タイトル: | 特許公報(B2)_経管栄養食品 |
出願番号: | 1998344541 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | A61K 47/36,A23L 1/05,A61K 31/731,A61K 31/734 |
小畠 秀樹 平田 雄樹 JP 3959192 特許公報(B2) 20070518 1998344541 19981203 経管栄養食品 株式会社大塚製薬工場 000149435 稲岡 耕作 100087701 川崎 実夫 100101328 小畠 秀樹 平田 雄樹 20070815 A61K 47/36 20060101AFI20070726BHJP A23L 1/05 20060101ALI20070726BHJP A61K 31/731 20060101ALI20070726BHJP A61K 31/734 20060101ALI20070726BHJP JPA61K47/36A23L1/04A61K31/731A61K31/734 A61K 47/36 A23L 1/05 特表平09−504286(JP,A) 特開昭63−022032(JP,A) 国際公開第96/027368(WO,A1) 特表平02−502908(JP,A) 特開平04−258274(JP,A) 1 2000169397 20000620 9 20030415 原田 隆興 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ゲル化剤、経管栄養食品用ゲル化剤およびそれを含有する経管栄養食品に関する。さらに詳しくは、本発明はカラギーナンおよびアルギン酸を含有するゲル化剤、該ゲル化剤を利用する経管栄養食品用ゲル化剤、およびそれを含有せしめることによりチューブによる摂取時に流動性を有し胃内に到達後ゲル化する機能を付与された逆流性誤嚥防止に有効な経管栄養食品に関する。【0002】【従来の技術】老衰等により体力が著しく衰えた患者や交通事故等により脳に障害を持つ患者等は、食物を摂取する際に、食物が誤って気管さらには肺にまで流入するいわゆる嚥下障害患者であることが多い。食物が誤って気管から肺にまで流入するいわゆる誤嚥が生じると、患者は激しく咳き込み気管等に入った食物を排出しようとする。しかし、排出できない状態でこれを放置しておくと食物が肺内部で腐敗し肺炎の原因になることから手術による排出が必要となる。【0003】このため誤嚥は医療現場では重大な問題であり、誤嚥防止対策としては例えば食物をゼリー状にして食物の表面を、いわゆるツルっとした状態に加工してから患者に与えている。最近は、医療現場での加工を不要とした同一目的のゼリー状食品も種々市販されている。しかし、ゼリー状の食品は、経口摂取可能な患者を対象としたものであることから、体力が著しく低下した患者は経口摂取不可能であり、適用できないという不都合がある。このような患者には、いわゆる経管栄養(鼻から胃までチューブを通し、流動食を胃内に流し込むことで栄養を摂取させる方法)や点滴等が施されている。【0004】ところが、このような患者は著しく体力が劣っているために、経管内に流動食を摂取した後、例えば体の向きを変えるだけで胃内容物が逆流してしまい、その際に逆流した胃内容物が気管や肺に達してしまういわゆる逆流の誤嚥を生じることがある。胃内容物が気管や肺に達すると胃酸が、直接的に気道粘膜、気道上皮細胞および肺胞上皮細胞等を損傷し急性肺損傷を生じたりあるいは誤嚥の場合と同様に胃内容物の腐敗による肺炎を生じたりする。【0005】【発明が解決しようとする課題】上述のように、誤嚥と同様に逆流性誤嚥も医療現場では重大な問題であるにもかかわらずこれを防止する技術は、従来全く存在していないのが実情である。このために医療現場から逆流性誤嚥を防止する技術の開発が切望されている。そこで、本発明の目的は、経管栄養食品の逆流性誤嚥の防止に有効なゲル化剤、およびそのゲル化剤を含有する経管栄養食品を提供することにある。【0006】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するために、鼻から胃まで通じているチューブ内では流動性に優れる一方で、胃内部では適度にゲル化すれば胃内容物の逆流が防止できるのではないかと考えて、そのような性状を付与するに有効なゲル化剤の開発を目的に鋭意研究を重ねた結果、カラギーナンとアルギン酸との配合剤により、所期の目的が達成されることを見出し、さらに検討して本発明を完成したものである。【0007】 すなわち、本願発明は、経管栄養食品において、カラギーナンを0.15重量%以上0.4重量%未満とアルギン酸を0.5重量%以上1.0重量%未満配合したゲル化剤を含有し、鼻から経管投与可能な流動性と投与後に胃内部でゲル化し逆流性誤嚥を防止する機能とを有することを特徴とする経管栄養食品、である。【0008】4)経管栄養食品において、カラギーナンおよびアルギン酸を配合したことを特徴とする経管栄養食品。5)経管栄養食品において、カラギーナンを0.15重量%以上0.4重量%未満およびアルギン酸を0.5重量%以上1.0重量%未満配合したことを特徴とする上記4)項記載の経管栄養食品。【0009】【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。カラギーナンは、ツノマタ属のChondrus crispusやスギノリ属のGigartina stellataから得られる粘質性の多糖類であり、ゼリー化剤として用いられている。カラギーナンには、κ―カラギーナンおよびλ―カラギーナンの2種類が存在し、前者は0.15M塩化カリウム溶液によってゲル状に沈殿するもので、後者はその母液に溶存するものである。通常はκ型およびλ型の混合物として得られる。本発明においては、κ型、λ型およびこれらの混合物のいずれも使用可能であり、通常食品用グレードの市販品を利用することができる。【0010】アルギン酸は、D−マンノウロン酸のβ―1,4結合からなる直鎖分子であってカッソウ類の重要な構造多糖類である。本発明においては、原料藻類から、常法により、抽出、精製した食品用グレードのもの、例えばアイスクリーム、マヨネーズ、トマトケチャップ等の増粘剤や乳化安定剤として通常利用されているものを使用できる。アルギン酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩は、水に溶解し、他の金属イオン例えばカルシウムイオンの添加によりゲルを生成することが知られている。【0011】本発明のゲル化剤は、カラギーナンおよびアルギン酸とを配合することによって調製され、粉末混合物あるいは液状混合物のいずれであってもよいが、ゲル化剤としての使用形態を考慮すると液状系混合物にしておく方が便利である。本ゲル化剤の調製にあたっては、これらの原料が通常は粉末で入手できることから、カラギーナン粉末およびアルギン酸粉末の各所定量を混合すればよいが、さらにその混合物と水とから液状系混合物を調製してもよい。別法としては、カラギーナン粉末およびアルギン酸、アルギン酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩粉末からそれぞれ個々に所定濃度の水性液状調製物を調製した後、各所定量を取り混合する方法を採用してもよい。【0012】本ゲル化剤におけるカラギーナンとアルギン酸の配合量は、その使用目的によって適宜選択されるが、通常、カラギーナン1重量部とアルギン酸2〜5重量部の割合で配合するのが好ましい。この配合量は、後述するように、経管栄養食品用ゲル化剤としての用途においてとりわけ好ましいものである。本発明ゲル化剤は、食品分野等で種々に利用できるが、とりわけ経管栄養食品用ゲル化剤として好適である。前述のとおり、経管栄養食品に対して、チューブによる投与時には流動性を有し胃内部に達した後は適度にゲル化する機能を付与できれば、逆流性誤嚥を防ぐ目的上好都合である。本ゲル化剤はこの機能を見事に有するものである。本発明ゲル化剤の成分のうち、流動性の栄養食品を胃内部でゲル化するのはカラギーナンである。胃内部は胃酸によりpHが約2〜3程度に保たれているが、カラギーナンはこの条件下でゲル強度が急激に上昇するためこれを添加配合した栄養食品がゲル化することになる。一方、栄養食品にチューブで投与可能な程度に流動性を与えるのは、カラギーナンと共に添加されるアルギン酸である。すなわち、アルギン酸の添加によって、単にカラギーナンを添加した場合に比べて、経管栄養食品が胃内部に達するまでの間、すなわち該食品がチューブ内を移動している間、該食品に適度の流動性が与えられる。経管栄養食品を投与する際に使用されるチューブの直径は、約5mm程度であり非常に細いことから、この中をスムーズに通過し得る程度に流動性を付与することは重要である。【0013】本発明の経管栄養食品は、上記のように、カラギーナンとアルギン酸を経管栄養食品に配合させてそれぞれの機能を適切に発揮させるものであり、カラギーナンとアルギン酸の配合量は、患者へ投与するに際してはチューブを通過可能なような流動性を示し胃内に到達後は適度にゲル化するように、対象となる経管栄養食品の成分等を考慮して適宜に決定される。一般的には、経管栄養食品において、カラギーナンを0.15重量%以上0.4重量%未満およびアルギン酸を0.5重量%以上1.0重量%未満であることが好ましい。この配合量によって、摂取時の逆流性誤嚥を有効に防止することができる。経管栄養食品の流動性を維持するためには、電解質の存在が必要であるが、通常、これは前述のように該食品中の成分から供給可能である。【0014】アルギン酸無添加下では、経管栄養食品に対してカラギーナンを0.05重量%添加しても調製段階でゲル化が起りチューブ内を通過させることが不可能である。アルギン酸は、増粘多糖類であり、従来増粘剤として利用されてきたものであるが、カラギーナンと組み合わせることによって、カラギーナン添加食品の粘度を低下させるという知見は、従来、全く知られていなかったものである。このように、アルギン酸がカラギーナンを添加した食品の粘度を低下させる理由は、カラギーナン自体が有する解離基と栄養食品中に存在するカルシウムイオンやマグネシウムイオン等の電解質イオンによりキレートが形成されるのをアルギン酸が阻害するためではないかと推察される。【0015】本発明で対象とする経管栄養食品は、特にその種類を限定されるものではなく、例えば現在市販されているものにも適用できる。そのような経管栄養食品としては、エンシュアリキッド[明治乳業(株)製]、エレンタール[味の素(株)製]、ツインライン[雪印乳業(株)製]、ハーモニックM(ヌトリケム製)、クリニミール[森永乳業(株)製]、エンテルード[テルモ(株)製]、ベスビオン[雪印乳業(株)製]等を例示することができる。【0016】本発明の経管栄養食品の製造方法は、アルギン酸およびカラギーナンを前述のような配合割合で対象となる経管栄養食品に混和せしめる方法であれば特に限定されない。例えば、本発明のゲル化剤を調製するときに述べたように、アルギン酸およびカラギーナンを予め混合したものを対象食品に添加してもよいし、それぞれの水性液状調製物を調製した後、添加混合してもよい。【0017】本発明の経管栄養食品の投与は、従来の方法により実施できる。例えば医療現場において患者の鼻から食道を経由し胃まで通した直径5mm程度のチューブ内を流速約1〜2ml/分程度の割合で全量1200〜2400ml程度が12〜24時間かけて投与され、患者の体力維持、増強に利用される。【0018】【実施例】以下に本発明をさらに具体的に説明するために実施例および試験例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例1カラギーナン0.3gおよびアルギン酸ナトリウム0.7gの混合物を水90gに懸濁させ、90℃の湯浴中で1時間攪拌して溶解させた。その後室温まで自然冷却し、水を加えて正確に100gとし、本発明のゲル化剤を得た。【0019】本ゲル化剤は液状であり、わずかに粘性を示した。本ゲル化剤に塩化カルシウム0.1gを添加しても、ゲル化などの物性変化は見られなかった。実施例2カラギーナン[和光純薬工業(株)製]およびアルギン酸の各5gをそれぞれ水に膨潤させていずれも100gとし、カラギーナン膨潤ゲルおよびアルギン酸膨潤ゲルをそれぞれ調製した。次に、200mL容三角フラスコに、調製済のカラギーナン膨潤ゲルを2g、アルギン酸膨潤ゲル8gおよび経管栄養製剤[商品名:エンシュアリキッド、明治乳業(株)製)]25gを取り、水を加えて全量を100gとした後、90℃の湯浴中で1時間攪拌し、膨潤ゲルを完全に溶解させた。その後、室温で24時間冷却したのち水を加えて正確に100gとし、本発明の経管栄養食品を得た。【0020】【表1】【0021】【表1】【0022】本調製物は液状であり、1N塩酸5mLを加えるとゲル化した。試験例1実施例2で得たカラギーナン膨潤ゲルを0〜20g、アルギン酸膨潤ゲルを0〜17.6gおよび経管栄養剤[商品名:ツインライン、大塚製薬(株)製]を用いて、実施例1と同様に処理して各調製物を得た。【0023】なお、ツインラインの処方を表2に示す。【0024】【表2】【0025】各調製物について、デジタル粘度計[(株)東京計器製、「DLV−B型」]により粘度を測定した。その結果を表3に示す。【0026】【表3】【0027】なお、表3において、×はゲル化したことを、相分離は栄養成分である油分が分離したことをそれぞれ示し、これら以外の試料区は粘度測定結果からも明らかなように流動性を有することを示す。表3の結果に示されるように、カラギーナン無添加のときアルギン酸添加量を1重量%まで増加しても試料から経管栄養食品の油分が分離し、一方カラギーナン含有量が0.50重量(W/W)%以上においてはアルギン酸を0.05〜1.00重量%共存させても試料のゲル化が起り経管投与が不可能となる。【0028】次に、表3の試料の中から、ゲル化も油層分離もしない試料区について、1N塩酸5mLを加え、攪拌した後1時間静置した。これらの試料のゲル強度を卓上小型試験機(島津製作所製「EZ Test−500N」)により測定した。ただし、ゲル化しなかった試料については粘度を測定した。これらの結果を表4に示す。【0029】【表4】【0030】表4中、アンダーラインを付した測定値は、ゲル強度(N)を表し、これらの試料は1N塩酸の添加によりゲル化したことを示す。表4の結果から、カラギーナン含有量が0.2重量(W/W)%以上0.3重量%未満でありかつアルギン酸含有量が0.62重量%以上0.88重量%以下の試料は、1N塩酸の添加によってゲル化することがわかる。【0031】このことは、これら試料が胃内部のような酸性下において適度にゲル化することから、もはや胃から逆流する恐れがないことすなわち誤嚥が防止されていることを示し、経管栄養食品として好適であることを意味する。試験例2試験例1と同様にして調製した試料をラットに経口投与し、投与終了時から10分後に胃内に形成されたゲルを取り出した。そのゲル強度を測定した結果を表5に示す。【0032】【表5】【0033】表5の結果から、本発明の経管栄養食品は、流動性を呈することから容易に投与することができ、投与後、胃内に達するとゲル化することが生体試験により確認された。【0034】【発明の効果】本発明のゲル化剤は、カラギーナンおよびアルギン酸を配合することによってそれぞれの機能を巧みに利用し、予期されなかったような効果を総合的に発揮するものである。本ゲル化剤を含有せしめた経管栄養食品は、患者に投与するに際しては適度な流動性を有しているためにチューブをスムーズに通過し胃内部に到達し、そこで適度にゲル化するために逆流性誤嚥の防止に極めて有効である。 経管栄養食品において、カラギーナンを0.15重量%以上0.4重量%未満とアルギン酸を0.5重量%以上1.0重量%未満配合したゲル化剤を含有し、鼻から経管投与可能な流動性と投与後に胃内部でゲル化し逆流性誤嚥を防止する機能とを有することを特徴とする経管栄養食品。