タイトル: | 特許公報(B2)_乳酸菌によるコレステロールの低減若しくは除去方法 |
出願番号: | 2000266867 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | A23L 1/28,A23L 1/015,A61K 35/74,A61P 3/06,C12N 1/20 |
木元 広実 大桃 定洋 岡本 隆史 武部 英日 浜谷 徹 JP 3777296 特許公報(B2) 20060303 2000266867 20000904 乳酸菌によるコレステロールの低減若しくは除去方法 明治製菓株式会社 000006091 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 501203344 久保田 藤郎 100074077 矢野 裕也 100086221 木元 広実 大桃 定洋 岡本 隆史 武部 英日 浜谷 徹 20060524 A23L 1/28 20060101AFI20060427BHJP A23L 1/015 20060101ALI20060427BHJP A61K 35/74 20060101ALI20060427BHJP A61P 3/06 20060101ALI20060427BHJP C12N 1/20 20060101ALI20060427BHJP JPA23L1/28 ZA23L1/015A61K35/74 AA61P3/06C12N1/20 A A23L 1/27-1/308 JSTPlus(JOIS) 特開平05−065229(JP,A) 4 FERM P-18216 FERM P-18217 2002065203 20020305 7 20040715 特許法第30条第1項適用 平成12年4月1日 社団法人日本農芸化学会開催の「日本農芸化学会2000年度大会」において文書をもって発表 松田 芳子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は乳酸菌、特にラクトコッカス属に属する乳酸菌による、食品中に含まれるコレステロールを低減若しくは除去する方法に関する。【0002】【従来の技術】ヒトの高脂血症は、動脈硬化の要因であり、狭心症等の血管系疾病の原因となることが知られている。いわゆる生活習慣病の一つとして位置づけられており、原因としてコレステロールの過剰摂取が問題となっている。【0003】現在までに、コレステロールの過剰摂取を防止するため、様々な対策がとられてきた。コレステロールを含むカロリー適正摂取のための啓蒙活動が最も基本的かつ重要であるが、並行して食品中のコレステロール含量を低下させること、あるいはコレステロールの吸収を阻害する等の方法が有効である。【0004】食品中のコレステロールを低減させる方法として、植物油脂や水溶性食物繊維などの代替油脂を使用する方法、ペクチンやキチン・キトサン等の食物繊維を摂取する方法、乳酸菌等の有用菌を投与する方法等が実用化されている。これらの中で、有用菌の投与が大きな注目を集めている。「腸内微生物のバランスを改善することによって宿主動物に有益に働く生菌添加物」(Fuller, R. 1989 : J. Appl. Bact. 66 : 365-378) をプロバイオティクス(probiotics)と称し、研究が実施されている。プロバイオティクスの効果としては、整腸、免疫賦活、有害菌感染の抑制または除菌に加え、血中コレステロールの低下が認められている。【0005】疫学的には、肉や乳を多食するマサイ族の血中コレステロール値が低いことが知られている。これは発酵乳を食するためであると考えられている。またHepnerらの研究成果 (Hepner G. et al : 1979 : J. Clin. Nutr., 32 : 19-24) にしても、発酵乳の摂食により血中コレステロールが低下したと報告されている。しかしながら、詳細については未詳であり、検討が必要とされている。【0006】一部、ストレプトコッカス サーモフィラス (Streptococcus thermophilus)においてコレステロール低減効果に関し若干の検討がなされているものの、胆汁酸耐性等のプロバイオティクスに求められる基本的性質については知られていなかった。【0007】また、プロバイオティクスは、上部消化管を通過できることが必要であり、胃酸や胆汁酸に対する安定性が求められている。さらに、安全な菌株であることを要する。そのため、宿主の腸内常在菌が用いられることが多かった。乳酸菌としては、主として腸内常在菌のラクトバチルス(Lactobacillus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pedicoccus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属が研究されている。乳酸菌以外では、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、トルロプシス(Torulopsis)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、バチルス(Bacillus)属、クロストリディウム(Clostridium)属等の応用が研究されている。【0008】乳製品製造に利用されるラクトコッカス(Lactococcus)属は、腸内常在菌ではないために、ほとんど研究がなされていなかった。最近、胆汁酸耐性を有するストレプトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス(Streptococcus lactis subsp. cremoris)、現在はラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス (Lactococcus lactis subsp. cremoris)と改名されている、について検討されている(特開平11-239476)が、ラクトコッカス ラクティスサブスピーシーズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)の応用可能性については知られていなかった。【0009】【発明が解決しようとする課題】乳製品製造に利用される乳酸菌は、その摂食経験から安全であることが確認されており、また工業規模での製造が容易であるとの利点を有する。そのため、乳製品製造に利用される乳酸菌から、上部消化管を通過でき、さらに食品中のコレステロール含量を低下させる能力を有する有用菌の活用が望まれていた。【0010】【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究した結果、ラクトコッカスラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティ ジアセチラクティス (Lactococcus lactis subsp. lactis biovar diacetylactis ) N7株(FERM P-18217) 、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス (Lactococcus lactis subsp. lactis) NIAI527 株(FERM P-18216) が、強いコレステロール低減活性を有していることを見出し、本発明を完成した。【0011】 すなわち本発明は、1.ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティ ジアセチラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis biovar diacetylactis)N7株(FERM P-18217)を、摂取中若しくは直後または直前に食餌と混合することにより、食品中のコレステロールを吸着し、コレステロールの低減若しくは除去する方法。2.ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティ ジアセチラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis biovar diacetylactis)N7株(FERM P-18217)を生菌体として用いることを特徴とする上記1.に記載の方法。3.ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス( Lactococcus lactis subsp. lactis) NIAI527 株(FERM P-18216)を、摂取中若しくは直後または直前に食餌と混合することにより、食品中のコレステロールを吸着し、コレステロールの低減若しくは除去する方法。4.ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス( Lactococcus lactis subsp. lactis) NIAI527 株(FERM P-18216)を生菌体として用いることを特徴とする上記3.に記載の方法。に関するものである。【0012】尚、これら菌株は農林水産省農業生物資源研究所農林水産省ジーンバンクに、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティ ジアセチラクティス (Lactococcus lactis subsp. lactis biovar diacetylactis ) N7株はMAFF400203、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス ( Lactococcus lactis subsp. lactis) NIAI527 株はMAFF400103として寄託されている。【0013】これら菌株は、強いコレステロールの低減活性を有している。一例として、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティジアセチラクティスN7株をMRS培地で24時間30℃で培養した菌体を、0.2%チオグリコール酸ナトリウム、0.2%タウロコール酸、0.01%コレステロールを含む培地に接種し37℃で24時間培養した。その結果、培地中の50%以上のコレステロールが除去された。本菌株によるコレステロールの低減効果の機作は、菌体によるコレステロールの吸着または菌体への取り込みによると考えられる。従って、死菌体を用いても効果が認められる。本特許においては、死菌体をもプロバイオティクスとして定義する。従って、本発明は、生菌体又は死菌体のどちらでも用いて良いが、好ましくは、その効果の強さから、生菌体を用いる方法が望まれる。【0014】目的とする効果以外に、プロバイオティクスに求められる条件として、特に胃酸や胆汁酸などの消化管上部のバリアー中でも生存できること、安全性が高いことが必要とされている。ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティ ジアセチラクティスN7株は、低pH領域や胆汁酸に対する抵抗性を示すことが明らかとなっている。0.3%脱水胆汁を含むリン酸緩衝液に懸濁し、37℃で保温した場合でも完全に死滅することは無かった。食品中のコレステロール含量を低下させるとの課題解決の点からは、コレステロールの存在下での生存率が重要な指標となる。【0015】驚くべきことに、本菌株はコレステロールの存在下において著しく生存率が上昇することが明らかとなった。上記の胆汁酸耐性実験の条件においては、コレステロール非存在時の40倍以上の生残率を示し、2%以上の生残率であった。【0016】プロバイオティクス専門家による結論は「これまでずっと工業的に使われてきた乳酸菌は、生産者にとっても消費者や使用者にとっても害はない」(光岡知足編:腸内フローらとプロバイオティクス:学会出版センター 1998年初版)との見解に達している。本見解によれば、本発明に記載の菌株、とりわけラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティ ジアセチラクティスN7株は長年乳製品製造に使用されており、この観点からもプロバイオティクスとして適当である。【0017】これら菌株の使用方法としては、摂食中若しくは直後または事前に食事と混合することが適当である。具体的には、あらかじめ本菌体を常法により調製し、コレステロールを含有する食品の摂取中若しくは直後に摂取する。または、事前にコレステロールを含有する食品と混合しておいてもよい。【0018】菌体の調製法には特に制限はないが、液体培養、固形培養とも可能であるが、嫌気性細菌のため、嫌気条件下にて実施するのが好ましい。培地からの回収方法も特に制限はないが、濾過、メンブレンフィルターなどにより実施することができる。その後、適宜必要に応じて、洗浄工程を経た後製剤とする。製剤の形態にも特に制限はなく、凍結乾燥粉末、噴霧乾燥粉末、流動層乾燥粉末、液体中への懸濁など使用状況に合った方法で製造できる。【0019】【実施例】次に、本発明の代表的な実施例を具体的に示すが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。【0020】【実施例1】ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティ ジアセチラクティスN7株(FERM P-18217) をMRS 培地にて、30℃で18〜24時間前培養した。MRS 培地はカゼインペプトン1%、肉エキス1%、酵母エキス0.5 %、ブドウ糖2%、ツイーン80を0.1 %、リン酸二カリウム0.2 %、酢酸ナトリウム0.5 %、クエン酸アンモニウム0.2 %、硫酸マグネシウム7水和塩0.02%、硫酸マンガン1水和塩0.005 %を含むものである。続いて0.2%チオグリコール酸ナトリウム、0.2%タウロコール酸ナトリウム、0.01% コレステロールを含む同培地に接種し、37℃で24時間嫌気培養を実施した。培養液を遠心分離にて菌体と上清に分離し、それぞれのコレステロール量を測定した。コレステロールの測定はルデルらの方法(L. Rudel et al : 1973 : J. Lipid. Res., 14 : 364-366)に従った。【0021】その結果、菌体を接種しなかった培地においては、61.3μg/mlのコレステロールが存在していたのに対し、培養上清は30.0μg/mlと約半分に減少していた。また菌体には29.9μg/mlのコレステロールが存在しており、菌体にコレステロールが吸着または菌体への取り込みにより培地中のコレステロールが低下することが示された。【0022】【実施例2】ラクトラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティ ジアセチラクティスN7株(FERM P-18217) 、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティスNIAI527 株(FERM P-18216) 、ラクトバチルス アシドフィラス( Lactobacillus acidophilus ) ATCC43121 株、大腸菌 (E. coli ) MAFF911145株を用い、実施例1と同様の実験を行った。その結果、コレステロール吸着活性は、それぞれ40.3、31.3、45.7、47.3(μg/mg・乾物)を示し、ラクトコッカス( Lactococcus ) はラクトバチルス( Lactobacillus ) や大腸菌 (E. coli) と同等のコレステロール吸着活性を示し、安全性が高く、コレステロールの低減若しくは除去効果を有する菌株であることが確認された。ここで定義する吸着活性は、菌体への取り込み分も含むものとする。また、菌体乾物重量の測定は、菌体を遠心分離法にて集菌し、洗浄後105 ℃で4時間乾熱した後の重量とした。【0023】【実施例3】ラクトラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティ ジアセチラクティスN7株(FERM P-18217) を用い、実施例1と同様に菌体を培養した。培養液の一部をオートクレーブ(121 ℃、15分)処理し、蒸留水で洗浄後pHを4.5 及び6.8 に調製したそれぞれの同量の培地に懸濁した。対照としてオートクレーブ処理をしなかった菌体懸濁液も調製した。これら懸濁液を実施例1と同様の方法でコレステロールの吸着活性を測定した。【0024】その結果、生菌体では33.2(μg/mg・乾物)であったのに対し、死菌体ではpH4.5で13.7(μg/mg・乾物)、pH6.8で23.7(μg/mg・乾物)であり、生菌体のコレステロール吸着活性が高いことが示された。【0025】【実施例4】実施例1に従って培養したラクトラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティ ジアセチラクティスN7株(FERM P-18217) の菌体を、0.3%脱水胆汁(ディフコ社製)を含むリン酸緩衝液(pH7.0) に懸濁し、37℃で保温した。0 時間、3 時間後にMRS 寒天培地で生育したコロニー数を目視でカウントした。【0026】コレステロール無添加の培地では、0時間では3.89×109(cfu)であり、3時間後には1.75×106(cfu)となり、生残率は0.05%であった。一方、コレステロールを添加した培地では、0時間では4.67×108(cfu)であり、3時間後には1.02×107(cfu)となり、生残率は2.18%でありコレステロール添加により生残率が高くなった。【0027】【実施例5】実施例4で使用したラクトラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティ ジアセチラクティスN7株(FERM P-18217) の菌体の脂肪酸組成をガスクロマトグラフィー法(ヒューレットパッカード社製)によって測定した。コレステロール非存在区ではC14:0 及びC19:0 の脂肪酸が際だって高かったのに対し、コレステロール存在区ではC16:0 、C18:0 、C18:1 、C18:2 が高く、コレステロールの存在により、菌体脂肪酸組成が変化することが明らかとなった。【0028】【発明の効果】本発明で得られるラクトコッカス属に属するラクティス サブスピーシーズ ラクティス乳酸菌は、胆汁酸に対する抵抗性を示す上に、強いコレステロールの低減効果を有している。さらには乳製品製造に使用されており、安全性も確認されている。さらには、工業規模での培養が容易であるとの利点を有している。本菌株を製剤化して提供することにより、食品中のコレステロールを低減若しくは除去することが可能となり、高脂血症の予防が可能となる。 ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティ ジアセチラクティス( Lactococcus lactis subsp.lactis biovar diacetylactis)N7株(FERM P-18217)を、摂取中若しくは直後または直前に食餌と混合することにより、食品中のコレステロールを吸着し、コレステロールの低減若しくは除去する方法。 ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス バイオバラエティ ジアセチラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis biovar diacetylactis)N7株(FERM P-18217)を生菌体として用いることを特徴とする請求項1に記載の方法。 ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス( Lactococcus lactis subsp. lactis) NIAI527 株(FERM P-18216)を、摂取中若しくは直後または直前に食餌と混合することにより、食品中のコレステロールを吸着し、コレステロールの低減若しくは除去する方法。 ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス( Lactococcus lactis subsp. lactis) NIAI527 株(FERM P-18216)を生菌体として用いることを特徴とする請求項3に記載の方法。