タイトル: | 特許公報(B2)_痴呆症鑑別試薬 |
出願番号: | 1998059127 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C12Q 1/533 |
藤田 素樹 林 泰三 内田 浩二 松尾 雄志 JP 4143160 特許公報(B2) 20080620 1998059127 19980225 痴呆症鑑別試薬 オリエンタル酵母工業株式会社 000103840 松本 久紀 100097825 戸田 親男 100075775 藤田 素樹 林 泰三 内田 浩二 松尾 雄志 20080903 C12Q 1/533 20060101AFI20080814BHJP JPC12Q1/533 C12Q 1/533 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) CAplus(STN) PubMed JSTPlus(JDreamII) 特開平08−322595(JP,A) Mech. Ageing. Dev.,1980年,Vol.14,No.1-2,pp.203-209 Arch. Gerontol. Geriatr.,1984年,Vol.3,No.2,pp.161-165 生物試料分析,1996年,Vol.19,No.4,pp.227-236 FASEB J.,1998年,Vol.12,No.1,pp.17-34 8 1999239500 19990907 10 20050223 特許法第30条第1項適用 平成9年10月3日 日本電気泳動学会開催の「第48回日本電気泳動学会総会」において文書をもって発表 小金井 悟 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、痴呆疾患の鑑別システムに関するものであり、更に詳細には、アルツハイマー型痴呆(DAT)と脳血管性痴呆(VD)とを効果的に鑑別するシステムに関するものである。【0002】【従来の技術】ホスホグリセリン酸ムターゼ(Phosphoglyceric acid mutase)(PGAMということもある:EC5.4.2.1)は、解糖系酵素の一つで、2,3−ビスホスホグリセリン酸(2,3-bisphosphoglycerate : Glycerate-2,3-P2)の存在下、2−ホスホグリセリン酸(2-phosphoglycerate : Glycerate-2-P)と3−ホスホグリセリン酸(3-phosphoglycerate : Glycerate-3-P)の相互交換を触媒する。【0003】哺乳動物にはPGAMをコードする遺伝子が二つ存在する。Mサブユニット(分子量約3万)の遺伝子は成人の骨格筋、心筋で発現され、これらの組織ではMMホモダイマー(M型PGAM、M−PGAM、PGAM−MM、PGAM−M又はM型アイソザイムともいう)が存在する。Bサブユニット(分子量約3万)の遺伝子は成人の脳、肝、腎および赤血球で発現され、これらの組織ではBBホモダイマー(B型PGAM、B−PGAM、PGAM−BB、PGAM−B又はB型アイソザイムともいう)が存在する。従って、M型PGAMは筋肉特異的アイソザイムに、またB型PGAMは非筋肉型あるいは脳型アイソザイムに分類される。MおよびBの両サブユニットの遺伝子は心筋で特異的に発現されており、この組織ではB型およびM型PGAMに加えてMBヘテロダイマー(MB型PGAM、MB−PGAM、PGAM−MB又はMB型アイソザイムともいう)も存在する。【0004】YatesらはPGAMアイソザイムを分別定量できるisoelectric focusingを使って、正常血漿中のPGAM活性が専らB型アイソザイムに由来することを示した。また、Markertは正常ヒト胎児および成人の脳では、主にPGAMのB型アイソザイムが存在するが、脳腫瘍組織ではMB型およびM型アイソザイムが認められ、発現レベルが腫瘍の悪性度と相関すること、それに対して筋肉特異的酵素であるクレアチンキナーゼ(Creatine kinase:CK)ではそのような変化は認められないことを示した。しかし、これまで、血清中のPGAMアイソザイムの変動と各種脳性疾患病態との関連についてはあまり調べられておらず、本発明者らが先に特許出願したB型PGAMの脳卒中マーカーとしての利用が報告されている程度である(特開平8−322595)。また、痴呆症との関連についての報告もなく、ましてやDATとVDとの鑑別に至っては全く何も知られていない。【0005】【発明が解決しようとする課題】どの疾患においても正確にして迅速な診断が不可欠であるが、特に痴呆症においては、DATとVDとではその治療法を大きく異にするため、これらの正確にして迅速且つ簡便な早期鑑別システムの開発が強く求められている。【0006】【課題を解決するための手段】本発明は、上記した当業界の要望に応える目的でなされたものであって、DATとVDとを鑑別する方法を求めて各方面から研究した結果、PGAMが有用であることをはじめてつきとめただけでなく、血中のPGAMを測定することによりDATとVDとの鑑別が可能であることもはじめて発見した。【0007】鑑別マーカーの測定にあたり、血清等の血液サンプルを試料として使用できることは、細胞等を試料としなければならない場合に比して、採取、取扱い、測定の面できわめてすぐれていることにほかならないし、そのうえ、血中の全PGAMの測定のほか、PGAMアイソザイムの内、血中の主成分であるB型アイソザイムを測定することにより両者の鑑別が可能であること、換言すれば、全PGAMにかえて血中のB型PGAMを測定すれば両者の鑑別が可能であることもはじめて見出し、これらの有用新知見に基づき、遂に本発明の完成に至ったものである。【0008】すなわち、本発明者らは、PGAM(全PGAM、B型PGAM)がDATとVDの鑑別マーカーとして有用であることをはじめて明らかにしただけでなく、血液サンプル中のPGAMを測定することにより両者の鑑別が可能であること、なかんずく、全PGAMはもとより、血液中のB型PGAMを測定するだけで充分両者の鑑別が可能であることもつきとめた。そして更に、両者鑑別のためのPGAM、B型PGAMの測定方法として、本発明者らが先に開発した方法(特開平8−322595)が適用可能なことも確認して、本発明の完成に至ったものである。以下、本発明を詳しく説明する。【0009】本発明に係るPGAMの測定方法を、先ず、血中の主成分であるB型アイソザイムについて述べる。B型PGAMを測定する方法は、血清等の血液サンプルをPGAM阻害剤によって処理し、特定のアイソザイムを失活せしめた後、残存のPGAM活性を測定することからなるものである。例えばPGAM阻害剤として四チオン酸を用いた場合、M型アイソザイムはほぼ100%失活し、MB型は約50%失活し、B型はほとんど失活しない。したがって、血清に四チオン酸を添加してM型アイソザイムを失活させた後、残存のPGAM活性を測定することにより、B型アイソザイムを分別定量することができるのである。【0010】なお、PGAMの精製アイソザイムを用いた阻害実験によれば、四チオン酸処理によってMB型は50%しか失活せず、50%は活性が残存するが、現実において、正常血清及び脳組織のPGAM活性のほとんどは、B型アイソザイムによるものであるので、MB型アイソザイムの残存活性は、生体サンプルにおけるDATとVDの鑑別を行う場合においては、これを無視することができることが確認されるとともに、B型PGAM値と全PGAM値とは、両者の鑑別を行うにおいて、実質的な差異がないこと、換言すれば、血液中のB型PGAM値を測定しても全PGAM値を測定しても両者の鑑別が可能であることも確認された。【0011】PGAM阻害剤としては、酸化剤、SH試薬等PGAM又はそのアイソザイムの活性を選択的に阻害しうる物質がすべて使用できる。その非限定例としては、ポリチオン酸及び/又はその誘導体が挙げられる。ポリチオン酸は、三〜六チオン酸がいずれも使用可能であって、その誘導体としてはカリウム塩、ナトリウム塩等が使用可能であり、好適例のひとつとして、四チオン酸カリウムが例示される。【0012】本発明に係る測定方法は、血清等の血液試料に四チオン酸カリウム等の阻害剤を作用させてPGAM−Mを失活させ(PGAM−MBの活性は上記したように本生体測定系においては無視できる)、残存のPGAM−Bを測定試薬を用いて測定するものである。【0013】その測定原理は、下記表1に記載したように、M型PGAMアイソザイムの阻害剤である四チオン酸カリウムを用いてM型アイソザイムを失活せしめた後、次のようにして活性測定を行うことからなるものである。すなわち、2,3−ビスホスホグリセリン酸(Glycerate-2,3-P2)の存在下、PGAM−Bによって、3−ホスホグリセリン酸(Glycerate-3-P)を2−ホスホグリセリン酸(Glycerate-2-P)とし、これをエノラーゼによりPEPとH2Oとする。次いでPEPを、ADPの存在下ピルビン酸キナーゼ(PK)によりピルビン酸(Pyruvate)とATPとにし、得られたピルビン酸に、NADHの存在下、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を作用させ、NADHの減少をレートアッセイ(rate assay)するものである。【0014】【表1】【0015】NADHの減少は市販の測定機器によって容易に測定することができ、PGAM−Bが正確に且つ迅速に測定できる(全PGAMも同様である)。しかも後述する実施例からも明らかなように、痴呆疾患患者由来の血清サンプル中のPGAM値は、DAT患者よりもVD患者の方が高く、したがってPGAMの測定は、DATとVDとの鑑別にきわめて有効であることが判明し、PGAMは両者の鑑別用マーカーとしてきわめて好適であることも実証された。このようなことは従来全く知られておらず、PGAMは鑑別用新規マーカーと認められる。【0016】また、本発明によれば、エノラーゼ、ピルビン酸キナーゼ(PK)、NADH、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、PGAM阻害剤(四チオン酸カリウム等:PGAM−B測定の場合のみ)を含有し、更に必要に応じて、基質、緩衝液を含有したPGAM−B測定試薬を提供することができ、これはDATとVDの鑑別剤として利用することができる。本試薬は、後記実施例に例示したように試薬1及び試薬2としてキットとして市販することも可能である。【0017】以上、PGAM−Bの測定について述べたが、全PGAM(単にPGAM又はT−PGAMということもある)も、B型アイソザイムと同じ行動を示し、T−PGAMもPGAM−Bと全く同様にDATとVDの鑑別に利用することができる。【0018】T−PGAMの測定方法も、阻害剤を使用しないだけで、他はB型アイソザイムの場合と全く同一であって(その測定原理も、表1に示した測定原理の内、阻害剤を使用する(1)を除き、そして(2)のPGAM−BをT−PGAMに代えた点を除き、全く同一である)、NADHの減少をレートアッセイ法で測定すればよく、B型アイソザイムの場合と同様に、T−PGAMの測定もDATとVDの鑑別に利用することができる。この場合は、阻害剤を使用することなく測定することができ、両者の鑑別において有効性が高いものである。【0019】T−PGAMの測定試薬及び同キットについても、阻害剤を使用する点を除き、B型アイソザイムの場合と全く同一であり、上記した理由と同じ理由により、これ(ら)もDATとVDの鑑別用試薬としてきわめて有効に利用することができる。以下、本発明の実施例について述べる。【0020】【実施例1】下記表2の作業手順、条件にしたがい、血清試料について、血中PGAM値を日立7150自動分析器を用いて測定した。対象は、アルツハイマー型痴呆(DAT)患者68例、血管性痴呆(VD)患者54例とし、痴呆の程度や平均年齢には有意差はなかった。検体は、すべて早朝空腹時に採取された。【0021】【表2】【0022】測定試薬としては、下記組成を有する試薬1(R−1)及び試薬2(R−2)を用いた。【0023】【0024】【0025】試薬1(R−1)250μlと、血清サンプル5μlを混合し、5分間放置した。次いで試薬2(R−2)を用いてPGAMの活性を測定した。試薬2(R−2)にはグリセリン酸−3−リン酸(基質)が含まれているので、試薬2を41μl添加することによって反応を開始せしめた(基質スタート)。試薬2の添加から約1.5分後に測定を開始した。【0026】測定には日立7150自動分析装置を用い、アッセイコードをRATE−A:32−39、測定温度を37℃に設定し、約1.5分NADHの減少による吸光度A340nmの減少を測定した。なお、副波長は405nmで測定を行った。【0027】酵素の1単位(1U:1unit)は、37℃で1分当りに1μmolのNADHを減少させる酵素量と定義した。実際の測定値は、レートアッセイ値に検量係数(K FACTOR)を乗じて求めた。得られた結果を図1に示した。【0028】その結果から明らかなように、血中PGAM値はDATで37.7±22.3U/l、VDは52.1±37.6U/lで、両群間に有意差がみられた(P<0.05、t−test)。本発明者らは、健常者50例並びにルーチン検査が正常範囲内の外来患者227例(6〜89才)のデータから、22〜60U/lを正常範囲としている。DATでは8例(12%)が高値、10例(14%)が低値であった。一方、VDでは13例(24%)が高値を示したが、低値を示したのは1例(2%)のみであって、DATに比してVDで高値を示した。【0029】上記結果から、血中PGAM値は、両痴呆間に有意差があり、両痴呆疾患の鑑別に利用できることが明らかになり、PGAM値が両者の鑑別用マーカーとして利用できることが立証された。【0030】【実施例2】四チオン酸カリウムのPGAM−B及びPGAM−Mに対する影響を自動分析法によって検討した。試料としては、B型及びM型の標準品(いずれもプール血清ベース)を用い、生理食塩水で希釈して1/1〜1/8のサンプルを用意した。これらのサンプルに各種濃度の四チオン酸カリウムを添加し、5分間反応させた後、B型及びM型PGAM量を自動分析法を利用して測定した。【0031】実施例1の試薬を用い、自動分析法によってPGAM−B、PGAM−M量をそれぞれ測定し、下記表3の結果を得た。その結果から明らかなように、四チオン酸カリウムによってM型アイソザイムのみが特異的に失活し、B型アイソザイムは全く影響されないことが判った。【0032】【表3】【0033】【実施例3】実施例1で用いた血清試料について、M型PGAMアイソザイム阻害剤として四チオン酸カリウムを用いて、PGAM活性の測定を行った。測定試薬としては、実施例1で使用したPGAM活性測定試薬(R−1)に2.25mM(最終濃度1.9mM)となるように四チオン酸カリウム(分子量302.4)を添加溶解し((R−1)試薬22mlに四チオン酸カリウムを15mg溶解)、M型を失活させ、B型PGAM活性測定試薬を調製した。【0034】試薬1(R−1)に四チオン酸カリウムを添加溶解した液250μlと、血清サンプル5μlを混合し、5分間放置した。その間に血清サンプル中のM型(及びMB型)PGAMが失活、阻害されるので、以下、試薬2(R−2)を用いてB型PGAMの活性を測定した。その結果、T−PGAMの場合と同様に、B−PGAM値もDATに比してVDの方が高く、B−PGAMが両者の鑑別に利用できることが示された。【0035】【発明の効果】本発明により、PGAM(B−PGAMも同様)を測定することにより、DATとVDとを迅速且つ正確に鑑別することが可能となってので、両者の正確な早期診断が可能となり、的確な痴呆症の治療を早期から実施することができる。【図面の簡単な説明】【図1】アルツハイマー型痴呆(DAT)と血管性痴呆(VD)における血中PGAM濃度を示す。 血清中のホスホグリセリン酸ムターゼ(PGAM)又はそのB型アイソザイム測定試薬からなり、アルツハイマー型痴呆(DAT)と血管性痴呆(VD)とを鑑別するものであること、を特徴とする痴呆症鑑別試薬。 PGAM測定試薬が、エノラーゼ、ピルビン酸キナーゼ、NADH、乳酸デヒドロゲナーゼを含有するものであること、を特徴とする請求項1に記載の試薬。 B型アイソザイム測定試薬がPGAM阻害剤を含有すること、を特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の試薬。 PGAM阻害剤がポリチオン酸、又はそのカリウム塩、又はナトリウム塩であること、を特徴とする請求項3に記載の試薬。 PGAM阻害剤が四チオン酸のカリウム塩及び/又はナトリウム塩であること、を特徴とする請求項4に記載の試薬。 請求項1〜2のいずれか1項に記載の試薬を用いて、人体から採取した後の血液中のPGAMをレートアッセイ法によって測定すること、を特徴とする痴呆症の識別方法。 請求項1〜2のいずれか1項に記載の試薬及びPGAM阻害剤を用いて、人体から採取した後の血液を処理した後、PGAMのB型アイソザイムをレートアッセイ法によって測定すること、を特徴とする痴呆症の識別方法。 PGAM又はそのB型アイソザイムからなり、アルツハイマー型痴呆(DAT)と血管性痴呆(VD)とを鑑別する、痴呆症の鑑別用マーカー。