タイトル: | 特許公報(B2)_アクリル酸の精製方法 |
出願番号: | 1999365153 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | C07C 51/50,C07C 51/44,C07C 57/07 |
石井 良武 坂元 一彦 中原 整 上岡 正敏 JP 4361995 特許公報(B2) 20090821 1999365153 19991222 アクリル酸の精製方法 株式会社日本触媒 000004628 松本 武彦 100073461 石井 良武 坂元 一彦 中原 整 上岡 正敏 20091111 C07C 51/50 20060101AFI20091022BHJP C07C 51/44 20060101ALI20091022BHJP C07C 57/07 20060101ALI20091022BHJP JPC07C51/50C07C51/44C07C57/07 C07C 51/50 C07C 51/44 C07C 57/07 特開平07−330659(JP,A) 特開平09−124546(JP,A) 国際公開第98/011048(WO,A1) 特開昭56−018934(JP,A) 3 2001181232 20010703 8 20060630 水島 英一郎 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、プロピレンまたはアクロレインの気相酸化法によって得られる粗製アクリル酸中に不純物として含まれるフルフラールおよび/またはアクロレインを効率良く除去することができる、アクリル酸の精製方法に関する。【0002】【従来の技術】プロピレンまたはアクロレインを気相酸化させてアクリル酸を得る場合、製造工程において、フルフラール、アクロレイン、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類やアセトン等のケトン類が副次的に生成し、アクリル酸中に不純物として含まれてしまうことが知られている。そして、これらの不純物は、例えば、アクリル酸を吸水性樹脂等の高分子体の原料として用いた場合に、重合反応時における反応の遅延、重合度の低下、重合物の着色等の問題を引き起こす。【0003】そこで、気相酸化法で得られた粗製アクリル酸は、一般に、蒸留等による精製処理を行って不純物を除去してから、各種用途に利用される。但し、前記不純物のうち、フルフラール等のアルデヒド類は、アクリル酸と沸点が近く、蒸留での除去が困難であるため、蒸留する前に、例えばアミン類やヒドラジン類等のアルデヒド処理剤により薬剤処理を行って高沸点化させる技術が知られている。【0004】このアルデヒド処理剤による処理においては、アルデヒド類を全て完全に高沸点化するため、通常、不純物として存在するアルデヒド類の量に対して過剰のアルデヒド処理剤が使用される。しかし、余剰のアルデヒド処理剤は、蒸留工程においてアクリル酸の重合を引き起こす原因となり、ひいては蒸留塔内にポリマーが付着して、リボイラー伝熱面の伝熱性能を低下させたり、蒸留機能を阻害したり、蒸留塔内で閉塞を起こして運転を停止せざるを得なくなる等の問題を発生させる。【0005】そこで、アクリル酸の重合を起こすことなく、アルデヒド類を効率よく除去することができる精製方法が要望され、種々の方法が提案されている。例えば、特開平9−316027号公報では、粗製アクリル酸にヒドラジン化合物と硫酸とを添加してから蒸留する方法が、特開平7−228548号公報では、粗製アクリル酸にヒドラジン化合物とジブチルカルバミン酸銅とを添加して100℃以下で蒸留する方法が、それぞれ提案されている。【0006】しかし、これらの方法によれば、アルデヒド処理剤であるヒドラジン化合物に加えて硫酸やジブチルカルバミン酸銅を用いており、これらの物質は、蒸留塔や配管等の装置の内壁を構成する金属を腐食させるという問題があった。この問題に対処すべく、装置に耐腐食性の材料を用いたり、耐腐食処理を施したりすることは、装置コストの増大を招き、ひいてはアクリル酸の製造コストを増大させることになるので、工業的に簡便かつ安価な方法とは言えなかった。【0007】【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明の課題は、不純物としてフルフラールおよびアクロレインを含有する粗製アクリル酸から、重合物の生成を抑制しつつ、工業的に簡便かつ安価な方法で、該不純物を効率よく除去することができる、アクリル酸の精製方法を提供することにある。【0008】【課題を解決するための手段】本発明者は、前記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、アクリル酸製造工程における不純物であるフルフラールとアクロレインとがある一定濃度比で存在すると、アルデヒド処理剤を用いた際の処理効率が向上し、続く蒸留操作によって効率よく不純物を除去することができ、しかも、アルデヒド処理剤の処理効率が高いためその使用量を低減することができ、ひいては重合物の生成を抑制することができることを見いだし、本発明を完成した。【0009】 すなわち、本発明のアクリル酸の精製方法は、不純物としてフルフラールおよびアクロレインを含有する粗製アクリル酸にアルデヒド処理剤としてのヒドラジン化合物を添加した後、蒸留を行う、アクリル酸の精製方法であって、前記粗製アクリル酸に含まれるフルフラールとアクロレインとの重量濃度比が 3≦(フルフラール重量濃度/アクロレイン重量濃度)≦100となるように、前記粗製アクリル酸に対しアクロレインを添加する、ことを特徴とする。【0010】【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施の一形態について詳しく説明する。【0011】本発明において用いられる粗製アクリル酸は、プロピレンまたはアクロレインの気相酸化法による製造工程で得られるアクリル酸であり、製造工程において副生あるいは混入する不純物を含有するものである。該不純物とは、例えば、フルフラール、アクロレイン、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類や、アセトン等のケトン類等であるが、本発明は、特に、フルフラールおよびアクロレインを不純物として含有する粗製アクリル酸を効率よく精製するものである。気相酸化法によるアクリル酸の製造は、特に制限されるものではなく、公知の原料、反応方法、および製造条件によって行われる。得られる粗製アクリル酸は、水等の溶媒に溶解された溶液状態であってもよい。【0012】本発明においては、アルデヒド処理剤の添加前に、前記粗製アクリル酸に含まれるフルフラールとアクロレインとの重量濃度比が、(フルフラール重量濃度/アクロレイン重量濃度)≦100となるように調整しておくことが重要である。フルフラールとアクロレインとの重量濃度比は100以下であれば特に制限はないが、好ましくは、2≦(フルフラール重量濃度/アクロレイン重量濃度)≦30となるように調整するのが好ましい。フルフラールとアクロレインとをある一定の重量濃度比とすることによって、アルデヒド処理剤を用いた際の処理効率を向上させ、蒸留操作によって効率よく不純物を除去することができるのである。さらに、アルデヒド処理剤の処理効率が向上すれば、アルデヒド処理剤の使用量を減らすこともでき、ひいては重合物の生成を抑制することができる。フルフラールとアクロレインとの重量濃度比が100を越えると、アルデヒドを処理するために大過剰のアルデヒド処理剤が必要になり、蒸留操作を行う際に多量の重合物が発生することになる。なお、フルフラールおよびアクロレインの各重量濃度の測定については、例えば、実施例で後述するように、ガスクロマトグラフィーで測定することができる。【0013】本発明においては、前記粗製アクリル酸中に含まれるフルフラールおよびアクロレインの各々の含有量は、特に制限されないが、フルフラールとアクロレインの総量が5000ppm以下であるのが好ましく、1000ppm以下であるのがさらに好ましい。【0014】粗製アクリル酸に含まれるフルフラールとアクロレインとを前記の重量濃度比に調整する方法としては、具体的には、プロピレンまたはアクロレインの気相酸化法によって製造された粗製アクリル酸中のフルフラールおよびアクロレインの各重量濃度を測定し、前記の重量濃度比になるようにフルフラールまたはアクロレインをさらに添加して調整する方法か、あるいは、粗製アクリル酸製造プロセスにおける各工程、例えば、酸化反応工程、軽沸分カット工程、溶剤回収工程、高沸分カット工程等での操作条件により、フルフラールまたはアクロレインの重量濃度を調整する方法等がある。好ましくは、後述の方法、すなわち粗製アクリル酸製造プロセスにおける各工程の操作条件等により調整する方法がよい。【0015】粗製アクリル酸製造プロセスにおいてフルフラールとアクロレインとの重量濃度比を調整する場合、フルフラールとアクロレインの両成分を増減させて調整することもできるし、どちらか一方の成分のみを増減させて調整することもできるのであるが、好ましくはアクロレインの増減で調整を行う方がよい。なぜなら、アクロレインはアクリル酸生成反応の原料成分であり、しかも、アクロレインはアクリル酸と沸点が離れているので各工程の操作条件で増減させやすいからである。より具体的には、酸化反応工程においてアクロレインの重量濃度を調整するには、例えば、反応器の反応温度を低くする(または高くする)ことにより原料アクロレインからアクリル酸への転化率を下げ(または上げ)、未反応の原料アクロレインが増加(または減少)するようにすればよい。軽沸分カット工程および溶剤回収工程においてアクロレインの重量濃度を調整するには、例えば、軽沸分離塔や溶剤回収塔の運転蒸留温度を低くする(または高くする)ことにより、系外へのアクロレインの流出を抑制し(または促進し)、粗アクリル酸中のアクロレイン濃度を高く(または低く)するようにすればよい。高沸分カット工程においてアクロレインの重量濃度を調整するには、高沸分離塔の塔頂成分にはフルフラールよりもアクロレインが多く含まれる傾向があるのに対し、中段成分にはアクロレインよりもフルフラールが多く含まれる傾向があることを考慮して、例えば、高沸分離塔での粗アクリル酸の抜き出し位置を調整するか、あるいは塔頂成分と中段成分とをブレンドして所望の重量濃度比となるように調整すればよい。【0016】 本発明において、アルデヒド処理剤としては、特にフルフラールの除去に有効であるヒドラジン化合物を用いる。ヒドラジン化合物としては、具体的には、例えば、ヒドラジンヒドラート、フェニルヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン等が挙げられる。なお、アルデヒド処理剤は、通常、液体として添加されるが、粉体等の固体で添加されてもよい。【0017】本発明において、アルデヒド処理剤の添加量は、前記粗製アクリル酸に含まれるフルフラール1モルに対して8.0モル以下とすることが好ましく、さらに好ましくは6.0モル以下、最も好ましくは4.0モル以下とするのがよい。粗製アクリル酸に含まれるフルフラール1モルに対して8.0モルを越える量のアルデヒド処理剤を添加すると、蒸留の際に重合物の生成を十分に抑制しきれず、蒸留塔内にポリマーが付着する等の問題を生じることがある。【0018】前記アルデヒド処理剤の添加方法は、特に制限されるものではなく、例えば、前記粗製アクリル酸に直接添加する方法や、適当な溶媒に溶解して添加する方法等が採用される。また、添加の際の温度も、適宜設定すればよく、制限されるものではない。アルデヒド処理剤の添加時機については、例えば粗製アクリル酸の製造直後に添加しておいてもよいが、好ましくは、蒸留を行う直前に添加するのがよい。具体的には、蒸留装置へ供給される粗製アクリル酸中に溶解させて供給するのが、工業上、一般的である。【0019】本発明においては、蒸留の際に、前記アルデヒド処理剤の他に、従来公知の重合防止剤を添加することもできる。該重合防止剤としては、具体的には、例えば、フェノチアジン、フェノール、ハイドロキノン、メトキノン、カテコール、クレゾール等のフェノール化合物が挙げられる。これらの添加量は、特に制限されないが、通常、1〜1000ppm程度とすることが好ましい。【0020】本発明において、蒸留の方法は、特に制限されるものではなく、例えば、単蒸留、精密蒸留等の種々の方法を採用することができる。該蒸留は、バッチ式、連続式のいずれで行ってもよいが、工業的には、連続式で行うのが好ましい。また、蒸留装置については、特に制限されるものではなく、腐食対策等を要することなく既存の設備をそのまま使用することができる。【0021】蒸留の際の条件については、特に制限されるものではないが、具体的には、滞留時間が0.5〜20時間、蒸留温度が50〜100℃となるように設定するのがよい。【0022】【実施例】以下、本発明に係る実施例および比較例について説明するが、本発明は該実施例により何ら制限されるものではない。【0023】なお、フルフラール、アクロレインの含有量は、ともにガスクロマトグラフィーを用いて以下の条件で測定した。【0024】カラム:キャピラリーカラム(J&W社製、DB−WAX 30m×0.53ID 1μm)キャリアガス:ヘリウム(0.5kg/cm2 )インジェクション温度:250℃検出温度:250℃カラム温度:50〜220℃(10℃/分)〔実施例1〕不純物としてフルフラール300重量ppm、アクロレイン2重量ppmを含む粗アクリル酸に、アクロレインをさらに添加し、アクロレインが100重量ppmとなるように調整した。このアクロレインの含有量を調整した粗アクリル酸に、フルフラール1モルに対して3.0モルのヒドラジンヒドラート(ヒドラジン1水和物)をアルデヒド処理剤として添加し、次いで、充填塔蒸留装置を用いて連続蒸留した。連続蒸留は、供給した液の99重量%を連続的に留出させ、留出液の一部を還流液として塔頂より還流比0.3で塔内に導入して行った。なお、連続蒸留に際しては、蒸留塔に導入される液量に対して10重量ppmに相当するメトキノンを、重合禁止剤として、該還流液に溶かして塔内に導入した。【0025】蒸留留出液として得られた精製アクリル酸中のフルフラールおよびアクロレインの含有量は、ともに0.5重量ppm以下であった。また、24時間連続蒸留を行い正常に停止した後、蒸留塔を点検したが、塔内にアクリル酸ポリマー等の付着物は認められなかった。【0026】 〔参考例1、実施例2,3〕 不純物としてフルフラール300重量ppm、アクロレイン2重量ppmを含む粗アクリル酸に、アクロレインをさらに添加し、アクロレインが各々表1に示す重量濃度となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして精製操作を行った。【0027】蒸留留出液として得られた精製アクリル酸中のフルフラールおよびアクロレインの含有量は、各々、表1に示す。また、それぞれ24時間連続蒸留を行い正常に停止した後、蒸留塔を点検したが、塔内にアクリル酸ポリマー等の付着物は認められなかった。【0028】〔比較例1〕不純物としてフルフラール300重量ppm、アクロレイン2重量ppmを含む粗製アクリル酸を、アクロレインをさらに添加することなくそのまま用いたこと以外は、実施例1と同様にして精製操作を行った。【0029】蒸留留出液として得られた精製アクリル酸中のアクロレインの含有量は0.5重量ppm以下であったが、フルフラールの含有量は14重量ppmであった。なお、フルフラールの含有量が高く、アルデヒド類の除去が不十分であったため、長期連続蒸留は行わなかった。【0030】〔比較例2〕ヒドラジンヒドラートを、フルフラール1モルに対して10モル添加したこと以外は、比較例1と同様にして精製操作を行った。【0031】蒸留留出液として得られた精製アクリル酸中のフルフラールおよびアクロレインの含有量は、ともに0.5重量ppm以下であった。しかし、長期連続蒸留を行うと、12時間後にフラッディングが起こり、運転の継続が不可能になった。運転を停止して蒸留塔内を点検した結果、塔内にアクリル酸ポリマー等が多量に付着していた。【0032】【表1】【0033】【発明の効果】本発明によれば、不純物としてフルフラールおよびアクロレインを含有する粗製アクリル酸から、重合物の生成を抑制しつつ、工業的に簡便かつ安価な方法で、該不純物を効率よく除去することができる。 不純物としてフルフラールおよびアクロレインを含有する粗製アクリル酸にアルデヒド処理剤としてのヒドラジン化合物を添加した後、蒸留を行う、アクリル酸の精製方法であって、 前記粗製アクリル酸に含まれるフルフラールとアクロレインとの重量濃度比が 3≦(フルフラール重量濃度/アクロレイン重量濃度)≦100となるように、前記粗製アクリル酸に対しアクロレインを添加する、ことを特徴とする、アクリル酸の精製方法。 前記ヒドラジン化合物が、ヒドラジンヒドラート、フェニルヒドラジン、硫酸ヒドラジンおよび塩酸ヒドラジンから選ばれる1種以上である、請求項1に記載のアクリル酸の精製方法。 前記ヒドラジン化合物の添加量を、前記粗製アクリル酸に含まれるフルフラール1モルに対して8.0モル以下とする、請求項1または2に記載のアクリル酸の精製方法。