タイトル: | 特許公報(B2)_水不溶性ニグロシン及びその関連技術 |
出願番号: | 1999186613 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C09B 19/00,C07D 241/46,C07D 487/04,C07D 498/04,C08K 3/04,C08K 5/3462,C08K 7/14,C08L 67/04,C08L 77/00,C08L 81/04,C08L 101/00,C09B 17/02 |
林 昭彦 鶴原 徹 JP 3757081 特許公報(B2) 20060106 1999186613 19990630 水不溶性ニグロシン及びその関連技術 オリヱント化学工業株式会社 000103895 高良 尚志 100095522 林 昭彦 鶴原 徹 20060322 C09B 19/00 20060101AFI20060302BHJP C07D 241/46 20060101ALI20060302BHJP C07D 487/04 20060101ALI20060302BHJP C07D 498/04 20060101ALI20060302BHJP C08K 3/04 20060101ALI20060302BHJP C08K 5/3462 20060101ALI20060302BHJP C08K 7/14 20060101ALI20060302BHJP C08L 67/04 20060101ALI20060302BHJP C08L 77/00 20060101ALI20060302BHJP C08L 81/04 20060101ALI20060302BHJP C08L 101/00 20060101ALI20060302BHJP C09B 17/02 20060101ALI20060302BHJP JPC09B19/00C07D241/46C07D487/04 147C07D498/04C08K3/04C08K5/3462C08K7/14C08L67/04C08L77/00C08L81/04C08L101/00C09B17/02 C07D CAPLUS(STN) REGISTRY(STN) 特開平10−324807(JP,A) 特開平2−102269(JP,A) 特開平9−59551(JP,A) 特開昭59−68374(JP,A) 特開昭63−139951(JP,A) 国際公開第99/21715(WO,A1) 国際公開第99/41060(WO,A1) 22 2001011055 20010116 23 20050721 伊藤 幸司 【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は、水不溶性ニグロシン、その水不溶性ニグロシンを含有する結晶性樹脂組成物及び繊維強化結晶性樹脂成形物、結晶性樹脂の結晶化温度低下方法、結晶性樹脂の流動性向上方法、及び結晶性樹脂の表面光沢度向上方法に関する。【0002】【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】 結晶性樹脂は、機械的及び化学的性質に優れているため、自動車や電気・電子製品等の部品の分野におけるプラスチック成形品に広く用いられており、エンジニアリングプラスチックの分野でもますます需要が高まっている。【0003】 結晶性樹脂に対する着色は、装飾効果、色分け効果、成形品の耐光性向上、内容物の保護や隠蔽等の目的で行われる。結晶性樹脂の黒色着色には、従来、カーボンブラック、黒色含金染料、アジン系染料及びペリノンブラック等の種々の無機顔料や有機染顔料による着色が試みられてきた。【0004】 より具体的な例としては、ポリアミド樹脂がカ−ボンブラック及びニグロシンで着色された成形配合物(特公昭60−43379号);ポリアミド樹脂がカーボンブラック及び銅フタロシアニン顔料で着色された成形用組成物(特開昭60−226551号);不飽和ポリエステル樹脂がアニリンブラックとソルベントブルーで着色された成形用組成物(特公平1−46524号);熱可塑性樹脂にカーボンブラックと酸化チタンが添加されたプラスチック成形組成物(特開平5−186633号);熱可塑性樹脂が赤色有機顔料、青色有機顔料及び黄色有機顔料で着色された着色樹脂組成物(特開平5−230278号);ポリエチレンテレフタレート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂との混合樹脂にカーボンブラックを分散した特開平5−194825号等が挙げられる。【0005】 しかしながら、これらの従来の着色結晶性樹脂組成物は、外観や表面光沢が必ずしも良好でなく、更に研究の余地を残していた。【0006】 また、結晶性樹脂に繊維状補強材を配合することにより、耐熱性や耐薬品性を向上させたり、各用途に合わせた機械的特性を与えたりして、広範囲な工業的用途に適合させる試みがなされている。更に、近時においては、電子部品、自動車・電装部品等の分野において、軽量化、工程の合理化、腐食の問題及び繊維強化した結晶性樹脂の成形材料としての良好な物性に着目して、従来金属を使用していた部品を繊維強化結晶性樹脂に替える動きが顕著である。【0007】 このような繊維強化された着色結晶性樹脂の例としては、ナイロン66/6共重合体、ガラス繊維、無機鉱物粉末及びアジン系染料からなる特開昭62−246958号記載のポリアミド系車輛用部材;固有粘度0.35以上のポリブチレンテレフタレートと強化材とカーボンブラックを配合してなる成形用ポリエステル樹脂組成物(特開平2−117951号);熱可塑性樹脂、変性ポリオレフィン、繊維状補強材及びカーボンブラックからなる熱可塑性樹脂組成物(特開平3−50263号);ポリアミド樹脂、表面処理されたガラス繊維及びアジン系染料からなるガラス繊維強化黒色ポリアミド樹脂組成物(特開平6−128479号);体積固有抵抗が1×1010Ω・cm以下であるガラス繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂にカーボンブラックを配合してなる帯電防止性繊維強化ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物(特開平8−53610号)等が挙げられる。【0008】 ところが、繊維強化された結晶性樹脂の着色においては、樹脂中に繊維状補強材が存在するため、長時間混練しても着色剤(例えば黒色顔料)が樹脂中に十分に満遍なく均一に分散し難いという問題が存在する。また、着色剤を添加することにより、添加前の元の樹脂と比較して物性の低下が生じることや、成形時の流動性に著しい低下が生じたり、成形中の温度変化による成形物のそり変形の増大を招く場合もある。特に、成形時に、成形品表面に繊維補強材が浮き出て着色成形品の光沢及び外観等が損なわれることが問題となっていた。【0009】 本発明は、従来技術に存した上記のような課題に鑑み行われたものであって、その目的とするところは、結晶性樹脂(繊維強化されたもの又はされないもの)を鮮明に着色し得、特に着色した結晶性樹脂の成形中の流動性が良好でその成形精度に優れ、その成形物の表面光沢度等の外観及び表面形状が良好に改善される水不溶性ニグロシン、その水不溶性ニグロシンを含有する結晶性樹脂組成物及び繊維強化結晶性樹脂成形物、並びに、結晶性樹脂の結晶化温度低下方法、結晶性樹脂の流動性向上方法、及び結晶性樹脂の表面光沢度向上方法を提供することにある。【0010】【課題を解決するための手段】 (1) 上記目的を達成する本発明の水不溶性ニグロシンは、ニグロシンの硫酸および/または燐酸による塩であって、当該塩が、ニグロシンの塩酸塩が硫酸および/または燐酸で処理されて得られたものである水不溶性ニグロシンである。【0011】 ニグロシンの硫酸および/または燐酸による塩というのは、ニグロシン(一般には塩酸塩)における、硫酸イオン又は燐酸イオンと結合し得る基の全て又は相当部分(例えば50%以上、又は70%以上、好ましくは90%以上)に硫酸イオンおよび/または燐酸イオンが結合したものを意味する。【0012】 (1-1) (1)の水不溶性ニグロシンは、塩素濃度(すなわち水不溶性ニグロシン中の塩素濃度)が3重量%以下であることが望ましい。【0013】 (1-2) また、(1)又は(1-1)の水不溶性ニグロシンは、鉄濃度(すなわち水不溶性ニグロシン中の鉄濃度)が0.5重量%以下であることが望ましい。【0014】 (1-3) また、(1)、(1-1)又は(1-2)の水不溶性ニグロシンは、残留アニリン濃度(すなわち水不溶性ニグロシン中の残留アニリン濃度)が0.5重量%以下であることが望ましい。 (1-4) 更に、(1)、(1-1)、 (1-2) 又は(1-3)の水不溶性ニグロシンは、体積抵抗値が2.0×1010Ω・cm以上であることが望ましい。【0015】 (1-5) (1)、(1-1)、(1-2)、(1-3)又は(1-4)の水不溶性ニグロシンは、例えば、硫酸および/または燐酸でニグロシンの塩酸塩を処理することにより製造することができる。ニグロシンの塩酸塩についての硫酸および/または燐酸での処理は、ニグロシン中で塩を構成する塩素イオンが硫酸イオンおよび/または燐酸イオンに交換される処理であればよい。 (1-6) 更に、(1)、(1-1)、 (1-2)、 (1-3)、(1-4)又は(1-5)の水不溶性ニグロシンは、ニグロシンの硫酸塩であり、塩素濃度が9000ppm以下であることが望ましい。【0016】 (2) 本発明の結晶性樹脂組成物は、結晶性樹脂中に(1)、(1-1)、(1-2)、(1-3)、(1-4)、(1-5)又は(1-6)の水不溶性ニグロシンを含有することを特徴とする。【0017】 (2-1) (2)の結晶性樹脂組成物における結晶性樹脂は、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂又はポリフェニレンスルフィド樹脂であることが好ましい。【0018】 (2-2) (2)又は(2-1)の結晶性樹脂組成物は、その結晶化温度が、水不溶性ニグロシンを含有しない元の熱可塑性樹脂に比し7℃以上低いものであることができる。【0019】 (2-3) (2)、(2-1)又は(2-2)の結晶性樹脂組成物は、繊維状補強材を含有するものとすることができる。【0020】 (2-4) (2-3)の結晶性樹脂組成物は、含有する水不溶性ニグロシンをニグロシン(元のニグロシン。一般には塩酸塩。)に代えた結晶性樹脂組成物に比し流動性が高いものであることが好ましい。例えば、繊維状補強材を含有する結晶性樹脂組成物の通常の成形条件に相当する条件下で、スパイラルフロー長が10%以上長いものであることが好ましい。より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上である。【0021】 (2-5) (2)、(2-1)、(2-2)、(2-3)又は(2-4)の結晶性樹脂組成物は、アニリンブラックを含有するものとすることができる。【0022】 (2-6) (2)、(2-1)、(2-2)、(2-3)、(2-4)又は(2-5)の結晶性樹脂組成物は、カーボンブラックを含有するものとすることができる。【0023】 (3) 本発明の繊維強化結晶性樹脂成形物は、結晶性樹脂中に、繊維状補強材及び(1)、(1-1)、(1-2)、(1-3) 、(1-4)、(1-5)又は(1-6)の水不溶性ニグロシンを含有してなり、前記水不溶性ニグロシンをニグロシンに代えた繊維強化結晶性樹脂成形物に比し表面光沢度が高いことを特徴とする。【0024】 例えば光沢度計〔スガ試験機社製 商品名:HG−268〕を用いて試験片の60度入射角で測定した光沢値において水不溶性ニグロシンをニグロシンに代えた繊維強化結晶性樹脂成形物に比し10%以上高いものであることが好ましい。【0025】 (4) 本発明の結晶性樹脂の結晶化温度低下方法は、結晶性樹脂中に(1)、(1-1)、(1-2)、(1-3) 、(1-4)、(1-5)又は(1-6)の水不溶性ニグロシンを含有させることにより、その結晶性樹脂の結晶化温度を水不溶性ニグロシンを含有しない元の熱可塑性樹脂に比し7℃以上低下させることを特徴とする。【0026】 (5) 本発明の結晶性樹脂の流動性向上方法は、結晶性樹脂中に(1)、(1-1)、(1-2)、(1-3) 、(1-4)、(1-5)又は(1-6)の水不溶性ニグロシンを含有させることにより、その結晶性樹脂の流動性を水不溶性ニグロシンを含有しない元の熱可塑性樹脂に比し向上させることを特徴とする。【0027】 この結晶性樹脂の流動性向上方法は、結晶性樹脂中に繊維状補強材を含有するものとすることができる。【0028】 (6) 本発明の結晶性樹脂の表面光沢度向上方法は、結晶性樹脂中に(1)、(1-1)、(1-2)、(1-3) 、(1-4)、(1-5)又は(1-6)の水不溶性ニグロシンを含有させることにより、その結晶性樹脂の表面光沢度を水不溶性ニグロシンを含有しない元の熱可塑性樹脂に比し向上させることを特徴とする。【0029】 (6-1) (6)の結晶性樹脂の表面光沢度向上方法は、結晶性樹脂中に繊維状補強材を含有するものとすることができる。【0030】 (7) 本発明の水不溶性ニグロシンを配合した結晶性樹脂は、成形時の熱溶融状態において流動性が高く、成形用金型内の隅々まで広がり、而も優れた熱時寸法安定性を示し、スムーズに成形処理を行い得る。そのため、成形物の表面に細かい凹凸ができにくく、成形精度も良い。このことは大型成形機による成形や精密な成形物の成形、寸法精度の厳しい要求の製品に非常に有効である。またこのことは、繊維状補強材の影響を受けるため、著しく着色剤や添加剤が分散しにくく而も流動性が低くなる繊維状補強材を含有する結晶性樹脂組成物において顕著である。【0031】 本発明の水不溶性ニグロシンを配合した結晶性樹脂は、その水不溶性ニグロシンを含有しない元の結晶性樹脂と比較して結晶化温度が低下する。この結晶化温度の低下によって、結晶性樹脂の成形温度を低く設定することができる。そのため、成形コストの低減及び成形不良発生の抑制を容易に実現し得、成形時の冷却による成形物の収縮量が小さくなるので成形精度が良くなり、成形物の強度の異方性を良好に低減させることができ、表面光沢、外観及び熱時寸法安定性に優れた成形物を得ることができる。表面光沢及び外観に優れた成形物を得る点については、特に、成形物の表面に繊維状補強材が浮き出易い、繊維状補強材を含有する結晶性樹脂組成物において顕著である。更に、結晶化温度の低下により、射出成形において金型温度や射出時間を調節できる許容範囲が広くなり、成形物の結晶化度を所望の範囲に容易に調整することが可能である。金型温度や射出時間を最適に設定することにより、成形物の表面光沢度を向上させることができる。【0032】 (8) 本発明の結晶性樹脂用着色剤及び本発明の結晶性樹脂用流動性向上剤は、何れも、ニグロシンの硫酸および/または燐酸による塩であって、当該塩が、ニグロシンの塩酸塩が硫酸および/または燐酸で処理されて得られたものである水不溶性ニグロシンを有効成分とする。 本発明の水不溶性ニグロシンを結晶性樹脂に配合して着色した場合、従来のニグロシン(塩酸塩)よりOD値が高く、均一且つ鮮明に着色され表面光沢の優れた成形物が得られ、特に、その効果は、繊維状補強材の表面析出し易い、繊維状補強材を含有する結晶性樹脂組成物において顕著である。而も、本発明の水不溶性ニグロシンは、押出成形前のペレット乾燥、配合、混練及び成形中に、結晶性樹脂中においてほとんど変退色が起こらない。【0033】 本発明の水不溶性ニグロシンは、結晶性樹脂の着色に従来用いられてきたニグロシン(塩酸塩)や黒色顔料に比し、結晶性樹脂に対する分散性および/または相溶性に優れる。そのため、ドライカラー法においても、結晶性樹脂を、外観、表面形状が良好で、より均一な黒色に着色することができる。この均一着色効果は、特に、繊維状補強材の影響を受けるため著しく着色剤が分散しにくい、繊維状補強材を含有する結晶性樹脂の着色において顕著である。安価で耐光性に富む材料であるカーボンブラックと共に本発明の水不溶性ニグロシンを使用してコスト低減及び耐光性向上を図ることができる。【0034】 また、本発明の水不溶性ニグロシンを結晶性樹脂に配合してその結晶性樹脂を着色した場合、従来のニグロシン(塩酸塩)よりも耐溶剤性が向上する。【0035】【発明の実施の形態】 以下の記述は、繊維状補強材を含有する結晶性樹脂と繊維状補強材を含有しない結晶性樹脂とを区別している場合を除き、両者に共通する。【0036】 本発明の水不溶性ニグロシンは、硫酸および/または燐酸でニグロシンを処理することにより得ることができる。【0037】 上記ニグロシン、すなわち本発明の水不溶性ニグロシンの原料として用いることができるニグロシンとしては、COLOR INDEXにC.I.SOLVENT BLACK 5及びC.I.SOLVENT BLACK 7として記載されているような黒色アジン系縮合混合物を挙げることができる。好ましくはC.I.SOLVENT BLACK 5である。このようなニグロシンの合成は、例えば、アニリン、アニリン塩酸塩及びニトロベンゼンを、塩化鉄の存在下、反応温度160乃至180℃で酸化及び脱水縮合することにより行い得る。ニグロシンは、反応条件、仕込み原料及び仕込比等の如何によって、種々の異なる化合物の混合物として生成するが、例えば次の式(I)又は(II)に表されるような各種のトリフェナジンオキサジン及び式(III)乃至(VI)で表されるようなフェナジンアジン系化合物の混合物と推定されている。【0038】【化1】[式(I)乃至(VI)中、XはCl又はOHを示す。]【0039】 ニグロシンが塩酸塩である場合、そのニグロシンについての硫酸および/または燐酸での処理は、ニグロシン中で塩を構成する塩素イオンの全て又は相当部分が硫酸イオンおよび/または燐酸イオンに交換される処理であれば特に制限されず、公知の反応方法を用い得る。但し、硫酸処理の場合、ニグロシン中の芳香族核置換(スルホン化)を除く。【0040】 具体的には、例えば、ニグロシンを希硫酸に分散させ、適度に加熱(例えば、50乃至90℃)することにより製造される。また例えば、ニグロシンを製造して得られた縮合反応液を希硫酸に分散させ、適度に加熱(例えば、50乃至90℃)することにより製造される。また例えば、スルホン化が起きないように液温度を低温に調節しながらニグロシンを濃硫酸に溶解させたものを、大量の氷水に加えて結晶を析出させることによっても製造される。【0041】 本発明の水不溶性ニグロシン中の塩素濃度は、3重量%以下であることが好ましく、結晶性樹脂組成物中に含有させた場合の成形物の表面形状の向上と絶縁性の向上のためにより好ましいのは、塩素濃度が2重量%以下の水不溶性ニグロシンである。 本発明の水不溶性ニグロシンがニグロシンの硫酸塩である場合、塩素濃度は9000ppm以下であることが望ましい。より好ましくは8000ppm以下である。【0042】 本発明の水不溶性ニグロシン中の鉄濃度は、例えば0.7重量%以下とすることができる。結晶性樹脂組成物中に含有させた場合の絶縁性をより向上させるためには、好ましくは鉄濃度が0.5重量%以下、更に好ましくは0.4重量%の水不溶性ニグロシンである。【0043】 本発明の水不溶性ニグロシンの残留アニリン濃度は、例えば1重量%以下とすることができる。結晶性樹脂組成物中に含有させた場合の成形物の表面形状の向上のためにより好ましいのは、残留アニリン濃度が0.5重量%以下、更に好ましくは0.4重量%以下の水不溶性ニグロシンである。 本発明の水不溶性ニグロシンは、硫酸および/または燐酸でニグロシンを処理すること等によりニグロシンの硫酸および/または燐酸による塩とする工程で、ニグロシン中の不純物が取り除かれるため、絶縁性が向上したものとなる。このため、電子部品や電気部品等の絶縁性が重要な物品の材料として好適である。 本発明の水不溶性ニグロシンの体積抵抗値は、好ましくは2.0×1010Ω・cm以上、より好ましくは2.5×1010Ω・cm以上、更に好ましくは3.0×1010Ω・cm以上である。【0044】 本発明における結晶性樹脂としては、結晶性を有する熱可塑性樹脂が好ましい。その例としては、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂及びポリエーテルエーテルケトン樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂のうち好ましいのは、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、及びポリフェニレンスルフィド樹脂である。これらの熱可塑性樹脂は、単独で、或は2種類以上を混合して用いることができる。また、これらの重合体を主体とする共重合体若しくは混合物;これらにゴム又はゴム状樹脂等のエラストマーを配合した熱可塑性樹脂;及びこれらの熱可塑性樹脂を10重量%以上含有するポリマーアロイ等が挙げられる。【0045】 上記ポリアミド樹脂の具体例としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン69、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン96、非晶質性ナイロン、ナイロンRIM、ナイロンMIX6等;それらの2種類以上のものの共重合体、すなわち、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/66/610共重合体、ナイロン6/66/11/12共重合体、結晶性ナイロン/非結晶性ナイロン共重合体等を挙げることができる。また本発明に使用するポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂と他の合成樹脂とのアロイであってもよい。そのようなアロイの例としては、ポリアミド/ポリエステルアロイ、ポリアミド/ポリフェニレンオキシドアロイ、ポリアミド/ポリカーボネートアロイ、ポリアミド/ポリオレフィンアロイ、ポリアミド/スチレン/アクリロニトリルアロイ、ポリアミド/アクリル酸エステルアロイ、ポリアミド/シリコーンアロイ等を挙げることができる。これらのポリアミド樹脂は、単独で、或は2種類以上を混合して用いることができる。【0046】 本発明におけるポリエチレンテレフタレート樹脂としては、芳香族ジカルボン酸類(主にテレフタル酸)又はそのエステルとグリコール類(主にエチレングリコール)を主な原料として得られるポリエステル樹脂であって、分子内に多数のエチレンテレフタレート単位の繰り返しが存在するものを挙げることができる。本発明に適するものとしては、樹脂中にエチレンテレフタレート単位の繰り返しを少なくとも60モル%以上有するエチレンテレフタレート樹脂、好ましくは80モル%以上、更に好ましく90モル%以上有するポリエチレンテレフタレート樹脂である。テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸として、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、オキシカルボン酸(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシエトキシ安息香酸)等を共重合成分として含むものでもよく、エチレングリコール以外のグリコール類として、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリアルキレンオキサイド、ネオペンチルグリコール等を共重合成分として含むものでもよい。【0047】 また、本発明におけるポリエチレンテレフタレート系樹脂は、上記のようなテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸および/またはエチレングリコール以外のグリコール類を共重合成分として含んでいてもよいポリエチレンテレフタレートと他の合成樹脂とのポリマーアロイとすることも可能である。そのようなポリマーアロイの例としては、ポリエチレンテレフタレート/ポリカーボネートアロイ、ポリエチレンテレフタレート/ポリアミドアロイ、ポリエチレンテレフタレート/ABSアロイ、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレンアロイ、ポリエチレンテレフタレート/ポリフェニレンエーテルアロイ、ポリエチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレートアロイ等を挙げることができる。【0048】 本発明に用い得るポリブチレンテレフタレート樹脂としては、芳香族ジカルボン酸類(主にテレフタル酸)又はそのエステルとグリコール類(主に1,4−ブタンジオール)を主な原料として得られるポリエステル樹脂であって、分子内に多数のブチレンテレフタレート単位の繰り返しが存在するものを挙げることができる。本発明に適するものとしては、樹脂中にブチレンテレフタレート単位の繰り返しを少なくとも60モル%以上有するポリブチレンテレフタレート樹脂、好ましくは80モル%以上、更に好ましく90モル%以上有するポリブチレンテレフタレート樹脂を挙げることができる。ポリブチレンテレフタレート樹脂と他の合成樹脂とのポリマーアロイであってもよい。そのようなポリマーアロイの例としては、ポリブチレンテレフタレート/ポリカーボネートアロイ、ポリブチレンテレフタレート/ポリアミドアロイ、ポリブチレンテレフタレート/ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂)アロイ、ポリブチレンテレフタレート/ポリプロピレンアロイ、ポリブチレンテレフタレート/ポリフェニレンエーテルアロイ等を挙げることができる。これらのポリブチレンテレフタレート樹脂(ポリマーアロイを含む)は、単独で、或は2種類以上を混合して用いることができる。【0049】 本発明における結晶性樹脂に対する水不溶性ニグロシンの使用量は、一般的樹脂着色(低着色濃度成形物[マスターバッチを用いた場合を含む])の場合、例えば、結晶性樹脂に対し0.01乃至15重量%とすることができる。好ましくは0.1乃至10重量%、結晶性樹脂成形物の表面光沢向上や結晶性樹脂の流動性向上ために更に好ましいのは0.5乃至5重量%である。なお、結晶性樹脂の結晶化温度低下や結晶性樹脂の流動性向上の目的に使用する場合、結晶性樹脂に対し0.3乃至2重量%添加すればよい。また、マスターバッチ(高着色濃度成形物)の場合の着色剤の使用量は、例えば結晶性樹脂に対し20乃至60重量%とすることができる。好ましくは20乃至40重量%である。本発明において結晶性樹脂に本発明の水不溶性ニグロシンを含有させることによる効果は、一般に、結晶性樹脂に本発明の水不溶性ニグロシンを直接混合して含有させた場合よりも、結晶性樹脂に本発明の水不溶性ニグロシンを高濃度で混合含有させたマスターバッチを更に結晶性樹脂と混合した場合の方が高い。 本発明の水不溶性ニグロシンは、流動性向上剤、表面光沢向上剤及び結晶化温度低下剤としての働きを有している。 他の黒色着色剤のうち、アニリンブラックは、耐光性が良好であるが、高級な成型品に用いるには外観及び表面光沢が十分ではない。また、アニリンブラックは、樹脂に対する分散が容易でなく、十分な分散のためには手間のかかる操作が必要である。一方カーボンブラックは、安価で耐光性が良好であるが、結晶核剤として働き、樹脂組成物の結晶化温度を上げてしまい、外観及び表面光沢をかなり低下させる。而も、カーボンブラックは、結晶性樹脂内の結合力を弱めるため、樹脂の機械的物性の劣化を招き得、樹脂に対する分散性が不良であるため、樹脂を均一に着色することは非常に困難である。 ところが、本発明の水不溶性ニグロシンと、アニリンブラックおよび/またはカーボンブラックとを混合して使用すると、本発明の水不溶性ニグロシンの効果により、アニリンブラック及びカーボンブラックの樹脂に対する分散性が改善され、外観及び表面光沢が向上した樹脂組成物が得られる。このため、水不溶性ニグロシンと、アニリンブラックおよび/またはカーボンブラックとを適宜配合して着色した場合でも、十分な実用性のある着色結晶性樹脂組成物が得られる。【0050】 本発明の結晶性樹脂組成物は、用途及び目的に応じ、各種の繊維状補強材を適量含有するものとすることができる。本発明において用い得る繊維状補強材は、特に限定されず、従来の合成樹脂の補強材として用い得るものを適宜使用し得る。このような繊維状補強材の例としては、ガラス繊維、炭素繊維、及び各種有機繊維を挙げることができる。例えばガラス繊維の場合、その含有量は、結晶性樹脂100重量%に対し5乃至120重量%とすることが好ましい。5重量%未満の場合、十分なガラス繊維補強効果が得られ難く、120重量%を超えると成形性が低下することとなり易い。好ましくは10乃至60重量%、特に好ましくは20乃至50重量%である。【0051】 本発明の結晶性樹脂組成物及び繊維強化結晶性樹脂成形物は、その目的に応じ所望の特性を付与するために、公知の種々の添加剤が配合されてもよい。このような添加剤としては、例えば助色剤、分散剤、充填剤、安定剤、可塑剤、改質剤、紫外線吸収剤又は光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、及び耐衝撃性改良用のエラストマー等が挙げられる。【0052】 助色剤としては、例えば、着色力の強化、耐熱性や耐光性の向上、又は色調の調整等のため、少量の無機顔料、有機顔料又は有機染料等を用いることができる。【0053】 改質剤の例としては、アミノ変性シリコンオイル及びアルキル変性シリコンオイル等のケイ素化合物、WAX等が挙げられる。【0054】 紫外線吸収剤又は光安定剤の例としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物、シアノアクリレート系化合物、ベンゾエート系化合物、オギザアリド系化合物、ヒンダードアミン系化合物及びニッケル錯塩等が挙げられる。【0055】 酸化防止剤の例としては、フェノール系化合物、リン系化合物、イオウ系化合物及び チオエーテル系化合物等が挙げられる。【0056】 抗菌・防かび剤の例としては、2−(4’−チアゾリル)ベンズイミダゾール、10,10’−オキシビスフェノキシアルシン、N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド及びビス(2−ピリジルチオ−1−オキシド)亜鉛等が挙げられる。【0057】 難燃剤の例としては、テトラブロモビスフェノールA誘導体、ヘキサブロモジフェニールエーテル及びテトラブロモ無水フタル酸等のハロゲン含有化合物;トリフェニールホスフェート、トリフェニールホスファイト、赤リン及びポリリン酸アンモニウム等のリン含有化合物;尿素及びグアニジン等の窒素含有化合物;シリコンオイル、有機シラン及びケイ酸アルミニウム等のケイ素含有化合物;三酸化アンチモン及びリン酸アンチモン等のアンチモン化合物等が挙げられる。【0058】 無機充填剤の例としては、ガラスフレーク、ガラスビーズ、シリカ、石英、無定形ケイ酸、タルク、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、アルミナ、金属粉、カオリン、ケイ酸カルシウム、雲母及び珪灰石等が挙げられる。【0059】 本発明の結晶性樹脂組成物は、原材料を任意の配合方法により配合することによって得ることができる。これらの配合成分は、通常、できるだけ均質化させることが好ましい。具体的には、例えば、全ての原材料をブレンダー、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール、押出機等の混合機で混合して均質化させることにより結晶性樹脂組成物を得たり、或いは、一部の原材料を混合機で混合した後、残りの成分を加えて更に混合して均質化させて結晶性樹脂組成物を得ることもできる。また、予めドライブレンドされた原材料を、加熱した押出機で溶融混練して均質化した後、針金状に押出し、次いで所望の長さに切断して着色粒状物(着色ペレット)として得ることもできる。【0060】 また、本発明の結晶性樹脂組成物のマスターバッチは、任意の方法により得られる。例えば、マスターバッチのベースとなる結晶性樹脂の粉末又はペレットと着色剤をタンブラーやスーパーミキサー等の混合機で混合した後、押出機、バッチ式混練機又はロール式混練機等により加熱溶融してペレット化又は粗粒子化することにより得ることができる。また例えば、合成後未だ溶融状態にあるマスターバッチ用結晶性樹脂に着色剤を添加後、溶媒を除いてマスターバッチを得ることもできる。【0061】 本発明の結晶性樹脂組成物の成形は、通常行われる種々の手順により行い得る。例えば、着色ペレットを用いて、押出機、射出成形機、ロールミル等の加工機により成形することにより行うことができる。また、結晶性樹脂のペレット又は粉末、粉砕された着色剤、及び必要に応じ各種の添加物を、適当なミキサー中で混合し、この混合物を、加工機を用いて成形することにより行うこともできる。また例えば、適当な重合触媒を含有するモノマーに着色剤を加え、この混合物を重合により所望の結晶性樹脂とし、これを適当な方法で成形することもできる。成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、発砲成形、ブロー成形、真空成形、インジェクションブロー成形、回転成形、カレンダー成形、溶液流延等、一般に行われる何れの成形方法を採用することも可能である。【0062】【発明の効果】 本発明の水不溶性ニグロシンは、結晶性樹脂(繊維強化されたもの又はされないもの)を鮮明に着色し得る。【0063】 特に、本発明の水不溶性ニグロシンを配合した本発明の結晶性樹脂は、成形中の熱溶融状態における流動性が良好である。【0064】 また、本発明の水不溶性ニグロシンは、成形時の熱溶融により気化し易い不純物や結晶性樹脂に対し反応性を有する不純物の含有量を従来のニグロシン(塩酸塩)に比し大きく減少させることができるため、本発明の水不溶性ニグロシンを配合した結晶性樹脂は、成形時の重量減少や気化物の発生が効果的に抑制されると共に、結晶性樹脂の物性変化を最小限度にとどめることができる。そのため、本発明の水不溶性ニグロシンを配合した結晶性樹脂は、成形精度に優れ、その成形物の表面光沢度等の外観及び表面形状が良好に改善される。特に、本発明の繊維強化結晶性樹脂成形物は、表面光沢度が良好である。【0065】 本発明の結晶性樹脂の結晶化温度低下方法によれば、結晶性樹脂の結晶化温度を水不溶性ニグロシンを含有しない元の熱可塑性樹脂に比し低下させることができる。【0066】 本発明の結晶性樹脂の流動性向上方法によれば、繊維状補強材を含有するものを含めて、結晶性樹脂の流動性を水不溶性ニグロシンを含有しない元の熱可塑性樹脂に比し向上させることができる。【0067】 本発明の結晶性樹脂の表面光沢度向上方法によれば、繊維状補強材を含有するものを含めて、結晶性樹脂の表面光沢度を水不溶性ニグロシンを含有しない元の熱可塑性樹脂に比し向上させることができる。【0068】【実施例】 次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、勿論本発明はこれらのみに限定されるものではない。【0069】 製造例1乃至7は本発明の水不溶性ニグロシンの製造についてのものであり、製造例8及び9は、その水不溶性ニグロシンを用いたマスターバッチの製造についてのものである。【0070】 製造例1 10%硫酸水溶液1000gにスピリットブラックAB(オリヱント化学工業社製 ニグロシンの商品名)60gを分散させ、80℃で6時間撹拌した。その後、分散物を濾取し、その濾取物を水洗した後、乾燥させることにより、黒色物57.0g(収率95%)を得た。【0071】 製造例2 10%硫酸水溶液1000gを10%リン酸水溶液1000gに代えるほかは製造例1と同様に処理して黒色物55.2g(収率92%)を得た。【0072】 製造例3 10%硫酸水溶液1000gを1%硫酸水溶液1000gに代えるほかは製造例1と同様に処理して黒色物55.8g(収率93%)を得た。【0073】 製造例4 スピリットブラックABをスピリットブラックSB(オリヱント化学工業社製 ニグロシンの商品名)に代えるほかは製造例1と同様に処理して黒色物54.5g(収率91%)を得た。【0074】 製造例5 スピリットブラックABをニグロシンベースEX(オリヱント化学工業社製 ニグロシンの商品名)に代えるほかは製造例1と同様に処理して黒色物59.4g(収率99%)を得た。 製造例6 スピリットブラックABをニグロシンベースSAP−L(オリヱント化学工業社製 ニグロシンの商品名)に代えるほかは製造例1と同様に処理して黒色物58.4g(収率97%)を得た。【0075】 製造例7(a)ニグロシンの合成【0076】 アニリン140ml、ニトロベンゼン40ml、塩化第二鉄 25g、及び濃塩酸5.5gを反応容器に仕込み、180℃で14時間縮合反応させることにより、縮合物100gを得た。(b)ニグロシンの硫酸塩の合成【0077】 10%硫酸水溶液1000gに、上記で得られた縮合物(ニグロシン)100gを分散させ、80℃で6時間撹拌した。その後、分散物を濾取し、その濾取物を水洗した後、乾燥させることにより、黒色物47g(収率94%)を得た。【0078】 製造例1乃至製造例7で得られた各黒色物並びにスピリットブラックAB(AB)、スピリットブラックSB(SB)及びニグロシンベースSAP−L(SAP−L)のFe、Cl、SO42−、PO43−及びアニリンの含有率を表1に示す。各サンプルについてのデータの測定方法は次のとおりである。Fe:試料50mgに硝酸5mlを加え、マイクロウエーブを用いて加圧分解を行った。この分解物に0.1N−塩酸を加え、全量を50mlとした。既知の標準試料を用いて検量線を作成した後、前記のように得られた液について原子吸光分析により測定した。[測定器:フレーム分光光度計AA−660(島津製作所社製)]Cl:試料250mgを精秤し、それにDMF(ジメチルホルムアミド)を加えて全量を25mlとし、超音波をかけて溶解させた。既知の標準試料を用いて検量線を作成した後、前記のように得られた液について全塩素分析を行った。[測定器:TOX−10シグマ(商品名 三菱化学社製)]SO42−及びPO43−:試料200mgにメタノール5mlを加えて超音波により分散させた液に、イオン交換水を加え、全量を50mlとした。これを還流させながら、1時間煮沸させ、得られた液を遠心分離した後25μのメンブランフィルターで濾過した。既知の標準試料を用いて検量線を作成した後、前記のように得られた濾液についてイオンクロマトグラフィーにより測定した。[測定器:DX−300(日本ダイオネクス社製)、カラム:Iou Pac AS12A]含有アニリン:アニリンの検量線を作成した後、試料0・15gと内部標準の既定量のp−クロルアニリンにエタノールを加え、全量20mlとして超音波をかけ、相溶させた。得られた液についてガスクロマトグラフィーにより測定した。[測定器:ヒューレットパッカード社製の5890、カラム:DB−1(30xO.53mmxl.5μm)、オーブン昇温条件:100℃から280℃を20℃/分、インジェクション温度:280℃、デテクター温度:280℃、検出器:FID]【0079】【表1】 製造例8:マスターバッチ(M/B)の製造製造例1の黒色物 125g6−ナイロン(東レ社製 商品名:アミランCM1017) 375g【0080】 上記配合物をステンレス製タンブラーに入れ、1時間撹拌混合した。その混合物を、2軸押出機(池貝鉄工社製 商品名:PCM−30)を用いて溶融混練することにより、黒色ペレットを得た。このペレットを一昼夜120℃で減圧乾燥させることにより、着色濃度25重量%のマスターバッチを得た。【0081】 製造例9:マスターバッチ(M/B)の製造製造例1の黒色物 98gアニリンブラック 27g6−ナイロン(東レ社製 商品名:アミランCM1017) 375g【0082】 上記配合物をステンレス製タンブラーに入れ、1時間撹拌混合した。その混合物を、2軸押出機(池貝鉄工社製 商品名:PCM−30)を用いて溶融混練することにより、黒色ペレットを得た。このペレットを一昼夜120℃で減圧乾燥させることにより、着色濃度25重量%のマスターバッチを得た。【0083】 実施例1 着色ペレットの製造ナイロン66(デュポン社製 商品名:101L-NC10) 1000g製造例1の黒色物 10g【0084】 上記配合物をステンレス製タンブラーに入れ、20分間攪拌混合した。この混合物をベント式押出機(エンプラ産業社製 商品名:E30SV)を用いて270℃で溶融混合し、常法にて外観及び表面光沢が良好で色むらがない、均一な着色ペレット(2mmφ×2mm)を作成し、このペレットを120℃で6時間乾燥させた。【0085】 JISK7121に従い、このペレットを示差走査熱量計(セイコー電子工業社製 商品名:DSC6100)の測定容器に合わせて切断して容器内に均一に収容し、覆蓋固定した後、示差走査熱量計を用いてペレットの融点と結晶化温度を次のように測定した。先ず室温から20℃/分で300℃まで昇温させ、融解ピーク温度を測定し、300℃で3分間保持後、10℃/分で室温まで冷却し、補外結晶化開始温度(Tic)、結晶化ピーク温度及び補外結晶化温度(Tec)を測定した。測定して得られたDSC曲線を図1に示す。図1において、横軸は時間(分)、左縦軸はDSCmW、右縦軸は温度(℃)である。また、横軸を温度(℃)、縦軸をDSCmWとして補外結晶化開始温度(Tic)、結晶化ピーク温度及び補外結晶化温度(Tec)を測定した場合のDSC曲線を図2に示す。【0086】 この時の溶融ピーク温度を融点(Tpm)、結晶化ピーク温度を結晶化温度とし、黒色物を含有していない元の樹脂(以下、「元の樹脂」という。)の結晶化温度をT0PCとすると、結晶化温度差△TPCは元の樹脂の結晶化温度T0PCと着色樹脂組成物の結晶化温度TPCとの差即ち△TPC=TPC−T0PCで表される。【0087】 DSC測定による融点、補外結晶化開始温度、結晶化温度、補外結晶化終了温度及び元の樹脂との結晶化温度差を表2に示す。【0088】 実施例2乃至4 実施例2乃至4は、製造例1の黒色物に代えて、それぞれ製造例2の黒色物、製造例3の黒色物、及び製造例7の黒色物を用いるほかは実施例1と同様にして、外観及び表面光沢が良好で色むらがない、均一な着色ペレット(2mmφ×2mm)を作成し、示差熱分析を行った。得られた結果を表2に示す。【0089】 比較例1 比較例1は実施例1の製造例1の代わりに、スピリットブラックAB(オリヱント化学工業社製 ニグロシンの商品名)を用い、その他は実施例1と同様に均一な着色ペレット(2mmφ×2mm)を作成し、示差熱分析を行った。得られた結果を表2に示す。【0090】 比較例2 比較例2は実施例1の製造例1の代わりに、スピリットブラックSB(オリヱント化学工業社製 ニグロシンの商品名)を用い、その他は実施例1と同様に均一な着色ペレット(2mmφ×2mm)を作成し、示差熱分析を行った。得られた結果を表2に示す。【0091】【表2】 表2中の温度の単位は℃、( )内の数字は元の樹脂の結晶化温度である。【0092】 実施例5ガラス強化ナイロン66(ポリアミド樹脂:ガラス繊維=67:33の重量混合比の繊維強化ポリアミド樹脂 デュポン社製 商品名:70G33L) 100g製造例8のマスターバッチ 4g【0093】 上記配合物をステンレス製タンブラーに入れ、20分攪拌混合した後、その混合物を射出成形機(川口鐵工社製 商品名:KM−50C)を用いて290℃で通常の方法で射出成形したところ、外観及び表面光沢が良好で色むらがない均一な黒色の試験片〔49×79×3(mm)〕(製造例1の黒色物濃度:約1重量%)を得た。【0094】 この試験片の光沢度、OD値、結晶化温度差、スパイラルフロー長に関する測定結果を表3に示す。【0095】 光沢度試験と評価 光沢度については、光沢度計〔スガ試験機社製 商品名:HG−268)を用いて試験片の60度入射角での光沢値を測定した。【0096】 一般に、光沢値の高いものの方が、表面の平滑性が高く、表面光沢が豊富であると判断される。【0097】 スパイラルフロー長評価 スパイラルフローテスト金型〔10×2.5×460(mm)〕にて、成形温度280℃、金型温度80℃で、射出速度・射出圧力等の成形条件を一定とし、成形物の長さを測定した。【0098】 一般に、スパイラルフローが長い物程、流動性が良く、成形物の成形が容易になり、表面の平滑性が高く、ガラス繊維強化ナイロン等の繊維強化結晶性樹脂ではガラス繊維などの補強材が浮き出る現象を抑えることができるものと考えられる。 OD値の測定と評価 OD値は、試験片について透過・反射兼用濃度計(マクベス社製 商品名:TR−927)を用いて測定した。 一般に、OD値が高いものの方が、表面の平滑性が高く、表面光沢が豊富であると判断される。【0099】 結晶化温度差 結晶性樹脂として上記70G33Lを用いるほかは実施例1と同様にして着色ペレット(2mmφ×2mm)を作成して融点と結晶化温度を測定した。【0100】 実施例6 製造例8のマスターバッチの量を半分とするほかは実施例5と同様にして、外観及び表面光沢が良好で色むらがない均一な黒色の試験片〔49×79×3(mm)〕を得た。【0101】 この試験片の光沢度、OD値、結晶化温度差、スパイラルフロー長に関する測定結果を表3に示す。【0102】 比較例3及び比較例4 製造例8と同様にしてスピリットブラックAB(オリヱント化学工業社製 ニグロシンの商品名)の25%のマスターバッチを製造した。【0103】 比較例3では、製造例8のマスターバッチに代えてスピリットブラックABのマスターバッチを用いるほかは実施例5と同様にして黒色の試験片〔49×79×3(mm)〕を得た。【0104】 比較例4では、マスターバッチの量を半分とするほかは比較例3と同様にして黒色の試験片〔49×79×3(mm)〕を得た。【0105】 これらの試験片の光沢度、OD値、結晶化温度差、スパイラルフロー長に関する測定結果を表3に示す。【0106】 比較例5及び比較例6 製造例8と同様にしてニグロシンベースSA(オリヱント化学工業社製 ニグロシンの商品名)の25%のマスターバッチを製造した。【0107】 比較例5では、製造例8のマスターバッチに代えてニグロシンベースSAのマスターバッチを用いるほかは実施例5と同様にして黒色の試験片〔49×79×3(mm)〕を得た。【0108】 比較例6では、マスターバッチの量を半分とするほかは比較例5と同様にして黒色の試験片〔49×79×3(mm)〕を得た。【0109】 これらの試験片の光沢度、OD値、結晶化温度差、スパイラルフロー長に関する測定結果を表3に示す。【0110】 比較例7 製造例8のマスターバッチを配合しないこと以外は実施例5と同様にして、無色の試験片〔49×79×3(mm)〕を得た。【0111】 この試験片の光沢度、OD値、結晶化温度差、スパイラルフロー長に関する測定結果を表3に示す。【0112】 実施例7 ガラス強化ナイロン66(ポリアミド樹脂:ガラス繊維=67:33の重量混合比の繊維強化ポリアミド樹脂 デュポン社製 商品名:70G33L)をガラス強化ナイロン66(ポリアミド樹脂:ガラス繊維=57:43の重量混合比の繊維強化ポリアミド樹脂 デュポン社製 商品名:70G43L)に代える以外は実施例5と同様にして外観及び表面光沢が良好で色むらがない均一な黒色の試験片〔49×79×3(mm)〕を得た。【0113】 この試験片の光沢度、OD値、結晶化温度差、スパイラルフロー長に関する測定結果を表4に示す。【0114】 実施例8 製造例8のマスターバッチの量を半分とするほかは実施例7と同様にして、外観及び表面光沢が良好で色むらがない均一な黒色の試験片〔49×79×3(mm)〕を得た。【0115】 この試験片の光沢度、OD値、結晶化温度差、スパイラルフロー長に関する測定結果を表4に示す。【0116】 比較例8及び比較例9 比較例8では、製造例8のマスターバッチを比較例3で用いたスピリットブラックABのマスターバッチに代える以外は実施例7と同様にして、黒色の試験片〔49×79×3(mm)〕を得た。【0117】 比較例9では、比較例8のマスターバッチの量を半分とするほかは比較例8と同様にして、黒色の試験片〔49×79×3(mm)〕を得た。【0118】 これらの試験片の光沢度、OD値、結晶化温度差、スパイラルフロー長に関する測定結果を表4に示す。【0119】 比較例10及び比較例11 比較例10では、製造例8のマスターバッチを比較例5で用いたニグロシンベースSAのマスターバッチに代える以外は実施例7と同様にして、黒色の試験片〔49×79×3(mm)〕を得た。【0120】 比較例11では、マスターバッチの量を半分とするほかは比較例10と同様にして、黒色の試験片〔49×79×3(mm)〕を得た。【0121】 これらの試験片の光沢度、OD値、結晶化温度差、スパイラルフロー長に関する測定結果を表4に示す。【0122】 比較例12 製造例8のマスターバッチを配合しないこと以外は実施例7と同様にして、無色の試験片〔49×79×3(mm)〕を得た。【0123】 この試験片の光沢度、OD値、結晶化温度差、スパイラルフロー長に関する測定結果を表4(及び表5)に示す。【0124】【表3】[表3:33%繊維強化樹脂の評価 M/B着色剤]【0125】【表4】[表4:43%繊維強化樹脂の評価 M/B着色剤]【0126】 実施例9ガラス強化ナイロン66(ポリアミド樹脂:ガラス繊維=57:43の重量混合比の繊維強化ポリアミド樹脂 デュポン社製 商品名:70G43L) 100g製造例1の黒色物 1.0g【0127】 上記配合物をステンレス製タンブラーに入れ、20分攪拌混合した。その混合物を射出成形機(川口鐵工社製 商品名:KM−50C)を用いて290℃で通常の方法で射出成形したところ、外観及び表面光沢が良好で色むらがない均一な黒色の試験片〔49×79×3(mm)〕を得た。【0128】 この試験片の光沢度、OD値、結晶化温度差、スパイラルフロー長に関する測定結果を表5に示す。【0129】 実施例10乃至15及び比較例13 着色剤(水不溶性ニグロシン、カーボンブラック、アニリンブラック)の配合を表5に示すように代えるほかは実施例9と同様にして、黒色の試験片〔49×79×3(mm)〕を得た。【0130】【表5】[表5:43%繊維強化樹脂の評価 粉体混合]【0131】 実施例16 成形物の耐溶剤性試験 実施例7の黒色試験片(製造例1の水不溶性ニグロシンの25%マスターバッチをガラス強化ナイロン66に対しその4重量%混合してなるもの)及び比較例10の黒色試験片(ニグロシンベースSAの25%マスターバッチをガラス強化ナイロン66に対しその4重量%混合してなるもの)を用い下記試験方法で耐溶剤性試験を行った。【0132】 試験方法:各試験片を各溶剤に40℃で48時間浸し、その後の溶剤を目視にて判定すると共に、色差計(カラーテクノシステム社製 商品名:JP7100F)を用いてその各溶剤の色差を測定した。判定基準は次の通りである。溶出無し:○溶出若干あり:△溶出あり:×【0133】【表6】[表6中、EGL:エチレングリコール、MEK:メチルエチルケトン]【0134】 実施例17 体積抵抗値の測定 製造例1、製造例4、製造例6、スピリットブラックSB、スピリットブラックAB及びニグロシンベースSAP−Lの体積抵抗値をそれぞれ測定した。 測定条件:測定サンプル1gを精秤し、それを抵抗値測定セル(直径18mmの円筒形セル)の中で銅製の電極(蓋)間に挟み、両電極間で2kg重の加圧力で1分間加圧した。その加圧を継続しながら、抵抗値測定セルの中の電極(サンプルをはさむ電極)に500Vの電圧をかけた状態で、1分後に抵抗値測定器(ADVANTEST社製 商品名:R8340A)で体積抵抗値を測定した。測定に当っては、抵抗値測定器に電極間の距離(測定サンプルの厚さ)を入力した。【表7】 単位:109Ω・cm【図面の簡単な説明】【図1】 着色ペレットのDSC曲線である。【図2】 着色ペレットのDSC曲線である。 ニグロシンの硫酸および/または燐酸による塩であって、当該塩が、ニグロシンの塩酸塩が硫酸および/または燐酸で処理されて得られたものである水不溶性ニグロシン。 塩素濃度が3重量%以下である請求項1記載の水不溶性ニグロシン。 鉄濃度が0.5重量%以下である請求項1又は2記載の水不溶性ニグロシン。 残留アニリン濃度が0.5重量%以下である請求項1、2又は3記載の水不溶性ニグロシン。 体積抵抗値が2.0×1010Ω・cm以上である請求項1、2、3又は4記載の水不溶性ニグロシン。 上記ニグロシンの塩酸塩についての硫酸および/または燐酸での処理が、ニグロシン中で塩を構成する塩素イオンが硫酸イオンおよび/または燐酸イオンに交換される処理である請求項1、2、3、4又は5記載の水不溶性ニグロシン。 ニグロシンの硫酸塩であり、塩素濃度が9000ppm以下である請求項1、2、3、4、5又は6記載の水不溶性ニグロシン。 ニグロシンの硫酸および/または燐酸による塩であって、当該塩が、ニグロシンの塩酸塩が硫酸および/または燐酸で処理されて得られたものである水不溶性ニグロシンを有効成分とする結晶性樹脂用流動性向上剤。 結晶性樹脂中に請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の水不溶性ニグロシンを含有することを特徴とする結晶性樹脂組成物。 結晶性樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂又はポリフェニレンスルフィド樹脂である請求項9記載の結晶性樹脂組成物。 結晶化温度が、水不溶性ニグロシンを含有しない元の熱可塑性樹脂に比し7℃以上低い請求項9又は10記載の結晶性樹脂組成物。 繊維状補強材を含有する請求項9、10又は11記載の結晶性樹脂組成物。 含有する水不溶性ニグロシンをニグロシンに代えた結晶性樹脂組成物に比し流動性が高い請求項12記載の結晶性樹脂組成物。 アニリンブラックを含有する請求項9、10、11、12又は13記載の結晶性樹脂組成物。 カーボンブラックを含有する請求項9、10、11、12、13又は14記載の結晶性樹脂組成物。 結晶性樹脂中に、繊維状補強材及び請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の水不溶性ニグロシンを含有してなり、前記水不溶性ニグロシンをニグロシンに代えた繊維強化結晶性樹脂成形物に比し表面光沢度が高いことを特徴とする繊維強化結晶性樹脂成形物。 結晶性樹脂中に請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の水不溶性ニグロシンを含有させることにより、その結晶性樹脂の結晶化温度を水不溶性ニグロシンを含有しない元の熱可塑性樹脂に比し7℃以上低下させることを特徴とする結晶性樹脂の結晶化温度低下方法。 結晶性樹脂中に請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の水不溶性ニグロシンを含有させることにより、その結晶性樹脂の流動性を水不溶性ニグロシンを含有しない元の熱可塑性樹脂に比し向上させることを特徴とする結晶性樹脂の流動性向上方法。 結晶性樹脂中に繊維状補強材を含有する請求項18記載の結晶性樹脂の流動性向上方法。 結晶性樹脂中に請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の水不溶性ニグロシンを含有させることにより、その結晶性樹脂の表面光沢度を水不溶性ニグロシンを含有しない元の熱可塑性樹脂に比し向上させることを特徴とする結晶性樹脂の表面光沢度向上方法。 結晶性樹脂中に繊維状補強材を含有する請求項20記載の結晶性樹脂の表面光沢度向上方法。 ニグロシンの硫酸および/または燐酸による塩であって、当該塩が、ニグロシンの塩酸塩が硫酸および/または燐酸で処理されて得られたものである水不溶性ニグロシンを有効成分とする結晶性樹脂用着色剤。