タイトル: | 特許公報(B2)_高純度イソフタル酸の製造方法 |
出願番号: | 1996183328 |
年次: | 2006 |
IPC分類: | C07C 51/44,C07C 51/265,C07C 51/43,C07C 51/487,C07C 51/50,C07C 63/24 |
大越 二三夫 JP 3757995 特許公報(B2) 20060113 1996183328 19960712 高純度イソフタル酸の製造方法 三菱瓦斯化学株式会社 000004466 大越 二三夫 20060322 C07C 51/44 20060101AFI20060302BHJP C07C 51/265 20060101ALI20060302BHJP C07C 51/43 20060101ALI20060302BHJP C07C 51/487 20060101ALI20060302BHJP C07C 51/50 20060101ALI20060302BHJP C07C 63/24 20060101ALI20060302BHJP JPC07C51/44C07C51/265C07C51/43C07C51/487C07C51/50C07C63/24 C07C 63/24 C07C 51/265 C07C 51/43 C07C 51/487 C07C 51/50 特開平05−058948(JP,A) 国際公開第96/011899(WO,A1) 4 1998025266 19980127 9 20030620 吉良 優子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、工業用部材、一般成形品等に用いられるポリエステル樹脂の主原料である高純度イソフタル酸を製造する方法に関する。【0002】【従来の技術】イソフタル酸は通常、酢酸を溶媒として使用し、コバルト、およびマンガン触媒に臭素化合物を助触媒として、あるいはコバルト触媒にアセトアルデヒドのような促進剤を加えて、m−フェニレン化合物(主にm−キシレン)を高温、高圧下に分子状酸素、主として空気酸化して製造される。【0003】しかし、この液相酸化によって製造されたイソフタル酸は通常白色度が劣っており、3−カルボキシベンツアルデヒド(3CBA)をはじめメタトルイル酸など、多量の不純物を含んでおり、このイソフタル酸のままではグリコールと反応させてポリエステルにするには適さない。【0004】このような3CBA等の不純物を含む粗イソフタル酸を精製して高純度イソフタル酸を製造する方法としては酸化あるいは還元等の方法により、あるいは単に再結晶により、精製処理する方法が知られているが、現在、主として商業的に行われているのは、粗イソフタル酸水溶液を接触水素化処理する方法である。例えば、粗イソフタル酸の水溶液を高温で接触水素化処理する方法があり、その改良法も多数提案されている。【0005】しかし、この方法では高純度イソフタル酸を分離した後の母液(以下、PIA母液と称する)中には溶解度相当のイソフタル酸の他にメタトルイル酸、安息香酸等の芳香族カルボン酸等が含まれており、このPIA母液を廃棄するには生物化学的酸素要求量(BOD)が大きい芳香族カルボン酸を処理しなければならず、それに加えて、イソフタル酸やイソフタル酸となりうるメタトルイル酸などの有価物を失うことになる。さらにこの精製工程では高純度イソフタル酸生産量以上の水を要し、かつ排出しなければならない。【0006】PIA母液中に含まれる芳香族カルボン酸濃度は粗イソフタル酸の品質、接触水素化反応条件、あるいは晶析条件や分離条件によって異なってくるが、通常、イソフタル酸が500〜7000ppm、メタトルイル酸が100〜1000ppm、安息香酸が10〜500ppm程度含まれており、このPIA母液は排水処理装置に送られ活性汚泥法等の処理をした後、放流されている。商業的なイソフタル酸製造装置は巨大プラントであることから、排水処理を必要とするPIA母液量が多く、例えば一装置で処理量が5〜100m3 /hとなり、処理装置への投資や運転費用(人件費等)が大きな額に達する。しかも、これらのイソフタル酸やメタトルイル酸は当該装置にとっては有用な物質であり、結局排水処理装置にかかわる費用と有用物質の流出による損失が重なって高純度イソフタル酸製造費が増大する結果となっている。【0007】【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、高純度イソレフタル酸製造過程で分離されるPIA母液の処理にかかわる経済的損失を解決することであって、特別な投資と費用を必要としないで母液中の有用成分を回収し、排水負荷を大幅に低減し、溶媒の水を回収し再利用する高純度イソフタル酸の製造技術を提供することにある。【0008】【課題を解決するための手段】本発明者らは上記のごとき課題を有する高純度イソフタル酸の製造方法について鋭意検討した結果、高純度イソフタル酸を分離したあとのPIA母液を蒸留工程に送り、酸化反応母液である含水酢酸から反応生成水を除く蒸留塔の還流液として塔頂へ供給することにより、母液中の有用成分が回収され、排水負荷が大幅に低減されることを見い出し、本発明に到達した。【0009】 すなわち本発明は、m−フェニレン化合物を酢酸溶媒下で液相酸化し、得られた粗イソフタル酸の精製処理を行う高純度イソフタル酸の製造方法において、a)液相酸化の後、酸化反応母液と粗イソフタル酸に分離し、酸化反応母液の一部または全部を蒸発させる工程、b)粗イソフタル酸を接触水素化処理、接触処理、酸化処理あるいは再結晶により精製処理した後、精製処理液を冷却、晶析して、母液と結晶に分離する工程および、c)工程a)からの酸化反応母液を蒸発させた蒸気またはその凝縮液を蒸留塔中段へ供給し、工程b)からの母液にマンガン化合物及び/又はコバルト化合物を添加して蒸留塔塔頂へ供給して蒸留を行い、底部から濃縮された酢酸を分離する工程を有することを特徴とする高純度イソフタル酸の製造方法である。【0010】【発明の実施の形態】以下、本発明の内容を詳細に説明する。工程a)では先ずm−フェニレン化合物の液相酸化により粗イソフタル酸が製造されるが、使用されるm−フェニレン化合物は、メタ位にそれぞれ存在するカルボキシル基、または液相空気酸化によりカルボキシル基を生成する被酸化性置換基を有するものであり、該置換基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ホルミル基、アセチル基等が例示される。これらの置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。使用されるm−フェニレン化合物としてはメタキシレンが最も一般的である。【0011】酸化反応の溶媒には含水酢酸が用いられる。触媒にはマンガン、コバルト、鉄、クロム、ニッケル等の遷移金属化合物が用いられる。また助触媒として臭素化合物が用いられることもある。触媒についてはマンガン、コバルト、鉄、クロム、ニッケル、臭素共に酸化反応器内の環境下でマンガンイオン、コバルトイオン、鉄イオン、クロムイオン、ニッケルイオン、臭化物イオンを生成するものならば特に限定されない。一方、臭素触媒を使用しない場合には、コバルト触媒に対して促進剤としてアセトアルデヒド、メチルエチルケトン等を併用してもよい。酸化剤には分子状酸素、通常は空気が使用される。酸素ガスを混じて酸素濃度を高めた空気、逆に窒素ガス等の不活性ガスを混じて酸素濃度を低くした空気を用いることもできる。【0012】液相酸化の反応温度は通常160℃から220℃の範囲が採用され、圧力は溶媒の含水酢酸が液相を維持できる範囲以上であればよい。ただし一般的に、臭素触媒を使わない酸化方法においては160℃以下の温度が多く採用される。液相酸化は通常1基あるいはそれ以上の反応器で行われる。酸化反応を終えた反応液は1基または、連続した2基以上の順次降圧された晶析器に送られてそれぞれの圧力に対応する温度まで溶媒のフラッシュ冷却作用で冷却され、生成したイソフタル酸の大部分が結晶として晶析しスラリー溶液となる。スラリー溶液は結晶分離手段、例えばロータリーバキュームフィルターあるいは遠心分離法あるいは他の適当な分離法で粗イソフタル酸ケーキと酸化反応母液に分離される。【0013】酸化反応母液の一部はそのままあるいは酸化処理、還元処理等を経て再び工程a)の溶媒としてリサイクルされる。残りの部分は、酸化反応で生成した水や他の副生成物を除去するために、通常、蒸発缶や薄膜蒸発器などで蒸発させ、主として酢酸と水それに低沸点副生成物からなる蒸気と蒸発残査に分けられる。該蒸気は工程c)の蒸留塔へ送られ、蒸発残査からは有用成分である触媒を回収するための種々の工程を経た後、不要物は廃棄される。粗イソフタル酸ケーキは、必要に応じて酢酸あるいは水で洗浄され、ドライヤーで付着溶媒を除去され粗イソフタル酸となる。【0014】液相酸化で得られた粗イソフタル酸は通常3CBAをはじめ多くの不純物が含まれ、色相の指標であるOD340 の値も直接成形用ポリマー原料として使用できる水準ではないため、通常は精製工程が必要である。粗イソフタル酸を精製して高純度イソフタル酸を得る方法としては接触水素化処理、接触処理、酸化処理あるいは単に再結晶をする等多くの方法があり、いずれの方法でも本発明で用いられるが、接触水素化処理が最も一般的であるので、以下、接触水素化処理について述べる。【0015】接触水素化反応の触媒には第8族貴金属が使用される。該第8族貴金属としてはパラジウム、白金、ルテニウム、ロジウムが好ましく、特にパラジウムが好ましい。これら2種以上の金属触媒を混合して使用してもよい。上記触媒は通常担体に担持させて使用される。担体としては通常は多孔性物質が使用されるが、材質的には炭素系担体が好ましく、活性炭、特に粒状椰子殻炭が好適である。触媒の担体への担持量は微量でも効果があり、特に範囲が限定されないが、長期間活性を維持するためには0.1〜1重量%の担持量が好適である。【0016】接触水素化処理は水溶液状態で高温、高圧で実施され、接触水素化温度は水素存在下で180℃以上、好ましくは200〜260℃の範囲である。圧力は液相を維持するに充分であり、しかも接触水素化反応に適切な水素分圧を保持出来ればよく、通常10から60気圧の範囲が好ましい。接触水素化のための水素量は少なくとも3CBA量に対して2倍モル以上の供給が必要である。接触水素化処理時間は実質的に水素化反応が進行するに充分な時間であればよく、充填塔方式の反応では通常1〜60分、好ましくは2〜20分である。接触水素化処理は、通常、連続式で行われる。【0017】接触水素化処理されたイソフタル酸水溶液は、通常、活性炭等の触媒担体の摩耗による微粉末が製品に混入するのを防止するために、濾過後、直列に連結された2から6段の晶析器あるいはバッチ式晶析器へ送られ、順次減圧することで水が蒸発して冷却され、イソフタル酸結晶が晶析し、スラリー溶液となる。スラリー溶液は結晶分離手段、例えばロータリーバキュームフィルター法、遠心分離法等でイソフタル酸ケーキとPIA母液に分離される。スラリー溶液を分離する温度には特段の制約はないが、通常は70〜160℃程度である。高温で分離する場合には得られたケーキを水でリスラリーし、再度分離することが多い。【0018】工程c)は酢酸溶媒を循環使用するために酸化反応母液を脱水する蒸留塔からなる。工程a)から送られてくる蒸気あるいはその凝縮液中には酢酸や低沸点副生成物の他に酸化反応の生成水が含まれており、主として反応生成水を系外へ排出するために蒸留塔で分離される。工程c)において工程a)の蒸発缶や薄膜蒸発器等からの蒸気あるいは凝縮液は蒸留塔中段へ供給され、塔底からは酸化反応に使用できる程度に脱水された酢酸が得られる。塔頂からの留出液は通常、設定された分離効率を達成するために一部は系外へ排出されるが、残りの部分は再び塔頂部分へ還流させる。本工程において還流比〔=還流液量(m3 /h)/排出液量(m3 /h)〕は通常1〜10程度の値が採用される。【0019】本発明においては工程b)から送られたPIA母液を還流液として蒸留塔塔頂部分へ供給する。従って工程c)で処理できるPIA母液量は還流量相当量までである。もちろん還流比を大きく設定すれば処理できるPIA母液量は増えるが、不必要に大きな還流比で運転すれば、所用熱エネルギーが増えるなどの損失が発生する。処理すべきPIA母液量が還流液量に満たなければ、不足する液量を排出液から還流させる。処理すべきPIA母液量が還流量を越える場合には、PIA母液の濃縮が行われる。濃縮にはプラントで回収された各種熱源を有効に使用することができるが、当該蒸留塔の塔頂留出蒸気の潜熱を利用すれば経済的に濃縮することができる。【0020】しかしながら濃縮されたPIA母液を還流液として蒸留塔塔頂へ供給すると、後段の比較例で明らかなように、主として分溜管上部に泡立ち現象が発生し、泡立ちが激しくなると蒸留効果が著しく損なわれる。この泡立ち現象は分溜管内にイソフタル酸等の結晶が存在すると引き起こされる。この泡立ち現象を防止するために次のような方法が行われる。(1)、供給するPIA母液を濾過等の適当な手段で固形分(主としてイソフタル酸結晶)を分離し、除去する。これは簡便な方法であるが、分離に要する単位操作が増えるのと、分離したイソフタル酸結晶の処理が煩雑である。(2)、塔頂へ供給するPIA母液に金属イオンを添加する。PIA母液に添加される金属イオンとしてはコバルトあるいはマンガンが効果があり、PIA母液中に存在するイソフタル酸結晶量に対してほぼ等モル以上の添加量で泡立ち現象は完全に防止できる。(2)の方法は本発明者により新たに見出された現象であり、コバルトおよびマンガンは周知のように酸化反応工程で使用される触媒なので、蒸留塔底部から排出される酢酸中に存在していることは酸化反応において何等差し支えない。【0021】PIA母液を濃縮しないで供給する場合であっても工程c)で得られたPIA母液中に、固形分を分離する手段やその条件によっては、少量のイソフタル酸結晶が混入してくる可能性がある。これを考慮してあらかじめPIA母液の濾過工程を設けておくか、または想定されるイソフタル酸結晶量に見合う分の金属イオンを添加することが好ましい。PIA母液またはその濃縮液を蒸留塔塔頂へ供給する際には、PIA母液を塔頂留出液温度と略同程度、具体的にはおおよそ留出液温度マイナス50℃の範囲内に調整して、蒸留塔内の温度の乱れを小さく抑えることが望ましい。【0022】以上の方法によれば後に示す実施例から分かるように、塔頂へ供給するPIA母液中に合計で数千ppmの芳香族カルボン酸が存在した場合でも、塔頂から留出する水中の芳香族カルボン酸は少量であり、PIA母液中の大部分の有価成分は蒸留塔塔底から酢酸溶液として回収される。従って、塔頂から留出する水をそのまま排水処理装置に送っても、PIA母液を無処理のまま送るケースと比較して排水処理負荷の低減効果が大きい。【0023】更に排水処理負荷を低減する手段として、塔頂から排出される水を工程b)に送り粗イソフタル酸溶解用溶媒として再使用する方法がある。実施例に示すごとく塔頂から排出される水中には少量の芳香族カルボン酸、低沸点副生成物、および酢酸が存在するだけなので、そのまま接触水素化処理用溶媒として使用することができるが、活性炭による吸着工程を設けることが好ましい。【0024】【実施例】次に実施例により本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例において原料のPIA母液の高速液体クロマトグラフィーとガスクロマトグラフィーによる分析値は次の通りであり、室温においてはかすかに白濁していた。イソフタル酸 2130ppmメタトルイル酸 198ppm安息香酸 111ppm蒸留装置は内径32mmで70段の多孔板を備えたオルダーショー型分溜管を用い、18%の水を含んだ含水酢酸を蒸留塔中段へ連続的に供給した。底部からは濃縮された酢酸を連続的に抜き出した。【0025】実施例1蒸留塔の底部に含水酢酸を仕込み、加熱して全還流の状態で系内を安定させてから蒸留塔中段へ18%の水を含んだ含水酢酸を供給するとともに底部から濃縮酢酸を抜き出した。還流比は6に設定した。約20時間運転を継続して全体の系が定常状態になったのを見極めてから、塔頂からの留出液を全留出に切り替え、同時に還流ラインから、それまでの還流量に見合うPIA母液を供給した。約12時間運転を継続した時点で、排出された流出液中の芳香族カルボン酸濃度は次の通りであった。イソフタル酸 187ppmメタトルイル酸 49ppm安息香酸 24ppmこの分析値は原料であるPIA母液中の芳香族カルボン酸濃度の1割程度であり、大部分の芳香族カルボン酸は塔底部から酢酸溶液として回収されたことが分かる。【0026】参考例1供給するPIA母液をあらかじめ1/3量になるまで加熱濃縮し、実施例1と同様の実験を行った。この供給液はイソフタル酸の結晶が析出し白濁していた。供給液の分析値(白濁した部分も含めた)は以下の通りであった。イソフタル酸 5260ppmメタトルイル酸 498ppm安息香酸 251ppm供給を開始してしばらく経って分溜管上部のトレイで泡立ちが発生するのが目視観察された。同時に液膜と管壁に固形物状の物質が観察され、時間の経過とともにこの現象が激しくなった。【0027】実施例21/3量に加熱濃縮したPIA母液をG3ガラスフィルターで濾過した濾液を供給した以外は、参考例1と同様の実験を行った。供給液の分析値は以下の通りであった。イソフタル酸 327ppmメタトルイル酸 355ppm安息香酸 224ppm約12時間運転を継続した時点で、排出された留出液中の芳香族カルボン酸濃度は次の通りであった。イソフタル酸 28ppmメタトルイル酸 97ppm安息香酸 60ppmこの分析値は原料であるPIA母液中の芳香族カルボン酸濃度の2割程度であり、大部分の芳香族カルボン酸は塔底部から酢酸溶液として回収されたことが分かる。また参考例1で目視観察された分溜管トレイでの泡立ち現象はイソフタル酸結晶によって引き起こされたことが分かる。【0028】実施例3供給液中に酢酸マンガンをマンガン原子で1740ppm添加した以外は、参考例1と同様の実験を行った。この添加量は供給液中のイソフタル酸量と略等モル量に相当する。約12時間運転を継続した時点で、排出された水中の芳香族カルボン酸濃度は次の通りであった。イソフタル酸 95ppmメタトルイル酸 116ppm安息香酸 43ppm【0029】参考例2供給液中に酢酸マンガンをマンガン原子で870ppm添加した以外は実施例3と同様の実験を行った。この添加量は供給液中のイソフタル酸量の略1/2モル量に相当する。供給を開始してしばらく経って、分溜管上部のトレイで泡立ちが発生するのが目視観察された。ただし、この泡立ち現象は参考例1と比較してはるかに穏やかであった。実施例3および参考例2の結果から、供給液中のイソフタル酸結晶はマンガンイオンによって溶解性の化合物に変化して泡立ちがなくなること、マンガンイオンの添加量はイソフタル酸に対して等モル以上であれば完全に泡立ちを防止できることが分かる。【0030】実施例4供給液中に酢酸コバルトをコバルト原子で1867ppm添加した以外は、参考例1と同様の実験を行った。この添加量は供給液中のイソフタル酸量と略等モル量に相当する。運転は順調に行われ、蒸留塔内に変わった様子は観察されなかった。約12時間運転を継続した時点で、排出された水中の芳香族カルボン酸濃度は次の通りであった。イソフタル酸 88ppmメタトルイル酸 97ppm安息香酸 54ppm【0031】比較例3供給液中に酢酸コバルトをコバルト原子で934ppm添加した以外は、実施例3と同様の実験を行った。この添加量は供給液中のイソフタル酸量の略1/2モル量に相当する。供給を開始してしばらく経って、分溜管上部のトレイで泡立ちが発生するのが目視観察された。ただし、この泡立ち現象は参考例1と比較してはるかに穏やかであった。実施例4および参考例3の結果から、供給液中のイソフタル酸結晶はコバルトイオンによっても溶解性の化合物に変化して泡立ちがなくなること、コバルトイオンの添加量はマンガンの場合と同様に、イソフタル酸に対して等モル以上であれば完全に泡立ちを防止できることが分かる。【0032】実施例5実施例1で得られた塔頂からの留出水を使って、商業的規模で生産された粗イソフタル酸を原料として接触水素化精製処理を行った。また参考として純水を使用した実験を行った。原料に使用した粗イソフタル酸の分析値は次の通りであった。OD340 0.8313CBA 831ppm【0033】2リットルのステンレス製耐圧容器に、粗イソフタル酸300gと水900gを仕込んだ。ステンレス製耐圧容器には撹拌装置と加熱装置およびガス導入口が付属されており、外部から上げ下ろしを操作できる電磁式の触媒ケージがつけられている。触媒ケージにはパラジウム/カーボン触媒を湿潤ベースで16g充填した。充填した触媒は商業的規模の接触水素化精製装置で約1年間連続的に使用したものであり、薄いアンモニア水で汚染物質を除去した後、よく水洗を行った。触媒ケージをステンレス製耐圧容器の上部に吊り下げた。ガス導入管から水素ガスを導入し、数回パージして系内をよく置換し、10kg/cm2 Gの圧力まで水素ガスを充填した。撹拌しながら昇温を開始し、温度が235℃で安定したのを確認してから触媒ケージを下げて液中に沈下させた。20分経過後に再び触媒ケージを上げてから降温した。ほぼ室温まで冷却した後、生成物スラリーをG3ガラスフィルターで濾過し、得られたケーキを約90℃の純水で洗浄した後、110℃で乾燥して高純度イソフタル酸を取得した。【0034】純水および実施例1で得られた留出水を用いた時の高純度イソフタル酸の分析結果は次の通りであった。(使用した水) (OD340 ) (3CBA)純水 0.188 8.9ppm実施例1で得られた留出水 0.196 7.2ppmいずれの実験においても反応に変わった点はなく、得られた高純度イソフタル酸の評価結果も誤差の範囲内であった。【0035】以上行った実施例および参考例の実験結果をまとめると次のようになる。(1)接触水素化処理を行ったPIA母液を蒸留塔の還流液として塔頂へ供給し、塔頂からの留出水を全留出させると、留出水中の芳香族カルボン酸濃度は供給した母液中の1割程度に減少する。(2)PIA母液を濃縮して蒸留塔塔頂へ還流液として供給すると、PIA母液中に析出していたイソフタル酸結晶が核になって分溜管上部に泡立ち現象が発生する。(3)濃縮したPIA母液をあらかじめ濾過して、イソフタル酸結晶を除去してから供給すると泡立ち現象が起こらない。(4)濃縮したPIA母液に、PIA母液中に存在しているイソフタル酸と等モル量のマンガンイオンあるいはコバルトイオンを添加すると泡立ち現象は起こらない。(5)塔頂から留出した水を粗イソフタル酸の接触水素化処理用溶媒として使用できる。【0036】【発明の効果】本発明の方法によってPIA母液を酢酸脱水塔の還流に供給することにより、PIA母液中の芳香族カルボン酸の大部分は脱水塔塔底から得られる酢酸に溶解して回収され、該酢酸は酸化工程へ供給されるので、有用成分のイソフタル酸やメタトルイル酸は有効に利用されることになり、イソフタル酸の収率が向上すると共に、高純度イソフタル酸の排水処理負荷が著しく削減される。また蒸留塔塔頂からの留出水を精製工程の水として使用することにより排水量が減少するので、更に排水処理装置の負荷が著しく削減される。本発明は特別な投資と費用を必要としないでPIA母液中の有用成分を回収するものであり、本発明の工業的意義は大きい。 m−フェニレン化合物を酢酸溶媒下で液相酸化し、得られた粗イソフタル酸の精製処理を行う高純度イソフタル酸の製造方法において、a)液相酸化の後、酸化反応母液と粗イソフタル酸に分離し、酸化反応母液の一部または全部を蒸発させる工程、b)粗イソフタル酸を接触水素化処理、接触処理、酸化処理あるいは再結晶により精製処理した後、精製処理液を冷却、晶析して、母液と結晶に分離する工程、およびc)工程a)からの酸化反応母液を蒸発させた蒸気またはその凝縮液を蒸留塔中段へ供給し、工程b)からの母液にマンガン化合物及び/又はコバルト化合物を添加して蒸留塔塔頂へ供給して蒸留を行い、底部から濃縮された酢酸を分離する工程を有することを特徴とする高純度イソフタル酸の製造方法。 工程b)の精製処理を、粗イソフタル酸を水に溶解し、接触水素化処理することにより行う請求項1の高純度イソフタル酸の製造方法。 工程b)からの母液から予め固形分を除去した後、蒸留塔塔頂へ供給する請求項2の高純度イソフタル酸の製造方法。 工程c)における蒸留塔塔頂からの流出液を工程b)の粗イソフタル酸の溶解水として使用する請求項2の高純度イソフタル酸の製造方法。