タイトル: | 特許公報(B2)_錯体の発色方法および発色用試薬 |
出願番号: | 2000256520 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | G01N 31/22,G01N 33/68 |
白波瀬 泰史 高橋 正光 渡津 吉史 JP 3809991 特許公報(B2) 20060602 2000256520 20000825 錯体の発色方法および発色用試薬 シスメックス株式会社 390014960 白波瀬 泰史 高橋 正光 渡津 吉史 20060816 G01N 31/22 20060101AFI20060727BHJP G01N 33/68 20060101ALI20060727BHJP JPG01N31/22 124G01N33/68 G01N 31/22 G01N 33/68 特開昭62−203063(JP,A) 特開昭64−18059(JP,A) 7 1996171091 19960701 2001099826 20010413 8 20030701 竹中 靖典 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、蛋白質と銅イオンとからなる錯体の発色方法に関する。【0002】【従来の技術】総蛋白質の定量方法としては屈折計法、280nmでの特異的な吸収に基づく方法、比濁法、ケルダール法、ペプチド結合をアルカリ性で銅と結合させて比色するビウレット法などがある。特にビウレット法は、蛋白質の種類に関係なく発色感度が一定であり簡単に比色定量できる。このビウレット法は感度が低い欠点を持っているが、血清中の総蛋白質を定量する場合にはむしろ好都合で、臨床検査においては繁用されてきた。【0003】ビウレット法の反応原理はアルカリ性条件下で銅が蛋白質のペプチド結合と錯体を形成することにより、赤紫色(550nm付近)に発色することによる。この発色を標準液の吸光度と比較して、検体中の蛋白質量を定量する。アルカリ性条件下での水酸化銅の沈澱が生成しないようにキレート剤が加えられ、さらに銅が還元されないようにヨウ化カリウムが添加される場合もある。【0004】しかしながら、これらの方法には例えば日常検査でしばしば遭遇する乳び、溶血、ビリルビンなどによる検体の混濁、すなわち共存物質による干渉という問題があった。ビウレット法については過去いくつかの干渉回避方法に関する報告があるが、いずれもキレート剤に関しての報告であり、主に輸液に使用するデキストランによる混濁を回避する方法に関する報告、銅を含まない別の試薬で乳び、溶血色素などの検体盲検をとる方法などであった(Doumasら、Clin. Chem. 27/10, 1642-1650, 1981)。このDoumasらの方法では、12mM硫酸銅、32mM酒石酸ナトリウムカリウム、30mMヨウ化カリウム、0.6M水酸化ナトリウムをそれぞれ含む1種類の溶液を用いる。【0005】最近の自動分析装置は試薬を2つに分けることにより(2試薬系)、第1試薬中での吸光度測定と、第2試薬添加後本反応を行い再度吸光度測定し、2つの吸光度差から目的物質の定量を行う2ポイント測定が主流となっている。この方法では検体の色、濁りを差し引くことができるため、より正確な測定ができると言われている。【0006】総蛋白質の定量は古くから行われていたにもかかわらず、現在の臨床化学の生化学検査において最も干渉の影響を受け易い項目とされている。その最大の理由は、1つの試薬で反応、測定する系(1試薬系)であるため1ポイント測定しかできないことにあった。市場の総蛋白質定量用試薬は、ほとんどが1試薬系であり干渉を回避することはできないが、唯一、デュポンaca用テストパック総蛋白TP(体外診断用医薬品(01AM輸)第0015号)が2試薬に分かれている。この試薬は第1試薬に水酸化ナトリウム、第2試薬に硫酸銅が含まれる構成で、はじめに水酸化ナトリウムを添加し、その後で硫酸銅を加え反応、測定する。この場合、検体盲検をとる必要性もなく、乳びによる干渉、溶血による干渉は回避できるが、ビリルビンの干渉が回避できない。なぜなら、検体中のビリルビンは、銅イオンを添加すると速やかにビリベルジンに変化し、副波長を700nm付近に設定すると、負の干渉を受けることになるからである(臨床化学(20)補冊2号51b(1991))。現在ビリルビンの干渉を完全に回避する方法は見つかっていない。また、このように後で第2試薬である銅イオンを含む溶液を添加する方法では、副波長である700nm付近の吸光度が高く、測定値が第2試薬の分注精度の影響をうけやすくなり再現性が悪くなる。【0007】ビウレット法では他にアミノ酸、糖、クレアチニンなどの内因性物質、デキストラン、ブロムスルファレン(BSP)などの薬剤の影響を受ける。BSPは肝機能検査の一つとして色素吸収負荷試験に使用されるものであり、アルカリ性条件下で波長580nmに最大吸収を持つ。従って、負荷試験後、採血された検体は、ビウレット試薬による総蛋白質の定量ができないと言われていた。【0008】また、アミノ酸、糖、クレアチニンはいずれも銅イオンと何らかの複合体を形成して干渉を与えると考えられている。ビウレット試薬の銅をニッケルに変えることによりこれらの妨害は回避できるが(臨床化学(19),300-306,1990)、ニッケルを使用すると反応が遅いため、自動分析装置で測定することができず、また測定波長がビリルビンと重なるためビリルビンの干渉を受けてしまうなどの問題点がある。【0009】Doumasらの方法ではキレート剤に酒石酸ナトリウムカリウムを使用しているため、輸液に含まれるデキストランにより不溶性沈澱を生じ、測定不可能となる。そのため、最近ではキレート剤としてEDTAなどが使用されているが、このようなキレート力の大きなものを使用すると、総蛋白質の定量において、アルカリ度を高くしないと十分発色しない欠点がある。高濃度のアルカリ性物質は取扱いが危険であるだけでなく、環境汚染物質として有害であり、廃液処理が難しくなるなどの問題がある。【0010】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は総蛋白質の定量において問題とされていた干渉物質の影響が回避できる総蛋白質測定用キットを提供することにある。【0011】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、干渉物質の影響が回避できる総蛋白質測定用キットを得ることに成功した。【0012】本発明は以下の通りである。(1)検体と第1液状試薬を反応させた後、第2液状試薬を反応させることによって検体中の蛋白質を定量する総蛋白質測定用キットであって、第1液状試薬は銅イオンを含有し、第2液状試薬はアルカリ溶液からなる総蛋白質測定用キット。(2)前記第2液状試薬が水酸化ナトリウム、水酸化リチウムおよび水酸化カリウムから選択される一以上の物質を含有する上記(1)に記載の総蛋白質測定用キット。(3)前記第2液状試薬が水酸化リチウムを含有する上記(1)または(2)に記載の総蛋白質測定用キット。(4)前記第1液状試薬が、硫酸銅、塩化銅および硝酸銅から選択される一以上の物質を含有する上記(1)〜(3)のいずれか1に記載の総蛋白質測定用キット。(5)前記第1液状試薬のpHが10〜13の範囲にある上記(1)〜(4)のいずれか1に記載の総蛋白質測定用キット。(6)前記第1液状試薬がキレート剤を含有する上記(1)〜(5)のいずれか1に記載の総蛋白質測定用キット。(7)前記第1液状試薬の液量が第2液状試薬の液量より多いことを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれか1に記載の総蛋白質測定用キット。【0013】本発明においては、蛋白質が発色しない条件下で検体を銅イオンと混合した後、アルカリ溶液と混合して蛋白質と銅イオンの錯体を形成させて発色させる。主波長546nm、副波長700nmで吸光度差を測定し、標準液の吸光度と比較して検体中の総蛋白質量を定量する。【0014】ここで、「検体」とは、蛋白質の定量を実施し得るものであれば、その由来、形状等、特に限定されず、蛋白質を含有するか否かは問わない。具体的には血液、血漿、血清、尿、腹水、汗、涙等の体液や各種抽出物等が挙げられる。【0015】本発明の総蛋白質の定量方法においては、まず最初に銅イオンを含む第1試薬と検体を反応させた後にアルカリ溶液を含む第2試薬と反応させる。銅イオンを含む試薬としては、本発明の目的に適合するものであれば全て用いることが出来る。例えば、硫酸銅溶液、塩化銅溶液、硝酸銅溶液などが例示される。銅イオンの反応液中での最終濃度は通常、例えば硫酸銅を使用した場合3〜30mM、好ましくは6〜20mM程度である。該溶液はpHが10〜13であることが好ましい。実施例1および2(図1および2)に示すようにpHを10以上にすることによりヘモグロビン色素、ヘモグロビン蛋白質およびBSPのようなアルカリ側で発色する色素の干渉を回避することができる。しかしながらpHが13よりも高くなると蛋白質が発色し、測定が妨害される。【0016】銅イオンを含む試薬は総蛋白質定量用試薬において、第1試薬として含めることができる。該第1試薬には所望により適宜キレート剤を含めることができる。使用できるキレート剤としてはEDTA、酒石酸ナトリウムカリウム、グリコールエーテル、ジアミン四酢酸などが例示される。キレート剤の反応液中での最終濃度は通常、銅イオンの1〜10倍、好ましくは1.2〜3倍である。検体中に混在する可能性のある輸液由来のデキストランによる不溶性沈澱の形成を回避するためには、好ましくはEDTAが用いられる。【0017】本発明において後で添加するアルカリ溶液も本発明の目的に適合するものであれば全て用いることが出来る。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウムなどが挙げられ、より好ましくは水酸化リチウムが用いられる。アルカリ濃度が高いほど、発色感度は高くなるが、本発明においては2試薬法を用いているため第2試薬のアルカリ溶液のアルカリ度が高いとその分粘性も増加し、分注時の誤差を生じ再現性が低下する。しかしながら、水酸化リチウムは例えば水酸化ナトリウムと比較した場合約1/3の濃度で同じ感度が得られ、第2試薬の粘度を低く抑えることができ、結果として、再現性の低下を抑えることができる。【0018】アルカリ溶液を含む試薬は総蛋白質定量用試薬において、第2試薬として含めることができる。反応液中のアルカリの最終濃度としては、水酸化ナトリウムを使用した場合0.2〜2M、好ましくは0.3〜1M程度であり、水酸化リチウムを使用した場合0.2〜0.5M、好ましくは0.35〜0.45M程度である。【0019】自動分析装置の分注精度に影響されず、再現性を低下させないためには、本発明においてはじめに加える第1試薬である銅イオンを含む試薬の液量の方が後で加える第2試薬であるアルカリ溶液を含む試薬の液量よりも多いことが好ましい。【0020】【実施例】本発明をより詳細に説明するために、以下に実施例を挙げるが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。【0021】実施例1第1試薬には15mM硫酸銅、30mMEDTA、0.1Mグリシンを加え、水酸化ナトリウムでpHを7〜13まで変化させて調整したものを用いた。第2試薬は2M水酸化リチウムになるように調製した。5g/dlヘモグロビンを蛋白質濃度既知(7.7g/dl)のヒト血清に1/10容量添加した。調製したヘモグロビン添加検体(ヒト血清蛋白質:7.7g/dl×0.9=6.93g/dl、ヘモグロビン蛋白質:5g/dl×0.1=0.5g/dl)、8g/dl蛋白質標準液および生理食塩水各々10μlに第1試薬400μlを加え、37℃で5分間反応後、試薬ブランク(生理食塩水)を対照に主波長546nm、副波長700nmにおける各々の吸光度差を測定する。次に第2試薬100μlを加え37℃で5分間反応後、再度各々の吸光度差を測定する。前後の吸光度差を容量補正して吸光度差を求める。ヘモグロビン添加検体の吸光度差と蛋白質標準液の吸光度差を比較してヘモグロビン添加検体の蛋白質濃度を求める。各pHにおけるヘモグロビン添加検体の総蛋白質濃度をプロットした(図1)。【0022】第1試薬のpHを11付近にすることにより、ヘモグロビン色素だけでなくヘモグロビン蛋白質の影響も受けなくなる。ヘモグロビン蛋白質の影響を受けないことは測定方法としては問題であるが、臨床的な診断に使用される場合、ヘモグロビン蛋白質の影響を受けないほうが良い。本発明は第1試薬のpHを調節することにより、溶血による(ヘモグロビン色素+ヘモグロビン蛋白質)の干渉を回避できる。【0023】実施例25g/dlヘモグロビンに代えて10mMBSP溶液を用いる以外は実施例1と同様に操作した。BSP添加検体の吸光度差と蛋白質標準液の吸光度差を比較してBSP添加検体の総蛋白質濃度を求める。各pHにおけるBSP添加検体の蛋白質濃度をプロットした(図2)。【0024】第1試薬のpHを10以上にすることにより、BSPの干渉を受けなくなる。ただし、pH13以上では蛋白質が発色することからpHは10〜13の範囲で使用することが望ましい。【0025】実施例3第1試薬には15mM硫酸銅、30mMEDTA、0.1Mグリシン、0.8M炭酸ナトリウムを加えpH11.3に水酸化ナトリウムにて調整したものを用いた。第2試薬は2M水酸化リチウムになるように調製した。2g/dlヒト血清アルブミンに1/10量の生理食塩水、乳び、ヘモグロビン、ビリルビン、BSPおよびビウレット反応陽性と言われているグリシルグリシン、グリシン、クレアチニン、尿素、硫酸アンモニウム、グルコースおよびガラクトースを添加した。各物質はそれぞれ表1に記載の添加濃度(検体中濃度)になるように添加した。各検体について実施例1と同様に操作した。生理食塩水添加検体を蛋白質濃度1.80g/dlの標準液として、各々の検体の総蛋白質濃度を求めた。【0026】比較例1 (Doumasらの方法による定量)12mM硫酸銅、32mM酒石酸ナトリウムカリウム、30mMヨウ化カリウム、0.6M水酸化ナトリウムを含む溶液をDoumas試薬として調製する。実施例3で調製した各検体それぞれ10μlにDoumas試薬500μlを加え37℃で10分間反応させた後、試薬ブランクを対照に波長546nmにおける吸光度を測定した。また、上記のDoumas試薬から銅を除いた試薬を調製し、同様に操作して検体盲検を測定した。Doumas試薬を用いた測定値より検体盲検を差し引いた値を測定した。実施例3の本発明による各検体の総蛋白質濃度および比較例1のDoumas試薬による各検体の総蛋白質濃度および該総蛋白質濃度から検体盲検を差し引いた後の各検体の総蛋白質濃度の結果を表1に示す。【0027】【表1】【0028】Doumas試薬を用いた検体盲検を差し引く方法は、差し引かない方法に比べて明らかに干渉の受け方に改善が観られた。しかしながら、ビリルビンの干渉については効果が観られない。検体中のビリルビンは銅イオンによりビリベルジンに変化するが、Doumas試薬を用いた検体盲検を差し引く方法では試薬に銅イオンが入っていないためビリルビンのままであるので検体盲検を差し引いても補正できないからである。2試薬系で反応、測定するデュポン社の総蛋白TPも、検体盲検を必要とせず、乳びや溶血による干渉は回避できる。しかしながらこの方法でもビリルビンによる干渉が回避できない。なぜなら、デュポン社の総蛋白TPでは、はじめにアルカリ溶液を、後で銅イオンを添加しているので発色前ではビリルビンのままであるが発色後はビリベルジンに変化しているため吸光度差にビリルビン−ビリベルジンの干渉がおこるためである。本発明は2試薬とすること、尚且つはじめに銅イオンを添加することで乳び、ヘモグロビン、ビリルビン、BSPおよびビウレット反応陽性物質に対して干渉を受けなくなる。本発明では発色前後ともビリベルジンに変換して測定しているため発色前後の吸光度差にビリルビン−ビリベルジンの干渉がおこらない。【0029】【発明の効果】本発明の総蛋白質測定用キットは特定の2試薬を用いて測定を行うので検体盲検の必要性がなくなり、乳びおよび溶血の干渉を回避することができる。はじめに加える第1液状試薬に銅イオンを添加することにより、ビリルビンの干渉、ビウレット反応陽性物質であるアミノ酸、糖類、クレアチニンなどの影響を回避することができる。さらにはじめに加える第1液状試薬のpHを10〜13に調製することによりヘモグロビン蛋白やBSPなどのアルカリ側で発色する物質の影響も受けない。また、後で加える第2液状試薬であるアルカリ溶液を水酸化リチウムで調製することにより少ないアルカリ量で感度良く測定できるため粘度を低く抑えることができ、分注時の誤差による再現性の低下が抑えられる。また使用するアルカリ溶液が少量ですむため廃液処理が容易で安全な試薬を供給できる。【図面の簡単な説明】【図1】溶血干渉のpHによる影響を示したグラフである。【図2】BSP干渉のpHによる影響を示したグラフである。 検体と第1液状試薬を反応させた後、第2液状試薬を反応させることによって検体中の蛋白質を定量する総蛋白質測定用キットであって、第1液状試薬は銅イオンを含有し、第2液状試薬はアルカリ溶液からなる総蛋白質測定用キット。 前記第2液状試薬が水酸化ナトリウム、水酸化リチウムおよび水酸化カリウムから選択される一以上の物質を含有する請求項1に記載の総蛋白質測定用キット。 前記第2液状試薬が水酸化リチウムを含有する請求項1または2に記載の総蛋白質測定用キット。 前記第1液状試薬が、硫酸銅、塩化銅および硝酸銅から選択される一以上の物質を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の総蛋白質測定用キット。 前記第1液状試薬のpHが10〜13の範囲にある請求項1〜4のいずれか1項に記載の総蛋白質測定用キット。 前記第1液状試薬がキレート剤を含有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の総蛋白質測定用キット。 前記第1液状試薬の液量が第2液状試薬の液量より多いことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の総蛋白質測定用キット。