タイトル: | 特許公報(B2)_メタノール資化性酵母の培養法 |
出願番号: | 1997359838 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | C12P 21/02,C12N 1/16,C12R 1/84,C12R 1/72,C12R 1/78 |
家亀 晴宇 村山 敬一 田崎 誠一 驛田 悌二 JP 4240558 特許公報(B2) 20090109 1997359838 19971226 メタノール資化性酵母の培養法 東ソー株式会社 000003300 家亀 晴宇 村山 敬一 田崎 誠一 驛田 悌二 20090318 C12P 21/02 20060101AFI20090226BHJP C12N 1/16 20060101ALI20090226BHJP C12R 1/84 20060101ALN20090226BHJP C12R 1/72 20060101ALN20090226BHJP C12R 1/78 20060101ALN20090226BHJP JPC12P21/02 KC12N1/16 DC12P21/02 KC12R1:84C12P21/02 KC12R1:72C12P21/02 KC12R1:78 C12P 21/02 C12N 1/16 PubMed BIOSIS/WPI(DIALOG) JSTPlus(JDreamII) 特開平07−308199(JP,A) J. Immunol. Methods (1996) vol.199, no.1, p.47-54 5 1999187893 19990713 7 20041102 池上 文緒 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、異種蛋白質をコードする遺伝子を導入し形質転換したメタノール資化性酵母を培養する方法に関するものであり、該異種蛋白質を効率的に生産する方法に関するものである。【0002】【従来の技術】組み換えDNA技術の進歩により、多種多様の有用なペプチドや蛋白質を微生物により生産することが可能になった。このような蛋白質の生産は、目的とする蛋白質をコードする遺伝子を宿主微生物に導入して形質転換した宿主微生物を培養することにより行う。【0003】宿主微生物としては、一般的に大腸菌が用いられている。大腸菌は異種蛋白質の発現量が多く、優れた特徴を有している。しかしながら大腸菌を宿主として用いる場合、問題点がないわけではない。【0004】問題点のひとつは、発現された蛋白質が細胞封入体(インクルージョンボディ)を形成して不溶化し、活性を有しない構造に折り畳まれてしまうことである。その結果、生理活性を有するヒト蛋白質を得ようとする場合には、まず変性剤等を用いて可溶化処理を行い、続いて再賦活化処理を行う必要がある。ところが更には、これら操作に起因して目的蛋白質の構造類縁体が生じることもありる。大腸菌を宿主として製造した蛋白質を回収する際の困難さや、製造された蛋白質が時には低い生理活性しか有していないという問題は、大腸菌が遺伝子組み換えにより生産された蛋白質の翻訳後プロセッシング(例えばグリコシル化)を行い得ないことに起因すると思われる。【0005】大腸菌とは異なり、真核微生物である酵母は、動物細胞と同様に小胞体やゴルジ体等を有し、真核細胞由来の異種蛋白質を生理活性を発現し得る高次構造を有した状態で生産し得ることが知られており、単細胞で増殖し、しかも動物細胞等に比べて増殖速度も速いため大量培養が容易である等の優位点を有している。【0006】【発明が解決しようとする課題】酵母の中では、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomycescerevisiae)が異種蛋白質をコードする遺伝子を発現させるための宿主として広く用いられている。【0007】しかしながら、サッカロミセス・セレビシエは高い細胞密度まで増殖させることが困難であり、培養液当たりの生産量が多くない。【0008】これに対して、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、キャンディダ・ボイディニイ(Candida boidinii)等のメタノール資化性酵母は、培養液当たりの生産量等の面において工業的規模での異種蛋白質生産に用いるのに好適である。これらの酵母は、唯一の炭素源としてグリセロール又はメタノールのいずれかを利用することで高い細胞密度まで培養することができるのである。【0009】ピキア・パストリス等のメタノール資化性酵母における異種蛋白質発現には、通常、メタノールにより誘導可能なプロモーターが利用される。即ち、流加培養法により、グリセロールを添加することにより高い細胞密度に達するまで培養した後、メタノールを連続的又は周期的に添加にして蛋白質発現を誘導するのである。その際にメタノール濃度が一定の範囲内に収まるようにその添加速度は決定される。【0010】ピキア・パストリス等のメタノール資化性酵母はメタノールを単一の炭素源とし、アンモニアを単一の窒素源として増殖することが可能である。メタノールは細胞内においてホルムアルデヒドを経て蟻酸に酸化され、最終的には炭酸ガスと水に分解される。メタノール資化性酵母は、以上の反応を炭素源の異化代謝としてエネルギーを獲得するが、アミノ酸等の生体成分の合成反応、即ち同化代謝につなげるためには、セリン回路と呼ばれる代謝系を経ることが必要である。そして、酵母に異種蛋白質を生産させるためには、増殖に必要なエネルギーを上回るエネルギーの獲得や構成成分としてのアミノ酸の合成能力の増強が必要と考えられる。このためには、代謝工学の観点から考えると、エネルギー獲得のための異化代謝系を活性化するとともに、アミノ酸合成等の同化代謝系を活性化することが必要と考えられる。【0011】従って本発明の目的は、異種蛋白質をコードする遺伝子がメタノール添加により誘導し得るプロモーターの制御下に置かれた遺伝子を導入し形質転換したメタノール資化性酵母を培養して異種蛋白質を発現せしむる際に、異種蛋白質の生産性を向上できる方法を提供することにある。【0012】【課題を解決するための手段】上記目的を達成すべく成された本発明は、異種蛋白質をコードする遺伝子を導入し形質転換したメタノール資化性酵母を培養して異種蛋白質を発現せしむる方法であって、メタノールを添加しつつ、その量に対して一定の相関を有する量のアスパラギン酸を添加することを特徴とするメタノール資化性酵母の培養法である。以下、本発明を詳細に説明する。【0013】本発明では、メタノールにより誘導し得るプロモーターの制御下に異種蛋白質をコードする遺伝子を連結した発現ベクターにより形質転換されたメタノール資化性酵母を使用する。【0014】本発明では、メタノール資化性酵母を宿主として使用する。メタノール資化性酵母としては、例えばピキア属、ハンヌセラ属又はキャンディダ属に属するものを例示することができる。中でもピキア・パストリス、ハンセヌラ・ポリモルファ又はキャンディダ・ボイディニィ等を特に好ましい酵母として例示できる。【0015】本発明の方法を用いることで、種々の異種蛋白を効率的に生産することが可能となる。発現させる異種蛋白質には特に制限がなく、ヒトやその他の哺乳動物の蛋白質等が例示できる。中でも生理活性を有するヒト蛋白質は医薬品等の分野において重要な蛋白質であり、本発明における重要な異種蛋白質として例示できる。このような生理活性を有するヒト蛋白質としては、例えばインターロイキン6、インターロイキン6レセプター及びこれらの誘導体からなる群から選ばれるものがある。【0016】以上のような異種蛋白質をコードする遺伝子は、メタノールによって誘導し得るプロモーターの制御下(下流側)に連結して使用する。該プロモーターは、メタノール代謝系の酵素をコードする遺伝子発現のためのプロモーターであり、例えばピキア・パストリスから単離されたアルコールオキシダーゼ遺伝子のプロモーターなどが例示できる。異種蛋白質をコードする遺伝子をプロモーターの制御下に連結した遺伝子を含む発現ベクターを用いて酵母を形質転換する方法としては通常の方法が使用できる。【0017】本発明は、培養中の酵母の状態をモニタリングするために、pH、溶存酸素濃度、撹拌速度、温度又は通気量等の酵母の増殖に関与する因子のうち一つ以上をモニタリングし、かつ、制御しつつ実施することが好ましい。このような培養を実施するための培養装置は従来から知られており、市販の装置を使用することができる。また、培養方法としては、メタノールを連続的又は周期的に添加する以外は特に制限されず、回分培養法、流加培養法、連続培養法等、従来使用されている方法を使用することができる。【0018】メタノールの添加は、前記したように酵母の増殖に関与する因子をモニタリングしつつ、ポンプ等を用いて行えば良いが、該モニタリングの結果に応じて添加量を自動的に制御することが特に好ましい。またその添加時期は、異種蛋白質を発現せしめる際、即ち通常であれば酵母の培養を開始し、細胞数が異種蛋白質を生産するのに充分な量となった後に開始するのが好ましいが、本発明はこれに制限されない。即ち、培養開始当初からメタノールやアスパラギン酸を添加する場合であっても本発明の実施の範囲である。なお、メタノールの添加については、連続的又は周期的に添加することが例示できるが、前記したモニタリングの結果に従って不定期に添加する場合であっても、その際にメタノールの添加量に対して一定の相関を有する量のアスパラギン酸を添加する場合は本発明の実施の範囲である。【0019】本発明は、酵母を培養しつつメタノールを添加して異種蛋白質をコードする遺伝子を発現させる培養方法において、異種蛋白質を発現せしめる際、即ち少なくとも導入した遺伝子を発現させて異種蛋白質を製造させる際に、メタノールの添加量に対して一定の相関を有する量のアスパラギン酸を添加し、これによりメタノール資化酵母による異種蛋白質の生産を増強するものである。【0020】アスパラギン酸の添加はメタノールの添加と同様、例えばポンプ等を用いて行えば良いが、メタノールの添加量に相関してその添加量が自動的に制御されるようにすることが好ましい。【0021】アスパラギン酸の添加量は、例えばメタノールの添加量を単位時間当たりの添加量として求め、該値に相関するように単位時間当たりに添加されるべきアスパラギン酸の量を決定することが例示できる。むろん、周期的又は不定期にメタノールを添加するのであれば、その添加の度に、メタノール添加量に相関するように添加されるべきアスパラギン酸量を決定して添加することも可能である。またアスパラギン酸の添加は、メタノールの添加と完全に同時に行う必要はなく、時間的に添加が多少ずれても良い。【0022】メタノールの添加量とアスパラギン酸の添加量の相関関係は、アスパラギン酸の添加量/メタノールの添加量が重量比で1/10〜1/500の範囲内、好ましくは1/50〜1/200の範囲内である。この相関関係は一回の培養操作の間一定とする必要はなく、前記範囲内であれば変更することもできる。【0023】【発明の実施の形態】以下、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。【0024】実施例1メタノール資化性酵母としてピキア・パストリス、メタノールで誘導されるプロモーターとしてアルコールオキシダーゼ1のプロモーター(AOX1)を用い、ヒトインターロイキン6レセプター(以下IL−6Rと略する)を異種蛋白質として発現させた。【0025】100mLの培地(1LあたりH3PO4 3g、K2SO4 2.38g、KOH 0. 65g、CaSO4・2H2O 0.15g、MgSO4・7H2O1.9g、CuSO4・5H2O 1.4mg、KI 0.18mg、MnSO・H2O 0.7mg、NaMoO4・2H2O 0.05mg、H3BO30.005mg、CoCl2・6H2O 0.12mg、ZnSO4・7H2O 4.7mg、FeSO4・7H2O 15.2mg、ビオチン 0.046mg、グリセロール 10gを含む)が仕込まれた500mL容量の振とうフラスコに20%グリセロール凍結菌株を接種し、30℃で20時間振とう培養し前培養とした。【0026】10Lの培地(1LあたりH3PO4 18g、K2SO4 14.28g、KOH 3.9g、CaSO4・2H2O 0.9g、MgSO4・7H2O11.7g、CuSO4・5H2O 8.4mg、KI 1.1mg、MnSO4H2O 4.2mg、NaMoO4・2H2O 0.3mg、H3BO3 0.03mg、CoCl2・6H2O 0.7mg、ZnSO4・7H2O 28mg、FeSO4・7H2O 91mg、ビオチン 0.28mg、グリセロール25gを含む)が仕込まれた16L容量のジャーファーメンター(NBS社製SF116)に前培養液100mLを接種し、30℃にて通気攪拌培養を開始した。pH調整及び窒素源添加の目的でアンモニア水を添加した。【0027】培養開始後24時間後より、発現誘導及び炭素源補充の目的でメタノールを添加した。発酵用オンラインメタノールセンサー(エイブル株式会社製アルコールセンサー)にて培養液中のメタノール濃度を連続的に測定しメタノールが0.8〜1.2%の範囲になるようにメタノールをチュービングポンプにて自動的に添加した。アスパラギン酸ナトリウム10%水溶液を調製し、リザーバーに仕込んだ。単位時間当たりに添加されるメタノールの重量に対して、アスパラギン酸ナトリウム10%(重量/重量)水溶液として1/10の重量が単位時間当たりに添加されるように、メタノールの添加に連動してアスパラギン酸ナトリウム水溶液を添加した。これにより、本例においては、単位時間当たりのアスパラギン酸ナトリウム水溶液の添加重量はメタノールの添加量の1/100となる(アスパラギン酸自体の単位時間当たりの添加量は、重量比でメタノールの1/130である)。【0028】培養開始後210時間で培養を終了した。培養液のODを測定した結果、OD600nmの値は300であった。【0029】培養液を10000×gで遠心分離し、上清中のIL−6Rの濃度をEISA法で定量したところ50mg/Lであった。なお、ELISAによる定量には一次抗体としてマウス抗ヒトIL−6Rモノクローナル抗体二次抗体としてウサギ抗ヒトIL−Rポリクローナル抗体を用い、検出にアルカリフォスファターゼ標識ヤギ抗ウサギIgG抗体を用いた。【0030】比較のため、前記と同じ菌株を用い、前記同様の条件で16L容量のジャーファーメンターによる培養を行った。但し、炭素源及び窒素源の流加はメタノール及びアンモニアのみとし、アスパラギン酸は添加しなかった。【0031】前記と同様に培養開始後210時間で培養を終了し、培養液のODを測定した結果、OD600nmの値は330であった。また培養液を遠心分離して上清のIL−6Rの濃度をELISA法で定量したところ、20mg/Lであった。【0032】このように、アスパラギン酸を添加せずメタノールのみを添加して形質転換酵母を培養した場合は、アスパラギン酸をメタノールに連動して流加した場合に比べて半分以下のIL−6Rの生産量しかなかった。【0033】実施例2実施例1と同じ菌株を用い、同様の条件で2L容量のジャーファーメンター (オリエンタル酵母製)による培養を行った。培地の組成は実施例1と同様であり、その仕込み量は1Lであった。本例においては、アスパラギン酸ナトリウム水溶液の単位時間当たりの添加量は、メタノールの単位時間当たりの添加量の1/10とした。【0034】実施例1と同様に培養開始後210時間で培養を終了し、培養液のODを測定した結果、OD600nmの値は320であった。また培養液を遠心分離して上清のIL−6Rの濃度をELISA法で定量したところ45mg/Lであった。比較のため、前記と同じ菌株を用い、前記同様の条件で2L容量のジャーファーメンターによる培養を行った。但し、炭素源及び窒素源の流加はメタノール及びアンモニアのみとし、アスパラギン酸は添加しなかった。【0035】前記と同様に培養開始後210時間で培養を終了し、培養液のODを測定した結果、OD600nmの値は310であった。また培養液を遠心分離して上清のIL−6Rの濃度をELISA法で定量したところ、17mg/Lであった。【0036】このように、アスパラギン酸を添加せずメタノールのみを添加して形質転換酵母を培養した場合は、アスパラギン酸をメタノールに連動して流加した場合に比べて半分以下のIL−6Rの生産量しかなかった。【0037】【発明の効果】本発明によれば、異種蛋白質をコードする遺伝子を導入し形質転換したメタノール資化性酵母を培養して異種蛋白質を発現させる際に、メタノールを添加すると共に該メタノールの添加量に相関する量のアスパラギンを添加するという簡単な操作により異種蛋白質の発現量を増強することが可能となる。【0038】従って本発明によれば、メタノール資化性酵母を宿主として利用する場合に、従来よりも効率的に異種蛋白質を生産することが可能となる。 異種蛋白質をコードする遺伝子を導入し形質転換したメタノール資化性酵母を培養して異種蛋白質を発現せしむる方法であって、培養液中のメタノール濃度が一定の範囲内に収まるようにメタノールを添加し、メタノールの添加量を単位時間当たりの添加量として求め、該添加量に対して重量比で1/10〜1/500のアスパラギン酸を添加することを特徴とするメタノール資化性酵母の培養法。 酵母がピキア(Pichia)、ハンセヌラ(Hansenula)又はキャンディダ(Candida)属の酵母であることを特徴とする請求項1に記載の方法。 酵母がピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)又はキャンディダ・ボイディニィ(Candida boidinii)種であることを特徴とする請求項2に記載の方法。 遺伝子がコードする異種蛋白質が生理活性を有するヒト蛋白質であることを特徴とする、請求項1〜3いずれかの項に記載の方法。 生理活性蛋白質が、インターロイキン6、インターロイキン6レセプター及びこれらの誘導体からなる群から選ばれる生理活性蛋白質であることを特徴とする請求項4に記載の方法。