タイトル: | 特許公報(B2)_細菌の鑑別方法 |
出願番号: | 2000125282 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | C12Q 1/04,G01N 21/77,C12R 1/21 |
田代 茂 JP 4510222 特許公報(B2) 20100514 2000125282 20000426 細菌の鑑別方法 三菱化学メディエンス株式会社 591122956 森田 憲一 100090251 山口 健次郎 100139594 田代 茂 20100721 C12Q 1/04 20060101AFI20100701BHJP G01N 21/77 20060101ALI20100701BHJP C12R 1/21 20060101ALN20100701BHJP JPC12Q1/04G01N21/77 DC12Q1/04C12R1:21 C12Q 1/00- 3/00 G01N 21/75-21/83 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) MEDLINE/CAplus/BIOSIS/WPIDS(STN) 特開昭57−144995(JP,A) 日本臨床微生物学雑誌, 1999, Vol.9, No.4, p.122 3 2001299381 20011030 7 20070316 佐々木 大輔 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、生化学的性状による細菌の鑑別法に関し、迅速に細菌を鑑別する方法を提供する。【0002】【従来の技術】臨床検査における細菌の鑑別は、通常、培地上の孤立集落を純培養した後、その生化学的性状を鑑別表に照合して行われる。例えば、分離培地上にヘモフィルス(Haemophilus)を疑わせる集落が生じたら、生化学的同定を行い、その菌種(例えばヘモフィルス インフルエンザあるいはヘモフィルス パラインフルエンザなど)であることを確かめなくてはならない。その決定は、一般的にX因子(ヘミン)とV因子(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の要求性に基づいて行われているが、培地への両因子の添加と菌の発育との関係を培養法で調べるため、どうしても結果を得るまでに18〜24時間かかる。【0003】上記の問題点を解決するために、キリアンはX因子要求性テストの代わりに5−アミノレブリン酸からのポルフィリン合成能テストで確かめられるべきことを強調したが[Kilian,M.(1974).Acta Path.microbiol.scand.B82,835]、この方法でも、ヘモフィルスを鑑別するには4〜20時間の培養時間を必要とする。【0004】【発明が解決しようとする課題】前記のように、感染症の診断における従来の技術は迅速性が不充分であり、臨床医はその結果を待たずに診断と治療を開始せざるを得ないため、その治療は広範囲な抗菌スペクトルを持つ抗生物質を頼りにしてしまう場合が多い。このような抗生物質の使用法は、耐性菌の出現を必要以上に早めてしまう可能性が高い。細菌検査が感染症の診断と治療方針の決定に役立たない最大の原因は、その結果が得られるまでに長時間を要するということに尽きる。本発明は、こうした細菌検査を迅速に行える手段を提供し、細菌検査が抱える根本的な課題を解決することを目的とするものである。【0005】【課題を解決するための手段】前記課題は、本発明によって一挙に解決できるものである。即ち、本発明は、生化学的性状による細菌の鑑別において、被検試料を培養して培地上に発育した孤立集落を基質物質と接触させ、40℃以上の雰囲気に保持し、細菌が有する酵素活性により前記基質物質から生成した物質由来のシグナルを検出することを特徴とする細菌の鑑別方法、に関する。以下、本発明を詳述する。【0006】【発明の実施の形態】本発明は、培地上に孤立集落を形成する被検試料中に存在する細菌が有する酵素活性の有無を調べることで、分離した菌を判別することを基本とし、この特異酵素の活性を発蛍光または呈色試薬による発色等を用いて確認するものである。例えば、細菌が有する酵素活性に好適な基質物質を含有する溶液(緩衝液等)に、別途被検試料を培養して得られた培地上の孤立集落を採取して懸濁し、40℃以上の雰囲気に保持して細菌の酵素活性により生じる物質を、紫外線照射による発蛍光または呈色液添加による発色として検出する。【0007】本発明に用いる基質としては5−アミノレブリン酸、またはその塩酸塩が挙げられる。この化合物は生化学的性状による細菌の鑑別において、特定の細菌(例えば、ヘモフィルス インフルエンザ)は欠失しているがそれ以外の多くの細菌が有する酵素群が作用し、その酵素活性によって生成した物質(例えば、ポルフィリン)は紫外線の照射によって蛍光を発する性質を有する。従って、この化合物を含有する溶液に、予め被検試料を適当な平板培地(例えば、チョコレート寒天培地)に塗末し適温(例えば37℃)で培養して培地上に発育させた孤立集落を懸濁させ、細菌が有する酵素活性によって生成した当該溶液に含まれる物質由来のシグナルである蛍光を目視的あるいは機器を用いて観察・検出することができる。【0008】前記基質物質を精製水、生理食塩水、あるいは適当な緩衝液に溶解して用いる。本発明に利用できる緩衝液としては、細菌が有する酵素活性を発現させることができれば特には限定されない。具体的には、例えば、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、モプス(MOPS)等のグッド緩衝液等を挙げることができる。その濃度およびpHも特に限定されない。例えば0.01mol/lから0.5mol/lの濃度でpHが5.0から10.0である緩衝液を挙げることができる。好適には、0.1mol/lのリン酸緩衝液pH6.9を用いることができる。【0009】5−アミノレブリン酸(塩酸塩)を溶解した溶液の調製法も周知の方法によれば良く、特に限定されない。具体的には、5−アミノレブリン酸が終濃度で0.001〜2%になるように溶解したpHが7.0付近の緩衝液を調製して用いる。使用時(孤立集落を懸濁し反応させる時)の液量も特に限定されず、0.01〜10.0mlまで幅広く用いることができるが、好ましくは0.05〜5.0ml、より好ましくは0.1〜1.0mlである。【0010】こうして調製された基質溶液は直接被検菌を懸濁して試験できるが、吸水性を有する担体(例えば綿棒や濾紙等)にしみ込ませ乾燥させたものを作製し、使用に際して基質が保持されている部分に被検菌を接触させたり精製水や緩衝液で基質を再溶解した後に被検菌を懸濁しても試験できる。【0011】本発明の重要な要件は、細菌が有する酵素活性を前記基質を用いて確認する反応を、40℃以上の雰囲気で行う点である。PCRに用いるような耐熱性を有する酵素を特別に検索する場合は例外として、一般的に生化学の分野で行われる酵素反応は37℃で測定することが常識となっている。というのも、多くの場合加温によって酵素が失活してしまい、酵素活性自身の測定、あるいは酵素活性を利用する分析において、必要以上に温度を上げるという発想はない。逆に、不利益を生じる可能性が高いため、厳密に温度をコントロールするのが常套手段である。このような技術背景の中、本発明である40℃以上の雰囲気下で酵素反応を行わせることは、容易に想到し得ず、また格別なる効果も得られる。つまり、臨床材料の病原性細菌の一般的な検査手順は、被検試料から培養により菌分離を行った後、生化学的性状試験培地で1〜7日培養後判定した成績を生化学的性状鑑別表に照合して菌種を確認する、という長い工程を経ることや、この点を改良したキリアン法も充分な菌量が得られなければ最終的な酵素反応だけで20数時間はかかってしまうことに対して本発明は、被検試料を適当な平板培地(例えばチョコレート寒天培地)に塗末して、通常条件下(例えば37℃、16時間)で培養して菌分離さえ行えれば、培地上の孤立集落を前記のようにして調製した基質溶液に懸濁し、この時の細菌が有する酵素による反応を、40℃以上、具体的には42℃より高い温度、より具体的には47〜72℃で行うことで、充分な菌量が得られなくとも常套手段(37℃)に比較して、鑑別結果を得るまでの時間を大幅に短縮できるものである。例えば、62℃で反応を行った場合、明確な鑑別結果は30分以内に得られる。具体的には、前記条件下で孤立集落を5−アミノレブリン酸と接触させて、生成する物質由来のシグナル(例えば、ポルフィリンを検出する場合は紫外線照射下の蛍色)の有無を極めて短時間で判定する事が可能となる。このシグナルは目視的観察、あるいは、機械的に蛍光または発色を検出してもよい。【0012】例えば、分離された菌がヘモフィルス インフルエンザかヘモフィルス パラインフルエンザかを鑑別するとき、培地上に発育した集落を例えば0.0335%の5−アミノレブリン酸塩酸塩を含む0.1mol/lのリン酸緩衝液(pH6.9)に懸濁し、例えば62℃で30分間反応させ、長波長の紫外線(例えば360nm)を照射し、緩衝液に含まれるポルフィリンから発する赤色蛍光の有無を肉眼で判定する。この結果ポルフィリン産生能の無い菌(例えばヘモフィルス インフルエンザ)を懸濁した場合は赤色蛍光を発しないが、ポルフィリン産生能がある菌(例えばヘモフィルス パラインフルエンザ)を懸濁した場合赤色蛍光を発するため両者の鑑別が迅速にできる。【0013】本発明における反応温度の調整に用いる機器は、特に限定されず、例えばウオ−タ−バスやエア−インキュベ−タ−、ヒ−ティングブロック等が挙げられるが、好適にはウオ−タ−バスを用いることができる。また、目標とした温度に達するまで徐々に昇温するための操作は必要なく、目標温度に達しているウオ−タ−バス等の機器を用いて反応液を速やかに昇温してよい。【0014】本発明における被検試料としては、ヒト、家畜等の動物の血液、尿、糞便、髄液、咽頭液、痰、気管支分泌液、鼻咽頭液、眼液などすべての臨床材料から分離した菌を用いることができる。【0015】本発明によれば、ヘモフィルス インフルエンザ(Haemophilus influenzae)、ヘモフィルス エジプチウス(Haemophilus aegyptius)、ヘモフィルス ヘモリティクス(Haemophilu haemolyticus)とこれら以外のヘモフィルスとの鑑別を迅速化できる。【0016】このように構成することで、例えば以下の実施例に示すように、判定までの時間を大幅に短縮できる。これは、反応温度を上昇させることで、ポルフィリンの生成量が増加し蛍光強度が強くなったためと思われる。酵素反応も触媒反応の一種であることから、温度の上昇とともに反応速度が速まったことだけではなく、適当な温度下(例えば52℃前後)での蛍光強度の変化が急激なことから、菌の細胞膜に変化が生じ5−アミノレブリン酸の透過量が増加したこともその要因である可能性がある。また、温度の上昇は蛋白質の変性を同時に引き起こすため、ある温度(例えば77℃)に達すると酵素活性が低下し、本発明が示すような47℃から72℃にかけての至適温度が成立しているものと思われる。【0017】【実施例】以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。【実施例1】(基質含有緩衝液の調製)本発明で用いた試薬の調製方法は、周知な方法である「キリアンの方法」に従って作製した。具体的には5−アミノレブリン酸塩酸塩(和光純薬工業)0.0335gを1.97mg/lの硫酸マグネシウムを含む0.1mol/lのリン酸緩衝液(pH6.9)100mlに溶解し(0.0335%溶液)、その500μlを小試験管に分注して用いた。【0018】(被験菌および被験菌の培養)被検試料として用いた被験菌は、IDテスト・NH−20ラピッド(日水製薬)を用いて同定した臨床分離株20株を用いた。その内訳は、ヘモフィルス インフルエンザ(Haemophilus influenzae)が10株、ヘモフィルス パラインフルエンザ(Haemophilus parainfluenzae)が10株であった。この20株の被験菌をチョコレ−ト寒天培地(日水製薬)で37℃、18時間培養後、培地上の孤立集落(数個から数十個)を、前記のようにして調製した5−アミノレブリン酸塩酸塩含有緩衝液500μlづつ分注された試験管にマックファーランド No.3相当になるよう懸濁し、42℃、47℃、52℃、57℃、62℃、67℃、72℃、77℃に設定したウオ−タ−バス中に反応液の入った試験管を速やかに移動させ、30分、1時間さらに4時間反応させた後、懸濁液を室温(25℃)に戻してから360nmの紫外線を照射し、そこから発する蛍光の有無を肉眼で判定した。【0019】(従来法)比較例として従来法である「キリアンの方法」によるポルフィリン産成能テストを行った。被検菌と試薬は本発明と同じものを使用し、操作法も37℃で反応させること以外は、本発明と同一に操作した。【0020】ヘモフィルス パラインフルエンザ10株について、温度と反応時間別の結果を表1に示す。なお、ヘモフィルス インフルエンザについては、本発明および従来法ともにすべて陰性であった(表は省略)。また、従来法(37℃、4時間)と本発明方法(62℃、30分)における陰性と陽性の一致率を表2に示す。【0021】【表1】ヘモフィルス パラインフルエンザの場合−は陰性、+は弱陽性、++は陽性、+++は強陽性を表す【0022】【表2】【0023】結果から、反応温度を47℃から77℃に設定することで、判定結果が得られるまでの時間を大幅に短縮できることが確認できた。また、従来法と本発明による2菌種の持つ生化学的性状の鑑別結果は一致した。【0024】【発明の効果】以上のように本発明は、臨床材料において、培地上に発育した集落の鑑別をする場合、従来法では結果の判定までに4〜24時間必要であったのに対し、本発明は少なくとも培地上に菌の発育が認められてから30分以内に鑑別が可能である。また、従来のヘモフィルス鑑別法の試験成績と完全に一致しその特異性も確認された。従って、特異的かつ極めて迅速な本発明は、例えば、ヘモフィルス インフルエンザが原因である可能性のある肺炎や髄膜炎の診断と治療に大きく寄与するものである。 生化学的性状によるヘモフィルス属の菌の鑑別において、被検試料を培養して培地上に発育した孤立集落を5−アミノレブリン酸と接触させ、47℃から77℃の雰囲気に保持し、ヘモフィルス属の菌が有する酵素活性により前記5−アミノレブリン酸から生成したポルフィリン由来のシグナルを検出することを特徴とするヘモフィルス属の菌の鑑別方法。 生化学的性状によるヘモフィルス属の菌の鑑別において、(a)被検試料を培養して培地上に発育した孤立集落を、5−アミノレブリン酸を含有する溶液に懸濁させる工程、(b)前記懸濁液を47℃から77℃の雰囲気中に保持する工程、(c)前記工程(b)においてヘモフィルス属の菌が有する酵素活性により5−アミノレブリン酸から生成したポルフィリンを、紫外線照射による発蛍光または呈色液添加による発色として検出する工程、を経ることを特徴とする請求項1に記載のヘモフィルス属の菌の鑑別方法。 生化学的性状によるヘモフィルス属の菌の鑑別において、(d)被検試料を培養して培地上に発育した孤立集落を、5−アミノレブリン酸を含ませた吸水性を有する担体と接触させる工程、(e)前記担体を直接または溶液に浸して47℃から77℃の雰囲気中に保持する工程、(f)前記工程(e)においてヘモフィルス属の菌が有する酵素活性により5−アミノレブリン酸から生成したポルフィリンを、紫外線照射による発蛍光または呈色液添加による発色として検出する工程、を経ることを特徴とする請求項1に記載のヘモフィルス属の菌の鑑別方法。