タイトル: | 特許公報(B2)_DNAの電気泳動法 |
出願番号: | 2000054166 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | G01N 27/447,C12N 15/09,C12Q 1/68,G01N 33/483,G01N 33/50 |
鈴木 美香 JP 3967516 特許公報(B2) 20070608 2000054166 20000229 DNAの電気泳動法 ハイモ株式会社 000142148 尾仲 一宗 100092347 加藤 雅夫 100108567 鈴木 美香 20070829 G01N 27/447 20060101AFI20070809BHJP C12N 15/09 20060101ALI20070809BHJP C12Q 1/68 20060101ALI20070809BHJP G01N 33/483 20060101ALI20070809BHJP G01N 33/50 20060101ALI20070809BHJP JPG01N27/26 315FC12N15/00 AG01N27/26 315GG01N27/26 325EC12Q1/68 AG01N33/483 FG01N33/50 P G01N 27/447 C12N 15/09 C12Q 1/68 G01N 33/483 G01N 33/50 JSTPlus(JDream2) 特表平11−510044(JP,A) 特表平10−510363(JP,A) 4 2001242139 20010907 14 20061207 郡山 順 【0001】【産業上の利用分野】この発明は、生化学、医学の分野におけるDNAの分離分析に利用されるDNAの電気泳動法に関する。更に詳しくは、この発明は、保存安定性の良いポリアクリルアミドゲルを用いて分析精度の高いDNA分析法に適用することができると共に、電気泳動用プレキャストゲルの利用分野に広く応用することができるDNAの電気泳動法を提供する。【0002】【従来の技術】電気泳動法は主としてタンパク質の分析方法として発展してきたが、分子生物学が進展するに従ってDNAやRNAの分析調製が必要とされるようになってきた。DNAやRNAのような核酸の分析には、アガロース電気泳動法及びポリアクリルアミドゲル電気泳動法が繁用されている。核酸は中性緩衝液中では強い陰性荷電を示し、 その移動度は支持体としてのゲルの分子篩効果によるため、対象とする核酸の大きさにより0.3%〜2%程度のアガロースゲル又は3.5%〜20%程度のポリアクリルアミドゲルが繁用されている。【0003】アガロースゲルは、比較的大きな孔径を有しているため、高分子の核酸の分離分析を対象とする場合に用いられている。アガロースには、電気浸透の強弱、ゲル強度、融点等の性質の異なる多くの種類がある。また、アガロースは天然物であるため、同一会社の同一製品であってもロットによりしばしば性状に差が見られる。更に、アガロースゲル電気泳動法を調製に用いてDNAを精製する場合、しばしばアガロース中の不純物が混入し、制限酵素、DNAポリメラーゼ、DNAリガーゼ等の酵素の活性を阻害する。このため、アガロースゲルを用いたDNAの精製には、フェノール抽出などによる精製法を加味する必要がある。【0004】一方、ポリアクリルアミドゲルは、比較的小さな孔径を有しているため、中分子〜低分子の核酸の分離分析を対象とする場合に用いられている。ポリアクリルアミドゲルは、合成品であるために化学的に高純度であり、アガロースゲルに見られるような性状の不均一の問題点はない。また、処方を変えることによって、分離特性の異なるポリアクリルアミドゲルを容易に調製することができる。そのため、 様々な分離能を持つように量産されたプレキャストゲルを予め用意しておき、その中から適切なプレキャストゲルを選択して用いることにより、分析の手間を大幅に省くことができる。ポリアクリルアミドゲルは、均一で再現性の良いことから当該分野における生産及び品質管理に貢献するところが大である。量産されたポリアクリルアミドゲルを供給するに際しては、保存安定性が良好であることが期待される。【0005】アガロースゲル、ポリアクリルアミドゲルと共にDNAの電気泳動に使用する緩衝液は、主にpH7.8〜8.3のエチレンジアミン四酢酸( 以下EDTAと称す) 又はエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム( 以下ETAと称す) を含むトリス( ヒドロキシメチル) アミノメタン(以下トリスと称す)−酢酸緩衝液( 以下TAEと称す) 、トリス−硼酸緩衝液( 以下TBEと称す) 、又はトリス−リン酸緩衝液( 以下TPEと称す) であり、ゲル緩衝液と泳動用緩衝液の組成が等しい連続緩衝液系である。【0006】一方、タンパク質の分離分析で汎用されている、オルンスタイン(L.Ornstein,Ann.N.Y.Acad.Sci.121,321−349(1964))とデービス( B.J.Davis,Ann.N.Y.Acad.Sci.121,404−427(1964)) によって提案された方法によって、DNAの分離分析を行うことも可能である。この方法は、ゲル緩衝液としてトリスー塩酸緩衝液(オルンスタイン−デービスのゲル緩衝液)、泳動用緩衝液としてトリスーグリシン緩衝液( オルンスタイン−デービスの泳動用緩衝液) を使用しており、ゲル緩衝液と泳動用緩衝液の組成の異なる不連続緩衝液系である。不連続緩衝液系は、連続緩衝液系に比べ少量の試料添加で良好な解像力をもたらすことが特徴である。【0007】しかし、公知の電気泳動システムにおいては、通常、ポリアクリルアミドゲルの内包するゲル緩衝液のpHは7.8〜8.8であり、ポリアクリルアミド中のアミド基は経時的に加水分解反応を受ける。加水分解反応は、低温条件下でも進行して部分的にアニオン基を有するゲルを生る。その結果、DNAの泳動距離が短くなり、 分離像が不鮮明になる。従って、ポリアクリルアミドゲルは、時間が経過するほど加水分解反応が進行するため、長期間に渡って保存して使用することが困難である。ポリアクリルアミドの加水分解を抑制するために、ゲル緩衝液中のトリス中和率を高めてpHを下げると、連続緩衝液系の場合、泳動時間が非常に長くなり分析の効率が低下する。不連続緩衝液系の場合、ゲル緩衝液中のトリスの中和率を高めると、泳動時間が長くなるだけでなく分離能も劣り、使用に耐えないものとなる。【0008】ポリアクリルアミドゲルの安定性を改善する方法として、トリス、両性電解質及び酸から成るゲル緩衝液を内包した、長期保存安定性に優れ且つ測定可能な分子量範囲を著しく拡大したポリアクリルアミドゲルの製造方法が、特開平4−184163号公報に開示されている。この製造方法によって製造されたポリアクリルアミド電気泳動ゲルは、オルンスタイン−デービスの泳動用緩衝液又はレムリー( U.K.Laemmli,Nature 227,680(1970)) によって提案された泳動用緩衝液( レムリーの泳動用緩衝液) を使用して分析に供することができる。このポリアクリルアミド電気泳動ゲルは、両性電解質を含有するpH4.0〜7.5のゲル緩衝液を内包することを特徴とし、その実施例においてpHが6.9〜7.4のゲルの製造が例示され、冷蔵保存で4ヶ月はタンパク質の移動度に変化なく安定であるとされている。レムリーの泳動用緩衝液とは、トリス、グリシン及びドデシル硫酸ナトリウム( 以下SDSと称す) を含有する緩衝液である。このポリアクリルアミドゲルは、タンパク質の分離分析を対象としているが、オルンスタイン- デービスの泳動用緩衝液を使用してDNAの分離分析も可能である。特開平4−184163号公報に実施例として記載されている条件で製造したゲルは、DNAの分離分析に使用するに当たり、移動度、染色状態の観点から見て、冷蔵保存で2 ヶ月間安定である。【0009】しかし、量産されたポリアクリルアミドゲルを供給するに際しては、2ヶ月の保存有効期限では不十分である。そこで、特開平4−184163号公報に開示されている方法で製造したポリアクリルアミドゲルのゲル緩衝液のpHを6.5以下とし、ポリアクリルアミドゲルの加水分解を抑制して更に安定性の良い電気泳動ゲルでのDNAの分析が必須となる。ところが、上記のpHが低いポリアクリルアミドゲルとオルンスタイン−デービスの泳動用緩衝液でのDNA分析では鮮明な泳動像を得ることができなかった。【0010】【発明が解決しようとする課題】そこで、電気泳動用ポリアクリルアミドゲルの加水分解をある程度抑制し、核酸の分離分析に汎用されている泳動用緩衝液とを使用して、長期間に渡って保存可能な電気泳動用ポリアクリルアミドゲルを用いてDNAの鮮明な分離分析を可能にする点について解決すべき課題がある。【0011】【課題を解決するための手段】この発明の目的は、上記の課題を解決することであり、保存安定性に優れ、保管有効期限が長い電気泳動ポリアクリルアミドゲルと、核酸の分析方法として汎用されている泳動用緩衝液を使用して行い、予め様々な分離特性を持つようにプレキャストゲルを量産することを可能にし、泳動時間が長期化せず且つ鮮明な泳動像を得ることが可能なDNAの電気泳動法を提供することである。【0012】この発明は、上記の目的を達成するため、以下のように構成されている。即ち、この発明は、下記特徴をそれぞれ有するポリアクリルアミドプレキャストゲルと泳動用緩衝液とを用いたDNAの電気泳動方法に関する。1)前記ポリアクリルアミドプレキャストゲルに含まれるゲル緩衝液は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、グリシンを必須とした一種以上の両性電解質、及び一価の酸を含有し、pHが6.0〜7.5の範囲に調整されている。2)前記泳動用緩衝液は、トリス( ヒドロキシメチル) アミノメタン、キレート剤、並びに酢酸、燐酸及び硼酸のいずれか一つの酸を含有し、pHが7.8〜8.3の範囲に調整されている。【0013】このDNAの電気泳動法において、ゲル緩衝液中にトリス、グリシンを含む一種又は二種以上の両性電解質及び一価の酸を含有し、ゲル緩衝液のpHが特定範囲である水溶液を用いて調製されたポリアクリルアミドゲルと、泳動用緩衝液中にトリス、キレート剤及び酸を含有し、泳動用緩衝液のpHが特定範囲である水溶液を用いており、ゲルpHが酸性領域に設定されるので、ポリアクリルアミドゲルの加水分解をある程度抑制することが可能であり、冷蔵保存で6ヶ月以上安定であるという保存安定性が良好な電気泳動ゲルとなる。単に、ゲルpHを低下させただけでは、泳動時間が長くなったり、泳動像が不鮮明になるので、グリシンを必須とした一種以上の両性電解質を含有することにより、泳動時間の短縮が図られ、泳動像が鮮明になる。また、予め様々な分離特性を持つプレキャストゲルを量産することができる。更に、核酸の電気泳動法として汎用されている泳動用緩衝液が使用される。【0014】このDNAの電気泳動方法において、前記ゲル緩衝液に含有される前記両性電解質は、塩基解離定数の範囲が8.3<pKb<9.6である分子内にカチオン性基とアニオン性基を同数有するアミノ酸を含有している。また、前記ゲル緩衝液は、前記一価の酸として塩酸又は酢酸の少なくとも一つを含有し、長期保存安定性を目的としてpHが6.0〜6.5の範囲に調整されている。ゲル緩衝液のpHをこの範囲に設定することにより、一層の長期保存安定性が得られる。更にまた、このDNAの電気泳動法において、前記泳動用緩衝液は、前記キレート剤としてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを含有し、前記酸として硼酸を含有している。【0015】【発明の実施の形態】この発明によるDNAの電気泳動法は、次に述べる特徴をそれぞれ有するポリアクリルアミドプレキャストゲルと泳動用緩衝液とを用いることを特徴としている。ゲル緩衝液は、トリス、グリシンを含む一種又は二種以上の両性電解質及び一価の酸を含有しており、好ましくは、ゲル緩衝液は、トリス、グリシン、塩基解離定数の範囲が8.3<pKb<9.6である分子内にカチオン性基とアニオン性基を同数有するアミノ酸及び一価の酸として塩酸及び酢酸を含有している。【0016】グリシンを含む一種又は二種以上の両性電解質を含有していなければ、ゲル緩衝液のpHを酸性側に設定することでトリスの中和率が高まり、泳動ゲル中のトリス強酸部分とトリス弱酸部分の境界付近で電位勾配の変化が非常に大きくなる。このため、境界付近に分離対象が収斂しやすくなり、分画分子量範囲が非常に狭くなる。また、泳動時間が非常に長くなるため、作業効率上も好ましくない。【0017】グリシンは、ゲル緩衝液のpHを下げても、泳動ゲル中のトリス強酸部分とトリス弱酸部分の境界付近における電位勾配の変化を緩やかにするので、TBEやオルンスタイン- デービスのゲル緩衝液を使用したゲルと同様の分画分子量範囲を持たせることができる。しかし、ゲル緩衝液のpHを酸性側にするほど、グリシン単独では電位勾配の変化を調節する力が十分でなくなる。そこで、ゲル緩衝液中に、グリシンと塩基解離定数の範囲が8.3<pKb<9.6である分子内にカチオン性基とアニオン性基を同数有するアミノ酸を共存させることにより、より泳動ゲル中の電位勾配を緩やかにすることが可能となる。【0018】グリシンと共存させるアミノ酸のpKbの範囲は、8.3<pKb<9.6であり、好ましくは9.0<pKb<9.6である。アミノ酸のpKbの範囲がpKb<8.3である場合、pKbがトリスよりも低いことになるため、ゲル緩衝液のpHが変化し、 また分画分子量範囲が大幅に広くなってしまう。pKb>9.6の場合、アミノ酸のpKbがグリシンよりも高くなってしまうため、 ゲル内の電位勾配の変化を緩やかにする作用に寄与しない。9.0<pKb<9.6であるアミノ酸を使用すると、pKbの低いものから順に陽極側に移動し、泳動ゲル内の電位勾配は緩やかなものとなる。9.0<pKb<9.6であるアミノ酸としては、セリン、トリプトファン、フェニルアラニン等があるが、好ましくはセリンである。【0019】更に、グリシンと共存させるアミノ酸は、分子内にアニオン性基とカチオン性基を同数有するものが望ましい。pKbよりやや低いpHでは、全てのアニオン性基と全てのカチオン性基とが解離して電気的に中性となり、pKbより高いpHでは、アニオン性基のみが解離しカチオン性基の解離が抑制されるため、負に帯電する。このため、上記アミノ酸は、実質的に一価の弱酸としての挙動を示し、疑似弱酸として使用することができる。予めゲル緩衝液中に疑似弱酸を添加しておくことにより、泳動ゲル中のトリス弱酸部分の電気抵抗値が低下し、 更に強酸根の存在下ではpHが低いため、 電気的に中性であり電気伝導に寄与しない。【0020】また、ゲル緩衝液のpHは、6.0〜7.5、好ましくは6.0〜6.5である。ゲル緩衝液のpHが7.5より高い場合、ポリアクリルアミドゲルは経時的に加水分解を受け、プレキャストゲルとしての保管有効期限を長くもたせることができない。ゲル緩衝液のpHが6.0より低い場合、ポリアクリルアミドゲルとしての安定性は良好となるが、トリスの中和率が上がりすぎて緩衝液としての機能が損なわれる。ゲル緩衝液のpHは、プレキャストゲルに長期保存安定性を持たせるためアクリルアミド自体のpHに近づけることが望ましい。【0021】また、泳動用緩衝液は、トリス、キレート剤と酢酸、燐酸及び硼酸のいずれか一つの酸を含有しており、含有する酸としては好ましくは硼酸である。ゲル緩衝液のpHを6.0〜6.5の範囲に設定した場合、オルンスタイン−デービスの泳動用緩衝液を使用すると泳動像が不鮮明となり、DNAの分離分析を行うことができない。本発明で使用するTBEの組成は、0.0892mol/lトリス、0.0890mol/l硼酸、そして0.0025mol/lETAであり、pHは8.3であることが望ましい。上記組成の緩衝液は核酸の分離分析において広く使用されているTBEであるため、作業者が効率よく分析を行うことができ、短時間で泳動が完了し、更に非常に鮮明な泳動像を得ることができる。TAE又はTPEを使用してもDNAの分離分析は可能であるが、泳動時間がかかりTBEに比べ分析効率が悪くなる。【0022】【実施例】以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例1横幅12cm、縦10cmの長方形のガラス板と上部に凹状の切り込みの入った同寸法のガラス板の間に、厚さ1 mmのスペーサを挟んでガラスプレートを組み立てる。アクリルアミド濃度10%(%T)、N,N′−メチレンビスアクリルアミド(以下BISと称す)濃度5%(%C)、並びに表1に記載する濃度の緩衝液組成から成るモノマー溶液に対し、 過硫酸アンモニウム( 以下APSと称す) 400ppm及びテトラメチルエチレンジアミン(以下TEMEDと称す)400ppmを添加混合後、プレート内に注入し、 常法で重合させ、電気泳動用ポリアクリルアミドゲルを得た。【0023】このポリアクリルアミドゲルを用いて分子量既知の市販マーカーDNAを電気泳動し、 移動距離とバンドの鮮明さを確認した。マーカーDNAは、30%(w/v)ショ糖、着色する程度のブロムフェノールブルー(以下BPBと称す)を含んだ10m mol/lトリス、1 m mol/lETA、20m mol/l塩化ナトリウム溶液を塩酸でpH7.9に調整した緩衝液で100倍希釈して試験に使用した。泳動用緩衝液の組成は、0.0892mol/lトリス、0.0890mol/l硼酸、2.5m mol/lETAである。【0024】電気泳動は200V定電圧で行い、上部電極槽にBPBで着色した電極液を入れた。BPBの泳動末端がスペーサの下端に来た時点で通電を中止した。染色には、銀染色法が用いられた。泳動後のゲルを50%(v/v)メタノール、5%(w/v)トリクロロ酢酸、3.5%(w/v)スルホサリチル酸水溶液中で20分間浸透させてDNAを固定し、 その後、精製水で15分間の水洗を2回行った。その後、8%炭酸ナトリウム水溶液と1%(w/v)けいタングステン酸、0.02%(w/v)硝酸銀、0.02%(w/v)硝酸アンモニウム、0.28%(v/v)ホルムアルデヒド水溶液を1:1の割合で混合させた液に浸透させ、染色した。 7分後にバンドが出現したため染色液を捨て、 1%(v/v)酢酸に15分浸して停止させた。 その結果、鮮明なDNAのバンドが検出された。【0025】BPB泳動距離に対する各DNAフラグメントの泳動距離の相対位置を移動度(下記の式で定義される)として表2に記載する。移動度(%)=(ウェル下端から各バンドの位置までの距離)/(ウェル下端からBPBの泳動末端までの距離)×100また、各ゲルの泳動時間を表3に記載する。【表1】【表2】【表3】【0026】表1、表2、表3に示したように、ゲル緩衝液のpHが6.3、6.8、7.5である各ポリアクリルアミドゲルをTBEで泳動した場合、いずれも鮮明な泳動像が得られ、 DNAフラグメントの移動度や、泳動時間もほぼ同じであった。【0027】比較例1実施例1と同様のガラスプレートを用い、アクリルアミド濃度10%(%T)、BIS濃度5%(%C)並びに表4に記載する濃度の緩衝液組成から成るモノマー溶液に対し、 実施例1と同様に電気泳動用ポリアクリルアミドゲルを製造した。このポリアクリルアミドゲルを用いて分子量既知の市販マーカーDNAを電気泳動し、 移動距離とバンドの鮮明さを確認した。泳動用緩衝液の組成は0.025mol/lトリス、 0.192mol/lグリシンであるオルンスタイン−デービスの泳動用緩衝液を使用した。BPB泳動距離に対する各DNAフラグメントの泳動距離の比を移動度として表5に示す。また泳動時間を表6に示す。【表4】【表5】【表6】【0028】表4、表5及び表6に示したように、 ゲル緩衝液のpHが6.3のポリアクリルアミドゲルをオルンスタイン- デービスの泳動用緩衝液を用いて泳動を行うと、DNAのバンドが不鮮明で検出不可能であった。そのため、本発明では、硼酸バッファ等が使用される。【0029】実施例2実施例1と同様のガラスプレートを用い、アクリルアミド濃度10%(%T)、BIS濃度5%(%C)並びに表7に記載する濃度の緩衝液組成から成るモノマー溶液に対し、 実施例1と同様に電気泳動用ポリアクリルアミドゲルを製造した。このポリアクリルアミドゲルを5℃下に保管し、 一定期間ごとに取り出して、実施例1と同じTBEを使用してDNAの電気泳動を行った。電気泳動は200V定電圧で行ない、50分経過した時点で泳動を停止し、移動距離とバンドの鮮明さを確認した。その結果を表8、表9及び表10に示す。【表7】【表8】【表9】【表10】【0030】表8に示したようにゲル緩衝液のpHが7.5のポリアクリルアミドゲルは、5℃下でも経時的に加水分解を起こし、発生するアニオン基によってDNAの移動速度も遅くなる。6ヶ月以上経過したものに、低分子のフラグメントが検出不可能となるものが現れた。また、表9に示したようにゲル緩衝液のpHが6.8であるポリアクリルアミドゲルは、pH7.5の時に比べて加水分解速度は低下するが、やはり5℃下で6ヶ月も経過すると、DNAの移動速度に大きな変化が見られた。それに比べて、表10に示したように、ゲル緩衝液のpHが6.3であるポリアクリルアミドゲルは、5℃下で7ヶ月経過してもDNAの移動度、泳動像に変化が見られず安定であった。【0031】実施例3実施例2で作成した電気泳動ゲルについて、5℃下で一定期間保存後、テンシロン万能試験機(株式会社オリエンテック、型式U−2129) でガラスプレートを上下に引っ張り、その引っ張り強度を測定した結果を表11に示す。【表11】【0032】表11に示したように、ゲル緩衝液のpHを下げることで、DNAの移動度や泳動像のみならず、泳動ゲルの形状も安定に保つことができる。ポリアクリルアミドゲルは加水分解すると膨潤し易くなりガラスプレートがずれ易くなる。ゲル緩衝液のpHが7.5の泳動ゲル( 試料E) はガラスプレートをずらすのに必要な力( 引っ張り強度) が5℃下2ヶ月後に約1/3となった。それに対し,ゲル緩衝液のpHが6.8の泳動ゲル( 試料F) は、5℃下6ヶ月後まで製造直後と同等の引っ張り強度を示していた。それに対し、ゲル緩衝液のpHが6.3の泳動ゲル( 試料G) は、5℃下で12ヶ月後も製造直後と同等の引っ張り強度を示していた。ゲル緩衝液のpHが6.3の場合、アクリルアミド自体のpHに近いためpH6.8の時に比べて著しく加水分解速度が減少する。その結果、5℃下で1年もの長期間泳動ゲルの形状が安定に保たれる。【0033】比較例2実施例1と同様のガラスプレートを用い、アクリルアミド濃度10%(%T)、BIS濃度5%(%C)並びに表12に記載する濃度の緩衝液組成から成るモノマー溶液に対し、 実施例1と同様に電気泳動用ポリアクリルアミドゲルを製造した。製造した電気泳動ゲルについて、5℃下で一定期間保存後、テンシロン万能試験機でガラスプレートを上下に引っ張り、その引っ張り強度を測定した結果を表13に示す。【表12】【表13】【0034】表12に示したように、ゲル緩衝液のpHが8.8である泳動ゲルは、5℃下で1ケ月経過すると、ガラスプレートをずらすのに必要な力が製造直後に比べて1/2以下となった。ゲル緩衝液のpHが高いと泳動ゲルの形状も安定に保つことができなかった。【0035】【発明の効果】本発明によるDNAの電気泳動法は、長期保存安定性を持つ電気泳動ポリアクリルアミドゲルと核酸の電気泳動に汎用されている泳動用緩衝液を使用してDNAの鮮明な分離分析を行う方法に関するものである。ゲルpHを酸性〜中性領域に設定すればポリアクリルアミドゲルの加水分解をある程度抑制することが可能であり、保存安定性が良好な電気泳動ゲルとなる。従って、保管有効期限を長く設定することが可能となり、プレキャストゲルとして予め様々な分離特性を持つように量産し、広範囲に供給することが可能となる。このような電気泳動ポリアクリルアミドゲルと、核酸の電気泳動法として公知であるTBEを使用してDNAの鮮明な分離分析が可能であることから使用者が経済的かつ効率的に分析を遂行することができる。 下記特徴をそれぞれ有するポリアクリルアミドプレキャストゲルと泳動用緩衝液とを用いたDNAの電気泳動方法。1)前記ポリアクリルアミドプレキャストゲルに含まれるゲル緩衝液は、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、グリシンを必須とした一種以上の両性電解質、及び一価の酸を含有し、pHが6.0〜7.5の範囲に調整されている。2)前記泳動用緩衝液は、トリス( ヒドロキシメチル) アミノメタン、キレート剤、並びに酢酸、燐酸及び硼酸のいずれか一つの酸を含有し、pHが7.8〜8.3の範囲に調整されている。 前記ゲル緩衝液に含有される前記両性電解質は、塩基解離定数の範囲が8.3<pKb<9.6である分子内にカチオン性基とアニオン性基を同数有するアミノ酸を含有していることから成る請求項1に記載のDNAの電気泳動方法。 前記ゲル緩衝液は、前記一価の酸として塩酸又は酢酸の少なくとも一つを含有し、長期保存安定性を目的としてpHが6.0〜6.5の範囲に調整されていることから成る請求項1に記載のDNAの電気泳動方法。 前記泳動用緩衝液は、前記キレート剤としてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを含有し、前記酸として硼酸を含有することから成る請求項1〜3のいずれか1項に記載のDNAの電気泳動方法。