タイトル: | 特許公報(B2)_L−グルタミン酸生産菌及びL−グルタミン酸の製造法 |
出願番号: | 2000204256 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12N 9/10,C12P 13/14 |
大瀧 博美 中村 純 泉井 裕 中松 亘 JP 4304837 特許公報(B2) 20090515 2000204256 20000705 L−グルタミン酸生産菌及びL−グルタミン酸の製造法 味の素株式会社 000000066 遠山 勉 100089244 松倉 秀実 100090516 川口 嘉之 100100549 大瀧 博美 中村 純 泉井 裕 中松 亘 20090729 C12N 15/09 20060101AFI20090709BHJP C12N 9/10 20060101ALI20090709BHJP C12P 13/14 20060101ALI20090709BHJP JPC12N15/00 AC12N9/10C12P13/14 A C12N15/00-15/90 PubMed JSTPlus(JDreamII) BIOSIS/WPI(DIALOG) 特開平04−004888(JP,A) 特開平05−276935(JP,A) 特開2000−189175(JP,A) 2 2002017364 20020122 43 20060313 山中 隆幸 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、新規なL−グルタミン酸生産菌及びそれを用いた発酵法によるL−グルタミン酸の製造法に関する。L−グルタミン酸は、食品、医薬品等として重要なアミノ酸である。【0002】【従来の技術】従来、L−グルタミン酸は、主としてブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属、ミクロバクテリウム属に属するいわゆるコリネ型L−グルタミン酸生産菌またはそれらの変異株を用いた発酵法により製造されている(アミノ酸発酵、学会出版センター、195〜215頁、1986年)。【0003】発酵法によるL−グルタミン酸の製造においては、トレハロースが副生することが知られている。そこで、生成したトレハロースを分解又は代謝させる技術が開発されている。そのような技術として、トレハロース上での増殖能が誘発されたコリネ型細菌を用いてアミノ酸を発酵生産する方法(特開平5-276935)、及び、トレハロース分解酵素遺伝子が増幅されたコリネ型細菌を用いてアミノ酸を発酵生産する方法(大韓民国特許公報(B1)特165836)が知られている。しかし、L−グルタミン酸生産菌において、トレハロースの生成自体を抑制することは知られていない。【0004】エシェリヒア・コリにおいては、トレハロースの合成は、トレハロース−6−リン酸シンターゼによって触媒される。これらの酵素は、otsA遺伝子によってコードされていることが知られている。また、エシェリヒア・コリのotsA遺伝子破壊株は、高浸透圧培地にてほとんど生育できなくなることが報告されている(H. M. Glaever, et al., J. Bacteriol., 170(6), 2841-2849(1998))が、otsA遺伝子の破壊と物質生産との関係は知られていない。【0005】一方、ブレビバクテリウム属細菌では、ブレビバクテリウム・ヘルボルムにおいてtreY遺伝子は知られているが、otsA遺伝子は知られていない。尚、マイコバクテリウム属細菌では、トレハロース生合成系酵素遺伝子として、otsA遺伝子及びtreY遺伝子とは別のtreS遺伝子によってコードされる産物(トレハロースシンターゼ(TreS))による反応を経由する経路が知られている(De Smet K. A., et al., Microbiology, 146(1), 199-208 (2000))。しかし、この経路はマルトースを基質としており、グルコース、フルクトース又はシュークロースを原料とする通常のL−グルタミン酸発酵には関連性がない。【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明の課題の一つは、コリネ型細菌を用いた発酵法によるL−グルタミン酸の製造において、トレハロースの副生を抑制し、L−グルタミン酸の生産効率を向上させることにある。【0007】【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ブレビバクテリウム属細菌はマイコバクテリウム・ツベルクロシスと同様にotsA遺伝子及びtreY遺伝子を保持していること、及び、少なくともこれらの遺伝子の一方を破壊することによって、L−グルタミン酸の生産効率が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下のとおりである。【0008】(1)L−グルタミン酸生産能を有し、かつ、トレハロース合成能が低下又は欠失したコリネ型細菌。(2)染色体上のトレハロース合成系酵素遺伝子に変異が導入又は破壊されたことによりトレハロース合成能が低下又は欠失した(1)のコリネ型細菌。(3)トレハロース合成系酵素遺伝子が、トレハロース−6−リン酸シンターゼをコードする遺伝子、マルトオリゴシルトレハロースシンターゼをコードする遺伝子又はこれらの両方の遺伝子である(2)のコリネ型細菌。(4)トレハロース−6−リン酸シンターゼをコードする遺伝子が配列番号30に記載のアミノ酸配列をコードし、マルトオリゴシルトレハロースシンターゼをコードする遺伝子が配列番号32に記載のアミノ酸配列をコードする(3)のコリネ型細菌。(5)(1)〜(4)のいずれかのコリネ型細菌を培地に培養し、同培地中にL−グルタミン酸を生成、蓄積させ、同培地からL−グルタミン酸を採取することを特徴とするL−グルタミン酸の製造法。【0009】(6)下記(A)又は(B)に示す蛋白質をコードするDNA。(A)配列番号30に記載のアミノ酸配列を有する蛋白質。(B)配列番号30に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列からなり、かつ、トレハロース−6−リン酸シンターゼ活性を有する蛋白質。(7)下記(a)又は(b)に示すDNAである(6)のDNA。(a)配列番号29に記載の塩基配列のうち、少なくとも塩基番号484〜1938からなる塩基配列を含むDNA。(b)配列番号29に記載の塩基配列のうち、少なくとも塩基番号484〜1938からなる塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、同塩基配列と55%以上の相同性を有し、かつ、トレハロース−6−リン酸シンターゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA。(8)下記(A)又は(B)に示す蛋白質をコードするDNA。(A)配列番号32に記載のアミノ酸配列を有する蛋白質。(B)配列番号32に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列からなり、かつ、マルトオリゴシルトレハロースシンターゼ活性を有する蛋白質。(9)下記(a)又は(b)に示すDNAである(8)のDNA。(a)配列番号31に記載の塩基配列のうち、塩基番号82〜2514からなる塩基配列を含むDNA。(b)配列番号31に記載の塩基配列のうち、塩基番号82〜2514からなる塩基配列又は同塩基配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、同塩基配列と60%以上の相同性を有し、かつ、マルトオリゴシルトレハロースシンターゼ活性を有する蛋白質をコードするDNA。【0010】尚、トレハロース−6−リン酸シンターゼ活性とは、UDP−グルコースとグルコース6−リン酸からα,α−トレハロース6−リン酸とUDPへの反応を触媒する活性を、マルトオリゴシルトレハロースシンターゼ活性とは、マルトペンタオースからマルトトリオシルトレハロースの反応を触媒する活性をいう。【0011】【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明のコリネ型細菌は、L−グルタミン酸生産能を有し、かつ、トレハロース合成能が低下又は欠失したコリネ型細菌である。【0012】本発明でいうコリネ型細菌としては、バージーズ・マニュアル・オブ・デターミネイティブ・バクテリオロジー(Bergey's Manual of Determinative Bacteriology)第8版599頁(1974)に定義されている一群の微生物であり、好気性,グラム陽性,非抗酸性,胞子形成能を有しない桿菌であり、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが現在コリネバクテリウム属細菌として統合された細菌を含み(Int. J. Syst. Bacteriol., 41, 255 (1981))、またコリネバクテリウム属と非常に近縁なブレビバクテリウム属細菌及びミクロバテリウム属細菌を含む。L−グルタミン酸の製造に好適に用いられるコリネ型細菌の菌株としては、例えば以下に示すものが挙げられる。【0013】コリネバクテリウム・アセトアシドフィラムコリネバクテリウム・アセトグルタミカムコリネバクテリウム・アルカノリティカムコリネバクテリウム・カルナエコリネバクテリウム・グルタミカムコリネバクテリウム・リリウム(コリネバクテリウム・グルタミカム)コリネバクテリウム・メラセコーラコリネバクテリウム・サーモアミノゲネスコリネバクテリウム・ハーキュリスブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカム)ブレビバクテリウム・インマリオフィラムブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)ブレビバクテリウム・ロゼウムブレビバクテリウム・サッカロリティカムブレビバクテリウム・チオゲニタリスブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(コリネバクテリウム・アンモニアゲネス)ブレビバクテリウム・アルバムブレビバクテリウム・セリヌムミクロバクテリウム・アンモニアフィラム【0014】具体的には、下記のような菌株を例示することができる。コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム ATCC13870コリネバクテリウム・アセトグルタミカム ATCC15806コリネバクテリウム・アルカノリティカム ATCC21511コリネバクテリウム・カルナエ ATCC15991コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13020、13032、13060コリネバクテリウム・リリウム(コリネバクテリウム・グルタミカム) ATCC15990コリネバクテリウム・メラセコーラ ATCC17965コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス AJ12340(FERM BP−1539)コリネバクテリウム・ハーキュリス ATCC13868ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)ATCC14020ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカム) ATCC13826、ATCC14067ブレビバクテリウム・インマリオフィラム ATCC14068ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカム) ATCC13665、ATCC13869、ブレビバクテリウム・ロゼウム ATCC13825ブレビバクテリウム・サッカロリティカム ATCC14066ブレビバクテリウム・チオゲニタリス ATCC19240ブレビバクテリウム・アンモニアゲネス(コリネバクテリウム・アンモニアゲネス) ATCC6871ブレビバクテリウム・アルバム ATCC15111ブレビバクテリウム・セリヌム ATCC15112ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム ATCC15354【0015】上記のようなコリネ型細菌のトレハロース合成能を低下又は欠失させることは、突然変異処理又は遺伝子組換え技術を利用して、トレハロース合成系酵素をコードする遺伝子を変異又は破壊することによって行うことができる。前記変異は、トレハロース合成系酵素をコードする遺伝子の転写又は翻訳を妨げる変異であってもよいし、活性の消失又は低下したトレハロース合成系酵素を産生するような変異であってもよい。トレハロース合成系酵素としては、トレハロース−6−リン酸シンターゼ、マルトオリゴシルトレハロースシンターゼ、又はこれらの両方が挙げられる。【0016】トレハロース合成系酵素をコードする遺伝子の破壊は、相同組換えを利用した遺伝子置換によって行うことができる。トレハロース合成系酵素をコードする遺伝子の一部を欠失し、トレハロース合成系酵素が正常に機能しないように改変した遺伝子(欠失型遺伝子)を含むDNAでコリネ型細菌を形質転換し、欠失型遺伝子と染色体上の正常遺伝子との間で組換えを起こさせることにより、染色体上の遺伝子を破壊することができる。このような相同組換えによる遺伝子破壊は既に確立しており、直鎖状もしくはコリネ型細菌中で複製しない環状のDNAを用いる方法や温度感受性複製開始点を含むプラスミドを用いる方法などがあるが、コリネ型細菌中で複製しない環状DNA、もしくは温度感受性複製開始点を含むプラスミドを用いる方法が好ましい。【0017】トレハロース合成系酵素をコードする遺伝子としては、例えば、otsA遺伝子、treY遺伝子又はこれらの両方の遺伝が挙げられる。ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムのotsA遺伝子及びtreY遺伝子は、本発明によりそれらの遺伝子及びそれらの隣接領域の塩基配列が明らかにされたので、同配列に基づいてプライマーを作製し、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム染色体DNAを鋳型とするPCR(ポリメラーゼチェインリアクション:polymerase chain reaction; White,T.J. et al., Trends Genet., 5,185 (1989)参照)を行うことによって、容易に取得することができる。【0018】後記実施例で取得されたブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムのotsA遺伝子を含む塩基配列及びtreY遺伝子を含む塩基配列を、それぞれ配列番号29及び配列番号31に示す。また、これらの塩基配列がコードし得るアミノ酸配列を、それぞれ配列番号30及び配列番号32に示す。【0019】otsA遺伝子及びtreY遺伝子は、コードされるトレハロース−6−リン酸シンターゼ又はマルトオリゴシルトレハロースシンターゼの活性が損なわれない限り、1若しくは複数の位置での1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入又は付加を含む蛋白質をコードするものであってもよい。ここで、「数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、好ましくは1〜40個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個である。【0020】上記のようなトレハロース−6−リン酸シンターゼ又はマルトオリゴシルトレハロースシンターゼと実質的に同一の蛋白質をコードするDNAは、例えば部位特異的変異法によって、特定の部位のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むように塩基配列を改変することによって得られる。また、上記のような改変されたDNAは、従来知られている変異処理によっても取得され得る。変異処理としては、トレハロース−6−リン酸シンターゼ又はマルトオリゴシルトレハロースシンターゼをコードするDNAをヒドロキシルアミン等でインビトロ処理する方法、及びトレハロース−6−リン酸シンターゼ又はマルトオリゴシルトレハロースシンターゼをコードするDNAを保持する微生物、例えばエシェリヒア属細菌を、紫外線照射またはN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくは亜硝酸等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理する方法が挙げられる。【0021】また、上記のような塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位等には、トレハロース−6−リン酸シンターゼ又はマルトオリゴシルトレハロースシンターゼを保持する微生物の個体差、種や属の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)も含まれる。【0022】上記のような変異を有するDNAを、適当な細胞で発現させ、発現産物のトレハロース−6−リン酸シンターゼ活性又はマルトオリゴシルトレハロースシンターゼ活性を調べることにより、トレハロース−6−リン酸シンターゼ又はマルトオリゴシルトレハロースシンターゼと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得られる。【0023】また、変異を有するトレハロース−6−リン酸シンターゼをコードするDNAまたはこれを保持する細胞から、例えば配列番号29に記載の塩基配列のうち、塩基番号484〜1938からなる塩基配列を有するDNA、またはこの塩基配列から調製され得るプローブと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、同塩基配列と55%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは75%以上の相同性を有し、かつ、トレハロース−6−リン酸シンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを単離することによっても、トレハロース−6−リン酸シンターゼと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得られる。同様に、変異を有するマルトオリゴシルトレハロースシンターゼをコードするDNAまたはこれを保持する細胞から、例えば配列番号31に記載の塩基配列のうち、塩基番号82〜2514からなる塩基配列、またはこの塩基配列から調製され得るプローブと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、同塩基配列と60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上の相同性を有し、かつ、マルトオリゴシルトレハロースシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNAを単離することによっても、マルトオリゴシルトレハロースシンターゼと実質的に同一のタンパク質をコードするDNAが得られる。【0024】上記でいう「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば55%以上、好ましくは60%の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。【0025】プローブとして、各遺伝子の一部の配列を用いることもできる。そのようなプローブは、各遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、各遺伝子を含むDNA断片を鋳型とするPCR反応によって作製することができる。プローブとして、300bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件は、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。【0026】このような条件でハイブリダイズする遺伝子の中には途中にストップコドンが発生したものや、活性中心の変異により活性を失ったものも含まれるが、それらについては、市販の活性発現ベクターにつなぎ、トレハロース−6−リン酸シンターゼ活性又はマルトオリゴシルトレハロースシンターゼ活性を測定することによって容易に取り除くことができる。【0027】尚、otsA遺伝子又はtreY遺伝子を、コリネ型細菌の染色体上のこれらの遺伝子の破壊に用いる場合は、コードされるトレハロース−6−リン酸シンターゼ又はマルトオリゴシルトレハロースシンターゼが活性を有する必要はない。また、遺伝子破壊に用いるotsA遺伝子又はtreY遺伝子は、コリネ型細菌のこれらの遺伝子との相同組換えが可能である限り、他の微生物に由来する遺伝子であってもよい。例えば、エシェリヒア属細菌又はマイコバクテリウム属細菌のotsA遺伝子、アースロバクター属細菌、ブレビバクテリウム・ヘルボルム、又はリゾビウム属細菌のtreY遺伝子が挙げられる。【0028】otsA遺伝子もしくはtreY遺伝子又はこれらの一部を含むDNA断片から、一定の領域を制限酵素により切り出し、コード領域又はプロモーター等の発現調節配列の少なくとも一部を欠失させることによって、欠失型遺伝子を作製することができる。【0029】また、遺伝子の一部を欠失するように設計したプライマーを用いてPCRを行うことによっても、欠失型遺伝子を取得することができる。さらに、欠失型遺伝子は、一塩基変異、例えばフレームシフト変異によるものであってもよい。【0030】以下に、otsA遺伝子の遺伝子破壊について説明するが、treY遺伝子の遺伝子破壊も同様にして行うことができる。欠失型otsA遺伝子を、宿主染色体上のotsA遺伝子と置換するには以下のようにすればよい。すなわち、コリネ型細菌中で自律複製できないプラスミドに、欠失型otsA遺伝子と、カナマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、ストレプトマイシン等の薬剤に耐性を示すマーカー遺伝子とを挿入して、組換えDNAを調製し、この組換えDNAでコリネ型細菌を形質転換し、形質転換株を薬剤を含む培地で培養することにより、組換えDNAが染色体DNAに組み込まれた形質転換株が得られる。また、プラスミドとして、温度感受性プラスミドを用い、形質転換株を温度感受性プラスミドが複製できない温度で培養してもよい。【0031】上記のようにして染色体に組換えDNAが組み込まれた株は、染色体上にもともと存在するotsA遺伝子配列との組換えを起こし、染色体otsA遺伝子と欠失型otsA遺伝子との融合遺伝子2個が組換えDNAの他の部分(ベクター部分及び薬剤耐性マーカー)を挟んだ状態で染色体に挿入されている。【0032】次に、染色体DNA上に欠失型otsA遺伝子のみを残すために、2個のotsA遺伝子の組換えにより1コピーのotsA遺伝子を、ベクター部分(薬剤耐性マーカーを含む)とともに染色体DNAから脱落させる。その際、正常なotsA遺伝子が染色体DNA上に残され、欠失型otsA遺伝子が切り出される場合と、反対に欠失型otsA遺伝子が染色体DNA上に残され、正常なotsA遺伝子が切り出される場合がある。いずれの遺伝子が染色体DNA上に残されたかは、染色体上のotsA遺伝子の構造をPCR又はハイブリダイゼーション等で調べることによって、確認することができる。【0033】本発明に用いるコリネ型細菌は、トレハロース合成能が低下又は欠失したことに加えて、L−グルタミン酸生合成を触媒する酵素の活性が増強されていてもよい。このようなL−グルタミン酸生合成を触媒する酵素としては、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、グルタミンシンテターゼ、グルタミン酸シンターゼ、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、アコニット酸ヒドラターゼ、クエン酸シンターゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、ホスホエノールピルビン酸シンターゼ、エノラーゼ、ホスホグリセロムターゼ、ホスホグリセリン酸キナーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、フルトースビスリン酸アルドラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グルコースリン酸イソメラーゼ等がある。【0034】また、本発明に用いるコリネ型細菌は、L−グルタミン酸の生合成経路から分岐してL−グルタミン酸以外の化合物を生成する反応を触媒する酵素の活性が低下あるいは欠損されていてもよい。このような酵素としては、α−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ、イソクエン酸リアーゼ、リン酸アセチルトランスフェラーゼ、酢酸キナーゼ、アセトヒドロキシ酸シンターゼ、アセト乳酸シンターゼ、ギ酸アセチルトランスフェラーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、L−グルタミン酸デカルボキシラーゼ、1−ピロリン酸デヒドロゲナーゼ等が挙げられる。【0035】さらに、L−グルタミン酸生産能を有するコリネ型細菌に、界面活性剤等のビオチン作用抑制物質に対する温度感受性変異を付与することにより、過剰量のビオチンを含有する培地中にてビオチン作用抑制物質の非存在下でL−グルタミン酸を生産させることができる(WO96/06180号参照)。このようなコリネ型細菌としては、WO96/06180号に記載されているブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムAJ13029が挙げられる。AJ13029株は、1994年9月2日付けで工業技術院生命工学工業技術研究所に、受託番号FERM P-14501として寄託され、1995年8月1日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP-5189が付与されている。【0036】L−グルタミン酸生産能を有し、かつ、トレハロース合成能が低下又は欠失したコリネ型細菌を好適な培地で培養すれば、L−グルタミン酸が培地に蓄積する。L−グルタミン酸を製造するのに用いる培地は、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機微量栄養素を含有する通常の培地である。炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトース、シュクロース、マルトース、廃糖蜜、澱粉加水分解物などの炭水化物、エタノールやイノシトールなどのアルコール類、酢酸、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類を用いることができる。【0037】窒素源としては、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、アンモニア、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、酵母エキス、コーン・スティープ・リカー、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。【0038】無機イオンとしては、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。有機微量栄養素としては、ビタミンB1などの要求物質または酵母エキス等を必要に応じ適量含有させることが望ましい。【0039】培養は、振とう培養、通気撹拌培養等による好気的条件下で16〜72時間実施するのがよく、培養温度は30℃〜45℃に、培養中pHは5〜9に制御する。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。【0040】発酵液からのL−グルタミン酸の採取は、例えばイオン交換樹脂法、晶析法等によることができる。具体的には、L−グルタミン酸を陰イオン交換樹脂により吸着、分離させるか、または中和晶析させればよい。【0041】【実施例】以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。【0042】【実施例1】ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムのotsA遺伝子破壊株の構築<1>otsA遺伝子のクローニングブレビバクテリウムラクトファーメンタムのotsA遺伝子は知られていないため、他の微生物のotsA遺伝子の塩基配列を利用して、その取得を行った。これまでに、エシェリヒア属、マイコバクテリウム属のotsA遺伝子は全塩基配列が明らかにされている(Kaasen, I., et al., Gene, 145(1), 9-15 (1994); De Smet K.A., et al., Microbiology, 146(1), 199-208 (2000))。そこでまず、これらの塩基配列から推定されるアミノ酸配列を参考にして、PCR法のためのDNAプライマーP1(配列番号1)、P2(配列番号2)を合成した。DNAプライマーP1、P2は、それぞれエシェリヒア・コリのotsA遺伝子の塩基配列(GenBank accession X69160)における塩基番号1894から1913番目、2531から2549番目の位置に相当する。一方、マイコバクテリウム・ツベルクロシスのotsA遺伝子(GenBank accession Z95390)においては、塩基番号40499〜40518、41166〜41184の位置に相当する。【0043】続いてプライマーP1とP2を用いて、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869の染色体DNAを鋳型として、94℃ 0.5分、50℃ 0.5分、72℃ 4分の反応30サイクルのPCRを行った。その結果、およそ0.6Kbpのほぼ単一の増幅断片を取得した。この増幅断片を、Invitrogen社製の「Original TA cloning Kit」を用いて、プラスミドベクターpCR2.1にクローニングし、pCotsAを得た。続いて、クローニング断片の塩基配列を決定した。【0044】以上のようにして取得したotsA遺伝子の部分断片の塩基配列をもとに、新たにDNAプライマーP10(配列番号8)、P12(配列番号10)を合成し、「inverse PCR」(Triglia, T. et al., Nucleic Acids Res., 16, 81-86 (1988), Ochman, H., et al., Genetics, 120, 621-623 (1988))により、前記部分断片に隣接する未知領域を増幅した。ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869の染色体DNAを制限酵素BamHI, BglII, ClaI, HindIII, KpnI, MluI, MunL, SalI, XhoIにより切断後、T4 DNAリガーゼ(宝酒造(株)製)を用いて分子内結合させたものを鋳型として、DNAプライマーP10、P12を用いて、94℃ 0.5分、55℃ 1分、72℃ 4分の反応30サイクルのPCRを行った。その結果、制限酵素としてClaIおよびBglIIを使用した場合に、それぞれ4Kbp、4Kbpの増幅断片を得た。この増幅断片を、DNAプライマーP5〜9(配列番号3〜7)、P11〜15(配列番号9〜13)を用いて直接塩基配列を決定し、配列番号29に示すようなブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869のotsA遺伝子の全塩基配列を決定した。同塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を、配列番号29及び30に示す。【0045】前記otsA遺伝子の配列と、前記エシェリヒア・コリのotsA遺伝子(GenBank accession X69160)、及びマイコバクテリウム・ツベルクロシスのotsA遺伝子(GenBank accession Z95390)の配列との相同性を調べたところ、塩基配列では各々46.3%、55.9%であり、アミノ酸配列では各々30.9%、51.7%であった。尚、相同性の算出は、プログラムとしてLipman-Person法(Science, 227, 1435-1441 (1985)を用い、ソフトウェア「GENETIX-WIN」(ソフトウェア開発(株))を用いて行った。【0046】<2>otsA遺伝子破壊用プラスミドの作製コリネ型細菌のトレハロース生合成系酵素遺伝子破壊による、L−グルタミン酸生産性向上効果の有無を検討するために、otsA遺伝子破壊プラスミドの作製を行った。otsA遺伝子破壊用プラスミドの作製は、以下のようにして行った。先のotsA遺伝子のクローニングの際に構築したプラスミドpCotsAを鋳型として、ClaIサイトを挿入したプライマーP29(配列番号33)とP30(配列番号34)を用いて、94℃ 0.5分、55℃ 0.5分、72℃ 8分の反応30サイクルのPCRを行った。増幅断片をClaIで処理し、T4 DNAポリメラーゼ(宝酒造(株)製)を用いて平滑末端処理を行った後、T4 DNAリガーゼ(宝酒造(株)製)を用いて分子内結合させ、otsA遺伝子のほぼ中央部にフレームシフト変異(配列番号29において1258〜1300番目の塩基が欠失)が導入されたプラスミドpCotsACを構築した。【0047】<3>otsA遺伝子破壊株の作製遺伝子破壊用プラスミドpCotsACを用いて、L−グルタミン酸生産菌ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869を電気パルス法により形質転換し、カナマイシンを20mg/L含有したCM2B培地にて生育できることを指標に、形質転換体を取得した。このotsA遺伝子破壊用プラスミドpCotsACは、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム中で機能する複製起点を有さないため、同プラスミドによって得られる形質転換体はブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム染色体上のotsA遺伝子と、遺伝子破壊用プラスミドpCotsACとが相同組換えを起こしたものである。こうして得られた相同組換え株より、再度相同組換えを起こしたことによって、遺伝子破壊用プラスミドpCotsACのベクター部分が除去された株を、カナマイシンに対して感受性となったことを指標に取得した。【0048】上記のようにして得られた株の中から、目的のフレームシフト変異が導入された株を選択した。このような菌株の選択は、カナマイシン感受性となった菌株より抽出した染色体DNAを鋳型として、DNAプライマーP8(配列番号14)とP13(配列番号11)を用いて、94℃ 0.5分、55℃ 0.5分、72℃ 1分の反応30サイクルのPCRを行い、得られた増幅断片をDNAプライマーP8を用いて塩基配列の決定を行い、フレームシフト変異が導入され、otsA遺伝子が機能しなくなっていることを確認することによって行った。以上のようにして得られた菌株を、ΔOA株と命名した。【0049】【実施例2】treY遺伝子破壊株の構築<1>treY遺伝子のクローニングブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムのtreY遺伝子は知られていないために、他の微生物のtreY遺伝子の塩基配列を利用して、その取得を行った。これまでに、アースロバクター属、ブレビバクテリウム属、リゾビウム属のtreY遺伝子は塩基配列が明らかにされている(Maruta, K., et al., Biochim. Biophys. Acta, 1289(1), 10-13 (1996); Genbank accession AF039919; Maruta, K., et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 60(4), 717-720 (1996))。そこでまず、これらの塩基配列から推定されるアミノ酸配列を参考にしてPCR法のためのDNAプライマーP3(配列番号14)、P4(配列番号15)を合成した。DNAプライマーP3、P4はそれぞれアースロバクター・スピーシーズのtreY遺伝子(GenBank accession D63343)の塩基配列における塩基番号975〜992、2565〜2584の位置に相当する。また、ブレビバクテリウム・ヘルボルムのtreY遺伝子(GenBank accession AF039919)の塩基配列においては、塩基番号893〜910、2486〜2505の位置に相当する。一方、リゾビウム・スピーシーズのtreY遺伝子(GenBank accession D78001)の塩基配列においては、塩基番号862〜879、2452〜2471の位置に相当する。【0050】続いてプライマーP3とP4を用いて、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869の染色体DNAを鋳型として、94℃ 0.5分、55℃ 0.5分、72℃ 2分の反応30サイクルのPCRを行った。その結果、およそ1.6Kbpのほぼ単一の増幅断片を取得した。この増幅断片をInvitrogen社製の「Oriinal TA cloning Kit」を用いてプラスミドベクターpCR2.1にクローニングし、続いて約0.6Kbの塩基配列を決定した。【0051】以上のようにして取得したtreY遺伝子の部分断片の塩基配列をもとに、新たにDNAプライマーP16(配列番号16)、P26(配列番号26)を合成し、「inverse PCR」(Triglia, T., et al. Nucleic Acids Res.,16,81-86(1988)、Ochman,H., et al., Genetics,120,621-623(1988))により、前記部分断片に隣接する未知領域を増幅した。ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869の染色体を制限酵素BamHI, HindIII, SalI, XhoIにより切断後、T4 DNAリガーゼ(宝酒造(株)製)を用いて分子内結合させたものを鋳型として、DNAプライマーP16、P26を用いて、94℃ 0.5分、55℃ 1分、72℃ 4分の反応30サイクルのPCRを行った。その結果、制限酵素としてHindIIIおよびSalIを使用した場合に、それぞれ0.6Kbp、1.5Kbpの増幅断片を得た。この増幅断片をDNAプライマーP16〜28(配列番号16〜28)を用いて直接塩基配列を決定し、配列番号31に示すようなブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869のtreY遺伝子の全塩基配列を決定した。同塩基配列によってコードされるアミノ酸配列を、配列番号31及び32に示す。【0052】前記treY遺伝子の配列と、前記アースロバクター・スピーシーズのtreY遺伝子(GenBank accession D63343)、ブレビバクテリウム・ヘルボルムのtreY遺伝子(GenBank accession AF039919)、及びリゾビウム・スピーシーズのtreY遺伝子(GenBank accession D78001)の配列との相同性を調べたところ、塩基配列では各々52.0%、52.3%、51.9%であり、アミノ酸配列では各々40.9%、38.5%、39.8%であった。尚、相同性の算出は、プログラムとしてLipman-Person法(Science, 227, 1435-1441 (1985)を用い、ソフトウェア「GENETIX-WIN」(ソフトウェア開発(株))を用いて行った。【0053】<2>treY遺伝子破壊用プラスミドの作製コリネ型細菌のトレハロース生合成系酵素遺伝子破壊による、L−グルタミン酸生産性向上効果の有無を検討するために、treY遺伝子破壊プラスミドの作製を行った。まず、DNAプライマーP17(配列番号17)とP25(配列番号25)を用いて、ATCC13869の染色体DNAを鋳型にして、94℃ 0.5分、60℃ 0.5分、72℃ 2分の反応30サイクルのPCRを行った。増幅断片をEcoRIで消化し、EcoRIで処理したpHSG299(宝酒造(株)製)とT4 DNAリガーゼ(宝酒造(株)製)を用いて結合させ、プラスミドpHtreYを取得した。さらに、このpHtreYをAflII(宝酒造(株)製)で処理し、T4 DNAポリメラーゼ(宝酒造(株)製)を用いて平滑末端処理を行った後、T4 DNAリガーゼ(宝酒造(株)製)を用いて分子内結合させ、treY遺伝子のほぼ中央部にフレームシフト変異(配列番号31において1145番目の後ろに4塩基挿入)が導入されたプラスミドpHtreYAを構築した。【0054】<3>treY遺伝子破壊株の作製遺伝子破壊用プラスミドpCtreYAを用いて、L−グルタミン酸生産菌ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869を電気パルス法により形質転換し、カナマイシンを20mg/L含有したCM2B培地にて生育できることを指標に、形質転換体を取得した。このtreY遺伝子破壊用プラスミドpCtreYAは、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム中で機能する複製起点を有さないため、同プラスミドによって得られる形質転換体はブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム染色体上のtreY遺伝子と、遺伝子破壊用プラスミドpCtreYAとが相同組換えを起こしたものである。こうして得られた相同組換え株より、再度相同組換えを起こしたことによって、遺伝子破壊用プラスミドpCtreYAのベクター部分が除去された株を、カナマイシンに対して感受性となったことを指標に取得した。【0055】上記のようにして得られた株の中から、目的のフレームシフト変異が導入された株を選択した。このような菌株の選択は、DNAプライマーP19(配列番号19)とP25(配列番号25)を用いて、94℃ 0.5分、55℃ 0.5分、72℃ 1.5分の反応30サイクルのPCRを行い、得られた断片をDNAプライマーP21またはP23を用いて塩基配列の決定を行い、フレームシフト変異が導入され、treY遺伝子が機能しなくなっていることを確認することによって行った。以上のようにして得られた菌株を、ΔTA株と命名した。【0056】【実施例3】ΔOA株及びΔTA株のL−グルタミン酸生産能の評価ATCC13869株、ΔOA株及びΔTA株のL−グルタミン酸の生産培養を、以下の様に行った。これらの菌株をCM2Bプレート培地にて培養してリフレッシュを行い、リフレッシュされた各菌株を、グルコース 80g、KH2PO4 1g、MgSO4 0.4g、(NH4)2SO4 30g、FeSO4・7H2O 0.01g、MnSO4・7H2O 0.01g、大豆加水分解液 15ml、サイアミン塩酸塩 200μg、ビオチン 3μg、及びCaCO3 50gを純水 1L中に含む培地(KOHを用いてpHは8.0に調整されている)において、31.5℃にて培養した。培養後に培地中のL−グルタミン酸の蓄積量、及び51倍希釈した培養液の620nmにおける吸光度を測定した結果を、表1に示す。【0057】otsA遺伝子又はtreY遺伝子を破壊したブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムは、親株と同程度の生育を示す一方、L−グルタミン酸生産量は親株に比べて増大した。【0058】【表1】【0059】〔配列表の説明〕配列番号1:otsA増幅用プライマーP1配列番号2:otsA増幅用プライマーP2配列番号3:プライマーP5配列番号4:プライマーP6配列番号5:プライマーP7配列番号6:プライマーP8配列番号7:プライマーP9配列番号8:プライマーP10配列番号9:プライマーP11配列番号10:プライマーP12配列番号11:プライマーP13配列番号12:プライマーP14配列番号13:プライマーP15配列番号14:treY増幅用プライマーP3配列番号15:treY増幅用プライマーP4配列番号16:プライマーP16配列番号17:プライマーP17配列番号18:プライマーP18配列番号19:プライマーP19配列番号20:プライマーP20配列番号21:プライマーP21配列番号22:プライマーP22配列番号23:プライマーP23配列番号24:プライマーP24配列番号25:プライマーP25配列番号26:プライマーP26配列番号27:プライマーP27配列番号28:プライマーP28配列番号29:otsA遺伝子塩基配列配列番号30:OtsAアミノ酸配列配列番号31:treY遺伝子塩基配列配列番号32:TreYアミノ酸配列配列番号33:プライマーP29配列番号34:プライマーP30【0060】【発明の効果】本発明によれば、コリネ型細菌を用いた発酵法によるL−グルタミン酸の製造において、トレハロースの副生を抑制し、L−グルタミン酸の生産効率を向上させることができる。【0061】【配列表】【0062】【0063】【0064】【0065】【0066】【0067】【0068】【0069】【0070】【0071】【0072】【0073】【0074】【0075】【0076】【0077】【0078】【0079】【0080】【0081】【0082】【0083】【0084】【0085】【0086】【0087】【0088】【0089】【0090】【0091】【0092】【0093】【0094】 L−グルタミン酸生産能を有し、かつ、染色体上のトレハロース−6−リン酸シンターゼをコードする遺伝子、マルトオリゴシルトレハロースシンターゼをコードする遺伝子もしくはこれらの両方の遺伝子に変異が導入されるか、又はこれらの一方もしくは両方の遺伝子が破壊されたことによりトレハロース合成能が低下又は欠失したコリネ型細菌であって、前記トレハロース−6−リン酸シンターゼをコードする遺伝子が下記(A)又は(B)に示す蛋白質をコードするDNAであり、前記マルトオリゴシルトレハロースシンターゼをコードする遺伝子が下記(C)又は(D)に示す蛋白質をコードするDNAである、コリネ型細菌。(A)配列番号30に記載のアミノ酸配列を有する蛋白質。(B)配列番号30に記載のアミノ酸配列において、1〜20個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列からなり、かつ、トレハロース−6−リン酸シンターゼ活性を有する蛋白質。(C)配列番号32に記載のアミノ酸配列を有する蛋白質。(D)配列番号32に記載のアミノ酸配列において、1〜40個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加を含むアミノ酸配列からなり、かつ、マルトオリゴシルトレハロースシンターゼ活性を有する蛋白質。 請求項1に記載のコリネ型細菌を培地に培養し、同培地中にL−グルタミン酸を生成、蓄積させ、同培地からL−グルタミン酸を採取することを特徴とするL−グルタミン酸の製造法。