物質水和物を取り、滅菌した下記組成の寒天培地に塗抹し、72時間、35℃の条件で培養したときのコロニー数を確認することにより行った。コロニー数が0であるときを無菌試験合格とした。<SCDA培地(40.0g/1000mL)組成>・トリプトン(カゼインペプトン) 15.0g・ソイペプトン(ソーヤペプトン) 5.0g・塩化ナトリウム 5.0g・寒天抹 15.0g・精製水 1000mL・pH7.3±0.1【0049】結果を第1表に示す。有機溶媒と滅菌水との量比が、有機溶媒1mLに対して滅菌水0.5〜15mLであると、減圧処理時間を選択することにより、膜成分物質水和物における有機溶媒の残留量を1000ppm以下とすることができることが分かる。特に、滅菌水の量を200mLとした場合(有機溶媒1mLに対して滅菌水1.33mL)は、減圧処理時間を60分以上とすれば、有機溶媒の残留量を検出限界以下とすることができた。また、すべての膜成分物質水和物は、無菌試験合格であった。【0050】【表1】【0051】2.リポソームの製造等(実施例1)以下の操作は、本発明の第二の態様の装置を用いて行った。ビーカー中の水素添加大豆レシチン63.49g、コレステロール31.22gおよびミリスチン酸5.29gに、2−プロパノール150mLを添加した後、70℃に加熱して、完全に溶解するまで攪拌した。これをあらかじめ滅菌したアジホモミクサーに孔径0.2μmのろ過滅菌フィルターでろ過滅菌しながら第一のポートから投入した。その後、RO水200mLを上記と同様にろ過滅菌して滅菌水としながらアジホモミクサーに第二のポートから投入した。温度を70℃に保ち、100Torr(1.33×104 Pa)、パドル回転数100rpm、60分間の減圧条件で2−プロパノールを減圧留去した。その後、ヘモグロビン水溶液1000mL(ヘモグロビン濃度45w/v%)を、上記と同様にろ過滅菌しながら第三のポートから投入し、温度を70℃に保ったままホモミクサー回転数1000rpm(周速3m/sec)、パドル回転数100rpmにて10分間混合攪拌した後、温度を70℃に保ったままホモミクサー回転数10000rpm(周速30m/sec)、パドル回転数100rpmにて100分間混合攪拌し、リポソームを得た。同じ条件で10回リポソームを製造し、リポソームの無菌試験を行った。【0052】無菌試験は、リポソーム100mLを日本薬局方無菌試験法メンブランフィルター法でろ過し、ろ過に用いたフィルターを、滅菌した生理食塩水200mLで洗浄した後、滅菌した前記組成のSCDA培地に載せ、72時間、35℃の条件で培養したときのコロニー数を確認することにより行った。コロニー数が0であるときを無菌試験合格とした。【0053】(比較例1)ビーカー中の水素添加大豆レシチン63.49g、コレステロール31.22gおよびミリスチン酸5.29gに、t−ブタノール150mLを添加した後、70℃に加熱して、完全に溶解するまで攪拌した。これをあらかじめ滅菌した凍結乾燥ビンに、孔径0.2μmのろ過滅菌フィルターでろ過滅菌しながら入れ、凍結後2日間凍結乾燥した。この凍結乾燥リポソーム膜成分物質混合物を、滅菌したサジを用いて、あらかじめ滅菌したアジホモミクサーに投入した。その後、RO水200mLを上記と同様にろ過滅菌して滅菌水としながらアジホモミクサーに投入した。温度を70℃に保ち、100Torr(1.33×104 Pa)、パドル回転数100rpm、60分間の減圧条件でt−ブタノールを減圧留去した。その後、ヘモグロビン水溶液1000mL(ヘモグロビン濃度45w/v%)を、上記と同様にろ過滅菌しながら投入し、温度を70℃に保ったままホモミクサー回転数1000rpm(周速3m/sec)、パドル回転数100rpmにて10分間混合攪拌した後、温度を70℃に保ったままホモミクサー回転数10000rpm(周速30m/sec)、パドル回転数100rpmにて100分間混合攪拌し、リポソームを得た。同じ条件で10回リポソームを製造し、実施例1と同様の方法により、リポソームの無菌試験を行った。【0054】(比較例2)用いたt−ブタノールの量を500mLとしたこと、および、凍結乾燥リポソーム膜成分物質混合物を、滅菌したサジを用いて、あらかじめ滅菌したアジホモミクサーに投入した後、更に耐熱性菌であるB.stearothermophilusを1mL当り106 個懸濁させた溶液を1mL投入したこと以外は、比較例1と同様の方法により、リポソームを製造した。同じ条件で5回リポソームを製造し、実施例1と同様の方法により、リポソームの無菌試験を行った。【0055】実施例1および比較例1では製造されたリポソームの粒径はほぼ同等のものが得られたが、本発明の製造方法である実施例1で得られたリポソームが全例無菌試験合格であったにもかかわらず、従来の製造方法である比較例1においては合格率が90%に低下した。また、脂質投入時に菌が混入したと仮定した場合の比較例2においては、すべてのリポソームが無菌試験不合格となった。即ち、本発明においては、菌の混入の問題がないのに対し、一度脂質を粉体として攪拌容器に再投入する際には、無菌的な取扱いをした場合でも無菌試験不合格の場合がある程度の確率で存在し、更に無菌的な取扱いをしない場合にはリポソームを無菌的に製造できないことが分かる。【0056】【表2】【0057】【発明の効果】本発明のリポソームの製造方法は、リポソームを無菌的に製造する方法であり、これにより得られる本発明のリポソームは、無菌であり、かつ、発熱性物質の現出もないので、薬剤の担体や人工酸素運搬体として好適に使用することができる。また、本発明のリポソームの製造装置は、本発明のリポソームの製造方法を実施するのに好適に用いることができる。【図面の簡単な説明】【図1】 本発明のリポソームの製造装置の一例を示す模式図である。【符号の説明】1、2 投入口3 容器4 攪拌機5 加熱手段6 排出口7 ろ過滅菌手段8、10 投入口9 ろ過滅菌フィルター11 容器12 混合手段13 加熱手段14 真空ポンプ15、16 排出口17 投入口18 フィルター19 乳化手段20 パドル21 容器22 加熱手段23 排出口 リポソーム膜成分物質を水と混合しうる有機溶媒に、有機溶媒1mLに対してリポソーム膜成分物質を0.5gより多く5g以下の割合で溶解する工程と、得られた溶液をろ過滅菌する工程と、得られたろ過滅菌後の溶液と、滅菌水とを、滅菌された密閉系において混合する工程と、得られた混合溶液を滅菌された密閉系において攪拌しながら有機溶媒を減圧留去し、リポソーム膜成分物質水和物を得る工程と、得られたリポソーム膜成分物質水和物に、薬剤および/または生理活性物質を含有する滅菌された水溶液を、滅菌された密閉系において添加する工程と、得られた水溶液添加後のリポソーム膜成分物質水和物を、滅菌された密閉系において乳化し、リポソームを得る工程とを具備するリポソームの製造方法。 前記有機溶媒がアルコールであることを特徴とする請求項1に記載のリポソームの製造方法。 前記有機溶媒と前記滅菌水との量比が、有機溶媒1mLに対して滅菌水0.5〜15mLであることを特徴とする請求項1または2に記載のリポソームの製造方法。 前記リポソーム膜成分物質水和物における有機溶媒の残留量が、1000ppm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリポソームの製造方法。 前記薬剤および/または生理活性物質が、少なくともヘモグロビンを含む請求項1〜4のいずれかに記載のリポソームの製造方法。 請求項1〜5のいずれかに記載のリポソームの製造方法により得られるリポソーム。 リポソーム膜成分物質を水と混合しうる有機溶媒に、有機溶媒1mLに対してリポソーム膜成分物質を0.5gより多く5g以下の割合で溶解させて得た溶液を通過させてろ過滅菌する手段と、得られた溶液と、滅菌水とを混合する手段と、得られた混合溶液を攪拌しながら有機溶媒を減圧留去し、リポソーム膜成分物質水和物を得る手段と、得られたリポソーム膜成分物質水和物と、添加された薬剤および/または生理活性物質を含有する滅菌された水溶液とを混合する手段と、得られた混合液を乳化し、リポソームを得る手段とを備えるリポソームの製造装置であって、ろ過滅菌させて得られた溶液と、滅菌水と、薬剤および/または生理活性物質を含有する滅菌された水溶液とからリポソームを得るまでの各物質が存在する系のすべてにおいて、滅菌状態が維持されていることを特徴とするリポソームの製造装置。 リポソーム膜成分物質を水と混合しうる有機溶媒に、有機溶媒1mLに対してリポソーム膜成分物質を0.5gより多く5g以下の割合で溶解させて得た溶液を滅菌フィルターを介して導入する第一のポートと、水を滅菌フィルターを介して導入する第二のポートと、薬剤および/または生理活性物質を含有する水溶液を滅菌フィルターを介して導入する第三のポートと、攪拌手段とを備える密閉容器と;真空ポンプを備え、該密閉容器の内部に存在する溶媒を減圧留去することができる減圧手段と;該密閉容器の外周部に配置され、該密閉容器を加熱することができる加熱ジャケットとを備えるリポソームの製造装置。


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