タイトル: | 特許公報(B2)_フラボノイド可溶化法、その糖転移法及び高濃度フラボノイド溶液 |
出願番号: | 1996281442 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | C08B 37/00,C12P 19/44,A61K 31/70 |
西村 隆久 岡田 茂孝 米谷 俊 中江 貴司 滝井 寛 JP 4202439 特許公報(B2) 20081017 1996281442 19961001 フラボノイド可溶化法、その糖転移法及び高濃度フラボノイド溶液 江崎グリコ株式会社 000000228 西村 隆久 岡田 茂孝 米谷 俊 中江 貴司 滝井 寛 20081224 C08B 37/00 20060101AFI20081204BHJP C12P 19/44 20060101ALI20081204BHJP A61K 31/70 20060101ALN20081204BHJP JPC08B37/00 ZC12P19/44A61K31/70 C08B 37/00-37/18 A61K 31/00-31/80 CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開平07−107972(JP,A) 特開平08−080177(JP,A) 特開平03−215434(JP,A) 5 1998101705 19980421 9 20030929 安川 聡 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、抗酸化作用、抗う蝕作用、血中脂質低下作用その他様々な生理活性を持つフラボノイドの可溶化法及び糖転移法並びに高濃度フラボノイド溶液に関するものである。【0002】【従来の技術】従来からビタミンPとして知られているヘスペリジン及びルチン等、並びに、ナリンジン、ネオヘスペリジン等のフラボノイド類はpH3〜10の領域で難溶性であるため、上記の様々な生理活性の研究が進みながらも、溶液状で添加することを要する食品及び医薬品などの工業製品に利用されていなかった。そこで溶解性を改良するためにこのようなフラボノイド類に糖を転移させたフラボノイド糖転移物が開発されている。これらフラボノイド糖転移物は溶解性が改良されたばかりでなく、小腸でもとのフラボノイドにまで分解されて吸収されると言われている。事実ヘスペリジン糖転移物に小腸由来の酵素を作用させると容易にヘスペリジンとグルコースに分解されることが確認されている。また、得られたフラボノイド糖転移物にもフラボノイドと同等の様々な生理活性があることが研究されつつある。【0003】フラボノイド糖転移物に関する特許(特開平7ー107972)で、本願発明者らは、フラボノイド糖転移物の生成量を最も高める方法として、pH8〜10のβ−サイクロデキストリン溶液にヘスペリジンを溶解して、ヘスペリジンの溶解度を最大に高めた上で、中性のものと生産性の変わらない耐アルカリ性のサイクロデキストリン合成酵素を作用させる方法を発明した。しかしながら、この方法でも大量のβーサイクロデキストリンを必要とするばかりでなく産業的に実用化するほどの生産レベルに達していなかった。尚、へスぺリジンの溶解度はpHが上がると飛躍的に上がるが、現在発見されている耐アルカリ性のサイクロデキストリン合成酵素は、pH10を越えると酵素活性が大きく減少する。【0004】【本発明が解決しようとする課題】従って、酵素反応により、効率的に糖転移反応が行えるpH10以下の高濃度フラボノイド溶液を作る方法、及び、食品としてそのまま摂取できるpH領域での高濃度フラボノイド溶液を作る方法、並びに、高濃度フラボノイド溶液が産業上切望されていた。【0005】【課題を解決するための手段】本願発明者は鋭意研究の結果、強アルカリに溶解したフラボノイドを増粘多糖類溶液に添加しさらにpHを3〜10に調整する、若しくは、フラボノイドをpH8〜10に調整した増粘多糖類溶液に溶解するフラボノイド可溶化法、及び、上記のpH8〜10に調整したフラボノイド溶液にサイクロデキストリン合成酵素を作用させるフラボノイド糖転移法、並びに、フラボノイド0.5重量%以上及び増粘多糖類を含みpH3〜10である高濃度フラボノイド溶液を発明した。【0006】本発明にいうフラボノイドとは、ビタミンPとして知られているヘスペリジン及びルチン等、並びに、ナリンジン、ネオヘスペリジン及びジオスミン等で、いずれも難溶性である。【0007】フラボノイドを強アルカリ溶液で溶解する方法は格別のものではない。例えば強アルカリ溶液である水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化アンモニウム等を水で溶解し、pH12〜14に調整する。それにフラボノイドを1〜6重量%好ましくは2〜5重量%添加・攪拌し、溶解させる。【0008】増粘多糖類溶液の調製方法も格別のものではない。本発明に使用する増粘多糖類にはメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ペクチン、ポリガラクチュロン酸、カラギーナン、タラガム、キサンタンガム等がある。本発明において、特にメチルセルロースを用いるとよいようである。これら増粘多糖類の1種類又は2種類以上の組み合わせを、水に溶解させ調製する。当然ながら温水を用いて攪拌力を高くすれば溶解の効率は高まる。【0009】強アルカリ溶液で溶解したフラボノイドを添加した増粘多糖類溶液のpHを3〜8又は8〜10に調整する方法も格別のものではない。例えば塩酸、酢酸及びリン酸等の酸物質又はpH緩衝作用を持つ物質をpHセンサーでチェックしながら逐次添加するとよい。【0010】又、pH8〜10に調整した増粘多糖類溶液の製造方法も格別のものではない。増粘多糖類溶液に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化アンモニウム等のアルカリ物質をpHセンサーでチェックしながら逐次添加するとよい。第3発明ではこの溶液にフラボノイドを1〜6重量%好ましくは2〜5重量%添加・攪拌し、溶解させる。【0011】本発明で使用するサイクロデキストリン合成酵素(1,4-α-D-Glucan; 4- α-D-(1,4-glucano)-transferase(E.C. 2.4.1.19.)。以下、本酵素という)は、澱粉を基質としたときグルコースが6〜8個からなるサイクロデキストリンを合成する酵素であり、一般にドナーのグルコース非還元末端にグルコースの1、4転移反応を行うものである。本発明では本酵素は特にアルカリ耐性であるものが好ましい。アルカリ耐性の本酵素として、例えばAlkalophilic Bacillus sp.A2−5a(工業技術院生命工学工業技術研究所受託番号 p−13864)に由来のものがある。【0012】本酵素を作用させる条件は格別のものではない。5〜70℃、0.5〜50時間作用させる。【0013】本発明である高濃度フラボノイド溶液は、第1、2又は3発明で得られた各溶液そのものである。又、目的のpHに調整した上で常法によりこれらの溶液から塩類や増粘多糖類を除去しもよい。【0014】【実施例】(実施例1)重量%が0.5%のメチルセルロース溶液に1Nの水酸化ナトリウム溶液で溶解したヘスペリジン溶解溶液をヘスペリジンの重量%が4.0%となるように添加した。これら試料を塩酸でpHが2.2、3.3、5.0、8.3、9.5、10.0及び10.5に夫々調整した後、16時間、40℃でインキュベートした。【0015】(比較例1)水に1Nの水酸化ナトリウム溶液で溶解したヘスペリジン溶解溶液をヘスペリジンの重量%が4.0%となるように添加した。これら試料を塩酸でpHが2.2、3.0、3.9、6.0、7.0、9.2及び10.0に夫々調整した後、16時間、40℃でインキュベートした。これら14種類の試料を遠心分離(10000×g、10分間)した後、上清に含まれるヘスペリジン量をHPLCにより分析した。これらの結果を表1及び図1に示した。【0016】【表1】なお、HPLCの分析条件は以下のとおりであった。column;ODS、eluent;AcCN/Pi buffer *=20/80、flow rate;0.5ml/min 、column temp;40℃、detector;UV 280、*; Pi buffer、KH2PO4 : 6.63g、Na2HPO 4: 0.45g in 1000ml of water 。【0017】(実施例2)1Nの水酸化ナトリウム溶液で溶解したヘスペリジンを、1.0重量%メチルセルロースと5重量%の可溶性澱粉を含む溶液に添加し、3.0重量%ヘスペリジン溶解溶液を調製した。この溶液を塩酸でpH9.5に調整した。この溶液をあらかじめ40℃に設定しておいた恒温槽にいれ、次いで、アルカリ耐性の本酵素を2ユニット/ミリリッターとなるように添加して作用させた。16時間の作用の後もヘスペリジンの析出は全く生じなかった。作用後の溶液を比較例1と同様にHPLCで分析したところ、全ヘスペリジンの80%以上が糖転移されていた。【0018】(実施例3)1Nの水酸化ナトリウム溶液で溶解したヘスペリジンを、0.1重量%メチルセルロースと5重量%の可溶性澱粉を含む溶液に添加し、3.0重量%ヘスペリジン溶解溶液を調製した。この溶液を塩酸でpH9.5に調整した。以下、実施例2と同様に実施した結果、ヘスペリジンの析出は全く生じず、全ヘスペリジンの80%以上が糖転移されていた。【0019】(実施例4)1Nの水酸化ナトリウム溶液で溶解したヘスペリジンを、1.0重量%ペクチンと5重量%の可溶性澱粉を含む溶液に添加し、2.0重量%ヘスペリジン溶解溶液を調製した。この溶液を塩酸でpH9.5に調整した。以下、実施例2と同様に実施した結果、ヘスペリジンの析出は全く生じず、全ヘスペリジンの80%以上が糖転移されていた。【0020】(実施例5)1Nの水酸化ナトリウム溶液で溶解したヘスペリジンを、0.1重量%ペクチンと5重量%の可溶性澱粉を含む溶液に添加し、2.0重量%ヘスペリジン溶解溶液を調製した。この溶液を塩酸でpH9.5に調整した。以下、実施例2と同様に実施した結果、ヘスペリジンの析出は全く生じず、全ヘスペリジンの80%以上が糖転移されていた。【0021】(実施例6)1Nの水酸化ナトリウム溶液で溶解したヘスペリジンを、1.0重量%カラギーナンと5重量%の可溶性澱粉を含む溶液に添加し、2.0重量%ヘスペリジン溶解溶液を調製した。この溶液を塩酸でpH9.5に調整した。以下、実施例2と同様に実施した結果、ヘスペリジンの析出は全く生じず、全ヘスペリジンの80%以上が糖転移されていた。【0022】(実施例7)1Nの水酸化ナトリウム溶液で溶解したヘスペリジンを、1.0重量%カラギーナンと5重量%の可溶性澱粉を含む溶液に添加し、1.0重量%ヘスペリジン溶解溶液を調製した。この溶液を塩酸でpH9.5に調整した。以下、実施例2と同様に実施した結果、ヘスペリジンの析出は全く生じず、全ヘスペリジンの80%以上が糖転移されていた。【0023】(実施例8)1Nの水酸化ナトリウム溶液で溶解したヘスペリジンを、0.1重量%カラギーナンと5重量%の可溶性澱粉を含む溶液に添加し、1.0重量%ヘスペリジン溶解溶液を調製した。この溶液を塩酸でpH9.5に調整した。以下、実施例2と同様に実施した結果、ヘスペリジンの析出は全く生じず、全ヘスペリジンの80%以上が糖転移されていた。【0024】(実施例9)1Nの水酸化ナトリウム溶液で溶解したナリンジンを、1.2重量%のメチルセルロース液に添加し、3.0重量%のナリンジン溶解溶液を調製した。この溶液を塩酸でpH9.5に調整した。以下、実施例2と同様に実施した結果、2.82%のナリンジンが溶解していた。【0025】(比較例2)1Nの水酸化ナトリウム溶液で溶解した3.0%重量%ナリンジン溶解溶液を調整した。この溶液を塩酸でpH9.5に調整した。この溶液をあらかじめ40℃に設定しておいた恒温槽にいれた。16時間の後には、大量のヘスペリジンが析出し、溶解しているナリンジン量を比較例1と同様にHPLCにより分析したところ、0.25%のナリンジンが溶解しているのみであった。実施例9と比較例2から得られた結果を比較すると、メチルセルロース溶液にナリンジンを添加することにより、pH9.5でのナリンジンの溶解度が11倍となった。【0026】(実施例10)1Nの水酸化ナトリウム溶液で溶解したナリンジンを、1.2重量%のメチルセルロースと5重量%の可溶性澱粉を含む溶液に添加し、3.0重量%のナリンジン溶解溶液を調製した。この溶液を塩酸でpH9.5に調整した。この溶液をあらかじめ40℃に設定しておいた恒温槽にいれ、次いで、アルカリ耐性の本酵素を2ユニット/ミリリッターとなるように添加して作用させた。16時間の作用後もナリンジンの析出は全く生じなかった。作用後の溶液を比較例2と同様にHPLCで分析したところ、メチルセルロースを添加していない通常の反応液と同様の糖転移率で糖転移が行われていた。【0027】(実施例11)1.0重量%のpH9.5のメチルセルロース液に1.0重量%となるようにヘスペリジンを添加し、この溶液をあらかじめ40℃に設定しておいた恒温槽にいれた。16時間の後に、溶解しているヘスペリジン量をHPLCにより分析したところメチルセルロースを添加していないコントロールに比べ、約2倍のヘスペリジンが溶解していた。【0028】(実施例12)1.0重量%のpH9.5のメチルセルロース液に1.0重量%となるようにヘスペリジンを添加し、この溶液をあらかじめ40℃に設定しておいた恒温槽にいれた。次いでアルカリ耐性の本酵素を2ユニット/ミリリッターとなるように添加して作用させた。作用後の溶液をHPLCで分析したところ、メチルセルロースを添加していない通常の反応液と同様の糖転移率で糖転移が行われていた。【0029】(実施例13)重量%が0.5%メチルセルロース液に1Nの水酸化ナトリウム溶液で溶解したヘスペリジン溶液をヘスペリジンの重量%が3.0%となるように調製した。この溶液を塩酸でpH3からpH9.8に調節した。これら溶液を40度で6時間放置した後、溶解しているヘスペリジン量をHPLCにより分析したところ図1に示すような結果が得られた。コントロールに比べ、メチルセルロース添加試料では、中性付近からpH10付近まで有意に可溶化効果が認められた。pH9付近ではメチルセルロース添加試料コントロールに比べ約10倍の濃度のヘスペリジンを溶解していた。【0030】(実施例14)実施例1で得られたpHが8.3、9.5及び10.0の夫々の試料にアルカリ耐性の本酵素を2ユニット/ミリリッターとなるように添加して作用させた。【0031】(比較例14)比較例1で得られたpHが7.0、9.2及び10.0の夫々の試料にアルカリ耐性の本酵素を2ユニット/ミリリッターとなるように添加して作用させた。実施例14と比較例14から、各pHにおけるヘスペリジン糖転移物生成量を、及び、参考として特開平7ー107972に記載されたβーサイクロデキストリン溶液を使用したときのヘスペリジン糖転移物生成量を分析し表2に示した。尚、ここで示した糖転移量は転移した糖質を除き、ヘスペリジンに換算した量で示している。メチルセルロース溶液はβーサイクロデキストリンの約8倍可溶化させることができた。【0032】【表2】【0033】(実施例15)実施例9で得られたナリンジン溶解溶液にアルカリ耐性の本酵素を2ユニット/ミリリッターとなるように添加して作用させた。【0034】(比較例15)比較例2で得られたナリンジン溶解溶液にアルカリ耐性の本酵素を2ユニット/ミリリッターとなるように添加して作用させた。実施例15と比較例15から、ナリンジン糖転移物生成量を分析し表3に示した。尚、ここで示した糖転移量は転移した糖質を除き、ナリンジンに換算した量で示している。コントロールに比べ11倍の糖転移物が生成された。【0035】【表3】【0036】【発明の効果】本発明により、ビタミンPで知られるヘスペリジン及びルチン等並びにナリンジン及びネオヘスペリジン等のフラボノイドの溶解性を高めることができた。特にアルカリ域で飛躍的に高めることができた。又、それを利用してフラボノイド糖転移物の生産性を高めることができた。又、pH3〜8で従来にない高濃度フラボノイド溶液をを生成することができた。これらの溶液は健康飲料、健康加工食品及び医薬品に利用できる。又、高濃度フラボノイド糖転移物溶液は常法により粉末化し工業製品とすることができる。【0037】【図面の簡単な説明】【図1】 実施例1及び比較例1の結果を示す図である。 ヘスペリジン、ルチン、ナリンジン、ネオヘスペリジン及びジオスミンから選ばれる一種以上のフラボノイドを、pH12〜14のアルカリ溶液で溶解し、それをメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ペクチン、ポリガラクチュロン酸、カラギーナン、タラガム、キサンタンガムから選ばれる一種以上の増粘多糖類からなる溶液に添加し、さらにpHを3〜8に調整することを特徴とする溶解していないフラボノイドの可溶化法。 ヘスペリジン、ルチン、ナリンジン、ネオヘスペリジン及びジオスミンから選ばれる一種以上のフラボノイドを、pH12〜14のアルカリ溶液で溶解し、それをメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ペクチン、ポリガラクチュロン酸、カラギーナン、タラガム、キサンタンガムから選ばれる一種以上の増粘多糖類からなる溶液に添加し、さらにpHを8〜10に調整することを特徴とする溶解していないフラボノイドの可溶化法。 ヘスペリジン、ルチン、ナリンジン、ネオヘスペリジン及びジオスミンから選ばれる一種以上のフラボノイドを、pH8〜10に調整したメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ペクチン、ポリガラクチュロン酸、カラギーナン、タラガム、キサンタンガムから選ばれる一種以上の増粘多糖類からなる溶液に溶解することを特徴とする溶解していないフラボノイドの可溶化法。 請求項2又は3に記載の方法により得られたフラボノイド溶液に、サイクロデキストリン合成酵素を作用させることを特徴とするフラボノイド糖転移法。 ヘスペリジン、ルチン、ナリンジン、ネオヘスペリジン及びジオスミンから選ばれる一種以上のフラボノイドを0.5重量%以上及びメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ペクチン、ポリガラクチュロン酸、カラギーナン、タラガム、キサンタンガムから選ばれる一種以上の増粘多糖類を含み、pH3〜10であることを特徴とする高濃度フラボノイド溶液。