タイトル: | 特許公報(B2)_ハムスター口腔パピローマウイルス蛋白の遺伝子 |
出願番号: | 1996207143 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C12N 15/09,C07H 21/04,C07K 14/025,C12N 1/21,C12P 21/02,C12R 1/19 |
岩崎 琢也 森山 雅美 斎藤 麻紀子 JP 3823185 特許公報(B2) 20060707 1996207143 19960806 ハムスター口腔パピローマウイルス蛋白の遺伝子 東レ株式会社 000003159 国立感染症研究所長 591222245 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 岩崎 琢也 森山 雅美 斎藤 麻紀子 20060920 C12N 15/09 20060101AFI20060831BHJP C07H 21/04 20060101ALI20060831BHJP C07K 14/025 20060101ALI20060831BHJP C12N 1/21 20060101ALN20060831BHJP C12P 21/02 20060101ALN20060831BHJP C12R 1/19 20060101ALN20060831BHJP JPC12N15/00 AC07H21/04 BC07K14/025C12N1/21C12P21/02 CC12N1/21C12R1:19 C12N 15/09 ZNA C07H 21/04 C07K 14/025 C12N 1/21 C12P 21/02 GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq SwissProt/PIR/Geneseq Virology,(1993),194,p789-799 16 1998042875 19980217 30 20030729 内藤 伸一 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ハムスター口腔パピローマウイルス蛋白の遺伝子に関する。本発明の遺伝子は、癌に関連するパピローマウイルス感染症の診断に有用であるのみならず、抗癌剤のスクリーニング、アンチセンス治療、ワクチン治療、病態モデル動物の作出等にも利用されうる。【0002】【従来の技術】ヒトの体表ならびに機械的刺激が加わりやすい粘膜は、細胞が積み重なったように配列する重層扁平上皮により被覆されている。パピローマウイルスはこの扁平上皮の増殖性病変を引き起こし、ヒトにおいては子宮頚部等の扁平上皮癌の原因の一つとして注目されている。これらの増殖性病変の1つである皮膚の疣贅(いわゆるいぼ)は古くより存在がしられていたが、今世紀初頭に濾過性病原体(ウイルス)が原因であることが明らかとなった。1940年代中頃より、培養細胞を用いたウイルス分離が行われるようになったが、この疣贅の原因となるウイルスの分離法は確立しなかった。1970年代の分子生物学の発展により、プラスミドベクター等を用いた分子クローニングが可能となり、パピローマウイルスのウイルスゲノムも分子クローニングされるようになった。その結果、驚くべきことに、当初1種と考えられていたヒトパピローマウイルスに非常に多種類の型(遺伝型)が存在することが明らかにされ、さらに、ヒトと動物のパピローマウイルスが異なり、ヒトのパピローマウイルスはヒトにのみ感染し、動物のパピローマウイルスもそれぞれの動物に特異に存在することが明らかにされた。【0003】ヒトパピローマウイルスは現在70種を越す型(遺伝型)の存在が知られているが、これらは感染部位により大きく2種類に大別され、主として皮膚に感染する皮膚型と、主として粘膜に感染する粘膜型がある。さらに、皮膚型は皮膚疣贅の原因となる型群と、特異の宿主にのみ皮膚病変を形成する疣贅状表皮発育異常症に関連する型群に分けられる。この内、扁平上皮癌との関連が推測されているのは、疣贅状表皮発育異常症に関連する型群と、粘膜型の一部で、これらの型は、癌性病変ならびに良性(あるいは前癌)病変の両者に検出されている。【0004】一方、動物のパピローマウイルスとして、ラット皮膚のMastomys natalensis papillomavirus (MnPV)、マウス皮膚の Micromys minutus papillomavirus (MmPV)、ウサギ皮膚の Sylvilagus floidensis papillomavirus (CRPV)、ウサギ口腔粘膜のOryctolagus cuniculus papillomavirus (ROPV)、ウシ皮膚、消化管のBos taurus papillomavirus (BPV1-4)、ウマ皮膚の Equus caballus papillomavirus (EqPV)、イヌ口腔の Canis familiaris papillomavirus (CRPV)、サル陰茎のMacaca mulata papillomavirus (RhPV1)と Colobus guereza papillomavirus 1(CgPV1)、サル皮膚の Colobus guereza papillomavirus 2 (CgPV2)、シカ皮膚のOdocoileusvirginianus papillomavirus (DPV)、オオシカ皮膚の Alces alces papillomavirus (EEPV)、トナカイ皮膚の Rangifer tarandus papillomavirus(RPV)等が現在まで知られている。これらのうち、発癌との関連が明らかにされているのが、MnPV, MmPV, CRPV, COPV, RpPV1であり、また、実験的に腫瘍を誘発できるのは、MnPV,CRPV, ROPV, BPV1, BPV4, COPVである。なお、ゴールデンハムスター固有のパピローマウイルスは知られていなかったが、実験的にBPV, DPV等がハムスターに感染し、病変を形成することが可能である。なお、この病変は線維乳頭腫に限られる。【0005】化学発癌は、古くより、発癌物質を用いて実験的に癌を誘発する方法とであり、dimethyl benzanthrane (以下、DMBAという)が非常に強力な発癌物質として知られている。このDMBAを用いて種々の動物で種々の癌を誘発する発癌実験系は広く行われており、ゴールデンハムスターにおいては、6〜8週という短期間にハムスターの口腔粘膜に異形成・扁平上皮癌を誘発する実験系が確立されている[前田初彦,愛知学院大学歯学会誌 22, 57-110 (1984)、Maeda H. & Kameyama Y., Journal of Oral Pathology 15, 21-27 (1986)]。この実験系で誘発された異形成(前癌病変)にパピローマウイルス共通抗原であるgenus specific antigen of papillomavirusが検出され[Maeda H., Kameyama Y., Nakane S., Takehana S., Sato E., Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology 68, 50-56 (1989)]、さらに、電子顕微鏡を用いて病変内にパピローマウイルス様の直径55 nmの粒子が検出されたことにより[鈴木純二, 愛知学院大学歯学会誌 24, 122-164 (1986)]、かかる異形成(前癌病変)がパピローマウイルス感染によるものである可能性が示唆される。しかしながら、このウイルスゲノムをクローニングするには至っていない。【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、ゴールデンハムスターの口腔粘膜に誘発した異形成(前癌病変)に存在するウイルスゲノムをクローニングし、その構造を明らかにすることである。【0007】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ヒトパピローマウイルスのゲノムをプローブとし、ゴールデンハムスターの口腔粘膜に誘発した前癌病変よりパピローマウイルス蛋白遺伝子をクローニングし、その構造決定を行い、本発明を完成するに到った。【0008】すなわち、本発明は、実質的に配列番号1のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E1)をコードするDNA、実質的に配列番号2のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E2)をコードするDNA、実質的に配列番号3のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E6)をコードするDNA、実質的に配列番号4のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E7)をコードするDNA、および実質的に配列番号5のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(L1)をコードするDNAである。本発明はまた、配列番号6〜10の塩基配列をそれぞれ有する上記のハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E1〜L1)をコードするDNAである。【0009】さらに、本発明は、実質的に配列番号1のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E1)、実質的に配列番号2のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E2)、実質的に配列番号3のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E6)、実質的に配列番号4のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E7)および実質的に配列番号5のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(L1)である。【0010】本発明において、「実質的に」とは、該パピローマウイルス蛋白の有する活性を保持する限り、アミノ酸配列の1もしくは2あるいは3の複数のアミノ酸が置換、欠失または付加させたものをも含むことを意味する。【0011】【発明の実施の形態】本発明のハムスター口腔パピローマウイルス蛋白をコードするDNAは、以下の工程を経て取得、確認することができる。【0012】(1) プローブの合成既にクローニングされているヒトパピローマウイルスのウイルスゲノムDNAがプローブとして利用される。ヒトパピローマウイルスのウイルスゲノムは2重鎖環状DNAで、通常1箇所で切断される制限酵素箇所でプラスミドベクターのクローニング箇所にクローニングされる。クローニングされたパピローマウイルスゲノムは、組換え体プラスミドを大腸菌内で増殖させることにより、大量に得ることができる。得られた組換え体プラスミドをクローニング箇所の制限酵素で切断し、アガロースゲル電気泳動により、パピローマウイルスゲノムDNA断片のみを分取し、例えばシリカ膜を用いたDNA抽出キット(Qiagen)等により、ゲル内のDNAを分離・精製する。精製したDNA断片にKlenow断片を用いたランダムプライマー法 (Feinberg AP & Vogelstein B. Analytical Biochemistry 132: 6-13, 1983)により、32P,35Sで標識したデオキシリボヌクレオチドを取り込ませ、比放射能の高いプローブを作製する。【0013】(2) DMBA によりゴールデンハムスター口腔粘膜に誘発した前癌病変組織DNAの抽出、および制限酵素による該DNAの分解前田らの方法(1984、1986、1989)により誘発した前癌病変を有したハムスター口腔粘膜病変3組織を、ドデシル硫酸ナトリウム溶液中にて、100μg/mlプロテイネースK(ベーリンガーマンハイム社)で溶解し、溶解液からフェノールおよびクロロフォルムで核酸を抽出し、エタノール沈澱、リボヌクレアーゼ処理を経て、前癌病変組織DNAを得る。抽出DNAを15種の種々の制限酵素で切断し、切断産物をアガロースゲル電気泳動することにより、DNA断片の分画を行う。分画されたDNAをニトロセルロース膜上にSouthernの方法[Southern DM: Journal of Molecular Biology, 98: 583-617 (1975)]により転写し、紫外線照射により固定する。この膜上にて、(1)に記した既知のヒトパピローマウイルスのDNAにアイソトープ標識したプローブとハイブリダイゼーションを行なう。オートラジオグラフィーで、この前癌組織DNAの制限酵素切断様式を、公知のパピローマウイルス遺伝子の様式と比較し、目的の遺伝子を含むDNA断片を同定し、さらに、ウイルス遺伝子を1箇所で切断する制限酵素についての情報が得られる。【0014】(3) 新しいパピローマウイルスのウイルスゲノムDNA断片のプラスミドベクターへの組込みおよび該組換えベクターによる宿主細胞の形質転換アガロース電気泳動により分画した前癌病変組織DNAの制限酵素切断産物のうち、ウイルスゲノムを1箇所で切断する酵素切断産物から、目的のウイルスゲノムのDNA断片を含む分画を抽出し、同一の制限酵素で1箇所切断したプラスミドベクターとT4DNAライゲースにより結合する。【0015】DNAを組込むためのプラスミドベクターとしては、宿主細胞内で自立複製可能で該DNAを安定保持できるものであれば、いずれをも用いることができる。具体的な例として、pBR322, pUC119, pBluescriptIIKS(+), pGEM4などをあげることができる。この組換えベクターを大腸菌、昆虫細胞、動物細胞等の適当な宿主細胞に導入し、宿主細胞を形質転換する。形質転換は、エレクトロポレーション法、カルシウム沈澱法等により行うことができる。【0016】(4) 目的のウイルスゲノムDNAを保持する形質転換体の選別・取得(3)で得られた形質転換体を、培養、増殖せしめ、公知の方法[Sambrook J., Fritsch EF., Maniatis T., Molecular Cloning, p.1.25, Cold Spring Harbor Laboratory (1989)]によりプラスミドDNAを取得する。このプラスミドDNAを種々の制限酵素で消化し、アガロースゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色後の紫外線下の観察により、ウイルスゲノムDNAを保持した形質転換体を同定する。【0017】(5) プラスミドDNAの取得(4)で目的遺伝子を保持することが認められた形質転換体を大量培養し、公知の方法[Sambrook J., Fritsch EF., Maniatis T., Molecular Cloning, p.1.33, Cold Spring Harbor Laboratory (1989)]によりプラスミドDNAを取得する。【0018】(6) 取得プラスミドDNAの制限酵素切断地図の作成(5)で取得したプラスミドDNAを種々の制限酵素で切断して、各断片の大きさとその相互の関係を電気泳動でしらべることにより、該プラスミドDNAの制限酵素切断地図を作成する。【0019】(7) 目的遺伝子のDNA塩基配列の決定(6)で作成した制限酵素切断地図に基づいて、目的遺伝子を有したDNAを制限酵素によりさらに断片化し、それぞれの断片をダイデオキシ法、マキサム・ギルバート法などにより塩基配列を解析する。最終的に各断片の塩基配列をつなぎあわせて、目的遺伝子の全塩基配列を決定し、該塩基配列に基づいて目的遺伝子産物であるウイルス蛋白のアミノ酸配列を推定する。【0020】(8) これまで一般に既知のパピローマウイルスゲノムとの相同性が50%未満の場合、新しい型(遺伝型)とされてきたが、近年、ウイルス粒子の主要蛋白をコードするL1(L:後期遺伝子群)ORFの塩基配列の相同性が90%未満であるとき、新しい型(遺伝型)と判断される。【0021】上記のようにして得られたハムスター口腔パピローマウイルス蛋白をコードする遺伝子は、形質転換宿主内で複製可能なベクターに組み込んで、組換えDNAを作製する。得られた組換えDNAを、細菌、酵母等の微生物、または動物細胞等の宿主細胞に導入することによって、宿主細胞中で高発現させることができる。【0022】【実施例】以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。【0023】〔実施例1〕 DMBA投与と機械的刺激により誘発されたハムスター口腔粘膜前癌病変からのハムスター口腔パピローマウイルスの発見(1) ハムスター口腔粘膜前癌病変の誘発前田らの方法(1984, 1986, 1989)により、ゴールデンハムスター(雄)の舌先端部の粘膜に前癌病変を誘発した。誘発実験は体重30-35 gの3週齢のゴールデンハムスター3匹において行った。舌の先端部の粘膜の週に3回、4週間(計12回)、0.5% 9,10-dimethyl-1,2-benzanthracene (DMBA) アセトン溶液をブラシで塗布したのちに、麻酔下で舌の先端よりの2 mmを切除した。切除後再び、0.5% DMBA アセトン溶液を残存する舌に、毎日DMBAアセトン溶液を塗布し、切除後8日に麻酔下でゴールデンハムスターを屠殺し、残存舌を組織学的ならびに分子生物学的に解析した。【0024】(2) 舌の組織学的解析残存する舌の粘膜には、前田らの報告(1984,1985,1989)と同様の異形成の像(層状分化の乱れ、コイロサイトーシス、核異型)を呈した扁平上皮が認められ、た。【0025】(3) 前癌病変からのDNAの抽出・精製前癌病変を誘発した3匹の舌病変組織を100 μg/mlプロテイネースK (ベーリンガーマンハイム社)と2%ドデシル硫酸ナトリウムを含む50 mMトリス緩衝液(pH8.0)中で50℃6時間分解し、飽和フェノールならびにクロロフォルム・イソアミルアルコール混合溶媒(24:1)で核酸を抽出した。2倍量のエタノールを加え、核酸を沈澱させ、それぞれ約50μgの前癌病変組織DNAを得た。【0026】(4) 前癌病変内のハムスター口腔パピローマウイルスDNAの存在の確認(3)で得られた前癌病変組織DNA 2μgを種々の制限酵素 AccI, AvaI, BamHI, BglII, EcoRI, EcoRV, HincII, HindIII, KpnI, PstI, SacI, SalI, SmaI, SphI, XbaI(ベーリンガーマンハイム社)のそれぞれ10 Uを用いて、制限酵素製造メーカーの指示の状態で、6時間消化した。それぞれの消化物と制限酵素未処理の抽出DNAを1%アガロース中で定電圧(30V)の条件にて24時間電気泳動した。泳動後、ゲルを塩酸処理10分、アルカリ変性30分、0.5Mトリス緩衝液30分浸透による中和を行い、転写に陰圧を利用する転写装置VacuGene XL Vacuum Blotting System (Pharmacia)を用いて、ニトロセルロース膜(S&S社製)上にゲル内の分離されたDNA断片を転写し、紫外線を用いてDNA断片を膜上に固定するUV crosslinker (Stratagene)を用いて、DNA断片を膜上に固定した。【0027】次に、既知のヒトパピローマウイルス1と5のそれぞれのDNA断片を鋳型とし、ランダムプライム法(Feinberg AP & Vogelstein BJ, Analytical Biochemistry 132: 6-13,1984)により、ヘキサヌクレオチドをプライマーとして、Klenow断片でαー32PーdCTPを標識し、それぞれ、106 cpm/mlの活性を有したプローブと、DNA断片が固定化された膜と、緩やかな条件にてハイブリダイゼーションを行った。【0028】ハイブリダイゼーションは前記のハムスターDNA断片群が固定されたニトロセルロース膜を、ヒトパピローマウイルス1と5の混合プローブを含む5倍濃度のデンハルト液(0.1%牛血清アルブミン、0.1%フィコールならびに0.1%ポリビニールピロリドン)、20%脱イオン化ホルムアミド、0.75M塩化ナトリウム、0.075Mクエン酸ナトリウム溶液中で、42℃,16時間行った。【0029】ハイブリダイゼーション後、上記の液をできるだけ取り去った後に、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム、0.30M塩化ナトリウム、O.030Mクエン酸ナトリウム溶液中で5分間室温で洗浄し、続いて0.1%ドデシル硫酸ナトリウム、0.30M塩化ナトリウム、O.030Mクエン酸ナトリウム溶液中で15分間50℃3回洗浄し、ニトロセルロース膜を風乾後、X線フィルムに感光させ、48時間後に現像した。その結果、ヒトパピローマウイルス1と5のプローブとハイブリダイゼーションするバンドの未処理と制限酵素処理のサンプルを比較することにより、この病変内に存在するパピローマウイルスのゲノムは環状2重鎖DNAで、BglII, KpnI, SmaI, SphI の制限酵素で1箇所切断され、その大きさは約7.6千塩基であることが判明した。切断様式の地図を作製し、この切断様式は既知のパピローマウイルスの切断様式と異なることが判明した。【0030】(5) ハムスター口腔パピローマウイルスゲノムの分子クローニング前項でウイルスゲノムが BglII, KpnI, SmaI, SphIの制限酵素で1箇所切断されることが判明し、このKpnIの切断箇所でウイルスゲノムのクローニングを行うこととした。ハムスター舌粘膜の前癌病変から抽出したDNA 20 μgをKpnIで37℃16時間消化し、1%アガロースゲル電気泳動を行った。エチヂウムブロマイド染色を行い、360 nmの長波長の紫外線下で、観察を行い、同時に流した1 kb DNAマーカー(BRL社製)と比較し、7千塩基と8千塩基の間のDNAを切りとり、ガラスミルク(BIO 101社製)を用いて、DNAを分離精製した。一方、分子クローニングを行うためのプラスミドベクターpBluescriptIIKS(+)(Stratagene社製)は制限酵素KpnIで消化し、さらにウシ小腸アルカリフォスファターゼで処理を行い、フェノールによるアルカリフォスファターゼ失活後に、エタノール沈澱を行い、10 ng/μlの濃度になるように蒸留水に溶解した。このpBluescriptIIKS(+)と精製した7-8千塩基の分画DNAを混合し、T4 DNAライゲース(NEB社製)を用いて、16℃16時間のライゲーション反応を行った。【0031】ライゲーション産物をカルシウム沈澱法により、大腸菌JM109ならびにDH5に形質転換を行ない、形質転換体を得た。96個の形質転換体について、プラスミドDNAの少量調整[Sambrook J., Fritsch EF., Maniatis T., Molecular Cloning, p.1.25, Cold Spring Harbor Laboratory (1989)]を行った。得られたプラスミドDNAを、それぞれ、KpnIならびにKpnIとPstIの制限酵素で消化し、アガロースゲル電気泳動を行い、(4)で得られた切断様式と合致するクローンを1個得ることができた。得られたクローンを更に種々の制限酵素で切断し、それぞれの切断様式も合致することを確認した。【0032】(6) ハムスター口腔パピローマウイルスゲノムの全塩基配列の決定(5)で得られたクローンが新しいパピローマウイルスであり、ハムスター口腔粘膜病変から得られたことより、ハムスター口腔パピローマウイルス hamster(Mesocricetus aurantus) oral papillomavirusと命名し、ウイルスゲノムの全塩基配列を解析した。最初に、制限酵素切断地図を参考に、種々の制限酵素で500塩基から1500塩基前後にウイルスゲノムを断片化し、pUC19 あるいはpBluescriptIIKS(+)のそれぞれの制限酵素挿入部位にサブクローニングした。プラスミドベクター中の塩基配列を有したオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、挿入した塩基配列をダイデオキシ法により解析し、さらにこれにより判明した塩基配列のオリゴヌクレオチドプライマーで解析した。最終的にはDNA2重鎖の両鎖をそれぞれ重複するように全塩基配列を検討し、その配列を決定した(配列番号11)。【0033】(7) ハムスター口腔パピローマウイルスゲノムの特徴決定したウイルスゲノムの全塩基配列中の開始ならびにストップコドンの分布を2重鎖それぞれのストランドについて解析した。その結果、読みとり枠open reading frameは一方のストランドにのみ存在し、その5'端から3'端への順序に少なくとも7個の読みとり枠を認めた。それぞれの読みとり枠の5'端の開始コドンから停止コドンをアミノ酸に翻訳し、その産物の分子量の比較、さらにはそのアミノ酸配列の特徴から、他のパピローマウイルスゲノムと同様の読みとり枠の配列を示し、それぞれE6、E7、E1、E2、E4、L2、L1とし、E6読みとり枠の5'端よりの最初の開始コドンのAを101番目のヌクレオチドとして、全塩基配列を記述した(E1: 配列番号6、E2: 配列番号7、E6: 配列番号8、E7: 配列番号9、L1: 配列番号10)。【0034】(8) ハムスター口腔パピローマウイルスゲノムのL1読みとり枠の特徴L1読みとり枠はヌクレオチド番号5603から7151までで、最初の開始コドンは5643で、この塩基配列から翻訳される蛋白の分子量の予測値は57.2 kDaで、次の開始コドン5649からの予測値は56.9 kDaであった。この蛋白のアミノ酸配列(配列番号5)と既知の蛋白のアミノ酸配列の相同性を解析したところ、ヒトパピローマウイルス12のL1蛋白のアミノ酸配列と62.7%、ヒトパピローマウイルス8 L1蛋白と62.6%、ヒトパピローマウイルス5 L1蛋白と62.4%、ヒトパピローマウイルス4 L1蛋白と62.3%、ヒトパピローマウイルス19のL1蛋白と62.3%、ヒトパピローマウイルス14のL1蛋白と61.4%、ヒトパピローマウイルス25のL1蛋白と61.1%、ヒトパピローマウイルス47のL1蛋白と60.5% であり、ヒトの皮膚に感染するパピローマウイルスのL1蛋白と比較的高い相同性がみられた。【0035】(9) ハムスター口腔パピローマウイルスゲノムのE1読みとり枠の特徴E1読みとり枠はヌクレオチド番号920から2794までで、最初の開始コドンは968で、この塩基配列から翻訳される蛋白の分子量の予測値は68.6 kDaであった。この蛋白のアミノ酸配列(配列番号1)と既知の蛋白のアミノ酸配列の相同性を解析したところ、ヒトパピローマウイルス23のE1蛋白と48.6%、ヒトパピローマウイルス15のE1蛋白と47.7%、ヒトパピローマウイルス16のE1蛋白と47.3%、ヒトパピローマウイルス36のE1蛋白と47.2%、ヒトパピローマウイルス63のE1蛋白と47.1%、ヒトパピローマウイルス1のE1蛋白と46.8%、ヒトパピローマウイルス20のE1蛋白と46.8%、ヒトパピローマウイルス5BのE1蛋白と46.7%、ヒトパピローマウイルス48のE1蛋白と46.7%、ヒトパピローマウイルス9のE1蛋白と46.3%、ヒトパピローマウイルス22のE1蛋白と46.2%、ヒトパピローマウイルス24のE1蛋白と45.5%、イヌ口腔パピローマウイルスのE1蛋白と45.4%であり、疣贅状表皮発育異常症関連のヒトパピローマウイルスのE1蛋白との相同性がみられた。【0036】(10) ハムスター口腔パピローマウイルスゲノムのE2読みとり枠の特徴E2読みとり枠はヌクレオチド番号2717から3947までで、最初の開始コドンは2736で、この塩基配列から翻訳される蛋白の分子量の予測値は45.5 kDaで、次の開始コドンからの予測値は39.7 kDaであった。この蛋白のアミノ酸配列(配列番号2)と既知の蛋白のアミノ酸配列の相同性を解析したところ、ヒトパピローマウイルス50のE2蛋白と38.8%、ヒトパピローマウイルス22のE2蛋白と38.2%、ヒトパピローマウイルス23のE2蛋白と37.3%、ヒトパピローマウイルス9のE2蛋白と37.1%、ヒトパピローマウイルス48のE2蛋白と36.9%、ヒトパピローマウイルス37のE2蛋白と36.4%、ヒトパピローマウイルス24のE2蛋白と36.2%、ヒトパピローマウイルス38のE2蛋白と35.2%、ヒトパピローマウイルス38のE2蛋白と35.2%、ヒトパピローマウイルス8のE2蛋白と35.0%であり、疣贅状表皮発育異常症関連のヒトパピローマウイルスのE2蛋白との相同性がみられた。【0037】(11) ハムスター口腔パピローマウイルスゲノムのE6読みとり枠の特徴E6読みとり枠はヌクレオチド番号71から514までで、最初の開始コドンは101で、この塩基配列から翻訳される蛋白の分子量の予測値は15.5 kDaで、次の開始コドンは200からの予測値は11.8 kDaであった。この蛋白のアミノ酸配列(配列番号3)と既知の蛋白のアミノ酸配列の相同性を解析したところ、マウスのパピローマウイルス Micromys minutus papillomavirusのE6蛋白とラットのパピローマウイルス Mastomys natalensis papillomavirusのE6蛋白と39.1%、ヒトパピローマウイルス39のE6蛋白と32.8%、ヒトパピローマウイルス49のE6蛋白と31.9%ヒトパピローマウイルス65のE6蛋白と31.1%であり、他のパピローマウイルスのE6蛋白との相同性は低く、rodentに感染するパピローマウイルスのE6蛋白と軽度の相同性がみられた。【0038】(12) ハムスター口腔パピローマウイルスゲノムのE7読みとり枠の特徴E7読みとり枠はヌクレオチド番号427から978で、最初の開始コドンは514で、この塩基配列から翻訳される蛋白の分子量の予測値は16.6 kDaで、次の開始コドン568からの予測値は14.6 kDaであった。この蛋白のアミノ酸配列(配列番号4)と既知の蛋白のアミノ酸配列の相同性を解析したところ、ヒトパピローマウイルス10のE7蛋白と81.6%、ヒトパピローマウイルス57のE7蛋白と56.5%、ヒトパピローマウイルス2のE7蛋白と51.6%、ヒトパピローマウイルス16のE7蛋白と43.6%であり、L1蛋白同様にヒトパピローマウイルスのE7蛋白との相同性がみられた。【0039】【配列表】【0040】【0041】【0042】【0043】【0044】【0045】【0046】【0047】【0048】【0049】【0050】【発明の効果】本発明によれば、既知のパピローマウイルスゲノムとは異なる遺伝型を有する新規なパピローマウイルスゲノムのクローニングに成功し、その配列決定がなされた。本発明のハムスター口腔ウイルス蛋白の遺伝子は、癌に関連するパピローマウイルス感染症の診断のほか、抗癌剤のスクリーニング、アンチセンス治療、病態モデル動物の作出等にも有用である。 配列番号1のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E1)をコードするDNA。 ハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E1)をコードするDNAが、配列番号6の塩基配列を有する請求項1記載のDNA。 配列番号2のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E2)をコードするDNA。 ハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E2)をコードするDNAが、配列番号7の塩基配列を有する請求項3記載のDNA。 配列番号3のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E6)をコードするDNA。 ハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E6)をコードするDNAが、配列番号8の塩基配列を有する請求項5記載のDNA。 配列番号4のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E7)をコードするDNA。 ハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E7)をコードするDNAが、配列番号9の塩基配列を有する請求項7記載のDNA。 配列番号5のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(L1)をコードするDNA。 ハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(L1)をコードするDNAが、配列番号10の塩基配列を有する請求項9記載のDNA。 配列番号11の塩基配列を有するハムスター口腔パピローマウイルスのゲノムDNA。 配列番号1のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E1)。 配列番号2のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E2)。 配列番号3のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E6)。 配列番号4のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(E7)。 配列番号5のアミノ酸配列で表されるハムスター口腔パピローマウイルス蛋白(L1)。