タイトル: | 特許公報(B2)_嫌気性菌の培養方法 |
出願番号: | 1998213429 |
年次: | 2007 |
IPC分類: | C12N 1/20,C12N 1/38 |
北城 俊男 JP 3981472 特許公報(B2) 20070706 1998213429 19980714 嫌気性菌の培養方法 株式会社喜源バイオ研究所 598101192 渡辺 徳廣 100069017 北城 俊男 20070926 C12N 1/20 20060101AFI20070906BHJP C12N 1/38 20060101ALI20070906BHJP JPC12N1/20 AC12N1/38 C12N1/00-1/38 BIOSIS WPI JSTPLUS 特開昭62−74278(JP,A) 特開昭62−74282(JP,A) 日本生化学会編,新生化学実験講座17 微生物実験法,第1版,株式会社 東京化学同人,1992年3月23日,p.122 3 2000023663 20000125 13 20010207 2004003360 20040219 種村 慈樹 鈴木 恵理子 八原 由美子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、嫌気性菌の培養方法およびそれに用いる培地に関し、特に嫌気性菌であるビフィズス菌または乳酸菌の培養方法およびそれに用いる培地に関するものである。【0002】【従来の技術】従来、嫌気性菌であるビフィズス菌(Bifidobacterium)は母乳栄養児の腸内ではほとんど純粋培養の状態で存在し、人工栄養児の腸内ではビフィズス菌の数が少なく大腸菌、腸球菌が多いために腸内疾患が高くなることが知られている。また、ビフィズス菌は成人の腸内でも健康な時は優勢菌の一つとして存在し、不健康な時は減少または消滅することが確認されている。【0003】そのために、このビフィズス菌を用いた医薬品、食料品が市販され、ビフィズス菌を経口摂取することにより、乳児や成人の下痢の防止や健康の向上に利用されている。また、嫌気性菌である乳酸菌は、一般によく知られており、飲料や乳醗酵製品の製造に用いられと共に、生菌は整腸剤にも用いられている。【0004】これ等のビフィズス菌および乳酸菌の培養は、嫌気性菌であるために、培養は酸素の存在しない状態で行なわれる。特に、ビフィズス菌は、その複雑な栄養要求と併せて偏性嫌気性菌であるため、通性乳酸菌群と比較して培養に一段と工夫が必要とされている。【0005】【発明が解決しようとする課題】現在、ビフィズス菌の小規模液体培養では培養中の嫌気度を保ため、培地にシステインまたはアスコルビン酸などの還元剤を添加している。しかし、ビフィズス菌を工業的に大量培養する場合、これらの還元剤は高価なため、コストが高くなり不利な欠点があった。【0006】本発明者は、従来のビフィズス菌および乳酸菌の嫌気性培養の培地に用いられている還元剤の代わりに、嫌気状態に保つための他の培地を検討した。その結果、本発明に到達したものである。【0007】即ち、本発明は、ビフィズス菌および乳酸菌の嫌気性培養を行なう培地にゲル化剤を添加することにより、ビフィズス菌および乳酸菌を高い増殖度で安価に得ることができる嫌気性菌の培養方法およびそれに用いる培地を提供することを目的とするものである。【0008】【課題を解決するための手段】 本発明は、嫌気性菌の培養方法において、嫌気状態を保つためのゲル化剤として糊化したコンスターチを含有する液体培地を用いて、嫌気性菌を培養して培養液を得る工程、該培養液を酵素処理した後、遠心分離して菌体を分離する工程を有することを特徴とする嫌気性菌の培養方法である。【0009】前記嫌気性菌には、ビフィズス菌または乳酸菌を用いるのが好ましい。前記ゲル化剤は、コンスターチ、アルギン酸および寒天から選ばれた少なくとも1種が用いられ、特にコンスターチが好ましい。【0010】【発明の実施の形態】本発明の嫌気性菌の培養方法は、従来のビフィズス菌および乳酸菌の嫌気性培養の培地に用いられている還元剤の代わりに、培地を嫌気状態に保つためにコンスターチ(糊化)、アルギン酸および寒天などのゲル化剤を含有する培地を用いて培養することを特徴とする。【0011】一般に、嫌気性菌の培養方法において、高圧減菌後の培地は嫌気状態にあり冷却と共に空気中の酸素が培地に溶存し好気状態になるが、本発明では、予めコンスターチなどのゲル化剤を培地に添加しておくことにより、そのゲル化剤による粘性のため培地への酸素の溶存を防止し嫌気状態を保つことができる。【0012】本発明においては、嫌気性菌はビフィズス菌または乳酸菌が好ましく、特にビフィズス菌が好ましい。嫌気性菌の培養方法に用いる培地には、基礎培地に嫌気状態を保つためのゲル化剤を含有する。基礎培地は、特に制限はなく、通常のビフィズス菌または乳酸菌に用いられている培地を使用することができる。例えば、炭素源、窒素源、無機物質、その他の添加剤を含むものであればよい。【0013】ゲル化剤には、コンスターチ、アルギン酸および寒天から選ばれた少なくとも1種が用いられる。それらの中でコンスターチが好ましい。【0014】培地中のゲル化剤の含有量は、0.1重量%以下が好ましい。また、ゲル化剤はその種類により含有量を調整することが好ましく、例えばコンスターチでは0.1〜1重量%、アルギン酸では0.05〜0.1重量%、寒天では0.05〜0.1重量%の範囲が好ましい。この含有量の範囲では、ゲル化剤を培地に添加すると、そのゲル化剤による粘性のため培地の粘度が高くなり、培地への酸素の溶存を防止し嫌気状態を良好に保つことができる。【0015】本発明に用いるゲル化剤のコンスターチ、アルギン酸、寒天などは安価であり、培地中に上記の様に少量添加することにより、ビフィズス菌のような偏性嫌気性菌の培養に好適な培地を安価に得ることができる。【0016】【実施例】以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。【0017】実施例1ビフィズス菌の培養に用いる培地の嫌気度を保つため、培地にゲル化剤および還元剤を添加した場合のビフィズス菌の発育に及ぼす影響について検討した。ビフィズス菌には、ビフィドバクテリウム・ロンガムを用いた。なお、%は特に制限のない限り、重量%を示す。【0018】I.添加物ゲル化剤として、コンスターチ、アルギン酸、寒天を用いた。還元剤として、アスコルビン酸、システイン塩酸塩、グルコースを用いた。【0019】II.基礎培地基礎培地として、下記の組成からなる溶液を用いた。【0020】ペプトン 10.0g肉エキス 5.0g酵母エキス 5.0gグルコース 10.0gK2 HPO4 3.0gツィーン80 1.0m1精製水 1000m1PH 6.8(注)ツィーン80は、乳化剤を示す。【0021】III.各添加物原液の調製1)アルギン酸原液の調製0.8%水溶液を加熱溶解した後、水冷、PH4.0に修正(PH7.0以上にすると沈殿)2)寒天原液の調製0.8%水溶液を加熱溶解し、PH4.0に修正3)アスコルビン酸原液の調製精製水15m1にアスコルビン酸2.0gを溶解しPH7.0に修正し、精製水を加えて20m1とした。(115℃、20分滅菌)4)システイン塩酸塩原液の調製精製水15m1にシステイン塩酸塩2.0gを溶解しPH7.0に修正し、精製水を加えて20m1とした。5)グルコース原液の調製10%水溶液【0022】IV.培地の調製1)基礎培地上記の基礎培地を使用した。2)コンスターチ添加培地基礎培地25m1にコンスターチをそれぞれ添加し精製水を加えて40m1とした培地を75℃〜80℃に加熱してコンスターチを糊化し、冷却後pHを5.8に修正した後、精製水を加えて50m1とした。3)アルギン酸および寒天添加培地2倍濃度の基礎培地25m1に、各原液をそれぞれ添加し精製水を加えて40m1とした。更に各培地のPHを6.8〜7.0に修正した後、精製水を加えて50m1とした。4)アスコルビン酸、システイン塩酸塩およびグルコース添加培地基礎培地50m1に、アスコルビン酸、システイン塩酸塩およびグルコースをそれぞれ所要量を添加した。【0023】V.培養方法各培地(培養液)15m1を、それぞれ中試験管に入れ、115℃で20分間高圧滅菌した。尚、アスコルビン酸添加培地は基礎培地を滅菌した後、添加液を無菌的に加えた。【0024】この各培地15m1に、ビフィドバクテリウム・ロンガムの培養液0.5m1を接種し、37℃、72時間培養して増殖度を測定した。培養中の培養は、混濁した状態であった。【0025】酸度は各培地の菌接種培地より未接種培地の酸度を引いて表示した。また、酸度は、試料10mlを中和するに要する0.1N水酸化ナトリウム液の量(ml)で示した(単位なし)。【0026】VI.結果結果を下記の表1〜6に示す。【0027】【表1】コンスターチ添加(区)とビフィズス菌の増殖度【0028】【表2】アルギン酸添加(区)とビフィズス菌の増殖度【0029】【表3】寒天添加(区)とビフィズス菌の増殖度【0030】【表4】アスコルビン酸添加とビフィズス菌の増殖度【0031】【表5】システイン添加(区)とビフィズス菌の増殖度【0032】【表6】グルコース添加(区)とビフィズス菌の増殖度【0033】【表7】基礎培地【0034】上記の表に示す様に、偏性嫌気性菌のビフィズス菌の液体培地において、培地の嫌気度保持のためゲル化剤を添加した場合と、無添加培地および還元剤を添加した場合との増殖度を比較検討した結果、下記のことが認められる。【0035】(1)基礎培地(ゲル化剤、還元剤を無添加:表7)に比較して増殖度(酸度、菌数)が優れた区は以下の通りであった。▲1▼コンスターチ区の0.1%、0.5%および1.0%添加区(表1)▲2▼アルギン酸区の0.05%および0.1%添加区(表2)▲3▼寒天区の0.05%、および0.1%添加区(表3)▲4▼システイン区の0.5%添加区(表5)(2)アスコルビン酸区およびグルコース区では、何れの添加量でも基礎培地の増殖度に優る区はみられなかった。【0036】以上の結果より、基礎培地にコンスターチを0.l〜1.0%、アルギン酸を0.05〜1.0%、また寒天を0.05〜0.1%添加することによりビフィズス菌の増殖をさらに高めることが判った。【0037】実施例2I.製剤試料の調製各培養液を遠心分離器で菌体を分離し上澄液を得る。これを適量のオリゴ糖、デキストリンと混和し噴霧乾燥した。ただし、コンスターチ添加区は培養液の粘度が高く遠心分離できないので下記のように酵素処理した。【0038】【0039】II.粒度分布(1)試験方法:下記のように“日本薬局方 散剤”の項に従って検討した。試料10gを正確に量り、18号(850μm)、30号(500μm)、150号(l05μm)、200号(75μm)および受器の順にふるいを重ね、上段のふるいに試料を入れ上ふたをした後、3分間水平に揺り動かしながら、ときどき軽くたたきふるった後、各ふるいを通過した重量を量った。【0040】(2)試料:基礎培地▲1▼を培養した培養ろ液を噴霧乾燥した細粒剤、および基礎培地にコンスターチ▲2▼、アルギン酸▲3▼、寒天▲4▼、システイン▲5▼、グルコース▲6▼を各々添加して培養した培養ろ液を噴霧乾燥した細粒剤を用いた。各試料のふるい通過量を下記の表8に示す。【0041】【表8】試料▲1▼〜▲4▼の粒度について検討したが、各試験区の間に差はみられなかった。【0042】III.舌ざわり試験者(パネル)5名により、試料の少量を舌上にのせ溶解時のなめらかさ等を検討した。その結果を下記の表9に示す。【0043】【表9】(注)表中の数字は“舌ざわり”良好の順位を示し、1は最良、2は良、3はほぼ良を示す。【0044】試験者の間に差はあるが、“舌ざわり”は、概略アルギン酸▲3▼>コンスターチ▲2▼>基礎培地▲1▼の順であった。IV.溶解性300mlビーカーに35℃〜37℃の温水150mlを入れ、これに粒径850〜500μmの粒子の試料0.30gを添加し、ガラス棒でゆっくり撹拌し溶解状況を観察したが、何れの区も35〜45秒の間で溶解し、各区の間に差はみられなかった。【0045】実施例3乳酸菌としてラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillusacidophilus)を用いて、その培養に用いる培地の嫌気度を保つため、基礎培地にゲル化剤としてコンスターチを添加した場合の乳酸菌の増殖度に及ぼす影響について検討した。【0046】I.基礎培地基礎培地として、下記の組成からなる溶液を用いた。ペプトン 10.0g酵母エキス 5.0gグルコース 30.0g塩化ナトリウム 3.0g炭酸カルシウム 10.0g精製水 1000mlPH 6.5【0047】II.培地の調製培地の調製および試験方法は、実施例1と同様に行なった。結果を下記の表10に示す。【0048】【表10】コンスターチ添加(区)とラクトバチルス・アシドフィルス菌の増殖度以上の結果より、乳酸菌(ラクトバチルス・アシドフィルス)の場合も、基礎培地にコンスターチを0.l〜0.5%添加することにより乳酸菌の増殖をさらに高めることが判った。【0049】【発明の効果】以上説明した様に、本発明によれば、ビフィズス菌および乳酸菌の嫌気培養を行なう培地にゲル化剤を添加することにより、ビフィズス菌および乳酸菌を高い増殖度で安価に得ることができる効果を奏する。【0050】また、ゲル化剤のコンスターチ、アルギン酸、寒天などは安価であり、培地中に少量添加することにより、ビフィズス菌のような偏性嫌気性菌の培地を安価に調製することができ。また、本発明の各培養液を遠心分離器で菌体を分離して調製した製剤は、粒度分布、舌ざわり、溶解性において、基礎培地あるいは還元剤を添加した培地の製剤と同等の製品を得ることができる。 嫌気性菌の培養方法において、嫌気状態を保つためのゲル化剤として糊化したコンスターチを含有する液体培地を用いて、嫌気性菌を培養して培養液を得る工程、該培養液を酵素処理した後、遠心分離して菌体を分離する工程を有することを特徴とする嫌気性菌の培養方法。 前記コンスターチの含有量が0.1〜1重量%である請求項1記載の嫌気性菌の培養方法。 前記嫌気性菌がビフィズス菌または乳酸菌である請求項1記載の嫌気性菌の培養方法。