タイトル: | 特許公報(B2)_ジグリセリド類の製造方法 |
出願番号: | 1997042166 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C12P 7/64 |
杉浦 将勝 加瀬 実 JP 3764793 特許公報(B2) 20060127 1997042166 19970226 ジグリセリド類の製造方法 花王株式会社 000000918 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 有賀 三幸 100068700 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 的場 ひろみ 100101317 杉浦 将勝 加瀬 実 20060412 C12P 7/64 20060101AFI20060323BHJP JPC12P7/64 C12P 7/62-7/64 特開昭63−133992(JP,A) 5 1998234392 19980908 6 20031020 田中 晴絵 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は油脂等と、グリセリンまたはポリグリセン(以下「グリセリン等」という)とから、短時間でかつ高収率、高純度のジグリセリド、またはポリグリセリンジ脂肪酸エステル(以下「ジグリセリド類」という)を製造する方法に関する。【0002】【従来の技術】ジグリセリド類は基剤として化粧品、医薬品等の分野で利用されている。また油脂の可塑性改良用添加剤等として食品分野において用いられている。【0003】かかるジグリセリド類は、通常グリセリン等と脂肪酸とのエステル化、グリセリン等と油脂とのアルコール基交換反応等の方法により製造されている。これらの方法を大別すると、アルカリ触媒等を用いた化学反応法と、リパーゼ等の油脂加水分解酵素等を用いた生化学反応法とに分類される。【0004】化学反応法は例えば、オリーブ油、ヤシ油等の植物油脂、ラード、ヘッド等の動物油脂、または所定の脂肪酸と、グリセリン等とを例えば水酸化ナトリウム等の存在下、例えば約120〜190℃の高温で反応させる方法(「新界面活性剤」、堀口博、三共出版、昭和50年10月10日、第631〜634頁)である。かかる高温で反応させるため短時間でジグリセリド類が生成する。【0005】生化学反応とは例えば、リパーゼを触媒として所定の脂肪酸等とグリセリン等とを反応させる方法であり、例えば以下の技術が知られている。【0006】所定の脂肪酸等とグリセリンとを、1,3位選択的リパーゼの存在下、反応生成水等を系外に除去しながら反応させることを特徴とするジグリセリドの製造方法(特開昭64−71495号公報)。所定の脂肪酸とグリセリンとの合成反応において、グリセリンを脂肪酸の等モル以上加えて反応させ、ジグリセリド濃度が高い状態で反応を停止させ、不溶グリセリンを分離し、その後脱水しながらさらに反応を行うことを特徴とするジグリセリドの製造方法(特開平4−330289号公報)。【0007】【発明が解決しようとする課題】しかしながら上記の化学反応法はモノグリセリドやトリグリセリド等の副生成物が大量に生成してしまい、その分離、除去が困難で高収率、高純度のジグリセリド類が得難いという欠点がある。また生化学反応法は常温での酵素反応を利用するものであり、またグリセリン等と脂肪酸等とは相互溶解性が低く脂肪酸相とグリセリン相の存在する不均一反応となるため反応時間が一般に長く、効率性が悪いという欠点がある。【0008】したがって本発明は反応速度が速く、短時間で高純度のジグリセリド類を高収率で製造する方法を提供することを目的とする。【0009】【課題を解決するための手段】本発明者らはかかる実状に鑑み鋭意研究した結果、まず油脂とグリセリン等とを、触媒存在下で高温で反応させることによりモノグリセリド等の副生成物を大量に含んだジグリセリド類(以下「反応混合物」という)を短時間で生成し、得られた反応混合物に炭素数2〜24の飽和もしくは不飽和脂肪酸またはその低級アルキルエステルを添加し、さらに酵素触媒を用いて反応させることにより、高純度のジグリセリド類を短かい反応時間で高収率で得ることができることを見出し本発明を完成させた。【0010】すなわち本発明は、グリセリン等と油脂を触媒存在下、120℃以上で反応させ(反応1)、得られた反応混合物に炭素数2〜24の飽和もしくは不飽和脂肪酸またはその低級アルキルエステルを添加し、さらに固定化リパーゼまたは菌体内リパーゼの存在下で反応させる(反応2)ことを特徴とするジグリセリド類の製造方法を提供するものである。【0011】【発明の実施の形態】本発明に用いる油脂は牛脂、豚脂、魚油、鯨脂等の動物油脂、なたね油、オリーブ油、大豆油、ヤシ油、パーム油、アマニ油、サフラワー油等の植物油脂のいずれであってもよい。一般に油脂はトリグリセリドを主体とするものであるが、副成分としてモノグリセリド、ジグリセリド、複合脂質(例えばレシチン、ケファリン等のリン脂質)、遊離脂肪酸、長鎖アルコール、ステロール、炭化水素(例えばスクアレン等)、脂溶性ビタミン、色素等を含有していてもよい。また抽出方法も圧搾法、炒取り法、煮取り法等いずれであってもよい。【0012】本発明で用いる脂肪酸は、炭素数2〜24の飽和もしくは不飽和脂肪酸であり、例えば酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ゾーマリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ガドレン酸、アラキン酸、ベヘン酸、エルカ酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等を用いることができる。また、前記の脂肪酸は炭素数1〜3の低級アルコール類とエステルを形成していてもよい。炭素数1〜3の低級アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどが挙げられる。これらの脂肪酸または脂肪酸エステルは単独または2種以上混合された状態で用いることができる。【0013】本発明に用いるポリグリセリンについては、グリセリンの重合度に特に制限はないが、例えば2〜10、好ましくは2〜5である。グリセリン、ポリグリセリンは市販品を用いることができる。なお反応1の原料には油脂とグリセリン等以外の成分が存在してもよい。また反応2において、反応1の反応混合物と炭素数2〜24の飽和もしくは不飽和脂肪酸またはその低級アルキルエステル以外の成分が存在してもよい。【0014】本発明の反応1に用いる触媒としては特に制限はないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム等のアルカリ、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート等のアルコキシド等を用いることができる。【0015】また本発明で用いる固定化リパーゼまたは菌体内リパーゼは、1,3位に選択的に作用する固定化リパーゼまたは菌体内リパーゼ(以下「固定化または菌体内1,3位選択的リパーゼ」という)であることが好ましい。固定化1,3位選択的リパーゼは1,3位選択的リパーゼを公知の方法で固定化することにより得られる。固定化のための公知の方法は、例えば、「固定化酵素」千畑一郎編集、講談社刊、9〜85頁及び「固定化生体触媒」千畑一郎編集、講談社刊、12〜101頁に記載されているが、イオン交換樹脂に固定化する方法が好ましいものとして例示される。固定化に用いられる1,3位選択的リパーゼとしては、リゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属等の微生物由来のリパーゼ、脾臓リパーゼ等がある。例えば、リゾプス・デレマー(Rhizopus delemer)、リゾプス・ジャポニカス(Rhizopus japonicus)、リゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、ムコール・ジャパニカス(Mucor javanicus)、ムコール・ミーハイ(Mucor miehei)などを起源とするリパーゼを使用することができる。市販の固定化1,3位選択的リパーゼとしては、ノボノルディスクバイオインダストリー社製の商品名「Lipozyme IM」等がある。菌体内1,3位選択的リパーゼとしては、微生物菌体に1,3位選択的リパーゼが吸着または結合したもので、市販品としては大阪細菌研究所製の商品名「オリパーゼ」がある。これらの固定化もしくは菌体内リパーゼは減圧条件でもその特性を維持するため、保水力を示すものである必要がある。このためには、特にイオン交換樹脂で固定化したリパーゼが好ましい。【0016】反応1においては、油脂をほぼ完全に反応させ、未反応油脂を残存させないことが好ましいことから、油脂のモル数×3/(油脂のモル数+グリセリン等のモル数)が0.3〜2、特に0.5〜1の範囲で反応1を行うことが好ましい。なおここで油脂のモル数×3は反応1における全脂肪酸基のモル数(FA′)を、油脂のモル数+グリセリン等のモル数はグリセリル基を有する分子のモル数(GLY)を表わす。【0017】また反応2においては、グリセリンまたはポリグリセリンに脂肪酸が2個結合することが好ましいことから、(油脂のモル数×3+炭素数2〜24の飽和もしくは不飽和脂肪酸またはその低級アルキルエステルのモル数)/(油脂のモル数+グリセリン等のモル数)が1〜3.5、特に1.6〜2.8、さらに特に約2の範囲で反応2を行うことが好ましい。なおここで油脂のモル数×3+炭素数2〜24の飽和もしくは不飽和脂肪酸またはその低級アルキルエステルのモル数は反応2における全脂肪酸基のモル数(FA)を表わす。【0018】本発明の反応1は常法にしたがって行うことができる。すなわち例えば、油脂等を所定の温度に加熱しながら攪拌し、触媒、グリセリン等を添加して反応させることにより得ることができる。本発明の反応1における反応温度は反応速度向上のため、減圧下または窒素気流下120℃以上、好ましくは200℃以上で反応させる。さらに反応1の反応時間については特に制限はないが、長時間であると重合物等が生成してしまうこと、さらに経済性の観点から、概ね5時間以下、好ましくは3時間以下である。【0019】本発明の反応2は例えば以下のような方法により行うことができる。反応1により得られた反応混合物に炭素数2〜24の飽和もしくは不飽和脂肪酸またはその低級アルキルエステルを添加する(得られたものを以下「反応2の原料混合物」という)。反応2の原料混合物を前記の固定化リパーゼまたは菌体内リパーゼの存在下で反応させる。反応温度は特に制限はないが、例えば20〜100℃、好ましくは35〜80℃である。【0020】この反応はヘキサン、オクタン、石油エーテルの溶剤を用いても良いが、その除去・精製を考慮すると溶剤を加えない方が好ましい。また、加水分解を抑制するため、この反応系にリパーゼ製剤、反応原料に溶解している水分以外に水を添加しない方が好ましい。【0021】エステル合成率を高くするため、反応により生成する水または低級アルコールを系外へ除去しながら反応を行うことが好ましい。水等を系外へ除去する方法としては、例えば減圧による脱水、脱アルコールの他、乾燥した不活性ガスを通気したり、または、モレキュラーシーブス等の吸水剤を用いる等の脱水、脱アルコール法が使用できる。ただし、低温で可能であり、不活性ガス・脱水剤の回収なども不要な減圧による方法が好ましく、減圧度は、50Torr以下が好ましく、さらに10Torr以下の状態が好ましい。これらの脱水、脱アルコールは、酵素反応器内で行ってもよいし、反応器外の脱水部、脱アルコール部で行い、酵素反応器との循環を行ってもよい。【0022】なお、反応は、回分式でも半回分式でも連続反応でもよい。【0023】反応終了物よりリパーゼ製剤を濾別し、未反応のグリセリン等、脂肪酸または脂肪酸の低級アルキルエステル、及びモノグリセリドは分子蒸留等従来周知の分離・精製手段を単独または適宜併用することにより容易に除去することができる。かくして精製ジグリセリド類が高純度で収率良く短時間で得られる。本発明によりあらゆるジグリセリド類の製造が可能である。【0024】【実施例】次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。【0025】実施例1精製オリーブ油750gと、グリセリン250gと、水酸化ナトリウム1gとを混合し、温度230℃、窒素気流下で攪拌しながら1時間反応させた(反応1)。なお反応1においてFA′は2.55モル、GLYは3.57モルであり、FA′/GLYは0.71であった。得られた反応混合液は、グリセリン12重量%、モノグリセリド56重量%、ジグリセリド28重量%、トリグリセリド4重量%であった。該反応混合液にオレイン酸1290gと、固定化酵素(リポザイムIM、ノボ社製)200gとを添加し、40℃、5Torrの減圧下で脱水しながら攪拌下反応を行い、脂肪酸濃度が15重量%となった時点で反応を終了させた。反応時間は2.5時間であった(反応2)。すなわち反応1と反応2の反応時間の和は3.5時間であった。反応終了物からリパーゼをろ別した後のろ液中のジグリセリドは62%であった。なお反応2においてFAは7.12モル、GLYは3.57モルであり、FA/GLYは1.99であった。【0026】比較例1オレイン酸2010g(実施例1の反応2における全脂肪酸基のモル数と同一)と、グリセリン330g(実施例1の反応2におけるグリセリル基を有する分子のモル数と同一)と、実施例1と同一の固定化酵素200gとを混合し、実施例1と同一の温度、減圧下で反応を行い、脂肪酸濃度が15重量%となった時点で反応を終了させた。反応時間は5時間であった。反応終了物からリパーゼをろ別した後のろ液中のジグリセリドは63%であった。【0027】実施例1の方法によれば、ほぼ同一の収率のジグリセリドを得るのに比較例1の場合より、1.5時間反応時間を短縮することができた。【0028】【発明の効果】本発明の方法によれば、短時間で高収率かつ高純度のジグリセリド類を得ることができる。すなわちまず触媒存在下で高温で反応させることにより、反応混合物を短時間で得、次に酵素反応させることにより、高収率で高純度のジグリセリド類を得ることができる。 グリセリンまたはポリグリセリンと油脂を触媒存在下、120℃以上で反応させ(反応1)、得られた反応液に炭素数2〜24の飽和もしくは不飽和脂肪酸またはその低級アルキルエステルを加え、さらに固定化リパーゼまたは菌体内リパーゼの存在下で反応させる(反応2)ことを特徴とするグリセリンまたはポリグリセリンのジ脂肪酸エステルの製造方法。 前記固定化リパーゼまたは菌体内リパーゼがグリセリンの1,3位に特異的に作用するものである請求項1記載の製造方法。 反応により生成する水または低級アルコールを系外に除去しながら行う請求項1または2記載の製造方法。 前記反応1を、油脂のモル数×3/(油脂のモル数+グリセリンまたはポリグリセリンのモル数)が0.3〜2で行う請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。 前記反応2を、(油脂のモル数×3+炭素数2〜24の飽和もしくは不飽和脂肪酸またはその低級アルキルエステルのモル数)/(油脂のモル数+グリセリンまたはポリグリセリンのモル数)が1〜3.5で行う請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。