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タイトル:特許公報(B2)_無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液及びその製造方法並びにそれを用いるタンパク質の合成方法
出願番号:1999046379
年次:2006
IPC分類:C12P 21/00,C12N 15/09


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遠藤 弥重太 JP 3753358 特許公報(B2) 20051222 1999046379 19990224 無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液及びその製造方法並びにそれを用いるタンパク質の合成方法 株式会社セルフリーサイエンス 503094117 庄司 隆 100088904 遠藤 弥重太 20060308 C12P 21/00 20060101AFI20060216BHJP C12N 15/09 20060101ALI20060216BHJP JPC12P21/00 CC12N15/00 A BIOSIS/WPI(DIALOG) CA(STN) REGISTRY(STN) JSTPlus(JOIS) 特開平07−203984(JP,A) 国際公開第98/02532(WO,A1) 特開平10−80295(JP,A) Planta,Vol.197,No.4(1995)p.633-640 9 2000236896 20000905 12 20041006 特許法第30条第1項適用 平成10年8月25日 社団法人日本生化学会発行の「生化学 第70巻 第8号」に発表 高堀 栄二 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、無細胞タンパク質合成用の胚芽抽出液及びその調製法並びにそれを用いるタンパク質の合成方法に関し、生体組織や細胞の損傷時に発動する自己タンパク質合成反応阻害機構、すなわち、生理的に備わった対病原自己防御機構としての自己タンパク質合成反応破壊機構を除去する技術、破砕に伴って誘起されるタンパク質合成反応阻害活性を中和する技術によって、合成効率の高い無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液を調製する方法に関する。【0002】【従来の技術】一般的に無細胞タンパク質合成系は、ペプチド合成反応速度と翻訳反応の正確性においては生細胞に匹敵する性能を保持しているものの、合成効率が生細胞のそれの0.1%〜1%以下と低いという欠点がある。今日、利用されている無細胞タンパク質合成系は、大腸菌、コムギ胚芽や家兎網状赤血球由来の系が主流で市販もされているが、いずれもこのタンパク質合成効率が低いという欠点から、放射性同位体標識法や免疫学的方法と組み合わせて遺伝子翻訳産物の分析手段としての利用に限られ、タンパク質の調製手段としては殆ど利用されていない(in Transcription and Translation: A practical approach; B. D. Hames, S. J. Higgins, Eds.; IRL Press: NewYork, 1984)。【0003】無細胞系におけるタンパク質合成の効率低下現象の発生原因については、次の三つの可能性に分けて考えることができる。すなわち、(1)生物体からの細胞液抽出操作に伴うタンパク質合成因子の活性低下、(2)in vitro合成反応中に、タンパク質合成に関与する種々因子の活性や基質濃度の低下、(3)1と2で生じる結果が複合して翻訳活性が低下する、などである。これまで、無細胞タンパク質合成系の効率化に関して多くの研究がなされてきたが、スピリン(A. S. Spirin)らは、従来の方法で調製した無細胞系に、原料であるアミノ酸とATP、GTPを限外ろ過膜を介して連続的に供給することによって(連続式無細胞系)、上記いずれの無細胞系においても反応時間を20時間以上にわたって持続させることに成功し、従来の20倍を越えるタンパク質合成収量を達成した(A. S. Spirin et al. (1988), Science, 242, 1162-1164 )。一般に無細胞反応液におけるリボソームなどタンパク質合成因子の濃度は、生細胞中に比べて10%前後と低いが、横山らは濃縮した大腸菌抽出液を含む反応液を透析膜を用いる連続式無細胞合成を試み、CATやRasなど比較的小分子のタンパク質を反応系1ml当たり3−5mgの高収量で合成することに成功している(木川ら、第21回日本分子生物学会、WID6)。これらの成果は上記(2)の可能性の内の、基質濃度の低下が、無細胞系におけるタンパク質合成効率低下現象の一因であることを示している。言い換えると、連続系による効率化は、アミノ酸やエネルギー源の低下を防ぐ(反応中の基質濃度低下には混在するそれら基質の代謝酵素群も関与すると考えられる)と同時に、AMPやGMPなどの代謝産物の蓄積を排除ることによって、タンパク質合成効率が上昇したものと説明できる。【0004】一方、ヒマ種子に含まれる細胞毒素タンパク質である、ライシンのリボソーム不活性化機構の研究から、植物の産生している一群の”抗ウイルスタンパク質”がライシンA 鎖と同一のRNA N-グリコシダーゼであることが判明している(Y. Endo et al. (1988) Biochim. Biophys. Acta, 954, 224-226)。すなわち、この酵素は、リボソームに作用し、その大RNA ( 大腸菌では23S rRNA、真核生物では28S rRNA)のペプチド鎖伸長因子の結合する特定部位の1個のN-グリコシド結合の加水分解を触媒するリボソーム不活性化酵素(RIP )で、この反応の結果、リボソームは1分子のアデニンの解離によってペプチド鎖伸長機能を消失する(Y. Endo et al. (1992), TIBS, 17, 266-269)。コムギ種子の胚乳にはトリチンと名付けられたRNA N-グリコシダーゼが大量に存在する(W. K. Roberts et al. (1989) Biochemistry, 18, 2615-2621 )。一方、抗菌物質として単離されたチオニンと呼ばれるタンパク質がムギをはじめ、植物界に広く分布することが知られていたが、最近コムギチオニンが胚乳に局在すること、およびこのタンパク質が翻訳開始反応を阻害することによって、タンパク質合成を強く阻害することが明らかにされた(J. Brummer et al. (1994) Eur. J. Biochem., 219, 425-433, P. Hughes et al. (1997) Plant Physiol., 114, 1568)。【0005】そこで、上記(1)の改善手段として、特開平7−203984号公報には、無細胞タンパク質合成系において、細胞破壊に伴って誘発される活性阻害因子であって、核酸合成及び/又はタンパク質合成の活性を阻害する因子である活性阻害因子の活性化を抑制することにより、反応効率上昇させたタンパク質の合成方法が記載されている。この公報では、活性阻害因子の活性化を抑制する方法として、それをタンパク質合成系から除去する手段、タンパク質合成系内でその活性化を阻害する手段が例示されているが、一般にタンパク質合成系から活性阻害因子を選択的に除去することは困難であることから、特異的阻害剤を使用する手段を推奨している。具体的には、コムギ胚芽に存在するトリチンと呼ばれる阻害因子をトリチン抗体によって抑制している。【0006】【発明が解決しようとする課題】従来、無細胞タンパク質合成用のコムギ胚芽の調製は、エリクソンとブローベルら(A. H. Erikson and G. Blobel(1983), Methods in Enzymol., 96, 38-50 )の方法によって行われていた。しかし、後述する参考例からも明らかなように、従来法による胚芽単離では、阻害物質であるトリチンを含む胚乳の混入が不可避であった。このため、調製直後の胚芽抽出液で既に7%、保温4時間後では25%のリボソームが脱アデニン化され、活性が低下していた。本発明の目的は、タンパク質合成反応を阻害する内因性の特異的阻害物質(トリチンなど)を非常に実用的で効率的な方法により排除した高効率の無細胞タンパク質合成用細胞抽出液を調製する技術を開発することにある。【0007】【課題を解決するための手段】本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、コムギ種子の特異的阻害物質(リボソーム不活性化物質)が胚乳に局在し、機械的、化学的処理により排除可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、植物種子の胚乳を含まないことを特徴とする無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液、及び、水溶液中で超音波処理することにより胚乳を含まない胚芽を得ることを特徴とするその製造方法、並びに、該胚芽抽出液を使用するタンパク質の合成方法に存する。【0008】【発明の実施の形態】本発明の胚芽抽出液は、胚乳部分をほぼ完全に除去した胚芽を使用することを特徴とするものである。前述したように、従来のいわゆる「胚芽抽出液」は胚乳部分が十分に除去されておらず、内因性の特異的阻害物質を含んだままの状態のものであった。本発明の胚芽抽出液を調製するためには、内因性の特異的阻害物質を含む胚乳をほぼ完全に取り除き、胚芽を純化する必要がある。本発明において、胚乳を含まない胚芽抽出液とは、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳部分を取り除いた胚芽抽出液のことである。また、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度とは、リボソームの脱アデニン化率が7%未満、好ましくは1%以下になっていることをいう。【0009】本発明に使用することができる植物種子としては、通常コムギ、オオムギ、イネ、コーン及びホウレンソウから選択される植物の種子が挙げられる。これらの中でも、本発明に好適な植物種子として、コムギ、オオムギまたはイネが挙げられ、特に好適なものとしてコムギが挙げられる。更に、コムギ胚芽粒子を、小粒(0.71〜0.85mm)、中粒(0.85mmより大きく、1mmまで)、軽粒(中粒で、かつ軽量)の3種に分別した場合には、小粒の胚芽が最もタンパク質合成活性が高く、好ましい。本発明の胚芽抽出液を調製するためには、まず粗胚芽画分を得る。この粗胚芽画分を選るには、従来胚芽抽出液調製に使用されていた方法を使用可能であり、例えば、植物種子を機械的に破砕し、胚芽を集め、浮選、種皮の吸着除去を行うことにより、粗胚芽画分を得ることができる。【0010】本発明では、胚芽の純化するために、この粗胚芽画分を更に処理する。この処理方法としては、粗胚芽画分の分散した水溶液を超音波処理する方法が挙げられる。また、胚芽の純化処理の際に高濃度のアミノ酸、界面活性剤、フォルマイシン5’−フォスフェート(Formycin 5’−phosphate;以下、5’FMP)等存在下で調製することにより高濃度胚芽抽出液可溶性画分を得、これを用いてタンパク質合成を行うと、更に高効率でタンパク質合成を行うことができる。【0011】本発明の胚芽抽出液は、いわゆる無細胞タンパク質合成系に使用することができる。本発明の無細胞タンパク質合成系によるタンパク質の合成は、胚乳を含まない胚芽抽出液を使用する点を除き、従来と同様の方法で行うことができる。この方法は、公知のバッチ法であってもよいし、前記したSpirinらの連続式無細胞系タンパク質合成システムのようなアミノ酸、エネルギー源の連続供給系であってもよい。バッチ法ではタンパク質合成を長時間行うと反応が停止することがあるため、後者のアミノ酸、エネルギー源の連続供給系を使用することにより、反応を長時間維持させることができ、更なる効率化が可能となる。また、連続供給系でタンパク質を合成する場合には、透析法を使用することもできる。例えば、本発明の胚芽抽出液を透析内液に、エネルギー源やアミノ酸を含む混合液を透析外液に用いた限外濾過膜透析系では、タンパク質を連続的に大量調製することが可能である。ここで、エネルギー源としては、ATP、GTP、クレアチンリン酸等が挙げられ、アミノ酸としては20種のL型アミノ酸が挙げられる。【0012】以下、本発明について、コムギ胚芽の系を例に更に詳細に説明する。本発明者らは、混入する胚乳由来の物質を除去することを目的としてコムギ種子からミルを用いて分離した粗胚芽画分の洗浄方法を検討した。その結果、5’FMPなどを含む水溶液に分散した粗胚芽画分を超音波処理することによって、胚乳由来のタンパク質の胚芽画分への混入をほぼ完全に除外することが可能となった。図2Aには、抗トリチン抗体を用いたイムノブロット法で、トリチンを指標として、超音波洗浄前後の胚乳タンパク質の混入度を検定したものであるが、超音波洗浄によってトリチン含量が検出限度以下になっていることが分かる。この洗浄胚芽を材料として調製したコムギ胚芽無細胞タンパク質合成系においては、リボソームの脱アデニン化は認められない(図2B)。結果は示さないが、胚乳に局在することが知られている、チオニンの混入程度をトリチンの場合と同様な方法で調べたところ、本超音波洗浄法によって胚芽画分からほぼ完全に除去されていることが明らかとなった。【0013】このような精製胚芽を用い、ジヒドロ葉酸還元酵素( Dihydrofolate reductase;以下、DHFR)をコードするmRNAをモデル鋳型としバッチ式無細胞タンパク質合成を試みたところ、従来の方法により単離した胚芽を用いる無細胞系と比較して、著しく合成反応持続時間が延長し、合成効率が上昇した(図2C)。この結果は、洗浄によって、トリチンやチオニン等の内因性タンパク質合成阻害因子の胚芽画分への混入を排除したことに起因するものと説明できる。【0014】このようにして得たコムギ胚芽画分には、種皮の断片や種々の胚芽粒子サイズのものが含まれている。そこで、胚芽粒子サイズ等によって無細胞タンパク質合成活性に差があるのではないかと考え、後述する実施例1に示すように、篩いと静電気帯電体を用いて、小粒、中粒、軽粒の3画分に分別し、各々の活性を測定した。図3に示したように、小粒胚芽が最も高い無細胞タンパク質合成活性を保持していることが分かった。以下の実験にはこの小粒胚芽から無細胞系を調製した。この系は、ポリリボソームパターン分析が示すように、反応開始1時間後には60%のリボソームがポリリボソームを形成し、2時間後には、少なくとも反応系のリボソームの67%がポリリボソームを形成していることが分かり、これは従来の方法(図4D)の約10倍である。低濃度のシクロヘキシイミドは翻訳開始反応よりも伸長反応を特異的に阻害することが知られているが、0.2mMシクロヘキシイミド存在下にタンパク質合成反応を行うと、リボソームの78%がポリリボソームを形成する(図4C)。これらの結果は、翻訳開始反応活性およびペプチド鎖伸長活性ともに、著しく上昇したこと、さらに、この系においては、リボヌクレアーゼ活性が極めて低いことも示している。図5は、反応液をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離後、クマシーブリリアントブルー染色したものであり、図中の矢印は合成されたDHFRを示している。バンドのデンシトメトリックな定量から、合成されたタンパク質は、反応容量1ml当たり2時間の反応で0.2mgと見積もられ、従来の市販キットに比べると著しく高い翻訳効率を達成していることが分かった。【0015】次に、胚芽抽出液調製方法の検討をおこなった。アミノアシルtRNA合成酵素の多くの種類はtRNAやペプチド鎖伸長因子などと共に細胞内では、超分子複合体としての機能構造をとっているものと考えられている(B. S. Negrutskii et al. (1991), Proc. Natl.Acad. Sci. USA, 88, 4991-4995)。そこで、NP−40など種々の界面活性剤や高濃度のL型20種類のアミノ酸を含む溶液を用いた胚芽抽出液の組成について、タンパク質合成能との関係について検討した。図6に示したように、両者とも単独添加で有意にタンパク質合成の促進効率を示すが、併用によってさらに顕著な効果が認められることが分かった。【0016】以上、コムギ胚芽を実例として、高効率無細胞タンパク質合成用細胞抽出液の調製方法について示したが、この生命体に備わったタンパク質合成阻害機構の細胞破砕に伴う作動を防止する考え方に基づく技術は、他の植物種子からの高効率無細胞タンパク質合成用細胞抽出液の調製方法の開発にも適応可能である。【0017】【実施例】以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、下記の実施例は本発明についての具体的認識を得る一助とみなすべきものであり、本発明の範囲は下記の実施例により何ら限定されるものではない。【0018】参考例無細胞系におけるタンパク質合成の効率低下現象に対する内因性のタンパク質合成阻害因子の関与を明らかにするために、生物体からの細胞液抽出操作に伴うタンパク質合成因子の活性低下の可能性との関連で、以下の実験を行った。先ず、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系を研究材料として、従来の方法(Erickson, A.H. et al. (1996) Meth. in Enzymol., 96, 38-50 )で胚芽を単離し調製した胚芽抽出液を用いて、翻訳反応中にリボソームの脱アデニン化の有無を酸性下アニリン処理による脱離法(Y. Endo et al.(1987) J. Biol. Chem., 262, 5908-5912, S. Yoshinari et al.(1996) Eur. J. Biochem.,242, 585-591)によって検討した。その結果、図1Aに示したように、調製した直後の抽出液に含まれるリボソームの7%がすでに混在するトリチンによって、脱アデニン化を受けていること。さらに、保温時間とともに脱アデニン化がさらに進行することが明らかとなった。細胞内におけるタンパク質合成は、平均的なmRNAサイズでは10〜20分子のリボソームが結合した、いわゆるポリリボソーム上で効率よく進行している。RNA N−グリコシダーゼによる脱アデニン化によってリボソームはmRNAに完全に固定(フリーズ)されることを考え合わせると、高等動物の平均的なサイズのmRNAの場合、合成系のリボソームポピュレーションの10%の脱アデニン化によって、タンパク質合成反応が完全に停止するものと考えられる。Formycin 5'-phosphate (以下、5’FMP)はRNA N−グリコシダーゼの拮抗阻害剤であるが(J. Ren et al. (1994) Structure, 2, 7-16 )、胚芽抽出液を5’FMP存在下に調製するとともに反応液中にも添加すると、トリチンによるこのリボソームの脱アデニン化反応が、阻止できることが分かった(図1B)。【0019】実施例1 コムギ胚芽の単離ミル、浮選、篩いを用いる種子から無傷(発芽能を有する)の単離方法はJohnstonらの方法(Johnston, F. B. et al. (1957) Nature, 179, 160-161)を改良して用いた。北海道産のチホクコムギ種子(未消毒)を1分間に100グラムの割合でミル(Fritsch 社製Rotor Speed Mill pulverisette 14型)に添加し、回転数8000 rpmで種子を温和に破砕する。これを再度6000 rpmで破砕した後、篩いで粗胚芽画分(メッシュサイズ0.71 mm-1.00 mm )を得た後、四塩化炭素とシクロヘキサン混液(四塩化炭素:シクロヘキサン=2.5:1)を用いた浮選によって、発芽能を有する胚芽を浮上画分から回収し、室温乾燥によって有機溶媒を除去した。この胚芽画分に混在する種皮等の不純物をポリエチレン板などの静電気帯電体を用いて吸着除去した。さらに胚芽粒子を篩と静電気帯電体を用いて、小粒(0.71 mm 〜0.85 mm )、中粒(0.85 mm 〜1 mm)、軽粒(0.85 mm 〜1 mmで且つ軽量)の3画分に分別した。小粒画分が最も高いタンパク質合成活性を示した(図3)。軽粒は、種子破砕時に胚芽に生じた小傷胚芽が浮選操作中に破壊が進行したものであると推察される。次に、この試料からコムギ胚乳成分を完全に除去するため、非イオン性界面活性剤であるNP40の0.5%溶液に懸濁し、超音波洗浄器を用いて、洗浄液が白濁しなくなるまで洗浄を繰り返した。蒸留水の存在下に再度1回の超音波洗浄を行い、コムギ胚芽を純化した。【0020】実施例2 コムギ胚芽抽出液の調製と保存以下のコムギ胚芽抽出液の調製とタンパク質合成溶液の調製は常法(Erickson, A.H. et al. (1996) Meth. in Enzymol., 96, 38-50 )に準じた。以下の操作は摂氏4度で行う液体窒素で凍結した純化コムギ胚芽を乳鉢中で粉砕し、得た粉体1g当たり、1mlのPatterson らの方法を一部改変した抽出溶液(80 mM HEPES-KOH, pH 7.8, 200 mM 酢酸カリウム、2 mM酢酸マグネシウム、4 mM塩化カルシウム、8 mMジチオスレイトール、各1 mM( マイクロM) のタンパク質分解酵素阻害剤である FUT、E-64、PMSFを含む)を加えて、泡が発生しないように注意しながら攪拌した。30k x g 、15分間の遠心によって得られる上清を胚芽抽出液として回収し、あらかじめ溶液(40 mM HEPES-KOH, pH 7.8, 100 mM 酢酸カリウム、5 mM酢酸マグネシウム、4 mMジチオスレイトールで平衡化しておいたセファデッ クスG−25カラム(Coarse)でゲル濾過を行った。試料の濃度を、170 〜250A260nm (A260/A280=1.5)に調製し、また、必要に応じてポリエチレングリコールを脱水剤とした透析法により濃縮した後、小分けして液体窒素中で凍結保存した。尚、図6以下に示した高効率タンパク質合成活性を有する胚芽抽出液の調製には、上記抽出溶液組成の他、0.1% NP-40 と各0.6 mML型20種類アミノ酸を含む溶液を用いた。【0021】実施例3 バッチ式コムギ胚芽無細胞タンパク質合成溶液の調製反応溶液は、容量の20〜60%の胚芽抽出液を含み、上記Ericksonらの方法に準じた以下の成分組成である。1000 units/ml Ribonuclease inhibitor (RNasin), 30 mM HEPES-KOH, pH 7.6, 95 mM potassium acetate, 2.65 mM magnesium acetate,2.85 mM dithiothreitol, 0.5 mg/ml creatine kinase, 1.2 mM ATP, 0.25 mM GTP, 16 mM creatine phosphate, 0.380 mM spermidine, 20種類の L-amino acids (各 0.3 mM)、0.05% NP-40 の他、既に報告した方法(Endo, Y. et al. (1992) J. Biotech., 25, 221-230 )で調製したCAP 付きdihydrofolate reductase mRNA (80 mg/ml反応容量) と50 mCi(ml反応容量当たり)の[U-14C]leucine (166 mCi/mmol) を含む。また、反応液のカリウム、マグネシウム、スペルミジンは、用いる鋳型mRNA種に応じた各至適濃度下で反応を行った。反応は摂氏20〜26度で行った。【0022】実施例4 透析法による連続式コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系の調製連続式コムギ胚芽無細胞タンパク質合成の方法は既報(Endo, Y. et al., (1992) J. Biotech., 25, 221-230)上記実施例1の反応溶液をデスポダイアライザー(Spectra/PorRCE, MWCO:25k, volume: 0.5 ml)に入れ、反応液の10倍容量の透析外液(20 mM HEPES-KOH, pH 7.6, 95 mM potassium acetate, 2.65 mM magnesium acetate, 4 mM dithiothreitol,1.2 mM ATP, 0.25 mM GTP, 16 mM creatinephosphate, 0.380 mM spermidine, 20 種類の L-amino acids (各 0.3 mM), 0.005% NaN3 、 0.05%NP-40, E-64、PMSF各1 mM)に対しての透析系で、反応は摂氏20度で行った。【0023】実施例5 タンパク質の合成以上の方法で得た条件の下に、コムギ胚芽連続式無細胞合成を試みたところ、図7に示すように、分子量5,000〜130,000の種々のタンパク質を効率良く合成することができ、合成効率は反応容量1ml当たり0.3〜1.8mgであった(表1)。【0024】【表1】【0025】実施例において、タンパク質合成活性の分析方法は、上記遠藤らの既報の記載に従って行った。また、14C−ロイシンのタンパク質への取り込み測定法、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による合成タンパク質の分離とクマシーブリリアントブルーによる染色法、及び、蔗糖密度勾配遠心法によるポリリボソームパターン分析法は遠藤らの論文(Endo, Y. et al. (1992) J. Biotech., 25, 221-230 、Endo, Y. et al. (1975) Biochim. Biophys. Acta, 383, 305-315 )の記載に従って行った。【0026】【発明の効果】本発明の無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液はタンパク質の無細胞系での大量調製、たとえば、進化分子工学の分野での新しい酵素や抗体の大量調製に極めて有用である。また、タンパク質のラベル化手法との組み合わせにより、タンパク質の無細胞系での特異的、効率的ラベル化が可能になり、ゲノム機能解析等において、タンパク質−タンパク質相互作用やタンパク質−核酸相互作用を調べるのに有用である。【図面の簡単な説明】【図1】(A) コムギ胚芽無細胞系における脱アデニン化。従来の方法で調製したコムギ胚芽から無細胞タンパク質合成系を調製し、摂氏26度で保温した。経時的に反応液を取りだし、フェノール法によって抽出・精製したRNA をアニリン処理の後、4%ポリアクリルアミドゲル電気泳動によってrRNAを分離し、臭化エチジウムで染色した。ゲル写真中の矢印はアニリンによる脱離反応によって脱アデニン部位でリン酸ジエステルが切断された結果生じる28SrRNAの3’側の断片で、ゲル上部の番号は反応時間(h)を示す。このRNA 断片と5.8S rRNA の蛍光強度比から、あらかじめ作成しておいた標準グラフをもとに、脱アデニン率を計算した。グラフの縦軸は脱アデニン化率(%)、横軸は反応時間(hr)を表す。(B) 5'FMP によるRNA N-glycosidase の阻害(脱アデニン化反応の阻止)。各々の反応時間は5時間である。【図2】超音波洗浄法による胚芽からのトリチンの除去。(A) トリチン含量は胚芽抽出液をSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法を用いてタンパク質を分離後、トリチン抗体(兎)、ヤギ抗兎IgG 抗体ーホースラデイッ シュパーオキシダーゼを利用してトリチンを染色した。レーン1〜4は従来の方法で単離した胚芽、レーン5は新規方法、レーン左端は分子量マーカー。(B) 洗浄胚芽抽出液中のRNA N-glycosidase 活性。種々の抽出液を用いてタンパク質合成系を調製し、反応3時間後の試料について図1A と同様に脱アデニン活性を調べた。レーン1ポジテイブコントロールとして別に精製したトリチンを添加した。レーン2〜5は従来の方法で、また、レーン6〜9は新規方法でそれぞれ単離した胚芽から抽出液を調製した。矢印はアニリンによるb 脱離反応によって脱アデニン部位でリン酸ジエステルが切断された結果生じる28SrRNAの3’側の断片を示す。(C) 洗浄胚芽抽出液を用いたバッチ系におけるタンパク質合成活性。翻訳鋳型は5’CAP 付きDHFRをコードするmRNAを用いた。【図3】胚芽の粒子サイズ等と無細胞タンパク質合成活性。実施例1に示したように、小粒(0.71 mm 〜0.85 mm )、中粒(0.85 mm 〜1mm )、軽粒(0.85 mm 〜1mm で且つ静電気帯電ポリエチレン板に吸引される)の3画分に分別し、各々の無細胞タンパク質合成活性を5’CAP 付きDHFR-mRNA を鋳型として用いて測定した。【図4】蔗糖密度勾配遠心法を用いたポリリボソームパターン分析。タンパク質合成開始、0時間(A) 、1時間(B) 、2時間(C、 D) の反応液を10〜40%直線蔗糖密度勾配遠心にてリボソームを分離した。図中(C) は0.2 mMシクロヘキシイミド存在下にタンパク質合成反応を行った(■--- ■)。(D) は従来の無洗浄胚芽から調製した抽出液を用いる無細胞系。【図5】翻訳産物のSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分析。(A) 電気泳動後、CBB(Coomassie Brilliant Blue) 染色したもの(B) オートラジオグラム。タンパク質合成反応は5’CAP 付きDHFR- mRNAを鋳型として、26度で14Cーロイシンの存在下にそれぞれ、0時間(レーン1)、1時間(レーン3)、2時間(レーン2、4)おこなった。レーン2:市販のキット;レーン3、4:新規方法で単離した胚芽。矢印は翻訳産物を示す。【図6】胚芽抽出液調製方法の検討。胚芽抽出液調製方法について抽出液調製用溶液の組成の観点から検討するため、粉砕胚芽から、【0027】に記載した従来の組成溶液(X---X )、これに終濃度0.05%NP-40 を添加した溶液(◯--- ◯)、20種類L型アミノ酸を各300mM含む溶液(●- - ●)、および、同濃度のNP-40 とアミノ酸を含む溶液(●--- ●)を用いて胚芽抽出液調製し、各々から無細胞系を構築した。いずれのタンパク質合成反応系もNP-40 を含む(終濃度0.05%)こと以外は、図4と同様の方法で反応を行った。【図7】コムギ胚芽連続式無細胞合成系を用いて合成したタンパク質の例。小粒胚芽からNP-40 、アミノ酸混液存在下に調製した抽出液を用いて連続式無細胞合成系を構築し、タンパク質合成をおこなった。反応は20度で18時間保温した後、図5と同様にオートラジオグラフィーで分析した。鋳型RNA はそれぞれ、レーン1:ブロモモザイクウイルス(BMV );レーン2 :DHFR; レーン3:ヒトミトコンドリアmet-tRNA合成酵素;レーン4〜6;プロテアソーム活性化酵素 a、 b、 g。BMV レーンの1〜4及び、矢じりはそれぞれの翻訳産物を示す。 コムギ、オオムギ、イネ、コーン及びホウレンソウのいずれか1由来の胚芽画分から該胚芽画分に混入する胚乳を完全に除去することを特徴とする無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液。 胚乳を完全に除去することが、リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳が取り除かれていることを特徴とする請求項1の無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液。 リボソームが実質的に脱アデニン化されない程度まで胚乳が取り除かれていることが、リボソームの脱アデニン化率が7%未満であることを特徴とする請求項2の無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液。 胚芽画分から該胚芽画分に混入する胚乳を完全に除去する方法が、非イオン性界面活性剤を用いて、胚芽画分を処理することを特徴とする請求項1−3のいずれか1の無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液。 非イオン性界面活性剤を用いて胚芽画分を処理する方法が、超音波処理により、洗浄液が白濁しなくなるまで行うことを特徴とする請求項4の無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液。 さらに、リボソームの脱アデニン化反応を阻止できる物質が添加されていることを特徴とする請求項1−5のいずれか1の無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液。 リボソームの脱アデニン化反応を阻止できる物質が、フォルマイシン 5'−フォスフェート(Formycin 5'−phosphate)であることを特徴とする請求項6の無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液。 請求項1−7のいずれか1の無細胞タンパク質合成用胚芽抽出液を使用する無細胞タンパク質合成方法。 以下のいずれか1による請求項8の無細胞タンパク質合成方法。1)アミノ酸、エネルギー源の連続供給系でのタンパク質合成方法2)透析法でのタンパク質合成方法3)バッチ法でのタンパク質合成方法


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