タイトル: | 特許公報(B2)_サソリ由来神経ペプチド |
出願番号: | 1998529837 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | C07K 14/435,A61K 38/00,A61P 43/00,A61P 37/06 |
ブルーノ・ルブラン レジヌ・ロミ・ルブラン 南方 宏之 中嶋 暉躬 端野 純子 JP 4212651 特許公報(B2) 20081107 1998529837 19971225 サソリ由来神経ペプチド サントリー株式会社 草間 攻 ブルーノ・ルブラン レジヌ・ロミ・ルブラン 南方 宏之 中嶋 暉躬 端野 純子 JP 1996359815 19961226 JP 1997312871 19971030 20090121 C07K 14/435 20060101AFI20081225BHJP A61K 38/00 20060101ALI20081225BHJP A61P 43/00 20060101ALI20081225BHJP A61P 37/06 20060101ALI20081225BHJP JPC07K14/435A61K37/02A61P43/00 111A61P37/06 C07K 14/00 - 14/825 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) CAplus(STN) REGISTRY(STN) UniProt/GeneSeq PubMed JSTPlus(JDreamII) JMEDPlus(JDreamII) JST7580(JDreamII) 国際公開第95/003065(WO,A1) Biochem. J., 1996, 315, p.977-981 Eur. J. Biochem., 1996, 242, p.491-498 Comp. Biochem. Physiol., 1992, 103C(2), p.299-302 Current Pharmaceutical Design, 1996, 2, p.389-396 Neuron, 1995, 15, p.5-10 5 JP1997004810 19971225 WO1998029446 19980709 13 20041215 三原 健治 技術分野本発明は新規な神経ペプチドに関し、さらに詳細には、サソリの一種ヘテロメトルス スピニファー(Heterometrus spinnifer)の毒腺から得られるサソリ毒素関連ペプチドに関する。背景技術サソリは蛛形綱サソリ目に属する節足動物の総称であり、全世界に約600種が生息する。サソリは一般に猛毒の動物であると考えられているが、実際には致命的な毒素を持つサソリは種類が限られており、例えば、アフリカの砂漠に生息するButhus ustralis、メキシコ産のCentruroides exilicaudaや、南ヨーロッパ産のB.occitauda等、数種にすぎない。また、現在までに、種々のサソリ毒素が単離されており(Dreyer.F. Rev.Physiol.Biochem.Pharmacol.,15巻 94−128頁 1990年)、それらは神経毒であると考えられている。これらの毒素の生理作用の研究から、K+チャンネルに対する作用が注目されており、例えば、Centruroides margaritatusの毒腺から得られたマルガトキシン(MgTX,ガルシア−カルボ等,J.Biol.Chem.,268巻 18866−18874頁,1993年)およびLeiurus quinquestriatus herbraesの毒腺から得られたアジトキシン2(AgTX2,ガルシア等,Biochemistry,33巻 6834−6839頁,1994年)は、電圧開閉型K+チャンネルの遮断剤(ブロッカー)であることが知られている。これらはいずれも、分子内に3個のジスルフィド結合を有し、38アミノ酸残基からなるペプチドである。また、最近、分子内に4個のジスルフィド結合を有し、35アミノ酸残基からなるペプチドであるピーアイ1(Pi1,オラメンディ−ポーチュガル等,Biochem.J.,315巻 977−981頁,1996年)も報告されている。一方、T細胞からのIL−2の産生には細胞内へのCa2+の流入が必要であるとされており、最近、活性化に伴うT細胞へのCa2+の流入にはK+チャンネルのひとつであるKv1.3が関与していることが明らかにされた(Leonard等、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89巻 10094−10098頁,1992年)。さらにLin等は、Kv1.3の阻害によりT細胞へのCa2+の流入、増殖およびIL−2産生が抑制されることを報告している(J.Exp.Med.,177巻 637−645頁,1993年)。これらの観点から判断すると、サソリ毒素が所有する種々の生理活性により、このものを医薬等へ応用することが期待できる。しかしながら、サソリ毒素を医薬等に応用するためには、有害な毒性と有用な生理活性とを分離することが必須であり、そのためには、より多くのサソリ毒素を単離し、その構造活性相関を明らかにする必要がある。このような現状に鑑み、新たなサソリ毒素関連ペプチドを提供し、サソリ毒素の医薬等に対する応用に寄与することが、本発明が解決すべき課題である。発明の開示本発明者らは、サソリの一種であるヘテロメトルス スピニファー(H.spinnifer)の毒腺から、アフリカツメガエルの卵母細胞中で発現させたラット脳の電圧開閉型K+チャンネルKv1.3(RCK3とも称される)の阻害活性を指標に、新たなサソリ毒素関連ペプチドを単離すべく鋭意研究を行い、HsTX1と命名した、配列番号1で表され、分子内に4個のジスルフィド結合を有するペプチドを単離・精製して、その一次構造および高次構造を決定するとともに、このHsTX1が、従来報告されているサソリ毒素に比較して、はるかに強いK+チャンネルの阻害活性を示すこと、およびヒト末梢血T細胞によるIL−2産生を抑制することを見いだして本発明を完成した。すなわち、本発明によれば、次のアミノ酸配列:を有し、C末端がアミド化されていてもよく、分子内に0〜4個のジスルフィド結合を有するペプチドを、電圧開閉型K+チャンネルのブロッカーおよびIL−2産生抑制剤として提供することができる。なかでもより具体的態様としては、ジスルフィド結合が、Cys3−Cys24,Cys9−Cys29,Cys13−Cys31およびCys19−Cys34からなる群から選ばれたものである上記のアミノ酸配列を有するペプチドを提供することができる。さらに本発明は、その最も好ましい態様として、C末端がアミド化されており、分子内に4個のジスルフィド結合を有し、その結合がCys3−Cys24,Cys9−Cys29,Cys13−Cys31およびCys19−Cys34にある上記のアミノ酸配列を有するペプチドを提供することができる。【図面の簡単な説明】第1図は、ラットKv1.3チャンネルに対する本発明のペプチドの濃度依存的な阻害活性を示す図である。図中、白丸(○)は天然体HsTX1の活性データを、黒四角(■)は合成HsTX1の活性データを、また黒三角(▲)はC末端がカルボン酸であるHsTX1−COOHの活性データを示す。第2図は、PMAおよびionomycinで刺激したヒト末梢血T細胞のIL−2産生に対するHsTX1の濃度依存的な阻害活性を示す図である。発明を実施するための最良の形態本発明のペプチドは、例えば、サソリの一種であるヘテロメトルス スピニファー(H.spinnifer)をはじめ、本発明のペプチドを含有するサソリから毒腺を摘出し、これを例えば0.5M程度の酢酸でペプチドを抽出して粗抽出物を得る。次いで、この粗抽出物から、通常、ペプチド精製に用いられるイオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー等を用いて分離・精製することにより得ることができる。本発明のペプチドのうち、天然由来のペプチドであるHsTX1は、(1)アミノ酸配列から、分子内に8個のCys残基が存在すること。(2)質量分析のデータから、ペプチドが単量体で存在すること。(3)得られた分子量のデータが、C末端がアミド化され、分子内に4個のジスルフィド結合が存在するとして計算した分子量のデータと一致すること。以上の3点から、C末端がアミド化され、分子内に4個のジスルフィド結合が存在することが明らかである。本発明のペプチドにおけるジスルフィド結合の数およびその結合位置は特に限定されない。本発明のペプチドのなかでも、天然由来のペプチドは、後記する実施例からも明らかなように、ジスルフィド結合を4個有し、その結合位置がCys3−Cys24,Cys9−Cys29,Cys13−Cys31およびCys19−Cys34にあることが判明した。この天然体のペプチドは、ジスルフィド結合を含まないペプチドに無作為に4個のジスルフィド結合を導入した後、天然体と一致するペプチドを精製することにより得ることができる。ジスルフィド結合を含まないペプチドの合成は、通常のペプチド合成機(例えば、アプライド・バイオシステム社製433A型ペプチド合成機)を用いる固相法によるのが簡便であり、ジスルフィド結合の導入には、空気酸化、フェリシアン化カリウムによる酸化(Hopeら J.Biol.Chem.,237巻 1563−1566頁 1962年)等の酸化反応を用いることができる。また、ジスルフィド結合を導入したペプチドから、天然体と一致するペプチドを精製するには、例えばC−18逆相高速液体クロマトグラフィー(C−18HPLC)で、保持時間が天然体と一致する画分を単離する方法を用いることができる。また本発明のペプチドは、常法に従って、遺伝子組換え技術を適宜応用することにより得ることもできる。上記する合成法によれば、一次構造が同一でありながら、ジスルフィド結合の数および様式が、天然体とは異なるペプチドも得ることができる。したがって、配列番号1で表され、分子内に0〜4個のジスルフィド結合を有し、その結合様式が分子内の任意の箇所のCys同士でジスルフィド結合したペプチドである限り、これらペプチドも本発明の技術的範囲に包含される。さらにまた、このようなペプチドは、本発明の天然体のペプチドと同様の生理活性を有する限りにおいて、そのアミノ酸の一部欠失、置換、付加があるペプチドであっても、本発明の電圧開閉型K+チャンネルに対する遮断作用物質およびIL−2産生抑制剤であるペプチドとしての技術的範囲に包含される。なお、後述する評価例2に示すように、C末端がカルボン酸であるペプチドもK+チャンネルに対する阻害活性を有するものであり、したがって、かかるC末端がカルボン酸であるペプチドも本発明の技術的範囲に包含される。本発明のペプチドのなかでも、天然体のペプチドは、分子内に4個のジスルフィド結合を有し、34個のアミノ酸残基からなる神経ペプチドの最初の例であり、アフリカツメガエルの卵母細胞中で発現させたラット脳のKv1.3電圧開閉型K+チャンネルを、極めて低濃度で遮断し、ヒト末梢血T細胞によるIL−2産生を抑制する。したがって、本発明が提供するペプチドおよびその類縁体は、サソリ毒素関連ペプチドの神経生理学における生化学試薬としての用途のみならず、医薬、動物薬への適応にも繋がるものと考えられる。医薬への応用の例としては、臓器移植、GVHD(移植片対宿主病)、自己免疫疾患などへ適応される免疫抑制剤としての活用をあげることができる。本発明のペプチドを医薬品として用いる場合には、その投与形態は特に限定されず、経口的あるいは非経口的のいずれであってもよい。そのような投与剤形としては、例えば、注射剤、輸液、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、腸溶剤、吸入剤、トローチ剤、軟膏剤、坐剤、舌下錠等の製剤上の各種剤形ををあげることができ、これらの製剤を症状に応じてそれぞれ単独で、または組み合わせて使用することができる。また、これらの製剤化にあっては、目的に応じ、それ自体公知の方法に従って賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤など医薬の製剤技術分野において通常使用し得る既知の補助剤を適宜用いて行うことができる。なお、本発明のペプチドを医薬としてヒトに投与する場合の有効投与量は一概に限定されず、その有効活性の程度、投与すべき対象患者の年齢、性別、体重等ならびに対象疾患の症状等により異なる。しかしながら、通常、成人に対して経口投与の場合には、1日あたり0.1〜100mgの範囲内で、また非経口投与の場合には、1日当たり0.01〜10mgの範囲内で適宜選択することが可能である。実施例次に実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲はこれらのみに限定されるものではない。実施例1.HsTX1の精製a.粗抽出ヘテロメトルス スピニファー(H.spinnifer)の毒腺の凍結乾燥物50mg(フランス・ラトキサン社より入手)を、約5mlの0.5M酢酸でホモジナイズし、3,000×gで20分間遠心分離した。沈殿は同様にホモジナイズ後遠心分離する操作を3回繰り返し、得られた上清を孔径0.45μmのフィルターで濾過して、粗抽出液を得た。b.逆相カラムクロマトグラフィー(1)上記aで得られた粗抽出液の原料換算12.5mg分を1バッチとして、Capcell pak C18 SG−120(資生堂,φ10×250mm)を用いるC−18HPLCに付し、流速3ml/minで、0.1%TFA水溶液(pH2.2)中で6分間展開した後、0.1%TFA水溶液中、100分間で0%から50%のアセトニトリルの直線濃度勾配で溶出し、230nmのUV吸収でモニターしながら、ピークを示す画分を分取した。得られたフラクションを、アフリカツメガエルの卵母細胞中で発現させたラット脳のKv1.3電圧開閉型K+チャンネルの阻害活性を指標に分画し、保持時間38分〜41分に溶出された活性画分を集めた。c.陽イオン交換カラムクロマトグラフィー次いで、上記bで得られた活性画分を、pH6.8の10mMリン酸ナトリウム緩衝液に溶解し、TSK−gel SP−5PW(東ソー,φ7.5×75mm)を用いる陽イオン交換カラムクロマトグラフィーに付し、流速0.5ml/minで、10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.8)中で5分間展開した後、80分間で0Mから0.80MのNaClの直線濃度勾配で溶出し、230nmのUV吸収でモニターしながら、ピークを示す画分を分取した。ステップbと同様にアッセイし、保持時間64分〜69分に溶出された活性画分を集めた。d.逆相カラムクロマトグラフィー(2)上記cで得られた活性画分を、RP−HPLC C18カラム(メルク社製,リクロスフェアー100オングストローム,ビーズサイズ5μm,φ4×125mm)を用いるHPLCに付し、流速1.0ml/minで、0.1%TFA水溶液(pH2.2)で3分間展開した後、0.1%TFA水溶液中、35分間で5%から18%までの溶媒B(2−プロパノール:アセトニトリル=2:1の混液)の直線濃度勾配で、230nmのUV吸収でモニターしながら溶出した。HsTX1は、保持時間27.5分の箇所にシングルピークとして溶出された。この分画を集めて凍結乾燥し、合計で130μgのHsTX1を得た。実施例2.HsTX1の製造決定a.アミノ酸組成の測定得られたHsTX1を、減圧下封管中で定沸点6N−HClを用いて110℃、20時間処理して加水分解し、アミノ酸分析器を用いてアミノ酸組成を測定した。得られたアミノ酸組成を、下記の表1に示す。b.アミノ酸配列の決定ステップ1.ジスルフィド結合の還元と修飾HsTX1は、20%のn−プロパノールを含む0.5M重炭酸バッファー(pH8.3)中、ジスルフィド結合に対して5当量のトリブチルホスフィンと、トリブチルホスフィンに対して2当量の4−ビニルピリジンを用いて、窒素気流中、37℃で遮光下に2時間反応させて、Cys残基をS−ピリジルエチル化(PE化と略記する)した。得られたPE化ペプチドは、RP−HPLC C18カラム(メルク社製,リクロスフェアー100オングストローム,ビーズサイズ5μm,φ4×125mm)を用いるHPLCに付し、流速1.0ml/minで、55分間に,0.1%TFA/水の混液中、アセトニトリルの5%から60%の直線濃度勾配で、精製した。ステップ2.アミノ酸配列の決定上記ステップ1で得られたPE化ペプチドは、島津PPSQ10型アミノ酸シーケンサー(島津製作所製)を用いてアミノ酸配列を決定した。その結果、HsTX1は配列番号1のアミノ酸配列で示され、分子内に4個のジスルフィド結合を有するペプチドであることが判明した。ステップ3.分子量の測定MS−MALDI−TOFにより測定されたHsTX1の分子量は、3815.63であり、この結果は、配列番号1のアミノ酸配列で示され、C末端がアミド化され、分子内に4個所のジスルフィド結合を有するとして計算した分子式、C149H246N54O46S9の分子量である3815.61と良く一致した。ステップ4.ジスルフィド結合位置の決定a)部分的還元的アルキル化および配列の決定HsTX1の部分的還元的アルキル化を、Jones等の方法(Rapid Commun.Mass Spectrum.,10巻 138−143頁 1996年)を若干修飾して行った。すなわち、上記で得られた2〜3ナノモルのHsTX1の0.1M酢酸アンモニウム/アセトニトリル溶液(90:10,pH4)25μl溶液を、2モル当量のトリス−(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)で、50℃にて10分間インキュベートした。次いで、100モル当量の過剰量のN−フェニル−マレイミドを加え、50℃にて30分間反応を行った。反応混合物に200μlの0.1%TFA水溶液を加えた後、逆相C18−HPLC(メルク社製,リクロスフェアー,φ4×125mm)に付し、0.1%TFA水溶液中、流速1ml/minで、80分間で5%から45%までのアセトニトリルの直線濃度勾配で溶出した。MS−MALDI−TOFによる測定で、モノ還元−ジアルキル化されたペプチドが得られ、このものをさらに還元的アルキル化を行うことなく、配列決定を行なった。その結果、部分的還元的アルキル化されたペプチドのMS−MALDI−TOFによる測定では、分子内の1つのジスルフィド結合が還元され、かつアルキル化された遊離のシステイン残基の存在が確認された。エドマン分解(Edoman degradation)により変換された3−フェニル−2−チオヒダントイン(PTH)でのシステイン残基は、HPLCにより19位および34位にあると同定された。これらの結果から、HsTX1に存在する1つのジスルフィド結合は、Cys19−Cys34にあると判定された。b)酵素による分解一方、HsTX1のトリプシンによる分解を、Poroszyme(登録商標)固定化トリプシンカートリッジ(パーセプティブ バイオシステム製,アメリカ)を用いて行った。すなわち、40℃に設定したオーブン中で、カートリッジをHPLCシステム上に装着し、消化緩衝液(10mMの塩化カルシウム,50mMのトリス−塩酸,pH8):アセトニトリル(95:5,v/v)中で、1ml/minの流速で平衡化させた。後記する実施例3で合成した合成HsTX1の1ナノモルを50μlの消化緩衝液に溶解し、50μl/minの流速でカラムに注入した。20分反応させた後溶出をやめ、反応混合物を、次いで3つのカラム充填量(100μl)の消化緩衝液:アセトニトリル(95:5,v/v)溶液にて溶出し、それぞれの溶出液を、6μlの6N−HCl(最終pH〜2)を含有するポリエチレンチューブ中に集め、直ちに−80℃で保存した。得られた反応混合物を、逆相C18−HPLC(メルク社製,φ4×125mm)に付し、0.1%TFA水溶液中、80分間で0%から45%のアセトニトリルの直線濃度勾配で溶出させ、溶出開始3分後より、流速1ml/minにて230nmのUV吸収をモニターしながら、ピークを示す画分を得た。得られた画分は、物理化学的分析(質量分析、配列決定)を行うまで凍結させた。24分後に溶出したトリプシンのフラグメントを、更にAspN−エンドペプチダーゼ(10mMのpH8.1のトリス−塩酸1μl中、約40ピコモルのペプチドに対するペプチダーゼの比率は、約4%w/w)による分解を行い、ミクロプレート上にて直接MS−MALDI−TOF測定を行った。この酵素分解で4個のフラグメントを得ることができた。反応の収率は定量的であり、反応中ジスルフィド結合のランダムな再編成は起こらなかった。得られたフラグメントの質量分析ならびに配列決定によりジスルフィド結合様式を解析した。その結果、トリプシンで消化させて、24分後に溶出した画分のペプチドには、9,13,29および31位にハーフシスチン残基を含む2個のジスルフィド結合が含まれていることが判明した。このフラグメントの約40ピコモルを、更にAspN−エンドペプチダーゼにより分解した後、ミクロプレート上にて直接MS−MALDI−TOF測定を行った結果からは、2つのフラグメント中には、Cys13−Cys31およびCys9−Cys29に相当するジスルフィド結合が存在することが確認された。以上の結果より、本発明のHsTX1は、Cys3−Cys24,Cys9−Cys29,Cys13−Cys31およびCys19−Cys34の4箇所にジスルフィド結合を有することが明らかになった。ステップ5.円偏光二色性によるコンフォメーション解析本発明のペプチド、すなわち、天然体HsTX1、後記実施例3で得た合成HsTX1およびそのC末端カルボン酸体であるHsTX1−COOH、ならびにキャリブドトキシン(ChTX:charybdotoxin,ペプチド研究所製,日本)の4者の紫外線スペクトルを、Jasco J−600円二色計(dichrograph)により、(+)−カンファー10−スルホン酸を基準物質として測定した。測定には1mmの透過厚のセルを用いて行い、20mMのリン酸緩衝液(pH7.1)中にて室温下、260〜190nmの波長でのスペクトルを測定した。スペクトルデータは、スキャン比率100nm/minをもつ0.1nmのインターバルにて、500分間行なった。試験に用いた各ペプチドの濃度を、アミノ酸分析により80μg/mlにそろえた。データは残基に対する分子楕円率で示し、解析をComptonおよびJohnsonの方法(Anal Biochem.,155巻,155−167頁,1986年)により行った。その結果、本発明のペプチドである後記実施例3で得られた合成HsTX1、ならびにそのC−末端カルボン酸体であるHsTX1−COOHの円二色性スペクトル(CDスペクトル)は、天然体のHsTX1のCDスペクトルとほとんど同一のものであった。HsTX1の二次構造の比較のために、ChTXのCDスペクトルと対比してみると、ChTXのCDスペクトルは、HsTX1のCDスペクトルに比較し、極小吸収ならびに極大吸収がわずかにシフトしていることが判明した。すなわち、HsTX1の220nmに見られた極小吸収は、ChTXでは218nmへとシフトし、HsTX1の190nmに見られた極大吸収は、ChTXでは195nmへとシフトしていた。これらの結果から、ChTX、本発明のペプチドであるHsTX1−COOH、合成HsTX1ならびに天然体HsTX1の4者には、α−ヘリックス構造(それぞれ、36%,29%,34%および28%)、β構造(それぞれ、18%,21%,20%および20%)ならびにβターン構造(それぞれ19%,14%,12%および14%)が存在することが明らかとなった。これらの構造解析データからは、HsTX1の折りたたみ構造は、ChTXの折りたたみ構造と似通っているものと思われた。Pi1(文献前出)およびマウロトキシン(maurotoxin,カラット等,Eur.J.Biochem.,242巻,491−498頁,1996年)の両者は、同様な折りたたみ構造を示すものの、マウロトキシンは特異的なジスルフィド結合パターンを有しているとされている。このことは、ChTXのパラメーターを用いて推定した、上記HsTX1の構造の妥当性を示すものである。実施例3.固相法によるHsTX1の合成ペプチドの合成は、Fmoc−aminoethyl−SAL樹脂(渡辺化学工業製)を担体として、Fmoc−Ala,Fmoc−Arg(Pmc),Fmoc−Asp(OtBu),Fmoc−Asn(Trt),Fmoc−Cys(Trt),Fmoc−Gly,Fmoc−Glu(OtBu),Fmoc−Lys(Boc),Fmoc−Met,Fmoc−Pro,Fmoc−Ser(tBu),Fmoc−Thr(tBu),Fmoc−Tyr(tBu)を用い、アプライドバイオシステム社の全自動ペプチド合成機433A型を用いて、FastMoc(登録商標)の固相法により合成した。(但し、Fmoc=9−Fluorenylmethoxycarbonyl,SAL=Super Acid Labile,Pmc=2,2,5,7,8−Pentamethylchroman−6−sulfonyl,Trt=Trityl,tBu=t−Butyl,Boc=t−Butyloxycarbonylを示す。)ペプチド樹脂からのペプチドの切り放しと粗ペプチドの脱保護は、TFA:チオアニソール:エタンジチオール(90:5:5,v/v)混液を、ペプチド樹脂1g当たり約10ml加え、室温で1.5〜3時間処理して脱保護および切断を行い、エーテルを加えてペプチドを沈澱させ、沈澱をエーテルで3回洗浄して粗ペプチドを得た。粗ペプチドはC−18逆相高速液体クロマトグラフィーにより精製した。得られた精製ペプチドを、1mMの酸化型グルタチオンと1mMの還元型グルタチオンを含む、0.5mMのトリス−塩酸緩衝液(pH8.2)に溶解し、室温で30時間空気酸化して、ジスルフィド結合を導入した。反応終了後、RP−HPLC C18カラム(メルク社製,リクロスフェアー100オングストローム,ビーズサイズ5μm,φ4×125mm)を用いるHPLCに付し、流速1.0ml/minで、5%アセトニトリルを含む0.1%TFA水溶液(pH2.2)で3分間展開した後、0.1%TFA水溶液中、30分間で5%から20%までのアセトニトリルの直線濃度勾配で、230nmのUV吸収でモニターしながら溶出した。天然のHsTX1は、このHPLCの系で保持時間26.6分の箇所にシングルピークとして溶出されるので、同一の保持時間26.6分に溶出されるピークを分取して、合成HsTX1を得た。得られた合成品に天然品を混合して、上記HPLCの系で分析したところ、保持時間26.6分にシャープなシングルピークとして検出された。また、合成品は、MS−MALDI−TOFにより、分子量は3815.67と測定され、天然品で測定された分子量、3815.63と良く一致した。実施例4.HsTX1の注射用製剤の調製実施例3で得た合成HsTX1 1mgを注射用蒸留水20mlに溶解させ、0.22μmのフィルター濾過を行い、除菌後、1mlづつアンプルに無菌充填し、HsTX1の注射用製剤を調製した。評価例1.K+チャンネル阻害試験K+チャンネルに対する阻害試験は、ラット脳の電圧開閉型K+チャンネルであるKv1.3(スチューマー等,EMBO J.,8号 11巻 3235−3244頁,1988年に記載)の遺伝子(神経生物学分子研究所 ハンブルグ ドイツのO.ポングス教授より恵与された)を、慣用技術に従ってpAS18ベクターに挿入し、プラスミドをEcoR1で処理したのち、クローンをトランスクリプションキット(米国・スタラータジーン社製)を用いて、SP6 RNAポリメラーゼでイン・ビトロに転写した。得られたcRNAは電気生理実験の16−72時間前にアフリカツメガエルの卵母細胞に注入した。Kv1.3を発現させた卵母細胞を、50mg/mlのウシ血清アルブミン(BSA)を含むND96溶液(0.3mM CaCl2,1mM MgCl2,2mM KCl,96mM NaClを含む、pH7.6の5mMヘペス緩衝液)を充たした容量100μlの実験槽に入れ、ND96溶液を4ml/minの流量でリザーバーから灌流した。測定すべき試料は、ND96溶液に溶解し、リザーバーから灌流させる方法で添加した。実験毎のリザーバーの切替えはテフロンバルブで行った。全ての実験は室温(約22℃)で行った。卵母細胞に2本の、3MKClを充たした微小電極(内部抵抗0.5−2MΩ)を差し込み、実験槽の電位を0Vに固定したモードで、Axoclamp−2型二電極電位固定アンプ(アクソン機器製)を用いて電位固定した。電流は1kHzのローパスフィルター(−3dB,8ポール−ベッセル型フィルター/サイバー アンプ,アクソン機器製)を通し、デジデータ1200型インターフェース(アクソン機器製)を用いて10kHzでサンプリングし、デジタル化して、オフライン分析のために光磁気ディスクに保存した。電位のプログラム、記録および保存したデータの解析は、コンパックPCコンピューターにピークランプソフトウェア(アクソン機器製)を走らせて行った。測定は、固定電位は−80mV、固定電流は−40nA以下で行った。その結果、本発明のペプチドであるHsTX1は、50%阻害濃度(IC50)が12±1.6pMという極めて強いK+チャンネルのブロック作用を示した。これは、同様の作用を示すサソリ毒素であるPi1(文献前出)の約800倍の強さである。評価例2.ラットKv1.3チャンネルに対するHsTX1の作用本発明のHsTX1のKv1.3チャンネルに対する阻害活性を、アフリカツメガエルの卵母細胞中で発現させた電圧開閉型K+チャンネルにおける、外向電流の濃度依存による阻害を測定することにより行った。その結果、10pM濃度のHsTX1は、コントロール(薬物添加なし)に比較して、測定したすべての電圧において外向電流の流れを、ほぼ50%阻害することが判明した。阻害の回復率をみると、100pMのHsTX1を短時間灌流させた後にコントロールと同様に、薬物添加なしに灌流を行うと、電流の流れは経時的にコントロールの85%まで回復した。このことから、HsTX1のK+チャンネルに対する阻害は、ほぼ可逆的なものであることが判明した。ラットKv1.3チャンネルに対する本発明のペプチドの、濃度依存的な阻害活性カーブを図1に示した。図の結果からも明らかなように、本発明のペプチドである天然体のHsTX1と、実施例3で得た合成HsTX1は、全く同一の阻害パターンを示し、その50%阻害濃度(IC50)は、天然体HsTX1で12pMであり、合成HsTX1で約13pMであり、両者共に極めて強いK+チャンネルの阻害作用を示していることが理解される。これに対して、HsTX1のC末端がカルボン酸のままであるHsTX1−COOHはIC50が69pMであり、本発明のHsTX1に比較し、5分の1程度の活性であった。したがって本発明のペプチドは、C末端がCOOHであっても活性を示すが、C末端がアミド化されることにより特異的なK+チャンネル阻害活性を示すことが理解される。評価例3.他の電圧開閉型K+チャンネルに対するHsTX1の作用本発明のHsTX1について、他の電圧開閉型チャンネルにおける阻害活性を同様に試験した。使用した電圧開閉型チャンネルとしては、ラット脳の電圧開閉型K+チャンネルであるサブタイプのKv1.1およびKv1.6の遺伝子からのクローンを用い、前記と同様にアフリカツメガエルの卵母細胞中における実験を行った。その結果、Kv1.1およびKv1.6は、合成HsTX1により阻害されているものの、そのIC50は、いずれのK+チャンネルでも約300pM程度であり、Kv1.3チャンネルに比較してその阻害活性は30分の1程度であった。この結果から、本発明のペプチドであるHsTX1は、Kv1.3チャンネルに対して特異的な阻害作用を有することが判明した。評価例4.ヒト末梢血T細胞のIL−2産生に対するHsTX1の作用HsTX1について、活性化T細胞からのIL−2産生に対する抑制作用を試験した。ヘパリン処理健常人末梢血から、モノ・ポリ分離液(大日本製薬製)を用いて遠心分離法により単核白血球を分離し、これをナイロンウールカラムに充填して37℃30分間インキュベート後、非付着細胞を単離した。得られた精製T細胞を10%非働化牛胎児血清(ウイタカー社製)、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)を含むRPMI1640培地に懸濁し、最終濃度が1×106/mlとなるよう96穴平底プレートにまき、刺激剤としてホルボールミリステートアセテート(PMA)(1ng/ml)およびionomycin(250ng/ml)を加えて37℃、5%炭酸ガスインキュベーター内で培養した。HsTX1を培養開始時に0.1,1,10,100nMの濃度となるように添加し、ウェルあたりの最終液量を200μlとした。20時間後に培養上清を回収し、各上清中のIL−2の濃度をヒトIL−2ELISAキット(エンドジェン社製)で測定した。その結果を第2図に示した。図に示すように、本発明のHsTX1は、すべての濃度においてヒト末梢血T細胞のIL−2産生を有意に抑制した(ダンネット検定法)。なお、本発明のHsTX1の0.1,1,10および100nMの濃度におけるIL−2産生の抑制率は、それぞれ28.6,45.7,46.0および46.7%であった。上記実施例および評価例において、本発明者らは新たなサソリ毒素関連ペプチドとして、HsTX1と命名したペプチドを単離・合成し、その一次構造および高次構造ならびに電圧開閉型K+チャンネルおよびIL−2産生抑制に対する生理活性を明らかにした。したがって、HsTX1と類似の一次構造および/または高次構造を有するペプチドであるかぎり、アミノ酸の一部欠失、置換、付加があるペプチドであっても、それらは本発明の電圧開閉型K+チャンネルに対する遮断活性およびIL−2産生抑制ペプチドとしての技術範囲に包含される。産業上の利用可能性本発明によれば、配列番号1で示され、分子内に0〜4個のジスルフィド結合を有するペプチドおよびその関連ペプチドを、サソリ毒素関連ペプチドとして提供することができる。本発明のペプチドのうちHsTX1は、分子内に4個のジスルフィド結合を有し、34アミノ酸残基からなる神経ペプチドの最初の例であり、Kv1.3に対する阻害活性がほぼ可逆的であることから、その毒性は十分低いことが予想される。また、本発明のペプチドのうちHsTX1は、ヒト末梢血T細胞によるIL−2産生を少なくとも0.1nM以上の濃度で有意に抑制した。IL−2はT細胞の分化増殖を促進するサイトカインであり、この産生抑制はT細胞の活性化抑制につながると考えられる。したがって本発明のペプチドおよびその類縁体は、サソリ毒素関連ペプチドの神経生理学における生化学試薬としての用途のみならず、医薬、動物薬への応用にも繋がることが期待され、医薬品への応用としては、GVHD(移植片対宿主病)、自己免疫疾患、臓器移植への適応などがあげられる。配列表配列番号:1配列の長さ:34配列の型:アミノ酸配列の種類:ペプチド起源:生物名:サソリ(Heterometrus spinnifer)配列の特徴:他の特徴:C末端アミド化存在位置:34特徴を決定した方法:E配列: 次のアミノ酸配列:で示され、分子内に4個のジスルフィド結合を有し、その結合がCys3−Cys24、Cys9−Cys29、Cys13−Cys31、及びCys19−Cys34である、C末端がアミド化されていてもよいペプチド。 C末端がアミド化されている請求項1に記載のペプチド。 請求項1又は2に記載のペプチドからなる電圧開閉型K+チャンネル遮断作用剤。 請求項1又は2に記載のペプチドからなるIL−2産生抑制剤。 請求項1又は2に記載のペプチドからなる免疫抑制剤。