タイトル: | 特許公報(B2)_破傷風毒素の機能的フラグメント抗原及び破傷風ワクチン |
出願番号: | 1997534242 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | A61K 39/08,A61P 31/04,C12N 15/09,C12P 21/02,C07K 14/33 |
松田 守弘 JP 4229341 特許公報(B2) 20081212 1997534242 19970324 破傷風毒素の機能的フラグメント抗原及び破傷風ワクチン 財団法人阪大微生物病研究会 渡邉 潤三 松田 守弘 JP 1996106053 19960323 20090225 A61K 39/08 20060101AFI20090205BHJP A61P 31/04 20060101ALI20090205BHJP C12N 15/09 20060101ALI20090205BHJP C12P 21/02 20060101ALI20090205BHJP C07K 14/33 20060101ALN20090205BHJP JPA61K39/08A61P31/04C12N15/00 AC12P21/02 CC07K14/33 A61K 39/08 A61P 31/04 C12N 15/09 C12P 21/02 C07K 14/33 BIOSIS(STN) CAplus(STN) EMBASE(STN) MEDLINE(STN) 特開昭51−082719(JP,A) 特表平04−506005(JP,A) INFECTION AND IMMUNITY, 1975, Vol.12, No.5, pp.1147-1153 The EMBO Journal, 1986, Vol.5, No.10, pp.2495-2505 6 JP1997000976 19970324 WO1997035612 19971002 26 20030728 瀬下 浩一 技術分野本発明は、破傷風毒素の機能的フラグメント抗原及びそれを用いる破傷風ワクチンに関する。更に詳しくは、本発明は、全長破傷風毒素分子を抗原として用いる破傷風ワクチンに比較して、副作用が著しく低く、しかも免疫原性については実質的に同等の免疫原性を示し、ワクチンの抗原として優れて有用な、破傷風毒素分子の特定の機能的フラグメント抗原、それを有効成分とする優れて安全かつ有効な破傷風ワクチン(破傷風トキソイド)、及び該ワクチンと他種ワクチンとの混合ワクチン、並びにこれ等の製造方法に関する。従来技術衆知の通り、破傷風は、正視に耐えない弓なり緊張や呼吸困難等の悲惨な症状を伴い死に至らしめる、極めて致死率の高い恐ろしい感染症である。また、破傷風菌は芽胞の状態で、土壌や人畜の糞便等に広く常在し、誰もが刺傷や創傷等の外傷部位から常時これに感染する危険性にさらされている。しかも、いったん破傷風に罹患すると、抗生物質や筋弛緩剤等を用いる常套の化学療法はほとんど致命率に変化を与えず、また、破傷風抗毒素(免疫グロブリン)を以てしても、高齢患者の場合、糖尿病や高血圧等の基礎疾患の制約を受け、治療が困難であり、先進諸国では近年、この年齢層に死亡例が集中している。更に、たとえ、小児期に基礎免疫や追加免疫の予防接種を受けていても、成人での持続免疫は、地震、火災、交通事故等での不慮の外傷による破傷風罹患の予防には必ずしも十分ではないので、40〜50歳以上の成人、特に、高齢者には事前に追加免疫のための個人的予防接種を受けておく日頃の備えが肝要である。一方、少なくとも先進諸国では、産院内分娩、生活環境や衛生観念の向上、トキソイドや抗毒素を備えた救命救急医療の充実、低年齢層への予防接種の強制等に伴い、この半世紀の間に破傷風患者数が約1/30以下に激減した。しかも、破傷風は、人から人に伝染しない非流行性の毒素性疾患であるため、ともすれば予防の重要性が社会的に忘れられがちな病気である。しかし、開発途上国での新生児破傷風を含め、破傷風による世界の推計死亡者数は、現在もなお年間約100万例である。また、最近では、薬物乱用による不潔な注射針からの感染罹患が増加しつつある。かかる実情から、破傷風は、治療の対象ではなく、予防あるいは予防接種の対象とすべき疾患として再認識され、それへの対策が推し進められている。例えば、WHOが提唱の世界予防接種拡大計画(EPI)では、破傷風予防接種を重要課題として採択し、活動が進められている。また、これを背景として、破傷風に関する問題だけを討議する「国際破傷風会議」が1963年以来、ほぼ3年ごとに世界各地で開催されている。この様に、破傷風は、根絶が不可能な自然界の常在菌による疾患であり、その予防接種は、老若男女を問わず、全ての人類にとって極めて重要であるばかりでなく、現在のみならず将来もまた必須であると言っても過言ではない。破傷風の予防接種には破傷風トキソイドがワクチンとして用いられ、その有効成分はホルマリンで無毒化した破傷風毒素である。かかるトキソイドは、アジュバントを添加しない単味製剤、あるいはアジュバントとして少量のアルミニウム塩を添加した沈降製剤、また、ジフテリアトキソイド、百日せきワクチン、インフルエンザb型菌ワクチン等との混合製剤のかたちで実用に供されている。なお、破傷風トキソイドの使用に関し、通常、乳幼児にはジフテリア(D)、破傷風(T)及び百日せき(P)の混合ワクチン、いわゆるDPT混合ワクチンが、一方、外傷時の緊急を要する破傷風予防処置の場合には、DT混合トキソイド又は単独のTトキソイドが、それぞれ世界で広く使用されている。そして、その顕著な効果に基づき、該Tトキソイドは最も有効かつ重要なワクチンの1つとして世界的に高く評価されている。しかしながら、現行の破傷風トキソイドには様々な欠陥と課題が山積している。例えば、多様な副作用の随伴、製造者の違いによる品質のばらつき、約5〜10年という限られた免疫持続期間、多数回接種や追加接種の煩雑さ等の観点、換言すれば、ワクチンの安全性、均質性、効能持続、更に、経済性を考慮した予防接種の省力化と全世界への拡大等々の観点から、その質と量産との両側面に立脚した改良すべき課題が山積している。以下、これ等の課題のうち、本発明の主なる目的であるところの、ワクチン抗原として副作用が極めて少なく、しかも高い免疫原性を発揮する破傷風毒素抗原の提供という観点から、従来技術を展望する。従来の破傷風トキソイドには様々な副作用が知られている。例えば、注射部位の発赤、圧痛、腫張、浮腫、無菌膿瘍等の散発する局所反応や全身発熱、更に、希ではあるが、アナフィラキシー、血清病様のIII型過敏症、遅延型過敏症等のアレルギー、末梢神経障害、リンパ節障害、腕神経叢障害、ギラン・バレー症候群、急性横断脊髄炎等の重篤な全身反応が報告されている(S.A. Plotkin and E.A. Mortimer編“Vaccine”、第2版、75−77頁、W.B. Saunders Company 1994年発行;G.L. Mandellら編“Mandell, Douglas and Bennett′s principles and practice of infectious diseases”、第4版、2781頁、Churchill Livingstone & Son, Inc.1995年発行;Journal of the American Medical Association, 264(18), p.2448, 1990及び271(20), p.1629, 1994;Lancet, 339, pp.1111-1112, 2 May 1992)。そのため、これ等の副作用の軽減や克服を目的とする種々の改良、例えば、高度精製に係る工夫、アジュバントの再検討、さらには後述する破傷風毒素のA、B及びCフラグメントないしはサブユニットをワクチンの有効成分として用いる創意等が試行されている。これ等のうち、特に、破傷風毒素フラグメントを用いる技術に関しては、例えば、破傷風毒素をトリプシン及び/又はパパインで消化し調製したAフラグメント又はCフラグメント(特開昭50-71820号、特開昭51-82719号、及び特開昭52-83928号)、パパインで消化・調製したA−Bフラグメント(特開昭53-26319号)、Cフラグメント遺伝子を大腸菌、酵母又はサルモネラ菌で発現させて得た抗原(特開平3-285681号、特表平4-506005号又はPCT特開WO 90/15871号、PCT特開WO 94/03615号、及び欧州特開EP 209281号)、Cフラグメントの合成エピトープ(PCT特開WO 94/00484号)等々が知られている。しかしながら、これ等の破傷風毒素フラグメント・ワクチンは、全長破傷風毒素分子を用いる現行の破傷風トキソイドに比べ、いずれも、抗原性や免疫原性が劣るため、未だ実用化されていない。また、破傷風毒素遺伝子DNAのクローニングとその全塩基配列の決定並びに該毒素の全長アミノ酸配列の解読が行われ[EMBO Journal, 5(10), 2495-2501, 1986;Nucleic Acid Research, 14(19), 7809-7812, 1986;なお、全長破傷風毒素分子の全長アミノ酸配列を配列番号:1に示す]、これに基づく種々の該遺伝子DNA断片の発現や合成ペプチドにより、破傷風毒素のエピトープ領域が検索されている[Infection and Immunity, 57(11), 3498-3505, 1989;Molecular Immunology, 31(15), 1141-1148, 1994]。しかし、かかるエピトープを有効成分として用いる破傷風ワクチンは未だ知られていない。発明の概要本発明者は、破傷風毒素の高度精製が未達成であり、その性状も不詳であった1970年代前半から現在に至る20数年にわたり、破傷風菌とその産生毒素に関する基礎を築くと共に、それに立脚し、系統的に研究を進めた。そして、全長破傷風毒素分子を抗原として用いる従来の破傷風トキソイドに比して、副作用が著しく低く、しかもその免疫原性が上記の従来のワクチンのそれに劣らない破傷風ワクチンのワクチン抗原を開発すべく鋭意研究を行なった。その結果、意外にも、破傷風毒素に由来の機能的フラグメント抗原(Functional Fragment Antigen;以下、屡々、「FFA」と略記する)が破傷風ワクチン用抗原として有効であり、しかも副作用が著しく低い、という驚くべき知見を得た。本発明は、この新規な知見に基いて完成されたものである。従って、本発明の主なる1つの目的は、全長破傷風毒素分子を抗原として用いる従来の破傷風トキソイドに比して、副作用が著しく低く、しかもその免疫原性が上記の従来のトキソイドのそれと実質的に同等の破傷風ワクチンのワクチン抗原を提供することにある。本発明の他の1つの目的は、副作用が著しく低く、しかもその免疫原性が上記の従来のトキソイドのそれと実質的に同等の破傷風ワクチンを提供することにある。本発明の更に他の1つの目的は、上述の破傷風ワクチンの製造方法を提供することにある。本発明の更に他の目的は、破傷風ワクチン抗原としての上記した破傷風毒素の機能的フラグメント抗原の製造方法を提供することにある。本発明の上記及びその他の諸目的、諸特徴ならびに諸利益は、次の詳細な説明及び請求の範囲の記載から明らかになる。配列表の簡単な説明配列表において:配列番号1は、本発明に用いられる全長破傷風毒素分子の全長アミノ酸配列の一態様である。【図面の簡単な説明】図1は、(a)全長破傷風毒素分子の構造の概要を示す図であり、(b)全長破傷風毒素分子のnicked formを示す図であり、(c)全長破傷風毒素分子の「三部分[A・B・C]分子モデル」を示す図であり;図2は、(a)FFAのN末端領域のアミノ酸配列の多様性を示す図であり、(b)全長破傷風毒素分子の概要モデルを示す図である。符号の説明アミノ酸配列におけるアミノ酸残基の一字表記の意味:A アラニン C システイン D アスパラギン酸E グルタミン酸 F フェニルアラニン G グリシンH ヒスチジン I イソロイシン K リジンL ロイシン M メチオニン N アスパラギンP プロリン Q グルタミン R アルギニンS セリン T トレオニン V バリンW トリプトファン Y チロシン発明の詳細な説明本発明によれば、全長破傷風毒素分子の全長アミノ酸配列のN末端側に存在するジスルフィド架橋に関与する2つのシステイン残基間の部分アミノ酸配列中の各アミノ酸を結合するペプチド結合の中の少なくとも1つを開裂すると共に、該ジスルフィド架橋を開裂し、更に、該毒素分子ペプチドを構成するアミノ酸残基間相互の非共有結合[後述説明の図2(b)]を開裂することによって得られる少なくとも1種のフラグメントと実質的に同一のフラグメントよりなり、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により測定された分子量が9万〜11万であり、等電点電気泳動法により測定された等電点が7.25±0.5であることを特徴とする破傷風毒素の機能的フラグメント抗原が提供される。次に、本発明の理解を容易にするために、まず発明の基本的諸特徴及び好ましい態様を列挙する。1.全長破傷風毒素分子の全長アミノ酸配列のN末端側に存在するジスルフィド架橋に関与する2つのシステイン残基間の部分アミノ酸配列中の各アミノ酸を結合するペプチド結合の中の少なくとも1つを開裂すると共に、該ジスルフィド架橋を開裂し、更に、該毒素分子ペプチドを構成するアミノ酸残基間相互の非共有結合を開裂することによって得られる少なくとも1種のフラグメントと実質的に同一のフラグメントよりなり、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により測定された分子量が9万〜11万であり、等電点電気泳動法により測定された等電点が7.25±0.5であることを特徴とする破傷風毒素の機能的フラグメント抗原。2.上記の少なくとも1種のフラグメントが、各々独立に、下記のアミノ酸配列(1)〜(8)よりなる群から選ばれるアミノ酸配列をN末端配列として有することを特徴とする前項1に記載の破傷風毒素の機能的フラグメント抗原。(1) KIIPPTNIRENLYNRTASLTDLGGELCIK(2) IIPPTNIRENLYNRTASLTDLGGELCIK(3) ENLYNRTASLTDLGGELCIK(4) NLYNRTASLTDLGGELCIK(5) NRTASLTDLGGELCIK(6) TASLTDLGGELCIK(7) SLTDLGGELCIK(8) GGELCIK3.固定化剤により固定化された、前項1または2に記載の破傷風毒素の機能的フラグメント抗原。4.前項1から3のいずれかに記載の破傷風毒素の機能的フラグメント抗原を、有効成分として免疫を奏する量含有してなる破傷風ワクチン。5.前項1から3のいずれかに記載の破傷風毒素の機能的フラグメント抗原を、混合された複数の有効成分の一つとして免疫を奏する量含有してなる混合ワクチン。6.破傷風菌の培養液から菌体外毒素を精製採取の後、該菌体外毒素分子内のN末端側に存在するジスルフィド架橋を開裂し、更に、該毒素分子ペプチドを構成するアミノ酸残基間相互の非共有結合を開裂することによって得られる少なくとも1種のフラグメントと実質的に同一のフラグメントよりなり、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により測定された分子量が9万〜11万であり、等電点電気泳動法により測定された等電点が7.25±0.5であることを特徴とする破傷風毒素の機能的フラグメント抗原を固定化剤で固定化することを特徴とする破傷風ワクチンの製造方法。7.前項1または2に記載の破傷風毒素の機能的フラグメント抗原をコードするDNAをベクターに挿入連係し、該ベクターを破傷風菌とは異なる別の宿主に移入し発現させることを特徴とする上記のフラグメント抗原の製造方法。以下、本発明について詳細に説明する。尚、本発明において、Alaはアラニン、Argはアルギニン、Asnはアスパラギン、Aspはアスパラギン酸、Cysはシステイン、Glnはグルタミン、Gluはグルタミン酸、Glyはグリシン、Hisはヒスチジン、Ileはイソロイシン、Leuはロイシン、Lysはリジン、Metはメチオニン、Pheはフェニルアラニン、Proはプロリン、Serはセリン、Thrはスレオニン、Trpはトリプトファン、Tyrはチロシン、Valはバリンである。本発明の機能的フラグメント抗原は、上記したように、全長破傷風毒素分子の全長アミノ酸配列のN末端側に存在するジスルフィド架橋に関与する2つのシステイン残基間の部分アミノ酸配列中の各アミノ酸を結合するペプチド結合の中の少なくとも1つを開裂すると共に、該ジスルフィド架橋を開裂し、更に、該毒素分子ペプチドを構成するアミノ酸残基間相互の非共有結合[後述説明の図2(b)]を開裂することによって得られる少なくとも1種のフラグメントと実質的に同一のフラグメントよりなる。本発明の機能的フラグメント抗原の好ましい態様としては、上記の少なくとも1種のフラグメントが、各々独立に、下記のアミノ酸配列(1)〜(8)よりなる群から選ばれるアミノ酸配列をN末端配列として有することを特徴とする破傷風毒素の機能的フラグメント抗原を挙げることができる。(1) KIIPPTNIRENLYNRTASLTDLGGELCIK(2) IIPPTNIRENLYNRTASLTDLGGELCIK(3) ENLYNRTASLTDLGGELCIK(4) NLYNRTASLTDLGGELCIK(5) NRTASLTDLGGELCIK(6) TASLTDLGGELCIK(7) SLTDLGGELCIK(8) GGELCIK更に、本発明の機能的フラグメント抗原は固定化剤により固定化されていてもよい。次に、本発明の基本的特徴を更に明かにするために、本発明の完成に至る経緯を追いながら、本発明に包含される技術的諸特徴について説明する。高度に毒素産生する破傷風菌:本発明においては高度に毒素産生する破傷風菌が用いられる。本発明者は周知の破傷風菌Harvard株[ATCC(American Type Culture Collection)寄託番号10779]に由来のHarvard A47株から高度毒素産生破傷風菌の亜株を単コロニー分離し、Clostridium tetani Harvard A47株Bikenサブストレイン(以下「ビケン亜株」という)を得ると共に、該菌体内のプラスミドDNAによる毒素産生の支配をも見いだした(Biken Journal, 20,105-115, 1977)。そして、プラスミドDNAによる毒素産生能の支配を考慮した培養方法を用い、ビケン亜株の培養により破傷風毒素の量産に成功し、その量的確保と高度精製を達成した。従って、本発明では先ず、シードとして用いる高度毒素産生破傷風菌を選択し確保する必要がある。破傷風菌シードとしては、上記の高度毒素産生破傷風菌のみならず、後述するFFAをコードするDNAを用い、遺伝子工学的手法により酵母、大腸菌、枯草菌等に形質転換した微生物等も毒素生産用のシードとして用いることができる。破傷風毒素の産生様式と毒素活性:破傷風毒素は、先ず菌体内で分子量約15万の単鎖ポリペプチド(以下、屡々、菌体内毒素という)として生産された後、菌の自己融解に伴い菌体外の培地中に放出される(以下、屡々、菌体外毒素という)。その際、菌が産生するプロテアーゼにより、全長破傷風毒素分子の全長アミノ酸配列のN末端側に存在するジスルフィド架橋に関与する2つのシステイン残基間の部分アミノ酸配列中の各アミノ酸を結合するペプチド結合の中の少なくとも1つが開裂し、少なくとも2本のペプチド鎖になる。但し、かかる両ペプチド鎖は、毒素分子内のジスルフィド架橋で連係されたかたち、即ちnicked formになっており[図1(a)と(b);Biochemical and Biophysical Research Communications, 57, 1257-1262, 1974;同前,68, 668-674, 1976;同前77,268-274,1977]、更に、これ等のペプチドを構成するアミノ酸残基間で相互に非共有結合している[図2(b)]。そして、かかるnicked formの形成に伴い、毒素活性が数倍に上昇する。従って、毒素の機能的フラグメントの調製工程の省力化を考慮すると、出発材料には既にnicked formになっている菌体外毒素[図1(b)]の使用が好ましい。破傷風毒素のサブユニット構造と毒作用発現機構:本発明者の創意的研究により、全長破傷風毒素分子を用い、L(light)鎖とH(heavy)鎖を得た。これら断片はそれぞれ単独では毒性はないが、再構成による全長破傷風毒素分子活性の再現が可能なほど十分native状態で単離精製することに成功した。また、H鎖C末端側の半分(フラグメントC)、全長破傷風毒素分子からC断片を除いた部分(フラグメントA−B)、及び該A−BからフラグメントAを除いた部分(フラグメントB)の分離精製も達成した。更に、全長破傷風毒素分子フラグメントA、B及びC並びにその隣接複合体をそれぞれ調製した後、これ等の構造の相違に基づく機能の違い及び破傷風毒素分子のサブユニット構造と破傷風毒素分子発現機構との関連を解析し、破傷風毒素分子の「三部分[A・B・C]分子モデル」を提唱した[図1(c);Biken Journal, 26, 133-143, 1983;L.L. Simpson編“Botulinum Neurotoxin and Tetanus Toxin”, pp.69-92(第4章), Academic Press 1989年発行]。この分子モデルは、第8回国際破傷風会議(1987年)において最も適切な分子モデルとして認められている。上記のフラグメントCは破傷風毒素分子の中枢神経系への運搬(Carrier)を、フラグメントBは破傷風毒素分子の神経細胞シナプス前部への結合(Binding)と細胞質内への侵入輸送を、そして、フラグメントAが酵素活性による毒性の発揮(Active)をそれぞれ分担している(G. Nistcoら編“Eighth International Conference on Tetanus”, pp.170-171, Phythagora Press, Rome-Milan 1989年発行;Infection and Immunity, 57, 3588-3593, 1989;Tocxicon, 27, 385-392, 1989及び28, 737-741, 1990)。破傷風毒素分子のフラグメントの多様性:上記のA、B及びC各断片ペプチド鎖の長さと分子量並びに名称は、1989年の時点で、世界の研究者の間でまちまちで多様であり、研究者間や国際会議での円滑な討論に支障を来たし、これ等のフラグメントの統一あるいは定義による共通の基盤が期待された。そのため、本発明者は、世界に先駆け、前記の[三部分]分子モデルを提唱すると同時に、既報のフラグメントが多様な現状を指摘し、統一すべきだと提案した[前記L.L. Simpson編“Botulinum Neurotoxin and Tetanus Toxin”, pp.69-92(第4章)]。かかる全長破傷風毒素分子より得られるフラグメントの多様性は、破傷風菌シードの遺伝学的相違のみならず、毒素とそのフラグメントを調製する際の種々の条件、例えば、シードの培養、既にnicked formになっている菌体外毒素を得るための培養菌体の自己融解、抽出した菌体内毒素分子のプロテアーゼによる消化及び還元剤、変性剤、可溶化剤などによる処理に用いる酵素や試薬の種類、温度、時間、濃度、pH、攪拌、振とう、静置等を含む諸条件の微妙な相違によると考えられる。本発明における「FFA」の定義:本発明による機能的フラグメント抗原(FFA)は、全長破傷風毒素分子の全長アミノ酸配列のN末端側に存在するジスルフィド架橋に関与する2つのシステイン残基間の部分アミノ酸配列中の各アミノ酸を結合するペプチド結合の中の少なくとも1つを開裂すると共に、該ジスルフィド架橋を開裂し、更に、該毒素分子ペプチドを構成するアミノ酸残基間相互の非共有結合[後述説明の図2(b)]を開裂することによって得られる少なくとも1種のフラグメントと実質的に同一のフラグメントよりなり、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により測定された分子量が9万〜11万であり、等電点電気泳動法により測定された等電点が7.25±0.5であることを特徴とする破傷風毒素の機能的フラグメント抗原である。本発明者の研究により、多様なFFAのN末端アミノ酸配列が見出された[図2(a)を参照]。本発明において、図2(a)に示された8種の各アミノ酸配列から選ばれる少なくとも1種のアミノ酸配列をN末端配列として有する、破傷風毒素の機能的フラグメント抗原が好ましい。そして、ワクチン用抗原としてのFFAの免疫原性は、全長破傷風毒素分子のそれと実質的に同等であり、しかも、破傷風ワクチンとしてのFFAの副作用は従来の破傷風トキソイドのそれに比べ著しく低い。なお、上記の免疫原性とは、破傷風発症防御能を意味する。また、本発明において、FFAの免疫原性が全長破傷風分子のそれと実質的に同等であるとは、FFA及び参考例14に記載の方法に従い調製される全長破傷風毒素分子それぞれを用いて作成した試作ワクチンの免疫原性の測定を実施例1(5)に記載の毒素攻撃法[免疫動物でのLD50(Median Lethal Dose)を測定する]によって行い、参考例15に記載のスコア法により解析したとき、相対力価(FFA:全長破傷風毒素分子)が1±0.2であることを意味する。以上に基づき、本発明は、破傷風毒素のFFAを有効成分として用いる破傷風トキソイドの単味製剤、沈降製剤及びこれ等の乾燥製剤、また、該トキソイドを有効成分の1つとして含有するDPT混合製剤、DT混合製剤、更に、インフルエンザb型菌、不活化ポリオ、不活化B型肝炎、不活化日本脳炎等の各ワクチンの1種以上との混合製剤を提供すると共に、これ等の量産法の確立により、前記課題を解決するものである。次に本発明のFFAの調製、調製されたFFAを用いたワクチンの調製、得られたワクチンの評価試験などについて説明する。(1)破傷風菌シード:本発明の機能的フラグメント抗原(FFA)を得るために用いられるシードとしては、高度に破傷風毒素を産生する菌であれば特に限定されないが、破傷風菌Harvard株又はこれと同等以上の毒素産生能を有する株が挙げられる。具体的には、周知の破傷風菌Harvard株[ATCC(American Type Culture Collection)寄託番号10779]に由来のHarvard A47株から高度毒素産生破傷風菌の亜株を単コロニー分離することにより得られたビケン亜株(参考例1)が好ましい。又、FFAをコードする遺伝子を用い、遺伝子工学的手法により酵母、大腸菌、枯草菌等に形質転換した微生物等も毒素生産用のシードとして用いることができる。具体的には、参考例2に記載の方法により得られた、後述する破傷風菌が保有のFFA遺伝子DNAを挿入連係し構築した多量発現ベクターを形質転換した大腸菌もシードとして用いることができる。(2)培地:毒素産生用のシードの培養に用いる培地は、公知の組成を用いることができる。例えば、前述の破傷風菌シードの培養には、嫌気性菌の常用液体培地を用いることができる。具体的には、例えば、クックト・ミート培地、PYG(Pepton, Yeast extract, Glucose)培地、GAM(Gifu Anaerobic Medium)ブイヨン、仔ウシ肉浸出液ブイヨン、チオグリコール酸塩培地、肝片−肝ブイヨン、RCM(Reinforced Clostridial Medium)ブイヨン、DRCM(Differential Reinforced Clostridial Medium)ブイヨン等が挙げられる。これ等の培地は、菌の増殖性や低酸化還元電位の維持等を考慮し、成分の置換、付加、削除等や用量の変更により、随時、改良し、変法培地として使用できる。これ等のうち、シードの調製には肝片−肝ブイヨンが、また、毒素の産生には発明者が考案のLatham変法培地(参考例3)の使用が好ましい。(3)培養条件:破傷風菌シードの培養条件は特に限定されないが、例えば、高度毒素産生破傷風菌株は以下の条件で培養を行う。培養温度は約30〜37℃、好ましくは約34〜36℃であり、培養時間は約1〜8日、望ましくは、菌体内毒素の採取には約1〜2日、菌体外毒素の場合は約4〜7日である。(4)FFAを調製するための出発材料:本発明においては、上述の方法により培養した菌体より得られる全長破傷風毒素分子を用いてFFAを調製する。用いられる全長破傷風毒素分子を含有する出発材料としては、上述のように菌体を培養することにより得られる培養菌体の抽出液(菌体内毒素を含有)、又は培養菌を自己融解させた培養物中の菌体残渣を遠心や濾過により除去した培養上清や培養濾液(菌体外毒素を含有)を使用することができる。菌体内毒素の場合は、毒素分子をプロテアーゼ、例えばトリプシンやキモトリプシンなどによりnicked formに変えるか又は消化して開裂する前処理が必要である。従って、かかる調製工程の省力化を考慮すると、出発材料には既にnicked formになっている菌体外毒素を含有する培養上清や培養濾液の使用が望ましい。(5)毒素の粗精製:出発材料中の全長破傷風毒素分子は、例えば、硫安塩析、アルコール沈殿、ゲルや活性炭等への吸着と溶出、市販の膜濾過等の常法を用いて精製できる。本発明では、かかる精製により得られる全長破傷風毒素分子を粗精製全長破傷風毒素分子とする。(6)毒素の高度精製:上記(5)の方法で得られた粗精製全長破傷風毒素分子の高度精製は、例えば、密度勾配超遠心と平衡密度勾配超遠心とを併用する技術(日本国特公平7-89951号)、また、超遠心、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィ、高速液体クロマトグラフィ等の既知の技術を組合わせて用いることにより達成できる。本発明では、かかる精製により得られる全長破傷風毒素分子を精製全長破傷風毒素分子として、本発明のFFAの調製に用いることができる。なお、精製全長破傷風毒素分子については、FFAの調製前に、全長破傷風毒素分子としての適格性を確認する必要がある。これには、例えば、毒素のMLD(Minimum Lethal Dose;参考例4)、Lf単位(Limit flocculation Unit;参考例5)、タンパク量(参考例6)等を測定する。(7)FFAの調製:本発明のFFAの調製には前述の精製全長破傷風毒素分子が用いられる。精製毒素が菌体内毒素の場合には、プロテアーゼ、例えば、トリプシンやキモトリプシン等で毒素分子を前処理・消化し、予めnicked formに変えるか又は開裂する必要がある。毒素断片は、nicked formの精製毒素のジスルフィド架橋の還元剤による開裂、更に、該毒素分子ペプチドを構成するアミノ酸残基間相互の非共有結合の変性剤による開裂により調製できる。これには、還元剤として公知のもの、例えば、チオグリコール酸ナトリウム、アスコルビン酸、dithiothreitol(以下「DTT」と略記する)、グルタチオン、メルカプトエタノール、システイン、硫化水素、水素化ホウ素ナトリウム、硫化ナトリウム、硫化アンモニウム等が用いられる。また、変性剤として常用のもの、例えば、グアニジンチオシアネート、尿素、ドデシル硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、エチレングリコール四酢酸等も使用できる。本発明においては、これ等のうち、DTTと尿素の使用が好ましい。好ましい使用法としては、例えば、毒素タンパク約1〜10mg/ml液中でのDTTの最終濃度は10〜200mM、好ましくは50〜150mMであり、反応温度15〜35℃において反応時間は20〜180分である。又尿素は約0.5〜10M、好ましくは1〜5Mであり、その処理温度は5〜35℃、処理時間は10秒〜15分である。上述の濃度になるようにこれ等の試薬を出発材料に添加混合する。本発明において、DTTは溶液(参考例8;以下[DTTトリス緩衝液」という)とし、出発材料にその約5〜50倍容を添加混合し反応させる。尿素は飽和溶液または結晶を直接、添加混合して用いる。上記のDTTと尿素処理により、全長破傷風毒素分子が開裂し、FFAが生じる。該FFAは、密度勾配超遠心と平衡密度超遠心とを併用する技術(日本国特公平7-89951号)、SDS-PAGE(Sodium Dodecyl Sulfate-Polyacrylamide Gel Electrophoresis)、ゲル濾過、膜濾過、イオン交換クロマトグラフィ、高速液体クロマトグラフィ等により吸光度280nm(参考例7)を指標として分画又は分離し、それぞれ精製毒素フラグメントとして回収できる。回収された2つのピークのうち、FFAは分子量の大きい方の画分に含まれており、これをFFA破傷風ワクチンの抗原として用いる、なお、全長破傷風毒素分子(参考例13)の調製は後述の通りである。FFA及び全長破傷風毒素分子の分子量、抗原特異性、アミノ酸配列等は、例えば、SDS-PAGE(参考例10)、ゲル内沈降反応(参考例11)、ペプチドシーケンサー(参考例12)等により測定できる。(8)FFAの固定化:本発明の機能的フラグメント抗原は、毒素活性A断片領域の全部又は大部分が既に除去されていることから、無毒であり、そのままトキソイドとして使用できる。しかし、抗原の立体構造の安定化を図るには、毒素断片の固定化が望ましい。固定化剤としては、常用の無毒化剤、例えば、ホルマリン、グルタルジアルデヒド、β−プロピオラクトン等が使用できる。例えば、ホルマリンを使用の場合、その添加量は約0.0004〜0.7%(v/v)、固定化温度は約3〜37℃、固定化時間は約5〜180日である。かかる固定化により抗原性が損なわれる場合には、固定化剤の濃度や固定化温度の低下、中性アミノ酸、例えばグリシン、セリン等、や塩基性アミノ酸、例えば、リジン、アルギニン等の添加混合等を行い、固定化条件の緩和を行う。また、この工程で残存する遊離ホルムアルデヒドは、必要なら、等量の亜硫酸水素ナトリウムを添加混合して中和するか、膜濾過や透析により除去できる。固定化完了後のFFA液は、4℃に保存し、破傷風毒素ワクチンの原液として爾後のワクチン調製に供する。なお、固定化工程を経た毒素断片及び全長破傷風毒素分子をトキソイドと呼ぶ。(9)FFA破傷風ワクチンの調製:上記(8)の方法によって得られたトキソイドの原液を希釈し、ワクチン中の毒素断片の抗原量が免疫を奏する量の抗体産生を誘導するように調製することができる。例えば、毒素断片タンパク量が、単味トキソイドでは20〜200μg、また、沈降トキソイドでは8〜80μgになるよう等張の塩類溶液、緩衝液、組織培養液等で希釈・調整する。その際、ワクチンの耐熱性を増強するための安定化剤や、免疫原性を高める補助剤としてのアジュバント等を添加混合できる。安定化剤は、ワクチン1mlに対して0.01〜10%(w/v)添加して用いられる。アジュバントはワクチン1mlに対して0.1〜50mg添加して用いられる。例えば、安定化剤としては、糖類、アミノ酸、ゼラチン加水分解物、ヒトアルブミン等、また、沈降トキソイド用のアジュバントとしては、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミナ、ベントナイト等の抗原徐放性のゲル、更に、ムラミルペプチド誘導体、油脂等の抗体産生誘起性物質などの公知のものを適宜採用できる。次いで、単味あるいは沈降ワクチンをアンプル、バイアル瓶等の小容器に小分・分注の後、溶封あるいは密封し、液状又は沈降製剤として実用に供する。また、小分・分注後に凍結乾燥すれば、乾燥製剤として提供できる。更に、DT2種混合、DPT3種混合、あるいは4種混合等の混合製剤として提供できる。これ等の製剤は、トキソイドあるいはワクチンとしての適格性に関する検定を行う。即ち、厚生省告示第217号「生物学的製剤基準」に規定の「破傷風トキソイド」、「沈降破傷風トキソイド」、「ジフテリア破傷風混合トキソイド」、「百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン」等の該当条項に準拠し、有効性、安全性及び均質性に関する各種試験を行い、ワクチンとしての適格性を確認する。そして、かかる検定に合格した製剤のみを実用に供し、通常、被接種者当たり、たとえば0.5mlずつ皮下又は筋肉内に接種する。なお、乾燥製剤は接種前に滅菌蒸留水で溶解し元の体積に戻して使用する。(10)FFA破傷風ワクチンの力価試験:本発明の破傷風ワクチンの力価試験は、厚生省告示第217号「生物学的製剤基準」に規定の「破傷風トキソイド」又は「沈降破傷風トキソイド」の条項に準拠し、モルモット又はマウスを用い、免疫動物でのLD50(Median Lethal Dose)を測定する毒素攻撃法、又は免疫動物の血中抗毒素価測定法によって行う。更に、本発明では、これ等の試験法の上に、毒素攻撃法においてスコア法(参考例15)を採用し全長毒素分子トキソイドに対する相対力価を測定する。(11)FFA破傷風トキソイドの副作用に関する動物試験:本発明の破傷風ワクチンの副作用に関する動物試験は以下の方法に従って行われた。破傷風フラグメント・トキソイドによる副作用の指標として、例えば、即時型アレルギーに関するラットの受身皮膚アナフィラキシー(PCA)反応、また、遅延型アレルギーに関するマウスの足蹠反応やモルモットの皮内反応(参考例16)等が採用できる。発明を実施するための最良の形態以下、本発明につき実施例および参考例をあげて具体的に説明する。但し、本発明はこれ等の実施例及び参考例に限定されるものではない。まず、本発明を具体的に実施するためのガイドラインを次の参考例によって示す。[参考例1] 高度毒素産生能を有する破傷風菌株の単コロニー分離:Zeisslerの血液寒天培地(市販の普通寒天培地に最終濃度2%(w/v)グルコース及び20%(v/v)ウシ脱線維素血液をそれぞれ添加混合)の平板上に破傷風菌Harvard A47株のコロニーを形成させた後、各コロニーごとにLatham変法培地(参考例3)で培養する。次に、各培養液について参考例5に記載の要領でLfを測定し、Lfが最高値のコロニーを選定・分離し、高度毒素産生能を有する破傷風菌Harvard A47株ビケン亜株(サブストレイン)を得る。[参考例2] 高度毒素断片産生能を有する形質転換体の作成破傷風毒素遺伝子DNA[EMBO JOURNAL, 5(10), 2495-2502, 1986;Nucleic Acid Research 14(19), 7809-7812, 1986]から、FFAをコードするDNA断片、即ち制限酵素を用いて得られた2.7kb断片(Stu I-Bsp HI)を調製の後、これを大腸菌の多量発現ベクターpSN508(米国特許第4,703,005号)に挿入連係して発現ベクターを構築し、この発現ベクターを大腸菌CSH26株に移入し形質転換体を作出する。かかる形質転換体の培養による毒素断片の直接生産では、後述するプロテアーゼによる毒素分子の消化、DTTや尿素による処理等を要さない。[参考例3]Latham変法培地の組成(1L中)ポリペプトン 20gウシ心筋エキス 10gグルコース 8.0g塩化ナトリウム 2.5g硫酸マグネシウム(7水塩) 0.1gシスチン 0.125μgパントテン酸カルシウム 1.0mgウラシル 1.25mgニコチン酸 0.25mgチアミン 0.25mgリボフラビン 0.25mgピリドキシン 0.25mgビオチン 2.5μgビタミンB12 0.05μg葉酸 100μg三塩化鉄(6水塩) 32mg(7N NaOHでpH7.0に調製する)[参考例4] MLD(Minimun Lethal Dose)対数間隔で階段希釈した毒素液0.1-0.5mlをOF1マウス(体重20-25g)の左大腿内側に皮下接種し、毒素接種量とマウスの生残時間との相関に基づき測定する[″Proceedings of the 6th International Conference on Tetanus(Lyon, 1981)”, pp.21-32]。[参考例5] Lf単位(Unit of Flocculation)毒素液のLfは、Ramonらの方法(Biken Journal, 7, 137-152, 1964)を用いて測定することができる。この方法により、抗毒素1単位と反応する毒素量1Lfを測定する。またLfは、SRID(Single Radial Immunodiffusion)により測定することができる(Immunochemistry, 2, 235-254, 1965)。[参考例6] タンパクの定量フェノール試薬を用いるタンパクの呈色反応を比色法で測定する「Lowryらによる改良法」により定量する。以下、「フェノール試薬法」という。[参考例7] タンパク画分の検出とその濃度の比較波長280nmの紫外線に対する吸光度(以下、「吸光度280nm」という)を測定することにより行う。[参考例8] DTTトリス緩衝液(100mMの場合)の調製50mM tris(hydroxymethyl)aminomethane-HCl(以下、「トリス」という)、1mM ethylenediaminetetraacetate-4Na(以下、「EDTA」という)、及び100mM DTTからなる溶液であり、1/10M HClでpH8.2に調整する。[参考例9] リン酸緩衝液の調製所望の濃度のリン酸一水素ナトリウム溶液と同濃度のリン酸二水素カリウム溶液とを混合し調製する。その際、所望のpHになるよう混合量を調整する。[参考例10]SDS-PAGEによる分子量の測定ゲル濃度が、7.5%(w/v)、7.0%(w/v)(2M尿素を含有)、5.0%(w/v)等のSDS-PAGEが採用できる。緩衝液としては、例えば、10mMトリス−77mMグリシン緩衝液(pH8.6)を用い、泳動後のゲルはCoomassie brilliant blueで染色する。被検体タンパクの移動距離と、マーカー色素や分子量が既知のタンパクの移動距離との間の比に基づき、分子量を求める。これによれば、FFA及び毒素分子の分子量(×104)は、それぞれ、約10万及び約15万であった。[参考例11] ゲル内沈降反応による抗原特異性の判定50mMトリス−0.6Mグリシン緩衝液(pH8.5,1mM EDTAを添加)での1%(w/v)アガロース、及び非特異性抗体を除去したウマ抗破傷風毒素血清を用いるオクタロニー法により行う。この方法により判定の結果、FFA及び全長破傷風毒素分子の2者間で抗原性の交差が確認された。[参考例12] アミノ酸配列の決定アミノ酸自動分析装置、例えば、Applied Biosystem Procise 492型(米国、Perkin Elmer社製)を用いて行う。その結果、後述する実施例1で得られたFFAのN末端のアミノ酸配列は(7)式、また、実施例7で得たFFAのそれは(4)式であった。更に、破傷風菌の培養条件を変えることにより(8)式に示すN末端のアミノ酸配列を有するFFAが調製された。なお、(1)〜(3)式及び(6)式に示すN末端のアミノ酸配列を有するFFAは、破傷風菌体内の毒素分子をトリプシンで消化しnicked formに変える際の該酵素の濃度及び反応の時間と温度を調整することにより得ることができる。また、(5)式に示すFFAは破傷風菌体内の全長破傷風毒素分子をキモトリプシンで消化しnicked formに変えることにより調製できる。このようにして、N末端のアミノ酸配列が図2に記載の(1)〜(8)式に示す合計8種のFFAが得られ、これ等の8種のうち、少なくとも1種のFFAを、破傷風ワクチンの有効成分として使用できる。[参考例13]等電点の測定市販のゲル、例えば、商品名Phast Gel IEP 3-9[スウェーデン国、Pharmacia Biotech社製]を用いて、等電点電気泳動(isoelectrofocusing)により測定する。本発明に係るFFAの等電点の範囲は、7.25±0.5と判断された。[参考例14] 全長破傷風毒素分子の調製参考例1で得たシードと培地(参考例3)を用い44時間培養した菌体を遠心(10、000g、4℃、25分)により集め、その菌体に元の培養液の1/30容の1M NaCl溶液(0.1Mクエン酸ナトリウムを含有、pH7.5)を添加混合の後、4℃で24時間、撹拌して毒素を抽出する。次に、遠心(10、000g、4℃、30分)により除菌して、その上清を採取し、これを出発材料とし、実施例1に記載の精製法と同様にして精製全長破傷風毒素分子を調製する。[参考例15] スコア法免疫動物を毒素で攻撃の後、1週間にわたり生死及び症状を観察し、その所見をスコア法に基づき次の通り記録する:第1日目死亡は「スコア0」;第2日目死亡は「スコア1」;第3日目死亡は「スコア2」;第4−7日目に死亡又は重症(緊張性痙攣・歩行困難・呼吸困難)は「スコア3」;軽症生残[注射側の反対側腹筋局所麻痺(尾をもって吊りあげ判定)]は「スコア4」;及び無症状で生残は「スコア8」とする。得られたスコアにつき、統計解析用のソフトを用いてコンピューター解析し、分散の一様性並びに直線性と平行性の検定による相関分析を行い、毒素分子トキソイドに対する相対力価を測定する。[参考例16] モルモットの皮内反応:モルモットの大腿部の筋肉内に破傷風トキソイド(タンパク量を10μg/1.0mlに予め調整する)を1.0ml注射した後、4週間飼育し、モルモットを感作する。次いで、4週間後に感作モルモットの背部を脱毛し、同じ破傷風トキソイド(タンパク量32.0、10.0、及び3.2μg/mlの各濃度に調整)を0.1mlずつ皮内注射して攻撃し、24時間後に注射局所の皮膚反応、発赤、硬結及び壊死の有無を判定する。なお、発赤については直径を測定する。実施例1(1)破傷風毒素(nicked form)の産生と精製:破傷風菌Harvard株ビケン亜株シード(参考例1)5.0mlを、20本の各大型試験管(直径6cm、高さ38cm)中のLatham変法培地(参考例3)450mlにそれぞれ接種した後、綿栓を行い、35℃で5日間培養する。培養完了後、各培養物を遠心分離(10,000×g、4℃、30分)し、培養物中の自己融解菌とその残渣を沈降させ、その上清を採取した。得られた培養上清8.5lを出発材料として用いた。出発材料に25℃での飽和硫安(pH7.0)を添加混合し氷水槽中で塩析し、硫安20−40%飽和の分画を採取した。かかる硫安分画の沈殿物は、40%飽和硫安になるよう調整した0.06Mリン酸緩衝液(参考例9;pH7.5、4℃)65mlに浮遊の後、遠心分離(15,000×g,4℃、30分)し、その沈渣を該緩衝液22mlに再浮遊することにより1回洗浄した。洗浄済みの塩析沈殿物は、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.5、4℃)22mlに溶解の後、これを超遠心(100,000×g、4℃、2時間)により沈渣を除去し、その上清20mlを採取した。次いで、該上清をAcrodisc膜[濾孔径0.2μm、ドイツ国、Gelman社製]で濾過し、更に、その濾液をアミコン濃縮器で3mlに濃縮し、これを粗精製毒素液として次のゲル濾過に供した。粗精製毒素液は、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.5)により平衡化したUltrogel AcA 34[スウェーデン国、LKB-Pharmacia社製]のカラム(内径2.5cm、長さ100cm)を用いる4℃でのゲル濾過にかけ、該緩衝液により、流量9ml/時で溶出し、溶出液を1mlずつ分取することにより分画した。次に、各画分につき、吸光度280nm(参考例7)を測定し、吸光度の高い画分をプールして合計5mlの溶出液を得た。該溶出液につき、フェノール試薬法(参考例6)によるタンパク定量、並びにタンパク1mg当たりのMLD(参考例4)とLf(参考例5)の測定をそれぞれ行った。その結果、タンパク量60mg/ml、400Lf、及び3.5×107MLDであった。更に、この溶出液0.2mlを、0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)で平衡化したTSK G3000 SWカラム[内径0.75cm、長さ60cm、日本国、東ソー(株)社製]を用い、該緩衝液にて流量0.6ml/分で溶出する高速液体クロマトグラフィーにかけて分画し、得られた各画分の吸光度280nmを測定した。その結果、シャープなピークがただ1つ検出され、高度精製の達成が確認された。以上の結果に基づき、この溶出液を精製破傷風毒素(nicked form)ないしは精製毒素液として爾後のFFAの調製に使用した。(2)FFAの調製:精製毒素液2mlにDTTトリス緩衝液(参考例8)18mlを添加混合し、25℃で60分間、反応させジスルフィド架橋を還元した後、更に、これに最終濃度が4Mになるよう尿素結晶4.8gを添加混合して溶解することにより尿素処理を行った。次に、該反応液に20mlの50mMトリス液(0.6Mグリシン、1mM EDTA、及び1mM DTTを含有、pH8.5)を添加混合の後、アミコン濃縮器(米国、Grace Company社製)で濃縮して3mlとし、これを50mMトリス液(0.6Mグリシン、1mM EDTA、1mM DTT及び2M尿素を含有、pH8.5)で平衡化したUltrogel AcA 44(内径1.5cm、長さ90cm)カラムを用いるゲル濾過にかけ、50mMトリス液にて流量5ml/時で溶出し、1.2mlずつ分取・分画した。各画分の吸光度280nmの測定により、2つのピークが検出された。溶出開始後、最初に出現するピーク1から5つの画分(合計6.0ml)と、これに続くピーク2から5つの画分(合計6.0ml)をそれぞれ集めた。精製毒素液並びにピーク1と2の両画分について、SDS-PAGEによる分子量の概測(参考例10)及びゲル内沈降反応(参考例11)による抗原性の判定を行った。その結果、精製毒素液、ピーク1画分、及びピーク2画分のタンパクの分子量はそれぞれ、約15万、約10万、及び約5万であった。また、抗原性に関し、精製毒素液と、ピーク1及び2の各画分との間で交差が見られたが、ピーク1と2の両画分の間には交差がなく互いに全く異なる抗原特異性を示した。更に、ピーク1と2の両画分のタンパク定量をフェノール試薬法により行った。ピーク1のタンパク量は15mg/ml、また、ピーク2は8mg/mlであった。以上の結果に基づき、ピーク1の画分がFFAであると確認された。この確認に基づき、ピーク1画分をFFA液として爾後の工程に供した。(3)FFAの固定化:FFA液4mlを取り、1/15Mリン酸緩衝液(pH7.8)を外液として4℃で1夜、透析した。透析完了後の液に該緩衝液を添加混合し、透析済みFFA液の容量が380mlになるよう調整の後、これに500mMリジン20mlを添加混合し、タンパク量600μg/mlのFFA液を得た。これに最終濃度が0.2%(v/v)になるようホルマリンを添加混合し、37℃で14日間、保温しFFAの固定化を行った。次いで、0.85%(w/v)NaCl溶液を外液として4℃で1夜、透析を行い、残存ホルムアルデヒド及びリジンを除去した後、Acrodisc膜(濾孔径0.22μm)で除菌濾過し、濾液380mlを採取した。この濾液は、4℃で保存し、破傷風ワクチンの原液として爾後のワクチン調製に供した。(4)FFA破傷風ワクチンの試作:ワクチン原液を0.85%(w/v)NaCl溶液で希釈し、最終タンパク量が50μg/mlになるよう調整の後、これに2mg/ml Al(OH)3ゲル浮遊液を等容量、添加混合し、4℃で1夜、静置し、トキソイドをAl(OH)3ゲルに吸着させ、試作ワクチンを得た。該ワクチンは、その有効性(力価・免疫原性)及び安全性(毒性・副作用)に関する各試験に供した。(5)試作FFA破傷風ワクチンの免疫原性・力価の判定:試作ワクチンの免疫原性と力価を見るため、マウス実験を行った。なお、比較対照として、参考例14で調製した破傷風毒素の全分子有効成分とするワクチンを前記(3)及び(4)と同様に調製して用いた。各被検体ワクチン(抗原)は、0.85%(w/v)NaCl溶液で2.5倍の階段希釈し、少なくとも3用量が用量反応曲線の直線領域に入るよう調整し、これ等の希釈した抗原を次の要領でマウスに接種し免疫した。即ち、無作為配分した1群10匹のddy/sマウス(体重22−26g、雌)の左後肢大腿内側に0.5mlずつ皮下接種した。該接種から4週間目に100LD50の試験用毒素(Lot TA-4B、国立予防衛生研究所から分与)を各マウスに皮下接種し、攻撃を行った。その後1週間にわたり、マウスの症状及び生死を観察した。観察結果は、スコア法(参考例15)により記録すると共に、得られた数値につき統計解析用のコンピューターソフトを用いて分散及び相関分析した。この結果に基づき、全長破傷風毒素分子トキソイドを1.0とする相対力価を算定した。上記試験を合計4回行った結果を表1に示す。試作ワクチンの力価は、全長毒素分子を用いるワクチン(従来の破傷風トキソイド)と同等であった。(6)試作FFA破傷風ワクチンのモルモット皮内反応による副作用試験:参考例16に記載された方法により、無作為配分した1群3匹のモルモット[std. Hartley(日本国、SLC(株)から購入)、体重300−350g、5週令、雌]を用い、皮内反応を行った。モルモットの感作には、試作ワクチン(FFA)、市販の破傷風トキソイド(市販)、及び前記(5)の全長破傷風毒素分子トキソイド(全長分子)を抗原として用いた。これ等の3種の被検体は、0.85%(w/v)NaCl溶液で希釈し、最終タンパク量が10μg/ml、最終Al(OH)3量が0.2mg/mlになるようそれぞれ調製の後、モルモットに接種し感作した。感作期間の終了後、上記3種の抗原を0.85%(w/v)NaCl溶液で希釈し、最終タンパク量(μg/0.1ml)が3.2、1.0、及び0.32の3段階になるよう調整の後、モルモット皮内に0.1mlずつ接種した。なお、対照として、0.85%(w/v)NaCl溶液を0.1mlモルモット皮内に接種した。その結果を表2に示す。試作FFA破傷風ワクチンの皮内反応は検出不能か、市販及び全長分子両ワクチンに比べ、著しく軽微であった。実施例2(1)FFA破傷風ワクチン原液の製造破傷風菌Harvard株ビケン亜株シード0.5lを、100l容のステンレス製タンク(直径60cm、高さ50cm)中のLatham変法培地80lに注入・接種した後、シリコンシートを介して密閉し、35℃で6日間培養した。培養完了後、培養物をセライト−濾紙で除菌濾過し、濾液75lを採取した。該濾液をペリコン・カセットシステム[米国、Millipore社製]により濃縮し、7l濃縮濾液を得た。これを出発材料として用い、実施例1に記載と同様にして、全長毒素分子の精製、FFAの調製及び固定化を行い、タンパク量600μg/mlのFFAワクチンの原液を450mlを製造した。(2)FFA破傷風ワクチン単味製剤の製造:上記のワクチン原液を1/75Mリン酸緩衝液(pH6.5)で希釈し、最終タンパク量が60μg/mlになるよう調整の後、これに最終濃度が蔗糖3%(w/v)、L−アルギニン1%(w/v)、及びヘマセル[ドイツ国、ヘキスト社製]2%(w/v)になるよう各々、この順序で添加混合した。これを1ml容のバイアル瓶に0.6mlずつ小分・分注して密栓をし、単味ワクチン製剤とした。該製剤について、厚生省告示第217号「生物学的製剤基準」に規定の「破傷風トキソイド」の条項に準拠して各種試験検定を行った結果、ワクチンとして適格であることが確認された。実施例3FFA破傷風ワクチン沈降製剤の製造:実施例2で得たワクチン原液を1/40Mリン酸緩衝液(pH6.0)で希釈し、最終タンパク量が60μg/mlになるよう調整の後、これにリン酸アルミニウムゲルを最終濃度が0.2ml/mlになるよう添加混合し、4℃で5時間、撹拌し、トキソイドをゲルに吸着させた。次いで、遠心分離(2,000rpm、4℃、20分)により、ゲル層を回収した。回収ゲルを1/75Mリン酸緩衝液(pH6.5)に懸濁し、これに最終濃度が蔗糖3%(w/v)、L−アルギニン1%(w/v)、及びヘマセル[ドイツ国、ヘキスト社製]2%(w/v)になるよう各々、この順序で添加混合した。これを1ml容のバイアル瓶に0.6mlずつ小分・分注して密栓をし、沈降ワクチン製剤とした。該製剤について、厚生省告示第217号「生物学的製剤基準」に規定の「沈降破傷風トキソイド」の条項に準拠して各種試験検定を行った結果、ワクチンとして適格であることが確認された。実施例4FFA破傷風ワクチンを用いる沈降DPT混合製剤の製造:最終タンパク量以外は実施例3の記載と同様にして、タンパク量が180μg/mlの破傷風毒素フラグメント・沈降ワクチン液を調製した。また、ジフテリアトキソイド及び百日せきワクチンについて各々、3倍濃度の沈降ワクチン液を調製した。これら3種のワクチン液を混合の後、10ml容のバイアル瓶に10mlずつ小分・分注して密栓をし、沈降DPT混合製剤とした。該製剤について、厚生省告示第217号「生物学的製剤基準」に規定の「沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン」の条項に準拠して各種試験検定を行った結果、混合ワクチンとして適格であることが確認された。実施例5破傷風FFAワクチンを用いる沈降DT混合製剤の製造:最終タンパク量以外は実施例3の記載と同様にして、タンパク量が120μg/mlの破傷風毒素フラグメント・沈降ワクチン液を調製した。また、ジフテリアトキソイドについて、2倍濃度の沈降ワクチン液を調製した。これら2種のワクチン液を混合の後、1ml容のバイアル瓶に0.6mlずつ小分・分注して密栓をし、沈降DT混合製剤とした。該製剤について、厚生省告示第217号「生物学的製剤基準」に規定の「沈降ジフテリア破傷風混合トキソイド」の条項に準拠して各種試験検定を行った結果、混合ワクチンとして適格であることが確認された。実施例6FFA破傷風ワクチン乾燥製剤の製造:実施例2の記載と同様にして、トキソイド液を調製し、これを1ml容のバイアル瓶に0.6mlずつ小分・分注し、凍結乾燥の後、密栓を行い、乾燥製剤とした。該製剤について、滅菌蒸留水で0.6mlになるよう溶解の後、厚生省告示第217号「生物学的製剤基準」に規定の「破傷風トキソイド」の条項に準拠して各種試験検定を行った結果、ワクチンとして適格であることが確認された。実施例7FFA破傷風ワクチンの試作とその力価判定:実施例1と同様にして、菌体外毒素から試作ワクチンを調製すると共に、該ワクチンの力価を判定した。但し、次の点で実施例1と相違する。シードの35℃培養の日数を6日にした。また、Ultrogel AcA 34カラムを用いるゲル濾過により得た精製破傷風毒素(nicked form)からのFFAの調製を以下の通り行った。上記の精製毒素タンパク2mgにつき、DTTトリス緩衝液(参考例8)を1ml添加混合し、25℃で60分間、還元の後、該反応液に尿素結晶を4Mになるよう添加混合した。次に、得られた溶液を緩衝液A(2M尿素液、0.2mM Tris-HCl,1mM DTT,pH7.0)で平衡化したPD10カラム[スウェーデン国、Pharmacia Biotech社製]にアプライした後、緩衝液Aで液出することにより、溶媒をDTT緩衝液から緩衝液Aに置換した。得られた溶出液を緩衝液Aで平衡化したMono Qカラム(スウェーデン国、Pharmacia Biotech社製)にアプライし、緩衝液B(緩衝液Aに0.5M NaClを添加)を用いる0-0.5M NaClの直線勾配により、FPLC(スウェーデン国、Pharmacia Biotech社製)を用いて溶出した。実施例1と同様の方法で、最初に溶出される主ピークがFFAであると確認された。該精製FFAを、0.025Mリジン共存下の0.2%(v/v)ホルマリン加0.067Mリン酸緩衝液(Na-K、pH7.8)中で37℃、2週間、保温することにより固定化した後、FFA破傷風ワクチンとした。実施例1(5)の記載と同様にしてマウスを用いる力価試験を4回繰返し行った結果を表3に示す。該試作FFA破傷風ワクチンの力価は、全長毒素分子を用いるワクチン(従来の破傷風トキソイド)と同等であった。配列番号:1配列の長さ:1315配列の形:アミノ酸トポロジー:直鎖状配列の種類:ペプチド配列産業上の利用可能性本発明により、従来の破傷風トキソイドに比べ、副作用が著しく低く、しかも、その免疫原性が従来のそれと実質的に同等な、破傷風ワクチン用のFFA(破傷風毒素の機能的フラグメント抗原)を提供することができる。また、該FFAをワクチンの有効成分として用いることにより、従来の破傷風トキソイドに比べ、副作用が著しく低く、しかも、その免疫原性が従来のトキソイドのそれと実質的に同等の破傷風ワクチンを提供することができる。更に、上記の破傷風ワクチンは、百日せきワクチンやジフテリアトキソイド等との混合ワクチンとしても提供することができる。 破傷風毒素の機能的フラグメント抗原であって、配列番号1に記載した全長破傷風毒素分子の全長アミノ酸配列のN末端側に存在するジスルフィド架橋に関与する2つのシステイン残基間の部分アミノ酸配列中の各アミノ酸を結合するペプチド結合の中の少なくとも1つを開裂すると共に、該ジスルフィド架橋を開裂し、更に、該毒素分子ペプチドを構成するアミノ酸残基間相互の非共有結合を開裂することによって得られる少なくとも1種のフラグメントと同一のフラグメントよりなる機能的フラグメント抗原であって、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により測定された分子量が9万〜11万であり、等電点電気泳動法により測定された等電点が7.25±0.5であることを特徴とし、該少なくとも1種のフラグメントが、各々独立に、下記のアミノ酸配列(1)〜(8):(1) KIIPPTNIRENLYNRTASLTDLGGELCIK(2) IIPPTNIRENLYNRTASLTDLGGELCIK(3) ENLYNRTASLTDLGGELCIK(4) NLYNRTASLTDLGGELCIK(5) NRTASLTDLGGELCIK(6) TASLTDLGGELCIK(7) SLTDLGGELCIK(8) GGELCIKよりなる群から選ばれるアミノ酸配列をN末端配列として有することを特徴とする、破傷風毒素の機能的フラグメント抗原。 固定化剤により固定化された、請求項1に記載の破傷風毒素の機能的フラグメント抗原。 請求項1または2に記載の破傷風毒素の機能的フラグメント抗原を、有効成分として免疫を奏する量含有してなる破傷風ワクチン。 請求項1または2に記載の破傷風毒素の機能的フラグメント抗原を、混合された複数の有効成分の一つとして免疫を奏する量含有してなる混合ワクチン。 破傷風毒素の機能的フラグメント抗原を固定化剤で固定化することを特徴とする破傷風ワクチンの製造方法であって、破傷風毒素の機能的フラグメント抗原は、破傷風菌の培養液から菌体外毒素を精製採取の後、該菌体外毒素分子内のN末端側に存在するジスルフィド架橋を開裂し、更に、該毒素分子ペプチドを構成するアミノ酸残基間相互の非共有結合を開裂することによって得られる少なくとも1種のフラグメントと同一のフラグメントよりなり、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により測定された分子量が9万〜11万であり、等電点電気泳動法により測定された等電点が7.25±0.5であることを特徴とし、該少なくとも1種のフラグメントは、各々独立に、下記のアミノ酸配列(1)〜(8):(1) KIIPPTNIRENLYNRTASLTDLGGELCIK(2) IIPPTNIRENLYNRTASLTDLGGELCIK(3) ENLYNRTASLTDLGGELCIK(4) NLYNRTASLTDLGGELCIK(5) NRTASLTDLGGELCIK(6) TASLTDLGGELCIK(7) SLTDLGGELCIK(8) GGELCIKよりなる群から選ばれるアミノ酸配列をN末端配列として有することを特徴とする、破傷風ワクチンの製造方法。 請求項1に記載の破傷風毒素の機能的フラグメント抗原をコードするDNAをベクターに挿入連係し、該ベクターを破傷風菌とは異なる別の宿主に移入し発現させることを特徴とする上記のフラグメント抗原の製造方法。