タイトル: | 特許公報(B2)_高度不飽和脂肪酸残基含量の高い油脂の製造方法 |
出願番号: | 1996004651 |
年次: | 2005 |
IPC分類: | 7,C11C3/10,B01J31/02,C07C57/03,C07C69/587,C11B7/00,C07B61/00 |
舩路 徳七 河野 修一 山口 栄一 JP 3656863 特許公報(B2) 20050318 1996004651 19960116 高度不飽和脂肪酸残基含量の高い油脂の製造方法 日清オイリオグループ株式会社 000227009 山下 穣平 100065385 舩路 徳七 河野 修一 山口 栄一 20050608 7 C11C3/10 B01J31/02 C07C57/03 C07C69/587 C11B7/00 C07B61/00 JP C11C3/10 B01J31/02 101X C07C57/03 C07C69/587 C11B7/00 C07B61/00 300 7 C11C 3/10 C11B 7/00 B01J 31/02 C07C 57/03 C07C 69/587 C07B 61/00 JICSTファイル(JOIS) エルゼビア 特開昭60−023493(JP,A) 特開平06−240290(JP,A) 特開昭56−151796(JP,A) 3 1997194875 19970729 7 20021226 近藤 政克 【0001】【産業上の利用分野】本発明は、魚油からグリセリド構成脂肪酸として高度不飽和脂肪酸、特にエイコサペンタエン酸(以後「EPA」という)および/またはドコサヘキサエン酸(以後「DHA」という)含量の高い油脂を得る方法に関する。【0002】【従来の技術】油脂は、種々のトリグリセリドの混合物であり、このため溶融した油脂を冷却して結晶を析出させ、ろ過等により分別することにより、新しい物性の油脂を得ることができる。この分別には一般に、高融点ワックスを除く「脱ろう」と、低融点ワックスおよび固体脂を除去する「ウィンタリング」とがある。【0003】ウィンタリングは、主として綿実油からサラダ油を得るために開発された方法で、綿実油から低温で析出する固体部、すなわち綿実ステアリンを分離除去する。このウィンタリングは、低温室の中に設けたタンクに原料油を入れ、タンク全体を冷却することにより低温で析出する結晶を成長させ、この結晶をろ過することにより行われる。【0004】このウィンタリングの原理を利用して、特定の脂肪酸の濃度を高めることも行われている。たとえばエステル交換反応と分別を組合せた技術として、特公平4−58315号および特公平3−47837号等があるが、これらはいずれも固体脂を配合又は含有する植物性の液状油を酵素エステル交換し、その後に1回の分別により固体脂を除去して、液状油、特に冷却試験に合格するサラダ油グレードの液状油を得ることを目的としたものである。ここでサラダ油とは、JAS(日本農林規格)にもとづいて、0℃で5.5時間曇り又は結晶が析出しないものをいう。【0005】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のような従来のウィンタリング技術は、特定の不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂の製造を目的としたものではないために、魚油のような天然の油脂からグリセリド構成脂肪酸として高度不飽和脂肪酸、特にEPAあるいはDHA含量の高い油脂を得るためという特定の目的には適していない。このためとくに、構成脂肪酸が高濃度のEPAおよびDHAであるグリセリド油脂を得ることが困難であった。【0006】本発明は、グリセリドを構成する脂肪酸として高度不飽和脂肪酸の豊富な魚油から単に分別ろ過の方法では達成しえない、さらに高含量のEPAおよび/またはDHA残基を有する油脂を製造する方法を提供することを目的とする。【0007】【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究をした結果、ウィンタリングを行った後、ランダムエステル交換と特定の冷却条件および分別の組合せ操作を繰返すことにより、高濃度のEPAおよびDHAを構成脂肪酸とする油脂が得られることを見出し、この新たな知見にもとづいて本発明を完成するに至った。【0008】即ち本発明は、高度不飽和脂肪酸残基を高濃度に含む魚油を特定の温度まで冷却し、高融点部分をあらかじめ除去した後、加温してランダムエステル交換し、特定の冷却速度により特定の温度まで冷却後、析出した三飽和脂肪酸トリグリセリドを除去する。残りの液相部分を用いて再びグリセリド組成を平衡に戻すべく同様にランダムエステル交換を行い、同様の冷却条件で飽和脂肪酸を有するグリセリドとして析出した固体脂を除去する。この操作を繰返し、魚油中の飽和脂肪酸残基含有油脂の大部分を除去し、さらに比較的融点の高い不飽和脂肪酸残基含有油脂を順次除去して高度不飽和脂肪酸残基特にEPA,DHA残基含量の高い油脂の製造法を提供するものである。【0009】【発明の実施の形態】本発明において、比較的融点の高い不飽和脂肪酸残基含有油脂を効果的に除去することがきわめて重要である。ここで比較的融点の高い不飽和脂肪酸残基含有油脂とは、油脂としての融点が0〜15℃で、不飽和脂肪酸としての二重結合が2個までのものを意味する。このような比較的融点の高い不飽和脂肪酸残基含有油脂は、エステル交換反応後に、1〜3℃/時間の冷却速度で、0〜15℃まで好ましくは5〜10℃まで徐冷することにより除去することができる。冷却速度は3℃/時間より早いと、析出する結晶が小さくなってろ過しにくく、1℃/時間より遅くしても結晶状態は変らないが、冷却するために長時間を必要とし、結果的に効率が悪くなる。また徐冷到達温度が0℃より低いと、処理すべき油脂がゲル化ないし固化しやすく、15℃より高いと目的とする高度不飽和脂肪酸残基含有油脂の歩留が悪くなる。【0010】このような処理を行うことにより、原料魚油に比べて、高度不飽和脂肪酸残基含量のさらに高い油脂を得ることができる。すなわち原料魚油がDHA,EPAを約30重量%の含有量で含んでいるのに対し、本発明によれば、55%重量以上の高い含有量でDHA,EPAを含んだ油脂を安定的に得ることができる。【0011】本発明において、高度不飽和脂肪酸残基を高濃度で含む原料魚油としては、いわし類のうるめいわし、かたくちいわし、まいわし等の他、するめいか、にしん、まさば等、あるいはまぐろ類のきはだまぐろ、くろまぐろ、めばちまぐろ等から得られる油脂が使用できる。【0012】本発明の最初の工程である高融点部分の除去、およびつづいて行われるランダムエステル交換の工程は、次のようにして行うことができる。【0013】まず、原料油脂である高度不飽和脂肪酸残基含量の高い魚油の水分を、0.1重量%以下になるまで脱水する。この脱水は、原料魚油を約90℃〜約130℃に加温し、約1時間減圧下で撹拌することにより行うことができる。【0014】次いで、脱水された原料魚油を5℃〜10℃まで冷却し、高融点部分を晶析させ、生成した固形分をろ別して除去する。【0015】ついで、高融点部分が除去されたろ液を適当な温度、好ましくは約75℃〜約85℃まで加温し、ついでエステル交換触媒を添加して、この範囲の温度を保持してエステル交換反応を行わせる。このエステル交換反応は、約75℃〜約85℃の温度では約20分間で完了する。反応の終了は、反応物の色が赤味を帯びることを目安として判定できる。【0016】エステル交換触媒としては、例えばアルカリ金属の低級アルコラート(ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート、カリウムエチラート等)を用いることができる。このようなエステル交換触媒の添加量に特に制限はないが、反応原料油脂の重量の約0.01〜1重量%、通常は約0.2〜0.3重量%で十分である。【0017】エステル交換反応の終了後、もし必要であれば水を反応物の3〜4重量%添加して反応を停止させ、ついで反応物を遠心分離機にかけて触媒を除去し、さらに温湯、好ましくは90℃程度の温湯による洗浄、遠心分離を繰返して、最後に減圧にして脱水する。【0018】得られたランダムエステル交換反応物を、1℃〜3℃/時間の冷却速度で0℃〜15℃、好ましくは約5℃〜約10℃に徐冷して、析出した固体脂をろ過により除去することにより第1回目の精製を行う。【0019】この徐冷・ろ過により得られたろ液に対して、上記と同様のエステル交換反応、遠心分離、洗浄および脱水を行い、得られたランダムエステル交換反応物を徐冷およびろ過して第2回目の精製を行う。【0020】第2回目の精製工程で適用される最終冷却温度は、第1回目の精製工程で適用された最終冷却温度よりも低い温度とするが、下限は0℃程度が良い。これは、第1回目の精製工程では固化しなかった除去すべき比較的融点の高い不飽和脂肪酸残基含有油脂を固化させるのに有利であるからである。また0℃を下回る温度まで冷却すると、処理すべき油脂がゲル化ないしは固化してしまい、ろ別操作の作業性が低下し、あるいは該操作が不能となるためである。この一連の操作を繰返して、飽和脂肪酸残基含有油脂の大部分、さらに比較的融点の高い、不飽和脂肪酸残基含有油脂を順次除去し、高度不飽和脂肪酸残基、とりわけEPAおよび/またはDHAの残基を多量に含む油脂を得る。【0021】【実施例】(実施例1)かたくちいわしから採取した魚油(ガスクロマトグラフィ:GLC分析による構成脂肪酸組成のうち、二重結合が3個以上の高度不飽和脂肪酸の総量:約38重量%、EPA:12重量%、DHA:21.5重量%)300gを約90℃に加温し、3〜5mmHgの減圧下で約1時間撹拌して脱水処理した。ついでこの脱水魚油(カールフィッシャー法による水分含量:0.03重量%)を5℃まで冷却し、高融点部分を晶析させ、ろ布を用いる加圧式ろ過機を通してろ別した。【0022】得られたろ液を80℃まで加温し、エステル交換触媒としてナトリウムメチラートを前記ろ液の重量の0.2重量%添加し、80℃の温度を維持して約3mmHgの減圧下で撹拌しながら、ランダムエステル交換反応を行わせた。反応液が赤みを帯びるのを目安にして約20分間反応を行った。【0023】つぎに反応液に水を約10g添加して前記反応を停止させ、遠心分離して触媒除去および脱水を行った後、約2℃/時間の冷却速度で10℃まで徐冷した。この冷却には、静置法で約33時間を要した。ついで析出した固体脂をろ過により除去した。【0024】得られたろ液を、再び80℃に加温し、前記と同様にしてエステル交換反応を行い、約20分後に水約10gを添加して反応を停止させた。ついで約2℃/時間の冷却速度で5℃まで徐冷し、析出した固体脂の除去を行った。冷却時間は35時間であった。【0025】ランダムエステル交換反応、徐冷、およびろ過の操作を前記と同様の条件で繰返した(ただし冷却到達温度は3回目:3℃、4回目:1℃)ところ、4回目で固体脂の析出はなくなった。この操作により、高度不飽和脂肪酸残基含量が合計で約72%、EPA残基含量:20.5%、DHA残基含量:32.0%の油脂約130gを得ることができた。【0026】(実施例2)すけとうたらの肝油(GLC分析による構成脂肪酸組成のうち、高度不飽和脂肪酸の総量:約20重量%、EPA:13.3重量%、DHA:7.5重量%)500gを約95℃に加温し、2〜3mmHgの減圧下で約30分攪拌して脱水処理した。ついでこの脱水魚油(水分含量0.05重量%)を7℃まで冷却し、高融点部分を晶析させ、濾紙を用いて吸引ろ別した。【0027】得られたろ液を85℃まで加温し、エステル交換触媒としてナトリウムエチラートを前記ろ液の重量の0.3重量%添加し、同温度にて約2mmHgの減圧下で攪拌しながら、ランダムエステル交換反応を30分間行わせた。【0028】つぎに反応液に水を約20g添加して前記反応を停止させ、遠心分離して触媒除去および脱水を行った後、約3℃/時間の冷却速度で15℃まで徐冷した。この冷却には、静置法で約25時間を要した。ついで析出した固体脂をろ過により除去した。【0029】得られたろ液を、再び80℃に加温し、前記と同様にしてエステル交換反応を行い、20分後に水約10gを添加して反応を停止させた。ついで約2℃/時間の冷却速度で10℃まで徐冷し、析出した固体脂の除去を行った。冷却時間は30時間であった。【0030】ランダムエステル交換反応、徐冷、およびろ過の操作を前記と同様の条件で繰り返した(ただし冷却到達温度は3回目:5℃)ところ、3回目で固体脂の析出はなくなった。この操作により、高度不飽和脂肪酸残基含量が合計で約85%、EPA残基含量:37.4%、DHA残基含量:35.0%の油脂約270gを得ることができた。【0031】(実施例3)めばちまぐろから採取した魚油(GLC分析による構成脂肪酸組成のうち、高度不飽和脂肪酸の総量:約49重量%、EPA:4.0重量%、DHA:36.5重量%)200gを約95℃に加温し、3〜5mmHgの減圧下で約1時間攪拌して脱水処理した。ついでこの脱水魚油(水分含量0.02重量%)を5℃まで冷却し、高融点部分を晶析させ、ろ紙を用いて吸引ろ別した。【0032】得られたろ液を実施例1に記載の方法で処理し、ランダムエステル交換反応、徐冷およびろ過の一連の操作を4回繰り返した。これにより、高度不飽和脂肪酸残基含量が合計で約93重量%、EPA残基含量:10.2重量%、DHA残基含量:77.0重量%の油脂約110gを得た。【0033】(比較例1)原料油脂として、かたくちいわしから採取した魚油(実施例1で用いたものと同じ)300gを用い、実施例1と同様の方法により1回目のエステル交換反応までを行い、反応を停止させた。その後、約5℃/時間の冷却速度で10℃まで徐冷した。徐冷時間は静置法で約13時間を要した。ついで析出した固体脂をろ過により除去した。【0034】得られたろ液を、再び80℃に加温し、前記と同様に2回目のエステル交換反応を行い、約20分後に水約10gを添加して反応を停止させた。ついで約5℃/時間の冷却速度で5℃まで徐冷し、析出した固体脂の除去を行った。冷却時間は約14時間であった。【0035】エステル交換反応、徐冷、およびろ過の操作を前記と同様の条件で繰り返し、6回目で固体脂の析出はなくなった。この操作で得られた油脂の高度不飽和脂肪酸残基含量の合計は、GLC分析によると約47重量%、EPA残基含量:15.4重量%、DHA残基含量:24.1重量%と低く、収量は170gであった。【0036】(比較例2)実施例1にいおて、原料魚油を予め脱水処理したが、高融点部分を除去することなく、同様に処理した。ランダムエステル交換反応、徐冷、およびろ過の一連の操作を4回繰り返して得られた油脂は、高度不飽和脂肪酸残基含量の合計:約42重量%、EPA残基含量:14.8重量%、DHA残基含量:24.7重量%であり、収量は155gであった。【0037】(比較例3)実施例1において、原料魚油をランダムエステル交換反応に供することなく、徐冷、およびろ過の操作のみを4回繰り返した。これにより得られた油脂の高度不飽和脂肪酸残基含量、EPA残基含量、およびDHA残基含量はいずれも原料魚油の各含量とほぼ同じであった。【0038】【発明の効果】以上に説明したように本発明によれば、ウィンタリングを行った後、ランダムエステル交換と特定の冷却条件および分別の組合せ操作を繰返すことにより、高濃度のEPAおよびDHAを構成脂肪酸とする油脂を得ることが可能である。 魚油を5〜10℃まで冷却して高融点部分を晶析させ、生成した固形分をろ別する第1工程と、得られたろ液をエステル交換触媒の存在下で所定の温度に加温してランダムエステル交換反応を行わせ、この反応終了後、1〜3℃/時間の冷却速度で0〜15℃まで徐冷し、析出した固体脂を除去する第2工程と、を備え、前記第2工程を、徐冷到達温度が前回よりも低く、かつ0℃よりも高い温度条件で、固体脂が析出しなくなるまで繰返して、原料魚油に比し、高度不飽和脂肪酸残基含量のさらに高い油脂を取得することを特徴とする前記油脂の製造方法。 前記エステル交換触媒が、アルカリ金属の低級アルコラートである請求項1に記載の方法。 前記高度不飽和脂肪酸がエイコサペンタエン酸および/またはドコサヘキサエン酸である請求項1または2に記載の方法。