タイトル: | 特許公報(B2)_抗GM−CSF自己抗体及びその測定試薬 |
出願番号: | 1999244595 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | G01N 33/53,C07K 14/535 |
中田 光 JP 4372904 特許公報(B2) 20090911 1999244595 19990831 抗GM−CSF自己抗体及びその測定試薬 中田 光 598147248 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 有賀 三幸 100068700 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 的場 ひろみ 100101317 棚井 澄雄 100106909 中田 光 JP 1998303858 19981026 20091125 G01N 33/53 20060101AFI20091105BHJP C07K 14/535 20060101ALN20091105BHJP JPG01N33/53 DC07K14/535 C07K 16/24 G01N 33/50-98 PubMed WPI BIOSIS/CA/MEDLINE(STN) JSTPlus(JDreamII) 特開平05−176792(JP,A) Clin. Exp. Immunol.,1996年,Vol. 104,p. 351-358 Am. J. Respir. Crit. Care. Med.,1997年,Vol. 156,p. 1999-2002 Blood,1994年,Vol. 84, No. 12,pp. 4078-4087 3 2000198799 20000718 13 20060309 飯室 里美 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、医薬や診断薬として有用な、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(以下GM−CSFと略す)に特異的な自己抗体及びその測定試薬に関する。【0002】【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】GM−CSFは、マクロファージ、リンパ球、上皮細胞、血管内皮細胞により産生される糖蛋白質であり、顆粒球、マクロファージの前駆細胞に作用し、それらの増殖と分化を促進するものである。また、GM−CSFは、抗原提示細胞を賦活化することにより生体防御に寄与している反面、アレルギー疾患や自己免疫疾患の局所においては炎症を激化していると考えられている。【0003】かかるGM−CSFの作用をコントロールできれば、各種の炎症性疾患が治療できることから、GM−CSFに作用する物質の開発が熱望されている。【0004】【課題を解決するための手段】そこで本発明者は、進行性の呼吸困難を来たす肺胞蛋白症に着目し、当該患者の気管支肺胞洗浄液中の成分について種々検討してきたところ、特発性肺胞蛋白症(以下、IPAPと略す)患者の気管支肺胞洗浄液(以下、BALFと略す)中に、GM−CSFと特異的に結合しGM−CSFの作用をコントロールする蛋白質を見出した。そしてさらに検討を続けたところ、全く意外にもこの蛋白質が抗GM−CSF自己抗体であり、GM−CSFを用いて当該自己抗体を測定すれば特発性肺胞蛋白症の診断が容易かつ確実に行えることを見出し、本発明を完成するに至った。【0005】すなわち、本発明は、下記性質を有する抗GM−CSF自己抗体を提供するものである。(1)特発性肺胞蛋白症(IPAP)患者の気管支肺胞洗浄液(BALF)又は血清より得られる。(2)GM−CSFによるヒト末梢血単球及び腫瘍細胞株TF−1の増殖を抑制するが、インターロイキン−3(IL−3)によるヒト末梢血単球及び腫瘍細胞株TF−1の増殖を抑制しない。また、本発明は、GM−CSFを含有することを特徴とするヒト検体中の抗GM−CSF自己抗体の測定試薬を提供するものである。さらにまた本発明は、ヒト検体にGM−CSF又はその標識体を反応させ、当該反応生成物を測定することを特徴とするヒト検体中の抗GM−CSF自己抗体の測定法を提供するものである。【0006】【発明の実施の形態】本発明の抗GM−CSF自己抗体は、特発性肺胞蛋白症(IPAP)患者の気管支洗浄液(BALF)又は血清から得られる。IPAP患者のBALFから、抗GM−CSF自己抗体を採取するには、このBALFから常法により蛋白画分を得、当該蛋白画分とGM−CSFを結合させて、結合する画分を採取すればよい。GM−CSFと結合する画分の検出には、GM−CSF及び標識マウス抗GM−CSF抗体を用いたELISAを採用するのが好ましい。抗GM−CSF自己抗体の精製は通常の蛋白精製手段と当該ELISAを組み合せて行えばよく、例えばブタノール処理、陽イオン交換樹脂カラム(MonoSカラム)、陰イオン交換樹脂カラム(MonoQカラム)、ゲル濾過カラム(Superose12カラム)、陰イオン交換樹脂カラム(ResourseQカラム)及び陽イオン交換樹脂カラム(ResourseSカラム)と当該ELISAを組み合せて、GM−CSFと結合する蛋白を採取すればよい。【0007】本発明の抗GM−CSF自己抗体は、成人発症の肺胞蛋白症の90%以上を占めるIPAP患者のBALFからは得られるが、続発性肺胞蛋白症患者及び健常者のBALFからは得られない。【0008】本発明の抗GM−CSF自己抗体は、GM−CSF存在下におけるヒト末梢血単球の増殖及び腫瘍細胞株TF−1の増殖を、いずれも抑制する。すなわち、ヒト末梢血単球及びTF1は、いずれもGM−CSFの存在下で培養すると増殖することが知られているが、この培養系に本発明抗GM−CSF自己抗体を共存させるとこれらの増殖が抑制される。【0009】一方、IL−3は機能的にはGM−CSFと同様とされており、ヒト末梢血単球及びTF−1は、いずれもIL−3の存在下で培養すると増殖する。しかし、この培養系に本発明抗GM−CSF自己抗体を共存させてもこれらの増殖は抑制されない。従って、本発明自己抗体はGM−CSFに特異的に結合するものであることが明らかである。【0010】また、本発明自己抗体は、GM−CSFのTF−1への結合を濃度依存的に阻害する。そして、このGM−CSFのTF−1への結合は、本発明自己抗体とTF−1を予め混合した後に、洗浄したTF−1を用いた試験では阻害されないことから、本発明自己抗体はTF−1や単球側に作用するのではなく、GM−CSF自体に作用して、それらの細胞の増殖を抑制していることがわかる。【0011】さらに本発明自己抗体は、次の性質を有する。(3)本発明自己抗体は、GM−CSFとラット抗GM−CSFモノクローナル抗体との結合を阻害する。当該結合阻害実験は、例えばGM−CSFのELISA、例えばラット抗GM−CSFモノクローナル抗体を固相化し、これにGM−CSFと本発明自己抗体とを反応させ、次いで標識マウス抗GM−CSF抗体を反応させて、結合した標識量を測定することにより行われる。【0012】(4)本発明自己抗体は、トリプシン、リゾチーム又はプロテアーゼKにより分解されない。すなわち、本発明自己抗体は、トリプシン、リゾチーム又はプロテアーゼKを作用させた後でも、GM−CSFに対する結合活性を失なわない。【0013】(5)本発明自己抗体は、100℃10分間処理、クロロホルム処理又はメタノール処理すると失活するが、55℃30分処理、n−ブタノール処理、EDTA処理及び2−メルカプトエタノール処理に対しては安定である。さらに、本発明自己抗体はpH4〜11の範囲で30分処理しても安定である。【0014】(6)本発明自己抗体のドデシル硫酸ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)による分子量は、非還元条件で180kD、還元条件で57kDである。【0015】(7)本発明自己抗体は、イムノグロブリン分画中に存在する。また、アイソタイプはIgGである。【0016】本発明の自己抗体はGM−CSFと特異的に結合し、GM−CSFの種々の作用をコントロールしていると考えられる。従って、本発明自己抗体は、GM−CSFの過剰産生が観察される炎症性疾患、特に皮膚アレルギー性疾患や喘息、慢性関節リュウマチ、移植後免疫反応、特発性間質性肺炎、特発性肺胞蛋白症などの治療薬としても利用できるが、ヒト検体中の本発明自己抗体を測定すればこれらの疾患、特に特発性肺胞蛋白症の診断が可能である。【0017】ヒト検体中の本発明自己抗体を測定するには、GM−CSFを用いればよい。すなわち、ヒト検体にGM−CSF又はその標識体を反応させ、当該反応生成物を測定すればよい。当該測定法には、通常の免疫測定法をすべて用いることができる。すなわち、免疫比濁法及び標識化免疫測定法を用いることができる。標識化免疫測定法としては、ラジオイムノアッセイ、エンザイムイムノアッセイ、蛍光イムノアッセイのいずれでもよい。ヒト検体としては、BALF、血漿、血清等が挙げられる。GM−CSFの標識体としては、125I、3H、14C等のラジオアイソトープ;パーオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素;ビオチン、ジゴキシゲニン等の化合物が挙げられる。【0018】ヒト検体とGM−CSF又はその標識体との反応は、基本的にはヒト検体とGM−CSF又はその標識体とを接触させればよく、例えばヒト検体とGM−CSF又はその標識体を液体中で接触させるか、ヒト検体と固相化されたGM−CSF又はその標識体とを接触させる方法が挙げられる。【0019】反応生成物の測定手段としては、反応生成物を直接測定する方法、反応生成物である自己抗体とGM−CSFの複合体を凝集させる方法(ラテックスビーズ凝集法、オクタロニー法など)、さらにヒト抗体に対する2次抗体を反応させる方法(例えばELISA法)などが挙げられる。また、この測定は、GM−CSFが自己抗体と反応することによるGM−CSFの活性の低下を測定することによっても行うことができる。GM−CSFの活性の低下は、TF−1細胞存在下に前記のGM−CSFと自己抗体との反応を行い、GM−CSFによるTF−1細胞の増殖率を測定すればよい。【0020】かくしてヒト検体中の本発明自己抗体が測定できるが、特発性肺胞蛋白症患者血清中には、ほぼ全例本発明自己抗体が存在しており、その測定により特発性肺胞蛋白症の血清診断が感度と特異性ともに良くできる。【0021】【実施例】次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。【0022】実施例1(抗GM−CSF自己抗体の調製)I.材料及び方法(1)試薬リコンビナントヒトGM−CSF(比活性2.25×108U/mg)はキリンビール株式会社より提供された。リコンビナントIL−3はR&Dシステム社より購入した。ラット抗GM−CSFモノクローナル抗体は医科学研究所の北村助教授より供与を受けた(Kitamura, T. et al, J. Cell. Physiol. 140:323-334)。ペルオキシダーゼラベル抗GM−CSFポリクローナル抗体はR&Dシステム社から購入した。放射性ヨード化リコンビナントヒトGM−CSFはNEN Life Science Products 社から購入した。RPMI 1640培地は日水株式会社より購入した。HiTrapS, HiTrapQ, Sephacryl 2000, ResourceQ, ResourceSカラムはファルマシアバイオテク社より購入した。【0023】(2)対象者IPAP1 1例、続発性2例、健常非喫煙者に気管支肺胞洗浄を施行した。肺胞蛋白症の診断は、BALFの生化学的解析と肺生検の病理組織診により行った。IPAP患者は病歴と現症を詳細に調べ、他に疾患がないことを確認した。2例の続発性例はいずれも慢性骨髄性白血病と診断されていた。全例から、記述されたインフォームドコンセントを得た。【0024】(3)気管支肺胞洗浄液上清(BALF)気管支肺胞洗浄液は1000×gにて15分遠心して、さらにその上清を40000×gで60分遠心し、上清を採取した(以後BALFと略す)。蛋白濃度は、Bardfordの方法により決定した。【0025】(4)ヒト末梢血単球の分離ヒト末梢血単核球は健常者血液より、フィコールパック比重遠心法により得た。これをRPMI 1640培地に再浮遊させ、予め10%ヒトAB型非働化血清でコートしたプラスチックフラスコに撤き、37℃5%CO2 環境下で15分培養し、非付着細胞はPBSにて5回洗浄することにより除去した。付着細胞は、0.05%トリプシン/PBSで10分処理した後、セルスクレーパー(住友ベークライト)を用いて収集した。得られた細胞は、形態と非特異的エステラーゼ染色により98%以上単球であると判定された。生細胞率はトリパンブルー色素除外法により求めた。【0026】(5)TF−1細胞の培養GM−CSF、IL−3、エリスロポエチン依存性の腫瘍細胞株TF−1は、RPMI 1640/10%FCS/10ng/mlGM−CSFの存在下で培養した。使用する前に細胞はPBSで4回洗浄し、GM−CSFを除いた。【0027】(6)TF−1と単球の増殖測定TF−1と単球の増殖測定はMTTアッセイにより行った。単球(1×104/well)あるいはTF−1(2×104/well)を96穴プレートで、様々な濃度のGM−CSF又はIL−3(0, 12.5, 25, 50, 100ng/ml)とIPAPあるいは健常者のBALF(0, 12.5, 25, 50, 100ng/ml)の存在下で3日間培養し、位相差顕微鏡下で観察後、MTT(3−〔4,5−ジメチルチアゾール−2−イル〕−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド;シグマ社)5μg/mlを添加し、2時間培養後、生細胞によるホルマザン形成を100μlのイソプロパノール/HClに溶解し、OD550nmの吸光度を測定した。【0028】(7)放射性ヨードラベル化GM−CSFと受容体結合の測定GM−CSFの受容体への結合はChiba, S. らの方法(Leukemia 4:29-36)に従った。簡単には、TF−1(5×105)をRPMI 1640培地1mlに浮遊させ、150pMの放射性ヨード化GM−CSFと様々な濃度のIPAPあるいは健常者のBALFとともに15℃で90分反応させた。バックグランドの反応として同じ反応液の中にさらに過剰量の非放射性GM−CSFを加えたものも用意した。細胞浮遊液は250×gで5分遠心、洗浄を3回行い、γカウンターを用いて放射活性を測定した。【0029】(8)酵素抗体法(ELISA)によるGM−CSFと抗体との結合阻害の測定GM−CSFと抗体との結合阻害の測定はGM−CSFのELISAにより行った。マイクロエライザープレートに、100μlの0.5μg/ml抗GM−CSFモノクローナル抗体(23B6)により一昼夜4℃でコートし、PBSで5回洗浄後、プレートはブロッキング試薬(スタビリコート、BSI社)を加え、室温にて1時間処理した。ブロッキング試薬を除去後、50μlの25ng/mlGM−CSFと50μlの様々な濃度(0〜500μg/mg)のBALFの混合液を室温で2時間各ウエル中で反応させた。PBSで洗浄後、ペルオキシダーゼラベルされた抗ヒトGM−CSFポリクローナル抗体を各ウエルに加えて37℃で1時間反応させた。発色はTMB溶液(Color Reagents, R&D 社)を用いて行った。450nmの吸光度はmicroplate spectrophotometer Model 3550 (バイオラット社)を用いて測定した。TNF、IL6、MCP−1は市販のアッセイキットを用いて行った。パーセント阻害(%)は以下の式により求めた。パーセント阻害(%)=〔1−検出されたGM−CSF(ng/ml)/25(ng/ml)〕×100【0030】(9)架橋法による結合蛋白の検出IPAPと健常者のBALF(500μg/ml)を放射性ヨードラベルされたGM−CSFと結合バッファー(25mM HEPES, pH7.4, 150mM NaCl, 10mM KCl, 10mM CaCl2)中にて90分間室温にて反応させた。コントロールとして100倍過剰量の非放射性GM−CSFを添加したものを同様に反応させた。架橋反応は300μMジスクシンイミジルスベラート(DSS)の添加により、4℃15分間行った。反応は、消光バッファー(50mM Tris-HCl pH8.0, 15mM NaCl, 2mM EDTA)を1ml加えて終了させた。反応液はSDS−PAGEにかけ、ゲルを乾燥させた後、オートラジオグラフィーを施行した。【0031】(10)IPAP患者BALFよりGM−CSF結合蛋白の精製IPAP患者BALF400mlに同量の蒸留水飽和n−ブタノールを添加し、5分間激しく振とうし、10分間静置後、3000回転10分遠心し、水層を回収した。その操作を3回繰り返した後集めた水層を超純水に対し透析した後、凍結乾燥した。凍結乾燥した蛋白は20mM酢酸アンモニウムpH6.0に溶解後、HiTrapS 陽イオン交換カラムにかけ、0〜0.5M NaClにて溶出した。GM−CSF結合活性をELISAで検出し、活性のあるフラクションを集め、20mM Tris HCl pH9.0 に対して透析し、HiTrap Q 陰イオン交換カラムにかけ、同様に溶出させ、得られた活性のあるフラクションを10mM 酢酸アンモニウムに対して透析後、凍結乾燥し、PBS/0.1% NP40に溶解後、Superose 12ゲル濾過カラムにかけた。上記と同様に溶出後、活性のあるフラクションを20mM Tris HCl pH9.0に対して透析後、Resourse Qカラムにかけた。活性のあるフラクションを20mM 酢酸アンモニウムpH6.0に対して透析後、Resourse S 陽イオン交換カラムにかけて同様に溶出後、活性のあるフラクションを回収した。各ステップの蛋白純度はSDS−PAGEにて検討した。【0032】(11)アイソトープラベルされたGM−CSFを用いたウエストウエスタンブロッティングによるGM−CSF結合蛋白の検出特発性肺胞蛋白症患者の肺胞洗浄液又は、血清を非還元状態で電気泳動し、ポリビニリデンフルオライド膜に転写。膜をアルブミン含有バッファーにてブロッキングしたのち、アイソトープラベルされたGM−CSFと反応させる。膜を洗浄後、オートラジオグラフィーにて検出する。【0033】II.結果(1)GM−CSF依存的細胞増殖のIPAPのBALFによる抑制1ng/mlのGM−CSFの存在下で培養した単球及びTF−1の増殖がIPAP患者のBALFにより抑制された。増殖抑制は、BALF濃度に依存的で、GM−CSFの替わりにIL−3を加えたときには見られなかった。11例のIPAP及び2例の続発例、10例の健常者で増殖抑制を調べたが、IPAPのみにこの効果が見られた(図1)。1ng/mlのGM−CSF存在下で培養した単球の生細胞率は100μg/mlのIPAPのBALFの存在下で5%以下であるのに対し、同量の健常者のBALFの存在下で95%以上であった。以上の結果は、IPAP患者のBALFはGM−CSFの生物活性を特異的に阻害することを示している。【0034】(2)GM−CSFとTF−1細胞の結合のIPAPのBALFによる拮抗阻害IPAPのBALFによるGM−CSFの生物活性の阻害がGM−CSFとその受容体の結合以前かあるいは結合後に起こることなのかを明らかにするために、放射性ヨードラベル化GM−CSFとTF−1細胞との結合がIPAPのBALFによって阻害されるかどうか調べた。図2に示すように、この結合はIPAPのBALFにより濃度依存的に阻害された。また、予めTF−1細胞をIPAPのBALFに浮遊させた後、よく洗浄して放射性ヨード化GM−CSFと反応させても、結合阻害が見られないことから、IPAPのBALFは受容体に作用して結合阻害を起こすのではなく、GM−CSF自体に作用して阻害することが示された。【0035】(3)IPAPのBALFによるGM−CSFの特異抗体への結合阻害GM−CSFの特異的モノクローナル抗体(23B6)への結合はIPAPのBALFによって阻害された。図3に示すように、この阻害は11例のIPAPで観察されたが、2例の続発例、3例の健常者では見られなかった。IPAPのBALFはTNFα、IL6、MCP−1のそれぞれの特異抗体への結合は阻害しなかった。%阻害率はIPAPのBALFの濃度依存的に増加した。【0036】(4)IPAPのBALF中のGM−CSF結合因子の存在以上の結果から考えて、IPAPのBALFの中にGM−CSFに結合する因子が存在すると考えて、放射性ヨード化GM−CSFとIPAPのBALFを反応後、DSS(ジスクシンイミジル スベラート)を用いて化学的に架橋し、還元状態でSDS−PAGEしたところ、39kDと41kDに特異的なバンドが得られ(図4、レーンc)、健常者のBALFではこのバンドは得られなかった(図4、レーンb)。このバンドは過剰量の非放射性GM−CSFの存在下で放射性ヨード化GM−CSFとIPAPのBALFを反応させたときには著しく減弱したことから(図4、レーンd)、GM−CSFとの特異的な結合であると思われた。この結果より、IPAPのBALFの中にGM−CSFと結合する物質の存在が確認された。【0037】(5)IPAPのBALF中GM−CSF結合蛋白の精製とその性質IPAPのBALFはリン脂質に富むことから、脂質と蛋白を分離するためにBALFをn−ブタノールで抽出したところ、GM−CSF結合活性は水層に認められた。このフラクションをMono S, Mono Q, Superose 12, Resourse Q, Resourse S カラムの各ステップを経てSDS−PAGE上銀染色で分子量18万の単一のバンドを得た。この蛋白の性質を表1に示した。【0038】【表1】【0039】(11)ウエストウエスタンブロッティングによる検出(10)で得た精製蛋白はGM−CSFに対して特異的に結合することがアイソトープラベルされたGM−CSFを用いたウエストウエスタンブロッティングにより確認された。【0040】実施例2実施例1で得られたGM−CSF結合蛋白が、自己抗体であることを確認するために次の試験を行った。(1)NH2末端アミノ酸分析精製蛋白を還元状態で電気泳動して得られた57kDと28kDの2種類の蛋白のうち、57kDの蛋白をNH2末端アミノ酸分析したところ、NH2末端20残基がヒトイムノグロブリンH鎖に100%一致した。(2)抗体であることの確認特発性肺胞蛋白症患者の肺胞洗浄液からリコンビナントプロテインAを用いてイムノグロブリン成分を抽出すると、GM−CSF結合活性はイムノグロブリン分画に存在することを確認した。このことより、特発性肺胞蛋白症患者の肺胞洗浄液中に存在するGM−CSF結合蛋白は抗GM−CSF自己抗体であることが明らかになった。(3)アイソタイプの決定ELISA法を用いてこの自己抗体は主としてIgGであることを確認した。【0041】実施例3(血清中にも存在することの確認)アイソトープラベルされたGM−CSFを用いたウエストウエスタンブロッティングにより、特発性肺胞蛋白症患者(5例)の血清中にも全例でこの抗GM−CSF自己抗体が存在することを確認した。【0042】実施例4125I−GM−CSFを用いたウエストウエスタン法による抗GM−CSF自己抗体の検出:(方法)特発性肺胞蛋白症患者又は健常者の血清を總蛋白量として1mg/mlになるように希釈し、10%TCA(トリクロロ酢酸)を10分の1量加え、蛋白を沈殿させた後、2〜15%グラディエントポリアクリルアミドゲル電気泳動(30mA定電流、約2時間)を行い、PVDF膜に転写する(12v定電圧で75分)。膜は10%酢酸:50%メタノールにて1分固定後、1% 牛アルブミン/リン酸緩衝液中(pH7.2)に4℃下で一昼夜放置後、0.25μCiの125I−GM−CSF/リン酸緩衝液(pH7.2)の入ったビニール袋に入れ、室温で1時間放置する。膜を取り出し、0.1%Tween20/リン酸緩衝液中で4回洗浄後、風乾し、オートラジオグラフィーを行う。【0043】(結果)図5〜7に結果を示す。図5〜7中の上段のカラムは蛋白電気泳動後に転写した膜をクマシーブルー染色で染めたもの、下のカラムは同じ膜に125I−GM−CSFを反応させたオートラジオグラフィーのパターンである。特発性肺胞蛋白症11例と続発性肺胞蛋白症2例(図5)、健常者20例(図6)、他の肺疾患15例(図7)を対象に行ったスクリーニングでは、特発性肺胞蛋白症の患者のみに分子量180kDの特異的なバンドが確認できた。【0044】実施例5ELISA法による抗GM−CSF自己抗体の測定:(方法)リコンビナントGM−CSF(R&D社製)1μg/mlを96穴エライザープレート(NUNC社製)に50μlずつ撒き、カバーシールで封じた後、1昼夜4℃に放置する。プレートは、PBS/0.1%Tween20にて5回洗浄後、各ウエルに1%BSA/PBS溶液200μlを入れ、室温で1時間ブロッキングする。この溶液を吸引廃棄後、希釈した患者血清又はコントロールの健常者血清50μlをウエルに入れ、さらに1時間室温で反応させる。抗GM−CSF自己抗体は、コートしたGM−CSFに結合する。PBS/0.1%Tween溶液にて5回洗浄後、0.3μg/mlのperoxidase label抗ヒトIgGウサギ抗体(Dako社製)を50μl入れ、室温にて1時間反応後、再びプレートをPBS/0.1%Tweenで5回洗浄する。各ウエルに50μlのTMB溶液(SCYTEK社製)を入れ、15分反応後、50μlのSTOP溶液(SCYTEK社製)を添加し、反応を止める。各ウエルの450nmにおける吸光度をエライザーリーダーで測定する。【0045】(結果)図8に結果を示す。特発性肺胞蛋白症の患者血清のOD値は0.49〜1.10と健常者0.12〜0.16、続発性0.15〜0.19、先天性0.13〜0.14よりも有意(p<0.01)に高かった。GM−CSFはアルブミンなどの血清蛋白とも親和性があり、何らかの理由で、健常者の血清とも弱く反応して、低レベルのOD値を示しているが、これらのサンプルは、前述したウエストウエスタン法で180kDの抗体のバンドは検出できないことから、非特異的な反応と考えられる。【0046】実施例6受け身凝集法による抗GM−CSF自己抗体の測定:(方法)GM−CSFをカップリングさせるためのビーズはPolybead Microparticles(Polysciences社)を用い、反応は、同社のグルタルアルデヒドキット(Cat.♯19540)を用いた。キットの説明書に従ってビーズを活性化し、500μlの%ビーズ溶液とリコンビナントGM−CSF100μgを室温にて一昼夜反応させ、15000回転で6分遠心後、上清を除去し、0.2Mエタノールアミン溶液に懸濁させ、30分反応させた後、再び15000回転6分遠心、上清を除去し、キットに付属のBSA溶液を加えブロッキングを行う。この方法で約50%のGM−CSFがビーズにカップリングされる。最終的に0.05%のビーズ溶液50μlと300倍希釈した患者あるいは、健常者の血清10μlを96穴丸底プレート内で24時間反応させ、凝集の有無を肉眼的に判定する。【0047】(結果)結果を表2に示す。健常者40人で38人が陰性だったのに対し、特発性肺胞蛋白症の患者血清は、25人中24人が凝集した。また、続発性4人と先天性2人の血清は全く凝集しなかった。【0048】【表2】【0049】実施例7TF−1細胞を用いたバイオアッセイによる抗GM−CSF自己抗体の測定:(方法)この方法は、自己抗体そのものの存在を見るのではなく、自己抗体により中和されるGM−CSFの生物活性の減弱をTF−1細胞の増殖を指標として測る方法である。TF−1細胞は医科学研究所北村俊雄博士より供与された。この細胞はGM−CSF依存性に増殖する腫瘍細胞株である。培養はγ線滅菌96穴平底プレートで行う。TF−1細胞1万個を1ng/mlのリコンビナントGM−CSFと0.25%患者あるいは健常者血清を含むRPMI 1640培地(10%子牛血清を含む)100ml中に懸濁させ、37℃、5%炭酸ガス存在下で4日間培養する。5mg/mlのMTT溶液を10mlずつ各ウエルに添加し、さらに3時間培養する。細胞に取り込まれたMTTを可溶化するため、0.04規定塩酸イソプロパノール溶液100mlを加え、色素をよく溶かした後、560nmの吸光度をエライザーリーダーを用いて測定する。【0050】(結果)TF−1細胞は1ng/mlのGM−CSF存在下で非常によく増殖し、4日間の培養で細胞数が約4倍になる。特発性肺胞蛋白症の血清は抗GM−CSF自己抗体を含んでいることから、添加したGM−CSFの効果は中和され、細胞増殖は観察されなかった。MTT試薬は細胞内に取り込まれると代謝され疎水性の色素に変化する。その色素の吸光度を測定したところ、図9に示すように特発性肺胞蛋白症の血清のOD値は0.37〜0.69と、健常者血清1.3〜1.4、続発性1.0〜1.2、先天性0.9〜1.2に比べて有意に低い値(p<0.01)を示した。【0051】【発明の効果】本発明の自己抗体は、生体中で種々の炎症性疾患に関与していることが知られているGM−CSFに対する自己抗体であり、これを測定すればこれらの炎症性疾患の診断が可能である。特に特発性肺胞蛋白症の血清診断が感度と特異性ともに良くできる。【図面の簡単な説明】【図1】BALF(100μg/ml)のTF−1細胞(2×105)の増殖に対する作用を示す図である。【図2】GM−CSFとTF−1の結合に対するIPAPのBALFによる拮抗阻害作用を示す図である。【図3】BALFによるGM−CSFの抗GM−CSFモノクローナル抗体への結合阻害を示す図である。【図4】架橋剤を介してGM−CSFとIPAPのBALFを結合させた蛋白のSDS−PAGE結果を示す図である。レーンaは放射性ラベルGM−CSFのみ、レーンbは健常者BALFを用いた場合、レーンcはIPAPのBALFを用いた場合、レーンdは過剰量の非放射性GM−CSF存在下で放射性ラベルGM−CSFとIPAPのBALFを用いた場合を示す。【図5】特発性肺胞蛋白症(1〜11)及び続発性肺胞蛋白症(12、13)の血清と125I−GM−CSFとを用いたウエストウエスタン法の結果を示す図である。【図6】健常者(14〜33)の血清と125I−GM−CSFとを用いたウエストウエスタン法の結果を示す図である。【図7】肺胞症以外の肺疾患患者の血清(34〜46)と125I−GM−CSFとを用いたウエストウエスタン法の結果を示す図である。【図8】ELISA法による患者及び健常者血清中の抗GM−CSF自己抗体の測定結果を示す図である。【図9】TF−1細胞を用いたバイオアッセイによる患者及び健常者血清中の抗GM−CSF自己抗体の測定結果を示す図である。 顆粒球マクロファージコロニー刺激因子を含有する特発性肺胞蛋白症診断薬。 抗顆粒球マクロファージコロニー刺激因子自己IgG抗体を測定するものである請求項1記載の特発性肺胞蛋白症診断薬。 抗顆粒球マクロファージコロニー刺激因子自己IgG抗体が、下記性質を有する請求項2記載の特発性肺胞蛋白症診断薬。(1)特発性肺胞蛋白症患者の気管支肺胞洗浄液又は血清より得られる。(2)顆粒球マクロファージコロニー刺激因子によるヒト末梢血単球及び腫瘍細胞株TF−1の増殖を抑制するが、インターロイキン−3によるヒト末梢血単球及び腫瘍細胞株TF−1の増殖を抑制しない。