タイトル: | 特許公報(B2)_ジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩またはその水和物およびその製法 |
出願番号: | 1999145235 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | C07C 229/16,C07C 227/18,C07C 227/42,C07C 229/76,B01J 31/04,C07B 61/00 |
南部 信義 中村 淳 伊藤 博 JP 4227701 特許公報(B2) 20081205 1999145235 19990525 ジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩またはその水和物およびその製法 中部キレスト株式会社 596148629 キレスト株式会社 592211194 植木 久一 100075409 小谷 悦司 100067828 南部 信義 中村 淳 伊藤 博 20090218 C07C 229/16 20060101AFI20090129BHJP C07C 227/18 20060101ALI20090129BHJP C07C 227/42 20060101ALI20090129BHJP C07C 229/76 20060101ALI20090129BHJP B01J 31/04 20060101ALI20090129BHJP C07B 61/00 20060101ALI20090129BHJP JPC07C229/16C07C227/18C07C227/42C07C229/76B01J31/04 ZC07B61/00 300 C07C 1/00-409/44 B01J 31/00-31/40 C07F 1/00-19/00 CA(STN) CAplus(STN) JSTPlus(JDreamII) JST7580(JDreamII) 特表平10−511934(JP,A) 特表平10−509961(JP,A) Reaction Kinetics and Catalysis Letters,1992年,Vol.46 No.1,145-151 Journal of Chemical Research,1986年,4,130-131(S), 1001-1032(M) Journal of Molecular Catalysis,1988年,Vol.44 No.1,117-127 4 2000327646 20001128 8 20060517 安藤 達也 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、水溶性であり且つ大気雰囲気中や水溶液状態でも安定な新規ルテニウム錯体化合物であるジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩およびその水和物とその製法に関するものである。【0002】【従来の技術】金属ルテニウムは、白金族に属する銀白色の硬くて脆い貴金属であり、現在では主としてニッケルや銅などを電気精錬する際に、電解槽中に沈殿するアノードスライムから白金を抽出するときの副産物として得ている。この金属ルテニウムは、酸素の不存在下では全ての酸に不溶で非常に優れた耐食性を有しているため、耐食性防護金属層として用いられている。【0003】また、ルテニウム酸化物のうち最も安定種である酸化ルテニウム(IV)[RuO2]も、酸に対する性質は金属ルテニウムと同様である。このルテニウムは、白金やパラジウムなどに対して硬質化作用を有する元素としても知られており、例えばPd−4.5%Ru合金は装飾用貴金属として、またPt−10%Ru合金は装飾用や電気接点材料として、更にOs−Ru合金は万年筆のペン先材料などとして使用されている。【0004】また白金族元素には、水素化、酸化、脱水素、カルボニル化などに優れた触媒作用を示すものが多く、ルテニウムも金属または錯体として種々の反応で優れた触媒作用を示すことが知られている。例えば金属ルテニウムは、アンモニア合成、あるいは一酸化炭素の如き無機物の水素化触媒、カルボニル化合物や芳香族化合物の如き有機物に対する水素化触媒としてもに高活性を示すことが確認されている。またルテニウム錯体では、不飽和結合の水素化を行なう際に優れた活性や選択性を示すものや、一酸化炭素が関与する水素化反応に触媒作用を有するものも知られている。【0005】更にルテニウムは様々の錯体を形成することが知られており、その代表としてルテニウム赤と呼ばれる[(NH3)5RuIII-O-RuIV(NH3)4-O-RuIII(NH3)5]6+の塩化物は、水に溶けて強い赤色を呈し、酸化還元指示薬や生体組織の染色などに用いられている他、最近では半導体分野での利用も検討されており、その需要は今後ますます増大していくものと予測される。【0006】ところで、従来のルテニウム化合物のうちハロゲン化物や錯体化合物の多くは水に溶解することが知られているが、ハロゲン化物は吸湿性で取扱い性に難があり、また水溶液中では不安定で加水分解により黒色の水酸化物に変質したり、オキシハロゲン化物とハロゲン化水素に分解する。また錯体化合物は、空気中では安定なものも多数知られているが、概して水溶液中では不安定で長期保存性に欠ける。【0007】【発明が解決しようとする課題】本発明はこうした状況の下でなされたものであって、その目的は、水溶性で取扱い性が良好である他、空気中及び水溶液中でも安定で長期保管に耐える新規ルテニウム錯体化合物またはその水和物とその製法を提供することにある。【0008】【課題を解決するための手段】上記課題を解決することのできた本発明のルテニウム錯体化合物とは、下記式(1)で示されるジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩またはその水和物である。【0009】【化2】【0010】また本発明の製法は、上記式(1)で示されるジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩またはその水和物を製造する方法であって、ジエチレントリアミン五酢酸と、水に可溶なルテニウム塩を水溶媒中で固液反応させ、得られるスラリーを固液分離した後、固相部をアンモニア水溶液に溶解することによって錯体化合物とし、或いは固相部をアンモニア水溶液に溶解した上記溶液から、ジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩の水和物を晶析させてジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩水和物の結晶として取得し、もしくは上記で得られる水和物の結晶を加熱乾燥し、ジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩を無水物として取得するところに要旨を有している。【0011】【発明の実施の形態】本発明者らは上記の様な課題の下で、水溶性で且つ大気中や水溶液状態での安定性に優れたルテニウム錯体化合物を提供すべく、特に水溶液液中で安定なキレート錯体を形成し易いポリアミノカルボン酸系キレート剤を用いて様々の角度から研究を進めてきた。【0012】その結果、ジエチレントリアミン五酢酸(以下、DTPAと略記する)と水に可溶なルテニウム塩(例えば塩化ルテニウム、臭化ルテニウム等のハロゲン化ルテニウムなど)とを水溶媒中で固液反応させると、高い反応率でDTPA−Ru錯体が生成し、更に該DTPA−Ru錯体をアンモニアでpH調整してから晶析すると、水溶性で且つ大気中および水溶液中でも安定な結晶性の新規ルテニウム錯体化合物が得られることを知り、本発明の完成を見た。【0013】本発明にかかるジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩は、前記式(1)で示される新規な化合物であり、下記恒数によって特定される。(1)分子量:561(2水和物)(2)5%水溶液pH:5.1(3)水に対する溶解度:53重量%(25℃)(4)融点:265℃(分解)(5)ルテニウム含有量:17.9重量%(6)赤外線吸収スペクトル(KBr):(図1)(7)示差熱分析チャート(2水和物):(図2)【0014】本発明のジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩は、大気雰囲気中はもとより、水溶液中でも変質することがなく安定に保存できる。また、水溶液中で酸またはアルカリを加えてpHを変化させても沈殿などを生じることがなく、優れた安定性を有している。【0015】本発明の上記ジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩またはその水和物は、次の様な方法によって製造できる。【0016】まず、水溶媒中でジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)に、塩化ルテニウム(III)水和物の如き水溶性ルテニウム(III)塩を反応させる。この反応系において、DTPAは水に難溶であり、塩化ルテニウム(III)水和物は水に可溶であるため、両者の反応は固液反応となる。ここで用いるルテニウム塩としては、水に可溶なものであれば特に制限されないが、溶解度やDTPAとの反応性などを考慮して最も好ましいのはハロゲン化ルテニウム、中でも塩化ルテニウム(III)や臭化ルテニウム(III)である。【0017】反応温度は60℃〜沸点、より好ましくは80〜100℃の範囲で行われる。反応系の濃度は、懸濁液の攪拌に支障がない限り特に限定されないが、反応の後半期に粘度上昇を生じる傾向があるため、好ましくは固形分濃度で10〜20重量%の範囲とすることが望ましい。反応時間も特に限定されないが、通常は30分〜5時間の範囲が採用される。【0018】この固液反応で生成する固相は淡黄色〜淡緑色を帯びており、水に対する溶解度が非常に小さいため反応液はスラリー状となる。これを濾過や遠心分離などによって固液分離すると、固相のみを得ることができる。【0019】次に、得られた固相をアンモニア水に溶解させて系のpHを5以上、好ましくは5.5〜7.5程度に調整すると、本発明の目的物であるDTPA・Ru・(NH4)2が生成する。pH調整は、アンモニア水の濃度および添加量あるいはアンモニアガスの吹込み量によって行われるが、DTPA・Ru・(NH4)2自体の水溶液pHは約5であり、系のpHが5以上であれば、目的物は過剰のアンモニアを含む水溶液状で得られる。【0020】そして、該アンモニア水溶液を減圧下に濃縮すると、該濃縮工程で過剰のアンモニアが除去されると共に、飽和溶解度を超えた時点でDTPA・Ru・(NH4)2が水和物(通常は2水和物)の結晶として析出し、水和物の結晶として得られる。この時の固液反応、アンモニア水への溶解反応は、反応速度の保持、分解反応抑制の観点から50℃以下で行なうことが望ましい。【0021】減圧下の濃縮で過剰のアンモニアおよび水分を除去することにより生成する結晶を濾取し、結晶をメタノール等で洗浄してから乾燥すると、DTPA・Ru・(NH4)2の水和物が淡黄色の結晶として得られる。【0022】なお減圧濃縮時の圧力は、分解反応の抑制と濃縮効率向上の観点から50〜150mmHgで30〜60℃の範囲とすることが好ましい。このとき目的物質の晶出に、減圧濃縮と冷却晶析を組合わせて行なうことも有効である。またこの目的物質は、上記の様に水和物として晶析することが多く、晶析・洗浄・乾燥の条件によって結晶水の数が変化することもあるが、通常は2水和物として晶析することが多く、また晶析後の乾燥条件によっては目的物を無水物として得ることも勿論可能である。【0023】この様にして得られる本発明のジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩は、大気雰囲気中はもとより、水溶液中でも変質することがなく、安定に保存することができる。また該目的物質の水に対する溶解度は非常に高く、水溶液中で酸またはアルカリを加えてpHを変化させても沈殿等を生じることなく安定に保管できる。【0024】かくして得られるジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩は、例えばアンモニア合成用の触媒、カルボニル化合物や芳香族化合物の水素化触媒等として有効に活用できる他、ルテニウム系金属酸化物セラミックスの製造原料などとして有効に利用できる。【0025】【実施例】以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に包含される。【0026】実施例1500mlのビーカーに、ジエチレントリアミン五酢酸32.65g(0.081×1.02モル)、塩化ルテニウム(III)n−水和物(ルテニウム含量:41.8重量%)19.71g(0.081モル)を入れ、これに水を加えて総量400gとし、攪拌下に液温100℃で1時間反応を行った。反応率は98%であった。得られたスラリーを10℃まで冷却し、不溶物を濾取してから水で十分に洗浄すると、微黄色のウェットケーキ状物が得られた。【0027】このケーキ状物を、水80gを入れた500mlのビーカーに投入してアンモニア水15gを加えると、液pHは7.1となってケーキ状物は完全に溶解した。次にこの溶液を濾過して不溶物を除去した後、100mmHgの減圧下で濃縮して約100gの水を蒸発させ、析出した結晶を濾過してから、水:メタノール=1:5の混合溶媒で洗浄すると、DTPA・Ru(III)・(NH4)2・2H2Oの黄色結晶10.2gが得られた。収率は22%であり、該結晶の物性は次の通りであった。【0028】分子量:561.07(2水塩)5%水溶液pH:5.10溶解度(25℃):53%融点:265℃(分解)赤外線吸収スペクトル(KBr):図1示差熱分析:図2ルテニウム含有量:17.9重量%なお上記ルテニウム含有量は、理論値の分子量から算出される値に対して99.53%であり、誤差は実験誤差の範囲内であった。【0029】【発明の効果】本発明は以上の様に構成されており、水溶性で且つ空気中及び水溶液中でも安定である結晶性の新規化合物であるジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩を提供し得ることになった。そしてこの新規化合物はアンモニア合成の触媒、カルボニル化合物や芳香族化合物の水素化触媒、更にはルテニウム系金属酸化物セラミックスの製造原料等として有効に活用できる。【図面の簡単な説明】【図1】実施例で得たジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩の赤外線吸収チャートである。【図2】実施例で得たジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩2水和物の示差熱分析チャートである。 下記式(1)で示されることを特徴とするジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩またはその水和物。 ジエチレントリアミン五酢酸と、水に可溶なルテニウム塩を水溶媒中で固液反応させ、得られるスラリーを固液分離した後、固相部をアンモニア水溶液に溶解することを特徴とするジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩の製法。 固相部をアンモニア水溶液に溶解した前記溶液から、ジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩の水和物を晶析させ、ジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩水和物の結晶として得る請求項2に記載の製法。 請求項3に記載の水和物を加熱乾燥し、ジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩を無水物として得るジエチレントリアミン五酢酸ルテニウム二アンモニウム塩の製法。