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タイトル:特許公報(B2)_液中微粒子の電磁泳動分析法およびその装置
出願番号:1998276024
年次:2008
IPC分類:G01N 27/447


特許情報キャッシュ

渡會 仁 JP 4165674 特許公報(B2) 20080808 1998276024 19980929 液中微粒子の電磁泳動分析法およびその装置 独立行政法人科学技術振興機構 503360115 佐伯 憲生 100102668 渡會 仁 20081015 G01N 27/447 20060101AFI20080925BHJP JPG01N27/26 331C G01N27/72-27/90 特開昭47−45895(JP,A) 特開昭63−293460(JP,A) 難波誠 他,磁場と電場により誘起される水溶液中微粒子の泳動挙動,日本分析化学会第47年会講演要旨集,1999年9月22日,p.136(3F14) Maciej Zborowski et al.”Analytical Magnetapheresis of Ferritin−Labeled Lymphocytes”,Analytical Chemistry, 1995, Vol.67,p.3702−3712 1 2000105218 20000411 15 20030620 2006013544 20060628 後藤 時男 田邉 英治 村田 尚英 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、分散媒中に分散された微小物体に、電場をかけ、かつ、電場と直角方向に磁場をかけて微小物体を磁場中で電磁泳動させる方法、そのための装置、及び、その方法による微小物体の分離方法並びにそのための分離装置に関する。【0002】【従来の技術】荷電した又は荷電させた微小物体を電気泳動させる方法は、分析手段や分離手段として広く応用されてきている。これらの電気泳動法は、微小物体を含有する分散媒に電場をかけることにより行われてきたが、電場と同時に磁場をかけることはなかった。【0003】均一電場中の液中粒子が均一磁場によって受ける電磁泳動力に関する理論式が以前提案されたが(A. Kolin, Science, 1953, 117, 134.)、実際の泳動を検討することはほとんど行われてこなかった。そこで本発明者らは、分散媒中の微小物体の電気泳動挙動に及ぼす磁場の影響を検討し、液中での微小物体の新たな分離・キャラクタリゼーション法としての可能性を検討した。【0004】【発明が解決しようとする課題】本発明は、分散媒中の分子や微粒子などの微小物体の電気泳動挙動に及ぼす磁場の影響を検討し、分散媒、特に溶液状の分散媒中での微小物体の新たな泳動方法・分離方法を提供しようとするものである。より詳細には、本発明は、分散媒中に分散された微小物体に、電場及び電場と直角方向に磁場をかけて微小物体を電磁場中で電磁泳動させる方法、そのための装置、及び、その方法による微小物体の分離方法並びに分離装置を提供するものである。【0005】【課題を解決するための手段】 本発明は、分散媒中に分散された微小物体に、電場をかけ、かつ、電場と垂直方向に磁場をかけて微小物体を磁場中で電磁泳動させて、当該微小物体の泳動速度を測定する方法に関する。 また、本発明は、分散媒中に分散された微小物体に、電場をかけ、かつ、電場と垂直方向に磁場をかけて微小物体を磁場中で電磁泳動させて、当該微小物体の泳動速度を測定するための装置に関する。 さらに、本発明は、分散媒中に分散された複数種の微小物体に、電場をかけ、かつ、電場と垂直方向に磁場をかけて微小物体を磁場中で電磁泳動させて、当該微小物体の泳動速度により当該微小物体を分離する方法及びその装置に関する。【0006】透磁率μ、電流密度j、磁場の強さHの中で、ある体積要素Vを有する物体が、磁場とそれに垂直な電場によって受ける力Fは、次の式(1)、(2)で示される。dF = (μHj)dV (1)F = (μHj)V (2)電流密度jが、媒体と媒体中の微小物体とで異なる場合には、それぞれにかかる力が異なることになるから、その力の差により微小物体が媒体中を泳動することになる。媒体中の微小物体と媒体の電流密度の関係は、マックスウエル(Maxwell )の式から、次の(3)で示されることになる。j1 = j2(3σ1/(2σ2+σ1)) (3)【0007】ここに、j1は微小物体内の電流密度、j2は媒体中の電流密度、σ1は微小物体の電気伝導度、σ2は媒体の電気伝導度をそれぞれ示している。前記の(2)式によれば、電磁場中の媒体中の体積Vを有する微小物体が受ける力F1、及び、媒体が受ける力F2はそれぞれ次ぎの(4)及び(5)式で示されることになる。F1 = μ1Hj2V(3σ1/(2σ2+σ1)) (4)F2 = μ2Hj2V (5)ここに、μ1は微小物体の透磁率であり、μ2は媒体の透磁率である。したがって、電磁場中で媒体中の微小物体が受ける相対的な力F(即ち、F1−F2)は次式(6)で示されることになる。ここで媒体と微小物体の透磁率が等しいかほぼ等しい、即ち、μ1 ≒ μ2 = μとして、n = σ1/σ2とすると相対的な力Fは次式(7)で示される。F = −2μHj2V((1−n)/(2+n)) (7)【0008】この力Fを重力場にたとえて説明すると、水中の物質が重力F1と浮力F2を受けているようなものである。しかし、上記で説明してきた力Fは、電磁場で受ける力であるから、以下においては、F1を電磁力と呼び、F2を電磁浮力と呼ぶことにする。電磁場中の微小物体が受ける前記した力の関係を図1に示す。【0009】また、微小物体としてその電気伝導度σ1が0のものを使用した場合には、式(4)から電磁力F1は0になり、この結果、微小物体には電磁浮力F2のみが実質的に作用することになる。即ち、この場合の力Fは、次の(8)式で示される。F = −μ2Hj2V (8)したがって、実質的に電気伝導度が0の微小物体を媒体の透磁率がμ2の媒体中に分散させて、これを電磁場中におくと、微小物体の体積V、及び、媒体中の電流密度j2に比例した力Fが、微小物体にかかることになる。ここで、電流密度を一定にしておくと、微小物体の体積に応じて加わる力が異なることになり、体積に応じた電磁泳動がみられることになる。理論的にはσ1=0(n=0)ということも考えられるが、実際にはポリスチレンのような場合でもσ1は0ではなく、電磁泳動はσ1、即ち、nの値にも依存することになる。【0010】 また、この時の泳動速度vは、次式(9)で示されるストークスの法則の式、 F = 6πηRv (9)(式中、ηは媒体の粘度であり、Rは微小物体の半径である。)と前記の(7)式から、次の式(10)で示されることになる。v = (−4/9)・(μHj2R2/η)((1−n)/(2+n)) (10)(式中、μ2は媒体の透磁率であり、Hは磁場の強さであり、j2は媒体中の電流密度であり、ηは媒体の粘度であり、Rは微小物体の半径である。)【0011】以上の状況は均一な磁場の場合であり、磁場が不均一な場合には媒体及び微小物体に磁場勾配に応じた力が作用することになる。体積Vの微小物体に作用する力(磁場吸引力)Fmは次の式(11)で示される。Fm = Vμ0χ(H・(dH/dx)) (11)ここに、μ0は真空の透磁率であり、CGS単位系ではμ0=1であり、χは磁化率であり、(dH/dx)は磁場勾配を示す。【0012】この力Fmは、式(11)からもわかるように磁化率χが小さい物質においては余り問題にならないが、塩化マンガン水溶液のように磁化率χが大きな特に常磁性の物質である場合には大きな力として効いてくることになる。不均一磁場における媒体中の微小物体が非磁性の物質である場合には、前記式(11)からもわかるように微小物体にかかる力は無いから、見かけ上同体積の媒体にかかる力Fmが微小物体に逆向きにかかることになる。これは、前記の電磁浮力と同様な考え方によるものである。したがって、不均一磁場において磁性物質からなる媒体中の非磁性物質からなる微小物体にかかる力Fは、次の式(12)で示される。F = −Vμ0χ(H・(dH/dx)) (12)ここに、μ0は真空の透磁率であり、χは媒体の磁化率であり、(dH/dx)は磁場勾配を示す。【0013】本発明者らは、微小物体としてポリスチレン粒子と炭素球粒子を用いて、これらの微小物体の電気泳動挙動に及ぼす磁場の影響を検討した。実験で用いたセルを図2に示す。図2中の単位はmmである。この実験に用いた磁石には縦、横16mm、高さ5mm、表面磁場約0.3Tのネオジウム鉄ボロン磁石であり、これにより均一磁場を生成させた。【0014】この実験で使用した電磁泳動実験装置を図3、図4、及び、図5に示す。図3は、図2に示されるセルの両開口部に電極(例えば、Ag/AgCl電極など)を設置することができるようにしたセルホルダーを示している。図4は、前記したセルホルダーと磁石との関係を示している。即ち、セルの両端にセルホルダーにより電極が設けられ電流は図4中のiで示される方向に流れており、これと垂直方向に磁場Hが掛けられるように両側に磁石が設置されており、この磁石の間隔は23mmであった。そして、セルの下側に光源が設けられており、この光源により泳動をセルの上側から観察した。光は図5に示されるように顕微鏡内蔵の光源により下から当てられた。【0015】図5には、この装置の全体像を示した。この装置には、セルに電流を流すための定電流電源、観察のための顕微鏡、観察結果を記録しておくためのCCDカメラとビデオ装置、及び、ステージの高さを決定するためのデジタルゲージが設けられている。このデジタルゲージによりμmのオーダーでステージの高さを調節できるようにした。このデジタルゲージにより焦点を合わせたステージの位置をμmオーダーで計測することができるが、セル内に溶液を入れたときには、屈折率の違いによりデジタルゲージの値をそのままセル内の位置とすることはできなかった。例えば、セルの上面と下面に焦点を合わせたときのステージの高さの差は約190μmとなり、実際のセルの深さ250μm(図2参照)よりも小さく観測される。このためにデジタルゲージで測定された値を補正する必要があり、次式(13)及び(14)で示す式により補正をした。【0016】セル内での粒子の深さを求めるために、まずセルの上面と下面に焦点を合わし、ステージの高さを記録する。次に、粒子に焦点を合わしてステージの高さを記録する。そして以下に示す式(13)によって粒子の相対深さの比(Dr)を求め、次いでこのDrの値から次式(14)によりセルの下面からの高さ(hD)を求めた。Dr = (h1−h3)/(h2−h3) (13)(式中、h1は粒子に焦点を合わせたときのステージの高さであり、h2はセルの上面に焦点を合わせたときのステージの高さであり、h3はセルの下面に焦点を合わせたときのステージの高さである。)hD = Dr×250μm (14)【0017】粒径が3μm、15μm及び20μmである三種類のポリスチレン粒子を微小物体として電磁泳動させた。媒体としては、1MKCl溶液を用いた。その結果を図6に示す。図6の縦軸は泳動速度v(μm/秒)を示し、横軸は電流i(μA)を示している。【0018】図6からわかるように、泳動速度vは電流iの比例しており、このことは前記式(9)で示されるとおりの結果であることがわかる。この実験においては、媒体の流動は観測されず、微小物体のみの泳動が観察された。その泳動速度vは粒子径が大きいほど大きく、このことは電磁浮力が粒子の体積に依存していることとよく一致していることを示す。粒径が20μmの微小物体の傾きは、粒径が15μmの微小物体の傾きの約1.74倍であり、これは半径の二乗の倍率(1.78倍)にほぼ一致していることもわかった。なお、粒径3μmの微小物体の電磁泳動は観測することができなかった。【0019】 この実験における泳動速度vを前記式(10)においてn=0として計算した結果を図7に示す。磁場の強さHが1050エルステッド(Oe)で、媒体の粘度ηが8.788×10−3ポイズ(poise)であり、CGS単位系で計算した。 図7の計算値と図6の実測値には、電流値が大きくなるほど大きな開きが見られるが、その傾向は一致しており、量的には、実測値は前記式(10)のn=0.323とすると計算値と実験値が一致することがわかる。【0020】次に不均一な磁場での電磁泳動の実験を行った。この実験では導電率の異なる二種類の微小物体を用いた。導電率の小さいポリスチレンラテックス(カルボキシレート)粒子(以下ポリスチレン粒子と略す)と、導電体の粒子である炭素球粒子を微小物体として用いた。それぞれの調製方法を以下に示す。まずポリスチレン粒子(半径1.5μm)は、市販のラテックス試料を精製水(蒸留水をミリポア(MILLIPORE )で精製した水。)(以下、水と略す)、又はKCl水溶液で観測しやすい粒子数に希釈したものを用いた(粒子数 3.36×105個 cm−3)。実際には100cm3の水に対して、ラテックス試料を20μl加えた。試料は普段は冷蔵保存し、測定する前に室温(25℃)に戻した。【0021】次に炭素球粒子としてバイオテクリサーチのカーボンカラム・ビーズを用い、約0.05%(W/W)になるように調製した。しかし、水だけでは浮かんでしまい分散しなかったので、中性の界面活性剤であるトリトンX−100(ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(CH3(CH2)7C6H4(OCH2CH2)10OHからなる中性の界面活性剤)を約0.01%(V/V)になるように加え、振とう機で1時間程度振とうさせると、よい分散が得られた。粒子の半径は様々であったが、かなり小さい粒子(半径約1μm)だけはある程度の時間分散していた。実際には100cm3の水に対して、炭素球を約0.05g、トリトンX−100を10μl加えた。【0022】この実験に使用した実験装置を図8に示す。図8の実験装置は、図5に示した均一磁場での実験装置と、セルの部分及びデジタルゲージの部分を除きほぼ同様なものである。ここで便宜上、図8の右上に示したセル(内径73×23×lmm)に座標軸を置いた。長さ方向をX軸、幅方向をY軸、深さ方向をZ軸とした。セルはアルミの枠に固定されていて、そのアルミ枠をステージに水平に固定し XY方向に平行に動かせるようにした。粒子の泳動の様子は、セルの真上から光学顕微鏡を用いて観察した。倍率は300倍(接眼レンズ×15、対物レンズ×20)である。この顕微鏡には焦点調製のために目盛のついた微動ネジがついているので、その値から深さを求めた。【0023】電磁泳動挙動の測定法は、基本的には前記の電気泳動挙動の測定法と操作は変わらない。変わった点は、セルの下に磁石(16×16×5mm)を設置する点である。この磁石はステージの動きと関係なく常に対物レンズの真下にあるので、顕微鏡の視野内では水平な均一電場に垂直に均一磁場が存在している(図9参照)。磁石には非常に強力なネオジム鉄ボロン磁石を用いた(lmmのガラスを挟んだ上の磁束密度約0.36T)。図9に、この実験のセル部分を示す。【0024】まず、あらかじめ測定前に試料のpHと導電率を測定する。セルに試料を満たした後、ステージに固定し、顕微鏡でまず深さの基準となる溝を探す。次に上の溝から微動ネジを使って定常レベルに合わせ、焦点の合っている粒子をXYステージを動かして探す。粒子が見つかったら、ビデオを縁画にし電圧をかける(約50V)。泳動挙動を緑画したら、電圧をかけるのを止めビデオを止める。このようにして数個の粒子について測定し、電極の正負を変え、上下の定常レベルについてそれぞれ測定し、この4過程で1つの試料の測定とする。測定した試料はそのままもう一度導電率を測定する。【0025】なお、トリトンX−100を加えたことによって多少セルの中を流れる試料の流れが遅くなったように感じられたので、トリトンX−100水溶液の粘度を調べた。測定にはユベロード粘度計を使い、25℃における水に対する相対粘度を求めた。【0026】まず、磁場をかけずに電気のみによる電気泳動の様子を観察した。その結果を図10に示す。写真は左側が正極で右側が負極で、媒体として1mMKClを用いたポリスチレンラテックス粒子の映像であり、右側は電圧をかけたとき(0秒)であり、真ん中は8秒後であり、左側は16秒後の映像である。この電気泳動ではポリスチレンラテックス粒子はX軸方向(図中の左右方向)にのみ泳動しており、Y軸方向(図中の上下方向)への泳動はみられなかった。【0027】次に、磁場をかけると明らかに粒子の泳動挙動に変化が見られた。結果を図11に示す。いずれの写真も前記の図10と同様であるが、図11の上段がKClを添加していない場合(0mM)であり、2段目がKCl0.1mMの場合であり、3段目(最下段)がKCl1mMの場合のものである。粒子は電気泳動の場合とは異なり、KCl濃度が増すに連れてY軸方向(図中の上下方向)への大きな泳動が観察された。【0028】この写真(図11)のように粒子は斜めに泳動する。そこで粒子の泳動速度をX軸方向・Y軸方向の速度にベクトル分解して、電気泳動との違いについて検討した。X軸方向の速度成分Vxは電気泳動と同じ方向なので、電気泳動移動度とVxから求めた泳動移動度を比較することで磁場による寄与があるか否かを検討した。この検討に際して泳動移動度にしたのは、泳動速度では単純な比較ができないからである。Vxを電場で割って規格化した泳動移動度を、KCl濃度に対してプロットした場合、泳動移動度が電気泳動移動度とほぼ一致した。その結果を図12に示す。図12の黒丸印は炭素粒子の場合を示し、白丸印はポリスチレンラテックス粒子の場合を示す。図12の横軸はKCl濃度(10−3モル/dm3 )を対数で示しており、縦軸は速度成分Vxの泳動移動度(10−8m2/秒/V )を示している。図13は同様に泳動移動度を示している。同図から分かるように泳動移動度にほとんど違いが見られなかった。この結果から磁場の存在下での泳動におけるVxは電気泳動の寄与のみであることが分かった。【0029】Y軸方向の速度成分Vyは電気泳動のときには0であった。しかもVxは電気泳動だけであったので、このVy成分は電磁泳動そのものであると考えられる。電磁泳動力は電流密度に比例するので、このVyを電流に対してプロットした結果を図14に示す。図14の黒丸印は炭素粒子の場合を示し、白丸印はポリスチレンラテックス粒子の場合を示す。図14の横軸は電流(10−6A)を示しており、縦軸は泳動速度(10−6m/秒)を示している。その結果、ポリスチレン、炭素両粒子とも原点を通る同一の直線に近似できた。このことは導電率の全く違う両粒子にもかかわらず、電磁泳動力に差が見られなかったことを示している。【0030】以上の結果は、不均一磁場における電磁泳動においては、電磁流動が支配的であり、開放系に近い状態では、電磁流動と電気泳動をそれぞれ直交する方向に作用させ、イオンや微粒子の分離を行うことができ、密閉系においては、バルクフローの動力源として利用が可能であることを示している。また、均一磁場における電磁泳動においては流動は起こらず、電磁浮力による粒子の泳動分離が起こり、この泳動速度は、粒子半径の二乗に比例し、電流に比例し、また、これと電気泳動との組み合わせも可能であることから、粒子の大きさ、電荷、導電率に基づく泳動分析が期待されることを示している。したがって本発明は、分散媒との組合せにより、電磁場の中での微小物体の分離又はキャラクタリゼーション法としての可能性を示すものであり、本発明は従来の電場のみを用いた電気泳動法とはことなる新たな分離・キャラクタリゼーション法を提供するものである。【0031】本発明の泳動の対象となる微小物体としては、帯電している微小物体であってもよく、また、電場又は磁場をかけることにより帯電する微小物体であってもよいし、帯電しないものであってもよい。微小物体としては導電性を少しでも有するものが好ましい。本発明における微小物体としては、例えば、ポリスチレンなどの高分子物質の粒状物、炭素などの無機物質の粒状物、分子や分子の凝集物、酵素などの蛋白質、ペプチド、細菌類や細胞などの微生物などが挙げられる。これらの微小物体には、必要に応じて、蛍光物質や放射性物質などのマーカーが付されていてもよい。これらの微小物体は、従来の電気泳動による分離だけでなく、その大きさ、例えば体積などやその形により本発明の方法により分離することが可能となる。【0032】媒体としては、電導性があれば特に制限はなく、液体状であっても、ゲル状であってもよいが、水溶液が好ましい。また、分散媒中に必要に応じて界面活性剤などの他の添加物を添加することもできる。【0033】本発明の方法は電場に垂直な方向に磁場をかけることを特徴とするものであるが、磁場をかける方向は媒体や分離しようとする微小物体に応じて適宜変更することもできる。また、磁場は一方向からのみではなく必要に応じて多方向からかけることも可能である。磁場はセル全体に均一になるものであってもよいが、不均一な磁場であってもよい。【0034】本発明で使用されるセルは密閉型のものが好ましいが、密閉型でなくともよく、電場及び磁場に応じて適宜設計することができる。また、セルには微小物体に二次元的な泳動に応じた分画ができる分画部を有することもできる。従来の電気泳動は一次元的な泳動であり、分画することは困難であったが、本発明の電磁泳動は二次元的泳動であることから、分画部、例えば分画のための仕切板を設けた分画部などを設けることにより分離された微小物体を直接分画部に分取することが可能となる。【0035】【実施例】次に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。【0036】実施例1(1)装置縦と横が各々0.25mmで長さが6mmの図2に示すセルに媒体及び微小物体を入れ、これを図3に示すセルの両端に電極を設けることができるセルホルダーに固定した。電極としては、直径1mmの銀線をテフロンチューブに入れ、これを陽極、白金線を陰極として電気分解を行った。100μAの定電流を5〜10分間流すと、銀線の先端に塩化銀が付着した。これを可逆電極として用いた。媒体及び微小物体の入ったセルをセルホルダーに固定するに際しては、セル内の溶液を密閉し、セル内に溶液を密閉する際には、作業を溶液中で行って気泡の進入を防ぎ、スクリューで締め付けることによって液漏れをなくした。セルを固定したセルホルダーを電場に垂直方向から磁場がかかるように図4に示す磁石の間にセットした。磁石には縦、横16mm、高さ5mm、表面磁場約0.3Tのネオジウム鉄ボロン磁石を用いた。磁場の中にセットされたセルホルダーを図5に示す顕微鏡に置き、デジタルゲージを設定した。実験に用いた装置の全体像を図5に示す。セルの両端には電極が接続され、このセルをニ枚の磁石ではさみ、光は顕微鏡内蔵の光源により下からあてた。【0037】図5に示す装置には以下のものが使用された。【0038】(2) 試薬と測定前記(1)に記載の装置を用いて、粒径が3μm、15μmポリスチレンラテックス粒子(直径14.571μm、標準偏差1.657μm)(以下、15μポリスチレン粒子と略す)及び20μmポリスチレンラテックス粒子(直径22.001μm、標準偏差2.712μm)(以下20μポリスチレン粒子と略す)である三種類のポリスチレン粒子を微小物体として電磁泳動させた。媒体としては、1MKCl溶液を用いた。これを観測しやすい粒子数に希釈した。試料は晋段は冷蔵保存し、測定する前に室温(25℃)に戻した。その結果を図6に示す。図6の縦軸は泳動速度v(μm/秒)を示し、横軸は電流i(μA)を示している。【0039】実施例2(1)装置不均一磁場における電磁泳動の実験を行った。この実験の装置を図8に示す。この実験では、定電圧電源・光学顕微鏡・CCDカメラ・ブリッグスセル(Briggs−Cell)一式からなるζ電位測定用(三田村理研工業)の装置を用いた。ここで便宜上、図8の右上に示したセル(内径73×23×1mm)に座標軸を置いた。長さ方向をX軸、幅方向をY軸、深さ方向をZ軸とした。セルはアルミの枠に固定されていて、そのアルミ枠をステージに水平に固定し、XY方向に平行に動かせるようにした。粒子の泳動の様子は、セルの真上から光学顕微鏡を用いて観察した。倍率は300倍(接眼レンズ×15、対物レンズ×20)であった。この顕微鏡には焦点調整のために目盛のついた微動ネジがついているので、その値から深さを求めた。【0040】この実験に用いた装置を以下に示す。【0041】(2) 試薬電磁泳動力の違いを見るために、この実験では導電率の異なる二種類の粒子を用いた。絶縁体であるポリスチレンラテックス(カルボキシレート)粒子(以下ポリスチレン粒子と略す)と、導電体の粒子である炭素球粒子である。それぞれの調製方法を以下に示す。まずポリスチレン粒子(半径1.5μm)は、市販のラテックス試料を蒸留水をミリポア(MILLIPORE)によって精製した精製水(以下、水と略す)又はKCl水溶液で観測しやすい粒子数に希釈したものを用いた(粒子数 3.36×105個・cm−3)。実際には100cm3の水に対して、ラテックス試料を20μl加えた。試料は晋段は冷蔵保存し、測定する前に室温(25℃)に戻した。【0042】次に炭素球粒子としてバイオテクリサーチのカーボンカラム・ビーズを用い、約0.05%(W/W)になるように調製した。しかし、水だけでは浮かんでしまい分散しなかったので、中性の界面活性剤であるトリトンX−100を約0.01%(V/V)になるように加え、振とう機で1時間程度振とうさせると、よい分散が得られた。粒子の半径は様々であったが、かなり小さい粒子(半径、約1μm)だけはある程度の時間分散していた。実際には100cm3の水に対して、.炭素球を約0.05g、トリトンX−100を10μl加えた。【0043】(3) 電気泳動挙動の測定法まずあらかじめ測定前に試料のpHと導電率を測定する。そしてセルに入れる前に試料をよく撹拌し、セルの内部に空気が残らないようにセルを試料で満たしていく。粒子は水より密度が大きく、徐々に沈んでいくので以降は手際よく測定する。セルに試料を満たした後、ステージに固定し、顕微鏡でまず深さの基準となる溝を探す。次に上の溝から微動ネジを使って定常レベルに合わせ、焦点の合っている粒子をXYステージを動かして探す。粒子が見つかったら、ビデオを録画にし、電圧をかける(約50V)。泳動挙動を緑画したら、電圧をかけるのを止めビデオを止める。このようにして数個の粒子について測定し、電極の正負を変え、上下の定常レベルについてそれぞれ測定し、この4過程で1つの試料の測定とする。測定した試料はそのままもう一度導電率を測定する。【0044】(4) 電磁泳動挙動の測定法基本的に前記(3)の電気泳動挙動の測定法と操作は変わらない。変わるのは、セルの下に磁石(16×16×5mm)を設置する点である。この磁石はステージの動きと関係なく常に対物レンズの真下にあるので、顕微鏡の視野内では水平な均一電場に垂直に不均一磁場が存在している(図9)。磁石には非常に強力なネオジム鉄ボロン磁石を用いた(lmmのガラスを挟んだ上の磁束密度約0.36Tであった。)。【0045】(5) 粘度測定トリトンX−100を加えたことによって多少セルの中を流れる試料の流れが遅くなったように感じられたので、トリトンX−100水溶液の粘度を調べた。測定にはユベロード粘度計を使い、25℃における水に対する相対粘度を求めた。【0046】(6) 測定結果まず、磁場をかけると明らかに粒子の泳動挙動に変化が見られた。粒子は電気泳動の方向とは異なる方向に泳動した。その様子を連続写真に示す(図10及び11)。いずれの写真も左側が正極で右側が負極で、ポリスチレンラテックス粒子の映像である。電気泳動では図10の写真のようにX軸方向にのみ泳動しているが、電磁泳動では図11の写真のようにY軸方向にも泳動し、KCl濃度が増えるにしたがってY軸方向の泳動速度が増した。図11の写真のように電磁泳動では、粒子は斜めに泳動する。そこで粒子の泳動速度をX軸方向及びY軸方向の速度にベクトル分解して、電気泳動との違いについて検討した。【0047】電場に平行な速度成分Vxの泳動移動度のKCl濃度依存性X軸方向の速度成分Vxは電気泳動と同じ方向なので、電気泳動移動度とVxから求めた泳動移動度を比較することで磁場による寄与があるか否かを検討した。泳動移動度にしたのは泳動速度では単純な比較ができないからである。その結果を図12及び13に示す。同図から分かるように泳動移動度にほとんど違いが見られなかった。この結果から磁場の存在下での泳動におけるVxは電気泳動の寄与のみであることが分かった。これは電磁泳動値からが電場と磁場に垂直な方向に働くこととも一致する。【0048】磁場に垂直な速度成分Vyの電流依存性Y軸方向の速度成分Vyは電気泳動のときには0であった。しかもVxは電気泳動だけであったので、このVyは電磁泳動そのものであると考えられる。電磁泳動力は電流密度に比例するので、このVyを電流に対してプロットした(図14)。その結果、ポリスチレン、炭素両粒子とも原点を通る同一の直線に近似できた。このことは導電率の全く違う両粒子にもかかわらず、電磁泳動力に差が見られなかったことを示している。【0049】【発明の効果】本発明の電磁泳動法によれば、微小物体は電場方向のみならず電場と垂直な磁場方向へも移動することから、分子などの微小物体のより詳細な分離・キャラクタリゼーションを行うことができる。また、泳動が二次元的であることから、泳動による分取を簡単に行うことができる。【図面の簡単な説明】【図1】図1は、均一磁場における微小物体の電磁力と電磁浮力の関係を模式的に示したものである。【図2】図2は、本発明の実施例1において使用したセルを示すものである。【図3】図3は、本発明の実施例1において使用したセルホルダーを示すものである。【図4】図4は、本発明の実施例1において使用したセルホルダーを磁場中に置いたところを示すものである。【図5】図5は、本発明の実施例1において使用した本発明の装置を示すものである。【図6】図6は、均一磁場における微小物体の泳動速度と電流の関係の実測値をグラフ化したものである。【図7】図7は、均一磁場における微小物体の泳動速度と電流の関係の計算値をグラフ化したものである。【図8】図8は、本発明の実施例2において使用した本発明の装置を示すものである。【図9】図9は、本発明の実施例2において使用したセルホルダーを磁場に置いたところを示すものである。【図10】図10は、本発明の実施例2における電気泳動の様子を示した、図面に代わる写真である。【図11】図11は、本発明の実施例2における電磁泳動の様子を示した、図面に代わる写真である。最上段はKCl濃度が0mMの場合で、中段はKCl濃度が0.1mMの場合で、最下段はKCl濃度が1mMの場合である。【図12】図12は、本発明の実施例2の電磁泳動における、電場に平行な速度成分Vxの泳動移動度とKCl濃度の関係を実測値に基づいてグラフ化したものである。白丸印はポリスチレン粒子を示し、黒丸印は炭素粒子を示している。【図13】図13は、本発明の実施例2の電磁泳動における、泳動移動度とKCl濃度の関係を実測値に基づいてグラフ化したものである。白丸印はポリスチレン粒子を示し、黒丸印は炭素粒子を示している。【図14】図14は、本発明の実施例2の電磁泳動における、電場に垂直な速度成分Vyの泳動速度と電流の関係を実測値に基づいてグラフ化したものである。白丸印はポリスチレン粒子を示し、黒丸印は炭素粒子を示している。 電解質溶液の分散媒中に分散された微小物体に、電流密度を一定にした電場をかけ、かつ、電場と垂直方向に均一磁場をかけて、次の式(10) v=(−4/9)・(μ2Hj2R2/η)((1−n)/(2+n)) (10)(式中、μ2は媒体の透磁率であり、Hは磁場の強さであり、j2は媒体中の電流密度であり、ηは媒体の粘度であり、Rは微小物体の半径であり、nは(微小物体の電気伝導度σ1)/(媒体の電気伝導度σ2)の値である。)で示される泳動速度vに基づく電磁泳動による当該微小物体の電磁泳動に作用する電気伝導度の相違により当該微小物体を分離する方法。


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