タイトル: | 特許公報(B2)_肥大型心筋症の判定方法 |
出願番号: | 1996334815 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | G01N 33/53,G01N 33/50 |
田中 孝生 JP 3776189 特許公報(B2) 20060303 1996334815 19961129 肥大型心筋症の判定方法 大日本住友製薬株式会社 000002912 松尾 まゆみ 100124637 田中 孝生 20060517 G01N 33/53 20060101AFI20060420BHJP G01N 33/50 20060101ALI20060420BHJP JPG01N33/53 YG01N33/50 Z G01N 33/53 G01N 33/50 MEDLINE(STN) 特開平07−138296(JP,A) KASHIWAGI, H., et al.,Molecular basis of CD36 deficiency, J. Clin. Invest.,1995年,Vol. 95,p. 1040-1046 5 1998160733 19980619 6 20031113 山村 祥子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy) の判定方法に関する。【0002】【従来の技術および本発明が解決しようとする課題】心筋症は心筋が侵される原因不明の疾患であり、その臨床病態により肥大型、拡張型および拘束型に分類される。その中の肥大型心筋症は、左心室壁の異常な肥大により左心室の拡張機能が障害される疾患である。現在、肥大型心筋症の原因究明の努力が続けられているが、家系内で多発する場合があることなどにより、本疾患の原因の一つとして遺伝的な要因が考えられている。【0003】肥大型心筋症の症状としては、胸痛、呼吸困難、失神などが挙げられる。しかし、自覚症状のないまま死に到ることもあり、例えば、運動中に突然死した若年者の解剖後の検査で、初めて本疾患だと判定されることも多い。【0004】従来、肥大型心筋症の判定は主に心エコー図検査により行われている。しかしながら、心エコー図検査においては、左心室壁の肥大など、あくまで心臓の形態に異常が認められるまでは本疾患の判定をすることはできない。例えば、家系内に本疾患の発症がある子供の場合に、将来の発症の可能性が高いと考えられるにもかかわらず、検査時において心臓の形態的な異常が無いか、もしくは軽微であれば、心エコー図検査では本疾患の判定はできない。【0005】また、心エコー図検査においては、測定者の技術や生体側の条件により、測定の精度が左右されるので、多人数を一度に検査することは極めて困難である。【0006】他方、CD抗原は各種の細胞に発現している抗原分子であり、その構造や機能により多種に分類されている。その中のCD36抗原は、血小板や単球などの細胞に発現する糖蛋白であり、その異常と疾病との関係が研究されてはいるが、現在のところその関係は明らかではない。特に、CD36抗原と肥大型心筋症との関係は全く知られてはいない。【0007】また、ヒト細胞のCD36抗原の異常を検出することは、従来から行われている。例えば、Yamamotoらはフローサイトメトリー法により、血小板のCD36抗原の欠損を検出している(Br. J. Haematol. 81, 86-92, 1992)。しかし、そこにはCD36抗原の欠損と肥大型心筋症との関係については全く言及されていない。【0008】このような状況において、早期、かつ、簡便に肥大型心筋症を判定する方法を提供することが望まれている。【0009】【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明者らはCD36抗原に着目し、鋭意研究を重ねてきた結果、ヒトから分離した細胞のCD36抗原の異常と肥大型心筋症との間には高い相関関係があることを見い出し、本発明を完成した。【0010】本発明によれば、肥大型心筋症の判定が可能となる。より具体的には、ヒトから分離された細胞のCD36抗原が異常であるか否かを検出し、CD36抗原が異常である場合には、肥大型心筋症に罹患している疑いがあると判定することができる。したがって、本発明によれば、早期、かつ、簡便に肥大型心筋症を判定することができ、本疾患の予防および治療において有用である。【0011】【発明の実施の形態】本発明は、ヒトから分離された細胞のCD36抗原の異常を検出することを特徴とする肥大型心筋症の判定方法に関する。【0012】ここにおいて、「CD36抗原の異常を検出」なる用語は、CD36抗原の欠損を検出すること、または変異したCD36抗原を検出することの両方を意味し、「肥大型心筋症の判定」なる用語は、現に発症している本疾患の存在を推定することのみならず、将来の発症の可能性を予見することも意味する。【0013】肥大型心筋症は、原因不明に心筋が侵され、心室中隔または(および)左心室後壁が異常に肥大(例えば厚さが1.3cm以上)している疾患をいい、典型的な肥大の形態として、非対称性に心室中隔が肥大(例えば心室中隔厚に対する左心室後壁厚の比が1.3以上)している場合が多く(Wigle et al. , Prog. Cardiovasc. Dis. 28, 1-83, 1985)、この様な肥大を非対称性中隔肥大(asymmetrical septal hypertrophy) という。【0014】CD36抗原は、国際的なCD(cluster of differentiation)分類(CD classification)により分類されたCD抗原の一種であり、血小板や単球などの細胞に発現している糖蛋白である。【0015】本発明における細胞としては、例えば、血小板や心筋細胞、単球などが挙げられ、特に血小板が好ましい。血小板や単球は、ヘパリン処理したヒトの血液を遠心分離することにより分離できる。また、心筋細胞は生検(バイオプシー)により分離することができる。【0016】CD36抗原の異常は、いずれの方法により検出してもよいが、抗体、なかんずくモノクローナル抗体が有する特異反応を利用する方法により検出するのが好ましい。CD36抗原の欠損の検出は、CD36抗原に対する抗体を用いて検出することができる。また、変異したCD36抗原(例えば、構成アミノ酸の一つまたは複数が置換、欠失、付加した場合)の検出は、変異したCD36抗原の変異部位を認識する抗体を用いることにより行うことができる。これらの場合、異なるエピトープ(epitope) を認識する2種以上の抗体を用いてもよい。【0017】抗体を用いる検出法としては、フローサイトメトリー法や免疫組織学的な方法、EIAの如き免疫測定法、免疫沈降法、ウエスタンブロット法などが挙げられ、特にフローサイトメトリー法が好適である。フローサイトメトリー法は、分離した細胞と蛍光標識されたモノクローナル抗体とを反応させ、これにレーザー光を照射し、細胞から発生する光信号を解析することにより細胞に発現している抗原を検出する方法である。【0018】CD36抗原の異常を検出する他の方法としては、CD36抗原をコードする遺伝子(以下、CD36遺伝子という)の異常を検出することも挙げられる。ここにおけるCD36遺伝子の異常には、該遺伝子の欠損や塩基配列の変異が含まれる。【0019】例えば、CD36遺伝子またはその転写物(mRNA)にハイブリダイズ(hybridize) しうる核酸プローブ(probe) を用いる方法がある。具体的には、細胞から単離したDNAまたはmRNAと標識物で標識した前記核酸プローブとを、適当な条件下でハイブリッド形成させ、そのハイブリッド形成の程度とお互いの相補性との関係を利用して、遺伝子の異常を検出する方法である。その検出法としては、PCR(polymerase chain reaction) を利用する方法やサザンブロット法、ノーザンブロット法などが挙げられる。【0020】「異常」の判断は、ある一定の基準に従って行われる。例えば、CD36抗原を全く発現していないか、あるいは発現していたとしても正常よりも極めて発現量の少ない細胞の割合が測定する細胞総数の50%を超える場合に、その者のCD36抗原は「異常」である、と判断することができる。【0021】また、例えば、変異したCD36抗原を発現している細胞の割合が50%を超える場合に、その者のCD36抗原は「異常」である、と判断することができる。【0022】これらの基準に従えば、肥大型心筋症に罹患している患者では、CD36抗原の異常者の割合が35〜50%の値をとり、本疾患に罹患していない者ではその割合が10%以下、例えば3〜8%の値をとることが多い。【0023】また、別の判断基準として、一定数の細胞に発現しているCD36抗原の総量あるいは変異したCD36抗原の総量を、正常の場合と比較することも挙げられる。【0024】このようにして、ヒトから分離した血小板の如き細胞のCD36抗原の異常を検出することにより、肥大型心筋症の判定ができる。【0025】【実施例】以下実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。【0026】肥大型心筋症の判定心エコー図検査において、心室中隔または(および)左心室後壁の厚さが1.3cm以上であると判断され、心肥大を生ずる別の心疾患や全身性疾患がなく、非対称性に左心室壁が肥大している(心室中隔厚に対する左心室後壁厚の比が1.3以上)者を肥大型心筋症患者であると判定した。【0027】血小板の分離肥大型心筋症患者51名および他の心臓疾患患者35名(拡張型心筋症患者10名、高血圧や大動脈弁狭窄などによる心肥大患者25名)から血液を採取し、ヘパリン処理後、これから多血小板血漿(Platelet-Rich-Plasma、以下、PRPと略す)を遠心分離(250×g、10分間、室温)した。【0028】CD36抗原の欠損の検出上記で得たPRPを、血小板が1×108 /mlになるように9mM EDTAを含有する10mM リン酸緩衝食塩液(pH7.4)で希釈した。この希釈液の100μlに、蛍光色素の一種であるFITC(fluorescein isothiocyanate)で標識した抗CD36モノクローナル抗体溶液(OKM5;Ortho Diagnostic Systems社製)10μlを加え、これを4℃で30分間インキュベートした。その後、この混合液を前述のリン酸緩衝食塩液で3回洗浄し、フローサイトメトリー分析用の検体とした。陰性コントロールとして、FITCで標識したマウスF(ab')2フラグメントを用いた。フローサイトメトリー分析は、フローサイトメーター(同上社製)を用いて488nmのアルゴンレーザーにより行った。【0029】ここにおいて、測定した血小板総数のうち50%以上の血小板にCD36抗原の発現が認められなかった場合に、その者のCD36抗原は欠損していると判断した。【0030】結果を表1に示す。【0031】【表1】【0032】表1に示すように、肥大型心筋症の患者におけるCD36抗原の欠損者の割合が、その他の心臓疾患患者におけるCD36抗原の欠損者の割合より、明らかに高いことが判る。【0033】【発明の効果】本発明によれば、血小板の如きヒト細胞におけるCD36抗原の異常を検出することにより、早期、かつ、簡便に肥大型心筋症を判定することができ、本疾患の予防および治療において有用である。 ヒトから分離された血小板のCD36抗原の異常を検出することを特徴とする肥大型心筋症の判定方法。 異常がCD36抗原の欠損もしくは変異である請求項第1項記載の判定方法。 CD36抗原の欠損をCD36抗原に対する抗体を用いて検出する請求項第2項記載の判定方法。 抗体がモノクローナル抗体である請求項第3項記載の判定方法。 CD36抗原の欠損をフローサイトメトリー法により検出する請求項第3項または第4項記載の判定方法。