生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_ガングリオシドの定量方法
出願番号:1996316850
年次:2007
IPC分類:C12Q 1/34


特許情報キャッシュ

芦田 久 JP 3985021 特許公報(B2) 20070720 1996316850 19961022 ガングリオシドの定量方法 アークレイ株式会社 000141897 ▲吉▼川 俊雄 100091683 芦田 久 20071003 C12Q 1/34 20060101AFI20070913BHJP JPC12Q1/34 C12Q 1/00-1/70 C12N 15/00-15/90 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JMEDPlus(JDream2) JSTPlus(JDream2) 特開平02−206763(JP,A) 特公平07−075557(JP,B2) Jolif, A., et al.,FEBS Letters,1988年,Vol.230,p.147-150 Chatterjee, S., et al.,Mol. Cell. Biochem.,1992年,Vol.113,p.25-31 3 1998117795 19980512 9 20031006 西 剛志 【0001】【産業土の利用分野】本発明は液体試料中のガングリオシドを特異的に定量する方法に関する。【0002】【従来の技術】ガングリオシドとはシアル酸を含む酸性スフィンゴ糖脂質のことである。シアル酸とはいくつかの分子種を含む総称であるが、主要なガングリオシドに含まれるシアル酸は、N−アセチルノイラミン酸である。以下本発明では、N−アセチルノイラミン酸を単にノイラミン酸と略称することもある。【0003】ガングリオシドは種々の動物細胞の表面に存在し、ホルモンやサイトカインのレセプターとして機能していることが明らかになりつつある。また、脳や神経組織には特に多く含まれ、情報伝達や記憶のメカニズムとの関連性も示唆されている。血清中にはリポタンパク質などに結合したガングリオシドが存在しているが、血清中のガングリオシド含量は、ガンなど種々の病態を反映するものとして意義があると考えられている。【0004】また最近では、ある種のガングリオシドは体内へ投与されると、神経細胞に対しての神経突起伸長作用を有していることが発見され、アルツハイマー病の治療薬としての可能性にも期待が集まっている。医薬品として投与する場合、その血中濃度のモニタリングが必要であり、簡便な定量方法が望まれている。【0005】先天的代謝異常症の一種として、ガングリオシドの代謝異常症であるガングリオシドーシスが知られている。ガングリオシドーシス患者では、脳や組織にガングリオシドGM1やGM2(以下、単にGM1,GM2と略記することもある。構造式は表1参照)が蓄積するとともに、尿中に著量のガングリオシドを排泄する。従って、尿中ガングリオシド濃度を定量することにより、ガングリオシドーシスの早期発見が可能である。【0006】従来、ガングリオシドの分析方法は以下のようなものが一般的であった。【0007】試料となる糖脂質を有機溶媒(クロロホルム−メタノール)で抽出し、フォルチ(folch)分配により糖脂質画分を調製し、次いで陰イオン交換樹脂を用いてシアル酸を含む酸性糖脂質画分を得、薄層クロマトグラフィーで分離後、レゾルシノール−塩酸試薬でガングリオシドを発色させ、デンシトメーターで定量するものである。この方法では操作に時間がかかる上、各種ガングリオシドの量比がわかるものの、定量には不向きである。【0008】また、高速液体クロマトグラフィーによる方法もあるが、これも前段階としてガングリオシド画分の粗精製が必要であり、同様の欠点を有する。【0009】特公平7−75557号には脂質結合性シアル酸の測定法が開示されているが、これは蛋白質結合型シアル酸を極性有機溶媒で沈殿除去したのちにシアル酸を定量する方法である。この方法はガングリオシドに結合した総シアル酸濃度を測定できるものの、ガングリオシドの濃度を測定する方法を開示したものではない。【0010】ガングリオシドを含むリポ蛋白質分画を金属イオンを含む沈殿剤で沈殿させ、これを再溶解させたのちにガングリオシドの量および質を測定する方法が、特開平2−206763号に開示してあるが、これも抽出・沈殿などの操作が必要である。【0011】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、煩雑な抽出・分離・精製などの操作を必要としない、ガングリオシドの簡便な定量方法を提供することである。さらに本発明は、最終的にノイラミン酸を測定する方法でありながら、ノイラミン酸含有糖蛋白質,ノイラミン酸含有オリゴ糖,遊離ノイラミン酸,ガングリオシドの混合物からガングリオシドのみを特異的に、かつ簡便に定量できる方法を提供するものである。【0012】【課題を解決するための手段】上記問題を解決するためには、ガングリオシドを含む試料にノイラミニダーゼを作用させ、遊離するN−アセチルノイラミン酸を消去したのち、さらにエンドグリコセラミダーゼを添加し、新たに遊離生成するN−アセチルノイラミン酸を測定すればよいことが判明した。【0013】本発明者は、既知のほとんどのノイラミニダーゼが、GM1とGM2に全く作用しないか、あるいはほとんど作用しないにもかかわらず、GM1とGM2にエンドグリコセラミダーゼを作用させて生成したGM1オリゴ糖とGM2オリゴ糖には効率よく作用することに着目して、本発明を完成するに至った。【0014】【発明の実施の形態】ノイラミニダーゼは糖鎖の非還元末端のN−アセチルノイラミン酸を加水分解するエキソ型グリコシダーゼであり、ウィルス、細菌、放線菌、鳥類、ほ乳類など広範囲に生物界から知られている。【0015】さて、表1を見れば理解できるように、主要なガングリオシドはその種類に関わらず、GM1又はGM2を基本骨格とした構造を有する。【0016】N−アセチルノイラミン酸は主にα2→3、α2→6、α2→8の3種類の結合様式があるが、大部分のノイラミニダーゼはこの結合様式に極端な特異性を持たず、どの結合でも加水分解できる。しかしながら、ほとんどのノイラミニダーゼがガングリオシドGM1やGM2のセラミド側から数えて2番目のガラクトースにα2→3結合したN−アセチルノイラミン酸を加水分解することができないのである。【0017】その理由は、GalNAcβ1→4(NeuAcα2→3)Gal構造の立体障害により酵素が作用しないためであると考えられている[Ledeen,R.and Salsman,K. Biochemistry,4,2225(1965)]。つまり、GM1やGM2のセラミド側から数えて2番目のガラクトースにα2→3結合したN−アセチルノイラミン酸は、結合しているガラクトース残基の4位炭素の水酸基のN−アセチルガラクトサミンへの置換による立体障害が原因でノイラミニダーゼが作用しないと考えられている。【0018】しかし発明者は、ノイラミニダーゼ活性に対する疎水基すなわちセラミド部分の有無の影響を調べたところ、GM1やGM2のセラミド部分をエンドグリコセラミダーゼで取り除きオリゴ糖にすることにより、100倍以上の反応速度を示すことを見い出した。これは疎水性のセラミドが切断され、基質が著しく親水性に変化したことによるものと考えられた。【0019】表1から判断できるように、主要なガングリオシドすなわちGD1a,GD1b,GQ1bなどにノイラミニダーゼを作用させた場合、セラミド側から数えて2番目のガラクトースにα2→3結合したN−アセチルノイラミン酸を除くN−アセチルノイラミン酸は、ノイラミニダーゼにより直ちに加水分解され、最終的にGM1が生成される。【0020】GM1の構造にまで加水分解された各種ガングリオシドは、次に添加されるエンドグリコセラミダーゼの作用により、セラミドとGM1オリゴ糖に加水分解される。ここで、系に残存しているノイラミニダーゼはGM1に対する100倍以上の反応速度でGM1オリゴ糖に対して作用するために、N−アセチルノイラミン酸とアシアロGM1オリゴ糖が生成する。【0021】つまり、当初の系に存在していた各種ガングリオシドは、モル数はそのままでGM1に変化するために、最終的にGM1の全モル数が、当初の系に存在していた各種ガングリオシドの合計モル数に相当する。すなわち、エンドグリコセラミダーゼ添加後に生成したN−アセチルノイラミン酸量を測定することにより、あらかじめGM1標品で作成した検量線から、試料に含まれる全ガングリオシドの合計モル濃度をGM1相当量として算出する。【0022】エンドグリコセラミダーゼはスフィンゴ糖脂質のセラミドと糖鎖の間のグリコシド結合を加水分解するエンド型酵素であり、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌の一菌株(A809株)から知られている[H.ASHIDA et.al. ヨーロピアンジャーナルオブバイオケミストリー(Eur.J.Biochem.),205(2),729−735(1992)]。コリネバクテリウム属のエンドグリコセラミダーゼはグロボ系列の中性糖脂質にはほとんど作用しないが、ガングリオ系列、ラクト系列、ネオラクト系列の糖脂質には、酸性、中性を問わずよく作用することが判明している。グロボ系列のガングリオシドは非常に種類が少なく、また含量も低いため、エンドグリコセラミダーゼが作用しなくても、本発明のガングリオシドの定量値に及ぼす影響は非常に少ない。【0023】エンドグリコセラミダーゼは、他に放線菌やヒル、ミミズなどより知られているが、それらを使用することもできる。【0024】ノイラミニダーゼの作用により生成したN−アセチルノイラミン酸は、酵素法により定量する。その際のN−アセチルノイラミン酸の代表的な定量方法としては、▲1▼:ノイラミン酸アルドラーゼによりN−アセチルマンノサミンとピルビン酸に分解し、次いでピルビン酸を乳酸脱水素酵素により乳酸に変換し、その際のNADHの減少を340nmで測定する方法[Brunetti,P. et. al. Methods in Enzymology,6,465−473(1963)]、▲2▼:ノイラミン酸アルドラーゼによりN−アセチルマンノサミンとピルビン酸に分解し、次いでピルビン酸をピルビン酸オキシダーゼで酸化し生成する過酸化水素を測定する方法[Sugahara,K. et. al. Clin.Chim.Acta.,108,493−498(1980)]、▲3▼:ノイラミン酸アルドラーゼによりN−アセチルマンノサミンとピルビン酸に分解し、次いでN−アセチルマンノサミンをN−アセチルマンノサミン脱水素酵素で酸化し、その際のNADHの増加を340nmで測定する方法[特公平6−6079号]、▲4▼:ノイラミン酸アルドラーゼによりN−アセチルマンノサミンとピルビン酸に分解し、次いでアシルグルコサミンエピメラーゼでN−アセチルマンノサミンをN−アセチルグルコサミンに変換し、N−アセチルヘキソサミンオキシダーゼで酸化し、生成する過酸化水素を測定する方法[特公平5−4080号]、などが開示されているので、いずれの手法も使用できる。【0025】容易に入手できるノイラミニダーゼは微生物由来である。ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ビブリオ(Vibrio)属、クロストリジウム(Clostridium)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属などから精製した表記酵素が市販されている。ただし、アルスロバクター ウレアファシエンス(Arthrobacter ureagascience)、クロストリジウム パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)など一部の細菌由来のノイラミニダーゼでは、胆汁酸の存在下でGM1やGM2のN−アセチルノイラミン酸を加水分解できることが知られている。一方で本発明に使用するノイラミニダーゼは完全ななGM1やGM2に作用しないか、あるいはほとんど作用しない酵素が好ましい。具体的にはストレプトコッカス属、ビブリオ属のノイラミニダーゼがその条件を満たすため、特に好ましい。【0026】【実施例】次に、具体的な実施例をもって本発明を詳細に説明する。【0027】エンドグリコセラミダーゼは、ヨーロピアンジャーナルオブバイオケミストリー(Eur.J.Biochem.)205(2),729−735(1992)に記載の方法に従って調製した。すなわち、コリネバクテリウムA809株をグルコース・肉エキス・ポリペプトンを含む培地にて好気的条件下で48時間培養し菌体を得、これを洗浄ののちTriton X−100を添加し超音波破砕して膜画分に存在するエンドグリコセラミダーゼを抽出した。抽出されたエンドグリコセラミダーゼは、DEAE−セルロファイン,ハイドロキシルアパタイト,セファデックスG−200の各カラムクロマトグラフィーで順次精製し、均一な酵素を得た。エンドグリコセラミダーゼ以外の酵素・試薬類は全て市販品を使用した。【0028】以下の試薬溶液を調製した。【0029】試料中の全ガングリオシド濃度を以下の手順で測定した。(1)未知濃度のウシ脳由来ガングリオシド各種混合物を含む液体試料100μlに、試薬溶液1を900μl加え、37℃に保ちながら反応させ、593nmの吸光度をモニターした。3分後の吸高度をAbs.1とした。(2)反応液にさらに試薬溶液2を50μl添加し、継続して593nmの吸光度をモニターした。試薬液2を添加して5分後の吸光度をAbs.2とした。反応タイムコースを図1に示した。した検量線(図2)から、総ガングリオシドのモル濃度は0.49mmol/Lと算出された。【0030】糖タンパク質の影響; ノイラミン酸含有糖タンパク質の影響を、代表的なノイラミン酸含有糖タンパク質であるα1−酸性糖蛋白質を用いて調べた。0.49mmol/L GM1の溶液に終濃度0から10mg/mlになるようにα1−酸性糖蛋白質を添加して、それぞれ測定した。図3に示したとおり、α1−酸性糖蛋白質の影響はほとんど認められなかった。【0031】ノイラミン酸含有オリゴ糖の影響; ノイラミン酸含有オリゴ糖の影響を、ウシ乳由来のシアリルラクトース(NeuAcα2→3Galβ1→4Glc)を用いて調べた。0.49mmol/L GM1の溶液に終濃度0から2.0mmol/Lになるようにシアリルラクトースを添加して、それぞれ測定した。図4に示したとおり、シアリルラクトースの影響はほとんど認められなかった。【0032】【発明の効果】以上詳説したように、本発明を用いると、溶液試料中の各種ガングリオシド混合濃度を、煩雑な操作をすることなく定量できる。従って、自動分析機などへの応用も期待できる。【0033】【図面の簡単な説明】【図1】約0.5mmol/Lのウシ脳由来のガングリオシド混合物を測定した際のタイムコース。【図2】GM1標品を用いて得られた検量線。【図3】ガングリオシド測定値に及ぼすα1−酸性糖蛋白質の影響。【図4】ガングリオシド測定値に及ぼすシアリルラクトースの影響。【表1】 ガングリオシドを含む試料にノイラミニダーゼを作用させ、遊離するN−アセチルノイラミン酸をまず消去したのち、さらにエンドグリコセラミダーゼを添加し、新たに遊離生成するN−アセチルノイラミン酸を測定することを特徴とする、試料中のガングリオシドの定量方法であって、該ノイラミニダーゼが、ガングリオシドGMIとガングリオシドGM2に作用せず、GM1オリゴ糖とGM2オリゴ糖に作用する特異性を有する、ガングリオシドの定量方法。 ガングリオシドを含む試料にノイラミニダーゼを作用させ、遊離するN−アセチルノイラミン酸をまず消去したのち、さらにエンドグリコセラミダーゼを添加し、新たに遊離生成するN−アセチルノイラミン酸を測定することを特徴とする、試料中のガングリオシドの定量方法であって、該ノイラミニダーゼがストレプトコッカス属細菌由来である、ガングリオシドの定量方法。 ガングリオシドを含む試料にノイラミニダーゼを作用させ、遊離するN−アセチルノイラミン酸をまず消去したのち、さらにエンドグリコセラミダーゼを添加し、新たに遊離生成するN−アセチルノイラミン酸を測定することを特徴とする、試料中のガングリオシドの定量方法であって、該ノイラミニダーゼがビブリオ属細菌由来である、ガングリオシドの定量方法。


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