タイトル: | 特許公報(B2)_バクテリアによるキチン・キトサン様物質の製造方法 |
出願番号: | 2000222026 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C12P 19/26,C12R 1/01 |
藤田 正憲 片岡 静夫 平尾 知彦 井上 智代 JP 3797851 特許公報(B2) 20060428 2000222026 20000724 バクテリアによるキチン・キトサン様物質の製造方法 株式会社タクマ 000133032 藤田 正憲 598037307 杉本 丈夫 100082474 藤田 正憲 片岡 静夫 平尾 知彦 井上 智代 20060719 C12P 19/26 20060101AFI20060629BHJP C12R 1/01 20060101ALN20060629BHJP JPC12P19/26C12P19/26C12R1:01 C12P 1/00-19/64 BIOSIS/WPI(DIALOG) MEDLINE(STN) JSTPlus(JDream2) 特開平11−276160(JP,A) J Biosci Bioeng.(2000.01.25)Vol.89, No.1, p.40-46 新エネルギー・産業技術総合開発機構平成11年度新規産業創造型提案公募事業成果報告会予稿集(平成12年 5 FERM P-16722 2002034588 20020205 18 20010827 特許法第30条第1項適用 平成12年1月25日 発行の「Journal of Bioscience and Bioengineering Vol.89,No.1」に発表 左海 匡子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、水処理分野で凝集剤として利用されるだけでなく、医療分野では人口皮膚・縫合糸・薬効調整剤・免疫強化剤として、農業分野では作物の病害防除・収量向上のために、日用品分野では健康食品・食品添加剤・化粧品・整髪料・抗菌衣料・生分解性プラスチックなどに、工業分野ではバイオリアクター・中高分子の分離精製技術など幅広い分野に利用されるキチン・キトサン様物質の製造方法に関し、更に詳細には、従来、主としてエビ・カニ等の甲殻から得ていたキチン・キトサン様物質を、バクテリアにより製造する新規なキチン・キトサン様物質の製造方法に関する。【0002】【従来の技術】従来、カニやエビの甲殻は不要物として大量に廃棄されてきたが、これらの甲殻から抽出されるキチン・キトサンが、汚泥凝集作用において優れた効果を発揮するだけでなく、生体との関係性を初めとして一般産業分野においても優れた性質を有することが分かってきたため、近年キチン・キトサンに対する需要が急激に高まってきている。【0003】その理由を詳述すると、第1に、キチン・キトサンは生体との適合性が極めて良好であり、医療分野において人口皮膚・縫合糸・薬効調整剤・免疫強化剤として利用が増大している。また、キチン・キトサン自体やこれを分解して得られるキチンオリゴ糖やキトサンオリゴ糖が生体の免疫増強作用を有することが分かり、同時に感染微生物の増殖阻止作用も有することが分かり、これらの作用を活用して新たな薬剤の開発が考えられている。【0004】第2に、キチン・キトサンは生体のみならず植物体との適合性もよく、農業分野おいて作物の病害防除や収量向上のために利用されつつある。マッタケやシイタケなどのキノコやチーズ全体を蔽うカビ等の菌類の細胞壁がキチンを主成分として形成されていることからも理解できる。【0005】第3に、食品分野では健康食品・食品添加剤として、また日用品分野では化粧品・整髪料・抗菌衣料・生分解性プラスチックなどに多用されつつある。これらもキチン・キトサンと生体との良好な関係を証明するものである。また、工業分野ではバイオリアクター・中高分子の分離精製技術などにもその利用の道を広げている。【0006】一方、 キチン・キトサンの製法としては、水産加工場の廃棄物として集中的かつ大量に放出されるエビ・カニなどの甲殻を化学処理する方法が主流である。しかし、甲殻のキチンは炭酸カルシウムのような無機塩類、たんぱく質及び色素を含む脂質と共存し、相互に強く結合している。【0007】従って、キチン以外の成分を除去するため、次のような化学処理が施される。まず、甲殻を水洗・乾燥・粉砕して甲殻粉末を作る。次に、この甲殻粉末から無機塩類を除去するため脱灰処理が施される。即ち、甲殻粉末を希塩酸に二昼夜浸漬して、カルシウムなどを塩化カルシウムとして溶解除去する。【0008】更に、灰分を除去した甲殻粉末からたんぱく質を除去するためにアルカリ処理を施す。具体的には、甲殻粉末を薄い水酸化ナトリウム水溶液に入れ、36時間煮沸し続ける。最後に得られるのが粗製キチンで、これを更に精製して精製キチンが得られる。【0009】次に、キトサンの従来製法について説明する。一般的に、キチンはN−アセチルグルコサミンのポリマーであり、キトサンはグルコサミンのポリマーである。従って、キトサンを製造するには、キチン分子を構成するN−アセチルグルコサミンからアセチル基を除去、即ちキチンを脱アセチル化することが必要になる。【0010】キチンを脱アセチル化するには、アルカリ処理により行う。つまり、キチンを30〜50%の濃い水酸化ナトリウム水溶液中で加熱処理すると、キチン分子中のアセチル基は水酸化ナトリウムのナトリウムイオンと反応して酢酸ナトリウムになる。この酢酸ナトリウムは水溶性であるから、アルカリ処理後の水洗によって除去できる。【0011】どの程度アセチル基がはずれたかの度合いを脱アセチル化度と云う。キチンのアルカリ処理において用いる水酸化ナトリウムの濃度、処理時間、処理温度を変えることによって、各種の脱アセチル化度のキトサンが得られる。脱アセチル化度を大きくするには、水酸化ナトリウムの濃度を高くし、処理時間を長くし、処理温度を高めることが必要である。【0012】【発明が解決しようとする課題】上述したように、エビやカニの甲殻からキチンを抽出するには、強酸や強アルカリ処理のような扱い難い工程が必要になる。また、たんぱく質除去処理においてキチンの純度を高めるために、処理液の濃度や処理温度を高めたり、処理時間を長くすると、必然的にキチンの低分子化が起こる。産業的には高分子キチンが必要とされる分野も多く、従来製法の改善が要求されていた。【0013】また、キチンは各種の溶媒に溶解し難いため、化学的な加工が困難な物質である。一方、キトサンはキチンより溶解性が優れているから、まずキチンを脱アセチル化してキトサンを作り、 このキトサンを溶解処理して化学的加工を施し、この中間物質をアセチル化してキチン誘導体を合成するというような煩雑なプロセスを辿ることも多い。【0014】このように、キトサンはキチンを脱アセチル化して得られるが、脱アセチル化は過酷な強アルカリ処理によって行われるため、キトサンの低分子化を必然的に伴う。キトサンは脱アセチル化度や分子量の違いによって物理的・化学的性質が微妙に異なるため、応用分野毎にその目的に添ったグレードが求められる。従って、キトサンの製造には、従来よりも脱アセチル化度や分子量の精細な制御が要求されている。【0015】これらの従来欠点を根本的に解消するには、カニやエビ等の甲殻を原料とする従来の製造方法に束縛されることなく、全く独創的なキチン・キトサンの製造方法が要求される。従って、本発明の目的は、カニやエビ等の甲殻を原料としない全く新規で独創的なキチン・キトサンの製造方法を実現することである。【0016】【課題を解決するための手段】 請求項1の発明は、炭素源として酢酸又はプロピオン酸を含むと共に窒素源としてアンモニア化合物を含む培養液から成る培地でシトロバクター属細菌であるTKF04株(FERM P−16722)のバクテリアを培養し、このバクテリアによりキチン・キトサン様物質を菌体外に産生させ、産生されたキチン・キトサン様物質を培養液培地中に蓄積し、次に、前記キチン・キトサン様物質を蓄積した培養液培地を先ず遠心分離処理し、精製分離した培養上清のpHをアルカリ剤により12〜13に調整した培養上清を沸騰液中に一定時間保つアルカリ沈殿処理をし、更に、アルカリ沈殿処理により回収した回収物を膜濾過処理することにより、前記培養液培地からゲルろ過クロマトグラフィによる分子量分析の結果が0.2万〜350万に分布すると共に、赤外吸収スペクトルが少なくともOH伸縮振動、CH伸縮振動、NH伸縮振動による吸収帯に加えて、アミド基に由来するアミドI吸収帯及びアミドII吸収帯にキチン・キトサン特有のスペクトルパターンを有するグルコサミンを主成分としてこれにN−アセチルグルコサミンを含む水溶性のキチン・キトサン様物質を抽出することを特徴とするバクテリアによるキチン・キトサン様物質の製造方法である。【0021】 請求項2の発明は、培養温度が30℃前後で培養pHが7〜10である請求項1に記載のバクテリアによるキチン・キトサン様物質の製造方法である。【0024】 請求項3の発明は、前記キチン・キトサン様物質の加水分解物のLC−MS分析によるマススペクトルがグルコサミンと同様のマススペクトルを有する請求項1に記載のバクテリアによるキチン・キトサン様物質の製造方法である。【0025】 請求項4の発明は、前記キチン・キトサン様物質の加水分解物の1H-NMR分析によるスペクトルが、グルコサミンと同様のスペクトルを有する請求項1に記載のバクテリアによるキチン・キトサン様物質の製造方法である。【0026】 請求項5の発明は、前記キチン・キトサン様物質の加水分解物のGC−MS分析によるスペクトルが、グルコサミンと同様のマススペクトルを有する請求項1に記載のバクテリアによるキチン・キトサン様物質の製造方法である。【0027】【発明の実施の形態】本出願人等は、既に特開平11−276160号公報において、シトロバクタ−属細菌TKF04株(FERM P−16722)が新規な凝集剤産生微生物であり、このバクテリアが従来とは異なる全く新規な微生物凝集剤を産生することを見出した。また、この微生物凝集剤が従来から用いられている無機凝集剤や合成高分子凝集剤と同程度の凝集効果を発揮することを発見し、しかもこの微生物凝集剤は環境を汚染しない安全な凝集剤であることを開示した。【0028】このシトロバクター属細菌TKF04株はシトロバクタ−・フロインジイとの高い相同性が認められたが、生理特性やDNA塩基配列において若干の相違が認められたので、新規なバクテリアであると考え、工業技術院微生物工業技術研究所にFERM P−16722として寄託した。従って、工業技術院微生物工業技術研究所から所定の手続に基づき、TKF04株を入手することができる。【0029】前記微生物凝集剤の研究に引き続き、 本発明者等は、このシトロバクター属細菌TKF04株が産生する微生物凝集剤の具体的化学物質を特定する研究を続行した。以後、このTKF04株が産生する物質、即ち微生物凝集剤をBF04と称し、このBF04の化学物質の同定プロセスを説明する。【0030】まず、BF04をゲルろ過クロマトグラフィにかけて、凝集活性を有する画分の分子量を推定した。分子量分布は製造条件を変えるとかなり変動することが分かった。得られたサンプルの分子量分布の最大幅は0.2万〜350万であった。図1はBF04のサンプル群から選ばれた比較的低い方の分子量分布曲線の一例である。BF04は実線で表され、主ピークが約320kDaに位置し、その左右の裾野が200kDa〜500kDaに分布している。【0031】点線で表示するものは参考のために表示した各種の標準たんぱく質の分子量分布で、669kDaはチログロブリン、440kDaはフェリチン、232kDaはカタラーゼ、140kDaは乳酸デヒドロゲナーゼ、67kDaは牛血清アルブミンである。【0032】また、成分分析により、BF04の有機成分にはたんぱく質や脂質はほとんど含まれておらず、主要成分は、エルソン・モルガン反応で定量されるヘキソサミンであることが分かった。フェノール硫酸法により多量の糖が含まれていることも確認され、BF04がアミノ基を有した糖類であることが分かった。【0033】図2はBF04のフーリエ変換赤外分光分析によるFT−IR吸収スペクトルである。(a)はBF04、(b)はキチン、(c)はキトサンを示している。BF04には約3500(cm-1)及び1000〜2000(cm-1)に特徴的な吸収スペクトルが見られる。これらの吸収スペクトル成分の基本構造は、(b)及び(c)から分かるように、キチン或いはキトサンに特有のOH伸縮振動(3440〜3480cm-1)、CH伸縮振動(2878〜2960cm-1)、NH伸縮振動(3260〜3270cm-1)、アミド基に由来するアミドI吸収帯(1650〜1560cm-1)及びアミドII吸収帯(1550〜1560cm-1)の存在を示唆している。【0034】上述から、BF04はキチン・キトサンに関連する物質であると推定できる。このことを実証するために、キチン・キトサン様物質を構成分子にまで分解する分解酵素をBF04に処理した。分解酵素として、セルラーゼ、キチナーゼ及びキトサナーゼが選ばれた。キチナーゼ、キトサナーゼはキチン、キトサンを分解する酵素である。その結果、BF04に見られた凝集活性が、これらの分解物には見られなくなった。つまり、酵素分解による低分子化が凝集活性を消失させたと理解できる。キチン・キトサンが凝集活性を有することは以前から知られているから、この結果よりBF04がキチン・キトサン様物質であることが強く支持された。【0035】構成する単糖類を明らかにするために、BF04を酸で加水分解し、この加水分解物に対し薄層クロマトグラフィ(TLC分析)、ガスクロマトグラフィ質量分析(GC−MS分析)、液体クロマトグラフィ質量分析(LC−MS分析)及びNMR分析を行った。一方、市販のキチン、キトサンの酸加水分解物及びそれらの構成成分であるグルコサミン、N−アセチルグルコサミンの標準品に対しも、TLC分析、GC−MS分析、LC−MS分析、NMR分析を行い、BF04加水分解物に対する上記の分析結果と比較した。【0036】BF04のTLC分析(薄層:Silica Gel G plate/Analtec Inc., USA, 展開溶液:n−ブタノール:ギ酸:水=2:3:1)では、Rf=0.48〜0.49に明確なスポットが見られたが、D-グルコサミン標準品ではRf=0.49に同様のスポットが見られ、両者が誤差範囲内で同一物質であることを示した。真正のキチン及びキトサンの加水分解物のRfは夫々0.47〜0.48及び0.48〜0.49であった。従って、 BF04の加水分解物がグルコサミンであり、キチン及びキトサンの加水分解物とほぼ同等であることが強く支持された。【0037】前述したように、キチンを構成する単糖類はN−アセチルグルコサミンであるが、キチンを酸加水分解すると、キチンは加水分解されると同時に脱アセチル化も受け、その結果キチンの加水分解物はN−アセチルグルコサミンでなくグルコサミンとなる。つまり、キチンとキトサンの加水分解物はグルコサミンという同一物質になることを付記しておく。【0038】図3はBF04加水分解物のLC−MS分析により得られたマススペクトルである。分子量が180に第1ピーク、162に第2ピークが特徴的に観察された。他方、 図4はグルコサミン標準品のLC−MSマススペクトルである。分子量が180に第1ピーク及び162に第2ピークを有することが同様に観察された。この結果から、BF04を構成する単糖類がグルコサミンであることが分かった。【0039】図5はBF04加水分解物(a)とグルコサミン(b)を夫々アルジトールアセチル化しそれらの誘導体をGC−MS分析することによって得られたマススペクトルである。両者ともスペクトルの分布が酷似しており、特にm/z値が114に第1ピークがあり、96に第2ピークがあり、84に第3ピーク及び139に第4ピーク、241に分子イオンピークがある点で一致している。【0040】図6はBF04加水分解物(a)とグルコサミン(b)の1H−NMR分析図である。横軸は化学シフトのδ値(ppm)で、縦軸は信号強度を示す。両者を比較すると、スペクトルの全体像が一致していることが分かる。【0041】以上に示すように、ゲルろ過クロマトグラフィ分析、FT−IR分析、分解酵素分析、TLC分析、GC−MS分析、LC−MS分析及び1H−NMR分析の全ての結果は、BF04がキチン・キトサン様物質であることを支持している。【0042】従って、TKF04株によって生成されるBF04はグルコサミンのポリマー物質であるキトサンを主成分とし、またそれらの誘導体を含むキチン・キトサン様物質であることが明らかとなった。この研究を通して、本発明者等はバクテリアによりキチン・キトサン様物質を生成する事実を初めて発見し、 この発見に基づいてキチン・キトサン様物質をバクテリアにより製造する本発明方法を完成したものである。【0043】本発明者等により既に特開平11−276160号公報において開示されているように、TKF04株が培地中に産生するBF04は汚泥凝集性が極めて高く、その凝集性能はカオリン凝集性によって代表されることが分かっている。この前段階の研究では、BF04がキチン・キトサン様物質であるとは断定出来なかったが、本発明の研究において、BF04がキチン・キトサン様物質であることが確定された。【0044】キチン・キトサンが凝集性能を有することは一般に知られているので、BF04がキチン・キトサン様物質であることは、そのカオリン凝集性能によって判定することが可能である。また、カオリン凝集性能が低下するとBF04自体の低分子化が生起していると判断できる。従って、以後の実施例においては、カオリン凝集性能が極めて高いことによりキチン・キトサン様物質が生成されていることの証左と考える。【0045】【実施例】以下に、本発明に係るキチン・キトサン様物質を生成するTKF04株の採集・選別方法、TKF04株の培養方法及びBF04の抽出精製方法につき実施例により詳細に説明する。【0046】[実施例1:TKF04株の採集・選別・同定]TKF04株は、既に本発明者等により自然界から採集・選別され、工業技術院微生物工業技術研究所にFERM P−16722として寄託されており、所定の手続に従って入手することができる。しかし、このような株分けの方法によらず一般的に自然界から入手する方法につき以下に説明しておく。【0047】細菌源のサンプルは広範囲の環境領域から得られた。具体的には、農業・森林・庭の分野から14種の汚泥、台所排水溝から9種の生物膜、スカムを含む9種の活性スラッジ、4種の河水サンプル、家庭配水管から4種の汚泥として採集された。これらのサンプルは次に述べるAP培地で培養された。【0048】本発明で用いられる基本培地(以後、BM培地と呼ぶ)は、1.0gの(NH4)2SO4、1.0gのK2HPO4,0.05gのNaCl,0.2gのMgSO4・7H2O,1.0gのCaCl2,0.01gのFeCl3と0.1gのイーストエキスをイオン交換水1Lに分散させて得られる。このBM培地1Lに炭素源として7.0gの酢酸ナトリウムと3.0gのプロピオン酸ナトリウムを混入させたものが酢酸・プロピオン酸培地(以後、AP培地と呼ぶ)である。【0049】前記AP培地を構成する酢酸、プロピオン酸は市販品でもよいが、下廃水汚泥に含まれる有機性汚泥の嫌気性消化により得られたものでもよい。つまり有機性汚泥を嫌気性菌で消化すると、大量の有機酸が得られる。埋立地が無くなりつつある現在、汚泥の減容処理は極めて緊急の課題であり、有機汚泥を消化して有機酸を製造する方法は、汚泥の容積減少に役立つばかりでなく、低価格の有機酸を提供できる点で画期的である。【0050】前記有機汚泥の嫌気性消化は、酸発酵細菌である通性嫌気性菌や偏性嫌気性菌が行う有機酸発酵であり、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の低級脂肪酸が生成され、特に酢酸やプロピオン酸がその中心である。従って、この嫌気性消化により得られる低級脂肪酸は本発明におけるAP培地の炭素源(基質とも云う)として積極的に活用することが望まれる。【0051】従って、前記AP培地に含有される酢酸やプロピオン酸の濃度比は、有機性汚泥の嫌気性消化液におけるそれらの濃度比に合致するように調整されることが望ましい。つまり、製造原価を低くするためにTKF04株の採集・選別や培養を嫌気性消化液を用いることが望ましいので、実験に用いられる酢酸やプロピオン酸の濃度条件を汚泥消化有機酸の濃度条件に合致させることが望まれるからである。【0052】AP培地のpHは2M(mol/L)のNaOHまたはHClで7.2に調整された。試験管の中に10mLのAP培地を作り、このAP培地中に前記サンプルを植種した。この試験管を30℃に保持して、回転数120rpmの回転振とう器や往復振とう器で培養した。バクテリアの増殖は培養液の濁度で判定され、そのために波長660nmの光を用いたOD660による濁度測定が行われた。【0053】サンプルのAP培地での培養は3〜10日間行われ、所定濃度に達した培地はカオリン懸濁液に投入され、カオリン凝集効果が測定された。カオリン凝集活性試験は次のように行われた。カオリン粒子(300mesh、Kishida Chemical, Osaka)をイオン交換水に濃度5000mg/Lで懸濁させる。TKF04株の培養液1mLをサンプルとしてカオリン懸濁液10mLとともに試験管に投入し、試験管ミキサーで30秒間攪拌した後、5分間静置する。この後、カオリン懸濁液のOD550(Aとする)をスペクトロフォトメータで測定する。一方、サンプルの代わりに1mLのイオン交換水を投入した試験管をコントロールとして同条件下でOD550(Bとする)を測定する。凝集活性値GはG=(B−A)/B*100(%)で与えられる。3回測定の平均値を凝集活性値とする。【0054】所定以上のカオリン凝集活性値を示したサンプルがBF04産生菌と判定された。1564個の菌サンプルをAP培地で培養した結果、104個の菌コロニーがカオリン凝集活性を示した。特に、台所排水溝の生物膜から得られたTKF04株が最高のカオリン凝集活性を示した。【0055】分類研究のために、長谷川の手法(「微生物の分類と同定」、学会出版センター(東京)、1985年)に基づいてTKF04株の形態学的かつ生理学的試験がなされた。API20Eの菌同定キット(BioMerieux S.A., Marcy l'Etoile, France)が予備的同定のために用いられた。バージイマニュアル(Bergey's manual of systematic bacteriology、第1巻、Williams and Wilkins Co., Baltimore(1986))に従って最終的な菌の同定が行われた。【0056】その結果、TKF04株はグラム陰性菌で、桿菌であり、運動性がある。また、カタラーゼ陽性で、オキシダーゼ陰性で、嫌気性条件下でグルコースから酸を生成する。前記菌同定キットでは94.7%の確率でTKF04株はシトロバクタ・フロインジイと同定できる。TKF04株の16S rRNAの600塩基以上の遺伝子解析の結果を、BLASTを用いながらGenBankにあるシトロバクタ・フロインジイと比較した。しかし、近似はしているものの完全な一致はみられず、他の生理学的試験結果を踏まえて、種まで特定することはせず、TKF04株はシトロバクタ属の菌種であると判断するに留めた。【0057】[実施例2:TKF04の培養]図7は本発明に係るバクテリアによるキチン・キトサン様物質の製造装置の概略構成図である。培養装置2に炭素源として有機酸CSを投入し、また他の栄養塩類NSも投入する。培養装置2内にはTKF04株を混入した培養液が充填されている。後述する所定条件でTKF04株を培養すると、TKF04株は培養液中にBF04を産生し、培養液中のBF04濃度が増加する。一定濃度に達した培養液を分離精製装置4に移送する。分離精製装置4ではBF04、即ちキチン・キトサン様物質CCを濃縮精製して分離し、残留液SLを排出する。【0058】培養装置2には培養液が内蔵される。酢酸ナトリウムを基質(炭素源)として振とうフラスコを用いた回分培養でBF04生産の最適化を行った結果、植種量5%、酢酸ナトリウム10g/L、酵母エキス0.5g/L、硫酸アンモニウム1g/Lの条件で構成された培養液に最大の凝集活性が認められた。下記に示す凝集力価Hで表すと約900になる。【0059】凝集力価Hは2種の異なる試料量(a1、a2)で活性測定を行い、得られた凝集活性値(G1、G2)により次式で算出する。試料量(a1、a2)は凝集試験で添加する1mL中の量を希釈を考慮して求める。H=(10/a1)−[10(G1-50)(a2-a1)}/[a1・a2(G1-G2)]この凝集力価Hは、試料1mLが何mLのカオリン懸濁液の凝集活性を50%とできるかを示す。この凝集力価Hは、凝集活性値Gと同様に、培養液の凝集力の強さ、換言すれば培養液中のキチン・キトサン様物質の濃度を反映し、凝集力価が大である程キチン・キトサン様物質濃度も大と判断できる。【0060】前記最良培養条件を得る前に、培養条件は種々に変更され、最適の培養条件が探索された。まず、TKF04株の炭素源依存性が調べられた。結果は表1に示されている。【0061】この結果から分かるように、酢酸或いはプロピオン酸を基質とした場合にのみ高いカオリン凝集活性を示したが、他に増殖に利用できた乳酸、酪酸、オレイン酸、ヘキサデカン、グルコース、ラクトース等では凝集活性を示さなかった。つまり、TKF04株が凝集活性を示すBF04、即ちキチン・キトサン様物質を産生するには、酢酸やプロピオン酸などの低級脂肪酸で培養することが必要であることが分かる。【0062】窒素源の種類による培養効果を調べるために、酢酸培地又はプロピオン酸培地に各種の窒素源を投入して、TKF04株の菌体増殖と産生されたBF04の凝集活性が調べられた。培地として酢酸培地とプロピオン酸培地の2種類が用いられ、それぞれの培地に対して結果を表2に示す。ここで、酢酸培地はBM培地に酢酸を7.0g/L添加し、プロピオン酸培地はBM培地にプロピオン酸を3.0g/L添加したものである。【0063】表2から分かるように、NaNO3は効果が小さく、また肉エキスの効果も他と比べると低い。しかし、これら以外の窒素源は共通して効果がある。つまり、窒素源に関しては各種の窒素化合物を幅広く利用することが可能である。【0064】次に、TKF04株の菌体増殖とBF04の凝集活性に関して、AP培地の培養温度条件を調べた。図8はTKF04株の菌体増殖に関する培養温度の効果を示している。培養温度は3段階に分けられ、▲は20℃、■は30℃、●は37℃の場合を示す。100時間の培養試験で、常に37℃のときに最大の菌体増殖を示した。つまり、TKF04の繁殖率は37℃で最大になる。【0065】図9はBF04のカオリン凝集活性に関する培養温度の効果を示している。図6と同様に、培養温度は3段階に分けられ、▲は20℃、■は30℃、●は37℃の場合を示す。TKF04を30℃で培養したときに産生されるBF04が常に最大の凝集活性を示すことが分かった。この結果は菌体増殖の場合と異なる。【0066】以上をまとめると、凝集活性は温度にかなり依存しており、最良温度は30℃である。一方、菌体増殖に関する最良温度は37℃であり、両者間には7℃の開きがあった。しかし、キチン・キトサン様物質の最大生成量は凝集活性により決められるから、キチン・キトサン様物質の生成には30℃の温度条件が好適であると結論できる。しかも、培養後20〜80時間の間に産生されたBF04の凝集活性が極めて大きい。この間に、大分子量のキチン・キトサン様物質を得ることができることを示す。【0067】また、図8及び図9から次のようなことが分かる。TKF04の菌体増殖とBF04の凝集活性とは並行して増加して行き、特に、AP培地中での対数成長期に凝集活性が増加する。その後も菌体増殖が続いている間は、凝集活性の大きいBF04の産出が行なわれているが、一定時間後に菌体が減少するようになると、それにともない凝集活性の大きいBF04の産出も減少してゆく。【0068】更に、TKF04株の菌体増殖とBF04の凝集活性に関して、AP培地の培養pH条件を調べた。図10はTKF04株の菌体増殖に関する培地の初期pHの効果を示している。初期pHは7段階に分けられ、●はpH5.0、▲はpH6.0、■はpH7.0、○はpH7.2、△はpH8.0、□はpH9.0及び◇はpH10.0である。酸性側を示す●と▲では菌体増殖はゼロであるが、塩基性では、つまりpHが7.2〜10.0では高い菌体増殖を示している。【0069】図11はBF04の凝集活性に関する培地の初期pHの効果を示している。図10と同様の各種pHに関して凝集活性が調べられた。酸性側を示す●及び▲では凝集活性は低いが、pHが7.2〜10.0では培養時間にかかわらず高い凝集活性を示した。また、pH7.0の中性では、高凝集活性を示す培養時期が塩基性側よりもやや狭くなることが分かった。この傾向は図10と同様である。【0070】以上から、pH条件をまとめると、TKF04株は培地の初期pHが7.2〜10.0の範囲で増殖できることが分かった。しかも、このpH範囲内では、初期pHの違いはBF04の凝集活性にほとんど影響を与えないことも分かった。従って、培養条件としてはかなり広いpHを利用することができる。【0071】また、ジャーファーメンターを用いたスケールアップ試験を行ったが、回分培養では前述と同様の培地を用いた場合にも凝集力価は100程度にとどまった。しかし、培養系のpHを8に維持するために、酢酸と酢酸アンモニウムを3.5:1〜5.5:1で混合した溶液を適宜流下するfed-batch 培養を行ったところ、菌体濃度は約2日後に20g/Lに達し、凝集力価は2000〜2500にも達した。【0072】[実施例3:BF04の精製・分離]TKF04株の産生するBF04の活性は主に細胞外に認められたため、培養液から遠心分離により細胞を除去し、その上清からBF04の回収を試みた。培養液からの生産物回収の常法である硫安沈殿、ヘキサン等を用いた溶媒抽出、酸性沈殿、アルカリ沈殿、エタノール等を用いた溶媒沈殿などを検討した結果、培養上清のpHをNaOHで12〜13に調整し、沸騰浴中に10分程度保つアルカリ沈殿法、及び培養上清の2倍容の冷エタノールを添加し、―20℃で10〜20分静置するエタノール沈殿法で、カオリン凝集活性を有するBF04の沈殿を回収することができた。【0073】アルカリ沈殿法では得られたBF04に凝集活性の多少のロスが認められたが、エタノール沈殿法では安定してほぼ100%の凝集活性を有するBF04の回収が可能であった。従って、このエタノール沈殿法を本発明の標準法として採用することにした。【0074】分離回収されたBF04は乾重量ベースで灰分を約50%含んでおり、水に対して難溶であったが、pH2〜3の塩酸溶液に溶解し、透析することで脱塩され、凍結乾燥後の有機成分が80%以上の若干水溶性が高い白色粉末の粗精製物を得ることができた。この粗精製法によれば、フラスコ回分培養及びジャーファーメンター流下培養によって得られた培養液上清から、それぞれ200mg/L及び500mg/L程度のBF04が得られた。このBF04が本発明が最終目的物とするキチン・キトサン様物質である。【0075】エタノール沈殿法は工業レベルでの適用では経済的とはいえないため、より効率的な方法として、膜ろ過によるBF04の濃縮について検討した。分画分子量50000の限外ろ過を培養液上清に施した濃縮では、ほぼ100%の凝集活性の回収が認められ、約10倍程度にまで濃縮が可能となった。ただ、この濃縮品には分子量が50000以下の培地成分が濃縮されて混入することがある。【0076】従って、より分画分子量の大きなろ過膜を適用して、不純物の混入が少ない濃縮法を行うことができる。また、エタノール沈殿で培養液に加えるエタノール量を2倍容から等容に減少させた場合でも、一晩保持すればほぼ完全に凝集活性を有するBF04の沈殿物を回収できることが明らかとなった。従って、エタノール沈殿法を膜ろ過法と組み合わせればより効率的でコスト削減できる濃縮法を提供できる。これはアルカリ沈殿法と膜ろ過法の組み合わせでも同様である。【0077】[実施例4:BF04の物質分析と凝集効果]次に、培養・濃縮・分離されたBF04がキチン・キトサン様物質であることが種々の科学的方法により決定された。第1に、ゲルろ過クロマトグラフィにより、多種類のBF04の分子量は10万〜350万に広く分布することが分かった。これはBF04の製造条件により分子量分布がかなり変動し、種々の分子量分布を有したBF04の製造が可能になることを示している。【0078】第2に、BF04の成分分析が行われ、その結果は表3に与えられている。グルコサミンが最大成分であった。タンパク質は含まれず、有機窒素はグルコサミンとN−アセチルグルコサミンで説明できる。【0079】第3に、FT−IR分析は、BF04がキチン・キトサンに類似した透過パターンであることを示している。第4に、TLC分析は、BF04の加水分解物の主要成分がグルコサミンであることを示し、しかもこのグルコサミンはキチン・キトサンの加水分解物と同じ成分である。【0080】第5に、BF04は2時間のキチナーゼ処理によって凝集活性を完全に消失し、また2時間のキトサナーゼとセルラーゼ処理によって凝集活性がかなり減少することが分かった。詳細は表4に掲載されている。酵素処理の前後における凝集活性値に格段の変化が生じていることが分かる。【0081】以上の全ての結果は、BF04がキチン又はキチン誘導体(例えば、キトサン)に類似した構造を持つことを示している。【0082】従って、BF04がキチン・キトサン様物質であることが判明した。キチン・キトサンが凝集活性を有することは従来から知られており、BF04が強い凝集活性を有する事実もこのことから理解できる。次に、BF04の凝集力について検討してみる。【0083】BF04のカオリン凝集性能がカチオンの添加によってどのように変化するかが検討された。カオリン懸濁液の中に0.1mLのカチオン溶液を添加した。Na+、K+、Ca2+、Mg2+、Fe2+、Al3+、Fe3+のカチオン源としてNaCl、KCl、CaCl2・2H2O、MgCl2・6H2O、FeCl2、AlCl3・6H2O、FeCl3・6H2Oが選ばれた。【0084】図12は1価のカチオン添加による凝集活性の変化図である。●は無添加、▲はKCl添加、■はNaCl添加を表す。BF04だけの無添加の場合(●)が広範囲のカチオン濃度に対して凝集活性が一番高いことが分かる。【0085】図13は2価のカチオン添加による凝集活性の変化図である。●は無添加、▲はCaCl2添加、■はMgCl2添加、◆はFeCl2添加を表す。図10と同様に、BF04だけの無添加の場合(●)がカチオン濃度の全領域に対して凝集活性が一番高い。【0086】図14は3価のカチオン添加による凝集活性の変化図である。●は無添加、▲はAlCl3添加、■はFeCl3添加を表す。無添加(●)とAlCl3(▲)は同程度にカチオン濃度の全領域に対して凝集活性が高い。FeCl3は高濃度側で凝集活性が低下する。【0087】以上から、BF04は単独で使用されたときに最も高い凝集活性を示すことが分かる。つまり、カチオンを一切添加する必要がないので、低価格で最高度の凝集効果を発揮できることを意味する。本発明で用いられるBF04はバクテリア産生のキチン・キトサン様物質であり、従来の甲殻から得られるキチン・キトサンよりも強力な凝集力を有するものと理解される。【0088】従来、頻繁に使用されている合成高分子系凝集剤の典型はPAA(ポリアクリルアミド)であり、無機系凝集剤の典型はPAC(ポリアルミニウムクロライド)であった。BF04のカオリンに対する凝集力はPAAより僅かに小さく、PACよりかなり大きいことが分かった。従って、従来の高分子系凝集剤や無機系凝集剤に替えてBF04を使用できる。また、BF04はpHが2〜11の範囲内でもカオリン凝集性能を有し、しかも3〜95℃の範囲で有効に凝集効果を発揮できる良好な特性を有している。【0089】前述したように、キチン・キトサンは、水処理分野では凝集剤として、医療分野では人口皮膚・縫合糸・薬効調整剤・免疫強化剤として、農業分野では作物の病害防除・収量向上のために、日用品分野では健康食品・食品添加剤・化粧品・整髪料・抗菌衣料・生分解性プラスチックなどに、工業分野ではバイオリアクター・中高分子の分離精製技術などの幅広い分野に利用される。従って、キチン・キトサン様物質であるBF04もこれらの分野に多角的に利用展開することができる。本発明では主に凝集剤としての側面を取り上げて説明してきた。しかし、凝集剤に限定されるものではなく、キチン・キトサンが利用できる全分野に利用できることは当然である。【0090】本発明者等は、TKF04株の培養条件を種々に変更しながら、産生されるキチン・キトサン様物質の分子量分布を測定したが、平均分子量や分布幅がかなり変動することを見出した。キチン・キトサンの有する凝集活性などの性質はその分子量に依存する面があり、従って培養条件の変更によって性質の異なるキチン・キトサン様物質を自在に製造することが可能となった。【0091】本発明では、キチン・キトサン様物質を産生するバクテリアとしてTKF04株に注目し、このTKF04株の培養条件を各方面から検討して、本発明をなすに到った。しかし、本発明の方法は、キチン・キトサン様物質を産生するバクテリアであれば、基本的に適用できるものであり、他のこの種バクテリアを用いたキチン・キトサン様物質の製造方法も本発明に包含されるものである。【0092】本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものである。【0093】【発明の効果】 請求項1の発明によれば、TKF04株(FERM P−16722)のバクテリアを培養してキチン・キトサン様物質を培地に産生・蓄積させ、この培地を精製分離してキチン・キトサン様物質を抽出分離できるから、全く新しいキチン・キトサン様物質の製造方法を完成したものであり、培養条件を種々変更することによって、グルコサミンを主成分としこれにN−アセチルグルコサミンを含む水溶性の各種の性状を有したキチン・キトサン様物質を自在に製造することができる。 また、培養液培地を用いているため、培養液から高速かつ大量に濃縮したキチン・キトサン様物質を回収することができる。 更に、自然環境に幅広く生息するシトロバクター属細菌のTKF04株(FERM P−16722)を用いてキチン・キトサン様物質を製造することができ、且つ、TKF04株(FERM P−16722)は工業技術院微生物工業技術研究所に寄託されているから、簡単に株分けを行うことができると共に直ちに実施できる利点がある。 加えて、キチン・キトサン様物質を蓄積した培養液培地を遠心分離法と、遠心分離した培養上清をアルカリ剤によりpHを12−13に調整してこれを沸騰液中に一定時間保持するアルカリ沈殿法と、法膜濾過とを組み合せた方法によりキチン・キトサン様物質を分離精製するようにしているため、工業的に高い収率でもって高能率で、しかも高純度のキトサンを主成分としてこれにキチンを含んだキチン・キトサン様物質を抽出することができるうえ、アルカリ沈殿処理により除タンパクが行える。そのため、本発明により製造したキチン・キトサン様物質は、高純度を必要とする医薬品用としても十分に対応することができる。 そのうえ、平均分子量が0.2万〜350万のキチン・キトサン様物質を製造することができ、平均分子量や分子量分布の異なる各種のキチン・キトサン様物質を製造できる。従って分子量に依存する各種物性を有したキチン・キトサン様物質を製造することができる。 また、赤外吸収スペクトルが、少なくともOH伸縮振動、CH伸縮振動、NH伸縮振動による吸収帯に加えて、アミド基に由来するアミドI吸収帯、アミドII吸収帯にキチン・キトサン特有のスペクトルパターンを有するキチン・キトサン様物質を製造することができる。【0098】 請求項2の発明によれば、培養温度を30℃前後、培養pHを7〜10に設定してキチン・キトサン様物質を製造でき、極めて制御しやすい温度条件・pH条件であるため培養を効率よく行うことができる。【0101】 請求項3の発明によれば、キチン・キトサン様物質の加水分解物のLC−MS分析によるマススペクトルがグルコサミンと同様のマススペクトルを有するキチン・キトサン様物質を製造できる。【0102】 請求項4の発明によれば、キチン・キトサン様物質の加水分解物の1H-NMR分析によるスペクトルが、グルコサミンと同様のスペクトルを有するキチン・キトサン様物質を製造することができる。【0103】 請求項5の発明によれば、加水分解物のアルジトールアセチル誘導体化後のGC−MS分析のマススペクトルが、グルコサミンと同様のマススペクトルを有するキチン・キトサン様物質を製造することができる。【図面の簡単な説明】【図1】BF04の分子量分布曲線の内、比較的低い方の分子量分布図である。【図2】BF04、キチン、キトサンのフーリエ変換赤外分光分析によるFT−IR吸収スペクトルである。【図3】BF04加水分解物のLC−MS分析により得られたマススペクトルである。【図4】グルコサミン標準品のLC−MSマススペクトルである。【図5】(a)BF04加水分解物と(b)グルコサミンのアルジトールアセチル誘導体化後のGC−MSマススペクトルである。【図6】(a)BF04加水分解物と(b)グルコサミンの1H−NMRスペクトルである。【図7】本発明に係るバクテリアによるキチン・キトサン様物質の製造装置の概略構成図である。【図8】TKF04株の菌体増殖に関する培養温度の効果図である。【図9】BF04のカオリン凝集活性に関する培養温度の効果図である。【図10】TKF04株の菌体増殖に関する培地の初期pHの効果図である。【図11】BF04の凝集活性に関する培地の初期pHの効果図である。【図12】1価のカチオン添加による凝集活性の変化図である。【図13】2価のカチオン添加による凝集活性の変化図である。【図14】3価のカチオン添加による凝集活性の変化図である。【符号の説明】2は培養装置、4は分離精製装置、CSは有機酸、NSは栄養塩類、CCはキチン・キトサン様物質、SLは残留液。 炭素源として酢酸又はプロピオン酸を含むと共に窒素源としてアンモニア化合物を含む培養液から成る培地でシトロバクター属細菌であるTKF04株(FERM P−16722)のバクテリアを培養し、このバクテリアによりキチン・キトサン様物質を菌体外に産生させ、産生されたキチン・キトサン様物質を培養液培地中に蓄積し、次に、前記キチン・キトサン様物質を蓄積した培養液培地を先ず遠心分離処理し、精製分離した培養上清のpHをアルカリ剤により12〜13に調整した培養上清を沸騰液中に一定時間保つアルカリ沈殿処理をし、更に、アルカリ沈殿処理により回収した回収物を膜濾過処理することにより、前記培養液培地からゲルろ過クロマトグラフィによる分子量分析の結果が0.2万〜350万に分布すると共に、赤外吸収スペクトルが少なくともOH伸縮振動、CH伸縮振動、NH伸縮振動による吸収帯に加えて、アミド基に由来するアミドI吸収帯及びアミドII吸収帯にキチン・キトサン特有のスペクトルパターンを有するグルコサミンを主成分としてこれにN−アセチルグルコサミンを含む水溶性のキチン・キトサン様物質を抽出することを特徴とするバクテリアによるキチン・キトサン様物質の製造方法。 培養温度が30℃前後で培養pHが7〜10である請求項1に記載のバクテリアによるキチン・キトサン様物質の製造方法。 前記キチン・キトサン様物質の加水分解物のLC−MS分析によるマススペクトルがグルコサミンと同様のマススペクトルを有する請求項1に記載のバクテリアによるキチン・キトサン様物質の製造方法。 前記キチン・キトサン様物質の加水分解物の1H-NMR分析によるスペクトルが、グルコサミンと同様のスペクトルを有する請求項1に記載のバクテリアによるキチン・キトサン様物質の製造方法。 前記キチン・キトサン様物質の加水分解物のGC−MS分析によるスペクトルが、グルコサミンと同様のマススペクトルを有する請求項1に記載のバクテリアによるキチン・キトサン様物質の製造方法。